大分間が開きましたが、第二話投稿です。
少し短めですが、よろしくお願いします。
「元帥室付少佐、か。出世頭じゃないのか? いまんとこ」
「何時でも変わって差し上げますよ、中佐殿……。ま、嫉妬で告げ口される前に私は海軍送りですし、気にしませんが」
二階級特進の上、元帥室付に異動。その後海軍に出向。
それが、今回の件で俺が受け取った辞令だった。
肩を叩いてきた義兄……もとい、藤原中佐を一瞥し、受け取ってきた辞令を懐に押し込む。
「まあ、そう言うな。若すぎる、大尉で十分だってのを元帥が黙らせたんだから、ありがたく頂いておけ」
せめてもの餞、という事か。
二十代で少佐というのは、字面だけ見れば異例のスピード昇進だ。
まして陸軍的には平時。降格のネタには事欠かなくとも、昇進のための功績なんてそうそうあるわけもなく。
だがまあ、実態は異動前の箔付けのためだけの昇進で、異動先の海軍でこの地位が保証されるとは限らない。しかもあえて悪く言えば、
「安全な内地で、何事もなくそこそこ昇進して退役できただろうに、階級だけ付けられて最前線に飛ばされた」
と言えなくもない。
嫉妬されるか憐れまれるかで言ったら……まあ、憐れみのほうが多いだろう。
大学校の同期の顔が幾人かぼんやり浮かんで、曖昧なまま消えた。
「本部との取次は俺だ。安心して行って来い」
安心しろ、という割に、義兄の声はいつになく固かった。
――自分で上に薦めておいて、今になって迷惑をかけて悪いとでも思っているのだろう。
ああ、嫌だな。こういう辛気臭いのは、好きじゃない。
「おかげさまで。これで殉職でもした日には、私のが階級上ですよ、中佐殿?」
「二十代で大佐殿か、そりゃ大したもんだ」
おどけた口調に、中佐が軽く吹き出したのが分かった。
「化けて出ますから、上官としてきっちり敬って下さい」
「馬鹿言ってんじゃない、再教育だそんなもん」
「なら、深海棲艦になって化けて出ます。よろしく頼みますよ」
「三枚卸しで唐揚げにしてやるさ。ま、定時連絡以外にも、何かあったら連絡してこい。運良く横須賀の配属なら、たまには飲めるだろう」
べしばし、と音を立て、ゴツい掌が背に叩きつけられる。不器用な励ましは、ひどく暖かかった。
「――では、中佐」
「――ああ」
なんだ、これじゃ出征するみたいじゃないか。なんて、ひどく今更で場違いだけれど。
「行って、参ります」
◆
「早瀬少佐、ですね。お迎えに上がりました」
参謀本部の門の前には、一台の乗用車。おそらく自分より幾つか年上だろう、海軍の下士官が待っていた。
「――早瀬です。わざわざ恐縮です、よろしくお願いします」
海軍式と言われる、肘を下げた敬礼。自分も倣うべきか僅かに迷って、いつもの型にした。
少なくとも今はまだ、自分は陸軍軍人なのだから。
下士官は僅かに顔を顰め、後部座席のドアを開けた。
「海軍省まではタクシーを使おうかと思っていましたが、助かりました」
「神宮前の東郷神社までお連れするようにと伺っております」
下士官はそれだけ答えると、静かに車を走り出させた。
無口なまま、モーターの駆動する音とともに車が滑っていく。
東郷神社。言わずと知れた日露戦争の英雄、「軍神」東郷平八郎元帥を祀った神社。
その成り立ちからして海軍とは切っても切れない場所だが、あくまで神社。軍の施設ではない。
必然性が、読めない。
「東郷神社? ああ、着任前に海軍精神の何たるかを叩き込んでくれよう、と?」
冗談めかそうとした言葉は、無意味に車内を揺蕩って消えた。
ルームミラー越しに見える士官は無表情で、その奥に、ほんの僅か、感情の揺れを見せていた。
それは苛立ちか――あるいは嫉妬か。
「小官はそう命じられただけです」
士官はこちらに目線すら向けず、無愛想にそう答えた。
――今回も艦娘にたどりつけませんでした。あれ、これって何のSSだっけ…。
次からもう少し話が動いていく、予定です。
引き続きどうぞよろしくお願いします。