筆の早い人が羨ましい。
もう少し丁寧に描写したいので、また折をみて改訂したいと思います。
◆
柏手を打った手を解き、一拝する。
特に、何を願ったわけでもない。
ただ、これから海軍に籍を置く者として、先達に挨拶を、といった気分だった。
幸い、他に参拝者の姿はない。人の気配のしない神社の静謐さは、とても心地よくて。
少し離れた所から、ぼんやり本殿と、その奥に茂る木々を眺めていた。
かちり、と。
そんな静寂を、気配が揺らす。
何も考えず。振り返る前に、本能が銃を抜いていた。
振り返りざま、ざりと足下で玉砂利が軋む――
引き金を引く指を凍らせたのは、淡い桃色の髪だった。
高校生を思わせる、小柄な灰色の制服姿。山桜を思わせる淡い色の髪。
自分が銃口を向けた者を認識する事を、脳が拒む。
美しい。そう、美しい少女だった。
けれど、固く、あまりにも澄んだ存在感が、その感想を許さない。高校生やそこらの少女が出せる物ではない。圧倒的に、異質であり、異物。
鍛えられた軍人のそれとも違う――言うなれば、それは研ぎあげた鋼のような。
殺意なしに、殺す力を感じさせる、張り詰めた空気。
ああ、ならば、これは兵器だ。
引き金を引くものがいない銃。握るもののない刀。
それが勝手に動いているのを目の当たりにしたら、きっと、こんな気分だろう。
銃を抜いたのは間違いじゃない。早く、眼前の少女を撃て、と。軍人としての感覚は、そう語りかけてくる。
「常在戦場、汝平和を欲さば、戦への備えをせよ。好ましい気概です――撃ってみたければ、どうぞ。9ミリ弾程度で、不知火は傷つきません」
銃口を向けられながら、その声はあくまで凛として冷たく。
「ですが、ここには一般の方も来られます。不知火を撃つか、その銃を仕舞うか、いずれにせよお早めにお願いします――早瀬少佐」
引き金を引こうとした指は、頑として動こうとしなかった。
背を伝う汗が、酷く冷たい。
引き金を引くのは簡単だ。この至近距離で、外す事など普通は有り得ない。けれど、目の前の少女が脳漿を撒き散らし倒れる姿を、どうしても想像できない。
じっとりと湿ったP220を、ホルスターへ戻す。
手の中から消えた銃の重さの代わりに、不安が重く伸し掛かってくる。体の中に澱が溜まっていくような不快感と一緒に、手の甲から、じわじわと不愉快な痺れが伝ってくる。
「帝国陸軍少佐、早瀬優だ。不知火――そうか、君が、艦娘か」
「ええ。本日のご案内を仕ります、陽炎型二番艦、不知火です。以後お見知り置きを」
此方の焦燥を見透かしたように、少女を模したナニカが微笑う。
「知らぬ事とはいえ、失礼を致しました。こちらこそよろしく頼みます」
「お気になさらず。では、こちらへ」
不知火は微かな笑みを浮かべたまま、本殿の裏手へと歩き出した。
陽炎型二番艦、不知火。
記憶が正しければ、駆逐艦にカテゴライズされる――
人にして人に非ず。兵器にして兵器に非ず。人ならざるものの生み出した、意思を持つ兵器。
この件での出向が決まり、慌てて読み漁った文献の一節が、ふと頭をよぎる。
そうか。これが、艦娘。
駆逐艦でこれならば、より上位の――例えば戦艦や、空母。先の大戦でも名高い大和や武蔵、赤城、加賀ともなれば、その存在感はどれほどのものだろうか。
海軍の公刊戦史は購入した。が、引き継ぎや送別に時間を取られ、ほとんど読めていない。
読む時間が取れなかった主な原因であるところの、酔っ払った義兄の赤ら顔を脳内で二、三発殴りながら、不知火の後を追った。
やっと艦娘出せた!
不知火!
初期艦から選ぼうか、とも思ったのですが。
あえて不知火にしました。
ぬいぬいにならぬ様、落ち度のない不知火を目指して――。
そして出会い頭に艦娘に銃を突きつける提督(仮)。
なんだこれ。
とりあえず不知火かわいい。
次、またがんばります。