ちょっとずつシリアスにしたい。
「本題に入るが。わが陸軍において、深海棲艦に相対すにあたり、何が必要と思うかね?」
しばらく雑談を交わした後、中将は不意にそんな事を口にした。
「艦娘と同系統の――陸軍が先の大戦時保有していた艦艇群を基礎に、基礎研究を進めるべきかと。戦車や航空機の『艦娘』化を無理に目指す必要はないと考えます」
ほう、と中将は微かに笑った。
「その心は?」
「可能かどうかも解らない戦車や航空機の『艦娘』化に拘る時間など、我々陸軍にはありません。我々がまず作るべきは新兵器ではなく、既存の兵器を最大限活用する新しいドクトリンであり、新しい部隊であると考えます」
それは、この話を義兄から聞かされた時から考えていたことだった。
「結論から申し上げますが。艦娘による陸軍組織の編成と、艦娘が陸上で使用可能な兵装の選定ないし開発。艦娘陸戦隊を創設する事を、小官は提案いたします。また平行して、人間が使用可能な“艦娘の兵装”の開発を」
「艦娘……陸戦隊」
「不快ですか? 不知火」
「いえ。ただ、少し驚いただけです。不知火達は、艦ですから」
「それでも不知火、今、貴女たち艦娘は陸上で活動することが出来るでしょう? 残念ながら、陸軍の兵装では深海棲艦の足止めすら不可能なのが現状。ならば、緊急時に陸を、陸に住む人々を護るには、まずは艦娘の陸上運用が最も実現までのハードルが低い、と考えたまでです」
「ですが早瀬少佐……不知火たちは、艦、です。陸で動ける身体を持っているとはいえ、本来の力を発揮できるのは、あくまで海」
俯く不知火の横顔は、少し悔しそうだった。
「それでも、頼るしかないのですよ。不知火、知っていますか? もし、貴女がその気になったら、この場の誰も貴女を止められないということを」
苦い顔をして俯いていた不知火が、跳ね起きるようにこちらを睨む。
「そう、止められない。悔しいですが、先程貴女が言った通り、こんなもので貴女は傷つかないのだから」
「お言葉ですが! 不知火は……不知火は、そのような事っ!」
「駄目ですよ、不知火」
激高し立ち上がりかけた不知火を、亭主の女性が手を差し伸べて柔らかく制す。やはり、海軍の、それも高位の関係者なのだろう。
「どうぞ、早瀬少佐。続けてください」
「不知火、もちろん貴女にそんな気がないことはわかっています。ただ、あくまで能力の話として聞いてください。もし貴女が反逆したとして、艦娘が……常駐しているならば海軍省、下手をすれば横須賀鎮守府から到着するまで、貴女を止められる兵器はない。帝都を焼き尽くす覚悟で核でも落とすなら別かもしれませんが、そんな馬鹿な話はないでしょう? これは、深海棲艦の上陸を許した場合でも、同じ事です」
「奴らが……深海棲艦が、上陸できると?」
「不知火くん」
静かに聞いていた中将が、口を挟んだ。
「かつて、我が陸軍に、特殊船という船があった。敵地まで兵を運び、陸に揚げるための船だ。勿論米軍にも類似のものがある。それを模した深海棲艦が生まれないと、言い切れるかね」
「それは……」
「確かに貴女の言うように、艦娘も深海棲艦も、陸上では本来の力を十全に発揮するのは難しいのかもしれません。それでも、その一部の力でも、我々陸軍単独では対抗できない! それを何とかするために、陸軍軍人の私がこうして海軍に来ることになったのです。先に、貴女の誇りを傷つけるような事を口にしたのは謝罪します。どうか、我々に協力してもらえませんか」
「……不知火くん。虫の良い事を言うようだが、陸だ海だといがみ合って、同じ過ちを繰り返すことはしたくないのだ。君だけではない、ぜひ多くの艦娘に、協力してほしい。私からも、お願いさせてもらうよ」