某掲示板に怪談を投稿した(全9話)   作:多聞町

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 先輩との出会いと、初めて遭遇した怪異について書こうと思う。先輩は女子としてはかなりクールな人だったので、そういう展開は期待しないでくれ。個人的にはなんかかっこいい人だな、と思っていたくらいだ。

 

 

 

 春の午後、キャンパスの芝生にブルーシートが広げられていた。

 山岳サークルの新入生歓迎会。

 紙コップのジュースとコンビニのおにぎりとかなにやら。

 和やかな笑い声が風に乗って流れる。

 

「吉井くん、だよね?」

 

 声をかけてきたのは、黒髪を後ろで束ねた女性だった。

 落ち着いた目元に、どこか影がある。

 

「はい、吉井です」

 

「神崎。3年。よろしく」

 

 彼女は軽く笑った。

 だが、その笑みは一瞬で消え、遠くの校舎を見つめるような目になった。

 どこか不思議なものを感じたが、言葉にはできなかった。

 

「山って、危ないこととかないんですか?」

 

 軽い気持ちで聞いたつもりだった。

 先輩は少し間を置いてから答えた。

 

「危ないことは……あるよ。でも、"見なければいい"」

 

 その言葉が、なぜか耳に残った。

 

 

 

 それからしばらくの後。

 春の低山。

 初心者向けのコース。

 新入生歓迎登山は、和やかな雰囲気で始まった。

 俺は息を弾ませながらも、景色に感動していた。

 

「いい天気ですね」

 

「そうだね」

 

 先輩は俺のすぐ前を歩きながら、淡々と答える。

 彼女の背中は小柄なのに、妙に頼もしい。

 

 昼過ぎ、山頂で昼食をとり、下山を開始した。

 最初は笑い声が続いていたが、次第に言葉が減った。

 木々が密集し、光が細い筋になって足元に落ちる。

 

 ふと、耳を澄ませた。

 ──声がする。

 遠くで誰かが話しているような、低いざわめき。

 

「……聞こえます?」

 

 小声で尋ねると、先輩は振り返らずに言った。

 

「気にするな」

 

 だが、声は近づいてくる。

 言葉にならない音が、森の奥から流れてくる。

 ザザ……ザ……。

 それは風の音ではなかった。

 人の声に似ているが、意味がない。

 そして、気づいた。

 ──俺の名前を呼んでいる。

 

「……よしい……」

 

 はっきりと聞こえた瞬間、背筋が冷えた。

 さらに、鼻を刺す匂いがした。

 潮の匂い。

 海は遠いはずなのに、強烈な磯の香りが森に満ちる。

 吐き気を催すほど濃い匂い。

 

「……海の匂い、しますよね?」

 

 声が震えた。

 先輩は答えない。

 歩調を速める。

 俺は慌ててついていく。

 声は背後から追ってくる。

 

「……よしい……」

 

 足音が乱れる。

 匂いがさらに濃くなる。

 まるで森が腐っているような臭気。

 突然、先輩が立ち止まった。

 俺は息を切らしながら追いつく。

 

 目の前の道が、急に明るくなっていた。

 木々が途切れ、光が差し込む。

 声も、匂いも消えていた。

 ただ、鳥の声が戻っている。

 先輩は振り返り、淡々と言った。

 

「……気にするな」

 

 それだけだった。

 俺は何も言えなかった。

 胸の奥に重いものが残ったまま、俺たちは歩き続けた。

 後で訊いてみたところ、その体験をしたのは同行メンバーのうち俺たち二人だけだったらしい。

 

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