某掲示板に怪談を投稿した(全9話)   作:多聞町

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投稿7本目(過去回)

 先輩と遭遇した怪異については書き尽くしたので、先輩から聞いた過去遭遇した怪異について書く。と言っても先輩はあまり詳しく話してくれなかったので、盛りに盛っています。あしからずご了承を。ただ、先輩がこの話をしたとき、いつもの余裕のある笑顔が消え、視線がどこか遠い場所を彷徨っていたのが印象的だった。

 

 

 

 海の匂いが、今でも時々、記憶の奥から立ち上がる。

 あの日のことを思い出すたび、胸の奥がざわつく。

 

 高校二年の夏休み。仲良し四人組で海へ行った。

 私を含めて四人。

 ──そのはずだった。

 メンバーは、確かに三人は思い出せる。

 美咲と、沙耶と、私。

 もう一人がいた。

 でも、その顔も、名前も、声も、何も思い出せない。

 社交的な明るい子だったのか、それとも物静かな子だったのかさえ、記憶の霧に包まれて判然としないのだ。

 写真を探しても、三人しか写っていない。

 砂浜で並んだ写真も、海の家で撮ったスナップも、そこには不自然な空白さえなく、最初から三人だったかのように収まっている。

 なのに、記憶の中では、確かに四人で笑っていた。

 四人で並んで歩いた雰囲気や、四人分買ったはずの飲み物の感触だけが、執拗に脳裏にこびりついている。

 

 海は穏やかだった。

 防波堤に座って、アイスを食べながら、くだらない話をした。

 そのあと、近くの神社に寄った。

 小さな神社。鳥居は赤く、塗装が剥げていた。

 まるで長い間、誰の参拝も拒んできたかのような、ひっそりとした佇まいだった。

 境内は薄暗く、蝉の声が遠くで響いていた。

 

「なんか、怖いね」

 

 美咲が笑った。

 

「肝試しみたい」

 

 沙耶がふざけて鳥居をくぐった。

 私も続いた。

 古い石畳を踏みしめるたび、湿った土の匂いが鼻をついた。

 

 ──そのとき、見えた。

 本殿の奥、木々の間に、細長い影が立っていた。

 人の形に似ている。

 でも、異様に細い。

 腕も、脚も、針金みたいに長く、曲がっていた。

 顔は見えない。

 ただ、黒い塊が揺れていた。

 

「……誰か、いる?」

 

 思わず声が出た。

 美咲と沙耶が振り返る。

 

「え、どこ?」

 

 指差した場所には、もう何もなかった。

 風が吹き抜け、木の葉がざわめく音だけ。

 ただ、そこだけが周囲より一段と暗く、澱んでいるように見えた。

 

 次の瞬間、背筋が冷えた。

 

 ──もう一人は? 

 

 さっきまで隣にいたはずの、四人目。

 名前も、顔も、思い出せないその人。

 その人は、どこにいた? 

 鳥居をくぐったとき、確かに背中を見た気がする。

 白いブラウスが夕闇に沈んでいくのを、確かに視界の端に捉えていたはずだった。

 でも、今はいない。

 

「帰ろう」

 

 美咲が言った。

 沙耶も頷いた。

 私は何も言えなかった。

 ただ、境内の奥を見つめていた。

 細長い影が、まだそこにいる気がした。

 その影が、私たちが失った”誰か”を抱きしめているような、そんな悍ましい想像が頭をよぎった。

 

 帰り道、海風が妙に冷たかった。

 笑い声が遠くに聞こえた気がした。

 でも、振り返っても誰もいない。

 

 ──あの日から、ずっと考えている。

 四人目は誰だったのか。

 どうして、記憶から抜け落ちているのか。

 そして、あの影は何だったのか。

 答えは出ない。

 

 ただ、時々、夢に見る。

 赤い鳥居の向こうで、細長い影が立っている夢。

 その隣に、背中だけ見える誰かがいる。

 顔は見えない。

 でも、私の名前を呼んでいる。

 低い声で、何度も、何度も。

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