Lycoris Recoil:Not Missing 作:あんち
「大ベテランのあなたは、”ここで新人のお守り”でもしていてください。私たちは武器密造の証拠を抑えます。”まだ見てない”証拠があるかもしれませんし?」
またお得意の皮肉。尊敬すべきセカンド様がよく言う皮肉だ。
そう言うと、まだおニューのセカンド制服を着たリーダー様と、リーダー様のとっても親しい三人組のサードは事務所を出て行ってしまった。
ここはいたって普通に見える町工場。
頑固おやじが一人で経営していそうな金属加工工場だ。だが、天下のラジアータ様は「違うな甘ちゃんが!」と言いたいらしい。
曰く、こんな場所で武器の密造をしてるらしいのだ。
たしかに付近には住宅は無く、近くには鉄道が通り、夜間作業をカモフラージュできる。
密造には最適の場所なのかもしれない。知ったことではないが。
(しかしなんだってこんな地方の田舎で武器なんか作るかね……使っても、奪うもんないじゃん)
彼女はため息をつきながら事務所の壁に寄りかかる。すっかり色が落ちたクリーム色のジャケットに手を突っ込むと、ごそごそと動かし小分け袋のミルクチョコを取り出した。
彼女はチョコを食べながら、新人の様子をうかがう。
新人は銃を顔の近くに持っていき、銃口を上に向けながら、周囲をきょろきょろと見回していた。
「ねぇ? チョコ食べる?」
彼女が小分け袋のチョコを差し出す、新人は頭上に「?」が浮かんでいるのが見えるような顔で、こちらを振り向いた。
「ミルクチョコ? いらない?」
「いや……今はいらないです」
「あーそう。これおいしいのになぁー」
新人は「緊張感のない先輩だな」と言いたげな様子だ。
そんな新人の思いを知ってか知らずか、彼女はもくもくとミルクチョコレートを食べ続ける。しばしの沈黙が流れた。
新人は一呼吸入れると、彼女に問いかける。
「あの……他先輩方のカバーとかしなくてもいいのでしょうか?」
「うーん? まぁここに居ろっていうんだから、居ればいいんじゃない?」
「でも……なにかあったら……」
「まぁまぁ平気だって! ほら結局今はだれもいないじゃん? ちょっと休憩しようよー」
彼女は冷たいコンクリートタイルの床に、ドサッと座ると新人の両手を握り座らせた。
あまり力強く握られていないのだが、なぜか新人はなすがままに座らせられてしまった。せめてもの抵抗なのか片膝をたて、いつでも立ち上がれるような座り方だ。
彼女はそんな準備万端な新人とは違い、あぐらをかきながら再びチョコを食べ始める。
今度はさっきと違いダークチョコレートだ。
「新人ちゃん。ここでクイズです」
「はい? 今ですか?」
「そう。問題。なんで今ここは無人になっているんだと思う?」
彼女は矢継ぎ早に問題を出し始める。新人には拒否権を与えないようだ。
新人は仕方なく、脳みそを回転させる。
「え……うーんそうですね……。情報が間違っていたとか?」
確かに事務所へ突入する前、彼女と新人は工場内を偵察させられていた。その時、新人は見ていたのだ。見かけは普通の旋盤だが、セットされたパイプの中には螺旋状の溝――ライフリングが施されようとしていたのを。それはただの金属加工ではなく、7.62mm弾を使用する銃身の製造ラインそのものだった。
「そう、旋盤。その旋盤はどういう状況だった? 気づいたことはない?」
「そうですね……旋盤はいつでも回せるような状況でした」
「そう! いつでも回せる状況! 正確に言うといつでも加工できる状態。ブレーカーが入っていて、材料がセットされている。あとはボタンを押すだけって状況」
「そこまで聞いたらもう分かるでしょ?」
「まさか……工場のどこかに潜伏しているということですか?」
「う〜ん、惜しい。さすがに我がリーダー様でもそれは見逃さないって」
「じゃあ……一体どういう……?」
「知りたい?」
新人は大きく頷いた。
「じゃあチョコを食べて。食べたら教えてあげる」
新人は受け取ったチョコを仕方なく口に入れる。
「私たち囲われていると思うんだよね」
「ブッ……! か、囲まれてる、ですか!?」
新人は変な声を出し、むせかえった。チョコを吐き出さなかったのはファインプレーかもしれない。
「そうだよ。多分全方位。絶対絶命だね」
「そんな!? ラジアータが監視している状況ですよ!?」
DAの教育は上手くいっている。最近の新人はみんな立派なAI信者だ。
「ハァ。まったく」
彼女は、中指を大げさに振る。
「新人ちゃん。耳をかっぽじって良く聞いて」
「AIは所詮人間がいなきゃなにもできないの。人間がカメラをつけなきゃ、周囲状況すら把握できないでしょ?”あいつ”がハックされて、カメラの偽装とかされてたらどうすんの?」
「いやでも……ラジアータがハックされるのなんてことが……」
新人はまだまだAIに忠実なようだ。
「じゃあ一回指令部に聞いて見ようか? 私たちがどんな状況か?」
彼女は耳元に右手を添える。
「あーもしもし指令部? 聞こえますかー? おばさん? 聞いてます?」
(信じられない!?)
新人は耳元で怒号が飛んでくることに備えた。しかし応答はない。
耳元から聞こえてくるのは、無数のノイズだけだった。
「ほらねぇ。無線通じなくなっているでしょ?」
「これは……一体……なぜ無線が通じないのですか!?」
「だから言ってるじゃん? ハックされてるって。これは状況証拠ね」
彼女は中腰で立ち上がると、机に置いてあるクリスタルの灰皿を視認した。
「次は物的証拠を見せてあげるよ」
灰皿を掴むと、躊躇なく事務所の外窓に向かって投げつけた。
ガシャンッ!! 窓は音を立てて、粉々になる。
すると、外から「なんだ!?」「チッ! ばれたか! 撃て! 殺せ!」と男達の怒号が聞こえる。
高く鋭い破裂音が聞こえると無数の銃弾が無数の窓に突き刺さった。もちろん窓などでは止まらない。銃弾は窓を粉々に破壊すると、頭の真上を何度も何度も通過する。部屋の中が無茶苦茶になっていく。社長机の背後にあった「創設50年」の文字入り鏡も、一瞬で砕け散り、見るも無残な姿へと変わり果てた。
「ひっ……!?」
新人は悲鳴を挙げ耳を必死に抑えるなか、彼女は銃弾の音に耳を澄ました。
「いやぁ、AK103とは恐れいったね? 全然密造品じゃないじゃん」
「そんなこと言ってないで!? 一体どうすればいいでしょうか!?」
「うん? そうだね。どうしよっか?」
「どうしようかって……」
二人は銃撃が止まるのをジッと待つ。しばらくの末銃撃が一瞬弱まる。
彼女は足元に飛んできていた鏡の残骸を掴むと、切っ先を外に向けて敵の位置を確認する。
「(……なるほど、右の給水塔に一人と、正面の茂みね)」
彼女はニヤリと笑うと、新人の袖を引っ張り、射撃位置へと誘導する。
「じゃあ新人ちゃん。プレゼントあげる」
「は、はい!? こんな時に何を!?」
「問題に付き合ってくれたご褒美をあげるね?」