ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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ランキングに載ってるのに気付いてびっくりした!
皆様のおかげですありがとうございます!


『優れた能力も、機会が与えられなければ価値がない』

 第一種目のリザルトを見て、経営科は盛り上がっていた。

 

「緑谷出久! 1年生には珍しいレスキュー重視! しかし意外とパワータイプで〝個性〟はあらゆる場面で役に立つシンプルな増強型! 地味めのフェイスも優しさを強調すればプラスになるだろう! これは売り出しがいのある素材だな!」

 

「爆豪勝己も良いねぇ。口が悪く粗暴なようだが押さえるべき芯は押さえている。エンデヴァーがそうだが媚びないスタイルは広い人気獲得は難しいもののアプローチが狭くなる分強火ファンを獲得しやすい。能力も優秀で期待株だねぇ!」

 

「4位の常闇踏陰も素晴らしい。闇を全面に押し出し、レアな飛行能力持ち。その上彼の〝個性〟は自我があり、ベイビーに声掛けを続けたのだという。グッズ展開もしやすそうだ」

 

「それで1位の彼女なんだが……」

 

「うーん……」

 

「語ることある?? どんなアホでも売り出せるでしょあんなの。雄英の経営科出て彼女のプロデュースしたがるって意識が低すぎるよ」

 

「いまから知己を得ておこう! ……なーんてやったところでもう遅いだろうな。地元にいくらでもそんなのがいるだろう。そんなことよりエンデヴァーの息子さんが振るわなかったことに注目したい」

 

「何故か氷しか使わなかったな。どうもそのせいでタイムが増加されて、減少と相殺してしまったようだし。まさか42位とは。恐らく父君に炎は使うなと言われているのでは? 実況のマイク先生は炎も使えると仰っていたからな」

 

「安全性に考慮しているのかと思ったが……それだけなら使えそうなタイミングはあったからな。そのあたりが妥当な推測か。ネームバリューに少しケチが付いたが、だからこそプロデュースで挽回しがいがあるというもの」

 

「身体能力も〝個性〟も流石だったけどねぇ。1年は例年だと注目度低いし、修行と割り切った方針なのかもしれないねぇ。私なら彼をテーマにアイスクリームを……」

 

(経営科! やってるね! 緑谷少年が高評価で私も鼻が高いよ。他人を蹴落とすよりやっぱり君はこういうのが向いているな! ……彼に渡したことは後悔していない。しかし、彼が後悔する日がいつか来るかもしれないな……)

 

 平和の象徴。否応なしに他者を蹴落とさなければならない、トップオブトップだ。それが心優しい彼の重荷になる日が来たら、私が支えてあげなければ。たとえそれが短い間だったとしても……何かを残してみせる。オールマイトが後方腕組み師匠面している間にもミッドナイトの司会は続いていく。

 

「予選通過は上位42名! 残念ながら落ちちゃった人もあとで見せ場があるから英気を養っていなさい! さぁ、ここからがいよいよ本戦よ! 世間の注目度も爆増! 気張りなさーい!」

 

 さっきまで抱きしめていたメスガキの感触が名残惜しいのか、ミッドナイトの両腕は所在なさげにゆらゆらしている。いつもならもうちょっとピッとした姿勢なのだが。

 

「第二種目は~~~! コレ!!」

 

 モニターに表示されたのは『騎馬戦』。

 

「参加者は2~4人でチームを組むこと! 基本ルールは通常の騎馬戦に準ずるけど違いがいくつかあるわ! まずは先程の結果に従い、ポイントが割り当てられるわ! 下から5P(ポイント)ずつ増加、つまり42位は5P(ポイント)、41位は10P(ポイント)、という具合ね! ただし!」

 

 ピシィ! と地面を鞭でたたき注目を集めるミッドナイト。

 

「1位のP(ポイント)は! 1億よっ!!」

 

 バラエティ番組でよくあるやつである。1億P(ポイント)となったメスガキに視線が集まるが、彼女はミッドナイトの方をにこにこと見ていて周りを全く気にしていない。視線に気づいたミッドナイトの笑顔がゆるく崩れ始め、にちゃあ……と形容するか否かのライン上で反復横とびをしている。

 

「先をゆく貴方にはさらなる受難を! Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)で頑張ってねっ!」

 

 公私混同も甚だしい個人への声掛けが行われたが、問題はない。雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り。オールマイトは以前贔屓とかしちゃダメだ、と思っていたがぶっちゃけ余裕でやっていい。そもそも均等な教育がしたいなら受験とか要らない。平等に与えられるべきは『機会』であり『待遇』ではないのだ。放っておいても育つ生徒は放っておいていい。爆豪とか。

 

「制限時間は15分! メンバーのP(ポイント)の合計を一つのハチマキとして所持して、それを奪い合って競い合うわ! マジックテープ式だから取りやすいわよ! そして重要なのはハチマキを取られても、騎馬が崩れても、アウトにはならないということ! 最後まで諦めず喰らいつきなさい!」

 

 つまり全ハチマキを奪ったところで終了にはならずに狙われ続けるということだ。爆豪はこれもメスガキ用の特別待遇だと考え舌打ちしたが、元からこういうルールだったので普通に勘違い、濡れ衣である。メスガキ由来の追加ルール、特別待遇はここからだ。

 

「ハチマキは必ず首から上につけること! 取れば取るほど管理が大変になるわよ! そして! TOPにはさらなる受難! 1億P(ポイント)初期所持チームの騎手は! 頭だけではなく両手にもハチマキをつけてもらうわ! どれを取られても1億ポイントは移動して、残り2つはスカになります! これは初期所持チームのみのルールで、スカをダミーとして使うのは禁止! 一つ奪われたら残り二つは即座に破棄すること! 意図的な利用をしたと見なされたら失格とします!」

 

 取れる箇所が3箇所ということは、取られやすさも3倍である。などと単純に計算できればよかったのだが、その程度ではない。3箇所に別れたハチマキに注意し続けるなど常人には不可能である。普通に考えたら一度は絶対に取られ、そこからが本番になる、というのがこのルール。実際B組の面々はもう取ったつもりでその後の防御プランを考えている始末。

 

(ぜってえ取る!!)(オイラと組んでくれぇ!)(新斗さんに挑んだチームは必ず対応で手一杯になって隙ができるはずだ!)(ウチはどうしよっかな。リノと組むべきか? うーん)

 

 A組の殆どはその程度じゃ取れねえやと確信し、あるものはそれでも挑もうと気合を入れ、あるものは組めれば安泰だと考え、あるものは漁夫の利狙いを企み、あるものは関わらんとこと離れることを考えた。つまり総じて彼女を中心に先の展開を考えた。

 

「個性発動ありの残虐ファイト! ただし、あくまで騎馬戦ということを忘れずに! あまりにも悪質な崩し目的の攻撃は一発退場よ! それじゃあこれより15分! チーム決め及び作戦タイムよ!」

 

 そう宣言された瞬間、メスガキは「ツッテケテー」と響香に走り寄った。

 

「響香ちゃーん! 組もっ!」

 

「え? ん~~~~、まぁいっか。よろしくね。あと二人誰にする?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「ほら、あっち見て響香ちゃん」

 

「ん? あ、ヤオモモ……轟と組むっぽいね」

 

 メスガキが指さした方向では轟が八百万と熱心に話している。すでにチームが決まり作戦会議しているようだ。

 

「そういうことだよ!」

 

「……? なにが?? ヤオモモとも組みたかったけどウチが悩んでる間に取られちゃったってことだよね?」

 

「そうだよっ!」

 

「うん。じゃああと二人メンバーを……ってそういうこと? 二人組でもOKって狙ったメンバーと組めなかった時とかのためのルールだと思うんだけど」

 

「要らないでしょ? ボクが一人で騎馬するよ! 終了直前に轟くんを空中に浮かべてボッコボコのボコにしようねっ!」

 

「えぇ? 完全に私怨じゃん。露骨にやるとアレじゃない? ヤオモモも傷つくと思うけど」

 

「え゛っ」

 

「いやそりゃそうでしょ。浮かすって「ダークマター」で縛って釣り上げるってことだよね? それやるならハチマキ取れるわけで」

 

「1億P(ポイント)あるから要らなくない? 誤差じゃんっ!」

 

「それはそうなんだけど……ウチだったら嫌だな。友達だから戦いたくない、まではギリギリアリだけど『勝たせてもらう』のは流石にヤダ」

 

「なるほどぉ……そういう感じなんだぁ……どうしよ響香ちゃん」

 

「フツーに戦い避ければ良くない? リノならウチが乗ってても飛べるんだし。二人でガン逃げで行こう。『イヤホンジャック』なら両手を守りつつ空中からでもハチマキ狙えるし、取れそうなら取る感じで空中ウロついてれば興行的な存在感も出せるでしょ」

 

「おっけー! 大体そんな感じで!」

 

「新斗ォ! オイラと組んでくれぇ!」

 

「えっ。響香ちゃんがいいならいいけど、ちょっとでも嫌がってたらダメ」

 

「峰田かぁ~。普段の行いがなぁ……」

 

「残念でした! そういうわけで他当たってねっ」

 

「チクショ~~~ッ!」

 

 峰田は走り去った。チームの相性としては悪くなかったのだが、女子二人に加わるには信用が足りなかった。障子くんなら余裕で組めた。八百万は響香とメスガキがペアでイチャイチャしているのに気付いてはっとした顔をしたあとどんよりと落ち込んだ。轟に頼られて、とても嬉しくて即決してしまったのだ……。彼女が進学したのが人格者ばかりのヒーロー科で良かったと言わざるをえないチョロさである。その後3人組のチームが響香やメスガキを誘いに来てはがっかりして帰っていくなどしつつ待っていると15分が経過した。

 

「イレイザーヘッド! 起っきやがれぇ~っ! 13チームがフィールドに揃い踏みだぜぇーっ!」

 

 ショートスリーパーの相澤は短い間にも細かく睡眠を取っていて、今回もオネムでスヤスヤしていたが起きてチーム分けに意外そうな顔をした。

 

「ん……新斗は耳郎とペアか……や……なんでもない」

 

 寝起きで迂闊なことを言いそうになったので咄嗟に誤魔化したが八百万は気付いてしまった。なんで組んでないの? と教師が疑問に思うほどの鉄板の組み合わせを逃したのはひとえに迂闊さ故と言わざるをえない。轟もダメ元だったらしく「マジか。いいのか?」と聞いたくらいだったのだ。とはいえ、いい加減切り替えなければならない。個性の相性がいいチームなのは確かなのだ。性格やこれまでの付き合い的にも悪くない。飯田とは委員長・副委員長として良く話すし、上鳴はUSJでの縁もありそれなりに親しい。そして一番疎遠と言える轟ですら同じ推薦組つながりで会話の機会がそこそこあったため、意思疎通は問題ないだろう。しかし八百万には不安があった。時間は作戦会議まで遡る。

 

 

 

「轟さん。炎は使えないのですか? 問題点を教えていただければ何か補助するアイテムも作れるかと思いますが」

 

「……戦闘じゃ(ひだり)は絶対使わねぇ。わりぃな」

 

「わりぃなではありません。使えないのではなく使わないのであれば使ってください」

 

 無慈悲なツッコミである。八百万からしたらまた仲良しトリオで自分だけ負けるかもしれない瀬戸際なのだ。42位で予選通過ギリギリのクソボケボンボンのわがままなど一顧だにしない。

 

「何で使わねぇの? 八百万はマジですげぇから問題あるなら言えって。ぜってーなんとかなるから」

 

 上鳴はUSJでの経験により八百万の『創造』にかなりの信頼をおいているようだ。響香と上鳴の〝個性〟ありきとはいえ、たった20秒で施設全体から声だけを集音できる装置を作ってのけた凄さは今も脳裏に鮮烈に焼き付いている。飯田は自身も名門ヒーロー一家なので、同じく一流ヒーロー一家の轟には何かしがらみ等があるかもしれないと黙ってはいるが、同意見ではあるため二人を止めようとはしなかった。

 

「……家庭の事情だ。頼む。今回は黙って協力してくれねぇか」

 

「……お断りします。炎を使わない合理的な理由を説明してくださらないなら私は抜けさせていただきます。響香さんとリノちゃんであれば今からでもチームに入れてくださるでしょうから」

 

 なんで舐めプ野郎と組まないといけねぇの? というのが八百万の偽らざる気持ちである。ただでさえ敵は強大なのに。一方轟くんの思考回路はショート寸前だ。ここで八百万に抜けられると上鳴の〝個性〟が使いにくくなる。八百万がいないならおまえも要らねぇ、などと放り出せるはずもない。背に腹は代えられない。

 

「クソみてぇな恥を晒すことになるが……俺はエンデヴァーを憎んでいる。お母さんはアイツのせいで病院にいるんだ。だから炎は使いたくねえ」

 

「……?」

 

 ニュアンスは分からなくはないが、いまいち要領を得ない。八百万が求めたのはそういうふわっとした感情面の話ではない。いや、最悪感情面の話でもいいから納得させてほしいのだ。八百万が納得してないと分かった轟は更に言葉を重ねた。

 

「……時間がないから単刀直入に言うぞ。俺はクソ親父に虐待されてて、お母さんには俺の左がクソヤロウに似てきたって理由で熱湯をぶっかけられた。この火傷はその時のものだ。これで伝わるか」

 

「……分かりましたわ。今回は協力いたします」

 

「ありがとう」

 

「いえ……お辛いことをお話しいただき、申し訳ありません」

 

「……俺の方こそ黙ってこっちの都合に付き合わせようなんて虫が良すぎた」

 

「……その……元気出せよ! 俺は友達だからさ!」

 

「そうだな! なにか辛いことがあれば委員長としていつでも相談にのるぞ! まずは一致団結、協力してこの騎馬戦を乗り越えよう!」

 

「おーっ!!」

 

 いい話だな。感動的だ。けどマジで勝てるんだろうな? 八百万は不安だ。個人的な事情で戦力を半減させる、と彼は言っている。いや、半減どころではない。たまに炎を出して暖を取るだけすらやらない、出来ないと言っている。さっきはやってたんだから別にいいだろ! やれ!! 正直話の内容も端折りすぎてなぜそうなるのか分からなかった。繊細な話題だから今深掘りするのを辞めただけで、後日、あるいは舐めプのせいで負けたらすぐにでもしっかり説明してもらおうと心に決めた。

 

(リノちゃんが言うなら分かりますけど)

 

 圧倒的絶対的一位で勝っているなら好きにすれば良い。しかし彼は炎を使わなかったせいで3位から42位に転落しているのだ。にも関わらずまだ個人的な事情を優先するのはどうなのだろう。ていうかそれなら終わったあとも炎使うなよ。こんな支離滅裂な男に自分の命運を預けるわけにはいかない。私がしっかりしなければ。幼稚なメスガキとの濃厚接触により八百万は母性と責任感が増していた。

 

「準備いいかなんて聞かねぇぞ! いくぜ! 残虐バトルロイヤルカウントダウーン! 3・2・1・スタートォ!!!」

 

「響香ちゃん! 飛ぶよっ!」

 

「オッケー! いつでもどーぞ!」

 

 ちっちゃいメスガキが響香を肩車。ちょっと情けない絵面だが響香は照れもせずクールだ。黎乃に全幅の信頼を置いている。

 

「3・2・1……」

 

「なに遊んでんの。いっぱい来ちゃったじゃん」

 

 B組の面々の騎馬に4方向から取り囲こまれているが響香に焦りはない。ちょっと呆れてはいる。

 

「ZEROっ!」

 

 zero、ゼロ、ぜろ……とエコーを残してぴょーんと軽くジャンプするメスガキ。できの悪い合成映像みたいに空へぶっ飛んだ。ものすごい速さで景色が下に流れていくが髪が風で靡くくらいしか感じない。

 

「どうなってんのこれぇ? 全然衝撃とかないんだけど?」

 

「ボクは響香ちゃんの太ももみたいにもちやわクッションなんだよーっ!」

 

「うっさ。やめい。ん?」

 

「はいこれ。首に引っ掛けといて~」

 

「嘘でしょ。今の一瞬でこれ全部回収したの?」

 

 メスガキが〝個性〟の端っこに引っ掛けてプラプラしてるハチマキの数、4つ。先程突っ込んできたB組の4チームから奪ったものだ。彼らは第一種目をちゃんと見てなかったのだろうか。まぁ、あまりにも美味しそうに見える餌に目がくらんだのだろう。しばらく接してメスガキの最強ケタ違いぶりを見せつけられ続けたA組と違い、まだまだ実感が足りないのだ。いや、一番長く接している響香ですら驚いているのだから、誰も予想できなかったかもしれない。

 

「ボクがもっとしっかりアピールできてればな~! 実際に飛ぶ必要はなかったはずなのに! まだまだ精進しなきゃねぇ」

 

 ピントのズレたボケボケの反省をするメスガキ。周囲にメスガキの実力が浸透していれば、行動をする必要すらなくなる。それはまさにオールマイトの目指したもの。存在するだけで抑止力となる、平和の象徴のごとき目標だ。メスガキは響香を肩車したまま上空1kmほどで静止している。地上から見れば豆粒だ。翼を出してはいるが〝個性〟自体に浮遊する力があるため、羽ばたく必要がないので二人の声以外は風の音しか聞こえない。男女ならロマンチックな雰囲気になってもおかしくなかったが、ここに居るのは頭のあったかいメスガキと内面は熱いクールガールなので何処か呑気なぽわふわした会話にしかならなかった。

 

「ずっとこうしてるのも良いけど、作っちゃおうかっ、騎馬!」

 

「うん? どゆこと? さっぱりわかんない」

 

「こーゆーこと~!」

 

 ずずずず、っとメスガキの足元に黒い帯が集まる。それは段々とある形になっていく。空を飛び、ブレスを吐く、最強の幻想生物。ドラゴンだ。

 

「どう? かっこよくない?」

 

「いや~これはどうなの? 男子の好きなやつでしょこれ」

 

「男性人気も狙っていかないとね~! っていうか、言い訳をあげるんだよ! ボクみたいな最強最高の美少女を応援するのって、思春期だと照れちゃうかもしれないじゃん! けどこれがあれば! ドラゴンが好きだから! って言い張りながらボクのファンになれて! グッズが買えるんだよっ!」

 

「自己プロデュースか。ウチもサポートアイテムにギター持とうかな」

 

「んぎゅ……ボク楽器は作れない……ガワだけならそれっぽく出来るけど音がね……んー! こういうのはどうかな!」

 

 響香とメスガキそれぞれのジャージに黒い帯がまとわりつき、形をなす。

 

「おー。パンクファッション! イケてんじゃん! あっ、なんか要求したみたいになってごめん」

 

「なんで謝るの? もっと頼ってほしい~!」

 

「んん……それじゃあぶっこむか! ウチは両手引っ込めて『イヤホンジャック』に集中するね」

 

「ボクはこのレインボーアイズスターダストブラックドラゴンの操作と響香ちゃんのガードが役割だっ! いけーっ! ダークネスシャイニングブレスを放てっ!!」

 

 放てっ! などと威勢のいいことを言っているが、全部手動である。メスガキはこういう幼稚なごっこ遊びが大好きであった。そう! 男子人気のためだから、などと言い訳をしているのはメスガキの方である! 響香は体育祭までの2週間ですでにそれを知っているので生暖かくスルーした。一方1億P(ポイント)が飛んで逃げちゃったし地道にやるか、という感じで地表で争っていた12チームはいきなり頭上からダークプリユアの必殺技みたいなビームが降ってきて仰天した。しかし地面に派手に直撃したように見えたわりに何の物理的影響もなく、ただの虚仮威しだった。

 

「っち! そう上手くは行かないか!」

 

 ダークラプソディアな光から黒いドラゴンが飛び出し、パンクファッションの女の子がひゅんひゅんと鞭のようなものを耳のあたりから振るっているのはかなりのインパクトがあったが、丁度ターゲットになった緑谷チームは間一髪で『イヤホンジャック』による急襲を回避した。

 

「それじゃまたね~っ!」

 

 ぎゅーん! と再び上昇。またしても豆粒に……いや、今度は完全に消えている。〝個性〟の発光で空に紛れたのだろう。クソゲーすぎる、というのが地上の全員の感想だった。常に頭上を気にしながらの争い。地の利を完全に取られている。なんだこれ? チャンスか? そのうちまた降りてくるだろうか。いや、降りてくるかもと思ってしまった時点で警戒は怠れない。もはやあのペアの勝ち抜けは決まりだ。誰も対応できない。出来なかったのだから。

 

「開始直後瞬く間にハチマキを奪い空中に行って以来音沙汰のなかった新斗・耳郎ペアが空からビーム!! それに紛れての急降下っ! 出てきたのはなんとドラゴン!! 毎度やることが派手だなっ! さぁ、地上の奴らはどう対応しやがるんだァ!?」

 

 ノリノリで実況するマイクだが、内心はちょっと引いている。自分があの場にいたとして何が出来ただろう。

 

「本当に多芸だな……ドラゴンのブレス……あいつの「ダークマター」なら本物にも出来るだろうし、虚実混ぜられたらプロでも対応は難しいだろうな」

 

 少なくとも相澤は戦力としては無力である。メスガキは興行的にやってないだけでその気になれば全身を〝個性〟で覆えるのだから『抹消』は効かない。では相澤はメスガキに勝てないのか? 答えは『勝てる』。彼は大人としてメスガキから信頼されているので、戦闘自体が発生しないし、要求もほとんど素通りさせることが出来る。懇々と説教でもすればメスガキは涙目で黙り込むだろう。マイクが同じ事をやっても相手にされない。人間力の差だ。

 

 「目覚めたか……極彩の瞳持つ終演の銀河……星の導きを纏いしモノよ……」

 

 『緑谷チーム』の『常闇』は『破滅(カタストロフィ)』の『前奏曲(プレリュード)』に身を震わせた。闇ビームに突っ込んでいった『黒影(ダークシャドウ)』はテンションアップしてはしゃいでいる。かなりの『闇』を補充できたようだ。

 

「ピンチですわ! 轟さん、炎を使ってくださいまし! 体を温めて大きな氷壁を作るか、炎で威嚇するか、とにかく突進を抑制しなければ好き放題やられてしまいます! 上鳴さんの電撃はあのお二人には威嚇になりません!」

 

 八百万が焦った声で叫ぶ。メスガキに電撃が効かないのは訓練中の模擬戦で確認済みであり、響香も『イヤホンジャック』の〝個性〟の副産物としてそこそこの耐電性があるうえに、警戒されている状態では『イヤホンジャック』をアースのように使って電撃を逆用される危険性すらあるのだ。電流は抵抗の低い方に多く流れる。つまり、耐電性のある響香のプラグを誰かにくっつけられると電撃の大半がその人物に流れ込むことになってしまい1:1交換すら覚束ない。さらに言えばプラグは2本あるのだ。まぁプラグをくっつけられていること自体がそもそも生命を握られているに等しいのだが。

 

「くっ……だが……」

 

 轟はまだうだうだもがもがしていた。意地を張っている場合じゃないのは分かっている。分かっているが……よりによって今なのか。観客席からクソ親父の声が聞こえる。

 

「しょうとー!!!! 炎だッ!! 炎を使え──ッ!」

 

 必死に叫んでいる。あんな声初めて聞いた。何か常識を覆されたような悲痛な声。

 

(なんて情けない声を出しやがる)

 

 いい気味だ、と思っていいはずなのに、いま轟が感じているのは悲しみだ。アイツでも新斗には勝てないのか? と考えた事に気づき愕然とする。何処かに甘えがあった。「炎を使っていないからだ」という自己欺瞞。使いさえすれば勝てるという根拠のない楽観。その頼りなさに、クソ親父の叫び声で気付かされたのだ。認めなくてはならない。『炎を頼りにしていた』。『クソ親父の強さを認めていた』。憎みながらも、最後の砦としてその強さを信頼していたのだ。

 

「こう言ってはなんですが、リノちゃんは必ず轟さんに仕掛けてきますわ! そういう眼をしていました! その、私を盗られた、と思っていらっしゃるかと……!」

 

 ちょっと恥ずかしそうに言うモモちゃんは実に良く分かっている。全くその通りだ。一つだけ読み違えているのは、メスガキも響香もハチマキを奪う気がそもそもないことである。真面目な八百万からしたらそんな事はありえないしと思っているし、なんなら八百万の方はチャンスが有れば一億P(ポイント)を奪う気まんまんである。この期に及んでなおハッキリしない轟に彼女はついにしびれを切らした。

 

「ああもう! 恨みますわよ!」

 

 八百万は背中からいつでも出せるように待機させていた絶縁シートを出し、上鳴に渡す。

 

「飯田さん! 上鳴さん! しばらく防御はお任せします! 轟さん! これを!」

 

 それは貼るタイプのエコカイロであった。ぽこぽこと次々に生み出し、ぺきぺきしながら手の届く範囲に貼り、轟にも渡す。そうこうしている間に再び空からビームが降ってきた。今度は3本だ。どれからメスガキたちが飛び出してくるか分からない。全チームが警戒する中、八百万はカイロを作り続け、轟にペタペタし続けた。本当はモーリアンヒートパックを作成して高温の蒸気をぶっかけたいところだが、過去話がね……。しかし、気にせずやってしまおうかとちらっと思ってしまうほどに腹立たしい。脂質は無限ではないし即座に補充できるわけではないのだから、のちに響いてしまうのだ。それをこのクソボンボンの個人的わがままのせいで浪費する羽目になっている……。とはいえ結局は相手を尊重してしまうヤオチョロズさんにも問題があると思うんだよね。

 

(あったけぇ)

 

 一方天然クソボンボンは八百万の気遣いに心をぽかぽかさせていた。その影響で、本人は気づいていないが身体の中で炎が息づき、体を温めだした。〝個性〟とは身体能力であり、筋肉に随意筋と不随意筋があるように制御できる部分と出来ない部分がある。緊張すると心臓がドキドキするように、体が冷えた状態で心が温まったことで轟の内なる炎が活性化したのだ。八百万的にはかなり気休め、それでもやらないよりはマシ、といったカイロ作戦だったが、物理的なそれよりもボンボンの心を癒やしたという副産物により戦況は一変した。

 

「八百万……本当にありがとう」

 

 バキン!! と試合開始以来の大氷壁が現れた。まだ出せる。まだ舞える。クソボケお坊ちゃまの轟くんはカイロなんて使ったことがなかったのでカイロすげえなと思っていた。

 

(カイロってこんなに劇的な効果があるんですの?)

 

 お嬢様の八百万も知識にあるのみで実際にカイロなんて使ったことがなかったのでびっくりしていた。

 

(やっぱ八百万なんだよなぁ! 頼りになるぜぇー!!)

 

 上鳴はカイロをよく使うので八百万がなんかすげえスーパーカイロを作ったんだろうな、と思っていた。アホが見る世界は単純そうで羨ましい。

 

(………………)

 

 飯田は他の面子が受動的な対応を任される中、殆ど一人で今までの回避を担っていたのでヘトヘトで何も考えられない状態だった。かわいそう……。今は氷で壁を作ったのでちょっとだけ休める。現在の順位は3位。1億P(ポイント)チームがハチマキを4本持っていったので地上の平均点が低いため、自動的に順位が上がっている。轟が再起動したうえ、切り札の上鳴はまだ温存できているので、メスガキドラゴンの突進さえなんとかできればさらに勝利へ近づくだろう。今も時々ビームが空から降ってきて、中からドラゴンが飛び出してくるが、こちらには来ない。

 

(氷壁への激突を警戒してくれたか。八百万に感謝だな)

 

 実際は戦う気がないのが一番の原因ではあるが、狩りやすいところから狩るのが当然の戦略である。壁を作れるチームに挑む意味はあまりない。B組の円場の『空気凝固』や凡戸の『セメダイン』なども壁を作れるが、メスガキドラゴンの勢いを0.01秒くらい遅れさせるのが関の山だった。

 

(迷惑をかけた。こいつらのために俺が出来ることは、勝つことだ)

 

 必要とあれば、(ひだり)も使う。積極的に使う気こそまだ無いものの、もはや使用そのものを拒むことはない。ボンボンはキリッとした表情でメスガキの襲来に備えつつ、他のチームを迎撃した。最早戦況は空VS地上のレイドバトルのような雰囲気だ。ハチマキのない組は散発的に襲いかかってくるが、いなし続ける。終盤になったため、いい感じの位置に移動し、寄ってくるチームを上鳴の放電で足止めしたあと凍結させ、ハチマキがあるチームからは奪うという鬼畜コンボで2位に浮上し、ビームやドラゴンを警戒していると、終了時間の直前、轟の耳に急に爆音が響き渡った。一体何が起こった? キーンと耳なりが響く。混乱で思考がまとまらない。

 

「…………き。おーい! 轟! 終わったぞ! どした?」

 

「轟さん? 大丈夫ですか? ……まさか」

 

「な、何かあったのか……?」

 

 チームメイトが不思議そうに声をかけてきた。飯田は息も絶え絶えだが、困惑している。彼らには聞こえなかったようだ。つまり、俺だけが狙い撃ちにされた、不可視の攻撃。何らかの方法で耳郎の音波攻撃を集束させたのだろう。

 

「あの……その……すみません。あとで注意しておきますので……」

 

 八百万は何が起こったか聡明な頭脳で導き出したようだ。つまり、メスガキが響香におねだりして響香が根負けしたのだろう。響香が主導した、というのはありえない。八百万は「注意する」と言いつつもなんだかちょっと嬉しそうである。メスガキのカワイイ嫉妬が嬉しかったのだろう。そうであってほしいと轟は思った。俺は嫌われていない。そのはずだ。

 

(復讐ですらない、八つ当たりってやつか……)

 

 終了直前にやってきたことと威力から考えると、本当にただの腹いせ、嫌がらせでしかない攻撃。ヒーローにあるまじき私怨。俺もさっきまでこんなしょうもない感じだったのか、と思うとまだちょっと残っている耳の痛みも忘れて少し笑ってしまった。

 




独自設定

・経営科プライド高い:プロデュースが彼らのヒーロー活動なので、メスガキみたいなほっといても売れそうなやつはあんまりそそられない。
・騎馬戦+α:1億なのは最強ケタ違いの表現。ペア+ハチマキ3箇所+自分が騎手じゃないという条件での地上戦はさすがのメスガキも新たなる力に目覚めざるを得なかったが響香ちゃんが飛べばよくねと言ってくれたので手持ちでやりくりした。
・雄英教師の贔屓:問題児をよく見るという形で使われる。
・42位:爆豪が張り切ったので氷の使用が激しくなり、霜が降りてしまった。気合でなんとか3位を維持したが、クソ寒かったのでゴール後すぐに炎で暖を取った。八百万はそれを見ていたので戦闘で使わないとか言われて意味がわからなかった。今体育祭の最中ですけど?脂質をあらかじめ貯めておかないといけない八百万にとっては準備と戦闘は切り離せない。全部地続き。
・耳郎ちゃんの耐電性:体育祭で電撃食らいながら喋ってるのであるってことにした。プラグをアースにしたのかもしれないけど。
・ぽかぽかしょうと:荼毘のあれの炎版に覚醒した。暖かく穏やかな心を持ちながら戦うと氷が使い放題(まだ無自覚)。
・飯田くん:喋る余裕すらない。かわいそう。
・みみっちい嫌がらせ:響香ちゃんはしゃーなしでびっくりさせる程度の音量で放ったが、メスガキが“個性”で包んで集束させて威力を増幅させた。クソガキ!
・俺は嫌われてない:クソボンボンは嫌われていませんが、モモちゃんの中では問題児カテゴリに分類されました。メスガキより手がかかると思われています。
・存在感のないかっちゃん:画面外で物間やクソナードとバチバチやってました。全部のハチマキを取ってメスガキを引きずり下ろす!という高い目標をぶち上げましたが達成できませんでした(涙)。切島くんはかっちゃんの果てしない向上心にめちゃくちゃ感銘を受けています。
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