ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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『自分が今いる世界を救うことができない限り、どんな世界をも救うことができないでしょう』

 どよーん。という感じで八百万が観客席に戻ってきた。またである。また私だけ負けたぁ!! 一回戦第六試合、常闇VS八百万。常闇に速攻され一瞬で敗北。以前の訓練でも敗北し、今回再び負けてしまった。

 

「また私だけ……また……うぅっ!」

 

「おつかれ。あれはしゃーないって。向かい合ってよーいどんの形式だとヤオモモ不利だし」

 

 響香が半泣きの八百万の背中をぽんぽんしながら慰める。

 

「ボクが仇を取ってあげるから安心してっ! 黒影(ダークシャドウ)をけちょんけちょんにコケにして全国に恥を晒してやる!」

 

「えっ」

 

 メスガキはふんす、と気合を入れた。ヤバい。どうせ幼稚な内容の嫌がらせではあろうが、しかしだからこそ『恥』という部分では他の追随を許さないクオリティとなるかもしれない。常闇くんの尊厳がピンチである。

 

「リノ……落ち着いて。そんな事したってヤオモモ喜ばないから」

 

「……そうなの?」

 

「そうですわね……悔しい気持ちはありますが、恨みはありません。ここで負けることはすなわち、自らの弱点を知るということでもあります。以前リノちゃんも仰っていたではないですか。成長こそが勝利だと。改善の機会をいただけたと思うことにしますわ」

 

 メスガキの幼稚な反応を見て八百万は我を取り戻したようだ。というかそんなしょうもない報復をされても恥の上塗りである。あのクソダサバードに一瞬で負けたJKがいるらしいよクスクス。なんて更に辱められるのが関の山だろう。しかしモモちゃんは偉い。メスガキの自画自賛ですら糧にして成長している。彼女は生まれついての勝者、『向上心を持つもの』だ。格差の上層で益を貪る悪魔……! 

 

「もっと素早く『創造』できるようにならねばなりません。とはいえ速度は永遠の課題ですわね……」

 

 八百万は事前に計画を立てていた。常闇はおそらく速攻をかけてくるだろうから、初撃をまず盾で防ぎ、スタングレネードをぶちかまし、怯んだら接近しスタン警棒でノックアウト、というものだ。黒影(ダークシャドウ)がスタングレネードで怯むか不明だったが、黎乃の出したビームっぽい黒い光を喜び、看板や光のシャワーは嫌がっていたため、閃光は苦手なのではないかと推測した。止まらなくても常闇本人がスタングレネードで気絶するかもしれない。そして実際、予想通り速攻をかけてきたが、猛攻を防ぎきれずスタングレネードのピンを抜く前に弾き飛ばされ、追加の『創造』も阻害され盾ごと場外へ押し出されてしまった。予想した通り、黒影(ダークシャドウ)は光が苦手なのでスタングレネードまで繋げていれば逆に八百万が勝利できた可能性は高かっただろう。

 

「ピン抜いた状態のスタングレネード作れば良かったんじゃ? そしたら身体のどっかから出して離れた時点で勝手に炸裂させられたよねっ!」

 

 通常のスタングレネードはレバーを握りながらピンを引き、レバーを離した1~2秒後に炸裂する。というか八百万なら仕組みや仕様そのものを自由に変更できる。今回の運用であれば、速攻を予想していたのだからピン付きで作る意味はない。あまり近くで炸裂すると自身もリスクを被るが、出すタイミングも起爆までの時間も調整できるのだから有利なようにやればいいだけだ。

 

「あっ……」

 

「……よし! 切島の試合始まるみたいだし、見よっか!」

 

 賢い八百万なら反省会はここまでで十分であろう。続けてもどんどん気分が落ちるだけだと響香は知っていたので、空気を切り替えるために次の試合に意識を向けさせた。

 

「待たせたな! 第七試合を開始するぜ! 爆破にも耐えまくり! 侠気溢れるソリッドボーイ! 切島鋭児郎! (バーサス)! B組の期待を一身に背負って戦う闘士! 庄田二連撃! レディ──!! スタートォ!!」

 

「まさか君と戦うことになるとは。個人的には好感をもっているが、だからこそ全力で行かせてもらう!」

 

「ああ! そうこなくちゃな! B組の熱い想い!! 全部受け止めて! 俺が勝ァつ!!」

 

 試合は『硬化』による防御力と硬質化した皮膚の切断力により切島が優位に立ったが、傷だらけになった庄田が切島の硬化が綻んだタイミングを見計らい「解放!」と叫ぶと『ツインインパクト』による衝撃の連打が切島に襲いかかり、一気にKOされた。

 

「切島くんダウン! 庄田くん二回戦進出よ!」

 

「庄田ァアアアアアアッ!!!!」

 

 物間は大はしゃぎだ。涙を流して喜んでいる。B組の面々も喜んでいるが、切島が良いやつなのはB組も知っているので、物間が勝利にかこつけておかしなことを言わないかちょっと不安に思っていた。しかし物間はゴシゴシと涙を拭うと、何処かへ走り去った。恐らく庄田を迎えに行ったのだろう。B組の姉御的存在である『拳藤(けんどう) 一佳(いつか)』は物間がB組の恥を晒さなかったことでチョップの準備が無駄になりホッとした。

 

「1回戦最後の組だァ! 飽くなき向上心! 爆破は星を掴むためのロケットブースター! ヒーロー科! 爆豪勝己! (バーサス)! なんでもふわふわ無重力! チアダンスでも大活躍! ヒーロー科麗日お茶子! スタート!!」

 

「麗日ァ! まずはてめぇだ! あのクソガキに土をつけた唯一の女! 踏み台にしてやるッ!!」

 

「負けへんよ! 私だって! 背負っとるもんがあるんや!!」

 

 麗日お茶子の『無重力』は非常に強力な〝個性〟である。通常は殆ど『触れば勝ち』だ。爆豪はある程度爆破で空中行動できるため致命的でこそないものの、戦力が激減することは間違いない。速攻をかけタッチを目論む麗日。故に、近寄らせない。

 

「と思ったか馬鹿がッ!」

 

「ぐぎっ!」

 

 爆破により加速しまさかの接近戦。さらなる爆破で急旋回し完全に意表を突かれた麗日の脇腹に蹴りを入れ強かにふっとばした。A組の誰もがいかに接近を防ぐのかと考えていた中、爆豪ただ一人が相手を見ていた。注意すべきは手のひらのみ! こっちが近接を避けるのを見越した追撃重視の不安定な前傾姿勢! 事故のリスクはある! だが、こいつ相手に泥沼の消耗戦をするわけにはいかない! こっちも速攻だッ!! 

 

「吹き飛びやがれっ!!」

 

 まだ地面をゴロゴロと転がっている最中の麗日に爆破で追撃を加える。通常の爆破ではなく、爆風を強化した新技『ブラスト・インパクト』だ。技名は脳内で今つけた。編み出したのも今。こういうことがしたい、と考え即座に実行し、成功。爆豪はまさにセンスの塊、才能マンである。ドォーン! という轟音とともに麗日がさらに吹っ飛ぶ。とっさに自分を浮かばせなんとか場外を避けようとする麗日だったが、加速度を打ち消すまでには至らず、そのまま場外になってしまった。

 

「麗日さん場外! 爆豪くん二回戦進出!」

 

 パチパチパチ、と拍手が起こる。爆風による場外狙いは紳士的に見えたらしい。完全に勘違いである。爆豪はここに至るまでかなり掌を酷使している。故にリスクを取り速攻をするしかなかったのだ。キリッとした顔で会場をあとにする爆豪。そう……彼は……観客の勘違いに全力で乗る!! メスガキとの対戦のときに備えて! 会場の空気を少しでも味方につける!!! 恐るべき男、爆豪。勝利のためならこの程度の振る舞い、ノーリスクのやり得である。

 

 ──爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ──

 

 ニトログリセリンのごとく粘着質な男、爆豪。カエルちゃんの言葉を執念深く覚えていて、今、内心で勝ち誇っている。爆発的にみみっちい。最近ちょっと勝利に飢えてたので許してあげて欲しい。

 

「オイオイ爆豪!! オマエ体育祭で大分良くなったんじゃねぇのぉ!? 俺は好きだぜそういうの! ヒーローはそうでなきゃな!! そんじゃあ一回戦が一通り終わったから小休憩だ! シーユー!」

 

 マイクは単純に見直したようだが、相澤は爆豪の考えを大体見切っていた。そのうえで良い変化だと思っていた。周囲の眼を意識するのはヒーローに必須と言ってもいい。それが出来なければトップヒーローなど夢のまた夢。オールマイトを見れば分かる。彼は徹頭徹尾自己プロデュースの塊である。自身がアングラヒーロー、すなわちメディア受けを一切切り捨てたことでどうなっているかも身を持って知っているイレイザーヘッドは、爆豪のさらなる成長を内心で喜んだ。

 

「さぁー! 小休憩も終わって次行くぜぇー! 安定感抜群の身体強化! 緑谷出久! (バーサス)! 氷結のプリンス! 轟焦凍!」

 

「事前の宣言通り……俺が勝つぞ、緑谷」

 

「なんだかいい顔になったね、轟くん」

 

「いや……今までが悪い顔だったんだ」

 

 緑谷は苦笑した。そうかもしれない。憎しみに支配された苛烈な瞳。硬く引き結ばれ会話を拒む口。全てを拒絶する氷のような佇まい。それが今はなくなっている。そんなことよりざるそば食べてぇ、みたいな顔してる。昼休憩でお腹いっぱい食べたはずなのにもう次の食事のことを考えているのだ。眼を見れば分かる。焼きそばを食べたせいで逆に好物のざるそばを食べたくなった。そういう眼だ。きっしょ。なんで分かるんだよ。

 

「両雄並び立ち! 今! スタートだァ!!!」

 

 バキバキと地面が凍結し氷塊が迫ってくる。緑谷は全身に力をみなぎらせ素早く回り込み、接近を試みるも、及ばず再び氷に阻まれる。それが何度か繰り返され……。

 

「っち。調子に乗りすぎたか……」

 

 その通りだ。氷がすごく調子よく使えるからめっちゃ調子に乗ってぽこじゃか出してた。その結果ステージ上にたくさん氷壁が出来て、緑谷が何処に居るかわからなくなった。もう本当に調子こいて失敗したとしかいいようがない、恥ずべき痴態だ。

 

(周りだけでも溶かしとくか? いや……このままでいい。こっちはまだ全然冷えてねえ。あっちは冷えてる。あいつの速度はもうわかったし、だんだん減速してきていた。炎で温めてやる必要はねえな)

 

 冷静に状況を分析する。恐らく何処かから飛び出してくると思うが、最初ほどの速さはないだろう。

 

「ONE-EIGHTH SMASH!!」

 

 轟音を立てて氷が砕けそのまま破片が飛んでくる。咄嗟に追加で氷の壁を出したがそれもヒビだらけだ。視界も更に塞がってしまった。

 

(やべぇ。忘れてた。そういえば緑谷にはこれがあった!)

 

 自傷覚悟の超パワー。最近使ってなかったから頭から抜けていたのだ。出来なくなったのではなく、やらなくなっただけ。我慢比べをするか? いや、一発まともに入れば終わる攻撃を待ち続けるのは博打になる。やむを得ない。炎を使う! 大火力はまだ不慣れだが、氷を一気に溶かし、視界を確保する! あわよくば炎に驚いて場外に出てくれ(願望)! 

 

 ドカーン!! 

 

(……!? なにが……? 頭がクラクラする……全身がいてぇ……)

 

 水蒸気爆発だ。低温から急激に熱せられた空気が膨張し爆発を起こした。こんなふうになるなんて全然知らなかった。同時に使うのは初めてだったからだ。ぶっつけ本番で大失敗。轟に何処かのかっちゃんほどの戦闘センスはない。いや、一般的に言えば十分に天才と言えるセンスはあるが、爆豪ほどではない。非凡な能力と優秀さは不断の努力と英才教育により身につけたものであって、即座に何でも出来るようになるタイプではないのだ。炎と氷を一緒に使う際の注意点をエンデヴァーは何度も教えていたが、轟は聞き流していた。炎関連の情報を避けていたを通り越して意図的に頭から追い出していたツケを、大事な本番で支払うことになった。

 

「緑谷くん場外! 轟くん三回戦進出よ!」

 

「どうやって位置を見切ったんだぁー!? 自傷覚悟の攻撃に同じ覚悟で応えた轟! 二人を称えてやってくれ! クラップユアハンズ!!」

 

「……え?」

 

 なんか勝った。実感はない。なにせただの偶然、完全な運だ。偶々最初に溶かそうとしたあたりに緑谷が居たから上手く吹っ飛んだだけの、ラッキーパンチである。轟が場外にいないのは背面の氷に激突したからで、これ自体は必然であり偶然ではないが本人が意図したわけではない。

 

「いたたた……すごいや、轟くん。どうやって察知されたか全然わかんなかったよ……三回戦進出、おめでとう!」

 

 ちょっとフラつきながら緑谷がステージ上に戻ってくる。腕は……指は……傷ついていない。痛そうに押さえてはいるが、それだけだ。最初声をかけてきたときは悔しそうな表情をしていたが、お祝いの言葉の時にはもうさわやかな笑顔を浮かべていた。

 

「あぁ……あり、がとう」

 

 気まずい。ていうか全身が痛くて動けない。喋るのもしんどい。爆風で場外まで吹っ飛んで威力が逃げた上に〝個性〟も身体強化系の緑谷と、激突までの距離が短く爆発のエネルギーをモロに受けてしまった轟の差である。ぱっと見だとどちらが勝ったかわからないだろう。轟はなんだかそれが成長していない自分と成長している緑谷の差のように思えた。これはちょっと次の戦いの前にクソ親父と話したほうがいいかもしれない。飯田と耳郎、どちらが勝ち上がってきても強敵だ。飯田には距離を詰められると不味いし、耳郎は自由自在に動くプラグで氷を破壊できるため、凍結が決定打になりにくく、炎が必要になる可能性が高い。なんだか本当に激動の一日すぎて本来おっとりした性格の轟は正直ついて行けていなかったが、状況は轟の心構えを待ってくれはしないのだ……。

 

「焦凍。無様だな」

 

 控室に向かう通路に轟さんちのクソ親父が陣取っていた。メイドラゴンみたいに言うな。関係者特権の悪用。OBなことも相まって最悪のモンスターペアレンツだ。傷つきながらも勝利した息子に掛ける言葉もクソオブクソで擁護のしようがない。本当のことだからって言っていいことと悪いことがあるし、タイミングや言い方というものがある。長男をそれで失ったも同然なのにアホの極み親父だ。

 

「何の用だ……早く医務室に行きたいんだが……」

 

「ふん! 用があるのはお前の方じゃないのか? 必要かと思って来てやったんだがな」

 

「…………」

 

 割り切れない。このゴミカス親父の言葉が自分の役に立つことなんて本当はずっと前から知っていた。散々痛めつけられたがそのおかげで今も自力で歩けている。不要な虐待など一つもなかった。〝個性〟の制御についての心構えやコツなどは氷でも十分に通用するものであり、轟の根幹にはこの加齢臭の教えが染み付いていると言っていい。だがだからといってそれらをありがたいと思うかは話が別だ。こいつと喋っていると体が冷えてくる。轟はなんとなく自分の体温が心の冷たさと関連があることに気づいた。またか。また親父の「おかげ」なのか。成長のために必要なもの。自己分析。客観視。

 

「……氷と炎を同時に使う際の注意点。もう一度教えろ。炎のコントロールは今すぐできるようにはならねえ。この後の戦いで突貫で使える役立つ情報だけよこせ」

 

「いいだろう。まず先程もお前が失敗したように冷えた空気は急激に熱せられると膨張し爆発する。お前は吹っ飛んでたから気づいてないだろうが、これにより大量の蒸気が発生し視界を塞ぐ。それを避けるのではなく利用しろ。氷は相当繊細に運用できたな? まずは……」

 

 無礼な物言い。一方的なわがまま。それにエンデヴァーは即座に答えた。いつものことだ。どちらにとっても。並んで話しながら医務室に向かう二人は歪で不器用ながらも、親子だった。どれほど憎もうともその繋がりが切れることはない。断ち切ろうと足掻くのは無駄なことだ。子が親を超えていく。そんなことは何処の家庭でもある、ごくありふれた風景。ことさらに押し付けずともそうなる家庭はそうなるし、どれだけ努力しようとならない家庭はならないものである。

 

 

 

「オールマイト……すみません。負けてしまいました……」

 

 一方こちらは緑谷出久とオールマイト。二人きりで居る場所は仮眠室。オールマイトはエンデヴァーとのお茶会でマッスルフォームをちょっと長めに維持してたので大事を取って休憩しているところだ。緑谷の顔に先程までの爽やかな笑顔はない。悲痛と悲嘆に満ちた苦しげな表情だ。

 

「いや! よくやってくれた! 1位を目指すこと、TOPをつねに狙うことは重要だが、目的を履き違えてはいけない。君が来た! ってことを! 沢山の人が知ったはずだ!」

 

 これはオールマイトの本心である。なんなら最終種目に残れただけでもう頭をナデナデしたい気持ちになっている。ミッドナイトがメスガキを撫でているのが羨ましかったのだ。でも男の子にやるのもな……お師匠はどんな気持で私の頭を撫でていたのだろう? やはり性別が女性だとナデナデしたくなるものなのか? などとちょっとズレたことを考えている。オールマイトが緑谷出久を後継者に選んだのは彼が“OFA”を一番上手く使えるから……ではない。人を救ける心。他者を思いやる気持ち。自己犠牲を厭わない勇気。弱くとも戦うことを選んだその意志。そこに光を……灯火を見たからだ。

 

(そう、彼以外にはありえない)

 

 あの日、ヘドロ(ヴィラン)の事件のその時。オールマイトは『言い訳をして戦いを避けようとした』。

 

『もう活動時間も限界だ。たくさんのヒーローが居るからすぐに助けてもらえるだろう。心苦しいがもうしばらく耐えてくれ』

 

 生命を惜しむ気持ちがあった。

 

『だって、後継者がまだ見つかっていないんだ。しょうがないじゃないか。今死ぬわけにはいかないんだ』

 

 それを彼に奮い立たせてもらった。『平和の象徴』は、あの瞬間、もう死んでいたと言ってもいい。だから、彼なのだ。緑谷出久があの時、譲渡など無くとも、遺志のバトンを……聖火を絶やさないでくれた。薪を、継ぎ足してくれた。消えかけた炎を、再び灯してくれたのだ。他者に勇気を与えるもの。それこそがオールマイトの求めた後継者の条件。

 

「これは敗北か? そうじゃないさ! また一つ強くなった! いいか緑谷少年、敗北とは!! 地に伏し土に塗れることではなく! そこから立ち上がらないことを言う! そして勝利とは! 立ち上がる意志そのものだッ!」

 

「お、オールマイト……ッ」

 

「今回君は怪我なく無事に戦いを終えた! 私はそれが嬉しい! 君は私の、自慢の後継者だ!」

 

「うぅううううっ、わああああぁああッ!!!」

 

 滝のごとく涙を流す緑谷。オールマイトはそれを、がりがりの痩せ細った、しかし大きな体でしっかりと抱きしめた。でかい声で隠し子疑惑が更に加速しそうなやり取りをする二人。雄英は防音がしっかりしてはいるし、この仮眠室はぶっちゃけオールマイト専用に増設されたものなので、事情を知らない誰かが急に来るということはない。しかし、世の中には優れた聴覚の持ち主が居る。世の中に居るっていうか、Aクラスに二人も居る。このやりとりも聞こうと思えば聞ける能力がある。人間が出来ているので事情もなくプライベートを探ったりしないので聞かれてないだけである。もうすこし警戒したほうがいいと思います! 

 

「ステージも片付いたし次行くぜぇ! 二回戦第二試合! エレクトロミュージックガール! 耳郎響香! (バーサス)! みんなの委員長! 飯田天哉! スタート!!」

 

 試合開始直後、飯田はここまで見せたことのなかった高速移動『レシプロバースト』を使用し、響香の初撃の不可視攻撃を回避、背面に回り込みそのまま場外に押し出した。一瞬の早業である。

 

「耳郎さん場外! 飯田くん三回戦進出よ!!」

 

「何だぁこりゃあ! 速えーッ! ここに来て初見殺しの新技! 飯田天哉の勝利だぁ!」

 

「……まさかそんな隠し技があったなんて。負けたよ。おめでと、三回戦頑張ってね」

 

「トルクの回転数を無理やりあげて使うため反動でしばらくするとエンストする裏技だ! 範囲の広い音波攻撃も『イヤホンジャック』の長いリーチも俺には不利だから使わざるを得なかった! 激励ありがとう! 耳郎くんの分まで頑張ると誓うぞ!!」

 

 そして、二回戦第三試合。

 

「二つの闇がついに激突ゥー! 星々の輝きが闇を切り裂くのか!? あるいは闇が星を呑み込むのか!? スターエンジェル新斗黎乃! (バーサス)! ダークフェザー常闇踏陰! スタートォ!!」

 

「お前とはずっと戦いたいと思っていた。行くぞ黒影(ダークシャドウ)!」

 

「アイヨーッ!」

 

「モモちゃんの仇は取らせてもらうッ! サモンゲートッ! 出てこい! レインボーアイズスターダストブラックドラゴンッ!! ダークネスシャイニングブレスを放てッ!!」

 

 放てッ! などと威勢のいいことを言っているが全て手動である。何がサモンゲートだ。騎馬戦で見せたより幾分か小さい、というより黒影(ダークシャドウ)の大きさに合わせたようなサイズのドラゴンが一瞬で形作られ、騎馬戦の時の黒いビームとは違う光のビームを放った。

 

「ギャ──ンッ! ヤダァーッ!! フミカゲェ──ーッ!!」

 

黒影(ダークシャドウ)────ーッ!!!」

 

 黒影(ダークシャドウ)はダークネスシャイニングブレス(ピカピカ光ってるけど実質ただの棒)にガッシ! ボカッ! という感じでふっ飛ばされたあと弱点の光のせいで弱って身体が小さくなってしまっている。涙目でうずくまって……いや、完全にベソをかいている。雄英で一番幼いのはメスガキだと思われていたが、一位が入れ替わった。王座転落だ。王座とか転落とか言うとまるで名誉ある立ち位置だったみたいじゃん。

 

「ボクのAIBOのほうが強かったようだなッ!! 良くやったぞレインボーアイズスターダストブラックドラゴンッ!! そのまま常闇くんを掴んで場外に放り投げろッ!!」

 

 いちいち命令しているが全部手動である。口頭の命令は一切必要ない。長ったらしい名前を叫んだり褒めたりするのも完全に無駄行動であり、そんなアホムーブをしているせいで常闇は一手分行動できた。上着をバッと脱ぎ小さくなった黒影(ダークシャドウ)を包みこんだのだ。余計な口上を無くしてさっさと場外に押し出していればもう終わっていた。

 

「……!」

 

 何を思ったかメスガキはショックを受けたような顔をして固まってしまった。当然手動で動かしているレインボーアイズスターダストブラックドラゴンも空中で変な体勢で停止している。どっかの継承者みたいに勢い余って地面に激突したりはしない。常闇の薄着の上半身にドキッとしたのだろうか? あるいは自分がなんか悪役っぽいことに気づいたのかもしれない。AIBOとか言ってるけどカード破く系社長の方だもんな。

 

「おーっとォ!? 新斗どーしたぁ!? 動きが止まっちまったぞっ!」

 

 マイクの実況も困惑気味だ。勝敗は決まった、と思ったあとのこれ。あまり気の利いたことも言えていない。まるで普段のラジオ(毎週金曜日に五時間やってる)の後半で話題がなくなって一人しりとりを始める時みたいにキレがない。

 

「……!? 黒影(ダークシャドウ)ッ! 回復したな!? 行けッ!!」

 

「ウーッ! コワイヨー!」

 

黒影(ダークシャドウ)ーッ! 分かった! 俺も行く! アレをやるぞッ!」

 

「ヤッターッ!! イクゾーッ!! ウオーッ!」

 

 常闇踏陰の勇気が世界を救うと信じて……! 黒影(ダークシャドウ)先生の次回作にご期待ください! などとやる気のないアオリ文が出てそうな敗北フラグだが、やってることは結構真面目だ。常闇は黒影(ダークシャドウ)を全身に鎧のように纏った。彼は自分と〝個性〟が似ているメスガキを参考に色々と新技を生み出しているのだ。攻防一体、かつ飛行も可能とするこの形態はまさにミニメスガキと言える万能の能力を持っている。ミニメスガキってなんだよ。ビッグメスガキもあるのか? 

 

深淵闇躯(しんえんあんく)ッ! お前の「ダークマター」の運用を参考に編み出した技だ、新斗! これでお前に勝つッ!!」

 

 なんかちょっと様子がおかしい女の子をそのまま攻撃するのが憚られた常闇くんはしなくてもいい宣言と説明を入れて時間を稼いだ。これでだめならもう知らん。掴んで場外に放り投げよう。圧倒的強者が隙だらけなのに自身の流儀をしっかりと守る。常闇のこれは油断や奢りではない。矜持だ。しかし深淵闇躯(しんえんあんく)はまだ練習中というか、今日の午前中に生まれた技である。編み出したとか言ってるけどぶっつけ本番だ。

 

「……はっ! 負ける!? そんなわけないだろっ! レインボーアイズスターダストブラックドラゴン!! 迎撃しろッ!」

 

 メスガキはようやく正気に戻ったようでしょうもない一人芝居を再開した。アーマード常闇とドラゴン(名前省略)が激突し、とこやみくんふっとばされた! 

 

「ウワァアアアッ!」

 

「ぐわああああっ!」

 

 ドラゴンは吹っ飛んだ「二人」をそのまま追撃! ……はせずに空中でがしっと掴んだ。鎧化は解かれており常闇はちょっと意識が朦朧としているようだ。

 

「アー! オワッタオワッタ」

 

「お、終わってないぞ黒影(ダークシャドウ)……ッ」

 

「いいやっ! ここまでだっ! ぽーい!!」

 

 べしょっと場外に放り出される常闇。その衝撃で逆に意識がハッキリしたらしく、すぐにばっと立ち上がったが、場外に居ることに気付くと悔しげに地面に拳をついた。

 

「クッ……! まだまだ修練が足りなかったかッ」

 

「常闇くん場外! 新斗さん三回戦進出よ! ……大丈夫かしら!?」

 

「ご安心くださいミッドナイト先生っ! ちょっとドキッとしただけです!」

 

 メスガキは鳥顔が好きなのだろうか? あるいは男の半裸なら誰でもいいのだろうか。我に返ったあともクソ茶番を続けたあたりまったくこりない悪びれないみたいだがお得意の自己分析と客観視はどうしたのだろう。口だけのダブスタは良くない。メスガキのそれを真に受けてる同級生だっているのだから。今後このようなことがないように十分留意し、確認を徹底し、迅速に対応すべき案件だ。

 

 平素より大変お世話になっております。

 この度は、メスガキとご対戦いただきありがとうございました。

 しかしながら、メスガキの不具合で、常闇様には大変ご迷惑をおかけいたしました。

 心よりお詫び申し上げます。

 今後とも変わらぬお引き立てのほどよろしくお願い申し上げます。




独自設定

・メスガキの服:体操服の予備残り1着。
・ピン抜いた状態で:例え話。都合良く作り変えたらいい。
・庄田くん勝利:切島くんが勝ったほうが原作の描写参考にできて楽なのに。でも切島くんが勝ちそうな気がしなかった。
・ブラスト・インパクト:爆風地雷の横向きバージョン。両手で爆発を起こしぶつけ合って強風を起こす。
・爆発的みみっちさ:クソナードとの関わりが減ってるので内申点とか気にする部分が多めに表出してる。
・調子に乗る轟くん:氷出すのすげえ楽。これは……覚醒しちまったようだな……。
・ONE-EIGHTH SMASH:落ち着いて集中して正拳突きすると12%ちょいくらいの出力で怪我せずいける。
・水蒸気爆発:水蒸気爆発という現象自体は知ってるけど実体験と結びついていない。
・轟さんちのクソ親父:マジやばくね。
・アホの極み親父:丁寧に描くと決めている。
・プロはいつだって命がけ:口先だけのニセ筋になってしまうところだった。
・深淵闇躯:本当はメスガキの浸透するやつを真似したいらしい。
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