ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
それでは本編をどうぞ!
二回戦最終試合。庄田二連撃VS爆豪勝己。庄田は良く戦ったと言えるだろう。『ツインインパクト』は当たりさえすれば非常に強力な〝個性〟。低い姿勢から攻めて爆破を誘発。それにより瓦礫を作り出し、爆風に紛れてツインインパクトを仕込んだ瓦礫で取り囲む。そしてタイミングを見て飛ばし、それと同時に吶喊。一撃でも食らってしまえば、体勢を崩されボコボコにされるだろう。爆豪はそれを庄田のみに集中し迎撃。瓦礫を多少食らうもそのままKOして勝利した。
「庄田くん行動不能! 爆豪くん三回戦進出!」
庄田がB組の想いを背負う場面は司会のミッドナイトがジロジロ見ていた……つまりモニターにもデカデカと映ったので、会場全員が知っている。その結果、庄田はちょっとファンが出来ていた。いわゆる動けるデブなところや、見た目の割に硬い口調、〝個性〟の割に頭脳派なところなどギャップの塊なのがウケた形だ。負けたとはいえ、会場には健闘を称える声が多くあった。それと同時に、勝利した爆豪の強さも際立っていた。1年生とは思えない強さ。3年の方に参加しても十分戦えるであろう練度だ。
「庄田ァ!」
ミッドナイトの決着を告げる声のすぐ後に、物間は会場に飛び込んできた。そう、観客席からそのまま直接だ。クラスメイトの『ポルターガイスト』の〝個性〟をコピー(無許可)し自分を浮かせ飛び降りたのだ。生徒なので一応禁止されてはいないが、危ないのであとで怒られるやつである(柳にもネチネチ言われる)。ミッドナイトは、責めなかった。そういうのが好きだから。
「あぁ……庄田……ありがとう……お疲れ様……」
顎にいいのをもらって気絶している庄田を『ポルターガイスト』で抱えようとして、気付く。救護用の搬送ロボ、その名も『ハンソーロボ』が近寄ってきてる。素人が運ぶよりプロというか、専用のロボの方が良い、とようやく冷静さが戻ってきた。
「ものを浮かべる〝個性〟ね? 柳さんの『ポルターガイスト』を『コピー』したのかしら。それならロボの指示に従って一緒に運んでもらえる? ハンソーロボ、彼をフォローしなさい」
「ガッテンダ。姿勢ハソノママデ浮カバセテクレ。典型的ナ脳震盪ダナ。ユックリ運ブゾ」
「……ミッドナイト先生、ありがとうございます!」
物間はそのまま庄田に付き添って医務室へ向かった。ミッドナイトが青春が好きなのもあるが、雄英体育祭を視聴する層そのものが、基本的にこういうのが大好きである。爆豪は勝利した自分より注目されているのにちょっと苛ついて黙って会場をあとにした。爆豪のファン層はそういうストイック(不貞腐れて黙って去っただけだがそう見えた)な所を好んでいた。
「これでベスト4が出揃ったぜぇー! それじゃあ準決勝、サクサク行くぜ!」
お互いヒーロー家出身のエリート対決。飯田天哉VS轟焦凍は、飯田が開幕レシプロバーストで重い蹴りをクリーンヒットさせるも、その際に脚の排気筒に氷を詰められエンストし、凍結させられ戦闘不能となり轟が勝利した。
「飯田本当に速いな……耳郎との戦いで加速があるって知ってたのに追い詰められた。知らなかったらやばかったかもな」
「悔しいがキミのほうが一枚上手だったようだ……! 決勝、頑張ってくれ!」
「ああ。絶対勝つ」
氷だけで勝てたが、これは炎が必要なかったと言うより、展開が早すぎて使い慣れた氷でしか対応できなかった、という方が正しい。発言通りレシプロバーストの存在を知らなければ勝敗は逆転していただろう。
「準決勝二試合目! 良かったな! ついに直接対決だ! 星を目指す男! 爆豪勝己! 対! 星を纏う女! 新斗黎乃! スタートォ!!」
「死いィィィィィねェェェッ!!」
開幕から最大火力。控室でスクワットをして汗の量も十分だ。ここまでなんとか温存して、一度だけ撃てるようにしておいた素手で撃てる限界の威力。撃ち終わった今、掌が出血し、激痛が走っている。
「前から思ってたんだけどさぁ。死ねとか気軽に言っちゃダメだよ? 生命っていうのは一つしかない、とっても大切なものなんだから」
ノーダメージ。微動だにせず、開始位置に立っている。体操服はボロボロだが、火傷はおろか、かすり傷一つない。
「それをキミってやつは死ねだの殺すだのくたばれだの、口が過ぎるぞっ! 本気で言ってないのは分かるけど、傷つく人だって居るんだからさっ!」
呆けている場合ではない。爆豪は格闘戦への移行を決断した。掌は痛むが、掴んで投げ飛ばすしかない。場外狙いだ。
「その血塗られた手でボクに触れようっての? 本当にキミってノンデリだねっ!」
ひょいひょいと回避される。体術ではない。単なる速度。見てから動いて十分に間に合う。そういう稚拙な動きだ。だがそれ故に全く予想が効かない。
(クソガキが! 身体能力だけで避けてやがるのか!?)
爆破はもう使えない。これ以上無理して汗腺がお釈迦になれば〝個性〟の使用自体が二度と出来なくなるかもしれない。いや、それを通り越してさらなる重大な損傷を負うことすらあり得る。
(だから、なんだ? このままこのクソガキに負けを認めろってのか?)
「ふっざけ……あ?」
爆豪の両手に黒い塊が巻き付いている。黎乃の〝個性〟だ。足が動かない。地面が黒く染まっている。
「粘着する性質を付与したんだ。ネチネチしつこいキミにピッタリだねっ! こういう小技も出来るんだよ~! キミはいつも一生懸命頑張ってるから、サービスで見せてあげたんだからねっ!」
掌はじくじくと傷んでいるが、〝個性〟で覆われているせいか先程よりはマシだ。足は全く動かない。
「クソガキがァアアアアアッ!!!!」
「ボクには愛する両親につけてもらった『黎乃』っていうカワイー名前があるんだよ! 覚えて帰ってねッ!!」
ドゴォ! 爆豪の土手っ腹にメスガキのキックが決まる。ケタ違いの身体能力から繰り出されるそれは、初めて見せる彼女の純粋なる暴力。タイミングを合わせて足の粘着を解除したのだろう。ものすごい勢いで爆豪は吹っ飛んだ。壁に激突する瞬間、両手にくっついていた黒い塊が広がってふわりと彼を包み、ぽよん、と壁に弾かれ、地面で数回バウンドした。包まれている爆豪は既に意識を失っているようだ。
「……爆豪くん場外! 新斗さん決勝戦進出よ! おめでとう!」
「ありがとうございまーす! それじゃあ保健委員としてちょっと彼を医務室に運んできますねっ!」
「運搬用のハンソーロボがあるわよ? 決勝戦に向けて少しでも体力や〝個性〟を温存したほうがいいんじゃないかしら」
「いえ……ボクが運びたいんです。だめですか?」
「……いいえ! 私、そういうの……好きよ!!」
ミッドナイトはメスガキックのあまりの威力を見て少し緊張していたようだったが、ホッとした顔をしたあと蕩けそうな笑顔を見せ、メスガキをぎゅーっと抱きしめた。
「むぎゅー!」
「あっ……つい。ごめんなさい! それじゃあ、彼のこと頼むわね!」
「はぁい! ナースリノちゃん出動~!」
ふわふわのクッションを〝個性〟で作り、爆豪をひょいと持ち上げるとそれに乗せ運んでいく。スポーツマンシップ溢れる光景に、会場は拍手でいっぱいだ。通路に入って進んでいくと歓声がだんだん遠くなり、それが聞こえなくなった頃、医務室へ続く静かな廊下にポツリと声が響いた。
「負けたんか、俺は」
「おぉ? タフだねぇ~。もう目が覚めたの?」
「なんでだよ。なんでお前なんだ。なんで俺じゃねえ……」
普段の威勢が嘘のような弱々しい声色だ。才能マンは声もイケボである。ここに至るまでに全てのエネルギーを使い果たして、怒鳴ることすら出来ないのだ。
「ちょっとハイコンテクストすぎじゃないかなぁ~。手は大丈夫? いっぱい血が出たら痛いんだよね?」
「……物理無効人生だから痛みなんて分からねぇってか」
「ボクは最高に恵まれてるんだよ。これが生まれついての差ってやつ。さっきの質問に答えるね。今までたくさん、勝ってきたんでしょ? その数だけ誰かの想いを踏みにじってきた。君の番が来ただけだよ」
「…………」
爆豪は今まで見上げられる側だった。なんで知らねーの? なんで出来ねーの? あっそーか! 俺がすげーんだ! 皆俺よりすごくない! ただの石コロだ! 今や彼がメスガキにそう思われているのだろう。なんで怪我なんてするんだろう、このか弱い生き物は。死に物狂いになっても傷一つ付けられないのに。
「あの時、爆発はもう効かないの分かってたのに、また使おうとしたね。掌なんてどうなってもいい、爆破をぶつけてやる、そう思ったでしょ? ダメだよそんなの。ご両親が悲しむよ!」
「……そんなことは」
ない。そう言えたらどんなに良かっただろう。賢い爆豪は当然理解している。使っても無駄だったこと。そして今までとは違い、可能性を探り勝利を目指すのではなく、打つ手無しという現実を認められず自暴自棄になっていたこと。
「ボクはキミみたいなノンデリはキライなんだけど……今の反応で分かったよ! お父さんとお母さんのことが、大好きなんでしょ! ボクもそうなんだっ!」
賢い爆豪は当然理解している。自分が両親に愛されていること。思い遣られていること。そして、心配されていること。そんな事は
「キミはボクとおんなじなんだ!! 家族のために戦ってる! だったら、ボクは敵じゃないんだよっ! 仲間だっ!!」
「……手に響くんだよ……デケェ声でうるせぇ……黙れ……」
「そろそろ翻訳できるようになってきたよ! これからよろしく、って返せば良いかなっ?」
「うるせぇ……うるせぇんだよ……キンキン声で喚くな……ババアを思い出すからやめろ……」
屈辱。屈辱だ。そのはずなのに、認めちまってる。こいつは俺とおんなじだ。わけの分からんきっしょいクソナードとは違う。家族に安心してほしくて戦ってる。俺もそうだったんだ。オールマイト。誰よりも強くて、どんなときでも彼ならなんとかしてくれると、誰にも心配されず、それどころか安心を与えるスーパーヒーロー。そんなふうになりたかった。勝ちまくって一番になれば、そうなれると思ったんだ。
「お母さんみたいって? 光栄だ、爆豪! なーんちゃって! あはは!」
爆豪はそれきり黙り込んだ。彼は大人ではないので、メスガキには勝てない。爆豪はオールマイトタイプ、つまり実績で黙らせているだけなのでそれが通用しないとレスバで勝てないのだ。コミュ障というよりコミュ幼児。苦難の中から立ち上がった元“無個性”のオールマイトは弱者の気持ちを知っているが、かっちゃんはそうじゃない。つまり彼の対人経験はカス! 緑谷と同レベル! 人生において家族以外に最も会話しているのはクソナードである。彼には他にも幼馴染が居るが、かっちゃんが緑谷に絡む時、あるいは逆に緑谷がかっちゃんに絡んできた時、彼らは他人のふりをしていた。まだ付き合いの浅い雄英ですらあっという間に浸透したお互いに対するおかしな執着のキモさを骨の髄まで知っていたからだ。
「うーん、何が起こってるか良くわからないな。山田ひざしは実況失格じゃないか? あの時死んでればよかったのに」
薄暗い部屋。モニターの明かりだけがくっそ不潔なゴミだらけの汚部屋を照らしている。壁には日本地図やオールマイトの新聞記事の切り抜き(「←社会のごみ」と落書きがしてある)、世界地図に各地のトップヒーローたちのスクラップ記事を貼り付けたものが所狭しと飾られており、ゴミ袋と落書きがなければよくある子供部屋だ。部屋の主がいい歳した青年でなければだが。
「だからって俺に実況させるなよ、先生。しょうがないからやってやってたが、疲れた。つーか黒霧にでもやらせろ。俺の部屋から出てけ」
そう、ここは死柄木弔の自室。梅干しおじさんと子ども大人の二人きりで『雄英高校体育祭』の生放送を見ている。弔、今どうなってる? 弔、何をしたんだ? 弔、弔、弔……とあまりにもしつこいのでかなりイライラしていた。死柄木弔はモラル自体はしっかり理解している。自分の行動が『悪いこと』だと知ってやっているタイプの敵だ。なので、恩のある『先生』に頼られると無下に出来ずにある程度は要望を叶えていたが、最早我慢の限界である。
「つれないこと言うなよ、弔。一緒に見よう。彼女はきっと僕達の大きな障害に」
「だからだろ。集中できない。何が一緒に見ようだよ。見えてないだろ。ラジオなら音声だけで分かるようにやってるだろうからそっち聞けばいいんじゃないか」
『先生』は以前オールマイトに顔面を(自主規制)されて以来、視覚と嗅覚を失っている。聴覚も失っていたが、こちらは肌で音と振動を感知する〝個性〟を奪って補っている。一応視覚も『赤外線』という〝個性〟で補っているが、モニターは見ることが出来ない。ラジオを聞け、というのはぐうの音も出ない正論であり、半分『死柄木弔イライラパワー』の充電のためにやってた先生はそろそろ潮時か、と思った。
「しかたないな。エンデヴァーの息子と彼女の対決はしっかり見たい……聴きたいからね。終わったら
(クソうぜぇ……崩壊させてやろうか……)
顔面をガリガリとひっかきながら耳汚し以外の何物でもなかったオヤジギャグに殺意を燃やす。親しみを持ってもらおうとしたようだが逆効果だったようだ。『先生』が思うより遥かに早く『芽』は育っていた。保護者と一緒に自室でテレビを見る。死柄木くらいの年齢なら嫌がって当然だ。『親』が自室に居ることは、早ければ7歳くらいから嫌がるようになる。主な理由はプライバシーと自立心。ハタチにもなって今更芽生えはじめたそれ。先生はいつもの癇癪だと見なしマヌケにも兆しを見逃した。彼のやってた『教育』はただの経験則。今までやってた『人転がし』の応用にすぎず、子育てなどいまだかつて一度もしたことがない。本質的には死柄木弔の人格に関心がないから、気付けない。死柄木弔は一人で見たかったのだ。分かったつもりになってやっている『ごっこ遊び』の崩壊は遠からず訪れるだろう。
「さぁーいよいよ決勝だ! 雄英1年の頂点がここで決まる! 第一種目の最下位から這い上がってきた男! 轟焦凍! 対! ぶっちぎりの先頭を飛び続けた女! 新斗黎乃! 今こそスタートォ!!」
「言い忘れてた。俺はお前に勝つぞ、新斗」
「ボクは世界一愛されているっ! だから世界一強いんだッ!!」
バギン!! とステージ上を大氷壁が覆う。今轟に出せる最大威力の氷だ。本人を凍らせると言うより、押し出すためのもの。翼を出す前に場外に落とす。そういう目論見の攻撃でもあり、次のための準備でもある。
「最初は氷かー! ってことはまたアレをやる気かな?」
最初はグー、くらいの気軽な声色。どろっと氷が溶けてメスガキが出てきた。黒い帯が振るわれた部分の氷が一瞬で溶けて水になっている。爆発は起こらない。どのように〝個性〟をコントロールすればそのようなことが出来るのだろう? 次にやることは読まれているようだが構わない。背中に氷を出し、正面に炎をぶちかます。今度は意図的に勝つために行う、空気の膨張による攻撃。名付けて『膨冷熱波』だ。
「手加減無しでぶつけて来なよ! 愛の力を見せてやるッ!!」
爆風が起こった。クソ親父のアドバイス通り、持続的に炎を出し続けることで上昇気流を生み出し、爆風を軽減できたため、爆発は前回より大規模になったにも関わらず飛ばされた轟のダメージは少ない。しかし、彼女はノーダメージ。微動だにしていない。
「さぁ、もう全力は尽くした? 出来ることは全部やったかなっ?! ご両親に準優勝でしたって報告する覚悟は出来ているか!」
「いいや、まだだ!」
轟は空中に大氷塊を出した。物理無効と目されているが、こいつはミッドナイトに抱きしめられてうめき声を出していた。『荷重』なら違う反応を見せるかもしれない。地面と氷に挟み込めばどうだ?
「むぎゅっ」
やった! いや、大丈夫か!? あっさり効いたので轟はびっくりした。そして上から潰せたことでこいつの微動だにしない仕組みも見当がついた。攻撃が効かないことと、吹っ飛ばないことは別の能力によるもの。爆豪戦で見せたそれ。脚を固定していたのだ。相澤先生を防御した衝撃の軽減+身体能力+足の貼り付けで、ノーダメージを『演出』していたのだろう。地面ごとふっ飛ばして上から氷塊で押さえつければ場外にできる!
「てやぁーっ!」
気の抜ける掛け声とともにバキンと音を立ててメスガキに乗せていた氷が砕ける。
「ほら、もっといろいろ試しなよ! すべてを乗り越えてボクが勝つ!!」
先程の爆発でヒビが入った地面に氷を差し込み膨張させメスガキの足元を持ち上げ『膨冷熱波』を再び起こす。メスガキは地面と一緒に吹っ飛んだ。間髪いれずに氷を出し、再び押しつぶす。
「目の付け所はよかったよっ! 地面ごと浮かしてふっとばす! ボクの飛ぶ力を上回る荷重をかけて場外勝利! プランとしての完成度が高いねっ!」
浮いている。先程は氷に押しつぶされて呻いていたはずなのに、吹っ飛んだ先で空中に静止している。いつの間にか翼を出して浮かんでいるメスガキを支点にして氷がぐらりと傾く。
「たぶん準決勝で見せた粘着で吹っ飛ばないようにしてる、とか思ったんでしょ? キミの予想ははずれさ! 解説はまた今度ね!」
メスガキが翼を出すのはただの無駄行動である。ドラゴンの名前を叫んだり命令したりするのと同じ。「翼があるので飛べまぁす」という興行向けのアピールでしかない。自分自身に〝個性〟を浸透させておけば自由自在に動かせるし、その逆、つまり固定もできる。「吹っ飛びたくないなぁ」とメスガキが思っていれば動かないのだ。もったいぶった仕草で手を振ると、メスガキの身体からぶわっと〝個性〟が吹き出し、ワンパなドラゴンの形になった。
「レインボーアイズスターダストブラックドラゴン! 氷塊を持って上空へ飛び上がれ!」
轟にはけしかけず、氷を掴んでぎゅーんと上昇していくドラゴン。ガリガリと氷を噛み砕き全て飲み込み、ある程度の高さに行くと、口から霧のブレスを吐いた。良く晴れた5月の空に、虹が架かる。客席から歓声が上がった。
「レインボーアイズスターダストブラックドラゴン! アレをやるぞッ!」
何処かで聞いたようなセリフを言いながらメスガキがばっと手を掲げるとドラゴンが急降下してきてメスガキにぶつかる。
「レインボーアイズスターダストブラックドラゴンは単なる飛び道具じゃないッ! ボクの力を爆発的に高めるためのエネルギーだッ!」
まるで鎧のようにドラゴンを纏うメスガキ。一定の形にとどまらず時折揺らぐそれは炎のようにも見えた。
「
そう! 『
(まだこんな技があったのか……!)
轟はゴゴゴゴゴゴ……と大気が揺れているように感じ戦慄した。実際はメスガキが〝個性〟を駆使して重低音を出して轟に浴びせている。響香と障子にはそれが分かったが、障子はメスガキを大人として見守っているのでツッコミは入れなかったし、響香に至ってはメスガキが〝個性〟でこの音を出す練習を手伝っていた。まさかこんなしょうもない使い方をするとは思わなかったので最初は呆れていたが、轟の表情を見て考えを改めた。普通にビビって警戒してる……! じり……じり……って感じに後退りしている!
「マジでプロデュース徹底してんな……ウチももっと真剣に考えるか……」
「リノちゃんくらい強いとああいった分かりやすいヴィジュアルで怖がられないようにするのも大事なのでしょうね」
メスガキはかっこいいポーズというか、モーションをした。こう、「身体の内から力が溢れる……ウオオオオオッ!」って感じの動きだ。隙だらけだったが轟はカウンターをするつもりなのか、炎も氷も出さずに油断無くメスガキを見据えている。
「さぁ! ボクの愛と! キミの夢! どちらが勝つか! 次の一撃で決着と行こうじゃないかっ! ボクが勝ったら! キミはお父さんお母さんと仲直りしろッ!」
「!?」
轟くん、驚愕! お前それは……卑怯だろ! なんていうか……ズルい! うまく言えないがそうやって……何段階も飛ばすなよ! 天然な轟くんは完全にメスガキのペースにハマっている。そんなもん「知らん」で終わらせればいいだけだ。彼の事情など1ミリも考慮していない、メスガキの理想の完全なる押しつけ。ありがた迷惑のラインすら余裕で超え、ただひたすらに迷惑な条件。
(そんなのは……嫌だ……? ……嫌なのか……? 俺はどうしてぇんだ……?)
戦闘中にも拘わらず悩んでしまう。だって、そりゃあ、そうなったら良いよな。つまりあのマダオがきちんと反省して、お母さんに謝って、みんなで仲直り。お母さんが笑顔になって、家に帰ってくるんだろ。ご飯、作ってくれるかな。食いてえよ。冬姉もクソ親父のこといつも気にしてるから、きっと喜ぶ。夏兄は、どうだろう。殆ど喋ったことがないからわからない。そして親父も、かっこいいヒーローになってくれて。「俺のお父さんはあのエンデヴァーだ」って、飯田みたいに自慢に思えたら、どんなにいいだろう。
(でもそうはならねぇ。ならねぇんだ、新斗……!)
悲しい。本当はそうなって欲しい。温かい家庭ってやつを体験してみたい。羨ましいんだ、みんなのことが。そうか、俺は一番になったらもしかしたら……って思っていたんだ。クソオヤジのしょうもない野望が終わったら……叶ったら。もしかしたら……って。だから、一番になるのはイヤじゃなかったんだ。一番に、なりたかったんだ。
「俺が勝ったら……」
(勝ったら、なんなんだ? うちの家族の問題に口出しするな、とか? そんなもん、いちいち言わないといけねぇことなのか? ふつうは言われなくても口出ししねぇだろ……?)
メスガキは普通ではない。いや、偏差値79の難関国立高校に通ってる時点でそもそも普通じゃない。普通じゃない場所で普通に振る舞えるやつはむしろ異常である。尾白くんとか。マジすごいよなあの猿。辞退します! じゃないんだわ。エベレストより高いプライドをもっと評価してあげるべき。つまり、メスガキは異常な環境で異常なのだから普通である。
「そば……ざるそばだ。俺が勝ったらうめぇざる蕎麦を食わせろ。冷たいやつな」
“つい”とか“咄嗟”に出る言葉や行動、つまりそれが彼の本音だ。お腹いっぱい食べたと思ったが、足りなかったのかもしれない。粉ものは消化が早いので腹持ちがあまり良くないのもあるだろう。
「ふーん? ボクとのデートをご希望ってことか! 良いよッ! それじゃあ勝負だッ!」
「ああ、勝負だ!」
轟はデートを希望の方ではなく、勝負の方に了承したつもりだったが、デートを申し込んだことになってしまった。しかし、轟くんは本当に天然である。話に乗って条件を出し返したら、負けた時仲直りしなければならなくなるのを分かっているのだろうか? それとも反故にするつもりなのだろうか。そして、『膨冷熱波』も大氷壁も効かない。そんな状況で行うべき攻撃。必然、それはまだ試していないものとなる。すなわち、アクセルベタ踏みの炎だ。轟が全力で炎を放つと、ステージ上が焦熱地獄になったかのように煮えたぎり、会場が真夏のごとく暑くなる……熱くなる。
「ウオーッ!
ぶわっと炎を掻き分けながらメスガキが突っ込んでくる。危なかった、とか言ってるが身体的には全然危なくない。無傷である。しかし体操服は大部分が焼け落ちてしまったので、身体に〝個性〟を纏っていなかったら「しばらくお待ち下さい」になるところだった。決勝戦のめっちゃいいところで中断。暴動ものの放送事故の危機。なにげに今日一番のピンチであった。メスガキが〝個性〟を纏った脚でヤクザキックをかますと轟くんはすごい勢いで吹っ飛び壁に激突、する直前にいつの間に付けたのかメスガキの〝個性〟がクッションになり。ぽよん、とはずんでべしゃっと地面に落ちた。
「轟くん場外! よって、新斗さんの勝利よ!! おめでとう!! 良く頑張ったわ!!」
「以上ですべての競技が終了だ──ッ! 今年度雄英体育祭一年の部、優勝はっ!! A組! 新斗 黎乃だァ──ーっ!!!!」
歓声と拍手に包まれる会場。メスガキは〝個性〟を花火のように打ち上げてピカピカキラキラと光らせて会場を盛り上げた。
「それではこれより表彰式に移ります! 3位には爆豪くんともう一人、飯田くんが居るんだけど、お家の事情で早退になっちゃいましたのでご了承くださいな! それではメダル授与よー! 今年授与するのは~! もちろんこの人!」
「私が!」「我らがヒーロー!」「メダルを持ってきた!」「オールマイトォ!!」
ちょっとグダったが、奇跡的にタイミングが良かったので元々そういう予定だった感じになった。オールマイトは何食わぬ顔でムキッ!! とポーズをしてファンサービスした。観客は大盛りあがりだ。そして、彼が手ずから一人ひとりにメダルを掛け、激励とハグを行った。
「爆豪少年! 3位おめでとう! 成長著しい君の今後を、とても楽しみにしているぞ!」
「……ッス」
大人しくメダルを首に掛けてもらう爆豪。家に帰ったら、なんて言おう。負けちまった、って言えば良いんか? 分かんねぇ。ハグの時にも目をつむり黙っている。やっぱりそれがストイックに見えたので、会場から自然と拍手と歓声が起こった。
「轟少年! 準優勝おめでとう! エンデヴァーには私から少し言っておいたから! 君ならきっと、清算できるさ!」
後半は声を潜めて言った。そういう事できたんだね、オールマイト。でかい声で秘密を喋るのが趣味かと思ってた。
「え? あの……ありがとうございます……?」
まさか通用口にマダオが待機していたのはオールマイトに何か言われたからだったのか? とちょっと困惑する轟。彼は今日ずっと他人に情緒をぶんぶん振り回されていてかわいそう。仲直り……仲直り……と頭の中にワードだけが響いて何も考えられない。蕎麦食いてぇ……。
「新斗少女! 優勝おめでとう! 素晴らしいスポーツマンシップに感動したぞ! 私は殴ることしか出来ないから器用な君がちょっと羨ましいな!」
オールマイトの定番ギャグだ。自虐風自慢にしか聞こえないためあまりウケないがオールマイトはしつこくこのギャグを擦っているのでスベリ芸だと思われている。メダルを掛け、ハグしようかちょっと迷って握手をしようとするオールマイト。メスガキはオールマイトを逆にぎゅっと抱きしめると、すぐに離れてでかい声を出した。
「オールマイトっ! ボクの強さは分かってくれましたか? いつでも引退して良いんですよ! もう歳でしょ!!」
会場が静まり返る。オールマイトの引退。そのようなことは、考えたことがなかった。たしかに年齢というか、活動期間的にいつ引退してもおかしくない状態ではある。というか引退していない現状がおかしいとすら言える。しかしそんなふうに思ったことはない。永遠に自分たちを守り続けてくれるような気がしていた。黎乃は大げさな身振り手振りをしながら続ける。
「戸惑うな民衆よッ! 新時代を齎すボクを見ろッ!!! 声を上げろッ! ボクに聞こえるまでッ! 不満を叫べっ! ボクに届くまでッ!!」
〝個性〟かよ、ってくらいの大音量が会場中に響き渡る。誰ひとり声を発しない。
「今日、世界がボクを知った! 安心しろッ!! 今この時より世界は変わり始める!今日よりちょっといい明日が来るッ!!」
ぎゅっと何かを掴むような仕草をし、すこしだけ時間をおいて、言った。
「必ずそうなる! ボクがそうするッ!! ……ご清聴ありがとうございましたッ!!」
誰よりも早く我に返ったのは、やはり彼だった。
「HAHAHA! これは頼もしいな!! 会場の皆さん! ご覧の通り、次代のヒーローは既に芽吹いている! 競い合い、高め、更にその先へ! 必ずや至るだろうッ!」
オールマイトの力強い声に、ようやく会場はどう受け止めるかを決めたようだ。「あ、オールマイトがそういう反応ってことは、喜んでいいやつなんだな!」ということである。会場は大歓声に包まれる。
「てな感じで最後に一言! 皆さんご唱和ください! せーのっ!」
「"
「明日明後日は休校だから、しっかりと休んでおけ。指名なんかは休み明けにまとめて発表する。そんじゃあみんな、おつかれさん」
ぎぃっと軋む金属の門をおしやり、古めかしくもそれなりに大きな邸宅の玄関のカギを開け、家に入るなり黎乃はハイテンションに叫んだ。
「たっだいまーッ!! お父さーん! お母さーん! あなた達の自慢の娘が、今! 帰ってきましたよーっ!」
黎乃がリビングに駆け込むと、いつもと変わらぬ笑顔で迎えてくれる両親。可愛い娘が無邪気に喜ぶ様子に、愛情たっぷりの笑顔を向けている。
「優勝したんだよ、優勝! 雄英体育祭で! これメダル~! またいつものところに飾っとくね!」
返事はない。可愛い娘が喜ぶ様子に、愛情たっぷりの笑顔を向ける男女。黎乃の父と母。そして二人の間には、とても可愛らしい、幼い女の子が立っている。自分が家族に、そして世界に愛されていると一切疑っていない、天真爛漫な笑顔だ。そしてそれは、成長した今も変わらない。
この家は、愛する家族との思い出がたっぷり詰まった、最高の場所だ。何処で過ごしても、両親のことを思い出せる。彼らの愛に包まれていると、実感できる。
「響香ちゃんにねぇ、教えてもらったんだぁ。友達と戦うのは嫌がってもいいけど、勝たせてあげるのはダメなんだって! 知ってた? えへへ、お父さんとお母さんは立派な人だったから知ってるよね!」
悲しみはない。両親の言葉はすべて覚えている。今もなお、その言葉の一つ一つが黎乃の胸の内に力強く息衝き、彼女に無限の活力を与えている。
寂しさはある。新しい思い出は作れない。また共に過ごせたらどんなに素晴らしいことだろう? その望みは、どれほどの強さがあろうとも、決して叶わない。
「お父さんとお母さんにもらったこの恵まれた身体と〝個性〟が今日もボクを守ってくれましたっ! ありがとうございますっ! 怪我一つ無いよ、安心してね」
安心。大切なものだ。ぐっすり眠ることが出来なければ、どうして他人を思いやれるだろうか?
「今日もまた一歩、夢に近づいたんだよっ。これからもあなた達の自慢の娘であれるように、頑張りますっ! 見守っていてくださいっ!」
彼女にとって世界で一番安心できる自宅で、両親に良い報告ができることは、何よりの喜びだった。
独自設定とか
・おいどっかで見た戦法やんけ:プロか?何年目だ?(褒め言葉)
・体育祭のファン:電車とかで話しかけてくるよ。
・柳さん:勝手に触られたの怒ってるけどあとにしてあげる優しい娘。チャラにはしない。
・こういう小技も出来るんだよ:頭から抜けてたよねっ。
・初見じゃ負けてた:原作だと騎馬戦で体感も出来てたけどここだと遠くから見ただけ。
・メスガキック:実は蹴ってない。そっとあててぐいっと押してる。
・ナースリノちゃん:ハンソーロボより丁寧。物間の物真似かな(笑)
・負けたんスか?:タフを超えたタフ。
・かっちゃん:16歳だから。
・かっちゃんママ:子どものいないところではホラ、分かるでしょう?
・あの時:某インターン。
・子供部屋弔:昔読んだときはなんとも思わなかったけど今見るとホラー。
・死柄木弔にモラル:セリフ見てると感覚自体はまとも。
・肌で聞く個性:クリリンには鼻がない。梅干しおじさんには口しか無い。
・ラジオ放送:ヒロアカ世界でもラジオ文化は生きてる。NHAラジオ。
・オヤジギャグ:AFOはそんな事言わない。
・
・ゴゴゴゴゴゴゴ:ドドドドドドドも練習している。
・轟くんち:幸せ家族になれるのか?
・メスガキの服:いつものゴスロリで表彰台に立ってる。
・おっさんのお茶会:お互いの事をちょっと話した。
・もう歳でしょ:オールマイト!戦え!戦い続けろ!正しき社会のために!!
・プルトラ:象徴スイッチ入ってたので。
・リノちゃんち:シュレディンガーの実家が観測により幸せ家族だと確定しました!
・痛みなんて分からねぇってか:発想自体出ねぇもんなあ?