ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「おはホーリー♡今日から1週間ボクに会えなくて可哀想なみんなー! 落ち込むなッ! また会える! それまで元気でねっ! ホーリーナイトとのお約束だよっ!」
不発弾が掘り返されて大爆発したかのような例の沈黙から明けて翌週の月曜日。くっそしょうもない絶対に流行らない感じの挨拶をしながら珍しく朝早く入ってくるメスガキに、クラスメイトは手を振ったり「おはー」みたいな乗る気のない挨拶を返した。メスガキの言う通り、今日から1週間は職場体験で離れ離れなのでちょいちょい湿っぽい会話もあるが、まぁ概ね楽しみにしている雰囲気だ。メスガキが教室に入ってくる少し前、飯田・麗日・緑谷のいつもの仲良しメンバーが3人で会話していた。
「飯田くんはやっぱりインゲニウムの事務所になったんやね!」
「ああ! 先方も色々と忙しい状況だったが……こう言ってはなんだが、俺ならば、ということで特別に許可をもらえたよ」
「後を継ぐってやっぱり一流サイドキック集団の『チームIDATEN』ごと引き継ぐんだよね!? 良いなぁ! ……あっ!? ご、ごめん飯田くん……!」
「何を謝ることがある! 兄のこと、吹っ切ったとはまだ言えないが……気を遣われ、触れられないほうが俺は辛い! 今でも変わらず自慢の兄とその仲間なのだから、いつものように俺すら知らないような兄の話をしてくれていいぞ!」
「飯田くん……! あっ、新斗さんおはよう! その挨拶は流行らないと思うよ!」
飯田の言葉に感動していた様子だったクソナードは、メスガキが教室に入ってくると早速ヒーローオタクとしてプロヒーローに向けるような厳しい目線で評価した。最早彼女を候補生だから甘く評価しようなどと思うものは居ない。甘ったれで温厚なクソナードですらプロ入りを既定路線と考えオタク視点で見ている。そう、この挨拶は流行らない。流行らない! 新人類用の挨拶は旧人類に受け入れられないのだろう。
「流行らせるんだよ! こういうのは挨拶自体のキャッチーさより誰が言うかが大事なの!! ボクが人気者になれば自然と流行るんだよッ!」
メスガキは自信があるようでドヤ顔で言い放った。まぁたしかにそういうところはある。『私が来た』とかも言葉自体よりも誰がどんなシチュエーションで言ってるかで流行っている。
「リノちゃんは職場体験は何処に決めたん?」
麗日は絶対に流行らないクソ挨拶にミリも興味が無いようでさっさと話題を切り替えた。彼女はかなりの笑い上戸であるにも関わらずクスリとも笑わずもうすでに記憶から消去されている。
「ボク? ホークスのとこ~!」
「ホークス!? 史上初の10代でのTOP10入りをはたした最速ヒーロー! 今年のチャートでNo3にまで登りつめた速すぎる男! 事務所は福岡で行きつけの店は水炊きが美味し」
「そう!! そのホークスだよ! ボクのお母さんの故郷が福岡だから久しぶりに行きたいな~って思って!」
クソナードは好きに喋らせると永遠に喋っているのでほどほどのタイミングでぶった切らなければならない。メスガキはホークスのプライベートな情報などミリも興味がない。福岡に行く理由としてちょうどよかっただけだ。ホークスが雄英体育祭で指名してきたのは初めてらしく、たまたま提出書類を見に来たミッドナイトが随分と心配していた。まだ若いホークスに指導力まで期待するのはどうかだとか、チャートのNoより自身の〝個性〟に関連した物質操作系の事務所が良いとか、なんなら私が雄英でマンツーマンでプロのイロハを教えましょうかとかベタベタしてきてメスガキも乗り気だったのだが、相澤が「俺の生徒を甘やかさないでください」と半ギレしたのでおじゃんになった。
「えぇ……飛び方を習うとかやないんや……」
「ホークスから教わる機会とかあるかなぁ? ボクとしてはどちらかというとサイドキックの人たちの苦労とかを見たいんだよね!」
「なるほど、そういうことか!」
「え? 飯田くんは何が分かったん?」
「新斗さんがプロになったらきっと色々飛び回るから、サイドキックと足並みが揃わないかも、ってことじゃないかな? ホークスの事務所なら確かにそういう苦労してそうだし」
クソナードはようやく自分の世界から帰ってきたらしい。こいつの思考は頻繁に異世界に行くのでもしかしたら転生者か何かなのかもしれない。
「そーゆーこと! その時に注意すべきこととか~裏方の人たちの苦労とか~今のうちに見ておかないとねっ!」
「ほぇ~……もうプロになったあとのこと考えとるんやね……」
「緑谷くんは何処にしたの?」
「あ、僕はグラントリノっていうヒーローのところに行くことになったんだ」
「えー? ボクのファンなのかなそのヒーロー」
「え?」
「え?」
「おっと、そろそろ時間だな! 席につこう!」
「は~い!」
メスガキの自己肯定感はどうなっているのだろう。時間軸の認識がバグっている。友人たちはもう慣れたものだ。いちいちツッコミを入れていると全く話が進まない。
「おはよう。それじゃ今日はHR飛ばして駅までバスで行くぞ」
相澤がスイッチを押すとガゴゴって感じで
「全員
「はーい!」
生徒たちは相澤の指示に従い、決して走らず急いで歩いた。もちろんそれは駅についてからも変わらない。希望に満ちた表情で全国各地へ移動する生徒たち。メスガキの目的地である福岡は雄英からだとクソ遠い。というか地元から行ったほうが近いので直行したいと相澤に言ってみたがダメだった。本来は保管されている
「せんせ~! いってきまーすっ!」
「ん? まだ居たのか。はよいけ」
「……せんせ! 行ってきます!!!!」
〝個性〟かよってくらいクソデカボイスだ。メスガキはにこにこと返事を待っており、梃子でも動かないぞという強い意志を感じる七色の瞳で相澤をじっと見つめた。
「……ああ、気をつけて行って来い」
相澤先生はやさしい。メスガキのおねだりに結局応えてしまった。ああ、不合理だ。世の中はどうしてこんなにうまくいかないことばかりなのか。
「は・か・た・の・え・き!!」
最新型の超電導リニアに乗っておおよそ2時間半ほど。JR博多駅のホームに降りるなりメスガキはでかい声でわめいた。OLらしき女性や売店の店員がクスクスと笑っている。
「あー! あの娘、雄英の娘やない? 体育祭で優勝しとった娘やん!」
「えーマジ? マジやんか! 優勝した娘がおる! ねーねー握手してぇ」
でかい声で喚いたせいで、注目を集めてしまいその結果メスガキのことを知っている人間に見つかってしまった。一体何をやっているのだろう。馬鹿じゃないの?
「わぁ! あく、握手! ……もちろん良いよっ! 一生の自慢にしてねっ!」
「あはは! 分かった~! 一生自慢にするけん写真も撮らせて!」
「どんとこいっ! あ、でも行くところがあるからあんまり長くは居られないんだ~! ごめんねっ!」
「何処に
「ホークスの事務所で職場体験だよ~! 場所知ってる~?」
「お~! 未来のトップヒーローは学生ん頃からトッププロと関わるんやねぇ。もちろん知っとーよ! こっちこっち!」
「場所教えてくれるだけで良いよっ! 何処かに行く所だったんでしょ?」
「キャナルに行く予定やったけど~こっちのほうが楽しそうやけん!」
「ね! もしかしたらホークスにも会えるかもやし! 案内ありがとう、なんて言われちゃったりして、きゃー!」
ノリノリのギャル二人ときゃいきゃい話しながらホークスの事務所まで案内してもらうメスガキ。ホークスの事務所に到着する頃にはすっかりと打ち解けて楽しく会話していた。事務所へは到着の予定時刻を伝えていたので、当然ホークスは待機して……居なかった。
「あーん! やっぱり
「いっつもあちこち飛んどぉもんねぇ。残念! それじゃあ、ホーリーナイト! 職場体験頑張ってねぇ! 応援しとぉよ!」
「ありがとう~! 世界をもっと良くするホーリーナイトをこれからもよろしく~!」
ギャル二人はホークスのサイドキックにお礼の粗品(ホークスストラップ付きボールペン)を貰ってウキウキで帰っていった。帰ったっていうかキャナルシティ博多へ向かった。
「いやぁ、申し訳なかねぇ。ホークスは今近所に出た敵を捕まえに行っとうけん、しばらく待っとって。飲み物
事務所に待機していたサイドキックのヒーローに勧められ、ゆったりとしたソファに腰掛けるメスガキは、ピシッとした姿勢で飲み物を固辞した。
「お気遣いなく! ボクはお客様としてきたつもりはありません! 新人が来たと思って扱ってください!」
「おぉ……さすが雄英の一番。しっかりしとぉね。親御さんの育て方が良かったんやろねぇ」
「!! えへへ、そう言っていただけると嬉しいです!」
ハッピーハッピーって感じの笑顔になるメスガキ。サイドキックのお兄さんも思わず笑顔になる。テレビで見たより可愛いな~とかうすらぼんやりしたことを考えているようだ。
「そしたらホークスが帰ってきたら書類作るけん、隣で見てもらおうかな。最初は見るだけで良かばい」
事務所にいるときは事務員がいるのでサイドキックでもある彼が作る必要はぶっちゃけない。来客のためにホークスの次に役職が高い彼が残っているだけで、普段ならホークスと一緒に事件解決に出向いている。ホークスが後進育成にはあまり意欲がないのを知っているサイドキックは、自分がしっかり面倒を見てあげよう、と思った。
「かしこまりました! よろしくお願いしまぁす!」
「そげん固くならんで良かよ。ウチはフランクな事務所やけん、新人言うならもっと楽にしぃよ」
「いいとぉ~? したらホークス来るまで気軽ん喋るけんよろしく~」
「うん? こっちの人やったん? 言うてよもぉ~。どのへんなん?」
一気に親しみを持ったらしいサイドキック。九州人はジモティじゃない人間に冷たいと良く言われる。これは一面で真実である。ただ、よその人間に冷たいというより九州人にだけ異様にあったかいと言ったほうが適切だ。もちろん彼はヒーローであり、かつ来客対応をしていたので丁寧で親しみのある態度だったが、そこからさらに柔らかな態度になった。
「母の故郷がこっちの方っちゃんね! 普段はこういう喋りやないっちゃけど折角やしお母さんのマネ!」
「ただいま~。お、来てるじゃん雄英の子。よろしく~」
ホークスが羽ばたきながら窓……出入りできるように巨大に作られた窓から帰ってきた。メスガキはソファから立ち上がり、ペコリと頭を下げて挨拶をする。めちゃくちゃよそ行きの態度である。
「雄英から来た『ドリームヒーロー ホーリーナイト』ですっ! 一週間よろしくお願いします!」
「……もっと尊大な娘かと思ってたけど礼儀正しいんだね」
優勝の時の演説のイメージだろう。オールマイト、引退して良いよ。もう歳だろ? こんな事を言う人間は今まで一人も居なかった。野心家で自信家。そのような人物が来ると思っていたのだ。
「めっちゃいい娘やけんいじめんでねホークス。したらこっちおいで、ホーリーナイト。まずここの棚に書類が直してあるけん取り出して……」
ちなみに『直す』とは九州地域の方言で片付ける、仕舞う、という意味である。ややこしいね! 何も壊れてねーよブラックモンブラン食ってろ。ブラックモンブランはたまに食いたくなる魔性の魅力がある。
「え? ちょっと何してるの。職場体験に来たんでしょ?書類なんかより見たいものがあるんじゃない?」
「? 今見せていただいてますけど? ふむふむ、テンプレートがしっかりあるんですねぇ」
「そやね。慣れたらすぐ書けるけんやれそうと思ったら言っちゃってん。あ、あとでお世話になっとる警察ん人にも紹介しちゃるけん。ヒーロー言うても警察ん人と連携せんとしっかり動けんけんね」
かわいいJKと喋りながら普段やらない仕事をするサイドキックに釈然としないものを感じながら端末でHNを開き福岡の事件を検索するホークス。1位の女子に指名を出してみたら色よい返事が来たので、てっきりもっと自分に絡んでくるかと思っていたホークスは拍子抜けである。ここはビシッと速すぎる男の速すぎる所以を見せてやろう。ホークス22歳。まだまだ女の子に良いところ見せたいとか思っちゃうお年頃である。もうすでにどちゃくそモテてるくせに満足してないらしい。帰って来るのがもうちょっと早ければホークスのことを大好きなギャルが二人メロついてくれたのだが……。早速遅れをとっている。
「お、事件発生。薬院で敵が暴れてるらしいです。行きますよー!」
「了解! ホーリーナイト、ついてきてね。ホークスは速すぎるから俺らん仕事はほぼ後始末んなるっちゃけど、事後処理のコツとか教えちゃるけん」
「はーい! 余すこと無く糧にさせていただきまぁす!」
一体どうなっちゃうの~!? 答えは即解決。交通事故を起こしたことでヤケになって暴れていたカスみたいな
「ホーリーナイトは飛べるんだから俺についてきてもいいんじゃないの?」
「なんでオレに言うと? 本人に言いぃよ。この娘がこっち方面学びたいって言いよっちゃけん教えちゃらんと」
「ホーリーナイト。俺といっしょに敵退治したいよね?」
「…………そうですねっ! ぜひお願いします!!」
「気ぃ使わせとるやんNo3」
「本当に言うとは思いませんでした。サイテーですよ。パワハラじゃないですか」
「No3の手腕を近くで見せてもらう良い機会ですからっ!」
「あーあーホークスがおると敬語でしか喋ってくれん」
「終わったらご飯食べに行きましょうね。奢りますよ」
「何JKナンパしてるんですか彼女いるでしょチクるぞ。まぁじゃあ今日上がったら歓迎会にしましょうか。ヨリトミ行きましょヨリトミ」
「当然ホークスの奢りやんな?」
「経費で落とせるでしょ?」
なんだかしょうもない綱引きが始まった。ホークスの事務所は当然アホほど稼いでいるので経費で落としたほうがお得なはずだがホークスに奢らせたいようだ。みみっちい嫌がらせである。仲がいい証拠と言えなくもない。
「ん、また敵出ました。大濠公園です。ホーリーナイト、ついて来てください。ここの事後処理はよろしくでーす!」
「了解ッ!」
「よろしくお願いしまーすっ!」
「りょ。ホーリーナイト頑張ってな」
ホークスはメスガキが付いてこられるようゆっくりと飛んであげる……わけがない。余裕を持たせなければ対応力が下がるため全速力でこそ無いものの、特に加減などはしない。救けを求める人の元へ向かうのに手抜きなどするわけがないのだ。体育祭で見た速度では追いつけないはずのそれに、メスガキはいとも容易くついてきた。
「思いっきり空を飛べるのって気持ちいいですねっ! 早くヒーロー免許欲しいな~!」
ごうごうと吹く向かい風の中でもその声ははっきりと聞き取れる。『剛翼』の〝個性〟で音……空気の微細な振動をキャッチしているからだ。
「あー、俺にも普通に喋ってよかよ。こっちの人なんやろ?」
ホークスはメスガキが敬語だったので独り言ではないと判断し、返事してみた。通常なら会話など成り立たないロケーション。そのはずだ。
「いえ、地元は別です! 母がこちらの出身でしたので分かるだけですよっ! 仲良くなれるかな、って思って真似っ子です!」
「そげん言うけど随分自然に喋っとったやん? こっちの人にしか聞こえんよ」
どうやって聞き取っているのだろう? ホークスはサイドキックとは飛行中でも連絡を取れる。ヘッドホンが骨伝導により音を送受信できる特殊なサポートアイテムになっているからだ。しかし彼女はこっちの声をあの〝個性〟でどうやって聞けるのか。とはいえもう時間切れだ。そろそろ現場につくので思考を切り替える。
「それじゃ良く見てて。かっこよく着地して目を引くから。バカバカしいと思う? でもこれが結構重要なんだよね」
注目を集める。敵が既に暴れている場合、これはかなり重要になる。少しでも被害を減らすために、とにかく手を止めさせないといけないからだ。ちょうど言い切ったあたりで現場の上空に到着し、ホークスが大きな声で自身に注意を向けさせる。かっこよく着地する、などと言い切ったくせにホークスは着地前に
「ホークスー! もう着いたのか! はやい!」
「きた! ホークスきた!」
「もう勝負ついてる! かっこいいな~あこがれちゃうな~」
住民たちは大歓迎ですぞホークス社長! 実際ホークスは本当に速いし、そのうえ速いからといって雑ではなく、丁寧な仕事ぶりだ。地元民はホークスこそが最高のヒーローだと心から思っている。
「やぁやぁみんな、怪我はない? すぐうちのサイドキックが来るからなんかあったら気軽に相談してね~」
「ホークス! 横の女の子ってもしかして!」
「おっ。お目が高いねぇ~。そう、今年の一年生体育祭で優勝した娘がうちに職場体験に来てまーす! さ、自己紹介して」
「ご紹介にあずかりました! 雄英高校1年生、見習いヒーローのホーリーナイトでーすっ! 福岡の皆様にもご安心いただけるよう、精進してまいりますっ! よろしくお願いしまーす!」
信頼するホークスからの紹介ということもあって、住人たちは口々に温かな応援と激励をメスガキに向け、メスガキはちょっと照れくさそうなドヤ顔でそれに応えた。
「まぁまぁだな。俊典もちったぁ教師としてやれてるらしい。ま、俺の教え子なんだから当然っちゃ当然か」
「ご指導ありがとうございます……」
雄英から新幹線で45分の距離にある、グラントリノ事務所。クソナードはそこでボッコボコにされていた。まぁ取り敢えず模擬戦な、ということでいきなり始まったそれ。日々の筋トレでフルカウルの出力はジワ上がりしており、現在は6%くらいだろうか? 最近は100%を出していないので認識が曖昧になっている。自然に出せる分で動く、それだけを徹底して行ってきたため、細かい数字は把握していないのだ。そもそも「何%出そう」という考え方を辞めたのもある。というより、そういう事を考えていること自体がコントロールを阻害しているので、つい考えてしまう自分との戦いとも言える。
「指導なんて大層なもんじゃあない。今はとにかく身体に馴染ませる、その方針には俺も賛成だ。だからこうやって実戦形式で思考の隙を奪うわけだな」
グラントリノは唐突にキックを繰り出す。クソナードはギリギリ反応し、ガードしたが、ふっ飛ばされる。
「良くガードした。だが、今のはお前でも回避できる速度だった。分かるか? 『常在戦場』だ。いつ何時、事が起こるかわからない。緊張している必要はない。むしろリラックスしろ。だが、常に頭の片隅に残しておけ」
「はい!」
なんだかとっても師匠と弟子っぽいやり取りだ、とちょっとワクワクしているクソナード。いい傾向ではある。常に緊張していては、最高のパフォーマンスは出せない。気を緩めるのではなく、リラックスする。戦いに身を置くと難しいことだが、だからこそ基本にして奥義とも言える心構えだ。オールマイトの指導とはあまり似ている感じはしないが、こうやって育てられた結果オールマイトのようになった、と言うのはすごく分かる教えだった。
(だから笑顔なんだ。常に張り詰めていては象徴足り得ない。オールマイトがなんであんなにジョークが好きなのか、分かった気がする)
性格的なことももちろんあるだろうが、彼は意識して笑顔を浮かべている。怖いときほど、不安なときほど笑うこと。それこそが、恐怖や不安と戦う力になる。そしてそれを、周りにも分け与えるのだ。
(最初はどうなることか不安だったけど、蓋を開けてみればすっごく充実してる!)
グラントリノはとっても「師匠!」って感じで、なんだか昔妄想していたヒーローに近づけていっている感じがたまらない。扉を開けたときの耄碌クソボケジジイぶりからは考えられない。しかし今思えばあれは擬態だったのだろう。緑谷の反応を鋭く観察していたのだ。グラントリノは古いヒーローで、現代のヒーローとは考え方や姿勢が根本から違う。扉を開けたら
(耄碌したふりをして油断を誘ったんだ。実際僕も完全に騙された。隠居したなんてとんでもない。この人は今でも戦っている!)
ヒーローオタクのクソナードは不謹慎だとわかりつつもどうしてもカッコイイと思ってしまう。現実感がない訳では無い。ご老人が今もある種のトラウマとでも言えるような行動をしていることに痛む心がある。それをなんとかしたいと思う優しさがある。しかしそれと同時にやっぱり彼はヒーローが大好きなのだ。
「正直言って君のことは好きじゃない」
「は? じゃあなんで呼んだんだよ」
「逆に聞こう。君はなぜ来た? 当ててやろう。君に来た指名の中で私が一番人気があったからだろう」
爆豪は押し黙る。その通りだ。職場体験などどこでも良かった。オールマイトの事務所に行けるなら選んだだろうが、彼は今雄英で教師をしているのだ。つまり彼の教えの機会を減らして外に出るのイミフ、というのが爆豪の素直な気持ちで、決定事項に逆らっても無駄なので渋々選んだのが指名の中で一番チャートの順位が高い『ベストジーニスト』の事務所だったと言うだけだ。
「私は君のような跳ねっ返りを矯正するのが大好きでね。勝ちたいんだろう? あの頂点の彼女に」
「!!」
「学ばせてやる。ヒーローとはなんなのか。私は今年のNo4だが、上から数えて4番目に強いわけではない。言っている意味がわかるか」
ベストジーニストは戦闘も非常に強い。しかし彼の言う通り、プロヒーローで4番目に強いかと言うとそうではない。というよりも、向かい合ってよーいどん、などという戦闘はそもそも現実だとなかなか無いので、状況次第で強さが変わると行ったほうが正しい。
「へぇ……その秘訣を教えてくれるってのか?」
いきなり好きじゃないとか言われてちょっとイラッとしていた爆豪だったが、ようやく興味のある話題になってきた。そう、チャートの順位。爆豪はこれがとっても大好きでめちゃくちゃ興味がある。周りには興味のない素振りを見せているがただのポーズだ。そういうの気にしてるのってカッコ悪いじゃねえか。つーか気にしてねえのに高順位なのがカッコイイんだろうが! オールマイトみてえによ! 分かるよ。分かるけどそういう思考自体はカッコワルイ!! しかも別に隠せていない。「隠しているみたいだけどあいつ興味津々じゃん」って爆発的にバレている。ちゃんと皆とコミュってないから爆豪はそれに気づいてない。初対面のベストジーニストにも一瞬でバレているレベルなのに隠せていると思っているのは大変おめでたい。
「いいや。教えない」
「はぁ?」
「言っただろう。学べ。私は君を矯正する。それは教えではない。しかし、君ならば学べるはずだ。違うか?」
「まどろっこしいこと言いやがって……いいぜ! やってみろや!!」
見え見えの挑発にあっさり引っかかるかっちゃん。彼は賢いが単純である。ベストジーニストにとっては掌でコロコロ転がせる程度のイノシシだ。だからもちろん爆豪がブチギレて話を聞いてくれなくなる地雷ワードも分かっているので言わない。体育祭の指名は2名まで出せる。そう、ベストジーニストは爆豪ともう一人、メスガキにも指名を出していたのだった。あわよくばどちらも来てほしかったが、考えようによっては一人に集中できるとも言える。爆豪は気づいていないが、トップクラスのヒーローが一人の学生に熱心に手ずから指導をすると言うのは、非常に貴重かつ幸運なことであった。
「用事ってなんだよ黒霧。くだらない内容だったら殺すぞ」
ここはとある地区の隠れ家的バー。黒霧に命令して出させたコーラフロートをタダ飲みしながら五指が当たらないように頬杖を突く死柄木。殺すぞと言ってはいるがまぁまぁリラックスしている。
「重要な用事ですからご安心ください。あの方からなんと『ヒーロー殺し』をご紹介頂けました。大物ですよ」
「紹介? 俺のPTメンバーに、って話か? 別に会う必要ないだろ。必要になったら命令出すから待機でもさせとけ」
ヴィラン連合の初仕事は大失敗に終わった。オールマイトブッ殺し隊だったのに負けるを通り越して戦闘すら出来ない始末。故に今度はちゃんと精鋭を集めよう、ということで仲間探しをしていたのだ。死柄木は何もしておらず、指揮をしているのは先生で、実際に動いているのは黒霧だが。
「いえ、会う機会を作れそうだ、という話です。交渉は貴方がするんですよ、死柄木弔」
「……まぁ俺の仲間なんだからそりゃそうか。分かった。今からやるから呼べ」
だいたいこういう話は渋りがちな死柄木がいきなりやる気だ。黒霧はちょっとあせる。怒らせたくないので重要とは言ったが、ただの進捗報告というか、意向の確認のつもりだったからだ。
「え? 今からですか……? 先方の都合もあるのですぐになるかは」
「うるさい。行け」
「はい」
可哀想な黒霧。全方位からあれをやれだのこれをやれだの命令されてあっちこっちへワープしまくっている。彼の〝個性〟が非常に便利なせいもあるだろう。もっと言うと、このようにクッソ便利なレア〝個性〟を持っているからこそ使い倒され、その結果練度が上がってさらにこき使われることになっている。おかしい……これは別の人間に押し付けるはずのポジションだったのに……。思考の何処かでそんな事を考えながら彼は今日も伝書鳩をするのだった。
独自設定
・飯田くんの体験先:体験っていうか引き継ぎの手伝いというかとにかく身内だからこそ行けた。行けたっていうか何度も出入りしてるけど……。
・流行らない:こいつはホーリーナイトの挨拶。流行らない。
・常闇くん:原作の理由が8割消えてるから……。厨二病ヒーローんとこ行ってる。
・転生者:No1ヒーローから貰ったチート能力で無双する件について ~幼馴染が謝ってきたがもう遅い~
・グラントリノ:グラン・トリノなのでメスガキとは関係ない。
・雄英に集まってる:多分こんな感じかなって。
・はっかったっのっしお:伯方の塩は愛媛の塩です。
・ホークス事務所:どこにあるか分からんけどまぁ天神のどっかじゃねえかな。
・キャナルシティ:ヒロアカっぽい地名とか施設とか考えようかと思ったけどオリ名詞増えるとだるそうだから止めた。
・サイドキックのお兄さん:原作にも居た人。ツクヨミくんキバるなぁ!の方。
・フランクな事務所:多分……ホークス若いしサイドキックのほうが年上な気がする。
・JKナンパ:ただの軽口。メスガキは顔はハイパー可愛いけどちっこいのでガチ恋はあまりされない。歳上の女にはクッソモテる。
・サイテーですよさん:なんか黒い方のサイドキック。
・クソナード:暇さえあればバリバリしてる。息をするように発動するのが現在の目標。
・押し付けたいポジション:待てその分担は俺がすげー苦労するやつだろ。