ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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メスガキは無敵なので今後も戦闘シーンはあっさりです


『始めは全体の半ばである』

「轟くーん!」

 

 〝個性〟かよってくらいのクソデカボイスを空に響かせながらメスガキとホークスとドラゴンが空から降りてくる。エンデヴァーは接近に気づいていたのでちょっと険しい顔をしているが、轟はぎょっとして空を見上げた。彼は情緒が幼いため空から女性が降りてきてもついヒラヒラするスカートに視線が行ったりはしないので、メスガキのシュレディンガーのパンツは観測できなかった。マダオはドラゴンをじっと見据えている。

 

「……新斗。なんでここに」

 

「エンデヴァーと仲直り出来たんだねっ! 良かったぁ!!」

 

 降り立つなりメスガキは轟に近づき両手をぎゅっと握りくるくると回りだした。轟がちょっと足がもつれそうになりながらもなんとかメスガキダンスについていくとメスガキは楽しそうな顔で言った。

 

「あはは! 左右で温度違うの面白いねっ!」

 

(まずい。戸惑ってるうちに話が変わっちまった。仲直りなんてしてねぇって伝えないと)

 

「新斗。俺とエンデヴァーは……」

 

「うんうんっ!!」

 

 キラキラした七色の瞳。輝かんばかりの笑顔。何もかもが上手くいったのだ、と信じ切っている弾んだ声色。

 

「……まだ仲直りしている途中だ。わりぃ……」

 

 玉虫色の回答。嘘を吐くのもどうかと思ったし……つまり、一応その気がないわけではない。まだ出来ていないだけと言い張ることは出来る。メスガキは轟の返答にきょとんとした表情をした。

 

「なんで謝るの? 轟くんは仲直りしよう、って思って実際にそれを始めたんだよね! 物事はねぇ、始めるまでが半分で、終わらせるのが残り半分なんだよ! つまりもう半分達成してるってこと!」

 

「……おぉ……? そうなのか……そうか、もう半分仲直りできてたんだな……」

 

 轟くん、素直! メスガキのポジティブマインドにちょっと圧倒されたようだが、実際にやり始めるのが大変、というのは轟にとっても覚えがあったので今までのメスガキ語録とは違ってすっと入ってきた。

 

「そうだよっ! 轟くんの頑張り次第でこれから幸せ家族になれる! いや! 君が! 君こそが!! その理想を現実にするんだ!! 君なら出来るっ!!」

 

「……そう……だな……その通りだ」

 

 轟の胸に湧き上がるものがある。まだどこかでエンデヴァーに……父親に甘えていたところがあった。「幸せにしてもらおう」としていた。だが、マダオにまかせていてはしょうもないカップル計画しか出てこない。なりたい未来は、そうであってほしい理想は己の手で掴むべきだ。

 

 ──勇気とは恐れを知らないことではない。恐怖に立ち向かうことだ──

 

 尊敬する相澤先生の言葉。出来ないかもしれない。ならないかもしれない。一人では成し遂げられない。だがそれを成すのだと、決める。これから先どう生きるのかを、決断した。

 

「ホーリーナイト。ショートくんにチームアップの話はしてくれました? こっちは詳しい話は昼にメシでも食いながら、ってことで纏まりました。二人も一緒に食べますよね」

 

 メスガキが轟とわちゃわちゃしている間にも速すぎる男は話を纏めていたようだ。険しい顔をしていたエンデヴァーはメスガキと息子が手を繋いだまま喋っているのを見るとふっと笑った。息子と娘(予定)が仲よさげで嬉しかったのかもしれない。まぁエンデヴァーもカップル、というのは飛躍し過ぎなのは分かっている。重要なのはショートが信頼されるヒーローになることだ。そして結局のところ、将来的に最も社会の信頼を獲得できるであろう手段はメスガキの制御である。つまり別に友人であっても構わないし、オンリーワンである必要もない。交渉ごとのテクニック。まずふっかけて、要求を下げると、なんだか同じように譲歩しないといけない気持ちになる心理。ドア・イン・ザ・フェイスだ。息子が相手でもこういうビジネスライクな交渉術を使うから好かれないんだと思います。

 

「ボクはもちろん良いですよっ! 轟くんもいいよねっ!」

 

「ああ。できればうまいそばが食いたい」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

「いただきまーす!」

 

「いただきます」

 

 午前中に大体の調査が終わり、ホークス事務所とエンデヴァー事務所の主だったメンバーが待ち合わせたのは高級蕎麦屋。轟くんが食べているのはもちろんざるそば。なぜなら彼もまた特別な存在だからです。色々クソ親父に強制的にやらされてはいたが、なんだかんだで要望などは素通しにされるわがままおぼっちゃんな面が出ている。ホークスは意外と好感触というか、それじゃあ具体的な話を詰めようぜという感じのエンデヴァーに少し戸惑っていた。食事くらいは一緒にして情報交換はしてやってもいいが手柄は渡さんぞ。そういう話になるのではないかと思っていたからだ。

 

「そっちは二人なのだな。こちらはチームで来ている。ウチが主体になるということでいいな?」

 

「俺は異論ありませんよ。ホーリーナイトはどう?」

 

「当然の判断では? とはいえそちらの指揮系統に組み込まれる、というのはちょっと! 事務所ごとに独自に行動し、連絡は密に取り合うというのが良いと思いますっ!」

 

 今度はエンデヴァーが面食らった。ホークスの態度は完全にホーリーナイトを同格のヒーローとして扱っており、まるでサイドキックに尋ねるかのように意見を求めたからだ。それを受けてまだ学生のはずの彼女から淀みなく出てきた意見はまさにサイドキックのようなもので、そのうえエンデヴァーにとっても都合の良いものだった。

 

「ほう。手柄はそちらにやるが、好きに動く。そう言っているように聞こえるが?」

 

「こっちはぶっちゃけ私怨で来てます。仇討ちですよ。チームアップ要請も少しでも情報が欲しいってのがメインです。ステインに逃げられたら困りますからね」

 

「……インゲニウムのことか? 彼の弟が体育祭に出ていたな」

 

「そうだよっ! 飯田くんはお兄さんのことをとっても尊敬していて、今は自分もそうあろうと、そうなろうと頑張っている! だから余裕のあるボクが代わりにぶちのめしてあげるんだ!」

 

「ああ……そうだな。飯田はいいやつだ。態度の悪い俺のこともずっと気にかけてくれた。体育祭で頼っても嫌な顔一つしなかった。きっとインゲニウムもそういう立派なヒーローだったはずだ」

 

 インゲニウムは規律正しく実直で真面目で、だからといって固すぎず柔軟で親しみやすいというまさに人気ヒーローの典型のような人物だった。オールマイトは別格として、世間の人が思う「人気ヒーロー」の概念を纏めて擬人化したら彼のようになるのではないか、という感じの沢山の人に愛されたヒーローである。トップクラスのヒーローたちはクセの強い人間も多く、まぁそれが人気の要因でもあるわけだが、インゲニウムのような「優秀!」という印象一本のヒーローは逆に珍しい。その分サイドキックはクセの強い人材も多かったが、それらを『チームIDATEN』としてまとめ上げる手腕も非常に高く評価されていた。

 

「インゲニウムは人材の活用が上手かった。こう言ってはなんだが、あのチームでしかヒーローはやれないだろう、という者も多かったな。適材適所の極みとでも言うべきか」

 

「俺はあんまり絡んだこと無いんですよね~。いや、そもそも他のヒーローとの絡み自体少ないですけどね! あっはっは!」

 

 雰囲気は正直軽い。陰鬱な雰囲気だと勝てるものも勝てなくなる、というのもあるし、エンデヴァーにとってもステインは「美味しいカモ」でしかない。さらに言えばホークスが例の娘を連れてきてチームアップの提案をしてくるなど、まさに濡れ手に粟、棚からぼた餅、炎を放ったらたまたま緑谷である。若くしてNo3となったホークスとショートに面識を持たせることが出来たのも幸運だ。きっと長く活きる縁となるだろう。息子をNo1にしたい、という想いはかつてよりもずっとずっと強くなっている。轟炎司はメスガキを見て気付いてしまった。自分が本当はNo1ヒーローになりたかったわけではないこと。そして、世界最強になりたかった、ということを。

 

「通信機を渡しておく。ヒーロー殺しを見つけたら連絡しろ。こちらもそうする。とはいえ歩調を合わせる必要はない。お前たち二人ならば即座にやつを捕縛できるだろうからな」

 

「ですね。ま、いちばん大変な部分をやったのは俺じゃありませんから。手柄がどうとか最初から言う気はないんです。そちらにお任せしますよ」

 

「ふん! こちらとて分かっている。そういうことなら遠慮なくメディア受けのいい綺麗事を言わせてもらうとしよう」

 

「ホークス! エンデヴァー! ありがとうございます!!」

 

「……?」

 

 轟くんは話の流れがよくわからなかったのでそばをずずっと啜った。

 

「飯田くんのためにも、頑張ろうねっ!」

 

 轟の方を見ながらにこっと笑いかけるメスガキ。分かる話になって良かった、と轟は思った。

 

「ああ。いまもインゲニウムの事務所で頑張っている……『友達』のために。全力を尽くす」

 

 それじゃあ午後からは協力していきましょう、という感じで話はまとまった。昼食後は別行動になったが空中をウロウロしてステインを探すメスガキは割とちょくちょく通信機を使ってメンバーに話しかけてくる。轟はほどほどに聞いて返事をしていたが、エンデヴァーのサイドキックたちは体育祭優勝者のメスガキに興味があるらしく色々と質問をしている。エンデヴァーは仕事をきっちりやっていれば咎める気が無いようで好きにさせている。なんか企んでねえかあの髭。

 

「お昼はしっかり食べたか? ちゃんと食わないと集中力が落ちて空からも落ちたりしそうだが!」

 

「エンデヴァーっ! ゴチでしたーっ! おそば美味しかったでーす! 眠っても落ちたりしませんよーっ!」

 

「そばですか。ちょっとエネルギー補給が足りないんじゃないですか? 十分に〝個性〟を使う準備は出来てますか?」

 

「デザートにそば粉のスイーツも奢ってもらったのでよゆーですよーっ!」

 

「ホホウ。燃費がいい〝個性〟なんだね。しかし喋りながらでも飛行や探索の効率は落ちないのかい?」

 

「マルチタスクは得意ですっ!特に負担はないです!」

 

「もしヒーロー殺しを見つけても熱くならず、冷静にな。感情によって〝個性〟の制御を誤ったという話は枚挙に暇がない」

 

「気をつけますっ! ありがとうございます!」

 

 ぽかぽかと温かい会話が繰り広げられながらも成果は上がらないまま時間がすぎていく。エンデヴァーのサイドキックたちも質問が尽きたらしく、今は逆にメスガキに根掘り葉掘り聞かれている。サイドキック同士でも知らなかったことや意外な共通点があったりしてなかなかいい雰囲気だ。調査の過程で遭遇した細々した騒動を解決していくが、本命は痕跡すら見当たらない。まるで唐突に消えてしまったかのようだ。

 

「うーん、見通しが甘かったんですかね。典型的な単独犯だと思ってたんですけど、協力者でも居たかな」

 

「まだ結論を出すのは早いだろう? 今までの傾向的にこれからの時間がヒーロー殺しのメインの活動時間だ」

 

「それもそうですね。ホーリーナイト、ちょっと休憩しよう。さっき面白いものを見つけたんだよね」

 

「了解でーす! 合流しますねっ!」

 

 ホークスは集合場所の公園のベンチにのんびり座っている。遊具で子どもたちが楽しそうに遊んでいるのを眺めているようだ。その手に持っていたのは……。

 

「あっ! ブラックモンブラン! 持ってきてたんですか?」

 

「いやいや、さっき食べてる子供見かけてさ、近場にあるんじゃないかと探したらビンゴってわけ。俺の鷹の目もなかなかだろ? こっちにもあるんだねえ」

 

 ホークスは別に自分の手柄でもない(頑張ってるのはメーカー)のに誇らしげである。ひよこ饅頭なんかはよく見かけていたが、ブラックモンブランを見つけたのは初めてのようだ。

 

「あ、ボクの分もあるんですねっ! ありがとうございますっ!」

 

 二人でベンチに並んでブラックモンブランをもぐもぐと食べる。メスガキは表面のクッキークランチがぽろぽろこぼれるのを気にして〝個性〟でちまちま受け止めているようだ。

 

「器用だねホント。……〝個性〟でキャッチしたやつも食べるの?」

 

「え? 食べますけど。……何か変ですか?」

 

 ニコニコしながらブラックモンブランをモグっていたメスガキが不安そうな顔になる。ホークスは少し慌てながら否定した。

 

「や、違くて。そのクッキー掴んでるやつってさっきまで翼だったやつと同じだったりする? ほら、上空って意外と色々舞ってたりするからさ。どっかに直してたりするなら何かがつきっぱなしになったりしないのかなってちょっと思っただけ」

 

 福岡の上空は良く黄砂だのPM2.5だの色々飛んでるので気になったのだろう。実際ホークスは戦闘服(コスチューム)に対策を組み込んでるし、『剛翼』も頻繁に高速で震わせて清潔にしている。ちなみに『直す』とは九州地域の方言で片付ける、仕舞う、という意味である。何も壊れてねえって言ってるだろ! にわかせんぺい食ってろ! ごめーん!

 

「なんか今日は〝個性〟についてよく聞かれる日ですねっ! 同じものではないですよ!」

 

「……へー……」

 

 本当だろうか? そんな事言ってお腹壊したりしない? とでも疑っているのかホークスはじとーっとメスガキを見た。

 

「な、なんですか? そんな眼で見ても答えは変わりませんからっ!」

 

 その時メスガキのスマホが振動し緑谷からメッセージが届いた。まとめると敵退治に渋谷に行く事になって緊張してます、そっちはどうですか、上手くやれていますか、何か困ったことがあれば言ってくださいね、という感じのオカンみたいな長文だ。こっちは今保須市にいます。休憩中だよ。と返事をしたメスガキは、何かを思いついたような顔をした。

 

「あ、そうだ、ホークス! 写真撮らせてください! 緑谷くんに送ってあげたいんです!」

 

「ん? おぉ、ホーリーナイトにそんな事言われるとは思ってなかった。もちろんいいよ。肩でも組む?」

 

 メスガキはヒーローと写真を撮る作法というか、映えがどうとか知らないので、全てをホークスに任せることにした。その結果がブラックモンブランツーショットである。必殺技みたい。

 

「こーゆー写真あんまり撮らないからレア物って喜んでくれるかもね」

 

 クソナードは限界化するくらい喜びましたよ、ホークスさん。ファンサの達人か? でも多分いつか刺されると思う。

 

「そうなんですか? ありがとうございますっ!」

 

「んじゃ、そろそろ再開しよっか。よっと」

 

 ひゅーん、と空に飛び上がるホークス。ふよーん、と浮かび上がるメスガキ。

 

「羽ばたかなくて良いの楽そうだねぇ。さっき全然疲れないって言ってたけどマジ?」

 

「嘘つく意味あるんですか?」

 

 ドーン!!

 

 空まで爆発音が響き渡る。少し離れた場所でもくもくと黒煙が上がっている。

 

「ありゃ。またなんか騒ぎか。俺が行くからホーリーナイトは『ヒーロー殺し』探しをよろしく」

 

「はーい! 別に見つけて倒してしまっても構わないんですよね?」

 

「あー、そうだね。あっちの事件の規模わかんないから念の為戦闘許可出しとくか。プロヒーローホークスの名において、戦闘を許可する。それじゃまたあとで。通信機もオンにしといて」

 

 あっさり戦闘許可を出して飛び去ってしまうホークス。メスガキがいつもお行儀よくしている成果だ。信用や信頼はこのように普段の積み重ねが物を言う。恐ろしく危険な〝個性〟を持っていても、おかしな事をしないと信頼されていればこんなもんである。ぽちっと通信機をオンにするとちょっと騒がしい。

 

「あ、休憩終わった? ホーリーナイトは今ポイントE-4に居るんだよね?」

 

「はい! E-4の上空でーす!」

 

「そこから西側……方角分かる? 西側にCBAって書いてある看板があるはずだけど見えるかな」

 

「見えますよ~」

 

「オッケー! そこの近くの路地……看板のある通りにあるテナント募集中の店の横の細道から叫び声が聞こえたって報告が来てるから行ってみてもらえる? ちょっとこっちはみんな立て込んでて」

 

「了解しました!」

 

 

 

 

 

 

「ハァ……じゃあな。正しき社会への供も」

 

 ステインの視界が唐突に真っ黒になり、無音となる。全身を全く動かせず、身じろぎすら出来ない。何らかの〝個性〟で拘束されたようだ。不味い! とにかく動かなければ! 全力で拘束を脱しようとするが、びくともしない。それどころか力を込めたにも拘わらず、反発が返ってこない。硬くない、むしろ柔らかい感触な気がするのに、動かない。矛盾した状態。催眠か何かだろうか? 舌を噛もうと試みるがやはり動かない。

 

(冷静になれ。瞬きの感覚は……ある。呼吸も出来ている。全身を覆われている気がするが、錯覚かもしれない)

 

 息を大きく吸ってみる。抵抗はなく肺が膨らむ。生存を害するつもりはないようだ。

 

(息を吐いても特に問題はない。胴体は拘束されていない? 関節を上手く抑えているのか? ……舌そのものは動かせるな)

 

 モゴモゴと口の中で舌を動かしてみると動く。先程も試したがやはり顎は動かない。うめき声は出せる。

 

(外側を物理的に覆っているのは確定。匂いは……わずかに甘い匂いがするような気がする。子供か……? 正義感のある幼子が俺の行動を止めようと〝個性〟を……?)

 

 ステインは少しだけ気分が良くなる。もしそうなら喜ばしいことだ。ステインは拝金主義のヒーローが憎くて憎くてしょうがない。そんなものになりたがってた自分が赦せない。殺したい。しかしもし、もしも自分が捕まるならば、無垢な子供というのは上出来だ。贋物共も子供に出来たことすら出来なかったと非難されるだろう。少しは社会も良くなるかもしれない。

 

(そうと決まったわけではない。母親かもしれん。……母親でも良いかもな。子を守るために俺を……なんてシチュエーションなら……良い……)

 

 だいぶ気持ち悪いことを考えるステイン。彼とていつか捕まるだろうことくらいは当然分かっている。『凝血』の〝個性〟は暗殺のようなシチュエーションであれば無類の強さを誇るが、現状を打開できるような能力は持たない。今日がその日なのか? いや、諦めるわけにはいかない。

 

(よし。だいぶ落ち着いた。ゆっくり動いてみるのはどうだ……ダメか。足元の感覚は……浮いている……か? 全身をすっぽり包んで宙に浮かばせている……? ……!!!)

 

 気色悪い妄想であったが、それを経て彼は落ち着いたようだ。2つの仮説が思い浮かぶ。1つ目は『黒霧』とかいうモヤの男の〝個性〟の仕業だという仮説。たとえばあの『ワープ』を途中で止めるとこうなるとか。2つ目は……。

 

(雄英体育祭の優勝者……! 贋物の極みの愚物……! 衆愚に(おもね)る資本主義の悪魔の悍ましき〝個性〟!!!)

 

「はいっこんばんホーリー♡可愛いボクだよ~! 娑婆で最後に見るものがボクで良かったね! 獄中で自慢していいよっ!」

 

「ふむ。確かにヒーロー殺しのようだな。よくやった、ホーリーナイト」

 

「あああああああ!!!!!」

 

 絶叫するステイン。顔の拘束だけが解かれ眼前に現れたのは……絶大な〝個性〟を持ち、容姿に恵まれ、トップヒーローとなることが約束された、世界に祝福されたような雌餓鬼(めすがき)。その周りには、子供(デク)子供(ショート)老人(グラントリノ)贋物(ホークス)贋物(エンデヴァー)贋物贋物贋物(その他サイドキック)

 

「ホラ、最後に何かボクに言いたいことはないの? 世の中に対する不満とかさっ! ボクが聞いておいてあげるからしっかり罪を償うことに集中してね!」

 

「巫山戯るな!! 貴様のような贋物に!! 為せることなどなにもない!!! 死ね!!!!」

 

 首から上だけをブンブンと振ったかと思うと腹から折り畳みナイフを吐き出し舌を使って器用に刃を出し、口に咥えたかと思うと勢いよくメスガキに飛ばしたが、命中したにも関わらずメスガキは無傷だ。最強ケタ違い。

 

「折角のチャンスを棒に振っちゃうんだね。それに、贋物ってなに? ボクは本物だけど?」

 

「黙れッ!!! 殺す! 殺してやる!!!」

 

「なんだかなぁ~。最後の言葉がそれでいいの? まさかここから何かできると本気で思ってるわけじゃないよね。オマエはもう口しか動かせない。ボクがその気になれば永遠にそのままだ」

 

 黎乃の笑顔が消え、ぎしり、と空間そのものが軋んだような気がした。エンデヴァー。ホークス。グラントリノ。デク。ショート。そしてネイティブの応急処置と搬送を終え戻ってきたエンデヴァーのサイドキックたちが恐怖で固まる。

 

「ホラ、言ってみなよ。目指す社会があったんでしょう? そのために17人も殺して、23人も再起不能にしたんでしょう? 良いものだったらボクが社会に反映してあげるよ。犠牲に見合う素晴らしいものだと、少なくともオマエは思ってるんだよね?」

 

 その重圧を直接受けたはずのヒーロー殺しは、さすがの胆力と言うべきか、あるいは強迫観念か。少しだけ間があったものの、まともに喋ることが出来た。

 

「……ッ! 贋物のヒーロー……! 社会の癌……! それを切除し……“英雄(ヒーロー)”を取り戻す! 正しき社会のために!!」

 

「……それで?」

 

「分からないのか……! “英雄(ヒーロー)”とは自己犠牲の果てに得るべき称号! 見返りを求めるものが名乗るべきではない!! それを社会に気付かせねばならんのだ!」

 

「分かってないのはオマエだろ。ボクはその結果どういう社会になるかって聞いているんだよ。それに気付いた社会は現在(いま)とどう違うんだ」

 

「……何?」

 

英雄(ヒーロー)の称号が自己犠牲の果てに得るものになって、それでどうなる。正しき社会って何。間違ってるのはそこだけだと思ってるの? 社会に問題があるなんて大人はみんな知ってるよ?」

 

 あなたが暮らす社会に問題はありますか? 通行人にそう聞けばまず間違いなく不満が、たっぷりと出てくるだろう。社会とは総体であり平均値であるため、個人には寄り添わない。だからこそ身近な人と助け合わねばならないのだ。そして、沢山の人が社会を改善しようと今この瞬間も懸命に頑張っている。

 

「……違う! 見て見ぬふりをしている! 誰かが血に染まりそれを知らしめねばならんのだ!! 結果が問題ではない……! 全ては過程だ! 俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけだ!! お前ではない!!!」

 

「そういうことか。オマエの〝個性〟、血液に関するものでしょ? 『血に染まるのが目的』なんだ。求めているのは出血そのもの。誰かを傷つける理由になるなら主張自体は何でもいいんだね」

 

 唐突に〝個性〟を見抜かれてステインは息を呑む。

 

「何が過程だよ。終着点を決めてないならただの行き当たりばったりだろ。『まだ終わってない』っていうのは目標に向かって頑張ってる人のための言葉だ! 責任や決断や改善を押し付けるための逃げ口上じゃない! 他人のやることにケチを付けて足を引っ張るだけの! 社会の癌はオマエだっ!!」

 

 過程と結果は不可分である。これは結果だ、いや過程だ、そんなのは議論ではなくただの論点ずらしでしかないのだ。水がお湯になるのはどこが過程でどこが結果なのか? そもそもどこからがお湯なのか。そんなものは状況次第、定義次第だ。風呂にするか茶にするかで変わる。沸騰してないからお湯じゃないとか、温度が何度だろうとH2Oのままだろとかいくらでも言えるのだ。翻ってステインは水がまずいから新しいものを用意しろと言っている。美味しい水が出てくるまでお前を傷つけてやると言っている。じゃああなたは何が美味しいと思うのかと聞いても答えない。そんなものは「彼は美味しい水が出てきたら困るのだ。なぜなら傷つけるのが目的だから」と解釈するのが妥当である。

 

「違う! 違う!! 間違っているのはお前だ!! 社会だ!! 贋物どもだ!! 英雄(ヒーロー)とはお前のような資本主義の権化ではない!!」

 

「はぁー……。じゃあ職業ヒーローの名称が変われば満足なんだね? 『個性業務従事者』とかでいい? 人を殺してまでラベルの張り替えを訴えるなんて本当にどうかしてるよ! 他人の人生を勝手にオマエの過程と決めつけて『消費』するなっ!!」

 

 ステインは贋物がどうのとか喚いているがそもそも『ヒーロー』というのはただの名称である。言葉は生き物であり、その時代に合わせて変わっていくものだし、実態と名称が違うものなど世間には溢れている。千葉にあるのに東京と名乗ってるやつとか。つまり彼の主観の問題以外の何物でもない。勝手に同一視して勝手にキレてるのだ。いや、キレる理由を探し出してきただけだ。だって彼は、オールマイトに憧れて、プロヒーローを目指していたのだから。それが叶わなかったから『酸っぱい葡萄』だと言っているだけ。16歳の彼は半年すら学ばず一体プロヒーローの何を分かった気になっていたのか。殺人をコストのように考える人間がどの口で資本主義を非難するのか。他者の命を目的達成のためのリソースとして消費し燃料とするというのは極めて功利主義的かつ資本主義的な収奪の論理だ。

 

「あ……あ……?」

 

 俺はそんな奴ら(プロヒーロー)英雄(ヒーロー)だとは思わないね、という意見自体は理があるが、そもそも名称が同一なだけで同じものではない。カニカマはカニじゃなくてスケトウダラだしプッチンプリンはゼリーである。好きなだけ本物のカニやプリンを食べればいいし、これはカニじゃないしプリンじゃない、という認識自体は正しいが、そんな事ちょっと調べた人なら知ってるし、知らない人はそもそも興味がない。あるいは好きで食べてるんだからほっとけよと気分を害されるだけだ。こんなもん駅前で街頭演説しても相手にされなくて当然である。5年近くもやったの? マジで? 言葉に力は無いと諦念、とか言ってるけど本人は言葉の影響で高校中退してる。力が無いのは『言葉』ではなく『赤黒血染の演説』だ。何者でもない中卒のお子様の独り言にどんな力が宿るというのか。相手にされないから手段が過激化して殺人にまで至ってしまった。そして俺にこんな事をさせる社会が悪いと喚いている。

 

「ホーリーナイト、もういいでしょ。そろそろ口塞いどいて。舌噛んで自殺でも目論まれたら面倒だ」

 

 ホークスは今だな、と思った。ステインが呆気にとられているこのタイミングで強制的に黙らせてしまえばなんか勝った雰囲気にできる。レスバは正しいことを言えば勝利なのではない。勝った雰囲気を出せたものが勝者だ。黎乃は指示通りステインの口元を覆ったが、目と耳は出したままにした。

 

「これ以上勘違いで罪を重ねずに済んで良かったね!……聞け、ステイン! ボクが、ボク達がここに居るのは偶然じゃない。あるヒーローがボク達をここへ導いた。彼の意志がボク達の手を引いてくれたからこそ、迷わずにこの『結果』に辿り着けた! 彼の名を生涯忘れるなッ!!」

 

 赤く輝く瞳でステインを睨みつけ彼女は力強く宣言する。

 

「インゲニウム!! オマエを倒したヒーローの名だッ!!!」

 




独自設定

・シュレディンガーのパンツ:履いているのかも観測するまで分からない。
・メスガキダンス:MP減りそう。
・幸せ家族計画:いやぁーめでたしめでたし。ダビスタ。
・ホークスの絡み:一気に駆け上がったので交流すかすか♡ざぁこ♡
・世界最強になりたい:夏くん「頭おかしい」
・温かい会話:微笑ましいですね。
・ブラックモンブラン:クッキークランチすっごいポロポロこぼれる。
・別に倒してしまっても構わんのだろう?:ステインが負けた!この人でなし!
・CBA:原作にある何の店か分からん看板。「???レンタル?」のほうが道の説明に適切な建物なんだけど読めなかったので……分かる人いたら教えて。
・テナント募集の店:「G[テナント募集]NEDA」と書いてある店の横の路地が現場。根田先生がすまっしゅ!!のためにアシ辞めたことを表しているのだと思われる。
・ステインがネイティブを襲った場所:江向通り4‐2‐10の細道だからヒロアカ世界に転生したときのために覚えておくと良いよ!
・甘い匂い:JKは若い間しか分泌されないラクトンという成分によりフルーティな匂いがする。
・こんばんホーリー:こいつはホーリーナイトの挨拶。流行らない。
・胃ナイフ:まぁ仕込んでるんじゃないかな……。
・ネイティブ:ザクザクされて病院へ。ネイティブ先生へ励ましのお便りを出そう!
・正しき社会:なお具体的な構想はない模様。他人任せ。
・オールマイトのデビュー動画:怪我をした救助者。流血するオールマイト。
・渡我被身子:ステ様になりたいです!ステ様を殺したい(わたしをころして)
・過程と結果は不可分:どれほどあるように見えても時間は存在しない。エントロピーの増大による錯覚。何を結果、結論とするかは意志が決定すること。
・酸っぱい葡萄:ナガンみたいにプロヒーローの暗部を経験してから言うならまだ分かるけど未経験だから……。仮に実像と一致したとして「結果論」でしかない。
・全てが過程:どこまでもステインの主観上の話。他人は彼にとって消耗品。
・個性業務従事者:梅干しおじさん「なんでヴィラン?『個性犯罪者』でいいじゃないか」
・インゲニウム:迷子を見かけたら迷子センターへ手を引いてやれる。そういう人間が一番かっこいいと思うんだよな。

ぶっちゃけあらすじどう?

  • バッチリ!
  • 思ってたのとちょっと違った
  • 全然違くね?
  • 完全に詐欺
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