ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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メスガキがえっちになる回


『君の友人を教えなさい。そうすれば君がどういう人間か言ってみせよう』

「ハイヒーロー基礎学です。久しぶりだな少年少女! あ、私が来たっと。元気してたかな?」

 

「グッダグダね」

 

「誰にも指名出さず雄英で何やってたんだろうこの人」

 

「だらしない先生だな」

 

 職場体験で割とガッツリプロヒーローに育成して貰った面々は結構厳しいことを言った。しょうがねえだろ新人なんだから。まぁオールマイトが憧れの存在から身近な先生になってきたと言えなくもない。

 

「こ、今回は職場体験直後ってことで軽い流しも兼ねた救助訓練レースをするぞ!」

 

 舞台は運動場γ(ガンマ)。複雑に入り組んだ迷路のような工業地帯となっている。5人4組に分かれて一組ずつレースを行い、救難信号を出したオールマイトを誰が最初に助けるかの競争だ。ただし、救難信号は常時出ているわけではなく、最初に1回発信したあと消え、更にオールマイトは手がかりを残しつつ移動するらしい。

 

「オールマイト先生もついに年齢を自覚してくださったんですねっ! そうですよ! あなたはもう救けられる側ですっ!」

 

 メスガキは相変わらず平和の象徴に辛辣である。あるいは敬老精神があるのかもしれない。実際早く引退させてやれよ、と思ってる人は少しずつ増えている。『インゲニウムちゃん』のせいで体育祭の宣言が合わせて掘り起こされたからだ。

 

「そんな事ないぞ! まだまだ現役だっつーの! 新斗少女はそうだな、〝個性〟使用禁止だ! そしてラストにエキシビションとして〝個性〟ありで私と競争するとしよう!」

 

 爆豪がそれを聞いてイラっとする。オールマイトからも特別扱いだ。理性では理解している。飛べる奴相手には競争になどならないだろう。唯一常闇だけは多少対抗できるだろうが、それも所詮後追いにすぎず、オリジナルには勝てないし、そもそもメスガキはあのホークスと一緒に飛び回っていたと聞いてた。速すぎる男と言われているプロヒーローのNo3と少なくとも同速で飛べるのだ。

 

「えー? なんですかそのしょうもないパワハラはっ! それにいいんですかぁ? 〝個性〟を使わないボクにまで負けちゃったらみんなしょんぼりしちゃうんじゃ?」

 

 あまり見せていないがメスガキの身体能力はまさに最強ケタ違い。言うだけのことはあると、最早みんな知っている。しかし。

 

「ハァー? どこまで調子に乗りくさっとんだクソボケ! 全力で来いや!」

 

「リノ、前も言ったよね。ウチは勝たせてもらおうなんて思ったことないし、諦めたこともないよ。それに今回は探索要素もあるし」

 

「実戦であればともかく訓練での敗北など今更ですわ。重要なのは最善を尽くし、課題を見つけ、成長することです。お気遣いなく」

 

「このロケーションでこっちだけ〝個性〟ありなら俺も自信あるんだなこれが」

 

「単純な速さ比べならともかく、探し出しての救助という要素は俺も得意とするものだ」

 

「ケロ……不利なのは否めないけれど負けるつもりで挑む人は居ないわ、黎乃ちゃん」

 

 "Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)"だ。負けてるのは知っている。敗色濃厚なのも今更だ。だがそれで挫折し諦めるものなど居ない。メスガキはなんだか不思議そうな顔をして口々に挑戦状を叩きつけるクラスメイトを見渡した。

 

「……そっか! みんながんばりやさんなんだねっ! 分かった! 全力でやるっ!!」

 

 彼女が何を考えたのか、分かったものは居ない。ただ、嬉しそうなことだけは分かった。ツインテがピコピコピカピカしとるんよ。キリッ! とした表情を作ってるのは分かる。分かるが、もうめっちゃ嬉しそう。

 

「言うまでもないことだが、建物の被害は最小限にな! 特に爆豪少年と新斗少女!」

 

 爆豪はともかく〝個性〟なしのメスガキに注意が行くのがピンとこなかったらしく、全員疑問顔をしている。それに気付いたオールマイトは補足を入れる。

 

「新斗少女はいつも〝個性〟で地面を強化してからジャンプして傷つけないように飛び上がっているからな! 癖で使わないように気をつけるんだぞ!」

 

 おぉ……と感心の声が上がる。そんな事に気づいているクラスメイトは居なかった。足元が黒く染まるのは一瞬であり、注意してみていなければ発見は難しい。しかしオールマイト自身、跳躍や着地の際に地面などを傷つけないように気を遣っているため意識することが出来たのだろう。

 

「そんなの言われなくても分かってますよ! ねぇ爆豪少年くん!」

 

「ぶちのめすぞクソガキ!! 注意されてんのは主にテメーだろうが!」

 

「どっちもだろ」

 

「押し付け合いは醜いわ」

 

「二人とも成績は優秀なのに問題児のイメージがあるな。……なんかすでにトップクラスヒーロー感ある……」

 

「分かる。キャラが濃いよな」

 

「ハイそれじゃあ最初の組は準備して!」

 

 クジで決まった最初の組にはメスガキは居なかった。メンバーは緑谷・尾白・飯田・芦戸・瀬呂だ。

 

「直接対決はできなかったかー」

 

「タイムの計測をすれば良いんじゃないか?」

 

「心配せずとも測ってるから最後に比較するぞ!」

 

「っしゃ! いくぜええー!」

 

 やる気満々だった瀬呂だったが組の中では2位だった。1位は瀬呂と同じく上をぴょんぴょんと飛んで移動した緑谷である。速度自体は緑谷が上だったが、場所を選ばず移動できる瀬呂のほうが、安全な場所を選んでジグザグに移動しなければならない緑谷より速かったため、初期の信号の位置に到達したのは瀬呂が先だった。しかし、その後の近隣の探索で瀬呂は戸惑い、緑谷は殆ど迷わずオールマイトを探し当てた。

 

「うむ! 素晴らしい探索速度だ! 瀬呂少年は惜しかったな! 少々勝負に意識が行き過ぎていただろう? たとえば声掛けがあれば私は返事をするつもりだったぞ!」

 

「うっ……すみません……手がかりが無かったから焦りました……無いんだから移動してないってことだったんすね……」

 

「あっ、僕も声掛けを怠ってしまいました。気をつけないと……」

 

 オールマイトが居たのは最初の救援信号があった給水塔にある給水タンクの下だ。救助を求めるものがそう遠くへ行かないはずだ、と思った緑谷は手がかりの探索も兼ねて初期位置の遮蔽された場所をすべてチェックし、隠れているオールマイトを見事見つけ出した。

 

「位置情報とカメラ映像を見て他の先生方も講評してくれるから楽しみにしておくといいぞ!」

 

「えっ……あああああああ!!!」

 

 瀬呂はもうイレ先に怒られることを想像して絶望顔をしている。ヒーローの卵の姿か? これが……。その後も続々と組の者達がたどり着き、全体的に〝個性〟の使い方が向上している事を褒め、帰還を指示した。他の面々が指示に従い帰還していく中、緑谷だけが遅れてオールマイトと何やら話しているが、最早誰もその事を気にしなかった。はいはい、いつものやつね。ごゆっくりどうぞ。心做しか気を遣って素早く移動しようとしている風ですらあった。思いやりがあるね。

 

「一緒の組だね、リノ。負けないよ」

 

「響香ちゃーん……ボクやだぁ……響香ちゃんと戦えないよぉ……友達とは戦わなくていいんでしょ……?」

 

 2組目のメンバーは新斗・耳郎・常闇・峰田・障子だった。メスガキは先程までのイキりが嘘のようにしょぼしょぼになっている。しょんぼリノだ。

 

「リノ……もう、シャンとして! あのね、これは戦いじゃないの。競争だけど、ウチたちは友達。リノはウチが今よりずっと弱くなったら友達やめたくなる?」

 

「そんなことないよ!」

 

「でしょ? じゃあウチが今よりずっと強くて、リノより速くて強かったらどう? 負けるから友達やめたくなる?」

 

「ならない! 絶対に!!」

 

「そゆこと。手抜きせずにやれるね?」

 

 今回の状況設定だとこの組はなかなかの強者揃いである。響香と障子は索敵が有利であり、常闇は飛行可能、峰田はもぎもぎの反発力で移動速度を強化できる。立体的な場所ならばかなりの機動力を出せるだろう。響香は〝個性〟の使えないメスガキが自分に気を遣って手抜きすれば負けもありうると考えていた。それは、嫌だった。

 

「……うん! ボクが本当に全力で走ったら周囲がめちゃくちゃになるから、出せるだけの力で……本気でやるよ!!」

 

「うん、本気で……なんて? めちゃくちゃになる?」

 

「やったこと無いけど多分! ソニックブームってやつ! ホークスが気をつけろって教えてくれた!」

 

「……そうだね! 気をつけるんだよ、リノ!」

 

 余計なお世話だったかな。でもまぁいいか。響香はとりあえず問題を棚上げした。メスガキと関わるための必須スキルである。そしてレースが始まった瞬間、メスガキは斜め上空にかっ飛んで消えた。地面にちょっとヒビが入っている。後で怒られるやつだ。その場に居た全員呆気にとられたが、いち早く正気に戻った響香は急いで『イヤホンジャック』を駆使して立体機動をして追いかけた。

 

(分かっていたけど……速すぎでしょ! 身体測定の時「〝個性〟なしでグラウンドから飛び出した」って言ってたけどこれがそれか!)

 

 皆やはり迷路を行くより上空から迷路無視を目論んで高所に移動している。当然響香もプラグを駆使して高所に登った。瀬呂ほどの自由度はないが、それでもなかなかの速さだ。しかしやはり常闇にだいぶ先行されている。

 

(常闇が初期の信号位置に着いたっぽい! 上空でウロウロしてオールマイトを探してる。上から見える位置には居ないか。リノが居ない……? まさかもう終わってる……?)

 

「オールマイトーッ!! どこですかァーッ!!!」

 

 びりびりと鼓膜が震える。メスガキの〝個性〟かよって感じのクソデカボイスだ。どうやらこちらも高所に位置取って探索をしているらしい。

 

(位置が近かったら鼓膜をやられていたかも……ん? なんで今大丈夫だったんだろ?)

 

「オールマイトォーッ! 逃げるなァーッ!!」

 

(……? 逃げる……? 移動してる!? プラグで索敵……やるか? でも今度も鼓膜が無事な保証はない……! リノがウチと一緒にやるのは嫌がってたのはこれのせいか……! 救助で声掛け……基本だよね!)

 

 たしかにこれは嫌がったのも分かる。友人を傷つけてしまうかもしれないし、そうでなくても索敵が満足に行えず不利になると考えたのだろう。

 

(舐めんなってーの! 新技だ! 『エレクトリック・エコー』!!)

 

 職場体験で身につけた探索用の技である。自身の心音だけでなく全身の電気信号音や血流音などの様々な音を増幅し放つことで周囲の状況を把握する。鼓膜ではなくプラグで反響をキャッチするため急な大音量が想定される場所でも使えるのだ。つまりぶっちゃけプラグを使ったエコーロケーションである。

 

(ごっちゃごちゃだ! 正直ワケ解んない! やっぱまだ早かったか!)

 

 身につけたばかりの新技。情報は収集できたが分析ができない。聴覚の聞き分けは慣れているがこれはどちらかと言うと映像に近いからだ。

 

(使って慣れていくしか無い! もう一度!! ……さっきあったものがない! 無かったものがある! これなら分かる!! 見つけた!)

 

「さっすが響香ちゃん! そっちだねっ!!」

 

(!?)

 

 響香がオールマイトらしき移動物を発見した瞬間にメスガキはひゅん、とものすごい速度で響香の見た方向に移動した。表情と視線から読まれたのだ。メスガキは聴覚は凡人である。大音量でも全くノーダメージなほどに頑丈な弊害だろう。むしろ異様な硬さの肉体で凡人並みの聴覚を持っていることがおかしいと言えなくもない。しかし視力は当然のように優れている。

 

「見つけたーっ!! 大人げないよオールマイト先生ッ!! 要救助者がこんな大移動するはず無いだろ! いい加減にしろ!」

 

「これは訓練だから! それに敵に追われている場合なんかだと当初の位置と違うなんてありふれているぞ!」

 

「ぐぬぬ……」

 

「あーもう、やられたよリノ。ウチのことずっと見てたんだね」

 

 ぎゃあぎゃあと言い合いをしている二人の元に響香がようやく辿り着く。常闇と障子も近付いてきているが、峰田は居ないようだ。まぁ君は初期位置から動かれたら厳しいよね……。

 

「このおじさんが呼んでも出てこなかったから闇雲にうろつくより響香ちゃんか障子くんが見つけたところを横取りしよーって思ってた! ……ごめんね?」

 

「んーん。ウチのこともちゃんとライバルとして見てくれてるんだって思って嬉しいよ」

 

 むしろ侮っていたのはウチのほうだったかな、と響香は思った。メスガキがこちらの索敵を利用しようとするなど想像の埒外だった。もっとこう、歯牙にもかけられていないのかと思っていたのだ。

 

(以前ウチをサイドキックにしたいって言ってたけど……なんか本当にそれも悪くないかな、って思っちゃった。一緒にやれたらきっと楽しいだろうな……。2人で、あるいは前話したみたいにヤオモモも入れて3人で、なんて)

 

 なでなで。響香はいつもの癖でついメスガキの頭を撫でてしまった。響香がぼんやりと考え事をしている間にオールマイトの言い訳と誤魔化しにも屈せず文句を言い続けていたメスガキが口を閉じ、うっとりとした表情になる。

 

「おおっ! 耳郎少女は流石だな! まるで歴戦のビーストテイマーのようだ!」

 

 響香はオールマイトのことを尊敬していた。活動限界などというものがあるにも関わらず精力的に人助けをする彼を本当にすごい人だと思っていた。そうじゃなかったら危なかった。きっと嫌そうなうんざり顔を向けてしまっただろうから。友人を獣扱いされたのもイラっとするし歴戦とかフレッシュな女子高生に言うことじゃないしテイマーとかノンデリすぎじゃないのこのおっさん。あとなんかこう……もうちょっと〝個性〟にからめてくんないかな。口田とかに言うなら分かるけど……ウチに言うなら調律士(チューナー)とかじゃないの。

 

(身近で接してみると意外と普通におじさんっぽいとこあるんだよねオールマイト。普通科の娘達に囲まれてる時とか結構デレデレしてる。……でもこの人が成し遂げてきたことに比べたら、そんなの全然報酬として見合わない……)

 

 彼は一体何をモチベーションにしてあれほど平和を希求出来たのだろう。やっぱり緑谷ママのためなのかな? などともうA組ではすっかり定説となった『緑谷出久オールマイト隠し子説』について考えていた。説っていうかもうクラスメイトの中では事実になっていた。

 

『え? お父さん? 海外に単身赴任してて全然帰ってこないよ!』

『お母さんの写真? あるけど……こんな感じ』

 

 父親の写真はないらしい。まぁ普通そんなの持ってないのは分かる。分かるけど……。緑谷ママはふくよかだった。しかしなんとなく、オールマイトの好みのタイプと言われたら分かる気がした。ごく普通の、優しそうなお母さん。痩せたら美人そう。そして緑谷は母親似らしい。なんかもう“すっごくそれっぽい感じ”だ。苛烈に平和を求める彼が癒やしを求めて……なんて。そんなストーリーが思い浮かぶ。16年前と言えばまさにオールマイトの全盛期(ゴールデンエイジ)である。

 

(家族のため……か。ウチもそういうとこあるかも。両親の仕事を継げなかったから余計頑張ってたように思う。今はどっちも追いかけてるけどやっぱウチは音楽が……家族との絆が大事で、捨てられなかった)

 

 他のメンバーが合流し、オールマイトにちょこちょこ講評を受けている。メスガキは響香によりかかり撫でられるがままだ。この子はこうやって頭を撫でられるのが大好きなのだ。

 

(お母さんが……居ないからなのかな。ウチがこうすることで少しでもリノの心を癒やしてあげられてたら良いんだけど……)

 

 響香は体育祭の準備期間中に一度、八百万とともに黎乃の家に遊びに行ったことがある。その時に彼女の家庭の事情について聞いていた。ちょっと古ぼけた大きな邸宅。温かい雰囲気を感じる童話の中に入ったかのような家。お母さんがデザインしたんだよ、と自慢げに教えてくれた。その時はまだ何も知らなかったので、すごい人なんだね、と褒めたら嬉しそうにしていた。

 

(ヤオモモはなんか変な反応だった。今思えばあの時点で気付いてたんだ、デザインをした人のこと。あの大きい家を作れるくらいだから相当な売れっ子だったんだろうし)

 

 響香は『イヤホンジャック』で黎乃を持ち上げてナデナデを継続しながら運動場の入口まで戻る。障子はさり気なく横を歩いている。きっとうっかり落としたりしたときのために待機しているのであろう。『イヤホンジャック』のパワーはそこまでではないので落とす可能性がゼロとは言えない。響香は温かい気持ちになる。この子は頑丈だから落としたところで怪我一つしないだろう。だがそうではない。そういう問題ではないのだ。

 

(てきぱきとお茶を出して手作りのお菓子を出して……甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるリノのことを意外に思ったっけ。親がいるなんて、当然の事だと思ってた。だってあの娘はずっと幸せそうだったから)

 

 響香は新斗家のちょっとファンシーな居間に飾ってある家族写真を見た時も仲がいいんだなとしか思わなかった。母親がデザインをした、と聞いて自然と自分の両親のように共働きで今は家に居ないんだなと連想したのだ。そうでないことに気付いたのは、八百万が泣き出したからだ。

 

(リノはお父さんとお母さんはずっとそばにいる、って言いながらヤオモモの手を握った。ボクの為に泣いてくれる友だちが二人も出来ました! って写真に報告しながら嬉しそうにしてたな。寂しいけれど悲しくはない、か)

 

 ヒーローとはなんだろう。()が為に戦うのか。ヤオモモはそわそわしながらリノを見ているが何をしたいのだろう。この娘はこうしたい、というのをなかなか自分から言い出さない。お金持ちだから? でもウチとリノも一般的にはその部類なんだよね。ヤオモモはそれを加味してもレベルが違う。ヒーロー科じゃなかったらマジで住む世界が違ったんだろうな。……住む世界……同じはずなのに、違う世界。境界は誰が引くのだろう。線はどこにあるんだろう。ウチは今、ヤオモモとの間に線を引いたんだろうか? それとも線を消したんだろうか。

 

(動画で見たヒーロー殺しの主張。『言葉に力はない』なんて、嘘だ。(Lyric)は、音楽は心に、世界に響くってウチは知ってる。……あいつも人殺しなんてせずにロックをやればよかったんだ。社会へ反抗したい気持ち……分かるよ。でも窮屈さなんてみんな抱えてるんだよ……)

 

 社会に抑圧されていない人間などいるだろうか? 程度の差はあるだろう。しかし完全に適応できている人間など存在しない。いや、その点で言えばヒーロー殺しは百も承知だっただろう。彼に他人を思う気持ちが無かったわけではない。むしろ過大なほどにあったから演説などしていたのだろう。だからこそ失敗し、拒絶され、打ちのめされ、ついにはそれが『反転』してしまった時に恐ろしいことをしでかしたのだ。他人を思いやれるということは、逆を行えば他人を傷つけることも容易いということ。反転アンチがそこら辺のファンより対象について詳しく、些細な欠点をネチネチ突けるのと同じだ。

 

(雄英に入って。思いっきり〝個性〟を使って。すっごく気持ちが良かった。『本当の自分』になれたんだって思った。もし(ヴィラン)としてこれを経験していたら……)

 

 〝個性〟の解放。それによる圧倒的な快感と自己肯定感を響香は思い出す。ヒーローに憧れる気持ちに、〝個性〟を思いっきり使いたいという気持ちが少しもなかったと言えるだろうか……。

 

(ヒーロー殺しの個性。『凝血』は他人の血を舐めることで対象の動きを止めるもの。リノが言ってた通りだ。『血液』に関する個性。〝個性〟に振り回されている人……)

 

 名残惜しそうに出発した八百万が画面の中で巻取り機構付きのフックで高所に登ったあとグライダーで滑空移動してサーモグラフィーを作成し1位を取った。移動も索敵も微妙なメンツの組だったので順当と言えるだろう。はしゃいで喜ぶメスガキにくすっと笑うと頭を優しく撫でる響香。響香がメスガキを抱えて戻ったときはびっくりしていたクラスメイトもなんかもうそういうもんなんだろうなとスルーしている。スルースキルがないとA組では生きていけないのだ。

 

「見つけたぜオールマイトッ!! タイムはどうだッ!?」

 

「お見事! 全員分出てから結果発表するからちょっと待っててくれ!」

 

 最後の組ではやはりかっちゃんが1位だった。爆発による跳躍。爆豪はこれをハチャメチャに高めており、一時的な対空ではなくまさに『飛行』と言えるレベルまで至っていた。索敵は微妙だったがそれを補って余りある移動速度だ。

 

「それじゃあ順位発表~! 1位は~~~!? 新斗少女だ! 個性なしでも1位とはおじさんびっくりだよ! さすがに2位の緑谷少年、3位の爆豪少年、4位の八百万少女と僅差だけどな!」

 

「おいっ!! クソデクんときだけその場に留まってたの贔屓じゃねえのか!!」

 

「ボクん時だけガン逃げしただろ陰険オヤジ!! 認めろッ!!!」

 

「HAHAHA! なんのことかな!? どの組も色々な想定でそれぞれ違うシチュエーションにしただけだぞ!」

 

 教師として多少成長してきたオールマイトは問題児どもの不当な言いがかりにも屈しなかった。そう、彼は誤魔化しNo1のはぐらかしの象徴だ。決してガキんちょの難癖を正面から相手にしたりしない。いなして、逸らす! 実際別に贔屓したつもりはない。組分けのクジは本当にその場で決まったし、どのように行動するかは事前に決まっていた。ただちょっとメスガキの声がうるさかったので離れただけだ。

 

「さぁ! それじゃあ新斗少女! 最後は〝個性〟ありで私と競争だぞ! 運動場γ(ガンマ)の外縁をどちらが速く一周できるか勝負だ!」

 

 マジでやるのか、という空気になる一同。彼女が『そういうレベル』であるとついに本人からお墨付きがついたとも言える。

 

「ふっふーん!! みんなにはひと足早く時代が変わるところを見せてあげるよ! 世代交代だっ!」

 

 メスガキはいつも通り自信満々である。それを受けてクラスメイトは様々なことを考えた。流石にオールマイトが勝つだろ、と考えるもの。オールマイトが負けるところなど見たくない、と考えるもの。オールマイトが何かを託そうとしているのでは、と考えるもの。勝ったら調子に乗って負けたら落ち込むのではとメスガキのメンタルを心配するもの。ついにこの時が来たか、と冷徹に見据えるものなどだ。

 

「それじゃあこのコインが地面についたらスタートだ!」

 

 いきなり宣言して親指でコインを弾くオールマイト。あわよくばメスガキが戸惑わないか期待しているのかもしれない。生徒たちは殆どが呆気にとられたが、地面に落ちた瞬間にドンッ! と音がして二人は消えて、10秒もしないうちにその場に現れた。恐るべき速度で移動したにも関わらず、ほとんど無音であった。

 

「は? え?」

 

「なに? 終わったの?」

 

「え、どっちが勝った? 分かんなかった」

 

「嘘だろ……」

 

「くぅ~! 全盛期なら勝てたんだけどなー! 全盛期ならなー!!」

 

「負け惜しみは辞めてくださいオールマイト先生っ! ていうかそんな言葉が出てくる時点でもう引退でしょ、引退っ! みんなー! これでボクが最強だって分かってくれたかな! 可愛いだけじゃないホーリーナイト! ホーリーナイトの時代ですっ!」

 

 実際に競った二人は分かっていたようだ。全盛期のオールマイトはマッハ10で移動したという伝説があるが、運動場γ(ガンマ)の外周は約6km。今の速度がだいたいマッハ2.2である。お互いのソニックブームはメスガキが〝個性〟で打ち消したようだ。

 

「………………」

 

 誰一人口を開かない。その気持ちを一言で表すならば。『見たくはなかった』だろう。オールマイトが負けるところを見たいなどと思っていた人間は一人もいなかった。メスガキがすごいのは分かっていた。だがなんだかんだでオールマイトが勝つのだと思って……いや、信じていたのだ。思った反応ではなかったことで得意げだった黎乃の顔がだんだんと不安そうなへにゃ顔になる。嬉しそうにチカチカしていた毛先がくすんでへたりだす。

 

「……か、勝ったよ~……? ボクは……最強だけど……可愛いよ……?」

 

「リノっ! すごいよっ! 本当に勝っちゃうなんて思わなかった!!」

 

「ふぎゅっ」

 

 いち早く動いたのは、やはりというかなんというか、響香であった。ぎゅっと彼女を抱きしめて褒め称える。正直に言うならば響香とて信じられないと、見たくはなかったと思っている。けれどその気持ちをぐっと押し込め、すごいという気持ちだけを表す。嘘ではない。友人の目的の一つであったオールマイト超えがなされたことへの喜びと誇らしさがある。それだけを、伝える。

 

「リノちゃんはまさに規格外の天才ですわ! まさかオールマイトに……勝ってしまうなんて!」

 

 八百万は響香が抱きついたことで思考が切り替わったらしく、純粋に敬意を込めて賞賛を送った。それをきっかけにポツポツと他の生徒からも感想が出てきた。

 

「新斗さん……すごいや……僕もいつかは君に追いつくよ!」

 

「ほんとにやっちゃっ……たあ!?」

 

「すごすぎでしょー! 夢じゃないんだよね!?」

 

「ホンマに歴史が変わる瞬間やん……」

 

「ええ。有言実行ね、黎乃ちゃん。おめでとう」

 

「おめでとう……でいいんだよな? マジで勝つとは……」

 

「寂しさがないと言えば嘘になるが……これからは新斗の時代なんだな」

 

「……新時代の黎明……見事だ」

 

「おいおい有精卵ども! そんな戸惑ってるようじゃ困るぞ! 全員私を超えるヒーローに育てるつもりなんだからさ!」

 

 OFAより強くなれ、と言っているわけではない。そもそもオールマイトがなりたかったのは象徴であって最強ではない。戦闘力はAFOを倒せるだけあればよかったのだ。オールマイトにとっての理想のヒーロー像。心の支えになること。それをもう、眼の前の生徒たちは見せてくれた。お世辞でもなんでもなく、彼は信じている。全員が自分を超えるヒーローになると、信じているのだ。メスガキはほら、象徴(シンボル)って感じじゃないし……。偶像(アイドル)なら出来そうだけど。メスガキは抱きしめてくる響香のほんのりした膨らみ(おっぱい)からちょっとだけ顔をずらして宣言した。

 

「……まだまだこんなもんじゃないよっ! かけっこで勝ったからってヒーローとして超えたわけじゃないからっ! ここからだよ! ここから……いいかなっ!? ボクは世界一の! ヒーローになってやるっ!!」

 

「世界一になるのは俺だ! 今だけ調子こいてろ!」

 

「これ本当になっちゃうんじゃない!?」

 

「夢はでっかくだねっ! 私もがんばるぞー!」

 

「そうですわね! 誰もが無理だと思ったことを成し遂げることは可能だと、見せていただけたのですから!」

 

 見守っていたオールマイトが満足気にうんうんと頷いている。残り火を消耗してでも本気で勝負を行ったのはまさにこれが見たかったからだ。彼女には友人がいる。自分にも友がいなければどうなっていたことか。一人ではないことがどれほど支えになったことか。きっと彼女は、この子たちは大丈夫だ。いや、そのように導くのだ。まだまだ年若いエネルギッシュな少年少女たちを見て、私も本当にオジサンになっちゃったな、と感慨深くなる八木俊典であった。

 




独自設定とか

・だら先:教師の勉強とかしてたんでしょうねきっと。
・内容ちゃうやん:受難をプレゼント。
・まだまだ現役:嘘ではない。教師としてはこれからだからね!
・パワハラ:最初からその予定だったので別にメスガキの態度で追加したわけではない。
・タイム計測:トップ以外のは参考記録。
・イレ先生:ちょっとしたお小言を言うだけで別に怒るまではない。改善がないと怒る。
・ソニックブーム:ヒロアカ世界では無い気もするけどまぁ一応。創作だと面倒だから無かったことにされがち。
・ビーストテイマー:ちょっと危険視が漏れた。
・耳郎sジャック:エロい。公式設定にそう書いてある。
・普通科にデレデレ:JKにチヤホヤされるのは平和の象徴でも気持ちがいい。
・“個性”の精神への影響:使わずにはいられない。
・かっちゃんの飛行:対抗心と見栄えを考えて。やっぱ飛ぶのが目立つからな。
・うるさいガキ:声がでかいので逃げやすい。卑劣!
・全盛期なら勝てた:マッハ10は周りの被害とかも度外視したマジ全力と解釈。通常はマッハ5ほどで周りの被害を打ち消しながら走ってたことにして、残り火だともう半分以下しか出せないと設定。メスガキがオールマイトの分も打ち消してくれるけどそんなのアテにして走らないのがプロ。なんならメスガキのも打ち消す準備してたのでそれをやめたら今もマッハ4くらいは出る。
・負けるとこなんて見たくない:なんだかんだ言ってオールマイトが勝つんでしょ?という感覚。
・可愛くてごめんね~!:かわいいね。
・おっぱい:育ってきてるらしいよ。母性の影響かな?
・オールマイトの友人:久々に会いたいなぁ!と浮き立つような気持ちになっているトシくん。
・えっち:Havoc。あるいはHazardous。
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