ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「と、いうわけだ。君はいつか巨悪と対峙しなければならない……かもしれない」
「分かりました! 備えておきます!」
酷な話になるが……と続けようとしていたオールマイトの言葉は発する前に緑谷の断固とした返事により止まった。ここはいつもの仮眠室。
「ありがとう……本来なら私が終わらせておくべきだったのに、君には苦労をかけるな……」
「いえ! 力を引き継ぐならば因縁も引き継ぐ! 当然のことだと思います! それになんていうか、コミックのヒーローみたいでカッコイイじゃないですか!」
もちろんこれはオールマイトの心労を和らげるための敢えての冗談だ。まぁそういう気持ちもゼロではない程度の、そういう部分だけを全面に押し出して深刻な雰囲気を流したわけだ。本音の一部を話すことで嘘はつかずに誤魔化すという師匠のはぐらかしテクをついに学んでしまったとも言える。クソナードはすぐ影響を受けるので。
「オールマイト! 僕は貴方の後継者です! もっと頼ってください!」
体育祭ではっきり認められたことで緑谷は自己肯定感がちょっと上がっていた。自分で考え実行したことを、褒められる。それがどれほど彼に足りていなかったか。こう言ってはなんだが、彼は異常者だ。全く誰にも肯定されずにヒーローを目指すなど、普通はありえない。憧れの存在でトッププロ、生きるレジェンドに命を賭してしがみつき求めた答えが「“無個性”は流石に無理。現実を見なさい。ヒーロー以外でも人助けは出来る」であったことでようやくちょっと軌道修正して「無個性でも出来る警察にするかぁ」と微変化する程度である。ステインなど比ではない狂人を超えた狂人だ。そう、ちょっと満たされただけでもうやる気MAXである。君はヒーローになれる! 私の自慢の後継者だ! その二言のためにクソナードは死ぬかもしれない恐怖に立ち向かうのに十分なモチベーションを持ってしまっている。
「ああ……頼らせてもらうよ! オジサンもそろそろ引退したいなぁと思ってたんだよね!」
オールマイトも敢えてそれに乗った。そう、辛気臭い顔をして未来を語るなどしてはならない。オールマイトはオジサンじゃないです! と言ってくれる弟子の頭をぽんぽんと撫でながらHAHAHAと笑う。まぁあとは保険になりそうなクソチートが控えているのもデカい。コツコツと教師陣で……冷たい言い方をすると『例の危険物』の『性能・性質チェック』をしていたが出た結論はやはり入学当初と同じ。「大人が導けば問題ない」である。ヒーロー公安委員会からもチクチクと後進育成に力を入れろと言われていたが、委員会がメスガキの存在を知ってから全く言われなくなった。どうも彼らはオールマイトが後継者育成のために雄英に入った、ということを『確信』してしまったようだ。対象は緑谷出久ではなく、新斗黎乃だと思っているようだが。『答え合わせ』……ってやつか?
(緑谷少年はなんかこう……勝手に育ってくれてありがたいんだが……私がなにか言うより学友に指摘されたほうが成長してる気がする……)
憧れが凄すぎる弊害である。クソナードにとってオールマイトの言葉は神からの託宣のようなものであり、だからこそ100%正しいと鵜呑みにしてしまうが、それが本当に彼に合っているかは別問題なのだ。いや、合わなくても合わせてしまうのが問題、といったほうが良いか。〝個性〟が、『OFA』が持ち主の心に応えてしまうからである。『力』はその良し悪しを自分で判断しない。
「緑谷少年はOFAについて聞いてどう思ったかな? 色々と〝個性〟の分析をしていると聞いているが」
A組の生徒たちは何故かオールマイトにクソナードの様子などを頻繁に伝えてくれる。めっちゃありがたい。ありがたいんだがなんでかよく分からなくてちょっと怖い。なにか察されてるのだろうかとオジサンはちょっとビビってる。そして伝え聞くにその分析はかなり詳細かつ有用なものらしいので、一応聞いてみた形だ。まぁ『OFA』はシンプルな〝個性〟だしなにか出てくるとは思っていないが……。
「そうですね……まず確認なんですけど、力が混ざったのって最初だけなんですか? 今までの他の継承者の方の〝個性〟とは混ざっていないんですか? 全員“無個性”だったんでしょうか」
「え? ……多分混ざってない……はず? 無個性なのは私だけだ」
考えたこともなかった。いやでも確かに言われてみたら最初に混ざったんだからまた混ざるんじゃないのと言われたらそうである。
「多分……? 試したことないってことですか? 今度試してみましょうか! オールマイトは歴代の継承者の方々の〝個性〟をどれくらいご存知なんでしょう?」
「ぱっと出てくるのはお師匠の〝個性〟かな……『浮遊』っていうんだけど。文字通りふわふわ浮く個性だね」
「それなら今すぐ試せますね! あ、浮いた! すごい!」
「……え?」
ふわ~っと浮かび上がるクソナード。人生でも大体浮いてたからぴったりの〝個性〟なのですぐ使えたのだろう。加えて言えば「ものが浮かぶ」光景は日常的に目にしており、それをイメージして練習した過去もある。悪口より先にそっち言えよ。クソナードはもう本当におおはしゃぎだ。過去の練習。母の個性からの連想として、自分が浮かび上がる力なのかもと思って練習したこと。そして、それが今実現したこと。どこまで僕は恵まれているんだろう、と感動で半泣きである。
「なるほど……オールマイトが以前大ジャンプした時軌道が変だとは思っていましたが、無意識にこの〝個性〟で補助していたんじゃないでしょうか!? 僕がしがみついて挙動が変わったはずなのに着地場所を明らかに『選んで』いましたよね!」
ぐいっと涙を拭って考察を口にするクソナード。もっともっとこの〝個性〟について知りたいが、まずは全体を把握することが先だ、と思考を切り替える。
「あー……言われてみたらそうなのか……? お師匠の〝個性〟は私も知っていたわけだしな。あんなふうになれば良いな、と思っていたかもしれない。……ん? 残り火でも出来るってことか……? あ、浮いた」
クソナードよりもゆっくりじわ~っと浮いた。出力が落ちている、というのが一目で比較できた。緑谷はそれを見て再び思案顔になる。オールマイトはオールマイトでなんかもう感慨深さで胸がいっぱいって感じの顔だ。見ようによってはお迎えが来たみたいに見える。嫌だよオールマイト生きててよ。
「……〝個性〟って増えるんですかね?」
「いや……私から君に移動している最中、なんだと思う。完全に移行すれば君の中の『浮遊』がもっと強くなるんじゃないか?」
オールマイトの言うことが緑谷にはよくわからなかった。つまり今増えてますよね? 二分割してるんですよね? という言葉をとりあえずぐっと呑み込む。なんかこういう感覚は全然合わないんだよな。また一つ緑谷は学んだ。今後は完全に鵜呑みにはせず思考の入る余地が生まれただろう。
「えーと、そういえば〝個性〟を渡すと脳無のように負荷で意識がおかしくなることがあるらしいですが、OFAはどうしてそうならないんですか?」
「え?」
「え?」
考えたこともなかったらしい。究極の脳筋なので殴る蹴る以外のことは割と場当たり的である。殴る蹴るはまぁまぁ慎重にやってる。
「そういえばどうしてだろうな。そういうものだ、と思っていたから疑問に思ったこともなかった」
AFOのやってることは悪いことだから人が人形のようになる。我々はそうじゃない。そんな思いだったわけだが、普通に考えたらこれはおかしい。物言わなくなる条件がなにかあり、OFAはそれを満たさない、あるいはOFAにしか無いなにかがそれを防いでいる、と考えるのが妥当だ。
「うーん、なんでしょうか? 譲渡なのが重要なんですかね。でも無理やり渡せるんですよね? じゃあ違うか」
「……いや……いままで無理やり渡されたことは無い……んじゃないだろうか……OFAについての話は実は結構な部分が推測なんだ。お師匠も断言したことはほとんど無かったと思う。というのもこの力は秘匿性が高い上に、お師匠も……死亡寸前の先代から土壇場で引き継いだらしいから詳しく聞いたことはないはずだ」
「えっ」
それってめちゃくちゃ危険なんじゃ。という言葉をやっぱり飲み込んだ。今更だ。それに最初に全部説明されていたとしても継承を望んだのは間違いない。別に身体に不調とか特に無いし、多分オールマイトは適当にそれっぽいこと言ってるだけなんだな、と緑谷は思った。敬意が無くなった訳ではないが、OFAについての話は話半分に聞いて継承者について聞いたほうがよさそうだ。
「継承した時……四肢が爆散した人はいるんでしょうか」
「居ない……はず。お師匠が継いだ時痛みがあったらしいから予防線張っといた。お師匠もそういうことがあるのかも、と危惧していたしな」
「オールマイトが継いだときはどうだったんでしょう」
「なんともなかった」
「オールマイト……」
「いや……ごめんて。でも私がなんとも無かったからって君がそうとは限らないというか……継ぐために鍛えてた私より急に継いだお師匠のほうが君に近いから」
オールマイトの誤魔化しテクは今日も冴え渡っている。ああ言えばこう言う。頭の回転自体は速いのだろう。
「それはまぁそうですね。なんか全部プラシーボ効果だった気がしてきました。なんというかこう、この力は僕に応えてくれるんです」
「応える?」
「はい。かっちゃんがたまに言ってるんですけど……やりたいと思ったことに〝個性〟は応えて当然だ、って。もしかしてそういうことなんじゃないかと」
「つまり……傷つくはずだ。過剰な力だ。そう思っているからそうなると?」
「全部がそうではないと思いますけど。というか怪我してたのは普通に僕の使い方が悪かったんだと思います。OFAで自分を守ることを意識したら怪我はなくなりました。だから思うんです。OFAは受け継いでも大丈夫だ、そう思っているから応えてくれているのではないかと」
「想いに応える……か。たしかにそうかも知れない。私がなんとかなれー! と思いながら何かを殴ると大体なんとかなった。継承にも同じことが言えるのかもしれないな」
「その……僕にはよく分からない感覚なんですけど、〝個性〟って人格に影響が出るんですよね? 付与で物言わなくなるのはそっちのせいなのかなって思います」
「そのへんはオジサンもワカンナイんだよね。私も“無個性”だったし。OFAを受け取って人格に影響……出たかなぁ? 使命感や責任感は増した気がするがこう、何かをぶん殴りたい! みたいになったことはないな」
「『マッスルフォーム』が〝個性〟だったら僕も使えて楽になったかもしれないんですけどね」
「前も言ったけどあれは力んでるだけだから」
緑谷一家も涙が滝のように流れるという〝個性〟みたいな特性があり出久にもしっかり遺伝している。似たようなものなのだろう。ヒロアカ人(仮)は摩訶不思議である。
「しかし想いが影響しているとしたら……僕が爆散しなかったのはやっぱりオールマイトが鍛えてくれて、認めてくれたからなんでしょうね。本当にありがとうございます!」
「そうか……何もしてやれていないと思っていたが……私たちにはアメリカンドリームプランの絆があったな! HAHAHA!」
ところで彼らは仮眠室から長時間出てこない教師と生徒がどう思われるか分かっているのだろうか。この仮眠室がオールマイトが来た年度に合わせて急ピッチで作られたことを先輩方は知っている。そしてオールマイトが実際に頻繁に出入りしていることも。オールマイトもクソナードも部屋に入る時に周りに人が居ないかしっかり確認しているが、入るところを見られていなければ場所がバレないかと言うとそんなことはない。みんな気付いても騒がないだけだ。だって、オールマイトを信じているから……信じたいから……。女性関係のスキャンダルに無縁なオールマイト。A組では親子説が濃厚なのでそういう疑い方はあまりされていないが、ヒーロー科以外でほんのり広がっているのはオールマイトホモ説であった。
「全く勉強してね──!!」
6月の最終週。期末テストまであと一週間というその日に、座学の成績の悪いバカどもは今更大騒ぎしていた。勉強をしていないのは今に始まったことではないのに、なぜ今更騒ぐのか? 普段からやってないことをなぜ土壇場で出来ると思うのか? 理解に苦しむ刹那的生物だ。瞬間瞬間が全てなのはまぁ悪いことばかりではないが、長期的な計画を一切立てられないのは人類としてヤバイ。
「テスト勉強なんてちゃんと授業聞いてたら必要ないでしょー? なんで普段から真面目に聞かないのー? 時間の無駄だよっ!」
メスガキの正論パンチ! こうかはばつぐんだ! 馬鹿は馬鹿なので自分がなぜ馬鹿なのかわからないのだ。分かるなら馬鹿ではなく怠惰なだけだ。往々にして馬鹿より怠惰のほうがどうしようもないが。
「それは出来るやつの理論だろ!? 分かんねえから聞く意味ねえんだよ!」
「逆でしょ? 分からないなら積極的に質問しなきゃ! 何がわかんないのか先生にも伝わってないから何もしてもらえないんだよ?」
「あっはっはー! もうどうしたらいいんだろうね! 笑うしかないよー!」
雄英はヒーローを育てるための機関なので座学の成績にそこまで口うるさく言うことはない。しかし、最低限すら取れないやつは『努力や改善への意欲が低い』とみなされる。そしてメスガキの言う通り試験は授業を真面目に聞いていれば赤点にはならない程度のものだ。高得点を取るのは難しいが、すべての設問のレベルが高いわけではない。それに加えて教師とて赤点を出したいわけではないので「わからないです」と言えばプライベートの時間を削ってでも生徒たちのために補習をしたりプリントを作ってくれたりするだろう。
「しょーがないな~! ボクが教えてあげるよっ! 何がわからないの?」
「……何が分からないのかも分からん!」
「同じく!」
「最悪のやつじゃねえか」
「よく雄英入れたな」
「あの! 皆様よろしければ、勉強会をしませんか? 放課後の教室で行いますし、私の家には講堂もありますので多人数であっても問題ありませんわ」
「ヤオモモー!」
「救世主!」
「なんだあっ? ボクのときと反応違うじゃないか! いい度胸じゃん!」
「だって新斗……顔が! オールマイトにロジハラしてる時の顔してた!」
「オールマイトにロジハラしてるときの顔!?」
説明しよう! オールマイトにロジハラしてるときの顔とは、メスガキがオールマイトにロジハラするときに見せる幼稚な嗜虐心まるだしのニヤニヤ顔である! 週刊誌とかに撮られたらホーリーナイトに裏の顔!? とかやって炎上させようとしてきてもおかしくないレベルで悪い顔だ。大抵の場合オールマイトがそのとおりだな! みたいに肯定してメスガキがドヤって終わる。教師として成長したいオールマイトはメスガキのしょうもないマウントも自分の糧にしているのだ。
「どうしてこの旧人類はこんなに愚かなんだろう……新人類のボクが導いてあげなきゃ……みたいな」
「そ、そんな顔するはずないでしょっ! 言いがかりだっ!!」※してました
「思ってないって言ってほしかった」
「うわーん! リノちゃん私のことそんなふうに思ってたの!?」
「だって愚かなのは本当のことだし……勉強ができないことじゃないよ。なんで今慌てるの? 一週間でなんとか出来る自信があるの? わからなくなった時点で危機感を持つべきでしょ……?」
「ウソだろ!?」
メスガキの正論パンチ! こうかはばつぐんだ! 芦戸は否定してもらえると思っていたらしくボーボボのキャラみたいな驚愕顔で固まってしまった。
「大丈夫! ボクは三奈ちゃんがどんなに愚かでも友達だからっ! 友情と成績は関係ないからっ!」
「ぴえん……」
「リノちゃんそのあたりで……まずは何が分からないかを調べるためのプリントをお配りいたしますのでご自分の力のみで解いておいてくださいね。明日の勉強会にご持参ください」
「こんなの作れるの? すごー!」
「やっぱ八百万なんだよなぁ!!」
「相澤先生に相談しながらリノちゃんと一緒にコツコツ作ったんですのよ。問題の作成は初めての経験でしたが、とても有意義な時間でしたわ」
ほわーん、という効果音がでそうなほどおしとやかな笑顔を浮かべる八百万。ヒーロー科を目指すだけあって献身的である。
「八百万さん……勉強会って俺も参加してもいいやつ?」
エベレストより高いプライドを持つ男、尾白猿夫は成績が悪い訳では無いが、向上心があるゆえに勉強会が気になったようだ。自力で勉強しなきゃプライドが許さない! とか言い出すかと思った。
「もちろんですわ! 気になる方はどなたでも、いつでも参加なさってくださいね! 私とリノちゃんがお力添えいたしますわー!」
変なテンションになった八百万はそのまま勉強会のスケジュールを書いた紙を腕からピャーッと出して教室の掲示板の端に貼り、プリントを参加希望者に配りだした。
「新斗に頭いいイメージが全然ないんだけど成績いいの?」
そう! クラスメイトは未だに彼女が超難関入試で満点を取り偏差値が測定不能となった異次元の天才であることを知らないのである!! 普段の行いが悪いというか、幼児だもんな。B組との交流もぼちぼち増えてきたが、当然知ってるだろ、と思ってることはいちいち会話に上らないのだ。
「リノは入試の筆記でも満点取ってるよ。ウチもちょくちょくわかんない所聞いてるし。ね」
なでり。響香ちゃんは最早それが当然の義務か権利であるかのようにメスガキを撫でた。ミッドナイトも見かけるたびに撫でるしなんなら授業等で会う機会がないと「偶然ね」とか言いながら会いに来て撫でていく。余程さわり心地が良いのだろう。何らかの自画自賛を言おうとしてたらしいメスガキの生意気なドヤ顔がなでられてご満悦になる。大して変わらなかった。
「リノちゃんは私よりも座学の成績は上ですのよ? それに勉強会の提案も相澤先生に放課後の教室の使用許可を取ってくださったのもリノちゃんですわ」
「え、優しい……好き……」
「マジかよ。そこまでしてくれるならもっと早く勉強しろって言って……言ってもらってもダメか……」
「そーだねっ! 教えるのはいくらでも出来るけどやる気がないなら無駄だもんっ!」
「今はあるよー! やる気! めちゃある!」
「三奈ちゃんは集中力があるからやる気出したら赤点回避くらいすぐだよっ!」
だから普段から勉強しないのだろう。これまでもそうやって乗り越えてきたのだろうし、これからもそうやって乗り越えていくつもりなのが目に見えている。
「なぁ新斗! 俺は!?」
「上鳴くんは……どんなときに集中してるかな?」
「え、どんなときだろ? 分かんねえ」
「それはねー! 友達のために頑張ってる時だよ! 皆で行く林間合宿のために乗り越えるべき課題だ! ってしっかりと認識すると良いと思うなっ!」
「……おお! 確かにやる気が湧いてきたぜ! すげえ!」
単純な彼はあっさりと口車に乗ってしまった。まぁこういうのはやる気になればなんとかなるものだ。入試で受かるくらいには上鳴も勉強は出来るのだから。
「俺も委員長として力になるぞ! 勉強会に直接参加することはないと思うが、分からない部分があったらいつでも聞いてくれ!」
いつものように飯田が話をかちっと締めてくれた。メスガキはほっとくと時間の限界まで延々と喋るので適度なところで区切ってあげないと場がものすごくグダつくのだ。
「かっちゃーん! 俺はお前に教わりてえな! いいだろ?」
「はぁ? 勉強くらい一人でやれや」
つまらなそうに聞いていた爆豪に切島が話しかける。マメに話しかけてきた甲斐もあり勝手にあだ名で呼んでもいきなり怒鳴られることはなくなった。まぁ爆発さん太郎みたいなクソネームよりはマシだと思っているのかもしれない。しかし態度は未だ『硬化』みたいにカッチカチだ。爆豪としては「カツキ」的な普通の呼び方がいいと思っているのだ。それ言ったらすごく仲良くなれると思うよかっちゃん。
「……そうか。無理なこと言っちまったみたいで悪かったな」
「無理じゃねえわどこが分かんねえんだ!」
「おお! やっぱ頼りになるな!」
「たりめーだボケ!」
ちなみに切島が頼りになると言ったのは爆豪だけではなく緑谷に対してでもある。切島は以前爆豪との付き合い方をクソナードに聞いていた。かっちゃんは「出来ないならいいや」的な態度を取ると出来ると証明するために大抵のことはやってくれる。しつこく食い下がるよりさっと引くほうがムキになる。聞いていたとおりであった。感謝の気持ちとともにちょっと寒気がしたが切島は努めて無視した。なんだかよく分からないへんてこな関係性は世の中にいっぱいあるのだ。物間とB組とか緑谷と爆豪とかメスガキと耳郎とか。
「勉強も大事だけど演習試験も内容が不透明なんだよねぇ」
「そうだね。一学期でやったことの総合的内容、としか言ってくれないもんね」
「ボクもっと詳しく聞いたけど、言うなって言われてるんだよねっ! 特別扱いでごめんねー!」
「え? マジ? 情報漏洩じゃん」
「いや、漏洩ってか、そもそも試験内容が違うんじゃないのこの娘。でしょ、リノ」
「えーと、秘密ー! 今以上の匂わせしたら補習になっちゃうから聞かないでー!」
「少しいいだろうか」
「お! 庄田じゃん。珍しいな。どした?」
体育祭で切島と熱い戦いを繰り広げたB組の庄田二連撃がだらしなく開きっぱなしだったドアから律儀に挨拶をして入ってきた。
「いや、通りがかりに演習試験について話していたのが聞こえてね。それについて少し話をさせてもらおうかと」
「なになに? もしかして内容知ってるとか?」
「ああ。例年この時期の試験は入試の時のような対ロボットの実演練習らしい。諸先輩方からの情報だ」
B組はA組と違って縦横のつながりが広い。っていうか相澤クラスだけ狭い。いい先生ではあるのだが、完璧な先生ではない。これもそのデメリットうちの一つである。イレイザーヘッドの事務所はスタンドアローンの敵対策専門。傭兵みたいだと敬遠されがちで同業者とのつながりも薄いのだが、相澤はそれでやれてしまったという弊害が出ている。縦横のつながりはこの程度あればいいだろ、という実体験に基づいているのだが、彼は自己評価があまり高くないのでそれがある種の天才性によって成り立っていた自覚がないのだ。
「うおー! マジか! それならヨユーだわ! 勉強に集中できる!」
「ありがとー! 庄田やっさしい! 男前ー!」
「いや、例年がそうだからと言って今年もそう、と安易に考えるのは危険だ。それに雄英のロボはまさに日進月歩している。仮に試験内容が同じだったとしても入試より格段に難易度が上がっていると予想できる」
「入試の時のロボはねー、意図的に性能をデチューンしてるんだよっ! 本来の性能なら結構大変なんじゃないかなっ!」
「マジで? なんで知ってるの?」
「入試のときにいっぱい倒しまくってたら隊列組んだやつらが来たんだよ-! ステージ2みたいな?」
実際はミスの隠蔽と尻拭いを受験生にさせた上に謝罪もなしという恥ずべき痴態だ。まぁ好意的に言うならもうすでに「ウチの生徒」扱いだったと言ってもいい。
「なんと、そんなことが……天才だとは聞いていたが入試ですでに頭角を現していたんだな! アドバイスに来たつもりだったがこちらが教えられてしまった。感謝する」
「……いやー! でもほら、庄田くんの言う通り、例年通りが急に変わる、なんてよくあることだし! ヒーローならいろんな事態を想定して心構えをしておかないとねっ!」
「全くその通りだね。それではこのあたりで失礼する。期末試験、ともに頑張ろう!」
「ああ、またな! ……あいつは本当に気持ちのいいやつだよ。漢だぜ!」
「そうだね~……」
「ん? リノ、どした? なんか元気無いけど」
「大丈夫……いっしゅうかん……勉強! 教えるから!! モモちゃん! がんばろーねっ! みんなーっ気合い入れていくぞーっ!!」
「お──っ!!」
「ええ、是非全員で林間合宿に行けるよう全力を尽くしますわ!」
「?」
なんだかおかしな様子のメスガキだったが、とりあえずテンションはいつもの感じに戻ったようだ。A組の面々はノリが良いのでバッチリ気合が入ったようだが、響香はもうあからさまに隠し事をしている感じのメスガキに不思議そうな顔をした。そう。これは実はメスガキへの期末試験である。ヒーローとして、機密情報を黙っておくことが出来るのか。ただ黙るだけではなくなにか知っていることを知られているうえで黙らなくてはならない。試験内容、ペアになる相手、求められる課題、対する教師、全てをメスガキは聞いている。自己判断で然るべき相手に明かしても良い、とも。はっきり言って1年生に求められる水準ではない。プロヒーローレベルの判断をしろと言われているのだ。試験までの一週間。メスガキは黙っていることが出来るのだろうか!
ネタバレ:出来ない。
独自設定とか
・性能チェック:抹消効かねえ。この娘寝ないわ。等。思いやりもあるけどプロでもある。
・公安チクチク:ふー。オールマイトが現役のうちに次が見つかってよかったわ。
・わんふぉー:解釈次第で色々できる。やろうと思ったらビームとかも撃てる。
・浮遊:クソナードと特に相性が良いのであっさり使えた。黒鞭とかはピョロってなる。
・オールマイトも浮く:は、はい……オールマイト空に浮きます……。OFAは繋がってる。
・感覚合わねえ:性格的な相性は実はそこまでではない。でも一番の根幹ががっちり握手してるから……。
・全部推測:独自設定というわけではないはずだけど一応。中の人になっても全部推測のはず。
・お師匠:残り火と許容限界はお師匠が発見(推測)したっぽい。
・脳無の意識:AFOとマキア見た感じ個性の数じゃなくて個性との相性とか支配力な気がする。
・ホモ説:すまっしゅネタ。
・テスト難易度:そこそんなに大事か?と思ったのでこんな感じ。
・庄田くん:切島に教えるタイミングを伺ってた。
・メスガキの試験:メスガキにオールマイトぶん殴らせても何も良いことがないので……。