ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「全チーム条件達成出来てよかったわ!」
ミッドナイトが一安心、という感じでそう言った。そう。全チームが達成した。飯田・尾白チームも当然達成したしメスガキもアナウンスした。いいね? 尾白くんのステルス力がついに他人まで巻き込みはじめたのが悪い。復唱要求! 尾白くんのせいです! ハイ!
「それじゃあ得点をつけていくさ! お手元の資料をご確認ください!」
根津校長が神業のような資料作成スキルで纏めた意識の高い資料が教師陣の手元に配られる。状況の推移の概要、担当教師の所感と評価、事前の課題に対する対応度などが一目でわかるグラフィカルなデザインの資料だ。本来校長の仕事ではないこれをなぜ根津がやっているかと言うと彼が一番上手だからである。そういう感じで雄英は運営されている。1年生の試験に「それじゃ校長よろしく」とやるのと同じ。雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り。校長であっても当然のようにいち教員として運用されるのだ。
「まずは私の担当した芦戸・上鳴チームから行くさ! いやぁ、一番最初に負けちゃって面目ないよ!」
「御冗談を。やろうと思えばまだまだいくらでも妨害は出来たでしょう?」
「いや、それでも勝敗は揺るがなかっただろうね!」
根津の『ハイスペック』を活かすには事前の準備が重要なので、今回の準備であそこからできる限りやったとしてもただの遅延にしかならなかっただろう。そもそもそういうレベルに収まるように準備をしていた、ということだが。
「
「ああ、それはね、彼女はこの試験の意図を掴み、我々とは違う視点で見たのさ! つまりこちらの想定としては『難易度の平均化』が彼女への課題であり、ハンデはあれど相性等でどうしても発生してしまう壁の高さの違いを情報や作戦で埋める事を求めたわけだが、彼女はその『平均化』を条件の側で行ったということだね!」
「えーと、彼女から見たら校長の試験だけが条件が悪かった、ということですか。……ああ、もしかして状況が教師側有利だからでしょうか?」
「そうさ! 加えて言えば私に重りを付けたところで敵として劣化するかと言うとそうでもないのもあるだろうね!」
遮蔽物だらけのフィールドのオールマイト・イレイザーヘッド・13号・スナイプ。開けた屋外フィールドのパワーローダー・ミッドナイト。段差のある室内のエクトプラズム。森林のプレゼント・マイク。どれも生徒のためのロケーションであり、教師陣の〝個性〟の働きを阻害する、あるいは生徒側の〝個性〟の働きを助け、攻略の糸口を与えるためのものだ。例えばミッドナイトが風で匂いが飛ばない室内フィールドに陣取っていたらもっとひどい詰みになっていた。室内であれば屋外より遥かに濃密に『眠り香』を扱えるのだ。このように基本的に生徒側のために選ばれているフィールドであるが、ビル群のみが『根津が活用するためのロケーション』となっている。
「なるほど。言われてみれば確かに校長のところだけ浮いてますね。我々側としては『そういうものだ』と思って見過ごしている部分だったかもしれません」
先述の通り根津の〝個性〟を活かすには事前の準備が必要である。例えば飯田・尾白チームがパワーローダーと戦ったフィールドに根津を準備無しで配置しても重機を操縦して攻撃するくらいが関の山であり、上鳴が重機ごとバリッとやればそれで終わりだ。教師たちにとっては『ハイスペック』で試験をしてもらう前提条件であったが、メスガキから見たらこの試験だけ生徒側のフィールドの活用が難しいと気づき「あっ! ここだけ条件違うからここに
「いやはや、私もちょっと〝個性〟に引っ張られちゃったかな? 反省しきりさ!」
「上鳴くんはこれどうなんでしょう。事前の作戦に愚直に一本賭けって感じの動きですけど」
「うーん悩ましいな……思考停止しているのかどうかだが、担任としてはどうだ、イレイザーヘッド」
「友情に厚いやつだから指揮官たる新斗を信じ、ゲートを目指す芦戸のフォローに徹したんだろうとは思うが、半々、と言ったところか」
「芦戸さんはいいですね。封鎖で変更されたあとのルート選びも適切。ゲート目前での強行突破の判断もいい感じです」
「腹が決まれば爆発力があるな。身体能力も高いし事前の情報を噛み砕いて応用できている動きだ」
ちなみに今同じ事をしろと言ってももう出来ない。使い終わった情報なのでほとんど抜けおちている。
「大体意見は出揃ったかな! さて、新斗くんの情報の扱いについても続けてやっていこうか!」
「なかなか良いのでは? 難易度が高いと見積もっていたチームも実際は皆クリアできていますし、我々より正確な読みだったのかもしれませんね」
「
「そうですね……上鳴は芦戸から離れるという判断はしないでしょう。芦戸が鍵になりそうです。あいつが作戦を……いや、どうだろう。打開してくれると信じたいところですが」
相澤はちょっと言い淀む。試験のその場で成長して乗り越えてほしい、とは思うが……。
「ふむ。あの二人なら達成できた、とは言えないと?」
「この資料を見ての通り腹が決まれば強い奴らなんだが……土壇場まで腹が決まらない悪癖があってな。道が塞がれるという状況に迷いながら場当たり的に対応しているうちにタイムアップとなる可能性も高そうだ」
「なるほど。イレイザーヘッドから見ても適切な
「まぁそうだな……正直もっと盛大に
相澤から見たメスガキはそういうことをしそうな奴である。1チームにしか明かさず、その上そのチームにもしっかりと秘密を守らせた(態度は稚拙だったが)のは少し意外に思った。
「そこはそうだね、我々は思ったよりも彼女の信頼を得ているらしい! 相澤くんと香山くんのおかげだろうね!」
先生たちは理不尽な課題など生徒に与えない。そういう思いがあったのだろう、と根津は言う。メスガキが特に懐いているイレイザーヘッドとミッドナイト。この二人を基準に教師というものを考えているのだろう。
「だといいんですが」
「もしそうならとても嬉しいですね!」
相澤はぶっきらぼうに、ミッドナイトは言葉通り本当に嬉しそうな笑顔で答えた。
「それじゃあ次は個別に見ていこう。と言っても議論の必要がありそうなのはあと一人だね!」
「瀬呂ですね。峰田を庇って『眠り香』の範囲外に移動させたのは良いんですが、その後ほぼ無策でミッドナイトに挑みあっさり眠らされたのが良くない。一旦逃げるべきでした」
「そうねぇ。肉体派じゃない私は重りがついているからあまり積極的に追いかけるつもりがなかったしね。ゲート前に居座られるのを警戒したのかしら?」
「戦闘を視野に入れるための重りではあるが、それが侮りに繋がったようだな。彼も鞭に似た〝個性〟だからか鞭の弱体化に印象が引きずられ『眠り香』への警戒が疎かになったように見える」
「自分が引き付けている間に峰田くんにゲートに向かってもらうプランだったんでしょうか? 位置的に厳しそうな気がしますが」
「ああ、焦って現在位置のことが頭から抜けたように思えるな。はぁ……赤点だ。そのまま峰田がゲートに突入できるような位置関係だったら合格だったんだがな……」
「唯一の赤点ですか。ちょっと可哀想ですね」
「まぁ一人だけなら集中して見られるから融通を利かせて林間合宿前に補習を終わらせてやることも出来るだろう」
「いやぁ、苦労をかけるねぇ……」
「それは言わない約束でしょう。これでいいですか」
良くやらされているのだろう。相澤はうんざりといった感じの顔でしぶしぶ根津のしょうもない茶番に付き合ってあげた。オールマイトもこういうやり取りをちょいちょい見て、いまいち仲良くなれない相澤とそういうのをやりたがっているが、実際にやると「やめてくださいサムい」と言われてしまうという避けようのない凄惨な未来が待っている。
負けないで……オールマイト……。
「死柄木さん、連れてきたぜ。お待ちかねの精鋭だ」
「テレビで見た手の人! ステ様の仲間だよねぇ!? 私も生きにくい世の中がヤです! 仲間に入れてよ!」
「その手なんのためにつけてんだ? 腐らねえのか?」
「はぁー……アゴヒゲメガネ。死んどくか?」
ここは某所にある隠れ家的バー。近頃はそれなりに暑くなってきたがエアコンで適温に保たれた快適な空間だ。普段は全く客が来ないのだが、本日は来客がなんと3人も来ている。
「いきなりご挨拶だな。ご注文通りクールな男の紹介だろ?」
そう言ったのは裏社会の大物ブローカーの義爛。見た目は色眼鏡をかけた顎髭のくたびれたおっさん。欠けたままの前歯が哀愁を誘うが、羽振りが悪いわけではない。裏路地等をうろつくのにふさわしい風体、というものがあるのだ。
「自己紹介も出来ない奴らを連れてくるんじゃない。俺は餓鬼と礼儀知らずは嫌いなんだよ。その枠は別のやつで埋まる予定だからおなかいっぱいだ。帰れ」
礼儀知らずの餓鬼を仲間に入れる予定のようだ。どこの誰を入れる気なのか。もしかして可愛くて礼儀正しい女の子と仲良くなりたいって素直に言うのが恥ずかしいのかな?
「まぁまぁ。話くらい聞きましょうよ。せっかく来てくれたんですし。なにか飲みますか?」
「あっ……トガです! トガヒミコ! 私はステ様みたいになるんです! 誰かが血に染まらねばっ! というわけで血を飲ませてください」
「蕎麦湯で」
破綻JKはなにかに締め付けられて動けない! という感じのポーズをしながらそう言った。ちゅっちゅっと音を立てて口をチパチパさせている。見ようによっては可愛らしいが言っていることは恐ろしい。ツギハギ男はバーにあるはずねえだろって感じの飲み物(?)を注文した。高熱で脳ミソがゆだってるから平気でこういう事を言う。
「なんだこいつら……頭おかしい。これで金とるつもりなのか? 良い商売だな。で? 蕎麦湯のお前はこの吸血キチガイにも出来ることが出来ないのか?」
「なんか思ってたような組織じゃなさそうなんだが。というか組織ですら無いんじゃないか。どうなっているブローカー」
「おっと、ちょっとまってくれ。死柄木さん、そっちの可愛い女子高生は連続失血死事件の容疑者。こっちの彼は『荼毘』と名乗る謎の男で二人ともステインの理想を是非叶えたいって言っててな。きっと役に立つぜ」
「はぁ? うちは別に」
「死柄木弔。彼の理想は我々の『土台』です。そうでしょう?」
「……ああ、そうだな。で? 謎の男荼毘とトガヒミコは何が出来るんだ。精鋭とか言ってるが本当に役に立つスキルがあるんだろうな?」
「私は変身ができます! 血が欲しいです! いっぱい!」
「俺は炎が使える。エンデヴァーよりすごい炎だ」
なんだその餓鬼っぽい説明は。もうちょっとまともに報連相できないのか? 自分もいまいち出来てないしなんなら最近は意図的に先生に情報を上げてないことを棚に上げて死柄木は思った。まぁ先生はそもそも死柄木の報告なんて話半分にしか聞いてないのだが。
「ふーん。それでお前らもその〝個性〟に振り回されているクチなのか?」
「そんなことないです! 違いますから! なんでそんなひどいこと言うんですか!? これが私です!」
「ふざけるな。俺はちゃんと扱えている。今すぐ見せてやろうか?」
なんだか柔らかい部分に触れてしまったらしい。ヘラヘラしていたJKは笑顔を消し睨みつけているし、ツギハギ元ボンボンは今にも襲いかかってきそうな顔をしている。室内で炎を出さない程度には理性は残っているようだが。
「おいおい、オジサンの面目丸つぶれじゃないか。勘弁してくれよ」
ここは幼稚園じゃないぞ三流ブローカー。という言葉を呑み込む死柄木。こんなしょうもなさそうな奴らでも一応は独自のツテで見つけた奴らだ。先生から何人か『大物』を紹介してもらえる話になっているが、そいつらは『仲間』にはならないだろう。例の『かわいそうなやつら』ともちょくちょく話しているが、どいつもこいつも他人になんとかしてもらおうとしているやつばかり。『先生』はそいつらの中に良い個性が居たら教えてとか、良い個性が居たら渡してとか、良い個性が居たらこっちに紹介してとか、脳ミソが〝個性〟に支配されている無様な要求ばかりしてくるし早くもしょうもない団体を『崩壊』させたくなってきている。一瞬で自己矛盾していくスタイル。
「まぁ……そうだな。一応は顔を立てて検討してやるよ。そら黒霧、本日はお帰り願え」
「え、蕎麦湯出来ましたけど。血も輸血パックで用意しました」
「…………」
「え、本当にでてくるんですか! やったー! ……えっ!? 誰の血か分からないやつを飲む……ってコト!?」
こいつ本当にアホ。今更気づいたらしい。この〝個性〟社会、血を飲みたがるやつというのは少ないが当然いるので然るべき手続きをすれば入手できるようになっている。黒霧は然るべき手続きなどしていないが。死柄木弔が「おい、人の生き血を飲ませろ」などと無茶振りしてきたときのために裏の入手ルートだけは開拓していたし、蕎麦湯も同様に準備していた。黒霧は死柄木弔が飲みたがったり食べたがったものを10秒で用意できるように備えているのだ。
「ほう。部下の方は気が利くんだな。こいつに免じてさっきの侮辱は許してやるよ。いただくぜ」
「いや……帰れよ」
「まぁまぁ。このブローカーは大物なんですよ死柄木弔。彼の紹介であれば大丈夫です」
なんだか権威主義な事を言う黒霧。彼は雰囲気に酔いやすいところがあるので『あの大物ブローカーが連れてきた』というだけでもう仲間にする気になっているようだ。バーのマスターっぽいことも出来たのでちょっとご満悦である。なんなら『客が来た感』を楽しんでいるまである。
「……俺がお前らに求めるのは強さじゃない。スキルだ。〝個性〟は分かったから他にできることを教えろ」
「ひゃー……知らない人の血……飲んじゃってます! いいのかなぁ? ひゃー!」
「うん。いい蕎麦湯だ。水道水じゃないな。とろみもいい具合だぜ。あんたなんて名前なんだ?」
「黒霧です。茹で汁のあまりではなくそば粉とミネラルウォーターで作りました。今回は塩ですがつゆやわさびなどもありますよ」
「おい!」
「ひゃっ! ええと、私は隠れるのが得意です! 奇襲とか潜入とか……出来ます!」
「スキルか。動画編集だな。あとダンス。それにユーチューバーについてはそこそこ詳しいぞ」
「荼毘だったか。お前は採用だ。破綻JKは今後ますますの活躍をお祈りしといてやる」
「やったぜ」
「やったー! ありがとうございます! 頑張るねぇ、トムラくん? でいいんですよね? よろしくです!」
頭のおかしいJKの方は不採用と言ったつもりだったのだが通じなかった。当たり前だ。格好と年齢はJKっぽいがトガヒミコは中卒の逃亡犯であり当然お祈りメールの存在など知らない。まぁ死柄木もネットでそういうのがあると見ただけで実物を見たことはないのだが。だがなんとここに居るメンツの中ではトガヒミコは二番目に高学歴である。一番は大物ブローカーの義爛。彼は一応大卒だ。黒霧の素材は雄英に入学できているのでエリートといえなくもないが死亡除籍されているのでそっちを参照しても最終学歴は中卒の同率二位だ。荼毘は中学を死亡除籍しているので小卒。死柄木は学歴なし。
「本来なら死柄木弔以外には有料なのですが……仲間には特別ですよ?」
黒霧としては死柄木弔のお友達ならばいいだろうと思っている。彼の成長のためにはそろそろ自分以外の部下や友人を持つべきだ。この二人がそうなればきっと彼の夢の実現にも近づくだろう。そう……死柄木弔の夢を叶える。何故だか良く分からないが、それは黒霧にとって、とても大切なことのように思えるのだった。
「話はまとまったようだな。黒霧さん、手数料よろしく。あと俺にも一杯貰えるかい。ウイスキー……と言いたいところだが未成年も居るしコーラにしとくか。ライムを入れてくれ」
なんか勝手に仲間入りしたトガにムカムカしていた死柄木だったがこのブローカーはちょっといいなと思った。渋みのあるダークな大人って感じだ。こういうのを仲間にしたいんだ俺は。そんな事を考えていると黒霧がなんか見たこともない器具でライムを絞って柱みたいな氷の入ったグラスに入れている。その後良く分からんシロップみたいなのを入れたかと思うと静かに甁コーラを注ぎ氷をクルッと回して中身を混ぜたあとすっとテーブルに置いた。なんだそれは。
「おい、ブローカー」
「義爛だ。なんだい死柄木さん」
クイッとコーラを飲んで
「そうか、義爛。今度の仲間はもっとこう……大人なやつがいい。大人を連れてこい。お前みたいなのだ。あと黒霧、俺にも同じものをよこせ」
「大人ねぇ……そんなモンは
二本目のアメスピに拳銃型のライターで火を点けフーッと煙を吐き出す。死柄木はそうそう、そういうのがいいんだよ、とますます思ったが、煙かったので顔をしかめた。
「責任? 世の中の奴らは責任なんて取ってないだろう。無責任な奴らばかりが社会を動かしている。あいつらは大人じゃないってのか?」
「そういう言葉も黙って受け止めるのが
「なんだそれは。
俺は、世界を壊す。この窮屈な世界をだ。イライラすることばかりの世界。ぶっ壊せばきっとすっきりする。そのはずだ。
「若いねぇ、死柄木さん。
「好きな食い物……甘いものだな。コーラも好きだ」
このコーラもなかなかうまいが、以前黒霧が作ったコーラフロートはもっと良かった。なるほど、アイスとコーラが食えなくならない程度に壊す、というのも悪くはない。ムカつくのは『今の世の中』という漠然とした枠組みだ。たとえばこのバーを崩壊させたいかと言うと全然そうは思っていない。少なくとも今のところは、だが。
「コーラは良いな。タバコにも合うんだぜ。あんたはタバコはやらないみたいだが」
「臭いだけだろ。見た目は悪くないがそれだけだな」
「やれやれ、喫煙者は肩身が狭いねぇ。窮屈な世の中になっちまったぜ、まったく。ま、何にせよやりすぎて後悔しないようにな。オジサンから若人へのアドバイスだ」
「……?」
死柄木は漠然とした違和感を覚えた。自分が見方によっては『窮屈な世の中』の一部であることに気付きそうになったからだ。そうだ、タバコは臭い。義爛だから『我慢してやってる』だけで知らないやつだったら粉々にしている。ぐいっと残りのコーラを飲み干した義爛はまだまだ吸えそうなタバコをいつの間にか黒霧が用意したピカピカの灰皿にぎゅっと押し付け、軽い挨拶をすると来たときと同じように飄々と去っていった。しばらくぼんやり出口を見ていたがなんだか他の奴らがやかましい。
「……おいうるさ……誰だお前」
「トガです! 血を飲んだので変身できます! しました! どうですか!?」
トガは自分が飲んだ血がどんな人間のものだったか確認したかったようだ。なんか入院着っぽいものを着た妙齢の女性になっている。
「こいつ頭おかしいぞ死柄木。いきなり脱ぎ始めたんだ。はしたなすぎる」
荼毘はJKの生脱衣を見たはずなのに喜びはない。三つ子の魂百まで。旧家出身の母親に育てられているので信じられないのだろう。トガと荼毘はどちらも毒親に育てられているが毒のベクトルが違うので相性はあまりよくない。
「このイカレJKがおかしければおかしいほどそれ以下だったお前のランクが下がっていくの分かってるか?」
未だに自己紹介していない荼毘。義爛が代わりに紹介してくれたがそれで終わったつもりのようだ。元ボンボンだけあって他人に世話を焼かれることに何の疑問もないらしい。自分はいっぱい焼くのに。
「賑やかで楽しくなってきましたね、死柄木弔」
「死ね」
「皆……俺のことは気にせず楽しんできてくれよな……」
「瀬呂……落ち着けって。大丈夫だよ多分……」
「そーそー! もしダメだったらこう……皆でお願いしよーよ! 一緒に行きたいって!」
試験結果の発表日。試験後の放課後は全員クリアしたということで、当初は和気あいあいとしていた空気だったのだが、試験が終わったのでメスガキ情報が解禁され、各チームに課題があった事が判明し、クリアすればそれでOKという話ではなさそうな事がわかった。特に殆ど寝てただけの瀬呂の憔悴ぶりは見ていられないレベルだ。リーク組も最初はめちゃくちゃ慌ててたがメスガキが自信満々に赤点はないから大丈夫と言ったので今は落ち着いている。
「新斗もゴメンな……俺のせいで不安だろ……」
そう。瀬呂が一番気にしているのはそこであった。焦りからミッドナイトの『眠り香』の有効範囲を見誤り序盤で行動不能になってしまったことで、完全に足手まといになったこと。そして学友がクリアできると信じてくれたのに実質それに応えられなかったこと。峰田のファインプレーでチームとしては勝利できたがそれにほぼ寄与していないことと合わせてかなり落ち込んでいた。
「ぜーんぜん? ボクが赤点になるはず無いじゃん! そもそも各個人の結果はボクの成績に連動しないと思うよ! 不合理だもん! だからボクの心配なんてしなくていいよっ!」
例えば全チームが敗北したところで赤点になるか? というとそうではない。メスガキも、他の生徒もだ。もし全員が失敗したら教師が思うことは「たるんどる!」ではなく「難易度設定失敗したな」である。というか全員どころか半分が落ちたらもう問題だ。もしそうなったら試験が悪いかもしくはそれまでの教育が悪いかになるので、どちらにせよ雄英側の恥ずべき痴態なのだ。
「そろそろ予鈴がなるぞ! 皆! 席に着こう!」
「はーいっ!」
生徒たちがのそのそと座席に向かう最中に予鈴がなり、それが終わる前に相澤が教室の扉をカァンと元気に開けて入ってきた。睡眠不足なのかあるいはぐっすり寝たのかいつもよりちょっとテンションが高い。一応まだ予鈴中なのと席に着こうとしているらしき様子を見てか、お小言はなかったが目線は「はよしろ」って感じでジトッとしていた。
「さて、おはよう。今回の期末テストだが……チームとしての勝利とは別に個人成績もある。つまり残念ながら赤点が発生してしまった」
シーンと静まり返る教室。
「よって林間合宿には……」
「待ってくださいっ!」
手を挙げながら大きな声で発言したのは芦戸だ。
「先生! お願いします! 赤点の人とも一緒に林間合宿行きたいです! なんとかなりませんか!」
「……ほう。随分と都合のいいことを言うじゃないか。それに自分が赤点かも、とは思わないのか?」
「ええっ!? そ、それは……えっと……」
「じゃあ絶対に赤点じゃないボクが言いましょうか! 皆で林間合宿に行くにはどうすればいいですかっ? 相澤先生なら……いえ! 雄英の教師であればそう出来る権限をお持ちですよねっ! 入学式を飛ばせるなら補習も同様に出来るはずですっ!」
「リノちゃんっ!」
ちょっとへにゃってた芦戸がぱぁ、と笑顔になる。かわいい。
「ふむ。たしかにそうすることは可能だ。だが、補習とはそもそも生徒のためにやることであって罰ではない。そこの所ちゃんと分っているのか?」
「もちろん! ボクが言いたいのは先生であれば赤点の生徒を林間合宿へ参加させることが出来るという点です!」
「あの! 私先生の補習のお手伝いします! だからお願いします!」
「先生! 僕がもし赤点でなければ、出来ることがあれば使ってください!」
「緑谷ぁ!」
びしっ! と手を挙げるクソナードを見て芦戸が嬉しそうに名前を呼ぶ。緑谷は思い出していた。入学直後に似たようなシチュエーションでクラスの皆が庇ってくれたことを。今度は僕がそうする番だ! と強い決意を持って嘆願に参加した。
「俺も委員長としてお力添えさせていただきたく思います! どうか許可を!」
飯田もやはり皆で林間合宿に行きたかったようだ。赤点なら補習は必要だろう、と思っているのでどうすべきか迷っていたが、補習自体が無くなるわけではなさそうなことと、新斗、緑谷と特に仲の良い二人の表明に居ても経っても居られなくなってしまったのだ。
「ウチも実技の方ならなにか手伝えるんじゃないかと思います」
「あの! 俺も何が出来るか分かりませんけど、何でもします!」
「先生。私も皆で一緒に合宿に行けるなら力を尽くしますわ」
「アホくさ。赤点なんて取るほうが悪ィだろうが」
「爆豪ーっ! なんでお前はそういうこと言うの! 先生! 俺に出来ることがあれば何でも言ってください!」
他の生徒達も口々に皆で一緒に合宿に行きたい、そのために力を尽くします、と相澤に表明した。一通り発言が終わったあとも相澤はじーっと生徒たちを見回してしばらく黙っていたが、ややあってようやく口を開いた。
「そうか。お前たちの気持ちはわかった。良いだろう、合宿には全員で行くこととする」
大歓声が上がった。元々その予定だったわけだが相澤はそんなことはおくびにも出さず、お前たちの嘆願に折れて仕方なく俺の権限を使ってやる的な態度を取る。生徒たちに『仲間のために立ち上がり恐ろしい教師相手に要求を通した』という成功体験を与えるための合理的虚偽だ。
「ちなみに筆記は赤点なし。実技で瀬呂が赤点だ。手伝ってくれるようだからついでに言っておくが、麗日と青山も赤点ギリギリだから希望するなら補習受けさせてやるぞ」
「あー! やっぱアカンかったかー!」
「衝撃☆」
「カリキュラムは全部で24時間ある。お前たちの協力があれば多少は短縮出来るだろうが、夏休みにもズレ込むだろうから覚悟しておけ。本日中にこちらでスケジュールを組んでおく。それじゃ合宿のしおりを配るから後ろに回すように」
夏休みが減ると聞いても生徒たちに悲観はない。これは勝利だからだ。勝ち取ったものなのだから、当然モチベーションも高い。相澤は渋々認めてやった、みたいな表情を作りつつも、内心では都合のいい流れにニヤニヤしていた。
独自設定とか
・全チーム条件達成:過去の解釈を変えろ。描写がないだけで実際に起こったことだと。
・意識高い資料:ハイクオリティ。一種のグラフィックデザインの『アンサー』。
・校長の試験だけ生徒不利:セメントス(コンクリフィールド)も教師用なのでもしあったらリークした。
・13号(僕っ娘28歳):危ない危ない、とか言ってるので全体の見晴らしは悪かったと想定。屋内?
・トガちゃん中卒:卒業式の日にやらかしたらしいので。『義務教育』の終わりの日。
・義爛が大卒:一流半くらいの大学を出て競争に敗れて裏落ちみたいな……。
・仲間には無料:どうせ先生の金やし……。
・謎シロップ:ラム酒。ちょっとだけ入れてる。
・育ちの良い荼毘:体焼けてるのもある。
・毒のベクトル:炎司は自己投影。トガ親は抑圧。
・皆でお願い:今のところちゃんと使えているのでイレ先も笑顔。おかしな使い方したらガチギレする。
・メスガキゴメンな:略してゴメス。
・上鳴:赤点ラインが30点ならお茶子青山は35点で、アホは50点くらい。
・ノリノリイレイザーヘッド:ウッキウキでスケジュール作成。
・アトガキ:メスガキの仲間か?