ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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時よ止まれ


『絶対、喧嘩をはじめてはならぬ、が、いったん始めたからには、相手にこれは手強いと思い知らせてやるがいい』

「あ、こっちこっち! おかえりー!」

 

「ちっ。科学の発展のために解剖されてろよ」

 

「まぁ。パパはそんな事しないわ。解剖したら一度しか調べられないじゃない」

 

 悪態をついた爆豪に怖いことを言うメリッサ。おそらく冗談なのだろう。冗談であってほしい。歳上のパツキン女にいまいち強くでられない爆豪はメリッサに割と頻繁にいじられていた。

 

「検査はつつがなく終わったようですわね。なにか新しい知見は得ることが出来ましたか?」

 

「新斗さんの〝個性〟の分析結果! 是非聞きたいなぁ!」

 

「私は後でパパに教えてもらえると思うけど……今聞きたいわねっ!」

 

 メスガキと響香がシールド博士の研究所から帰ってくると、友人たちはメリッサともかなり打ち解けていた。かっちゃんとクソナードの意地の張り合いバトルは切島のとりなしもあって割と楽しく盛り上がり、最終的には爆豪が勝ち越して終わった。

 

「何にも分からない事が分かったよ!」

 

「やっぱりかぁ……。ダークマターと言えば正体不明の物質? だもんね。その性質を新斗さんの「ダークマター」も持ってるんじゃないかとは思ってたんだ」

 

「というより〝個性〟の名称は結果からの逆算なのだから、正体不明だったからこそ「ダークマター」という名称がついたんでしょう? パパの研究所の設備でも解析不能だったとするとまさにその名に偽りなしね……」

 

「……あはは! ボクの〝個性〟についての話はそれくらいにして、今後の予定を話そうよ! もうそろそろレセプションパーティーの準備しなきゃでしょ?」

 

「ええ。ドレスコードがあるので着替える必要がありますわ。私たちは一旦ホテルに戻って準備をしますが、爆豪さんたちはどのようなご予定なのでしょうか?」

 

「かったりぃ。出るわけねえだろんなクソイベ」

 

「えー! なんでだよ! 豪華なメシが出るらしいぜ!?」

 

「俺はもちろん行くぜ! お嬢様方との出会いがあるかもしれないしな!」

 

「オイラも! ……そんな目で見るなよ! 先生の招待状を譲ってもらって来てるんだから変なことしたらやべえのは分かってるって!」

 

「爆豪くんの招待状もそうだったよね? キミもパーティー出たほうが良いんじゃないかなっ! それともボクが会場中の注目を集めるのを見るのが嫌なの?」

 

「はぁ? んなわけねえだろ! 正装なんて持ってきてねんだよ」

 

「それなら大丈夫だ! なっ新斗」

 

「そーだねっ! 直接の合わせは現地でやるから、はいこれっ!」

 

 メスガキがぱっと出した服をしばらく見つめたあとしぶしぶ受け取る爆豪。豪華な食事自体には興味があるのでそこまで強硬に反対しなくていいか、と思い渡された服をチェックしてみる。

 

「なんだあっ? ダッッッッッサ!!! 何だこのフリルは! 馬鹿じゃねえのか! いや、俺を馬鹿にしてんだな?」

 

「え……」

 

 ガーン! という音がしそうなくらいショックを受けた顔をするメスガキ。フリル過剰な勘違い貴族みたいな服に思わず素直な気持ちを言ってしまった爆豪は、本当に珍しく自分の言葉を後悔した。ぶっちゃけこんなに傷ついた顔をするとは思わなかった。ちが……そんなつもりじゃ……つーかいつもの軽口だろうが! 真に受けんなや!! などと理不尽な怒りが湧き上がる。いや、でもダサいのはマジだし……。なんだこれ。トラップじゃねえかクソが……。

 

「あー、リノ、ホラ、男子にフリルはさ、好みが分かれるから。フリル取ってあげたら?」

 

「ん……」

 

 爆豪の持っていた服からバカみたいなフリルが消えて、シックな正装になる。色合いを戦闘服から持ってきている事に気づき爆豪はさらに気まずくなった。嫌がらせや馬鹿にしているのではなく本当にいいものだと思って渡してきたのだと分かってしまったのだ。

 

「ぐっ……切島! さっさと着替えに行くぞ!」

 

 結局謝罪も感謝もなく爆豪は着替えに向かった。

 

「あ、ああ……新斗! マジでありがとう! 本当に、ありがとうな!!」

 

 俺が謝罪するのも違うかな……と思った切島は感謝の言葉だけを贈って爆豪を追いかけた。まぁあのフリルだらけのやつを着たくない気持ちはわからないでもないが、言い方というものがあるんじゃないかな。ただ爆豪が言い過ぎたと思っていることは顔を見れば分かったので、何を言えばいいのか切島にも分からなかった。今何かたしなめるようなことを言えばそれこそムキになって意固地になるだろう。とりあえず話を変えて落ち着かせるのが先か。

 

「なぁ爆豪」

 

「わーっとる! 言わんでいいわ!!」

 

 ぜんぜん違う話にしようとしたのだが、爆豪はそう受け取らなかったらしい。スタスタと着替えのためにホテルに向かう。切島は爆豪が色々と考え込んでいるのを察して見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

「ウチは好きだよ、リノのデザイン。ドレス楽しみにしてるから」

 

 しょぼーん、と音がしそうなくらいに意気消沈してとぼとぼと歩くメスガキを見かねて響香は声をかけた。もちろん本心からの言葉だ。パンクなやつがいい、と言おうとして辞めた。フリフリのやつが出てきても着よう。言葉よりも行動で示すのだ。

 

「黎乃ちゃんが悲しそうだと私も悲しいわ。だから私が元気づけてあげる」

 

 そう言うと蛙吹はほっぺたをぷくーっと膨らませた。いや、そのようなかわいいものではなく、膨張したと表現したほうがいいかもしれない。メスガキはそれをぼんやり眺めたが、あまり元気にならなかったようだ。蛙吹は更に畳み掛けてきた。変顔をしながら顔の色を物理的に変化させている。ぶふぅ! と麗日が吹き出した。ツボったようだ。お茶子ちゃんは結構簡単に笑うので、彼女の周囲はいつも笑顔が溢れている。峰田はそんな彼女を絶句させるという偉業を達成した。ヒーローとは偉業を成した者のみに許される称号。つまり峰田は『本物』だ。

 

「ふふ……」

 

 メスガキも思わず笑顔になる。梅雨ちゃんとお茶子ちゃんが作ったしっとり麗らかな雰囲気がほわ~っと場に広まってぽかぽか温かくなってくる。いや、夏なのでまぁまぁ暑いが。まぁまぁで留まっているのはI・アイランドの地面の素材が夏は涼しく冬は暖かくなる特別な素材で出来ているからだ。

 

「よしよし。元気になったね。ドレスの打ち合わせしよっか。ヤオモモはもうあるんだよね」

 

 なでなで。メスガキの頭を響香が撫でると、ツインテがふわふわしだして先端のカラーもいつも通りになって皆ほっとした。

 

「ええ、以前から用意しておりましたの。リノちゃんの服も着たかったのですが、またの機会にお預けですわね」

 

 なでなで。ヤオモモはついに自然にメスガキの頭を撫でることに成功した。いや、自然ではなかった。響香のなでなでが終わるタイミングを慎重に見極め、終了から即シームレスに繋いだが、しゅばっ! と音が聞こえそうな機敏な動きだった。メスガキは初めてのヤオモモからのなでなでにぽけーっとしていたがツインテがチカチカしだしたので上機嫌になったことが誰の目にも明らかだった。

 

「へへ~! 私も実は楽しみにしてたんだよねっ!」

 

「私もー! せっかくだしお姫様みたいなやつがいいなー!」

 

 ダブル陽キャの芦戸と葉隠がここぞとばかりに声を上げる。ずっと言いたかったのだが、メスガキのテンションが低いときに言うと慰めの嘘に聞こえそうなので我慢していたのだ。

 

「分かったー! ドミナントカラーはどうする? 前みたいにコスから取る~?」

 

 爆豪のカラーリングもコスから取っている。自然ともう気にしていないことが伝わり、そこからはどのような色が良いかの話で盛り上がっていった。しかしヒーロー科の面々はやはり人間が出来ている。通常の女子集団であればここから始まるのはこのようなきゃいきゃいとしたファッショントークではなく爆豪の吊し上げだっただろう。実際かっちゃんはそうされてるだろうなと予想してめちゃくちゃ気にしてる。本人に聞けば結果で黙らせんだよ! みたいな強がりを言うだろうが、中身は普通の男子高校生。外聞や評判を気にするのはカッコ悪いと思って気にしていないふりをしているだけの、繊細な男なのだ。

 

 

 

 

 

 

「オイラたちも同じホテルなのに置いていかれたな、上鳴」

 

「ああ。つーか正装作ってくれって新斗に頼んだほうが良かったかなぁ?」

 

 早歩きでスタスタ立ち去った爆豪とそれに小走りでついて行った切島においていかれたアホコンビは着替えのためにローテンションでホテルに向かって歩いていた。

 

「どうだろうな。持ってきてるのにあのタイミングで頼むとこう、おべっか感出ちまわねぇか?」

 

「あぁ……なるほど。うーん、難しいな。俺はあのフリル良いと思ったんだけど。王子様っぽい感じで」

 

「えっ……まぁお前はアホ王子っぽい感じするから似合いそうではあるけどよ……」

 

「アホ王子ってなんだよ! 王子だけでいいだろ! すっげえ豪華だから逆に浮かないんじゃねえかとも思ったし!」

 

「あぁ……オイラたちの正装だと地味すぎるかもってことか……それは考えてなかったな。一応雄英の制服も持ってきてるからそっちのほうが良いか?」

 

「俺も先生に言われて持ってきてるけどなんで制服なんだ? ブランド力があるから?」

 

 特に今年は1年生の優勝者の注目度が高い。学内だとなかなか実感できない雄英のブランド力を実感できる数少ないチャンスであり、話のタネにもなりやすいのでおそらく様々な人に話しかけられるだろう。そしてこれは教師たちからの信頼でもあった。

 

「学生だと制服はスーツより格式が上なフォーマルな正装になるんだよ。お前の言うことも間違ってねぇけどな」

 

 舞い上がり失敗することはあるかもしれない。しかしそれもいい経験になると、自身の招待状を託したのだ。「要らないからあげる」と気軽に渡したわけではない。雄英の制服を着た者が問題を起こせば当然教師陣や学校そのものへの損害となって返ってくるのだから。

 

「でもよぉ、折角準備したんだし正装着てみてえよ」

 

「まぁそうだな。やっぱそうするか」

 

 アホコンビ、未曾有のチャンスを逃す。学生からしたら制服など毎日着ている日常服だが、このようなパーティー会場だと雄英の制服はヒーロースーツで見かける鎧や全身タイツなどよりもファンタジー感のあるシンボリックファッションなのだ。二人の目的でもある「モテたい」すなわちチヤホヤを求めるならば制服一択であったのに、大人っぽさ、そして違和感無くその場に混ざろうとすることを求めるあまり選択肢選びを失敗してしまった。その場に混ざって違和感がない。つまり、目立たないということである。大人たちが失った3年間しかないエターナルブルー。その絶大な力は、持っているときには実感できないものなのであろう。

 

 

 

 

「じゃーんっ! かわいいボクのパーティーフォームだよっ! そろそろ分かってきたんじゃない? 自分たちがいかに恵まれているかって!」

 

 着替えが終わり、セントラルタワーのロビーに集合する面々の中、ひときわ目立っているのはやはりメスガキだった。いつものゴスロリがまずかなり目立つファッションだが、今日は更に装飾やフリルが増えている上に、表面に星が煌めいている。布っぽくする偽装を辞めているとも言う。ひらひらくるくるとドレスを見せびらかすメスガキに、轟と飯田が合流した男子勢は感嘆の声をあげた。

 

「おー! すっげえ似合ってるぜ! ド派手だなぁ! やっぱそのくらい要るのか……?」

 

「素晴らしい装いだな、新斗くん!」

 

「ああ、キラキラして見てて楽しいな」

 

「カワイイけどよぉ、露出減ってるじゃねえか!」

 

 峰田はあまりお気に召さなかったようだ。理由がクソすぎるので誰もまともに相手はしなかった。

 

「新斗さん、いつもより大人っぽくてすっごく綺麗だよ!」

 

 クソナードは頑張ってメスガキが喜びそうな言葉を選んだ。しょんぼりメスガキに何も言えなかった後悔から一生懸命考えた結果、やはり自己肯定感を高めてあげるのが良いだろうという結論を出した。当然お世辞ではなく本心だ。まぁ一番大きな印象は「可愛い」であるがそれはいつものことなのであえて言わなかった。

 

「ありがとう! キミたちは……思ったよりちゃんとしてるねっ!」

 

 嬉しそうな笑顔でそう返すメスガキ。悪態と言うより実際その通り、という感じだろう。シックな装いではあるが、まだまだ高校生なので服に着られている感が否めない。飯田はピシッとしているが。その後も女子たちが次々にお披露目っぽくロビーに入場してきて、そのたびに全員でなんやかんやと盛り上がった。特に八百万とメリッサが登場したときは上鳴と峰田のテンションがやばかった。どちらも素晴らしいスタイルをしている上に、露出も結構多い大人っぽいファッションだったからだ。メスガキプロデュースのドレスは可愛らしさ重視なので。まぁ15歳ということを鑑みると下手に大人っぽくするよりむしろ年相応のほうが逆説的に大人っぽく見えるので悪くはないだろう。

 

「すまねぇ待たせたな! おおっ! みんなビシッと決まってんじゃねえか!!」

 

 切島は素直にそう思ったようだ。後ろには不機嫌そうな顔で爆豪が立っている。

 

「あ! 爆豪くん! それじゃ体型に合わせるね!」

 

 メスガキがそう言うと爆豪のスーツがしゅっと体型に合わせてジャストサイズに変化する。同じデザインなのに、そうなっただけで洗練された印象になった。爆豪は先程のことを一切気にしていない様子のメスガキにぎょっとしたが、サイズが変化して細身になったのにむしろ着心地が上がり、さらに野暮ったさが無くなったことでつい迂闊な一言を漏らしてしまった。

 

「……いいじゃねえか」

 

 一瞬場が沈黙したが、すぐに生暖かいにやにやした空気になった。爆豪のその言葉からは謝罪の気持ちだの申し訳なさだのは伝わってこない。だからこそ、それがつい出てしまった本心なのだと分かった。クソナードはものすごくびっくりしたあと、ぱぁ、と音が出そうなくらい笑顔になった。お前は何視点でそういう情緒の動きをしてるんだ? わからないよ。

 

「あ……ちげぇわクソが!」

 

 慌てて弁解……なのだろうか? 曖昧な否定を口にする爆豪。何が違う? 言ってみろ。と言われたらきっとしどろもどろになり心にも無い悪態をつくだろうことは分かりきっていたので、一同はそれ以上いじるのを辞めた。

 

「ふっふーん! キミはボクのデザインにケチを付けていたけど、やっと認めたんだねっ! 然るべき時に素直になれないとこの先苦労するよ! 改めようねっ!」

 

 メスガキはぶっこんでしまった。みるみるうちに爆豪の眼が釣り上がる。釣り上がりすぎて顔面から飛び出すんじゃないかと思うほどに。

 

「ハァー!? 俺は正直に生きとるわボケカス! てめぇのクソフリルんときもそうだっただろうが!」

 

 言った瞬間爆豪はしまったと思った。またしょんぼリノになったら空気が終わる。これからうまい飯を食おうってときにそれは嫌だった。しかし爆豪の心配とは裏腹にメスガキは元気良く反撃してきた。

 

「く……クソフリル!? なんてこと言うんだこのノンデリポップコーンは! キミさぁ、ボクのこのフリルふりふりの素敵なドレスを見てなんとも思わないわけ? 最高に似合ってるだろぉ!? つまりフリルが似合わないヤクザ面のキミが悪い!! 反省すべき! 意地張って心にもないこと言ってゴメンって言いなよっ!!」 

 

 ちょっと空気がひりついた。メスガキはめちゃくちゃ顔が良いので顔面でマウントを取られると誰も何も言えなくなるからだ。本人もおそらく自覚があって我褒めはしても他人の容姿に殆ど言及してこなかったのだが、ついに我慢の限界を迎えたらしい。

 

「誰がヤクザ面だクソガキ! 反省が必要なのはテメーのしょうもねぇ自画自賛だろうが!」

 

「いや、今まさにヤクザみてぇなツラになってるじゃんよ。あとちゃんと謝れないのマジでどうなん。やらかしたって自分でも思ってるんだろ?」

 

「ヤンキー顔とかチンピラ顔ってほうが近ぇだろ」

 

「ふむ……なにか謝罪の必要があるような出来事があったのか?」

 

「謝れねぇのは良くねえな」

 

「爆豪は漢らしい顔してるぞ! でも俺も謝るべきときに謝れるほうがカッコイイ漢じゃねえかなって思うぜ!」

 

 男子たちは思い思いの印象を伝えた。まぁ王子様ってガラじゃないもんな。謝れないやつなことは知ってるし強制もしないし、メスガキもヤクザ面とか言って反撃したのでまぁ強くは言わないけど、みたいなぬるい非難に爆豪はたじろいだ。普段はチャラけている上鳴が真剣な顔をしていることに加え、普通に友情を感じている切島にまでやんわりと窘められたことでいよいよ追い詰められてきたのだ。

 

「……さっきの……馬鹿にしているは言い過ぎだった。悪かったな」

 

 言えたじゃねえか。聞けてよかった。そりゃ悪ぃでしょ。そもそも正装の用意は切島がメスガキにお願いをしてそれを了承してもらったという純然たる厚意以外の何物でもなかった。つまりメスガキを傷つけただけではなく切島の顔にも泥を塗ったことになるわけだ。しかし切島はそんな事おくびにも出さず、ただ爆豪がもっと素晴らしい人間になれると期待するだけにとどめた。爆発的に良いやつである。

 

「……ふーん? それならパーティーで余興の一つでもやってもらおうかなぁ~? それでチャラねっ!」

 

 メスガキはにやにや顔で謝罪を受け入れ、条件を出した。とはいえ何をやれとも言ってないので、一発芸でも見せればいいだろう。友人同士のちょっとしたお遊び。そういうものだ。

 

「爆豪! 新斗! 良かった……良かったぜ! パーティー、楽しみだな!」

 

「いや、マジで楽しみだな! 爆豪なにやる気だ? 一緒になんかする?」

 

「オイラ手品出来るぜ。教えてやろうか」

 

「良く分からないが纏まったようだな! 良かった!」

 

「そうだな」

 

 クソナードは一連の成り行きを見守っていたが、ちゃんと謝れたかっちゃんを見て静かに涙を流した。こんなに立派になって……! 雄英に入ってよかった……! こんなだから爆豪にキッショ! と思われるのだ。本当に気持ち悪いよ……。

 

「最高峰のヒーロー育成機関の雄英って言ってもみんな変わらないのね。ぶつかりあって、仲直りして。なんだか私もアカデミーの皆に会いたくなってきちゃった」

 

 ふふふ、と笑いながら同じく成り行きを見守っていたメリッサが言う。友情の素晴らしさを再確認しながら、皆でパーティ会場に向かう。そして、パーティーが始まった。

 

『ご来場の皆様、I・エキスポのレセプションパーティにようこそおいでくださいました。早速乾杯の音頭とご挨拶を、来賓でお越し頂いたご存知平和の象徴、オールマイト様にお願いしたいと思います。皆様、盛大な拍手を!』

 

 歓声と温かい拍手が起こる。A組の生徒たちは最近ただのおっさん化して意識から外れていたレジェンドヒーローへの尊敬を再認識し、素晴らしい人物の教育を受けていることを誇りに思った。

 

(おいおい聞いてないぞ。デイヴも会場に居ないし、これはあれかな。サプライズかな? フフフ)

 

 久しぶりの彼の茶目っ気に上機嫌になるオールマイト。意気揚々とステージに上り、グラスを掲げマイクを手にする。このマイクとは山田ひざしのことではなく、マイクロホンの略だ。

 

「私が~ステージの上に来た! ご紹介に預かりましたオールマイトです。それでは長々と挨拶して皆様の喉を乾かすわけにも……」

 

 オールマイトは手短に切り上げると見せかけてサプライズ待ちで長々と口上を述べようとしていたが、警報が響き渡って遮られた。

 

『I・アイランド管理システムによりお知らせします。I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたとの情報があり、現時刻を持って厳重警戒モードへ以降します。島内に住んでいる方は……』

 

「爆弾? 大丈夫かな」

 

「いたずらじゃない? 実際に発見されたわけじゃないみたいだし」

 

 会場内に居る生徒たちの雰囲気はそこまで暗くない。何せこの会場にはオールマイトが居る。世界で一番安全な場所なのだ。

 

『現時刻より10分後以降の外出者は警告なく身柄を拘束されます。くれぐれも外出はお控えください』

 

 

 

 

 

 

 

「サム……例の計画だが、中止にしようと思う」

 

「え!? どういうことですか博士。まさか今更怖気づいたんですか?」

 

 時間はしばらく巻き戻る。ここはデヴィット・シールド博士の研究所。先程調べたオールマイトの個性数値は著しく下がり、全盛期の10分の1以下となっていた。衰えが明確に数値となったことで、以前から検討していた引退を決意したのだという。このまま続けて戦いの中で死ぬのではなく、後進の育成をして平和の礎になるのだと、朗らかに語る親友を見て、デイヴはそれを渋々受け入れた。

 

「そうでは……いや、そうかもしれない。とにかくこんなことはやはり良くない。すぐに劇団の方々に連絡してくれ。その後、警備部門に報告しようと思っている」

 

「何を言っているんです。もう彼らはセキュリティを拘束しているんですよ。事態はすでに動いているんです。中止なんて出来るはずがない」

 

「今ならまだ私一人の責任にできるはずだ。サムも劇団員の方々も、私に抜き打ちの演習だと騙されていた。そういうことにしよう」

 

 問題になり権限などは制限されるようになるだろうが、まぁなんとか厳重注意で済むだろう。メリッサには申し訳ないが、あの子はもう研究者として一人でやっていける。上層部との交渉次第だろうが、迷惑をかけないようにしないと。そんなことをデイヴは考える。

 

「……決意は固いのですか?」

 

「ああ。こんなことをしてもトシは喜ばない。いや、彼を戦いに駆り立てるという私のエゴにしかならないだろう」

 

 デイヴにとってオールマイトはただの相棒ではない。己の夢と理想の全てを託した最高のヒーローだった。いつまでも平和の象徴であってほしかった。しかしそれは、デイヴのわがままなのだ。

 

「研究成果の凍結を……受け入れると? 私たちが心血を注いだ研究が、発表もされず、使われることもなく、ケースに収められ朽ち果てることを良しとするのですか?」

 

「君にも劇団の方々にも、いくつか特許を手放して十分な謝礼は払うつもりだ。特に君には本当に申し訳ないと思っている。しかしまずは劇団の方々に連絡をしてくれ。早く口裏合わせをしなければ彼らが捕まってしまうかもしれない」

 

「……博士。貴方はいつもそうだ。私をぬか喜びさせ、後で絶望を与えてくる。私はあなたと、あなたの研究に本当に人生のすべてをかけて尽くしてきたつもりです。それを無かったことにするというのですか」

 

「サム……すまない。本当にすまない。研究は削除ではなく凍結だから、いつか日の目を見ることも……」

 

「ふざけるな!」

 

「さ、サム? 何をっ!」

 

 サムが懐から取り出したものは、(ヴィラン)を拘束し無力化するためのサポートアイテムだ。それをデイヴに向かって使用し、彼は瞬く間に拘束される。

 

「博士。あなたが劇団員だと思っている彼らは本物の(ヴィラン)なんですよ。もはやあなたの一存で止まるような状況ではない」

 

「なんだって!? くっ、拘束を解け、サム! あれが(ヴィラン)の手に渡ればそれこそ上層部の懸念どおりに……いや……まさか……」

 

「気づかれましたか。そうですよ。やつらが恐れている混乱を、現実のものにしてやるんです。〝個性〟を強化された敵が暴れ回れば、きっと各国は対抗するために挙ってあの技術を求めるでしょう。富も名誉も思いのままだ。私たちの名前は永遠に歴史に刻まれるんです!」

 

「馬鹿な! そんなことをしても得られるのは悪名と憎しみだけだ! 考え直してくれ、サム。まだ取り返しはつくはずだ」

 

「あなたこそ考え直してください、デヴィット・シールド博士。あの装置はまだまだ未完成。我々の手で、完成させましょう! それにはデータが必要です。だから(ヴィラン)なんですよ。奴らはあれを『奪い取った素晴らしい技術』だと信じるでしょう。故にこちらが何も言わなくても勝手に使い、勝手に自滅する」

 

「何て恐ろしいことを! それは人体実験だぞ、サム!」

 

「リサイクルですよ、博士。我々はそのデータを使って研究を完遂させ、安定したそれを改めて国家に持ち込む。多少の混乱はあるでしょうが、最終的な収支はプラスになる、いえ、そのように我々の手でするのです!」

 

 サムの眼は狂気に染まっている。わかりやすく発狂しているのではないことが逆に恐怖を煽り立てた。

 

「私の……せいなんだな、サム。すまない……すまない……だが、それでも言う……やめてくれ……頼む……」

 

「あなたの協力があれば楽だったのですが……ロックの解除は私がやるしかないようですね。事が進めばあなたの考えも変わるでしょう。装置を手に入れたら迎えに来ますよ、博士。もはや賽は投げられたんです」

 

 サムは手早くデイヴをカプセルに押し込み、研究所の施錠をして去っていった。残されたデイヴはしばらくもがいていたが、全くどうにもならない。当然だ。この拘束アイテムはデイヴとサムの二人で作った傑作なのだ……。

 

(苦しい。カプセルに押し込められたからじゃない。心が悲鳴を上げている。サムのことは家族のように思っていた。サムもきっとそう思ってくれていた。それが、どうしてこんなふうになってしまったんだ)

 

 信頼するパートナーの裏切り。悪事への加担、いや、主導なのだろうか? そこまで考えて己の罪深さに戦慄する。

 

(私のせいでサムは悪に染まってしまった。そして、私もそうなろうとしていたのだ。この胸の痛みを、苦しみを、絶望を私はトシに与えようとしていたのか……)

 

 ヒーローになりたかった。誰かの助けになれる人に……それが、このざまだ。世界を照らすための研究も、闇に染まろうとしている。

 

(ああ……最早私には救われる価値も無いのだ……関わる全ての人を不幸にしてしまった……メリッサ……トシ……)

 

 この薄暗いカプセルの中で闇に包まれているとまるでそれが己にふさわしい居場所だと言われているような気分になる。暗い……目が霞む。あの装置が敵の手に渡れば、世界が闇に包まれてしまう……。

 

 

 

「何やってるんですか、シールド博士? 迎えに来たのがボクで良かったですねっ! 博士の変な趣味をメリッサさんが見てたら、きっとショックを受けたと思いますよっ!」

 

 星が、瞬いた。

 




独自設定とか

・歳上のパッキン女:スパァン!と頭を叩かれたら条件反射で従ってしまう。
・“個性”の名称:届け出によって決まる。間違っていることもあるので変更もできる。
・梅雨ちゃんの変顔:『蛙』の“個性”を駆使したネタ。
・ヒーローとは偉業を成した者のみに許される称号:だれかが恥に染まらねば。
・I・アイランドの地面の素材:夏の熱を吸収し冬に放出する。
・雄英の制服:そこら辺のヒーローよりアイコニック。
・エターナルブルー:永遠の青。色褪せぬ青春。
・全員間に合っとる:ヤオモモと飯田が張り切った。
・うまい飯:かっちゃんは結構グルメ。作るのも食べるのも好き。
・顔面マウント:必勝。
・マジカミナリ:友達が間違ってたら止めてあげるのが友情。
・あやまっちゃん:クソナードよりはだいぶ認めてるのでハードルが低い。
・峰田の手品:多分なんかクソみたいな下ネタ系のやつ。
・世界で一番安全:と、思うじゃん。
・警備部門:法律とかどうなってるんだろう。
・サム:金のためだけでやるとは思えない。ウォルフラムの前では言えない目論見があったと想定しこんな感じに。
・メスガキスター:一番星の生まれ変わり。
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