ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「それじゃあ早速質問だけど~八相縁起さんは普段お仕事はなにをされている方?」
「何の用かと思ったら面接かい? 裏社会のフィクサーを100年ほどかな」
梅干しおじさんは割と素直に答えた。まぁ別に隠すようなことでもないと言うか、そろそろ隠せてないからだ。
「裏社会~? 馬鹿っぽい定義だねっ! 社会の裏表なんてその場の都合で使い分けるものだし! 片方しか使えない落伍者をよくもまぁカッコつけて言うねっ!」
「僕は表にも影響力があるぜ。〝個性〟で悩んでる人は沢山いるからな。相談に乗ってあげると協力してくれるようになるのさ」
実際『先生』が感謝されていないわけではない。〝個性〟に悩むものは本当に沢山いて、それを一発で解決できる『AFO』はある種の人々にとってはまさに救世主なのだ。
「話聞いてる~? 世界の片隅でしか生きられない事を裏社会とか言ってカッコつけるなよって言ってるんだよ~? オマエが隠れてるそこは独立した世界じゃなくて単に見えにくい隙間でしょ? 本当に強い存在っていうのは表で堂々としてるんだよッ! ボクみたいにね!」
「そうかな? 君だって今闇に片足を突っ込んでいるじゃないか。僕のポジションを奪いにでも来たのかな? 子供には荷が重いと思うよ」
「ポジションって、まるでオマエに居場所があるみたいな事言うじゃん! ボクにビビってモニター越しにしか会えないくせに~。もうオマエに安心できる場所なんて無いよ! 社会というコインの裏は個人の苦悩であってオマエみたいなこびりついた汚れじゃないんだ。悔しいだろうけど自覚してね!」
「へえ。それを言うためだけにわざわざここに来たのかい? 弔、彼女を仲間に引き込むために必要なことだと聞いて来たんだがこれがそうなのかな」
「そうらしいぜ。ホーリーナイトは今の社会をぶっ壊そうとしてるんだ。先生が何をしたいか知らないが、しょうもない口喧嘩はやめて建設的な話をしてくれよ」
「そう言われてもね。僕は口喧嘩をする気はないけど? 彼女に言えばいいじゃないか」
これは普通に嘘である。相手を愚弄して怒りを引き出すのはどのような人物か知るために最も手っ取り早いのだ。それに加えてこのジジイが幼稚なのもある。いやがらせが大好きなのだ。
「ボクは事実を言ってるだけだよ~! それが罵倒に聞こえるのはオマエの問題でしょ!」
「やれやれ、お子様の癇癪には付き合ってられないな。オールマイトはどんな教育をしているのやら」
「あのおじさんに何か教わった記憶はないかなっ! 雄英の先生方は素晴らしいけど、オールマイトはネームバリューだけの新任って感じ!」
「そうなのか。教師としては先生が勝ってるのかもな」
「流石に専門分野でもない部分で勝っても当然としか思わないな。ふむ、こちらからも質問だけど。新斗黎乃、君がOFAを継いだのか?」
いきなり突っ込んだ話をしてくる梅干しおじさん。返答を求めていると言うより、話題に出して反応を見てみようと思ったのだろう。
「だったら何~?」
ノータイムで返答するメスガキ。恐るべき面の皮の厚さだ。OFAが何かも分かっていないのにこれ。
「そうか、やはり君か。強大な〝個性〟に体格に不釣り合いな身体能力。オールマイトが唐突に雄英に赴任したのもキミの入学に合わせて、というわけだ。いや、あるいは雄英で選ばれたのかな? しかし随分あっさり明かしたね」
繋がっちまったな……。『答え合わせ』って事か? まぁ梅干しおじさんからするとすっごく継承者っぽく見えるので無理もない。
「いちいち説明しないとわかんない? 隠す必要があるように見えるの?」
「ま、そうかもな。君のことは色々調べたが、いやはや、随分と上手い後継者を見つけたものだと思ったよ。ただそうだな、一応聞いておこうか。僕とともにこの世界を支配しないか?」
「なんでオマエに分けてあげる必要が? ボクはとっくにこの世界の支配者だよ。オマエと違ってね」
「残念だ。ところでオールマイトは君がここに居ることを知っているのかな?」
「知らないんじゃない? 今関係ある話?」
「なんだ、ずいぶん冷たいんだな。継承は不本意だったのかい」
「当たり前でしょ~? 好き好んで継ぐやつの気がしれないよ!」
「ハハハ! そういうものなのか? 継承者とじっくり話したのは初めてだが、今までの奴らは短い接触で分かるほど薄ら寒い使命感に燃えてたけど?」
「ど~でもいい~! 一ミリも興味ない! ボクの気を引きたいなら先代の失敗談でも話してよ」
「先代? オールマイトのことか、それとも志村菜奈のことを言っているのかな」
「先々代は志村菜奈って名前だったの? 初めて聞いた」
「なんだ、聞いてないのか? 哀れで無能な志村菜奈の話を。何一つ成し遂げられず地に這いつくばったゴミさ」
にやにやと嘲笑うように言う。どのような反応を見せるか探っているのだ。情報はいくらあっても足りない。ドクターと一緒に選んだ有効そうな〝個性〟を渡した『脳無』の完成はもうすぐだが、上手くぶつけなければ一瞬で無力化されるだろう。
「自己紹介かな? オマエはまだ自分が特別だと思ってるんだね。ボクがこの世に生を受けた時、それは終わったんだよ?」
「よくもまぁそこまで思い上がったものだ。親の顔が見てみたいよ。おっと、惨めに瓦礫に押しつぶされて死んだらしいからぐちゃぐちゃで見られたものじゃないか」
いままですらすらと出てきていたメスガキの返答が一瞬止まる。
「……ボクが小学生の頃によく聞いた感じのやつじゃん。まさかまた聞くことになるなんてびっくりだよ。どこ小の何年生なの?」
「おや、無知ゆえに失った両親のことはもう気にしていないのかな? 愚かな新斗黎乃、君にとっては簡単に救えたはずの命だったのに」
「…………」
「ヒーローになったところで、死人は喜ばないぜ? 物言わぬ肉塊に縋り付いても腐臭が返ってくるだけさ。もっと好きに生きようと思わないのかい」
「……お父さんとお母さんは……ボクを愛している。自慢の娘であり続ける」
「はたしてそうかな。君が愛されていたのは幼かったからでしかないだろう? 今の君を見てなんと言うことやら。成長するにつれて軋轢と恐怖が生まれていたさ」
「ぷっ……あはははははは! 無いよ、それは無いんだよ、八相縁起。お父さんもお母さんも、ボクを恐れることなんて絶対にないんだ。お父さんの〝個性〟の事は知らなかったんだね。バァーカ! 調査力すかすかじゃん!」
「おおっと、失敗したか。まぁ死人の話はさておき、健気に自分が危険じゃないアピールをしているようだが、無駄さ。民衆はすぐに君の絶大な力を恐れるようになるだろう。いずれ必ず排斥されて、こっち側に落ちてくる。余計な遠回りは辞めたほうがいいんじゃないか?」
「想像力が足りないねっ! ボクの強さは人類の理解できる範疇にないんだよっ! 『なんだかよく分からんけどカワイイからヨシ!』必ずそうなる! ボクがそうする! 時代遅れのおじいちゃんは獄中でボクの活躍を悔しがってるといいよ!」
「幼稚な妄想だね。現実は君の思う通りにならないぜ」
「老人の経験談どーも! さて、あの趣味の悪い人形の親玉も人形だった事がわかったし、もういいかな! 弔くんありがとうね!」
「もういいのか? 先生、それじゃまた」
「おいおい弔。まだ話は」
電源が落とされ、モニターが消える。『八相縁起』はまだ話したいことがあったようだが、死柄木弔は強制切断した。
「さて、これで約束は果たしたよな。返事を聞かせてもらおうか」
「返事? 何の?」
「……おい。それはあんまりじゃあないか。ちゃんともてなしたし、言う通りにしただろ」
「あのねぇ弔くん、キミたちのサークル活動を見逃してあげてるのはなんでだと思う? ボクの役に立つからなんだよ? キミたちだってそういうつもりでつるんでるんでしょ。ギブ・アンド・テイクの冷たい枠組みでしょ~?」
メスガキにとっての『敵』は『先生』でありここに居る小物ではない。
「黒霧さんのワープで逃がしてもらえるから命令聞いてますけど、私は結構ここすきですよ」
「オジサンはもっと派手に活動したいなぁ」
「私も現在を壊したくて来たのよ。まぁ居心地は悪くないけど、やっぱり何か大きなことがしたいわ」
「え!? 俺は仲間が欲しくて来たんだが! 義爛! どうなってるの!? 最高だな!」
「相手がどうかじゃなくて自分がどうしたいかだぜ、トゥワイス」
「……トゥワイス。俺のことは仲間だと思ってていいぞ。ホーリーナイト、そっちが『先生』との会談をセッティングしたら仲間入りするって言ったんじゃないか。約束を反故にするのか? お前それでもヒーロー候補生かよ?」
「おっ。ついにボクに救けてほしいって言う気になった? ていうかこっちに
「…………」
「それにさぁ、そもそも仲間入りするなんて言ってないよ? 協力するって言ったんだよ! 前も言ったけど
「はぁ? 仲間に入らないなら協力ってなんだよ?」
「それは今からすることだねっ! あのさぁ、『八相縁起』との繋がりがキミたちにとって良いことだと思ってる? 慈善事業で
あしながおじさんは支援していた女の子にプロポーズして結婚しました。まぁ念の為言っておくと支援は下心なしに始まったものであると思われるが、当人たちの幸せ云々とは別の話として、最終的にあしながおじさんは善意の篤志家を貫けなかった。単なる支援ではなくなってしまったのだ。
「……今はまだ、利用できるだろう。なぁ黒霧」
「えっ。あのー、なんか不穏な話をしてませんか? 死柄木弔、貴方が連絡をぶった切ったので私は後でオ……『八相縁起』にこの話の顛末の報告を命じられると思うんですけど」
「誤魔化せ。いいな?」
「はい」
「なになに? 話の流れがよく分かんないんだけど。ホーリーナイトはヒーロー候補生のふりしてる
コンプレスは死柄木とメスガキの会話を聞いて単なる仲間ではないことにようやく気付いたらしい。彼は大卒なので低学歴だらけの連合の中で一番まともな社会性とコミュ力を持っている。あくまで相対的な話ではあるが。
「みすたーはそういうラベリングにこだわるタイプ? ボクはボクだよ! 弔くんはボクに
「あーなるほどね! 俺は分かるよ! まぁ俺自身は一身上の都合で犯罪で世界を変えていく予定だけど、単なる欲望でやってるつもりはないし、この連合ならそういう活動ができるんじゃないかって思ってきたんだよな」
「なんだぁ? 世直しでもすんのか? 良いじゃねえか! クソだな!」
「ヒーロー側と
思い思いに感想を述べるまとまりのないアホたち。『
「マグ姉は面白いこと考えるね! ボクが云々じゃなくて、キミたちは自首するべきだしそうしないなら社会貢献して恩赦を勝ち取らないといけないんだよ? タルタロスに『保管』されたくないでしょ?」
「ヤー! やです! 私は好きに自由に生きるの! 檻に入るなんてイヤ!」
「別に今も好きに生きられてないよねっ! 警察やヒーローに追われて、ろくに寝てなさそうだし! 我慢する部分が変わっただけじゃないの? 犯罪することでしか生きていけなくなったのは自由って言わないよ!」
「なんでホーリーナイトはこうやって俺達を通報もせず見逃してるんだ? 後で問題になったりするんじゃねえの? 大丈夫?」
トゥワイスはメスガキの心配をしているようだ。頭のおかしな犯罪者の中でも極めつけにイッてる彼は、自分がどうこうより仲間(実際は仲間ではないがもうすでに彼の脳内ではそうなってる)の将来を案じている。
「覆面くんはボクの心配するなんて138億年早い! 信頼できる人には報告してるし、ルール違反なんて一つもしてないよ? キミたちはさぁ、自分たちがその場に存在するだけでボクに影響を与えられる特別な存在だとでも思ってるの?」
「は? ここにいることを誰かに報告してるのか?」
「そうだけど?」
「おい……おい! それはナシだろホーリーナイト!」
「
メスガキが秘匿している能力を駆使すれば特定余裕だが後で警察にどうして分かったのとか突っ込まれると面倒なのでそもそも調べていない。知らなければ言う必要もないから調べない。
「……ヒーローが俺達を捕まえに来るんじゃないのか?」
「そうなったとしてもワープで逃げればいいんじゃないの? それに例えばこうやって……君たちを縛り上げたとしてだよ」
「うお! なんで俺ぇ!? 当然だな!」
メスガキの〝個性〟で持ち上げられるトゥワイス。ふわふわと天井付近に漂っている。
「これで通報して、キミたちを刑務所にぶち込んだとしたら、ボクが怒られるの。それが今の社会のルール。分かるかなぁー。不自由な部分が違うだけで、ヒーローも
ひょい、とトゥワイスを椅子に座らせ解放する。トゥワイスは何が楽しかったのかメスガキに笑いかけたが、覆面だったのでいまいち伝わらなかった。
「まぁ事情聴取はされるだろうな。正直に
コンプレスはメスガキと楽しげに話している。彼は怪盗として全国指名手配されているが、人的被害を出したことはない。つまり最悪捕まっても数年で出所できるのでヘラヘラしている。ゴミカス!
「捕まったキミらはそう主張するだろうね~。厚意でお悩み相談室をやってあげてるんだけどなぁ~? 恩を仇で返そうなんて本当に最低! 面倒ばっかりかけるんだから」
「ま、
「不合理だよねぇ。もっとスピード感のある制度に変えてさぁ、バシバシと進めていきたいんだよボクは! そのために必要なのは実績! キミたちはその礎になるんだよ! 分かった?」
他人の人生を燃料にしようとするメスガキ。誰かを思い出しますねぇ。
「ホーリーナイト。お前は俺達をどうしたいんだ?」
「だから、助けに来てるんだよ? キミたちねぇ、ボクが居なかったら今後どうなったと思う?」
「居なかったら……もっと色々と活動してたんじゃないか? ヒーローへの不信感を煽ったりして、制度の脆弱性を攻撃するとかな」
「うーん、お気楽だなぁ。キミが以前連れてた『脳無』ってやつだけど。どうやって作られてるか知ってる?」
「死体から作ってるとか先生は言ってたな」
「呆れた。知っててまだそんな呑気にしてるんだ。キミたちさぁ、どう考えてもその『材料』として『保管』されてるよ?」
「……は?」
空気が凍りつく。材料。保管。人間に対して使う言葉ではない。
「脳無って死柄木が保須で暴れさせたやつだよな? 動く死体だったのかあれ。こわ。どんな超技術だよ」
実際は技術だけでは死体は動かない。〝個性〟を与える事が必要不可欠だ。〝個性〟は死体を動かせる。『先生』は胴体を両断されてもなお動いた継承者を見て、それを知った。六代目の献身を汚す最悪の発想である。
「えー……気色悪いです……」
「やーねぇ……私も死んだら使われるの……?」
「マグ姉想定甘くない? 死んだら使われるんじゃなくて、使うときになったら殺されるんだよ。設備か技術か鮮度か知らないけど、同時に制作できる数に制限があるんだろうね。キミたちが『放し飼い』されてる事は理解できたかな。このバーは素材が勝手に帰って来る生簀って事」
メスガキはいちいち言わないが『黒霧』は例外だろう。『ワープゲート』は自分が持つより他人に持たせて便利に使ったほうが良い。『逃走』を重視するならなおさらだ。実際はそれに加えて『ワープゲート』の〝個性〟は手がモヤになるため『AFO』が使用不可になる可能性があり、試すリスクが大きすぎるという事情もある。『強奪』『譲渡』は出来るが『破棄』は出来ないからだ。
「いやー、緊迫してきたな。どうすんの、リーダー。俺は言いがかりじゃなく十分にありえると思うぜ? 実在した都市伝説のスーパーヴィランなわけだろ、八相縁起さんとやらは」
コンプレスは言葉とは裏腹にワクワクしているようだ。巨悪との戦いになりそうでテンションアップしているのだろう。そうそう、
「し、死柄木! そんな事させないよな!? 俺は嫌だぜ!? 良いじゃねえか! ずっと仲間のために戦えるぜ!」
チート〝個性〟持ちのトゥワイスはかなり焦っているようだが、逃げる気はないようだ。彼にとってはもうここは最終到達点のどん詰まり。〝個性〟を失うよりも、死ぬよりも、孤独を恐れている。
「脳無はアイツから貰ったって言ってたよね。どうしてあれはキミの命令を聞くの? まさか友達の死体だから頼みを聞いてくれるなんて言わないよね」
「……命令を聞く理由は……『先生』がそう命じてるからじゃないか……どうなんだ黒霧」
「そうですね。『八相縁起』がそう命じています。元々死柄木弔の言うことを聞くように作ってる個体は……個体は……居ないはずダゼ」
当の『黒霧』は死柄木弔のために作られた『脳無』の特殊個体……『抹消』を持つ脳無を作ろうとしたら失敗して『雲』とかいう要らない〝個性〟が手に入ったけど「高学歴の雄英生だから弔の教育用脳無の素体にちょうどいいや」と作ってみたら従順で頭も良くてレア〝個性〟まで合成できたという奇跡みたいな人権URキャラだ。
「ずーっとアレに命を握られてたことは実感できたかな、弔くん。『八相縁起』の〝個性〟は何? もう義理立てする必要ないよね? さっきのしょうもない自慢話である程度見当はついてるけどね」
「〝個性〟を奪ったり、与えたりできるって言ってた……」
「やっぱり。どうやって奪うの?」
「黒霧、どうなんだ」
「えぇ……今ここで教えるわけ無いでしょう。あとで死柄木弔にだけ教えます」
当然の返答だ。メスガキの予想はただの予想であり彼女にとって都合の良い想定でしか無い。そもそも黒霧はもう10年以上『先生』に仕えているし、『ワープゲート』を奪うつもりがないことを骨の髄まで知っている。それほどまでにこき使われてきているので。『崩壊』だって同様だろう、と考えている。
「今言え」
「はい。掌で身体に直接触れることで奪います。与える場合も同じです。……いいんですか、死柄木弔」
「何の問題がある? ここに居る奴らには聞かせて警戒させないといけないだろう?」
「そうではなくホーリーナイトに聞かせてよかったのですか? 今だってこちらから攻撃したらおそらく
「黒霧お前まだ分かってないのか? ゲームが変わってるんだよ。こいつを取ったやつが次の世界の仕組みを決められるんだ。トロフィーと戦おうとするんじゃない」
「それは……そうかも知れませんが、彼女は
「何を見てたんだお前は。ずっと俺がやってるだろ。トークコマンドで説得するんだよ。『先生』はもうこいつの逆鱗に触れているらしいから、先は長くない。俺に付け、黒霧。ホーリーナイトに曲がりなりにも対抗できるのはお前の『ワープゲート』だけだ。『崩壊』は効かなかったからな」
確認したのは前回の邂逅でのことだ。ちなみに『崩壊』が通用しなかったことは『先生』には報告していない。というか最早あたりさわりのない情報しか上げていない。先生の情報源は死柄木と黒霧の報告のみなので、この二人が口裏を合わせるとどうしようもないと言うか、虚偽報告が上がってくるなど考えもしていない。
「死柄木弔……私はあなたの教育係です。しかしそれを命じたのは」
「うるさい。俺に付け」
「はい」
そういうことになった。製造の段階で「死柄木弔に従うように」というコマンドを入力されていること、それに加えて黒霧が先生より弔のほうが好きな事も合わさり、優先順位はとっくの昔に決定していたのだ。
「随分人のこと好き勝手言ってくれるじゃん? ボクはボクのための世界を作るんだよ。都合よく利用できるとかおめでたいこと考えてる?」
「動画でヒーロー殺し相手に言ってたよな。良いヴィジョンがあれば取り入れるって。結果的に俺にとっても都合が良くなるようにそれをすればいいだけだろ」
「まぁ、そうだね。獄中からファンレターでも送ってきたら読んであげるよ。改めてはっきり言っておくけど、キミたちさっさと刑務所入ったほうが良いよ? 八相縁起が『脳無』をけしかけて来たら死んじゃうでしょ。目をつけられてないかも、っていう希望的観測に命を賭けるのはやめなよ。どんな〝個性〟を持ってるか知らないけど、ヒーローから逃げられる程度には有用なんだよね?」
「俺の『二倍』で逃げるくらいはできるんじゃねえか? 成す術ねえな!」
「動く死体なら殺しにはならないだろ。頭抉って返り討ちにするさ」
「死体の血は飲みたくないですねぇ……」
脳無の脅威度。その一般的な認識はこんなもんである。ヒーローが数人がかりで倒した。そんな話だけ聞いていて、オールマイトと殴り合える頭のおかしいスペックをしているなどと思っていないので危機感は薄い。
「ああもう……何なんだよキミたちはさぁ。馬鹿すぎるでしょ。そんなに
「行くとこないですし」
「俺が俺でいられる場所はもうここしかねぇんだ!」
「どこに居るかは私が自分で決めることよ。でも心配してくれてありがと♡」
「命の危険、上等だよ。ご先祖様もこんな気持ちだったのかねぇ」
「俺は逃げるけどな。仲間じゃなくてブローカーだし。それに厳密に言えば俺は
「ホーリーナイトはどこにでも行けるし、何にでもなれるから分かんないだろ。どこにも行けず何にもなれない、でも何かになりたい、そんなやつらで世の中はいっぱいなんだよ。黒霧、ホーリーナイトと義爛を送ってやれ。それじゃまた。荼毘によろしくな」
「あら? ……どうしたの新斗さん」
夕暮れ時。夏休みで閑散とした雄英高校の職員室で仕事をしていたミッドナイトの背後に、いつの間にかしょんぼりしたメスガキが立っていた。
「ミッドナイトせんせ~……ヤなことがいっぱいあったんです……ぎゅーってしてください……」
「はい、ぎゅー。……何があったのかしら? 私で良ければ話を聞くわよ」
仕事を放り出してメスガキの要望に即座に答えるミッドナイト。そのうえ自分からメスガキのために時間を割こうとするなど、ヒーローの献身性というものは底なしなのだろうか。
「う~っ……USJからこっち、ボクはずっと追いかけてた
「え!? ……確か『死柄木弔』だったかしら? 貴方そんな事してたの? 危険すぎるわ!」
ミッドナイトは寝耳に水だったらしくものすごくびっくりしている。
「いえ……死柄木弔の裏にいる『先生』です……危ないことなんてないですよ? プロヒーローのバックアップもありますし、ボクは無敵なので……」
プロのバックアップがあると聞いて、個人で勝手にやっていることではなく何らかの作戦であることを察したミッドナイトは少し安心したようだった。
「もう。身の危険じゃないわよ。貴方も身に沁みたでしょう? 心が危ないの。貴方相手に戦闘をふっかけてくる
「はい……とんでもない自惚れでした……ボクは無敵だから何でも出来るって思ってたんです。でも違いました……死にたがってる人は……どう救ければ良いんでしょうか……」
ぽつぽつとカワイイ妹(実際は妹ではないがミッドナイトの脳内ではそうなっている)が話す社会の落伍者どもの話を聞いて、学生レベルじゃないのは知っていたけど悩みまで学生レベルじゃないのねぇ、とミッドナイトは少しだけ現実逃避の思考をしてしまった。
「なるほど……そうね、私から言えることは一つね。貴方が気にすることじゃあないわ」
「え……?」
「トガヒミコって娘は子供みたいだから例外として、他は全員成人してるんでしょう? 自分の人生はもう自分で決められるはずよ。現に彼らは自分の居場所をそこだと定めているわ」
実際問題探そうと思えば他の道を探すことも出来るだろう。高確率で死刑だろうと思われるマグネはともかく、まだ殺人まではしていないトゥワイス、コンプレスの二人と、未成年のトガヒミコは表に戻ろうと思えば戻れる。死柄木弔に至ってはなんと彼の行為は『有罪』とみなされない可能性が高い。14歳未満の少年に刑事責任を問う法は存在しないからだ。実家の崩壊、チンピラ2名の殺害、これらが有罪となる可能性はゼロである。法的には教唆した梅干しおじさんが「間接正犯」という殺人の実行者となる。あくまで有罪とならないだけで、『少年院での保護』等はあり得たが。
「……あの人達のこと、全然理解できませんでした……ボクは心が冷たいんでしょうか……かわいそうだ、って寄り添う気にならなかったんです。馬鹿だなぁ、って思いました」
「……いいのよ、それで。私も
「そんな事無いです……あんな奴らキライだ……」
更にギューッと抱きついてくるメスガキ。ミッドナイトの身体能力はプロヒーローとしてはほぼ最低クラスだ。いや、プロヒーローとして恥ずかしくないレベルではあるのだが、メスガキのスーパーパワー相手だと分が悪くほんのりと圧迫感がある。しかしミッドナイトに恐怖はない。メスガキのことを信頼しているからだ。
「よしよし……良いのよ、新斗さん。ホーリーナイトじゃない時があっていいの。ヒーローだって人間だから、迷ったり弱音を吐いたりすることもあるわ。救うべき人たちには見せないようにしないといけないけど、私にはたくさん見せてね」
「うん……ねぇミッドナイトせんせー……もし……もしお母さんが生きてたら……こうやって抱きしめてくれたでしょうか……?」
「ええ、きっとね。でもホラ、貴方のお母さんに申し訳ないから、私は……お姉ちゃんがいいわ」
「……えへへ。お姉ちゃん」
お分かりいただけただろうか? 真の恐怖とはこのように日常に潜み、ふとした瞬間に顔を出す。
「なにやってんですか先輩」
白けた冷たい声が降りかかる。ヒーローとして一仕事終えて帰ってきた『イレイザーヘッド』だ。事情は分からないがいい感じに慰めてるっぽかったので当初は相澤も暖かく見守っていたのだが、話の方向が怪しくなってきたのでツッコむことにした。
「おかえりなさい、イレイザーヘッド」
「相澤先生! お仕事お疲れ様でーす!」
メスガキはだいぶ元気になったようだ。ミッドナイトの慰めに加えて、相澤までやってきたのでツインテもいつものようにちかちかふわふわしだした。
「はい、どうもありがとう。それで、何があったか俺にも聞かせてもらえるか、新斗。察するに例の件だろうが……」
相澤はメスガキが『
「なるほどな。意気揚々、自信満々に首を突っ込んで勝手に傷ついた挙げ句、ミッドナイトに縋り付いて慰められたというわけか」
話を聞いた相澤は心を鬼にして冷たく言い放った。そう。雄英が、というより話を聞いた根津と相澤が認めざるを得なくなってしまった事情。『本人の強い希望』があったのだ。スペックで言えば十分に可能であり、能力や状況から言って適任であることはイレイザーヘッドも分かっていた。だが同時にまだ早いことも相澤には分かっていた。成果は出るだろう。いい経験にもなるだろう。本人の危険性は低いを通り越して皆無。もちろん想定外の何かというものは世の中に存在するものだが、次の瞬間に宇宙が爆発するかもみたいな心配をしてもしょうがない、そういうレベルの危険性だ。それでもまだ早い。15歳の少女にさせることではない。いや、させたくなかった。願望だ。世界がもっと優しくあってほしかったという、益体もない祈りだ。
「うぎゅ……相澤先生つめたい~……『先生』……『八相縁起』とか名乗りましたがどうせ偽名でしょう……奴はハチャメチャな危険人物なんですよ? 早くぶちのめさないと」
メスガキの言葉にため息をつく相澤。メスガキのモチベーションというか敵意は『脳無』に……そしてその作成者に向いている。調査が進んで判明してきたそのおぞましい実態は、10年以上ヒーローとしてやってきた相澤から見ても他に類を見ないレベルだ。(メスガキ以外への)危険性も最大級だと勘が告げている。合理的に考えるなら学生でもなんでも使って一刻も早く捕らえるべき、ということは『イレイザーヘッド』も同意見ではあるが……。
(……まだ気にしてるんだろうな。俺の怪我のことを。いや、自惚れでなければ俺が慕われるにつれて敵意も増大していったのだろう。そして委員会はそれを把握していたようなフシがある)
彼女を都合よく使おうとしている、という印象はない。むしろ自由に振る舞わせたがっている。委員会は新斗黎乃に免許なしでヒーロー活動をさせるための各種の手続きや許可の簡略化を通知し、その後しばらくして今回の件へ参加する事についての学校の許可を求めた。特権、特例、特別扱いのオンパレードだ。流石に免許の発行までは無理だったのだろうが、そうしたがっているのが丸わかりだった。一刻も早く正式なヒーローにしたいのだろう。
(……こいつが主導したようには見えない。しかし流れの全てが新斗に都合よく……というより、『ホーリーナイト』をお膳立てするためのものに見える。……委員会は次のオールマイトとして新斗に目をつけたんだろうな)
『敵連合』の調査は順調に進んでいる。遠からずアジトの位置も割れるだろう。だが、それだけでは意味がない。現在分かっている限り、
「せ、せんせ~……怒ってますか……? おね……ミッドナイト先生は気にするなと言ってくれましたが、相澤先生はどう思います……?」
「……怒ってないよ。そうだな、構成員についてはまだ洗い出しが終わっていないが、お前の話と合わせると某『八相縁起』と敵対する可能性は高そうに思える。そうなれば十中八九死ぬだろうな。『脳無』は一介の
「ですよね……段取りを台無しにしてでも捕まえるべきだったんでしょうか……あの人達が死んじゃったらどうしよう……」
死柄木弔たちは、脳無制作者を捕まえるために見逃されている、というか優先順位を下げられている。自首でもしてくるならまぁよし、免許無いし本命が逃げちゃうから無理して捕まえるのはやめてね。そんな感じの緩いお達しがメスガキに来ていたのだ。
「ふむ。その点についてはミッドナイトと同意見だな。お前が気にすることじゃない。まぁ、なんとか出来そうに見えるから気にするのは分かる。お前の手は広いからな。だが、連合の奴らはお前の手を拒むだろうし、救いにはならないだろう」
「救いにはならない……? 命が助かるのにですか……?」
「ああ。どう生きるかはどう死ぬかでもある。そいつらはもう死に方を決めてるように思える。だから新斗、お前が捕縛して無理やり生かしても、奴らにとってそれは人生を奪われるのと同じことだ」
「……」
難しい顔をして黙り込むメスガキ。相澤もしばらく黙っていたが、ぽんとメスガキの頭を撫でて口を開いた。
「だが、別にいいんじゃないか、それで」
「え?」
「
段取り云々より相澤にとってはメスガキの悩みの解決のほうが重大なことだ。なんなら『八相縁起』の捕縛より緊急性が高いとすら思っている。メスガキが「もうどうでもいいや!」と暴れ出したら世界はおしまいなのだ。
「……そんなんでいいんですか?」
「いいんじゃないかしら。大体あなたは彼らの感謝や未来の希望が欲しいわけじゃないでしょう? 身近な場所で命が失われるということそのものが嫌なだけ。違う?」
「……そうかも……」
「今この瞬間も世界の何処かで誰かが死んでいる。それと同じだ。お前のその自慢の翼で世界中の死を身近にするつもりか? そんなものは人間の生き方じゃない。お前なら出来るのかもしれないが、やめろ。いいな?」
「分かりましたっ! 相澤先生っ! ミッドナイト先生っ! ありがとうございます!」
こうして世界の危機は未然に防がれた。イレ先とミッナイがここでよちよちしてなければいずれ世界中の人間がメスガキの〝個性〟に纏わりつかれて人生のすべてを管理されるハメになっていただろう。メスガキの〝個性〟は分倍河原との接触により完全に限界を失い無限増殖出来るようになってしまっている。元から天文学的な量を出すことが出来たが、それでも限界はあった。だがもうなくなった! 『個性特異点』というものがあるのならばそれはすでに過ぎ去っており、未来がどうなるかは幼稚な自我がどのように育つかに委ねられている。闇だらけのこの世界……メスガキは何を思い、何を為すのか────。
独自設定とか
・裏社会のフィクサーを100年:150歳くらい?表でやんちゃしてた時期もあるよね多分。
・表への影響力:全盛期ほどではないがまだまだゴリゴリにある。警察や公安委員会はお掃除されてしまったので干渉しにくい。
・やはり君か:節穴というより妥当な推測と思われる。
・面の皮:一応嘘はついていない。
・メスガキに有効そうな個性:みんなで最強の脳無を作ろう!
・事情聴取:されるけど公安から「やめろ」って連絡来て「はい」ってなる。
・黒霧の優先順位:高度な自我があるので本人が決められる。
・バー:お気に入りの場所だったけど他の拠点も作らなきゃな。
・荼毘によろしく:どこで何してるんでしょうね?
・法律:エリちゃんも親父消してる。マイクも生まれた時鼓膜破壊してる。
・姉を名乗る不審者:初名乗り。
・『普通の人々』:“個性”に振り回されている人々。
・『イグナイター』:誰なんでしょうね(すっとぼけ)
・公安の動き:メスガキのことを詳しく知っている誰かが公安に居るんでしょうね。
・イレ先:メスガキには気にするなと言っているが本人は結構気にするタイプ。
・オールマイト:『八相縁起』かぁ~。死柄木だから信楽たぬきから取ったのかな?
・死柄木:『AFO』が自分の苗字を『死柄木』としていることをオールマイトは知らない。