ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
8月に入った夏休みの某日。待ちに待った林間合宿の日が訪れた。久々のクラスメイトも、休み中も頻繁にあっていた友人も居るが、全員揃っているというのはやはり特別感があるものだ。AB組両方の女子勢は早めに来て合宿5日目にあるというプール訓練の水着についてきゃいきゃいと話している。
「ん、A組揃ったみたいだね。物間、行くよ」
「別にいいでしょ、お礼なんて。ていうかもう当日に言ってあるから!」
「何いってんの、そういうもんじゃないでしょ。つーかあんたが黙ってたせいでしょーが」
B組の委員長、拳藤一佳が物間を連れてA組のバスの方に近付いてきて、パン、と手を鳴らして注目を集めた。『大拳』の〝個性〟を併用したわけでもないのにクソデカい音が鳴り全員の視線が集まった。
「や、A組の皆。ちょっとお時間貰っていい?」
「拳藤くん! なんだろうか? もうすぐ集合時間だから先生のお話が始まると思うが!」
「うん、すぐ終わるから。それじゃあ改めて……A組の皆、ありがとうね! 物間の補習、すっごく手伝ってもらったって聞いてるよ。心置きなく林間合宿楽しめるのはA組のおかげなんでしょ? 本当にお世話になりました」
そう言ってぺこりと頭を下げる拳藤。B組の生徒は物間が何も言わなかったせいで、手伝いに来ることが出来なかった。知っていたらB組からも参加者がでたことだろう。物間は不貞腐れている、というほどではないがちょっと気まずそうに佇んでいる。教師陣もこころなしか目を逸らしている。補習を前倒しできたのは雄英としてもすごく助かったのだが、合理的虚偽でプレッシャーを掛けていた手前、大っぴらにお礼ができていないからだ。まぁその分合宿の食事の質を上げたり無いはずだったデザートを追加していたりと見えない報酬は出しているのだが、だからといって感謝を表明出来ないのはまた別問題なので。
「ああ、その事か! 気にしなくていいぞ! 同じ学校の仲間じゃないか! なあ皆!」
「そーそー! なんだかんだで楽しかったよ!」
「僕は別にうっ」
「素直に感謝しろっつーの。それこそB組全体の恥になるじゃん」
ずびしっ! っと気絶しない程度のツッコミを入れる拳藤。なんなら気絶するより痛いやつだ。物間は痛みだけを最大化したような拳藤のスーパーツッコミに悶絶してうずくまっている。
「物間はこんなだけど、合宿はせっかく同じ場所で色々やるみたいだしさ、いい機会だし仲良くしてね。それじゃまた」
「ああ! 是非!」
「よろしくねー!」
動けなくなっている物間をズルズルと引きずって帰っていく拳藤に(物間をスルーして)爽やかな気持ちになるA組一同。ヒーロー科だけあって世話焼きだらけであるため拳藤には共感を覚えるし、筋をきっちりと通していく所も好感度アップだ。
「姉御肌イイ……!」
「お前はなんでもいいんじゃねーか」
「先生に怒られる前に控えとけよ?」
そんな話をしていると時間になったのでちょっと前に来ていたイレ先とブラキンがそれぞれのクラスの前に移動し、話を始めた。
「はい、みんなおはよう。久しぶりの生徒は久しぶり。休みボケはしてないだろうな? 本日より林間合宿が始まります」
いつも通りの相澤に安心感を覚える生徒たち。ヒーローは危険な稼業なので、知らない間に大怪我をしていてもおかしくない。そのようなことになってなくて良かったと皆は思った。
「事前のしおりで連絡していた合宿先ですが、変更になりました。親御さんにはこちらから連絡しておくから安心するように」
「え!? 変更!?」
「なんでいきなり?」
「何かあったんですか?」
USJでの襲撃。その後の某生徒への接触。さらには潜入捜査。敵の動きが活性化していることに加えて目立ちまくる生徒もいることからマスメディア等もかなり注目しているようで、例年通りの合宿所ではトラブルが起こることが予想されたため、変更と相成った。とはいえ長々と説明しても効率が悪いので相澤は端的にまとめた。
「理由は色々あるが、一言で言えば敵対策だな。それじゃ飯田、八百万、あとはよろしく」
「はい! 皆! A組のバスはこちらだ! 以前決めた席割りで並んでくれ!」
「もし覚えてらっしゃらない方がいらっしゃいましたら言ってくださいまし」
テキパキと進めていく委員長と副委員長。クラスメイトはこれも久々の感じだなぁとしみじみとする。休みもいいが、夢に近付いていくことを実感できる日々は充実していると再確認出来る。とはいえ、バスに乗り込んでの移動時間の車内はやはり高校生らしい大騒ぎとなった。
「音楽はないんですかせんせー!」
「わー! カワイイお菓子! 食べていいの? ……おいしー!」
「僕寝坊しちゃって朝食食べてなくてお腹空いているんだ☆」
「ダメダメ、そういう遠回しのアピールじゃあげないよっ!」
「とっても美味しそうだねレディ。お一ついただけませんか☆」
「いいよーっ! お茶子ちゃん渡してあげて!」
「はい、落とさないようにね、青山くん」
「メルシィ☆」
「しりとりしようぜ!」
「馬鹿まだはえーだろしりとりは。いよいよやることが無くなったらにしとけ」
(浮かれ過ぎだろう……例年と比べてだいぶひどいな……)
毎年1年生の引率をしているイレイザーヘッドから見て、今年の奴らは特にガキンチョ感がある。一体何故でしょうねぇ? 不思議! 一瞬だけ注意をしようかと思ったがやめた。これから一週間こいつらと寝食をともにするのだ。体力を温存しておかないと若さについていけない。それに合宿が本格的に始まれば疲労困憊になって静かになるだろう。今だけだ、今だけ……そう言い聞かせて仮眠を取る。
「障子くんと口田くんもどーぞっ!」
「いいの? ありがとう。わぁ、とっても美味しい……」
「これは美味そうだな。感謝する」
最後尾のロングシートに女子5人。メスガキが駄々をこねたのでそんな感じになった。そして障子と口田は特に希望を出さなかったので逆に女子の近くに配置された。そう、最後尾に5人で座っているのでとある生徒が一人で2シートを占有している。尾白猿夫だ。別に影が薄いからではなく、尻尾が邪魔なのでそうなった。おっと、こういう事を言うといろんな団体がうるさいので気をつけよう。
「ウィ~……」
青山がうめき声をあげる。鏡を見すぎて乗り物酔いをしたようだ。おせっかいなA組の面々は当然心配をし、皆でしりとりをして気を紛らわせようとしたり、クイズを出してみたり、峰田が若かりし頃(今も若い)に挫折しそうな小説家の夢を応援した結果その人物はプロになったというちょっといい話をしたが、青山の体調は一向に良くならなかった。
「それじゃあ私が気が紛れる話をするわね」
そう言って蛙吹がした話は幼い頃に山で遊んだという話。これから林間合宿に行くというときにピッタリだ。親戚のお姉さんとの川遊び、ひまわり畑、蝉取り。知らない女の子との出会い。小さなあぜ道、幻想的な鳥居。楽しく遊び、秘密の場所を教えてもらい、二人で一緒に蛍を見た。そんな、ノスタルジックで何処か切なさのある思い出話にしっとり温かな空気になる一同。
「……親戚のお姉さんが探す声が聞こえて、私たちは急いで山を降りたわ。お姉さんに「一人で遊んでいたの?」と聞かれたから「この娘と遊んでいたのよ」と言って振り返ったらそこには誰もいなかったわ」
いきなりホラーになった。淡々とした語り口でその山に神隠しの伝説があったことや、後で鳥居や秘密の場所を探しても見つからなかったことなどを話すと、バス内の空気はヒエッヒエの阿鼻叫喚となった。梅雨ちゃんは光のコミュ障なのでこういうことをする。青山の体調は横になっていたことで多少回復したが、まだ本調子ではないようだった。
「そろそろバスが停まるぞ。降りる準備をしておけ」
休憩所もなにもないパーキングエリアに停まるバス。眼前にあるのは山、山、山。待ち構えていたのは二人のプロヒーロー。『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』のメンバーである『マンダレイ』と『ピクシーボブ』だ。決めポーズで自己紹介をした二人にクソナードがハイテンションで解説を加え、活動期間が12年と言及した所でピクシーボブに顔面を掴まれ黙らされた。わからせ完了だ。
「あの山のふもとに宿泊施設……『マタタビ荘』があるの。今は9:30。早ければ12時前後かしらね?」
「あっ……これつまりそういうアレですか?」
「バスに戻……っても意味ないよなぁ……」
「い……いきなり始まるのかあっ」
「あの……オイラトイレに行きたいんですけど……」
なんとなく察してしまった生徒たちは先程までのハイテンションとは打って変わってげんなりしている。
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼ぬきね!」
「まぁ諸君もそろそろ慣れてきただろ。それじゃあ頑張ってくれ」
地面が勢いよく盛り上がり崖の下の森に落とされる生徒たち。とはいえこの土……『土流』は勢いはすごいがフカフカになるように調整されていて崖下にしっかりと運ぶとともにクッションにもなるという素晴らしい性能を持っている。生徒たちは怪我一つなく森に降り立つこととなった。ただ一人、メスガキを除いて。
「あのー、ボクはなんで置いていかれたんですか? え? これどゆこと? さっぱりわからないです……」
「新斗。お前があいつらと一緒に居ると課題にならん。お前には別にやってもらうことがある」
「せ、先生……またボクだけ仲間外れですか……?」
「ん……そうだな、順序がおかしかった。すまん、新斗。お前とあいつらを一緒に鍛えるようなカリキュラムを組めなかった。これは雄英の力不足だ。迷惑をかけるな」
流石にちょっとかわいそうだったかな、とぽんぽんと頭を撫でる相澤。生徒との距離感に気をつけている彼ですらこれ。メスガキの頭はやはり相当さわり心地が良いのだと思われる。そんな一幕を、何故かこの場にいる謎の少年が睨んでいる。
「うぅ……り、林間合宿ぅ~……」
「全部というわけじゃないし、レクもあるから勘弁してくれ。それではピクシーボブ、あいつらのことはお任せします」
「お任せー! そっちも頑張ってね!」
「あっちにはテレパスしとくね。ホラ洸汰、移動するよー」
マンダレイに『洸汰』と呼ばれた少年は、最後にメスガキをギロッとにらみつける(イワークと同等のこうげき種族値を持つポッポですら使えない強力なわざ)と、彼女の後について去っていった。メスガキには こうかが ないようだ……。
「それじゃあ崖下を見ろ、新斗。ピクシーボブの〝個性〟で仮想敵……『土魔獣』だったかな、確か。それがあいつらに襲いかかっているのが見えるか?」
「えーっと、そうですね。あっ、口田くんが危な」
「まて、手を出すな」
「あう……」
「お前にやってもらいたいのはアレだ。体育祭で出してたドラゴンをB組にけしかける。どれくらい出せる? 20はいけるか?」
眼下では生徒たちが協力して土魔獣を撃破し、移動について話し合っているのが見える。響香がプラグを様々な場所に当てながらキョロキョロしていたので、メスガキが相澤の方をちらっと見た。
「……まぁ伝えてもいいぞ」
「響香ちゃーん! ボクは別口の訓練があるからだいじょーぶっ! 頑張ってねぇー!」
〝個性〟かよってくらいのクソデカボイスが森に響き渡る。響香はその声に安心したらしく、話し合いに参加しだしたのが見えた。
「えーと、ドラゴンでしたか。出そうと思えば何体でも行けますけど、ドラゴンがいいんですか?」
「ん? 他にも出せるのか」
「どんなものでもお望み通りに! なんなら見た目と動きだけなら土魔獣を丸パクリ出来ますけど?」
「……望み通りか。B組の各生徒の〝個性〟をブラドキングから聞いて、ギリギリ対応できなさそうな感じの強さを20体、という要望はどうだ」
ギリギリ対応できる、ではないところが雄英の教育のキモである。その場で成長しろ!
「やってみまーす! ブラドキング先生はどこに居るんですか?」
「ここからバスで30分ほど行った先のパーキングエリアで似たようなことをする予定となっている」
「なるほど。時間差がそのまま距離の違いとなるわけですか」
「そゆこと。A組は早く始まる代わりに遠いってわけだな。それじゃあ……」
「バスに30分乗って行くんですか? 一緒に飛びましょうよぅ。ボクが運びますよ!」
「……まぁそのほうが合理的か。虎とラグドールが待機している場所に先行してお前の『弱点』を見てもらうとしよう。……見えるといいんだが」
「開けっ! 『
ズズズ……と特に必要のない演出を経ていつドラが出てくる。相澤は「この宣言は本当に必要なのか?」と疑いジトっとした目で見ている。実際要らない。まぁ技名を叫ぶのはプロヒーローだとそれなりにやる意味があるので止めるまではないが。今から何をするのか、どのようなことが起こるのか、あるいは何をしたのかをわかりやすく民衆に伝えるのは重要なことである。
「じゃっ先生も乗ってくーださいっ!」
「……円盤とかでいいんじゃないのかこれ」
「先生ってば本当に骨の髄までアングラヒーローですねぇ!」
はぁ、とため息を付いて捕縛布を器用に使ってなんか以前見た時よりでかくなっているドラゴンの背に飛び乗る。男の子ならわくわくするシチュエーションのはずなのだが相澤はシラケ顔だ。メスガキの方はウッキウキなのと対照的である。ドラゴンが翼を羽ばたかせるというこれまた要らないモーションを挟み空へと飛び立つ。
「せんせ~! どうですかぁ? 空の旅は!」
相澤を背もたれにするという恐れ知らずのムーブをしながらメスガキが呑気に問いかける。まぁ生徒が勝手にビビってるだけで相澤はこのくらいの距離感ならTPOを弁えていれば怒ったりはしない。
「いや……これどうなってるんだ。移動速度と風速が明らかに釣り合ってないだろう」
ものすごい速度で移動しているのに髪がなびく程度の風しか感じない事に違和感を覚える相澤。ダメ元で本人に聞いてみることにした。
「え~……う~ん……内緒ですよ……?」
こそこそと相澤に耳打ちするメスガキ。こんな空で一体誰が聞いているというのか。まぁでかい声で秘密をべらべら喋るオールマイトのようでなくてよかったと考えるべきかもしれない。
「……そういうことか。俺達はまんまと騙されていたわけだな。はぁ……」
「だ、騙してないです! 言ってないだけですぅ~!」
オールマイトからは何も学んでないなどと豪語していたが、誤魔化しテクは継承しちまったようだなぁ! 継承者を名乗っても虚偽判定が出なくなってよかったね。
「まぁ、俺にも……というか誰にも明かさないほうが良かったと思うが。然るべき理由があれば俺はこれを開示するぞ」
「せんせーの判断を信用しまーす! そうじゃなかったら教えませんよっ!」
「……他に知っている者は居るのか」
「お父さんとお母さんだけですねっ!」
サラッと言われて少しめまいがしたような気がする相澤くん。なんで……? というのが正直な気持ちだ。流石にメスガキに慕われているという事自体は認識していたが、そんなに? とちょっと戦慄している。本人は教師として相手をしただけなどと供述している。イレ先が頼れる大人なのが悪いんだよ……。ちなみにメスガキの〝個性〟のひみつを聞いて教えて貰うには好感度より信用が重要だ。つまりどれほど仲良くなっても上鳴なんかは教えてもらえない。
(この先何らかのきっかけで露見することもあるかもしれん。その時に「知るべき立場の人間はすでに知っていた」というのは重要な事だ。……それに選ばれたうちの一人が俺か……はぁ……)
そんな事起こってほしくない。そうなった時に降りかかる苦労はどれほどのものか。そんな事を考え、ため息を付きながらも相澤はそれを受け入れた。そういうとこだぞ。
「……もう着いたのか。早いな」
「もっとのんびり空の旅しても良かったんですけど、先生もお仕事中ですから!」
「どうもありがとう。それじゃ降りるか」
空中からヒョイっと飛び降りる相澤。メスガキもドラゴンをぱっと消して同じようにひゅーんと落ちる。ネコ科の獣のようなしなやかさでしゅたっと着地する相澤をみてぎょっとする『虎』と『ラグドール』。
「にゃん!? なんで空から!?」
「イレイザーヘッド……だよな?」
「ええ。生徒の〝個性〟で飛んできました。ホラ、自己紹介しろ」
わざわざ二人を挟んで相澤と反対側に着地したメスガキの幼稚ないたずら心に呆れながら促す。
「はーい! 雄英高校の1年A組! 新斗黎乃です! 本日より一週間、よろしくお願いしまーす!」
「わあ! いつの間に!? あちきは『ラグドール』だよー!」
「……素晴らしい隠密だな。なるほど、体育祭での派手な演出は擬態か。我は『虎』だ」
そう言うと二人はいそいそとポーズを取り宣言した。
「猫の手 手助け やって来る!」
「どこからともなくやって来る……」
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!! (二人Ver)』
それを見たメスガキは〝個性〟でポップな感じの星やハートを周囲に浮かび上がらせ、きゃるーんとした感じのポーズを決めて宣言した。
『満たされた安眠を! わくわくする明日を! ドリームヒーロー☆ホーリーナイトが聖なる夜をお届けしまーすっ!!』
「にゃにゃっ! これは……逸材!」
「ほう……1年生ですでにここまで仕上がっているとは……」
メスガキとワイプシは波長が合うようだ。こうした名乗りの重要性に対する認識が一致しているとも言える。イレイザーヘッドは知識としては知っているが実践していないのでどうしてもいまいち共感できない部分である。
「ご歓談中の所すみませんがラグドール、こいつを『サーチ』出来るか試してみてもらえませんか」
現在は約束の時間より前、つまりお仕事の時間ではなく単にワイプシの二人の厚意に甘えている状態なので相澤もこういう言い方になる。もちろん今断られてもこの後すぐやってもらうことになるのだが相澤はそういった部分もきっちりするタイプだ。
「はーい! ……だめね! 登録されにゃい!」
「まぁボクに弱点なんかありませんし! しょうがないですねっ!」
むふーっ! という顔をするメスガキ。ほっぺたをつまんで引っ張りたくなるもちもち顔である。相澤も落胆はない。今までの経験上まぁそうなるだろうな、と思っていたからだ。彼女はあらゆる〝個性〟に認識されない。相澤の『抹消』。ミッドナイトの『眠り香』。スナイプの『ホーミング』。心操の『洗脳』。匂いはあるのでハウンドドッグの『犬』では居場所が分かるが、これも偽装と目されている。おおかた何かの再現だろう……。相澤は何の『真似』をしているかぼんやり見当がついているが、何かということにしておく。
「まぁ、そうだな。仕方がない。今回の合宿の目的は〝個性〟の限界を伸ばす事。なぜ今かと言うと『仮免』を取るために急いでるんだが、お前はもうそのレベルにない」
プロと遜色のない活動をさせても能力的には問題がない。というかスペックで言えば彼女を超えるヒーローは存在しない。流石に経験がないため現役のプロより活躍できるようになるには今暫く掛かるだろうが、それも時間の問題である。ラグドールの『サーチ』で弱点でも出てくればそれを改善させる予定だったが、あえなくおじゃんとなった。
「すでに将来どういうヒーローになるか、そういうことを決める段階に来ていると言える。例えば俺だと敵対策専門、ミッドナイトだとオールジャンルだな。目指しているヒーロー像はあるか?」
「世界一立派なヒーローですっ!」
「それは知ってる。どうそれを実現するか、イメージできているか。どうなったらお前は自分がそうなったと思える?」
「W.H.Aがボクを世界一のヒーローだと認定したらですね! 気分ではなくしっかりと
W.H.Aとは世界ヒーロー協会のことで、名目上は各国のヒーローを管理する組織は全てこの協会に入っている事になっている。とは言え平時はそれほど大した権力と言うか強制力は持っていない。有事の際にどの国がイニシアチブを取るかとかそういうくだらないことで揉めないように設立された、権威はあるけど権威しかない組織だ。
「ワオ! でっかい夢にゃん!」
「将来的にはワールドワイドな活躍をするつもりなのだな」
「オールマイトだってそんな認定は貰ってないぞ。というかそんな認定自体が無いぞ」
認定されていないだけでまぁ全世界アンケートでも取ればオールマイトが一位を取るのではないだろうか。日本だけではなくヒーロー大国のアメリカでも人気なのと、自国の犯罪率をガッツリ下げたという輝かしい実績は全世界で評価されているのだ。
「ボクが欲しがってるから作る! そうなるように精進していきまーす! ビルボードチャートの世界版を作るように働きかけてもいいかなぁとも思ってます! 平時はW.H.Aも暇してるみたいですし!」
一応各国へヒーローを派遣したり、逆に派遣を要請したりと言った事もできるが、審査したけど駄目でしたーとなる場合がほとんどだ。ヒーローは自国のことに手一杯なのが世界の現実で、ヒーロー飽和社会とか言ってる日本が異常なので。あとヒーロービルボードチャートGL (仮称。Global)はいろいろな火種になりそうなのと、世界各国で事情が違うため話だけが立ち上がっては立ち消えて、というのを何回も繰り返している。そんな話をしているとパーキングにB組を乗せたバスが到着し、ぞろぞろと生徒たちが降りてきた。
「あれ? なんでここにA組の生徒が。ていうかここ何もなくない?」
「新斗だけ? ……なーんかやな予感がする」
物間は単純に疑問に思ったようだが、拳藤は賢いのでもうなんとなく何故パーキングで止まったのか、何故メスガキがここに居るのかある程度推測出来てしまったようだ。ワイプシの二人が例のポーズで自己紹介をするとB組もちょっとテンションが上がったが、ブラドキングが「それじゃあここから森に降りてあの山の麓にあるマタタビ荘を目指せ」と言うと「うへぇ~」という感じにテンションダウンした。
「ブラキン先生ー! A組みたいにふっ飛ばしましょうか~?」
「うーむ……いや、B組はしっかりと納得の上で進めることにする。提案には感謝するし、あくまで今回のケースは、ということだから今後も何か思いついたら聞いてくれるか」
「ほえ~……組によってかなり違うんですねぇ。わっかりましたーっ!」
「A組は突発的なアクシデントへの対処を重視しているようだな。それも大事なことだが、手続きをしっかりと進め予定通りに行動するのもヒーローには必要なのだ。さてお前達、そうは言ったがここでのんびりしていればしているほど、食事の時間が遠のくぞ! さぁ、覚悟を決めて行け!」
ブラキンは協調性重視だしB組贔屓だが、甘やかすことはしない。むしろ指導内容は厳しくすらある。「分かってるだろう? 行け」というのはある意味強制的に吹っ飛ばすより厳しい処置だ。何せ自分の意志でそこそこの高度を飛び降りなければならないのだから。
「んー、骨抜に先行して降りてもらって地面柔らかくしてもらって飛び降りよ! ただ一気に行くのもリスクがあるからある程度まではボルダリングしよっか。吹出、崖に沿ってオノマトペ出して。凡戸、それ固めて」
「りょ。それじゃお先」
「了解! 小さく掴みやすい文字いっぱい出すか。凡戸、準備出来てる?」
「おけー。いつでもどぞ」
「それじゃあ……キキキキキキキキキキキキキキキ……」
「準備してもらってる間にチーム分けしよっか。新斗が居るのは多分アレだ、体育祭で出してたドラゴンを森の中でけしかけてくるんだと思う。ワイプシの二人の個性詳しく知ってる人いる?」
「ラグドールは『サーチ』で人の位置がわかる。虎は『軟体』でどんな隙間にも入り込める、ってやつ」
「サンキュ。この鬱蒼とした森の中で不意打ち仕掛けてくるんだろうね。宍田を軸にワイプシに備えるチームと、骨抜を軸にドラゴンを抑えるチームを……」
「あのドラゴンに勝つの無理じゃね? 俺等の〝個性〟全部ボコボコにされただろ?」
「体育祭のときはね。まぁ成長した今もまだ勝てないんじゃ、って分析は多分正しい。でもこれ合宿だから、私たちを一方的にぶちのめして終わり、ってするはず無いよ。どうやるかは見当つかないけど、間違いなく勝ち筋を残したやり方になる。全力で対処することだけ考えて」
ブラキンはウンウン、と頷きそうになったのを必死に我慢した。元々はラグドールと連携してイレ先・ブラキン・虎で散発的に襲撃をかける予定だったが、ドラゴンも追加できれば更なる受難となるだろう。そうこうしているうちに準備が終わったらしくテキパキと崖下に降りていくB組。統率された動きで僅かな時間ですっかり降りきってしまった。
「ブラキンせんせー! どんな敵がB組のみんなにふさわしいでしょう? 細かいのいっぱいですか? 強いの一体ですか?」
「ドラゴンが来ると決め打ちしている……と見せかけてアレはブラフだな。今頃下で真の打ち合わせをしながら移動していることだろう。拳藤ならば更に情報を集めてワイプシの残りの二人がA組の方へ行っていることも予想する。そしてA組と条件を揃えるだろうとも推測するはずだ。つまり土魔獣……複数体の襲撃に対応するような隊列を組んでいると思われる」
「なるほどー! それじゃあでーっかいドラゴン……飛ぶ意味無いかぁ、ゴーレム的なやつを出しましょうかっ!」
「いや……拳藤も言っていたが、この合宿の目的は向上だ。読み合いをして出し抜くのは目的ではない。そもそもサーチで隊列は分かるしな。拳藤ならこちらがそう考えることまでも読んでるだろう。予定通りに土魔獣くらいの強さで人数と同じ数の20体。一度に襲撃させるのは5体、4回に分けて行う。どうだ、可能か?」
「おまかせくださーい! 今どのあたりにいますか、ラグドール?」
「もう500mほど進んでるね、優秀優秀! ブラドキングの言う通り複数体の敵に対応できるよう4人一組で5チーム作ってるぽいにゃん!」
「以心伝心って感じですねっ! それじゃあ偽魔獣……フェイクビーストっ! 森を突き進み、奴らに恐怖を与えよっ!」
与えよっ! などと威勢のいいことを言っているが、全て手動だ。そのため本来なら森の中で視界が効かないのでフェイクビースト(笑)になるはずである。しかしわざわざ土っぽく偽装したフェイクビーストは明らかにメスガキの視線が通ってない生徒を認識し、追跡している。何らかの方法でB組の動きを把握しているようだ。
「それじゃあ我もそろそろ追いかけて殴る蹴るしてくる」
ワイプシで一人ジャンルが違う男……元女の虎。彼……でいいのだろうか、彼はこれからB組を走って追いかけて魔獣を警戒している生徒たちを襲撃しなければならない。もう本当に大変だ。さらに言えば一応護衛も兼ねているという仕事の過積載である。かわいそう……。ブラキンと相澤はメスガキの魔獣が思ったより融通がきいたので過剰になるだろうと待機になった。というか虎も待機で良かったのだが、真面目で面倒見のいい虎は生徒たちと接したいらしかった。決して殴る蹴るの暴行を加えたいわけではない。多分。
少し時間は巻き戻る。ここはゴミクズどものクソ会議の現場。
「ドクター……真面目に考えてるかい?」
某病院の地下で今までパクって保管しておいた〝個性〟を吟味する『八相縁起』。一緒にいるのはもう何十年もの付き合いがあるドクターだ。今は二人で対ホーリーナイト用の脳無にどんな〝個性〟を詰めようか話し合うという何度やっても楽しい作業中である。
「至極真面目じゃが? ワシが見つけてきたこのかわいい『子犬』の〝個性〟を持つ脳無ならいきなり攻撃されることはない。あの娘の隙を突けるはずじゃ」
心外だ、と言わんばかりの声色で病院に来ていた患者の〝個性〟を紹介し、有効性をアピールするヒゲオヤジ。まぁ実際いきなり攻撃されることはないだろう。脳みそ剥き出しでなければだが。
「あのね。僕が一度持つことを忘れてないか? ドクターの言う通りにして僕の手が子犬になったら元に戻れなくなるかもしれないんだぜ? 一時的に子犬に変身できる〝個性〟じゃないだろう、それ」
『八相縁起』の与奪には手が……より正確に言うなら手の中央にある『穴』が必要だ。そして〝個性〟の『破棄』は出来ないので手が不可逆の変化をすると『AFO』が再使用不可になる可能性がある。もちろん問題なく犬の手……前脚に穴が空く可能性もある。だが、気軽に試すにはリスクが大きすぎる。
「あっ……。ま、まぁその時はワシが改造してなんとかするし……それに子犬になれば顔面も再生するかもしれんぞ」
「……うーん、なるほど。一旦別の姿を経由するというのは考慮に値するな。ちょっと考えておこう。……そういえば弔の仲間にちょうどいい〝個性〟の持ち主が居たね」
老害はろくなことを考えない。タイミングもアホほど悪い。軽い気持ちのダメ元で提案したが最後、もはや決裂は決定的なものとなるだろう。『答え合わせ』ってことか? 最初からそういうつもりだったんだな? 図星か? となることは間違いない。まぁそもそも他人などこの魔王志望の無職にとっては駒でしかないので時間の問題だったと言える。だが、この魔王(笑)は気付いていない。『王』も所詮駒の一つ。『
独自設定とか
・プール訓練:水着が必要としおりに書いてある。
・合宿先変更:当日まで明かさないなら通知も当日でいいじゃん。
・急に喋りだしたじゃん:なんでやろなぁ……。
・うるさい団体:こわぁい。
・座席:原作とちょっと違う。
・梅雨ちゃんのお話:酔い止めとしてホラーを話す蛙。ひどい。
・マタタビ荘:原作通りでオリジナルネームとかではない。
・ハブガキ:かわいそ……。
・にらみつける:伝説のポケモンも使用する由緒正しいわざ。
・B組の移動:原作だとどんな感じだったんでしょうね。
・『サーチ』できない:なんでやろなぁ……。
・匂い:若い女性の匂い。
・メスガキの弱点:大人に真剣に想われる事。
・世界版チャート:無かったはず……あったっけ?
・B組の統率:なんかもっといい作戦あるかもだけどとにかく拳藤さんが姉御としてバッチリ指揮した、と思ってもらえると助かります。
・メスガキの視界:どうやってるんでしょうね(すっとぼけ)
・勝手に使った個性:AFOがパクってチワワになるの想像して笑っちゃったのが俺なんだよね。