ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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ここは逆ギレして誤魔化すべきなのでは……いやしかし……


『握り拳と握手はできない』

 午前中はオールマイトが洸汰の〝個性〟の訓練をしたり、アドバイスをしたり、ウォーターホースの思い出話を聞いたり、オールマイトの爆笑エピソード(本人の主張)を話したりしているとすぐにお昼時になった。クソナードが知ったら血涙を流して羨ましがるだろう。ちなみにメスガキはちょいちょい生徒たちの訓練を見て回ったり、八百万と一緒に葉隠の訓練用の発光体をライトっぽく調整したり、八百万と一緒にトレーニング器具を作ってみたりとまぁまぁ忙しくウロチョロしていた。

 

「そろそろお昼ですね、オールマイトっ! 洸汰くん! このおじさんが美味しいご飯食べに連れて行ってくれるって!」

 

「エェーッ!? 急にそんな事言われても……大丈夫だけどね! HAHAHA! それじゃあ昼食にするか! 新斗少女も来るよね?」

 

「えっ? ……うーん、他の人は誘わないんですか?」

 

「いや、他の生徒たちは合宿中だからね! 新斗少女はインターン扱いだから外食にも連れていけるけど!」

 

 新任のオールマイトにとっては初めての後輩(?)である。ごはん奢りたい欲があるのだ。あとこの5年で『他人がいっぱい食べているのを見てニコニコする』というちょっと悲しい趣味を身につけてしまっているのもある。

 

 ホーリーナイトちゃん今日もかわいいネ(^_^)

 一緒にごはんたべヨ! ナンチャッテ(*´ω`*)

 お返事まだカナ❓️(/ω・\)チラッ

 

「まぁお昼なら良いかぁ……あ、いや、洸汰くんはどう思う? オールマイトと二人がいい?」

 

 昼食はじわじわ疲れてきた生徒たちが黙々と食事をして午後に備える感じで会話は少ないというか、休憩時間自体がほぼなく飯食って一息ついたら各自さっさと訓練再開しろって感じの寂しい栄養補給なのだ。ヒーロー科の闇。

 

「……ホーリーナイトも一緒がいい!」

 

 洸汰くんはぼんやりとメスガキがオールマイトを連れてきたんだろうなぁと察している麒麟児なのでメスガキへの好感度もだいぶ上がっている。というかすでにワイプシメンバーに次ぐくらいの位置にいる。彼にとっては好きなヒーロー二人とのごはん、というわけだ。

 

「おっけーっ! それじゃあマンダレイと相澤先生に外食してくるって言いに行きましょうか!」

 

「あっ……私がマンダレイに言いに行くから相澤くんにはホーリーナイトが報告してきてくれるカナ?」

 

 SKEDADDLE SMASH!! すなわち、逃走! 意外かもしれないがオールマイトは結構な逃げ癖がある。面倒なことや嫌なことは後回しにしがちなだらけたおっさんなのだ。あまりそう見えないのは平和の象徴であることからは逃げないから。つまりいわゆる『肝心なときにしか役に立たない』タイプの人間なのだが、オールマイトが頑張って改善するまでの世の中はあまりにもクソだったので、彼の人生の大半は肝心な時だったのだ……。

 

「はぁーい! それじゃあまた後で!」

 

 メスガキはイレ先との会話に抵抗など一切ないどころかむしろ機会さえあれば話したいと思っているのでツインテをちかちかさせながら生徒たちの訓練の補助をしている相澤に近づいていく。

 

「相澤せんせーっ! お昼ご飯についてなんですけどっ!」

 

「ん? まだ少し早いが、話とは何だ」

 

「オールマイトと洸汰くんと一緒に外食しに行く予定なので許可くーださいっ!」

 

「……外食か。いや、お前なら大丈夫か。移動はホーリーナイトが担当してこの場所で合宿が行われていることは慎重に秘匿すること。そしてなるべく遠方で食ってこい。出来るな?」

 

「了解でーす! オールマイトの奢りなので六本木だと思いまーす!」

 

「……あまり洸汰くんが緊張しない所が良いんじゃないか。いや、オールマイトがいる時点で個室ありのセキュリティがしっかりした場所に行くしかないか。はぁ……」

 

 お高い場所やオールマイトの馴染みの店しか選択肢はないのだ。八木俊典はちょっと浮かれて失念しているが、トゥルーフォームで食事みたいな誤魔化しは洸汰くんがいると使えないし、じわじわ体格も回復してきているのでそのうち見た目でバレるようになる。

 

「それじゃあ行ってきまーすっ!」

 

「……ああ、気をつけろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「開けリミナルゲートッ! 顕現せよッ! レインボーアイズスターダストブラックドラゴンッ!!」

 

「わぁっ!! すごい!」

 

 洸汰くん、大はしゃぎ! メスガキの〝個性〟によりズズ……とゲートから出てくるっぽい演出をしながら現れたドラゴンに大興奮だ。オールマイトの肩に乗ってたときに匹敵するぐらいに眼をキラキラさせている。このくらいの年齢の子は剣とかドラゴンとかオールマイトが大好きなのだ。つまり互角。オールマイトはむむっ! っとちょっと焦っている。ドラゴンに対抗しようとするいい歳したおっさん。恥ずべき痴態だ。

 

「の、乗っていいの!?」

 

「もちろん良いよーっ! 自分で登る?」

 

「うん!」

 

 べたっと伏せをしたいつドラの体をよじよじと登る洸汰くん。とっても楽しそうだ。オールマイトは念の為登り切るまでいつでも動ける状態で待機した。万が一滑ったり落ちたりしたときに怪我をしないようにだ。まぁメスガキが〝個性〟でキャッチするだろうことは分かっているが、だから備えなくて良い、とはオールマイトは思わない。

 

「おとなしいんだね……」

 

 登りきった洸汰くんは不思議な感触のドラゴンをぺちぺちと触ったり撫でたり。そうこうしていると彼が座っている場所がもこもこと盛り上がったあと変化しふかふかのクッションの椅子になる。洸汰くんはちょっと驚きつつも感触の気持ちよさにすぐにリラックスしてクッションに身を沈めた。

 

「賢くてカワイーでしょっ! それじゃあオールマイトは徒歩でお願いします!」

 

「HAHAHA! 了解だ! ってウソだろ!? 私も乗りたい!」

 

「しょうがないにゃあ……いいよ」

 

「やったーっ! ありがとう新斗少女! とおっ!」

 

 とおっ! などと言っているが別にそこまで高いわけでもないので特に要らない掛け声だ。そう。オールマイトは洸汰くんに見てほしかった。マイトジャンプカッコイイ! そう思われたかった。だから注目を集めようと掛け声を放ったのだ。このおっさんはそういう幼稚なところがある。

 

「なんですかその掛け声は。注目集めようとしてません? 今からお忍びでこっそりごはん食べに行くの分かってます? 分かってないですよねっ! 分かってたらそんなしょうもない掛け声出しませんっ!」

 

「ご、ごめんて。オジサン可愛いコたちとのお食事なんてマジ久々だから張り切っちゃって。勘弁してちょ」

 

 洸汰くんはひょいっと後ろに乗ってきた伝説のヒーローがしどろもどろになって謝っているのがおもしろくてくすくす笑った。カッコイイヒーローとしての一面を見たあとだからギャップもすごくてなおさら楽しい気持ちだ。すっごくカッコイイのに気さくでちょっと情けないところもあるヒーロー。すっごく可愛いけど口が悪くていじわるで、でも大事なことをおしえてくれたヒーロー。僕、やっぱりヒーローが大好きだ! パパとママも……大好きだ! 

 

「お店の場所分かる? あ、私の行きつけの店だけどオフレコで頼むぜ!」

 

「さっき調べておきましたよーっ!」

 

「おふれこ?」

 

「フフフ、私のひみつきちさ! 内緒にしておいてくれよ、出水少年!」

 

「うん、わかった! オールマイトのひみつだ! へへ……」

 

 オールマイトのひみつということは、つまり大体みんな知ってるし、いずれバレるということだ。今から行く会員制のお高いフレンチはまだバレていない数少ない名店だが。オールマイトは軽い気持ちで外食……麓に降りてなんか軽くつまもうぜみたいなクソボケムーブをしようとしてメスガキにメタクソにロジハラされるという一幕を経て久々に行くことになったかつての行きつけの店にワクワクが止まらない。

 

「すっごく美味しいから楽しみにしておいてくれ! それじゃあしゅっぱーつ!」

 

 年賀状だけは送っていたが、例のアレ(いぶくろぜんてき)以来一度も行けてないので電話予約というか急遽空いてるか確認したときはドキドキした。たまたま空いてたうえにかつてと全く変わらない温かい対応にオールマイトは感激マイトである。ちなみにたまたま空いていた、と店側は言っているが久々に来るオールマイトのために予約いっぱいのところを調整したのでかなりの過密スケジュールになった。

 

「なんでオールマイトが仕切るんですか!? このコは可愛い女の子と夢見る男の子の言うことしか聞きませーんっ!! さ、洸汰くん、出発の号令だっ!!」

 

「うん! れっつごー!!」

 

 ぎゅーん! と空に飛び上がりギロッポンの方へ飛んでいく。生身で空を飛ぶことは、〝個性〟全盛の今でもそれなりに珍しい。まだ年若い洸汰にとっては人生初めての経験だ。ハジメテもーらいっ! 5分もしないうちに到着し景色を楽しむ余裕はほぼなし。近くの風景はあっという間に置き去りにして目まぐるしく変わる遠景に少年は目を白黒させた。『オールマイトが一緒にいる』という安心感がなければ流石の洸汰くんも不安になったかも知れないが、彼の「HAHAHA!」という笑い声に気づくと洸汰もはしゃぐことが出来るようになった。

 

「いやぁ、速いな! マッハ2くらい出てた?」

 

「大体そのくらいですね! オールマイト、このビルの屋上で合ってます?」

 

「ああ! バッチリだ! さぁ、それじゃあついておいで、二人とも!」

 

 ものすごい速さでたどり着いた六本木のビル街のとある屋上。慣れた調子で意気揚々とカードキーを取り出しコンソールに通すとビル内に入っていくオールマイト。メスガキはスタスタと何歩か進んだが洸汰はドラゴンが名残惜しいようでペタペタと撫でている。オールマイトはあえて気にしない素振りでゆったりと歩いた。

 

「洸汰くん行こっ!」

 

 ぎゅっと手を繋ぐメスガキ。すべすべぷにぷにでマンダレイとは違う感触に洸汰は少し驚いた。

 

「わ……ぷにぷにしてる」

 

「ぷ……ぷに? そんなぷにってるのかなボクの手……」

 

「……ゆびながくてきれい」

 

 誰に習った? ピクシーボブか? メスガキが正直な感想をお気に召さなかったことを敏感に察知しワイプシの誰かに習ったであろう褒め言葉を繰り出すマセガキ。きみ素質あるよ。メスガキは上機嫌でオールマイトについていきギロッポンの超高級店での食事が始まった。

 

「この店はメニュー表がなくおまかせコースのみでね! だが今まで一度も満足できなかったことはない素晴らしい名店さ!」

 

 当然アレルギーの有無などは事前に伝えている。しかし好物などはあえて伝えていない。いや、伝える必要がない。オールマイトはこの店で嫌いだった食材が大好きになった経験があるからだ。

 

「えー? ボク自分で選びたかったなぁ~。せっかくの高級フレンチなんだから久しぶりにテルミドールとか……」

 

「……」

 

 メスガキは不満を表明したがマセガキの方は緊張もあるのか黙っている。そもそもオールマイトに食事を奢ってもらうとかいうスーパーサービスをして貰っておいて文句を言うなどこの世でメスガキくらいしかいないのではないだろうか。かっちゃんも流石にオールマイトの奢りにまで文句は言わない。お礼も遠回しにしか言わないけど。

 

「本日は特別なお客様と伺っております。こちらはシェフが腕によりをかけた『特製・山の幸と海の幸のワンプレート』でございます」

 

 この店は六本木にある会員制のグランメゾンで本来であればコース料理をじっくりと味わう格調高い名店だ。だが燕尾服をビシッと決めたウェイターがクロッシュを持ち上げたそこに出てきたのは、黄金色のオムライス、市場ではなかなか見ないようなサイズのエビフライ、トリュフ香るデミグラスソースで彩られたハンバーグ、様々な山菜がふんだんに使われたスパゲティ、そしてトマトソースから拘って作られたチキンライスが大きな一つの皿に美しく配置されたもの。すなわち『お子様ランチ』であった。

 

「わぁ! すごい! 美味しそう!」

 

 少し不安そうな様子だった洸汰くんの目がまたしても輝き始めた。オールマイトの肩車=メスガキドラゴン<お子様ランチだ。僅差ではあるし、緊張から解放されたというギャップの効果もあるだろうが、この瞬間ひっそりとオールマイト&メスガキは敗北した。誰ひとりそれに気付かなかったのが幸いだ。

 

「こちらは『季節の野菜のムース』、『フォアグラのテリーヌ』、『コンソメロワイヤル』、そして『オマール海老のテルミドール』でございます。よろしければ左手のアミューズから時計回りの順でお楽しみいただけますと幸いです」

 

「わお! ちょうどテルミドールを食べたい気分でした! 一度に出してくださってありがとうございますっ!」

 

 オールマイトが何らかの要望を伝えていたのだろう。通常であればコースとして順番に出てくるそれが一度に出てくること、つまり通常の形式を知っている上でのお礼をメスガキが伝えると、ウェイターもニッコリと微笑んだ。高級店ともなればスタッフにも相応に誇りがあるものだ。どのような順番で食べようと文句など言うはずはないが、本来の事情を汲んでもらえるのは嬉しいものなのである。

 

「こちらは『特製・フォアグラと牛フィレ肉のロッシーニ風・グロスポルッション』でございます」

 

 ドーン! と効果音がでそうなレベルでクソでかい皿に山盛りにされた肉。肉。肉。オールマイトがこんなときしか出来ない無茶な注文をしたものだ。「前食べたあれ、美味しかったから山盛りで出すとかできる? なーんてね!」という軽口を店側は「お任せください」と最高級のプライドで受けてしまった結果実現したものだ。肉の調達、調理、提供に至るまでに様々な〝個性〟が駆使された狂気の一品である。

 

「おお! これこれ! 一度山盛りで食べてみたかったんだ!」

 

 オールマイトはこの店を幾度となく利用しているが、それは日常ではなく特別な機会である。そもそも彼は自分の贅沢など全くしない。普段はかなり質素に暮らしていて、人前というか見える部分はそれなりに派手に、というお金の使い方をしている。あんまり貧しくても象徴たりえないので、常識的な贅沢ぐらいは外向けのアピールとしてする必要があるためだ。つまりこういった高級店は通常は他者との会食などでしか利用しないので、このような無茶な注文をしたのは初めてである。6歳児とメスガキに見栄張ってもしょうがないからね。むしろ6歳児の方はオールマイトすげー!! という目をしているし。メスガキはジト目です。

 

「この店の料理は〝個性〟で冷めないようになっているから焦らず食べていいぞ! では頂こうか!」

 

「い、いただきます!」

 

「いただきまぁす」

 

 洸汰くんは手を合わせて元気良く、メスガキはいつもの威勢が嘘のように静かに食前の言葉を述べた。和やかな雰囲気で和気あいあいと食事を楽しむ。ちょうど食べ終わり少しゆっくりしているときに出てきたデザートまで楽しむと、いい感じの時間になっていた。

 

「オールマイト、ごちそうさまでした!」

 

「ご、ごちそうさまでした! ありがとうございました!」

 

「とても美味しかったな! さぁ、そろそろ戻ろう! 新斗少女、帰りも頼むぞ!」

 

「はーいっ! あ、まだちょっと時間あるので寄り道していいですか?」

 

「私はぶっちゃけオフだからいくらでも構わないが、洸汰くんはどうかな?」

 

「大丈夫です……どこ行くの、ホーリーナイト」

 

「ウォーターホースゆかりの湖……子留馬(ねるば)湖だよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 メスガキドラゴンの高速移動は恐ろしく速い。なにせメスガキの最高速度はマッハ2どころではなく、その気になれば日本中どこでも秒である。まぁ秒まで短縮できるのは本人の移動だけしか考えなかった場合のやつなので、実際にこの速度で移動する機会は訪れないというか、そんな機会が来てしまったら世界が終わるときだが。ともあれまたしても5分もしないうちに目的の湖の畔にある土産物屋にやってきた。騒ぎになるとアレなのでオールマイトはちょっと変装して湖を見てる。

 

「あ、あったあった! 子留馬まんじゅう!」

 

「ふーん。ホーリーナイトはおまんじゅうが好きなの?」

 

 店内に入ったメスガキは早速お目当てのものを見つけたらしく店を見回るでもなくさっさと数箱購入し、個別販売のものを一つ洸汰に差し出した。

 

「ふふーふふふふ! はいどーぞ! 食べてみて!」

 

「……え? これ……もしかして……!」

 

 少し震えながら恐る恐る食べる。口に入れた瞬間ぽろぽろと涙がこぼれだす。

 

「んぐ……うぅ……」

 

 懐かしき味。『ウォーターホースまんじゅう』だ。しゅわっとしたラムネ餡が入っている水まんじゅうで、見た目もかなり特徴的なので包装を開けた時から薄々気付いていたが……。

 

「マンダレイが教えてくれたんだーっ! ヒーロー名は使えなくなっちゃったけど、すごく好評だったから名前とパッケージを変えて今でも作ってるって!」

 

 殉職したヒーローの関連商品というものは大抵の場合売れ行きが下がるし、事務所ごと畳まれる事が多いので在庫が尽きたらそのまま販売終了する。ものによっては本人たちの〝個性〟由来のものが入ってたりするので物理的に生産できなくなるものもある。『ウォーターホースまんじゅう』は普通に味の研究をして……息子が好きと言った味をそのまま採用しただけの普通のお菓子だったので、問題なく継続できた。

 

「売上の一部は今でもキミのものとして入り続けてるんだよっ! 愛情はお金じゃ買えないけど、お金が愛の在処を教えてくれることもある! ねぇ、ご両親が誇らしいでしょう?」

 

「うん……うん……!」

 

「キミは何も失っていない! もう得ることができなくても、消えていない! そうでしょう?」

 

「うん……! ありがとう、ホーリーナイト……」

 

「あはは! ボクは何もしてないよーっ! 素敵なご両親だね、洸汰くんっ!」

 

「えへへ……そうなんだ……かっこよくて、やさしくて……大好き!」

 

「わかるー! それじゃあ、ちょっと湖見て帰ろうか!」

 

「うん! あ、この湖にはなぞの未確認せーぶつが居るんだ! あっちに銅像があるんだよ! 行こう!」

 

 二人がツッテケテータッタカターと()ッシー像に近寄るとちょうどオールマイトがその側で観光客といちゃついていた。握手を求められたり写真を撮られたりその逞しい胸板をぺちぺちされたりとやられたい放題だ。生きるフリー素材オールマイトは何されても全然怒らないのでちんちんとかもクソガキが平気で触ってくる。Oh! いけないぞ少年! と優しくたしなめるがちんちんから手が離れない。スゲー! と大はしゃぎして聞いてない。親が気づいたらすぐ止まるのだが親はオールマイトの胸板をぺちぺちするのに夢中だ。親子すぎる……。

 

「なんかお取り込み中っぽいね!」

 

「うん……」

 

「ははは、そうだな。懐かしい場所に来てみりゃあまさかのオールマイトだ。いつかやりてえと思ってたが、日頃の行いってやつか?」

 

 オールマイトに匹敵するぐらいの体格のマッチョの男性がいきなり会話に入ってきて何やらあやしい言葉を放った。

 

「あーあー! 洸汰くん、この人の言葉は聞いちゃダメだよ! 耳が腐るからね!」

 

「え、なんで」

 

 メスガキに両耳を塞がれるマセガキ。低めの体温は洸汰にとっても心地よいものだ。

 

「おいおいひでえな。ん……お前、もしかして新斗 黎乃か?」

 

「えぇ? 怪しい仮面のおじさん、ボクのファンなのかな?」

 

「興味がねえわけじゃないが、もっとすげえ獲物があっちに居るからなぁ。弱体化したっつーが、どの程度のもんか見せてもらおうじゃねえか」

 

 そう言うとスタスタとファンサをしているオールマイトの方へ歩いていくマッチョ。近付きながら羽織っていたでかいサマーコートを放り投げ、仮面を外す。左目には、大きな傷。そこにポケットから取り出した義眼をぐいっとはめ込む。それを見た観光客たちはぎょっとして距離を取る。

 

「よーう! オールマイト! 俺にもファンサしてくれや! なぁ? いいだろ! なっ!!」

 

 そう言うと男の上半身が剥き出しになった筋繊維に覆われて肥大化する。異様な雰囲気に気付いた観光客たちは怯えて身が竦み上がり動けない。それほどの圧。

 

「新斗少女! 市民の皆様の安全を確保してくれ!」

 

「はーいっ!」

 

 オールマイトは当然のごとくその戦意に気付いていた。だからファンサをしながらもさり気なくすぐに飛びかかれるように、そして周りの人々を守れるようにポジショニングをしていた。(※ ちんポジの事ではなく立ち位置のこと。ここは流れを踏まえると勘違いしやすい部分なので注釈が必要だと思った。しておかないと邪推されてオールマイトのブランドに傷がつくからな……)

 

「はっはー! もういい歳なのに勘は衰えてねぇってか!?」

 

 目にも止まらぬ速さでオールマイトに殴り掛かる男。オールマイトは先制攻撃はしなかった。その必要がないと知っていた。なにせその気になれば一緒にいる小さなヒーローはこの大男(オールマイトより背は低い)など瞬く間に拘束できるのだから。つまり、この程度の小物は彼女の手を煩わせるまでもない。先代No1(オールマイトの中ではもうそうなってる)の自分が倒してやろう。男の肥大化した右腕を片手で受け止め掴むと、そのまま地面に叩きつける。オールマイトの想像通り、地面は一瞬で黒く染まり、傷つかなかった。

 

「がああっ!! へ、へはは! やるなぁ!! これがNo1か!!」

 

 オールマイトに掴まれた拳……というより拳の形に固めた筋繊維を解き拘束から逃れバックステップする。油断していたわけではない。最大威力で放った最も強いはずの拳だった。強かに地面に打ち付けられたダメージは筋繊維を通してそれなりだが、戦闘に支障はないと男は冷静に判断する。

 

「ホーリーナイト! そのまま周囲の被害を抑えてくれ!」

 

「了解でーす!」

 

 メスガキは不満そうには見えない。彼女が戦えばすぐ終わるが、はっきり言って現状はオールマイトとメスガキの二人にとっては何一つ危険性のない、ただの食後の軽い運動だ。つまり今やってるのは遠巻きに見ている市民の皆様に安心していただくためのパフォーマンスそのもの。オールマイトも本気になればワンパン……は厳しいかも知れないがまぁ10発は掛からないだろう。だがそれは見るものに凄惨な印象を与える戦いになるし、残り火の消耗も激しくなる。そう、オールマイトは新しい戦い方を身に着けようとしているのだ。残り火を節約しながら素の身体能力メインで戦う。そういった戦い方だ。

 

「過激なファンの君は……どこかで見た顔だな!? 名乗ってくれてもいいぞ!」 

 

 見覚えがあるということは戦闘力が高いと目される指名手配犯のはずだ、とオールマイトは考える。記憶力がめちゃくちゃいいわけではないオールマイトは一応頑張って全国の手配書やまだ捕まっていない(ヴィラン)のリストなどを確認しているが、流石に全てを暗記できているわけではない。ただ他のヒーローの手に負えなさそうな……つまりヒーローを殺害している(ヴィラン)は優先的に覚えることにしている。おそらくそういった(ヴィラン)だと当たりをつける。ちなみに左目の傷のせいでピンときていない。「現在は左目にウォーターホースがつけた傷があるはず」という情報と傷のない手配写真のリンクが上手くいってないのだ……。

 

「名前だぁ? どうでもいいじゃねえかそんなの! 楽しもうや!!」

 

「私は戦いを楽しんだことなど無い! 忌むべきものだ! だからこそ私がやる!」

 

「そうかよ! じゃあ……楽しませてくれやぁああああ!!!」

 

 後先考えない全身肥大。温存などしている場合ではない。最大威力は通じなかった。必要なのは限界を超えた威力だ。どれだけ傷ついてもノーリスクな外付けの筋繊維ではない、本来の筋肉そのものを肥大させる。筋肉そのものを増やすことが出来るようになってからはやってなかったそれ。原初の使い方。『筋肉増強』の"個性"を持つ男、『今筋(いますじ) 強斗(ごうと)』の原点。皮膚の上に筋肉を纏うのではなく、皮下の筋肉の強化。皮膚が裂け血まみれになりながら飛びかかる恐ろしい怪物。『血狂いマスキュラー』。

 

「ガァアアアアアっ!!」

 

「ハアアアアアアッ!!」

 

 最も原始的な戦い、殴り合い。オールマイトもマスキュラーも格闘術は自己流。この〝個性〟全盛のご時世、実用的な格闘術というのは殆ど生き残っていない。腕が4本あったり関節の位置が違ったり尻尾や角がある相手と戦うための技など存在しないからだ。正拳突きなどの正しく威力を伝えるタイプの技術は今でも当然有効なのだが、そもそも習える場所が〝個性〟登場以後は激減しているため習いにくい。我流同士の戦いは一見互角に見えたが本当に詳細に見ることが出来るならば分かる。片方は的確にガードしつつ攻撃を加え、相手に一方的に痛打を与えていく。オールマイトの圧勝だ。

 

「がっ!!」

 

 顔面に一発いいのが入ったマスキュラーが蹌踉(よろ)めく。オールマイトはその隙を見逃さずラッシュを加えた。一撃一撃の威力はそう大したことはない。骨が折れるほどの威力ではない、と言い換えてもいい。つまりオールマイトは怪我をさせないように丁寧に戦っているのだ。

 

「DETROIT……SMASHHH!!!」

 

 タメを入れた右ストレートを放つ。ぶっちゃけ威力は変わらず大ぶりにしただけだ。見ている人たちに「とどめを刺しましたよ」とアピールするために最後の一発をそれっぽく演出しただけである。

 

「ふぅー。私も歳かな! 全盛期ならば5発も掛からなかっただろうに!」

 

 大歓声が上がる。衰えてなおこの強さ! レジェンドヒーローここにありと示す、圧倒的余裕。服はボロボロだが、オールマイト本人は全くの無傷。そしてその相手の(ヴィラン)も、先程までは全身から血が吹き出していたが、しぼんだ今は出血は止まっていて、ぐったりと倒れ伏して気絶している。市民たちは知っている。ヒーローが時に傷だらけになり、あるいは(ヴィラン)も凄惨な姿になることを。だがやはりオールマイトはすごい! 無根拠な信頼ではない、圧倒的実績がそこにあった。

 

「お疲れ様ですオールマイト! ……あっ! こいつ! 今筋 強斗!! 『血狂い』だッ!!!」

 

 ようやくまともに顔面をまじまじと見たメスガキが声を上げる。その声を聞いて少し離れたところで見守っていた洸汰が駆け寄ってくる。

 

「……!! パパとママの……(かたき)……!!」

 

「オールマイト! よくできました! ボクが褒めてあげますよ!! ボッコボコですねっ!!」

 

「オールマイト……! ありがとう……」

 

 メスガキは自分がやったら拘束して終わりだったので、合法的にボコボコにできたオールマイトの判断を称えているようだ。おいヒーロー、おまえそれでいいのか? 洸汰くんは複雑な顔をしながらも、オールマイトに感謝の言葉を伝えた。

 

「え、あの子もしかしてウォーターホースの……?」

 

「あっ……ホントだ……どうするんだろ……」

 

 周りの観光客や地元民はウォーターホースとマスキュラーのこと、そして洸汰のことを知っていた者もいたらしく、少しざわつき始めた。両親の仇敵(あだがたき)。無防備に横たわる憎い相手。

 

「洸汰くん! ここってほら、水辺だからさ! こいつの顔面が濡れてたって、誰も気にしないよ? ムカつく間抜け面に、君の〝個性〟……『水鉄砲』ぶっかけたら? 怪我さえさせなきゃみんな見なかったことにしてくれるよ!」

 

 静まり返る。その通りだ。心情的にも、ここに居る誰もがそのくらいする権利はあると思っている。両親を殺された小さな子供が、ささやかな仕返しをしたところで誰がそれを咎めるだろう? いや、咎める権利を持った人物を奪ったのは倒れ伏すこの男なのだ。やって当然。いや、やるべきだ。そんな空気にすらなる。少年の掌が、仇の顔面に向けられる。

 

 

 

 

「……ううん。僕は将来……パパとママみたいな、かっこいいヒーローになるんだ。ヒーローは倒れた(ヴィラン)を攻撃したりしない。そんなことしたら、ウォーターホースに怒られちゃうよ」

 

 

 

 

 義眼から流れ落ちる血。切れた口元から流れた血。血に塗れた全身。それを優しく柔らかな水で洗い流し、マンダレイが持たせてくれた清潔なハンカチで仇の顔を拭く。憎くないわけじゃない。怒りだってある。だが、追い打ちなどしない。強くなると決めたから。

 

「つよい人は赦せる人なんでしょ、ホーリーナイト……。こいつがひとを殺したことは僕が許すことじゃないから、けいむしょで反省させる」

 

「……洸汰くんっ! キミは今! まさに! ヒーローとしての第一歩を! 力強く踏みしめたんだ!! ご両親はきっと、天国でキミのことを誇りに思っているよッ!! さぁ皆様! 新たなるヒーローの誕生に祝福をっ!!」

 

「いやまったくその通り! これは将来が楽しみな逸材だな!!! HAHAHA!!!」

 

 オールマイトがクソでかい音でバチバチと拍手をするとそれに続いて拍手と歓声、そして沢山の温かい言葉がかけられた。

 

「いいぞー! ウォーターホースの息子ー!」

 

「インゲニウムちゃんもかっこよかったわよー!」

 

「ホーリーナイト? がヒーロー名みたいだな! オールマイトの弟子になったのかな? 流石だ!」

 

「ジュニア! 頑張れよー! このあたりのやつらはみんな応援してるぞー!」

 

「幼いのに立派だ! ウォーターホースの教育が良かったに違いない!」

 

「うわーん! ウォーターホースがもういないなんて悲しいよー!」

 

 地元民の中には当然ファンもいたし、彼らを悼んでウォーターホースゆかりのこの湖を訪れていた観光客だって居た。そんな人々の嘆きと悲しみが伝わってくる。それを実感し洸汰は喜びと悲しみと、誇りを抱いた。ああ、みんなが言っていたことは本当だったんだ。パパとママは、立派な人だった! 褒められるような良いことをした、素晴らしい人達だったんだ!! 

 

「皆様ご安心をっ! ヒーローは、死にませんッ! さぁ、洸汰くん! 何も失われていないのだと、世界に宣戦布告するときだ! キミの名乗るべき名を、高らかに叫べッ!!」

 

「……!! 僕は……僕は! 将来立派な、ヒーローになる! その名前は……! 僕のヒーロー名は……!」

 

 その宣言を聞いてあるものは喜び、あるものは涙を流し、あるものはおまんじゅうを彼のデビューまで売り続けると誓った。いずれその名はこの地に戻ってくる。沢山の人に愛されたその名前は、再び美しい湖の上に響き渡るだろう。

 




独自設定とか

・オールマイト構文:粛清!メスガキレクイエム。
・逃げルマイト:AFOからも逃げたしサー・ナイトアイからも逃げたしグラントリノからも逃げてる。
・イレ先の昼食:ゼリー飲料ヂュッってして終了。雄英の負の面。
・賢くてカワイーでしょ:自画自賛。
・しょうがないにゃあ:いいわけないでしょ……断らないのをいいことに!いけないことだと思わなかったのかな!もうこないで。
・とおっ:お前は八代目なんだからやぁっ!って言え。
・屋上から出入り:オールマイトにとっては日常。
・お子様ランチ:なんか多分料理漫画で見た展開だと思うんだけどタイトルが思い出せない。
・グロスポルッション:山盛り的な意味。
・狂気の一品:肉の調達とか熱をなじませたりとかでだいぶ前に予約しないと普通は無理だけどこの世界“個性”があるし科学力もすごいからなんとかなった。
・デザート:桃のコンポートとシャンパンジュレ。
子留馬(ねるば)湖:原作のウォーターホースが出たコマの後ろが湖っぽかったので。元ネタはSWのネルヴァン。漢字の当て字は我ながら気が利いてると思う。
・ウォーターホースまんじゅう:ワイプシもにくきゅうまんじゅうとか作ってたので……。
・子留馬まんじゅうのロイヤリティ:ウォーターホースに命を救われた社員が頑張って売上の3%を「味監修:ウォーターホース」とパッケ裏に記載して維持してくれてる。地元民の愛。
・ツッテケテータッタカター:ヒロアカ世界で歩くときに発生する音。
()ッシー:実在がまことしやかに囁かれている。
・マイトちんちん:アメリカンサイズ。しつけのなってないクソガキに大人気。
・マスキュラー:戦闘狂キャラは最強に挑まなきゃね。まぁもうその人最強じゃないけど(愚弄)。
・黒く染まる地面:周辺は真っ黒キラキラのファンシー空間になってます。怖くないよ。
・『筋肉増強』:原作のダツゴク時なんか守りに入ってんなって思ったので真の力があることにした。
・格闘術:尾白くんは武術が好きなんだけど文化祭の時ヒーロー活動に活きるって話は出なかったしエクトプラズム先生に『お前の動き読みやすすぎ』って言われとる……。
・水ぶっかけたら?:幼稚な試し行動。
・オールマイトの弟子:こんなデコイ出されたらどうしようもない……。次は君だ!
・誰だ君は!?:原作だとなんて名乗るんやろね。
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