ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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あのっ
本当にすみませんでした
仕事と引っ越しが重なっててですね
まだ引っ越し終わってないので次も遅いと思います
ゆるして


『嘘つきは物覚えがよくないと務まらない』

 クソナードにとって様々な〝個性〟を駆使して行われるホラー演出はまさに最高のレクリエーションだった。様々な創意工夫をブツブツと分析し、今回ばかりは意図的に響香へと伝える。恐怖を紛らわせ、少しでも楽しんでほしかったからだ。なおクソナードは「〝個性〟の解説を聞く」のは楽しいことだと思っているが一般的には別にそうでもない。とはいえ今回は結果的に悪くはなかった。恐怖とは「未知」にこそ最も刺激される。恐怖体験を「既知」へと上書きしていくクソナードの解説は響香にとってはとても効果的で、クソナードの話そのものは退屈だったがレク自体はある程度楽しめるようになったようだった。

 

「緑谷っていっつも〝個性〟の分析してるよね。やっぱヒーロー目指して昔から意識的にやってたの?」

 

「……そうだね。ノートにクラスメイトの〝個性〟をまとめたりとかしてた……っていうか今でもしてる」

 

 この辺はクソナードも複雑なところである。ヒーローになるために真剣にやっていた。それはそうだ。だが、純度100%でそうだったかと言われるとそれも違うと思っていた。そう思うきっかけになったのは体育祭。心操人使と対決した時だ。

 

(あの時、僕は心操くんに対して「鍛え方が足りないな」なんて内心で考えた。何様なんだろう。お前はオールマイトに出会うまで何をしていたんだ、緑谷出久。〝個性〟の分析をしていたといえば聞こえがいいけど、趣味に没頭していただけじゃないか。もっと早くから鍛えておけばもっと早くに継げたのに)

 

 本人はこのように後悔しているが二次性徴前にあんまりガツガツ筋トレしてもリスクが高まるばかりで大した意味はない。そんなことより適度に色々なスポーツを経験したり水泳なんかの全身運動をして神経系を発達させる事のほうが大事だ。その点はかっちゃんパパと一緒に軽く登山(パパは当然息子も誘うので地獄のような雰囲気)したりかっちゃんの爆破を日常的に回避したりかっちゃんに追いかけ回されたりノートを奪ったカス幼馴染を追いかけたりでゴールデンエイジの有効活用はそこそこ出来ている。まぁスイミングスクールにでも通っとけば今もっと楽だったのはそうだが、1年もあればある程度形になる筋トレに費やすより分析力の強化、つまり脳の発達や思考力の強化を優先してるのは言うほどアド損はしてない。『無個性』だから頑張らなきゃ的に無理な筋トレして靭帯損傷とかしてたらそっちのほうがヒーローを目指すにあたって致命的だっただろう。

 

「え、マジ? ウチのもあったりするの?」

 

「もちろん! すごいと思った〝個性〟は特に分析が捗るというかページ数も増えるしクラスメイトのみんなはこの数ヶ月でどんどん伸びてて修正が頻繁に必要になるっていう嬉しい悲鳴がブツブツブツブツ」

 

 うわぁ。と声に出さないのはヒーロー科の面目躍如だろう。クソナードがヒーロー科の面汚しという説もある。いや、結構問題児も在籍してる(爆豪とか物間とか)のでそもそもそんなキレイなツラでもないのかもしれない。ゆうえいのふのめん……。

 

「リノの〝個性〟についてはどれくらい分析してる感じ?」

 

「新斗さんの「ダークマター」だね! 暗黒物質の性質の変化は多種多彩、大量に操れてしかも変化も一瞬、動作そのものも超高速! 派手な見た目とは裏腹にものすごく繊細にコントロールしていて練度がまさに最強ケタ違いなのがよく分かるよ! マルチタスク能力にも優れていて複数の変化や形状、状態でも多種多量同時運用に支障なし! 何よりすごいのは空間にいきなり発生するところだね! デメリットらしいデメリットも見当たらないまさに万能で最強の〝個性〟だよ! 身体能力も図抜けているけどあれはおそらく肉体そのものに〝個性〟が浸透しているかあるいは身体そのものがブツブツブツブツ」

 

「……そっか。緑谷っていいやつだよね。これからもリノと仲良くしてね」

 

「え? それは勿論。……耳郎さんって新斗さんのお母さんみたいだね」

 

 クソナード~~~! ノンデリポップコーンの幼馴染の面目躍如か? 同級生女子にお母さんみたいとか言って喜ぶのアニメヒロインくらいしかいねぇからな? お前はマザコン気味だから褒め言葉なんだろうけど。あ、でも轟ちゃんに「お母さんに似てるね」って言ったら喜ぶと思うのでTSしてたら是非試して欲しい。

 

「あ、違うから! 優しさや思いやりの象徴というか愛情の質というかそういうやつで老けてるとかそういうことじゃでも大人っぽいとは思ってるからそういうニュアンスが入っちゃったかもしれ」

 

「分かってるって。こう言っちゃなんだけどまぁ、なに。そういうつもりが無いでもないしさ」

 

 ここでパパに立候補できないのがクソナードの駄目なところである。響香ちゃんはマジで優良物件だからチャンスがあったらぶっこむべき。それともこの時点でお茶子ちゃんのことすでに好きなのか(恋愛脳)。まぁ真面目に考えるとクソナードは平和の象徴の後継者になるのに忙しくて恋愛どころじゃないけど。

 

「緑谷は大丈夫みたいだけど……リノの〝個性〟ってほら……怖がる人もいると思うんだよね。だからつい」

 

 というか響香は初対面で「こいつの〝個性〟やべえな」と思った側である。メスガキは〝個性〟で服を作っていた。公共の場での〝個性〟の行使を一切躊躇っていなかった。『バレなきゃいいじゃん』と思っていることが良く分かった。本人が意図的に明かさなければ響香にだって行使に気づけなかっただろう。緑谷が分析した通りメスガキの〝個性〟は性質も形状も変化は一瞬なのだ。彼女の袖が瞬時に硬質化しながら伸びて心臓を貫く。それはあっさりと実行可能な現実的な脅威だ。響香の〝個性〟もその気になれば簡単に人を害せる。『音』は音速で不可視。そして『イヤホンジャック』から放たれるそれは十二分に殺傷能力のある『衝撃』だ。しかしその危険な〝個性〟も新斗黎乃の〝個性〟の前では児戯である。

 

「? 新斗さんは危険な使い方なんてしないから大丈夫だよ!」

 

 緑谷はすっとぼけ顔でそう言った。響香の危惧は十分にあり得る脅威だとわかった上で「心配性だなぁ」と言わんばかりの……ありもしないホラーに怯えて不安になっている同級生女子を励ます事と全く同じ文脈で笑い飛ばした。緑谷出久にとっては、それだけでしか無かった。響香はそれを聞いて少しの間ぽかーんとした。

 

「日常での危険度で言えばかっちゃんのほうがアレだから……」

 

 そう。彼には実際に〝個性〟で攻撃してくる幼馴染が居た。あのクソ幼馴染は爆音で耳をキーンとさせたり爆風で転倒させたりとかみみっちい嫌がらせを平気でやってきた。ちなみにメスガキも体育祭で似たような嫌がらせを轟くんにやっているがあれは試合中だからセーフってメスガキが言ってた。

 

「そのかっちゃんですら直接当ててきたことはないしね」

 

 だがしかしそれは、どんな能力も〝個性〟も結局は使う者の問題だと身に沁みているということでもあった。爆豪勝己は4歳時点で簡単に緑谷出久を殺害できた。子供が虫の脚をもぐような無邪気さで緑谷出久の首は胴体から離れてもおかしくなかった。顔面を丸ごと焼かれてもおかしくなかった。いや、火傷の一つも負っているのが当然の環境だと言える。だが、そうはなっていない。緑谷の身体にはやけど一つ無いのだ。賢い爆豪は4歳の時点で既に線引きが出来ていた。冗談で済むラインを超えたのは中学3年生のノート爆破の流れくらいなのだ。大体その時期くらいから親に「出久くんを見習いなさい」とか頻繁に言われ始めたので嫌がらせが加熱していた。加熱してきた時期にヘドロ事件でベコベコに凹まされたので結果だけ見れば彼の人生にとってあれはプラスの事件だったとすら言えた。

 

「そっか……そうだよね。リノはそんなことしない。それを皆にも分かってもらえばいいんだ」

 

 沢山の人に気持ちを伝える。響香のやりたいことに確かな輪郭が生まれた。なんとなく好きだから。やってて楽しいから。みんなが喜ぶから。ふわふわした気持ちがぎゅっと固まった気がした。やりたいこと。やるべきこと。やれること。すべてが揃った人生を歩めるものは稀だが、稀な人生を歩める者たちが雄英には集まっている。将来どのような『ヒーロー』になるのか。響香のそれが確かなヴィジョンを持ったのは、まさにこの日この時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、最後のペアが帰ってきたね。おつかれ」

 

「響香ちゃんおかえりーっ!! 緑谷くんに変なことされなかった? ドサマギで抱きつかれたりとか!」

 

 メスガキは肝試しに偏見があるようだった。肝試しは抱きつくためのイベントではない。抱きつかせるためのイベントだ。いや、抱きつくまで行かずとも相手から触れさせるのが女性と親密になりたいのならば押さえておくべきポイントだ。「相手から行動させる」のが大事である。自分から触れようとすると一気に警戒心が上がり上手くいくものもいかなくなるので気をつけよう。相手からアクションを起こさせるのは全てにおいて使える基本である。例えば女性が喋ってるうちは絶対に邪魔してはいけない。むしろ相槌でさらにトークを引き出すことだ。そうすれば「この人には何でも話せる」と思ってくれる。こう思えない相手は選ばれない。マシンガントークするキモオタとかがこの選ばれない相手に該当する。ヒロアカで言うとクソナード。

 

「緑谷がそんな事するわけ無いでしょ」

 

 信頼もあるだろうがそもそもそういう事をする人物ではないと見なしているのだろう。クソナードは女子や恋愛に幻想持ってるタイプで「遊園地(オールマイトをテーマにしたやつ)で手を繋いでクレープを半分こ」を彼女が出来たら絶対やりたいとか思ってる童貞丸出しのキモ男である。そんなことは知らない響香ちゃんの中ではクソナードの信頼性は今日だけでも爆上がりだ。ただちょっと信頼されすぎて逆に恋愛には繋がりにくくなった感もある。ドキドキしない、というよりむしろドキドキを抑える側だったので。例えば今後クソナードが「耳郎さん、服脱いで」と言ったとしたら「え? 怪我とかはないけど? なんか他に問題ある感じ?」と何の誤解もなく伝わってしまいラブコメが出来ないレベル。上鳴が言えば「はぁ?」と返ってきて峰田が言えば無言で『イヤホンジャック』が飛んでくる。こだまでしょうか。いいえ、普段の行い。まぁある種のこだまと言えなくもないか。

 

「ムムーッ! な、なんか信頼度がアップしてる!? てめぇ響香ちゃんに何しやがったクソナード!」

 

「コラ! 悪い言葉使わないの! 何処で覚えてくるの全く」

 

「ひぃん……ごめんな炸薬(さくやく)

 

「テメェらマジふざけんなよクソボケどもがよ……」

 

 メスガキはどうやら麗日と蛙吹の漫才みたいなやり取りをやってみたかったらしい。麗日がぶふーっと吹き出して雰囲気が華やいだ。かっちゃんはギロリと麗日を睨みつけたが彼女の近くに立っていた口田があまりにもニコニコしながら見つめてきたので気勢を削がれてしまった。

 

「新斗。連絡が来た」

 

「あ、はーい! あのおじさんも随分偉くなったもんですねぇ、このボクを足扱いだなんて!」

 

 オールマイトは昼間の事件の諸々の確認に一旦事務所に行っている。場所を秘匿した合宿中にもかかわらず六本木の事務所へ移動出来たのはメスガキの隠密性をあてにしてしたものなので当然お迎えもしなくてはならないのだ。

 

「何を言ってるんだ。お前から言い出したことだろう……」

 

「そうですけどぉ……」

 

 ぽんぽん、とメスガキの頭が撫でられる。相澤はなぜメスガキがそのようにしたか態度から薄々察している。つまりオールマイトの身体的負担を慮ったのだろう。相澤は残り火(消耗品)の事は知らないので「新斗はオールマイトの怪我(活動限界)のことを知っていて気にしているんだろうな」と考えた。メスガキは保健委員の仕事に非常に意欲的でリカバリーガールの仕事をよく手伝っている。自分に存在しない『負傷』への理解を深めるためだろう。

 

(当初から熱心だったらしいがUSJ以降さらに意欲的になったと婆さんがニヤニヤしながら教えてくれたからな。はぁ……あるいはI・アイランドで行われたのであろう治療に一枚噛んでいる可能性もあるな) 

 

 自身の〝個性〟で守ってなお恩師の全身の骨がバキバキになったのは相当衝撃だったらしい。メスガキはその場にいればどのような敵だろうと殆ど完封できるが、存在しない場所でもその無敵性を振るえるわけではない。いや、本人は出来ると思っていたのだ。相澤は自分がその『期待』に応えきれなかったと考えている。捕縛布は取り扱いと丈夫さを鑑みて合理的に選んだものだ。つまり、最高ではなく最適を選んでいる。もしあの『脳無』でも容易に千切れないような最高品質のものであれば結果は変わっていたのではないか。そういう不合理な考えが時々よぎってしまう。合理的に冷たく考えればあの結果は悪くなかった。相澤の怪我は完治する程度で済んだし、自分で言うのも本当にあれだが危険人物に首輪をつけることに成功したとも言えるし、人を守ることの難しさを自身が教材になって教えることが出来たのは(相澤視点だと)悪くはなかったのだ。

 

「別に遅れても大丈夫だし焦らずゆっくりね」

 

 メスガキは何でも出来るので「とにかくホラーっぽいことやって」というクソみてぇな注文だけで十分に動けるのでぶっちゃけ打ち合わせとかする必要はまるでない。そのため響香は割とあっさり送り出した。このあとの役割分担の話し合いが終わればまた森の中に入らないといけないことを失念しているのでもう終わった気分でリラックスしている。曇り顔まであと数十秒。

 

「うん! それじゃぱぱっと行ってきまーす!」

 

「ああ、行って来い」

 

 そこまでやり取りして相澤は周りの生徒達(響香とヤオモモ以外)の視線にようやく気付いた。メスガキはにこーっと笑ったあともうすでに飛んでいっている。ソロだとドラゴンは出さないらしい。相澤は僅かにたじろいだあと、なんか最近こんなんばっかだな……とこの世の不合理にげんなりとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が! 肝試しに来た!」

 

 メスガキは本当に速攻で迎えに来て速攻で帰還したのでオールマイトはこの「私が来た」をするために合宿所に引っ込んでいた。帰ってきた時にはまだA組の脅かし方の相談をしている最中で、せっかくだしオールマイトも参加してくださいと誘われて快諾したためA組の打ち合わせを聞かないようにする必要もあった。

 

「おお! オールマイト! 今日はB組に絡んでくれるんですか!?」

 

「えっ……昼間もいっぱいアドバイスしただろ!?」

 

 当然のことだがB組のヒーロー基礎学もオールマイトが担当してA組とやるように和気あいあいとやってるし、合宿でも気になった生徒がいれば組に関係なく声をかけていたのでオールマイトはそんな印象を持たれていたことにびっくりしている。

 

「オールマイトはA組贔屓ですもんねぇ~~? 言われてもしょうがないのでは?」

 

 物間はオールマイト相手でもこのように絡むらしい。まぁこいつは意外と人を見ているのでオールマイトが気分を害さないとしっかり分かったうえでのものだ。オールマイトは「そ、そんな贔屓したつもりはないんだけどな」と内心でちょっと動揺してる。そもそもオールマイトはA組の副担任(ちなみにB組に副担任はいない。システムとしてあるというより新任の教師としての経験のための補佐なので)なので対応がA組に偏るのは当然のことであり、B組の生徒たちも当然そんな事はわかっている。ただ分かっていたら羨ましくないかと言うとそうでもないだけだ。拳藤は物間の態度は無礼ギリギリだなと思ってるのでチョップの待機をしている。

 

「そ、それじゃあ私と一緒に肝試ししたい人は誰かな?」

 

 一瞬シーンとしたあと全員が手を挙げた。オールマイトと一緒に肝試し。クソナードが血涙を流してうらやむシチュエーションだ。B組だって憧れのオールマイトといっしょにレクしたいのだ。物間は「脅かし役として全員が絡めるA組めぇ~」と内心思っているが仲間のテンションに水を差したくなくて黙っていた。どっちがいいと考えるかは人によるだろうし。

 

「2組と巡れるように最初のペアと6組目のペアと組むようにしてください、オールマイト」

 

 ピクシーボブが無慈悲に指摘した。くじで決めるんだからやりたい人~? みたいな流れに勝手にすんじゃねえよ、と思ってるのだろうか? あるいは「オールマイトが居たらそのペア失禁しねえじゃん」と苛立っている可能性もある。こわい。

 

「それもそうか! 皆すまないな! そういうことで!」

 

 B組から軽くブーイングが上がるがブラキンがギロっと睨んだら即座に黙った。このあたりはA組もB組も変わらないらしい。そうしてB組がくじを引いて決まったペアは以下の通りだ。

 

 ① 拳藤 & 物間

 ② 回原 & 鉄哲

 ③ 取蔭 & 宍田

 ④ 鱗  & 泡瀬

 ⑤ 庄田 & 柳

 ⑥ 小大 & 角取

 ⑦ 円場 & 鎌切

 ⑧ 小森 & 吹出

 ⑨ 黒色 & 骨抜

 ⑩ 塩崎 & 凡戸

 

「えー……嘘でしょ……くじでも私が物間係? 操作してません?」

 

「そのようなことするはずがなかろう。純度が下がる」

 

 虎が冷静に答える。純度って何のだよ。尿? 

 

「拳藤かぁ~……」

 

 物間は拳藤が嫌だと言うより〝個性〟の相性がそんなに良くないな、と思ってがっかりした。ペアな都合上これから15分間使える〝個性〟は『大拳』のみとなる。物間は他人の〝個性〟をコピーしていないと『無個性』に等しいので不安になってしまうのだ。

 

「なんか文句あるわけ、物間」

 

「い、いや、ないよ。頼もしいさ。よろしく」

 

 最初の5分だけでも他の人の〝個性〟を……と思っていたが今それをすればこれからの15分が地獄になるだろうことが分かったので物間はそれを諦め表面上はいつも通りを装った。ちなみに拳藤は「頼もしい」と言われて喜ぶ系のサバサバ系女子(真)なので物間の対応はこれで合ってる。

 

「物間少年! 私も一緒なのを忘れていないか!?」

 

「あっ。そうでしたね!」

 

 そうだ、〝個性〟が『大拳』とかいういらねえ感じのバニラカード(こういう言い方をすると人権団体とかがマジうるさいので気をつけよう)だから失念してしまったが1組目なのでオールマイトが一緒なのだ。そこはかとない物間の不安が晴れていく。ちなみに練度の低い物間の『大拳』だと本物と役割も位置取りも被るだけでいらねえという意味であり『大拳』が駄目な〝個性〟というわけではなく『物間のコピーした大拳』が無いよりマシ程度の『スカ』一歩手前ということだ。バランスを崩してまともに動けず、拳が鍛えられてないので武器にもしにくい。

 

「HAHAHA! 私がお邪魔じゃなければいいんだが!」

 

「そういうのマジでやめてくださいねオールマイト」

 

 拳藤は平和の象徴に向けてはいけないレベルの冷たいジト目をオールマイトに向けたのでオールマイトはひるんだ。まぁこれは八木俊典のポカミスだ。A組で言うと「やめてくださいよ(笑)」になるのが耳郎と上鳴とかで、「それやめてくれます?」ってなるのが耳郎と峰田みたいな感じで、今回のは後者。拳藤にとって物間は手のかかる弟のような可愛げのあるものではなくガチで問題視している厄介クラスメイト、つまり爆豪枠である。友情がないとかそういうことではなく、物間係に永久就職なんて絶対に嫌だということだ。

 

「そ、それじゃあ時間になったから、1組目、マネマネキティとケンドーキティwithオールマイト、しゅっぱーつ!」

 

 そんな感じだったので開始は重い雰囲気に……ならなかった。拳藤は言うべきことを言ったあとはもうそのことを引きずらずオールマイトにからっとした笑顔でよろしくお願いしますと言いながらペコリと頭を下げたし、オールマイトはそれでぱっと明るい雰囲気になって私は先頭と最後尾どちらがいいかな? と頼もしい雰囲気で言って物間を(精神的に)置いてけぼりにした。

 

「オールマイトのSMASHは本当に憧れます。パンチメインなのってなにか理由があるんですか?」

 

 拳藤は授業中だと聞けない技術だのフォームだのには関係のない前から気になっていた事をこの機会に聞いてみた。こういった雑談をオールマイトとする機会など本当に希少なので内心はかなり舞い上がっている。

 

「もちろんあるさ。私の憧れのヒーローが拳で悪役をやっつけるスタイルだったんだ。若い頃は「SMASH」ではなく「パンチ」と言っていたものさ」

 

 オールマイトは緑谷出久にこの話をする前に拳藤に話してしまった。話したんですか、オールマイト……僕以外の生徒に……。違うんだ緑谷少年! 拳藤少女が言葉巧みに……! 

 

「なるほど、そういえばアメリカでの活動で「SMASH」になったんでしたっけぇ? デビュー前の日本に居た頃はパンチだったんだ……〇〇拳とかじゃないんですね。その憧れのヒーローの技名が「〇〇パンチ」だったんですか?」

 

「その通り! 彼の決め技は全身全霊のパンチさ! たとえ自身がどれほど傷つこうとも、目の前に苦しむものがいれば手を差し伸べる。そしてそれを「当たり前」のことだと自然に行う。どんなピンチでも彼が来てくれたなら希望が生まれる。まさに愛と勇気の体現者! 何故生まれ、何故生きるのか。それを深く考える切っ掛けとなってくれた、私の原点だ」

 

 その言葉には隠しきれない深い愛情があったので、拳藤も物間も実在のヒーローだと思い込んだため、それ以上の掘り下げは行われなかった。オールマイトは子供の頃に母とともに彼のテーマソングを歌ったことを思い浮かべていたので、故人への感情も重なって瞳に宿っていたのでなんかめっちゃ感動的な眼になっていた。

 

「素敵なヒーローだったんですね……」

 

 なので拳藤は名前を聞くのをぐっと我慢した。加えて言えばオールマイトが今まで何処かでこんな話をしていたのであれば話題になっていないはずがない。つまりこの話は、非常にプライベートなものだと容易に推測できたからだ。そしてこの推測は当たっている。オールマイトはこの話をメディアでしたことはない。大切な話を聞かせてもらったことでオールマイトへの感謝と尊敬を新たに……

 

 

 

 カサ……

 

 

 

 

「ん? あ、始まったかな?」

 

「さーて、A組のお手並み拝見といこうかァ!」

 

「おお! 私も何が起こるのか知らないからたの」

 

 オールマイトの声が唐突に途切れる。表情は笑顔で固定されそのまま黙り込んでしまった。

 

「あれ? どうしたんですか? オールマイト」

 

「……? 何かありました?」

 

 急に喋らなくなったオールマイトが気になり立ち止まって振り返る二人。オールマイトは無言で立っている。いつもの頼もしい笑顔で腰に手を当てている。ピチピチの白シャツがちょっと滑稽だ。彼はじっと立ったまま動かない。

 

「……あー! オールマイト、A組に何か頼まれてたんでしょう! ずるいなぁ~! そういう贔屓どうかと思いますよ僕は!」

 

「物間、失礼なこと言うなって。仮にそうだったとしても私らが「ゲスト」なんだから普通に喜んでいいことでしょ」

 

 オールマイトは無言で佇み笑顔を向けている。何度見ても頼もしい笑顔だ。微動だにせず一切喋らずにそこにあるだけで安心できるいつもの姿。そのはずだ。たくましい大きな体が月光に照らされてくっきりと陰影を形作っている。

 

「……立ち止まってるわけにもいかないし、進もう。オールマイト、大丈夫ですよね?」

 

「……コテコテのテンプレだよねぇ! あっはっは!」

 

 笑い飛ばしてはいるが物間はいい知れぬ不安を覚えた。つまりオールマイトはA組になにか頼まれていて、何処かで脅かしてくるのだろう。これはA組とB組の勝負なのだから、オールマイトがB組の護衛のように加わるのはおかしいと言えばおかしい。教師陣やプッシーキャッツは何故何も言わなかった? 「A組と条件変わるから駄目です」とイレイザーヘッドあたりが言って然るべきだったのでは? レクリエーションだから見逃されたのだろうか? 

 

(あ、そうか。だから黙ったのか。大丈夫だ、とか声をかけたらフェアじゃないから)

 

「物間、多分オールマイトはもう喋れないんだと思う」

 

 かさ……かさ……

 

「あ、拳藤もそう思う?」

 

 かさ……かさ……かさ……かさ……

 

「ん……囲まれてるっぽいね。口田に指示された動物かな」

 

「ああ、それならこの状況作れるか。得体の知れない音じゃなければ余裕だね」

 

 物間のこれは強がりだ。だって暗い夜道に動物に囲まれている、というのはホラー云々の前にちょっと危機感を覚える。そもそも口田の指示がどの程度正確に、忠実に動かせるか知らないのだ。大丈夫なのか? と不安になる。

 

「オールマイト、もう少し近くても良いんじゃないですか?」

 

 無言のオールマイトは黙って以降ずっと笑顔で一定の距離を空けてついてくる。拳藤はオールマイトに接近を呼びかけたが、動かない。陰影のくっきりついた顔が月光に照らされている。

 

(くそ……これならいないほうがマシだったな)

 

 内心物間は悪態をついた。普通に怖い。無言のマッチョが夜道で黙ってついてくる構図が本当に怖い。暗い夜道だと「これ本当にオールマイト?」という疑念……疑心暗鬼が生まれてしまう。

 

「……物間。私ら勘違いしてたかも」

 

「ん? 勘違い?」

 

「そもそもこの勝負ってオカルト演出対決じゃないんだよ。『〝個性〟を創意工夫して相手を多く失禁させたほうが勝ち』だ」

 

「……!!」

 

 これはB組だと拳藤くらいしか気づけなかっただろう。頭の回転というより想定力の違いだ。拳藤は〝個性〟がシンプルなため戦略や分析でアドバンテージを取ったり、詰みに追い込まれないように常に物事を考えるクセが付いている。

 

「こっちはもう先行でホラー演出やったしこの遊歩道で出来そうな事も分かってる。当然A組もそう考えて対策を打ってくる。ゴメン、私レクだと思って想定が甘かった。走るよ物間。後発の組に早くこれ伝えないといいようにされる」

 

 拳藤は賢いのでもうすでにB組の敗北を予見していた。自分は今、焦ってしまっている。冷静さを装っているがまだ本当に冷静になれていない。一手先を行かれている。指し手を侮っていた。〝個性〟に頼り切りの存在ではないと、知っていたはずだったのに。

 

「う、やっぱりやってきた……冷気だ」

 

「……くそっ!」

 

 足元だけがひんやりと冷えている。ホラー感覚も副次的に高まるし、冷えると……体温が下がると血管が収縮し血圧が上昇するため余計な水分を排出しようと尿の生成が早まる。二人はもうすでに走っている。理想は6分以内……3番目のペア出発前にスタート地点に戻れる事だが、厳しいだろう。中間地点での名前の書かれた札の獲得もあるし、周囲への警戒がおろそかになれば相手の思うつぼだ。かさかさかさかさ……と周りの音……つまり動物たちがついてきている。音の正体は分かっている。口田の〝個性〟に操られた動物だ。……だから、なんだ? どんな動物がいるのか、分からない。原理が分かったから怖くない、とはならないことを二人は知っている。見破られたところで驚きや恐怖は発生させることが出来ると、先程散々自分たちが実践してきたのだから。

 

「中間地点だ!」

 

「ああ、やっ」

 

「あちきだよー!!」

 

「わあああああ!!!!」

 

 ラグドール。何故お前が飛び出してくるんだ、ラグドール。物間は心のなかであらん限りの悪態をついた。だって、関係ねえもん。AとBの対決でしょ!? なんでワイプシが脅かしてくるんだよ!? 

 

「……物間、札あった。はい」

 

「……うん、ありがとう、拳藤」

 

 そういう感じ。ラグドールはむっちゃエエ顔をして二人を見ている。何故ラグドールがここに居るのか? それはここがこの肝試し対決で最も失禁を誘発できるスポットだからだ。逃走により高まる緊張。中間地点の到達によるその緩和。「逃走」のときは本能的に尿意が高まる。理屈はセミのおしっこと同じ。不要物の排泄により身体を軽くしようとする本能だ。そして安心により交感神経と副交感神経が切り替わる刹那に驚かし「ビクッ」と身を固めさせる、すなわち瞬間的な腹圧の上昇を発生させると……決壊する。どばぁ、ではない。クソナードの未熟な黒鞭みたいな効果音をイメージしてください。

 

「…………」

 

「…………」

 

 警戒を維持しつつ無言で走る二人。道中に黒い影が道を横切ったり、そこら中に御札が貼ってあったり、しくしくと女の鳴き声が聞こえたりとホラー演出もあった。だがそんなものより無言で追いかけてくるマッチョによる緊張のほうがやばかった。なんとか我慢して走り続け、出口が見えてきた瞬間。二人の視界を閃光が真っ白に染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、チェック終了ー! おつかれさま!」

 

 チェック、と言っても基本は自己申告だ。マンダレイが『テレパス』で「やっちゃってたら右手で耳を触って」とか毎回指示を変えて伝えることで一切声を出さずに伝えるシステムである。あからさまに不審だったり明らかに漏らしてたら別途調べられたり逆にチェックなしで着替えさせたりになるが、ヒーロー科の生徒のスポーツマンシップに依存した判定となっている。ちなみにラグドールの『サーチ』で見える弱点ではこのように勝負形式にすることで失禁したかどうかの判定ができるようになっている。じゃあなんでスタート地点にいないのか? 言わなければ分かりませんか? あなた。

 

「みんな、注意点があるから良く聞いて。まずA組はオカルトだけじゃなくて物理的に失禁を狙ってきてる。具体的には……」

 

 僕の失禁アカデミアにタイトル変えたら? ってくらい尿の話ばっかしてんな(でも失禁対決なのは原作通りだから。ここはしっかりと認識しておいてください。やめてください汚い……)。拳藤と物間がスタート地点に戻ってきた時には既に4組目が出発していたため残った6組にしか警戒を促せなかったが、二人は自分たちの身に起こったことを一部伏せて説明した。特にラグドールが中間地点で驚かせてくることは大事なことなので二回伝えた。

 

「いやぁ、楽しかったな! 様々な〝個性〟が目白押しだった!」

 

「オールマイト……」

 

 物間と拳藤は帰ってきた途端喋りだしたオールマイトを複雑な表情で見つめた。色々言いたいことはあったが二人はピクシーボブに「洸汰にお風呂の準備するように伝えて、ついでに仕事頼まれたら手伝ってあげて」と言われてマタタビ荘に戻らないといけなかったので後回しにして屋内へと向かった。ちなみに洸汰くんは「手伝うことはないから自分の用事すませてもどっていいよ」と優しい目をしながら言った。タオルとかを置くだけなので慣れている洸汰にとってはそもそも手伝いとかは要らないのだ。つまりそういうことです。

 

「戻りました、ピクシーボブ」

 

「おかえり~! お手伝いありがとうね! 他の子達も続々と戻ってきてるよ! ねーこねこねこねこ!!」

 

 ハイテンション。なにか良いことでもあったのだろうか? 分かりませんね。

 

「冷気マジ卑怯じゃね? 物理的に寒気押し付けるのチートすぎるでしょ~」

 

「水音がチョロチョロ聞こえるのもきつかったですな」

 

「そんなのあったっけ? 俺は聞こえなかったな! 閃光と爆音は面食らったが!」

 

 拳藤は感想を聞いていて気付いた。A組は個人に合わせて色々と変化させているようだ。勝利への意欲で負けた。「全員を均等に楽しませようとしすぎた」のだ。拳藤は全体の指揮をするとき、楽しみながらやって、相手も楽しませてあげよう、そういうつもりで構成や役割分担を振り分けた。勝敗なんておまけで「やるからには狙おう」程度のもの。単にモチベを高める一要素くらいにしか思っていなかった。

 

(A組は違った。勝利への渇望からして私らとは雲泥の差があったんだ。『絶対失禁させてやる』だなんてこっちは思えなかった。だってそんなの、かわいそうだと思ったから)

 

 真面目な一佳ちゃんはシリアスに反省しているけどメスガキとかっちゃんが幼稚なのと普段からメスガキに常時負けててじわっとフラストレーションが溜まってる上に幼稚さが伝播してるA組が大人げないだけである。なにせA組はメスガキと爆豪の強い意向によりB組にも増して徹底的に女子狙いをしている。お前ら本当にヒーローの卵か? なにか履き違えてるんじゃねえか? ってくらい真剣に失禁させるための戦略を練ってるのだ。練ってるのだ、っていうか爆豪が仕切ってあとから戻ってきたメスガキがクラスメイトをさらに扇動した。B組が「結束・団結」ならA組は「共鳴・収束」と言ったところだろうか。ちょっと良くいいすぎじゃない? 「悪ノリ」の一言ですよね。

 

「A組ィ……」

 

 物間は歯ぎしりしている。拳藤はオールマイトが帰ってくるのを待った。事情を聞こうと思ってたが、冷静になってみればオールマイトの行動の理由はもっと詳細に推測できた。おそらく同行したもう一組では……。

 

「All Might! You were so reliable and looked so cool!」

 

「HAHAHA! Oh, stop it. but keep going!」

 

「ん!」

 

 拳藤はやっぱり、と思った。初回は何もしない、を通り越して脅かしに加担。2回目はその頼もしさで同行者を守る。そうやってバランス調整をしたのだろう。まぁそもそも先行後攻の違い……食後の時間からすると後攻がやや不利(水分が尿になるのに1~3時間位かかる)なこともあり完全にイーブンなどそもそも難しいので拳藤が当初考えたように勝敗などレクリエーションの盛り上げ要素でしか無い。工夫して〝個性〟を高める、それを達成できれば『勝利』なのだ。角取はオールマイトがいかに頼もしくてカッコよかったかを熱っぽく語って周りに羨ましがられている。拳藤と物間は何か雰囲気が暗かったのでみんなオールマイトがどうだったか聞けなかったのだ。

 

「ひいいいいなんだよアレェ? 閃光じゃないじゃん!」

 

「思わず斬ってしまうところだった……斬れたか分からんが……多分中身は新斗の〝個性〟だよな? 数的に……」

 

 円場と鎌切がばたばたと慌てながら戻ってきた。

 

「え、ラストの閃光無かったの? 分かっててもやばいから絶対やってくると思ったのに」

 

「バケモンだよ! なんなんだアレ? 殺人鬼? わからん!」

 

「は? 殺人鬼? ホッケーマスク的な? ……八百万が着ぐるみでもつくったのかな」

 

「いや……あれはおそらく『ジャック・オー・ランタン』だ。かぼちゃじゃなくてカブのほうだな」

 

 鎌切はハロウィンの知識があるらしい。『ジャック・オー・ランタン』はかぼちゃの方は愛嬌があるがカブの方は結構怖い。

 

「森の中にも大量に居たが……こっちには出てきていないのを見てようやく安心できた。敵が襲ってきたのかと本気で考えたぞ……」

 

「情報共有されたの察知して切り替えてきたかぁ。障子か耳郎にこっちの話を聞かれてたのかな……? あーもう、完敗だ。私が仕切ってるの知ってて狙い撃ちにしてきたんだ。最初から視点が違った……」

 

 そうだと思っていたことが違った。これは思考にかなりの混乱をもたらす。当然拳藤もそれは知っているし、そうならないように様々な可能性を考えて決め打ちはせず常にサブプランを用意するようにしている。だがある種の必殺技、つまり生理的防御反応をせざるを得ない『ゴール直前の閃光』を捨ててくるなど想像の埒外だった。なぜならそれは『拳藤を騙す』以外はすべてがマイナスとなるからだ。失禁どころか失神さえも力技で狙える弛緩からの閃光を捨てるなど正気の沙汰ではない。

 

「黎乃はもっとB組なんて眼中にないと思ってた……全然違った。一人ひとりを良く見ていて最大限に警戒して……『頭』を潰しに来た」

 

 そしてそれもあちらのサブプランに過ぎない、ということが拳藤には分かった。流れを見て即座に修正を加えたのだ。つまりくじ運が悪かった。拳藤が最初のペアでなければここまでの差はつかなかっただろう。……6組目以降に帰ってきたペアはみんな何かと用事を言いつけられて一旦マタタビ荘に戻ってる。「あっ……」ってなってしまうやつだ。最初からこれを狙っていたのだろう。先行した組からの情報共有を利用し、心理的なトラップにかける。緊張と弛緩の境目こそが最も失禁しやすいのだ。

 

「レクだと思って油断してたな」

 

「ん……」

 

「……まだ分かんねえだろ!? 結果が出るまでしょぼくれんじゃねえよ!」

 

「一見ポジティブだけど中身はネガティブなやつじゃん……」

 

 改めて読者の方に提示しておくがこれはレクリエーションだ。なのでガチで失禁を狙いに行ったアホたちはワイプシ史上においても初である。メスガキのおゆうぎ会も黙って見ていたことからも分かるように、楽しむのがメインコンテンツであって、つまり趣旨を分かっていたのは拳藤率いるB組の方だ。真面目に反省しているのは拳藤およびB組が優秀かつ人間が出来ているからであって、メスガキとかっちゃんに乗せられたA組の『幼稚ないたずらがお菓子をあげるつもりだった大人の顔面にクリティカルヒット』というのが客観的に見たこの状況の説明となります。

 

「ちなみに私は漏らしておりませんぞ。ギリギリでしたが!」

 

「待ってくれ。そういった表明はすべきではない。そしてもし仮に察しても黙っておくのが友情ではないだろうか」

 

 塩崎と凡戸がよたよたと遊歩道から出てきてワイプシとやり取りしているのが見える。二人はなにか言われて建物の方へ向かっていった。……全員がやらかした、というよりワイプシが機転を利かせてカモフラしているのかもしれない。どこまで意味があるか、分からないが。

 

「……察していても追求しないのは賛成。けど私たちはさらに一つ先へ……"Plus Ultra"出来るはずだよ」

 

 拳藤一佳はクラスメイトたちをゆっくりと見回して言った。即座に全員が聞く姿勢になったのはさすがの統率力と言えるだろう。ブラキンはウンウンと頷き、相澤も少し感心している。

 

「と言うと?」

 

「失禁しても私たちは仲間だ。何も変わらない。そう……解釈を上書きするんだ。『別に恥ずかしいことじゃない』と」

 

 クラスメイトたちに理解の色が広がった。その通りだ。この素晴らしい仲間たちが、漏らしていたから何だというのだろう? 所詮そんなものは生理反応に過ぎない。怖くて漏らしたなら「ヒーローとしてどうなん?」くらいは言ってやるのも友情だろうが、眩しくて目を瞑るのと同じような生体反応は恥だろうか? そんなのは不随意筋をコントロールしろと言っているのと同じだ。つまり出来ないことをやれと押し付けて出来なければ恥とする、『オールマイトであれ』と押し付けてくるステインの如き理不尽な身勝手さだ。失禁など英雄失格! オールマイトは漏らさない! 死ね! などという幼稚な解釈に迎合してやる必要はない。ステインだって同じことをされたら高確率で漏らすので。低温、閃光、爆音が揃ってるので人類である以上耐えるのはかなり難しい。対抗するには失禁しないだけの理由……防げる何らかの〝個性〟や特殊能力が必要だ。例えばオールマイトはマッスルフォーム、つまり全身常時力んでいる状態を保持していて弛緩がなかったので当然漏らしてない。

 

「だから私はこう言うよ。『実は私もちょっと我慢できなかったんだ』ってね!」

 

 ウインクしながら冗談めかしていった言葉にクラスメイトの誰もが安心した。率先して自らの言葉の正しさを証明してみせたのだ。まさに姉御、クラスを率いるリーダーの器。バレたらどうしよう、そう思っていたクラスメイトは本当に心から恥ずかしくないと思えた。もちろんこれを聞いて「なんだ委員長も漏らしてたんだ」などと思った者はいない。「自ら泥を被ることで全員を安心させた」と確信していた。物間はシラケて見ているが、大体いつもの斜に構えたムーブだと思われて誰も気にしなかった。拳藤一佳、まさに策士。『真実』を『事実』で塗り替える今孔明。善良で純真な高校生をその巨大な『掌の上』で転がすことはまさに『お手のもの』であった。




独自設定とか

・ゴールデンエイジ:6~12歳あたりの何やっても上手くなれる時期のこと。ここで運動していたかどうかが一生を決めると言っても過言ではない。
・クソナードの筋トレ:ちなみにもし読者さんが緑谷出久に憑依転生してしまったら、7歳くらいになったら体操(マット運動)を始めると良いと思います。全身運動だしいろんな動きするので。重心を操る感覚も育つのでぴょんぴょん跳ねるフルカウルの役にも立つと思うよ。
・「ダークマター」:クソナードはいいやつ。
・お母さんって感じ:綾波レイくらいしか喜ばんよ。
・かっちゃんライン:ここ出来てるのがみみっちいところ。
・捕縛布:もっと丈夫にできるけども重くなるとかそんなん。
・周りの視線:え?なに?どゆこと?さっぱりわからんかった。
・A組贔屓:そもそも副担任なので。新任なので迷惑もかけてるけど外からは見えない。
・組み合わせ:A組同様ガチクジ。活動報告につらつら書いときます。
・オールマイトの憧れ:言わずと知れた国民的ヒーロー。「〇〇パンチ」は捏造。学生時代の妄想とかそんなの。
・黙ルマイト:耳郎の“個性”でメスガキが黙れって言ってるって聞かされて黙った。別に事前に決まってたわけではない。
・喋ルマイト:我慢してたのでよく喋る。謝罪はしない。本人は居ないよりはいいだろうと思ってるので。
・冷気まじ卑怯:取蔭ちゃんも寒さにちょっと弱いと設定。
・水チョロ:音でも尿意は誘発される。条件反射の一種。
・英会話:オールマイトカッケー!それほどでも……あるけどね!みたいなやり取り。
・拳藤の推測:あくまで彼女視点の推測であり真実は保証されない。
・ジャック・オー・ランタン:本来は魔除け。
・今孔明:はわわ、オールマイト、メスガキが来ちゃいました!

詫び石です。見たいものを選んでください

  • IF:メスガキが敵になったときの敵ネーム
  • メスガキの中学時代の友達の名前
  • メスガキのママの“個性”
  • メスガキのパパの“個性”
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