ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

44 / 49
※詫び石2は本編に含まれています


『正義なることが魂の健康である』

「リノ……下着持ってないよね? 買いに行こう」

 

 合宿が終わって数日後、学校での自主練のあとの休憩中にまるで何かのアンケートに動かされたかのような事を言う響香ちゃん。まぁこれは前から気になっていたことなのでデップーみたいに第四の壁を認識しているわけではない。

 

「え……なんで? 要らなくない?」

 

 メスガキはベンチに座る響香のキュッとしまった太ももに頭を乗せながらぼへーっと喋った。この二人は頻繁にこのような姿を見せているのでもはや驚くものは居らず誰もがスルーしている。当初響香は汗をかいているので休憩中の膝枕は嫌がっていたのだがメスガキが全く気にしなかったのでなし崩しでこのような状況になっている。メスガキは体温低めで汗もかかないので膝に乗せること自体は気持ちいいと思っている。

 

「リノの服って全部自分で作ってるんだよね」

 

「だよ~! デザインの大元はお母さんだけどねっ!」

 

 メスガキママは割と手広く色々やっていたので庭に変なオブジェとかもある。娘のために服のデザインもスケッチブックに遺しておりメスガキの私服は大体それを元に作られているのだ。

 

「あ、そうなんだ。なんか意外かも。ちょいちょい細かい所変えてるよね? お母さんのデザインだから変えたくない的なのはないんだ」

 

「そんなのお母さんが喜ぶはず無いじゃ~ん! デザインっていうのはねぇ、普遍的でありつつも最新でなくちゃいけないんだよぉ」

 

 響香にとっても聞き覚えのある概念だ。両親が言葉は違えど似たようなことを言っていた事を思い出す。

 

「なんかすごいそれっぽい言葉出てきた。リノのお母さんが言ってたの?」

 

「うん! だからボクがこうやってアプデしてるのも喜んでくれる……はず!」

 

「きっとそうだよ。それに娘が自分のデザインの服着てるってだけで嬉しいんじゃないかな。ウチの親も昔ね……」

 

 響香が話したのは両親が誕生日のバースデーソングを毎年アレンジしてくれていたこと。そして響香が初めて母の誕生日を祝ったときに覚えていたその曲を再現したら涙を流して喜ばれたという温かいエピソードだ。

 

「……いいなぁ~っ! 素敵だなぁ~っ! ボクも響徳さんと美香さん大好き~っ!」

 

 メスガキは羨ましがりつつも嬉しそうにしている。仲の良い家族を見ても聞いてもメスガキはそれを疎ましく思わない。自分の中の思い出に新たな光を当ててくれる喜ばしい状況として受け止めているのだ。響香はそれを知っているので積極的に両親との思い出を話すことにしている。

 

「また泊まりにきなよ。二人とも次はいつ来るのって良く言ってるし」

 

 これはお世辞ではなく本当のことだ。メスガキは響香の両親にも非常に気に入られている。ヒーローになると決断して以来どこか遠慮があった娘が、音楽の夢も手に入れてみせると宣言した時の喜び。それをもたらした少女のことを最初から好意的に見ていたし、実際に接してその思いは強まった。ちなみにあまりに仲良しなので響徳は「女の子で良かった」と安心し、美香は「響香は結婚できるのかしら」と思ってる。

 

「えへへ、心配してくれてるんだよね? でもボクね、自宅で過ごすの好きだから大丈夫だよ……あっ! ねぇねぇ、逆にしよーよ! ご両親と一緒にボクの家に泊まりに来てぇ♡」

 

「えぇ? ……うーん、アリっちゃアリなのかな? 庭でバーベキューしようとか言ってたよね……って話がズレすぎたわ。ウチが買ってあげるから行くよ」

 

「なんでそこまで……そんなにボクのぱんつが気になるの?」

 

 メスガキは寝転がったままスカートの裾をつまんでヒラヒラしている。足を組み替えたりしながら挑発しているようだ。響香ちゃんはそういう趣味はないので興奮などはしないが、メスガキはとにかく見た目がいいので男だったらロリ属性がなくても反応してしまったであろう仕草である。

 

「気になる」

 

 短くも力強い宣言だ。圧倒的パワーを感じる。

 

「それならもっと早く言ってくれたらよかったのに~♡はい、ちらっ♡」

 

 なぁ、ぱんつ見せてくれや……等と言われて実際に見せるバカが居るのだろうか? ここにいる。メスガキはすっとベンチに座り直してスカートを捲って中身の神秘空間をさらけ出した。ちなみにこの「直す」は九州地域の方言とは関係がない。

 

「ちょっとまって、なんかすごいの見えたんだけど。「ぱんつ」じゃないでしょ今の。「ランジェリー」じゃん」

 

 言葉とはそれそのものがイメージを内包している。物質的にはただの布であっても、『言葉』により『意味』を付与される。呼称の選択とはすなわち『概念』の付与であり、人類が持つ原初の『魔術』であった。

 

「今日はオトナの気分だったから♡」

 

 夏休み中の訓練でそのような気分になるいわれはない。つまり一緒にいる人物が重要ということだ。メスガキは響香ちゃんに大人ぶりたかったのだ。というかおそらく見せる気になったので変更したと思われる。

 

「……いや見たかったわけじゃないから。ごまかそうとしないの」

 

「別に誤魔化して無いってばぁ……既製品にしないといけない理由なくない? まぁでも響香ちゃんがプレゼントしてくれるなら額縁に入れて飾ろうかなぁ」

 

「いやちゃんと履きなさいって。相澤先生の『抹消』で服消えちゃったら危ないじゃん。全裸だよ? せめて下着ぐらいは残るようにしたほうがいいよ」

 

 メスガキのぱんつそのものは響香ちゃんにとってはどうでもいいことだ。いや、デザインがどうこうというのは好きにしたらいい、という意味であって、履いているかどうかがまず重要だ。「ウチはもっとフリルいっぱいの可愛いヤツがリノに似合うと思うよ」などという話はまたの機会にやればいい。股の機会!? 

 

「ああ! 心配してくれたんだっ! も~♡好きっ! でもこの服は『結果』だから大丈夫だよぉ?」

 

「え? いや、この服「ダークマター」に戻せるんだよね?」

 

「だね~」

 

「じゃあ『結果』じゃなくて『過程』じゃないの? 「ダークマター」が『性質変化』してるんだからその『変化』が解除されない?」

 

 結果だの過程だの誰かを思い出すトークですね。

 

「相澤先生の『抹消』は眼で見た人物の『個性因子』を停止させる、っていうロジックだから服を見たって消えないよ~」

 

「ん? 「ダークマター」が消えないのはまぁ分かる。尾白の『尻尾』が消えないのと同じってことだよね。けど、尻尾が動かなくなるみたいに『服のふり』が停止してプレーンな「ダークマター」に戻っちゃうんじゃ?」

 

「『性質変化』した「ダークマター」はボクが『再観測』しないと変化しないよっ! 『維持』じゃなくて『定義』だからね! 例えば轟くんの氷は『抹消』されても温度は変わらないでしょ? それとおんなじ~。疑問は解決したかな?」

 

「……なるほど。ウチ勘違いしてた。「ダークマター」を『出せる』『操れる』なんだね。ていうか最初から「暗黒物質」に「性質を付与する」って言ってたね」

 

「響香ちゃんが思ってた使い方もできるから勘違いとはちょっと違うかな~。ボクのブラフが上手ってこと!」

 

「むっ。もっと隠してることあるなこれ。白状しなさい」

 

 ほっぺたをむにむにしながらさらなる情報を求める響香ちゃん。メスガキのもちもちほっぺはよく伸びて触り心地が良い。

 

「きゃー♡響香ちゃんのえっち~♡丸裸にされちゃうよぉ♡」

 

 こうしてぱんつトークは有耶無耶になった。メスガキは誤魔化しや話題そらしを頻繁にしているので気をつけよう。特に〝個性〟についてはすぐに別の話題にしようとする。まぁ今回のように愛する誰かに正面から聞かれると嘘はつかないが、ツッコミどころにちゃんと突っ込まないとさらなる開示もしない。相手の勘違いや誤解は自分に都合が良ければ放置する系の邪悪なメスガキなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけなんだよ、最も仲良しの警察の塚内くん」

 

「気に入ったのかそれ。いやしかし、内容は洒落にならないな。まさかやつが生きていたとは……」

 

 六本木にあるオールマイトの事務所の一番セキュリティがしっかりした一室で二人は話していた。話題は今一番ホットな梅干し頭のことだ。呼び出された話相手の警部である『塚内(つかうち) 直正(なおまさ)』は信じたくない、という気持ちでいっぱいだった。

 

「まだ後継者的な存在である可能性はゼロではないが……『顔』のない男だったそうだから、まず間違いないだろう」

 

 顔面パンチでぐしゃーってなったときの感触はうわぁ……という感じで忘れがたい。何らかの〝個性〟で生きながらえたのだろう、とオールマイトは考えているが外れである。

 

「そうか……俺も『(ヴィラン)連合』の調査に本腰を入れたほうが良さそうだな。もう一度情報を洗い直してみるよ」

 

 一応『雄英襲撃事件』の頃からちょくちょく関わってはいるのだが敏腕の塚内くんはもっと重要な事件に駆り出されていてすぐ捜査から外れていた。しかしここに来て『敵連合』の存在感が増してきている。最初から関わっていればもっと早く『脳無』が複数個性持ちなことを知ってオールマイトにAFOの存在を示唆できていただろうが後の祭りだ。

 

「ああ、頼む。居場所さえ見つかれば今度こそ必ず倒して見せる」

 

 ぐっと拳を握りしめる。トゥルーフォームではあるが不思議と力強さと頼もしさがあった。その強烈な決意がオーラのように彼の存在感を高めているのだ。

 

「期待しているよ……体調は良さそうだな?」

 

「まぁね! やっぱり持つべきものは『友達』だな! 君もそうだしね!」

 

 八木俊典は掛け値なしにそう思っている。高校時代……雄英生のときにも友人は居た。アメリカから帰ってきたときにはみんな居なくなっていた。そういう時代だった。だからこそ強く思う。

 

「言えないことが色々あるようだが……本当に良かった。少し肉付きも良くなったな」

 

 年上の友人の健康を思いやる塚内くん。かなりの歳上が相手でもタメ口。正直者だから「もうこいつには敬語いらねえな」って思ったらすぐ無くなる。エンデヴァーとかにもタメ口。

 

「ありがとう! ところでその……守秘義務とかあるんだろうけどこっそり教えてくれない? 新斗少女は一体どこまで関わっているんだい? モニターごしだったとはいえ『奴』と話すなんて学生にさせることじゃないと思うんだが……」

 

 オールマイトとしては学生のうちはもっとのびのびと学んで欲しいのだ。まぁヒーローを目指す以上のんびりゆっくりするのは難しいのだがそれにしたってメスガキは生き急ぎすぎだと思っている。お前もだろ、って誰か突っ込んであげてくれ。

 

「実は俺も良く知らない。直接の指揮は公安がやってる……らしい。どうも君の後継者としてプロデュースしたいみたいだな。今回の件もなんというか……いい箔付けだ、と思ってそうな軽い空気がある。引き締めねばならん」

 

 公安委員会が警察のやってることにくちばしを突っ込んでくるのはいつものことだが、今回はなんと指揮まで取っている。いわゆる公安肝煎りというやつだ。おそらくパパっと片付けてメスガキに箔をつけるつもりだったのだろうが、裏に居たのは推定史上最悪の(ヴィラン)である。嬉しくないラッキーヒットだ。

 

「やっぱりそうか……そうかなとは思ってたんだけど……事務所にもちょくちょく問い合わせ来てるんだよね。『血狂いマスキュラー』を倒したときに居たサイドキックは誰ですか? って。最初何のことか分からなくて焦ったよ」

 

「……俺としては君が……いや公安もだが……『学生』であることしか問題視してなさそうな事が気になるんだが……彼女はそんなに強いのか?」

 

 塚内くんは警察官であってプロヒーローではないので戦闘力とかは良く分からない。鍛えているのでそこらのプロヒーロークラスの身体能力はあるが、戦闘が得意な訳では無いのだ。

 

「ぶっちゃけ今の私の100倍は強いね。全盛期でも勝てると断言できないな。かなり楽観的に見てその上でだ」

 

 オールマイトが今まで見た能力から算出した戦力比が大体それくらいだ。まだまだ能力を隠しているであろうことを思うと正直勝つヴィジョンが見えない。平和の象徴としてそんな情けないことは口にしないけど。

 

「そこまで言うか……公安の楽観も無根拠ではないということだな」

 

「そうだね。戦闘でどうこうなる可能性はまずないと思う。『奴』の強みは手札の多さと対応力なわけだが……新斗少女(ホーリーナイト)もそうだからな。同タイプならばあとはスペック比べで、奴が勝ってるのは経験くらいだから勝敗は覆らない。おそらく〝個性〟を奪うことも不可能なはずだ」

 

 かつてオールマイトが戦った時は様々な〝個性〟による猛攻を掻い潜って接近戦に持ち込んだことで勝利をもぎ取った。ビームや衝撃波みたいな遠距離攻撃ばかりのバカ砲台だったので近づきさえすれば大したことがなかった。だが『近づく』だけで命がけだった。今はまた違う戦闘スタイルかもしれないが……。

 

「何? それはまた、好材料ではあるが一体どうしてそれが分かる?」

 

「彼女は見た目より遥かに慎重で周到で几帳面で懐疑的なのさ。自分の『敵』の多さを良く知っている。具体的にどうやってるかまでは分からないけど普段から他人の〝個性〟による干渉にガッツリ対策を取っているんだ。『見る』『触れる』『聞かせる』『嗅がせる』等で彼女に干渉する試みはすべて失敗した」

 

「……体育祭では明るく無邪気に見えたが……やりきれないな」

 

 例えば普段から『バリア』を張って生きている人間を見たら大抵の人が「何にビビってんだよ」と笑うだろう。だが想像力のある人間は当人が『バリア』を張り続けざるを得なくなったこれまでの日々に思いを馳せる。

 

「まぁだから心配事って言ったら心の話なんだよね。学生時代の良い思い出が将来頑張るときに心の支えになると思うから、こう言ってはなんだけど学生のうちは遊んでて欲しい……」

 

 雄英のカリキュラムはギチギチではあるが、休日やレクリエーションの時間などはしっかりと確保されている。豊かな心を育むことがヒーローにとって必要だからだ。

 

「……思ったよりちゃんと教師をやれているんだな。意外だ。事務仕事なんかは苦手だったろ? すぐ音を上げてやめると思ってた。君は『平和の象徴』をやる以外はあんまり上手じゃないから」

 

「塚内くんって本当に正直者。いやまぁ言ってもらえて助かるんだけどね。それに私が教師をやれているんじゃない。生徒たちが私を教師にしてくれるんだ」

 

 その表情には情けなさと不甲斐なさ、そして誇らしさが宿っていた。

 

「……そうか。むしろ適職だったのかもな」

 

「私もそうであれば良いと思っているよ。引退したらもっと本格的に教育論を学ぶつもりだ」

 

 塚内はその言葉を聞いて一瞬停止した。そう考えている事は以前から聞いていた。であるのに、固まってしまった。

 

「引退か。君の口からそんな言葉が出るとはね。直接聞くとやはり複雑な気持ちになるな。ずっと君は『平和の象徴』であってくれると、どこかで思っていた甘えを突きつけられるよ」

 

 大怪我したあともまだ戦い続けていたオールマイトを見てなお、そう思っていた。もうやめろ、もういいだろう、そう思いながらもどこかで戦い続けることを期待してはいなかっただろうか。『今』はまだ頑張ってほしい、そう思ってはいなかっただろうか……。

 

「まぁ私もそういう振る舞いしてたからね」

 

 だがそれはこのおっさんに大部分の責任がある。だって本人がやるっていうんだからしょうがねえだろ……ぶん殴って止めるとかもできないくらいには強いし……弱ってるときに殴ったら死にそうだし……。

 

「しかしそうか、公安があの子を戦わせたがってるのか……塚内くん」

 

「分かっている。奴を発見したら俺のすべての権限を使って君を呼ぶよ」

 

「ありがとう……よろしく頼むよ」

 

 ツーカーというやつだ。メスガキに押し付けて家で寝てれば問題なく解決するのかもしれない。だがしかし、ただ強いだけの少女に押し付ける事をオールマイトはよしとしない。とはいえちょっと気まずいことになりそうだ。首尾よく居場所がわかったらオールマイトは速攻をかけるつもりだが、どう考えてもメスガキにも公安から連絡が行ってしまうだろう。つまりこう……現地で「No1の私がやるから下がっていてくれ!」的なムーブで上から大人しくするように要請することになりそうな気がするのだ。またしてもメスガキを悲しませてしまうだろうことが奴との戦いそのものよりも憂鬱である。

 

「後継者は……つまり、どちらもだが。どんな感じだ?」

 

 すなわちOFAの後継者たる緑谷出久、そして世間的にはなんかもうオールマイトの弟子っぽいという認知がじわじわ広まってきちゃってる新斗黎乃の両名のことだ。

 

「二人とも素晴らしいヒーローになるさ。保証するよ。ま、新斗少女は平和の象徴の後継者、って感じではないけどね!」

 

 本人も全然やる気ない。仮に提案されても「何が象徴だよ! 他人にそんなもん押し付けるな無責任男!」と悪態をつくのが関の山だ。そっちは「僕がやりたいです!」とやる気満々でやりたい盛りのクソナードが頑張ってくれるだろう。

 

「あの演説……正直俺には危うく見えた。言語化しにくいんだが……君の事をあそこまでこう……軽く見られるものなのか? 君より強いとそういう感覚になるんだろうか」

 

 この世界の日本で生きていてオールマイトを意識せずにいられる人間など居ない。ポジティブかネガティブかはともかく、文明と隔離でもされていない限りは大なり小なり何かを思っているものだが、塚内はあれほど『それ』が薄い人間を始めて見た。

 

「ああ、そこは心配要らないよ! 軽く見ているんじゃない。軽くしようとしてくれているのさ!」

 

 それはオールマイトのやりたいことにとっては余計なお世話以外の何物でもない。しかし八木俊典はこうも思う。『余計なお世話はヒーローの本質』なのだ。彼女は『オールマイト』を見ない。『私が来た!』と言っても注目したりしない。『平和の象徴』に誤魔化されてくれない。あの七色の瞳は、ただその場にあるありのままの八木俊典だけを見ている。

 

「! ……そうか、そういうことか……俺はとんだ勘違いをしていたようだな。刑事なんてやってると疑り深くなっていけない」

 

「いやまぁ私も最初は彼女のことをめちゃくちゃ危険視してたんだけどね! HAHAHA!」

 

「ハハハ! それは笑い事なのか?」

 

 なにわろとんねん。笑っとる場合か。謝罪しろ謝罪。可愛い女の子に不当な疑いを向けてごめんなさいって言えッ! まぁでもメスガキは気質的には圧倒的に(ヴィラン)よりのメンタルなので慧眼とも言える。全世界はメスガキのご両親と砂藤力道くんに感謝すべき。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はよろしくね、緑谷」

 

「楽しみ」

 

「よよよよよよヨロシク!!」

 

 へぇ、デートかよ。しかも両手に花。拳藤一佳。小大唯。そして緑谷出久。3人は現在とあるイベント会場に来ていた。『THE 35th ALL MIGHT EXPO in SUMMER』という500億万回は行われたオールマイトの功績を振り返って称える感じの展覧会だ。

 

「あっ! 拳藤さんの服良く似合ってるね! ショート丈のタンクトップとちょっと着崩したシャツで肩を出してるのがすっごく夏らしいバイタリティを感じるよ! デニムのホットパンツとスポーツサンダルの組み合わせも爽やかでぴったりだ!」

 

「え、あ、うん、ありがと……」

 

 唐突に服を褒められてまんざらでもない一佳ちゃん。クソナードはもはやパブロフの犬のごとく女性を褒めるBOTと化している。メスガキの調教の成果だ。

 

「小大さんもそのシンプルな白いワンピースときれいな黒髪の組み合わせはまさに夏の幻想って感じで清楚さの中に神秘的な感じがあって見ているだけで心が洗われるみたいだよ! ところで首にかけているペンダントはそれもしかして『トマトレッド』の意匠じゃない? もしかしてファンなの!? 僕も『ヘルシーズ』好きだよ! 小さい頃あんまり野菜が好きじゃなかったんだけどヘルシーズの野菜ジュースが好きになってからはブツブツブツブツ」

 

 途中までは頑張っていたが我慢できずに自分の話に移行してしまった。所詮クソナードである。付け焼き刃の急ごしらえの俄仕込みで一知半解なのでさもありなん。

 

「ん! トマトレッド好き。トマトも」

 

 まさかの好感触だ。普通のJKならシームレスに始まった自分語りに「あっこいつだめだな」となるものだが小大は普通ではなかった。ブツブツトークにうんうんと頷いていた上にタイミング良く相槌を打つなどまるでコミュ強者のようだ。実際「相手の話を聞いて相槌を打つ」というのは小大が唯一まともにできるコミュ方法である。それしか出来ない闇属性モンスター。

 

「やっぱりそうなんだ! わぁ、結構昔のアイテムなのにすっごくピカピカで良く手入れされているね! 小大さんが本当に大切にしてるのが伝わってくるよ! こういう普段遣いするアイテムは僕は身に着けず飾っちゃうんだけどやっぱり実際に身に着けているのを見るとまた違った趣があるね! オールマイトのシルバーアクセとかいくつか持ってるんだけど身につける勇気が出なくてブツブツブツブツ」

 

 クソナードはなんと距離を詰めた上に胸元のペンダントをジロジロと観察しだした。下心ゼロなのが逆に恐ろしい。同級生の超美少女の2パイアールをここまでペンダントの台座のごとく扱えるのはまさに異常者というほかない。

 

「唯」

 

「え?」

 

「唯って呼んで。出久(いずく)って呼んでいい?」

 

「え、あ、う、うん……ゆ、唯さん……?」

 

 梅雨ちゃん痛恨のミス。クソナードは「梅雨ちゃんって呼んで」で耐性がついていたせいですんなりと名前呼びに移行してしまった。顔は真っ赤だが。梅雨ちゃんは自分は「梅雨ちゃん」と呼ばせようとするくせに自分が呼ぶときは「緑谷ちゃん」なので一歩リードだ。カエル女はそもそもライバルじゃないけど。

 

「ん……出久……」

 

 ほんのりと恥ずかしそうに名前呼びする小大。コミュ障だが物怖じしないので距離の詰め方がエグい。顔が良いので一見なんかいい感じに見えるが対人能力で言うとカスである。

 

「うわぁ……なにこれ? 私が見たことない展開すぎる……居ないほうが良かったかな」

 

 クソナードの対人経験もカスなのでカス同士が何故か奇跡的に上手くいくという謎現象を目撃した拳藤は戸惑っている。今まで見てきた人間関係の常識が通用しないのだ。この大して長くもないやり取りの中で「これは冷めちゃうんじゃ」「流石に引かれたかな」と何度思っただろう。

 

「んーん。良かった」

 

 これは(居てくれて)良かったという意味だ。拳藤には問題なく伝わったが緑谷はまだ小大語に慣れていないので「それはどっちの?」となっている。

 

「えーっと、それじゃあ早速入場しようか! 今回の目玉は! なんと! オールマイト本人が来るんだよ!!」

 

 雄英生にとっては何の希少性もないゴミカス特典。だがクソナードはめちゃくちゃハイテンションである。オールマイトは近年そういったイベントを控えており、今回は実に3年ぶりとなる御本人登場だからだ。

 

「楽しみだね!」

 

 拳藤もわりかし強火ファンなので普通に楽しめる。「いや、先生として会うのとヒーローとして会うのは違うでしょ」と思っている。ファンの鑑だ。クソナードはちょっと行き過ぎているので鑑ではない。拳藤くらいが健全な範囲。

 

「ん!」

 

 小大はそもそも友達とのお出かけ自体が割と珍しい。自分から誘うことがなかったので割と孤独な中学時代を過ごしており、高校で周りが積極的な世話焼きだらけになったことでようやく休日に友人と出かけるなどの経験を積み始めた。そのためオールマイトが来る来ない以前の部分でとても喜んでいるし、ヒーローとしてのオールマイトを生で見るのも楽しみにしている。

 

(ナマ)、楽しみ」

 

 そういう気持ちがこうやって出力される。彼氏とかが出来たら「もうお前人前で喋るな」みたいなモラハラ男にあっという間に変貌させてしまうモンスター製造機だ。

 

「楽しそうやねデクくん」

 

 新たなるモンスターのエントリーだ。別に彼女でもなんでもないのに何故か不機嫌になるという創作だとよく見る感じのバケモンである。怪物と戦うものはその過程で自らも怪物とならぬよう気をつけよ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。そう……ヒーローは闇落ちするんだよ! なんだってー!? どういうことだ●バヤシ! 

 

「あ! 麗日さん! 麗日さんもオールマイト見に来たの!? 気が合うね!」

 

 クソナードがあまりにも嬉しそうな顔をするのでお茶子ちゃんはなんだか自分が悪いことをしたような気分になった。実際理不尽な不機嫌さだったので反省するべき。そもそも彼女は完全に下心でここに来ている。「デクくんと会えんかな」という願望ありきでオールマイトなどおまけだ。まぁでも表に出さないように頑張った結果無表情になったという努力は良いと思います。

 

「麗日も来たんだ。よかったら一緒に回ろうよ!」

 

 拳藤一佳は策士である。つまりこの誘いにも様々な意図があるが、最も恐れていたことはこの言葉を緑谷出久が言うことだ。それを封じるために先手を打った。そもそも今回のデート()は同じイベントに行く予定だったのが判明したので「せっかくだし一緒に回ろうよ」という経緯で成り立っているので誘わないと変な感じになるのもある。

 

「ん!」

 

 小大は割とストレートに友達が増えて嬉しいと思っている。恋愛も友情も深まるなんて幸運だと思っている。麗日をライバル視していないわけではない。ただ小大は良くも悪くもフラットに世の中を見ている。相手が何をするかではなく自分がどうするかだ。ちなみに元はこのイベントに参加する予定はなかったが緑谷が参加することが判明したので拳藤が気を利かせて誘ってここにいる。

 

「あ、うん! よろしくね!」

 

 麗日も性格が良いので一緒に遊ぶとなったらぱっと切り替わった。〝個性〟に『解除』とかがある人物はこういう切り替えが上手い傾向にある。そして麗日と小大は〝個性〟の運用に類似性があるため感覚も似てくるので相性は良い。まぁだから同じ男に好意を持ったわけだけど。

 

「そういえば麗日さんの今日の服、ゆったりしたガーリーなトップスとハーフパンツの組み合わせがラフだけど涼し気でとっても似合ってるよ! 落ち着いたダスティカラーでまとまってて大人っぽいね! 明るいファッションのイメージがあったけど新境地って感じだ!」

 

「わひぃ……うへへ……」

 

 麗日は不意打ちだったのでまともに直撃してニヤニヤしながら真っ赤になってしまった。もしかしたら会えるかも。服にもまたなにか言ってくれるかも。そういう妄想が現実になったのだ。初っ端に言われなかったので油断していた。なんかちょっと気持ち悪い声まで出てる。

 

「オールマイトが来るまで1時間くらいあるから会場を見て回ろう! まずはブロンズエイジのコスチュームのレプリカから……いや、事件簿が更新されたらしいからそっちを先に……」

 

 デートコースとしてはぶっちゃけ失敗だ。クソナードは会場に入って以降脳内はオールマイト一色に染まり、色気のある展開は一切無かった。ただし、クソナードは本当に楽しい時間を3人の女子と過ごすことになった。これはとても大事な出来事だった。コペルニクス的転回……「女子と遊ぶのは怖くない。むしろ楽しい」という認識を持たせることができたのだから。女子勢は8割くらいクソナードのオールマイト解説の聞き役だったがそもそもがそういう趣旨のイベントなのでこちらも普通に楽しむことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんせーこんにちはぁ」

 

「ん、こんにちは新斗。今日は何の用だ?」

 

 夏休み中も教師は普通に働いている。それに加えてメスガキは『敵連合』にちょくちょく接触しているので割と頻繁に雄英高校に来て校長とワチャワチャ話している。元々は公安が変な指示とか出してないかを定期的に確認するという名目だったのだが公安は大雑把な指示を出したあとは好きにやれとほとんどフリーハンドを与えているので、もはやすっかりメスガキと校長のただのティータイム(ありがたい長話つき)になってしまっていた。

 

「用事がなければ来ちゃだめですか~? とせんせーを困らせてみたり」

 

 とはいえ校長は校長でまぁまぁ忙しいので無制限にメスガキの相手をできるはずもなく先ほど楽しいお茶会は終了し、メスガキはなんとなしに職員室へ足を運んだ。

 

「別に困りはしないが。他の生徒ならそんな暇あるのかと説教するところだが、お前はどちらかと言うと大人の都合で足踏みさせているからな。教師の仕事を見るのもまぁ経験になるだろう」

 

「うー……せんせーっ!」

 

 ひゅーんとおかしな軌道で飛翔し相澤の腹に抱きつくメスガキ。突拍子もない行動だが相澤は慣れたものでうざったそうに頭をてしてしとした。

 

「おい、見ているのはいいと言ったが邪魔していいとは言ってない。しがみつくな」

 

「はぁい……お姉ちゃんはぎゅーってしてくれるのになぁ~? 相澤先生は冷たいなぁ~! あ、でも夏だから冷たいほうがくっつけていいかも?」

 

 相澤はズボラだが不潔ではない。体臭が動物系の〝個性〟に容易に利用されないようなるべく無臭に近くなるよう気を使って生きているのだ。メスガキは渋々しがみつくのはやめたが中途半端な距離で所在なさげに佇んでいる。

 

「で、なにか用事があるんじゃないのか」

 

 効率主義者なので前置きも短い。早く終わらせたいと思っている。自分のためではない。メスガキのためにだ。

 

「……相澤先生は~……オールマイトのことどう思います?」

 

 相澤は少し意外に思った。メスガキはオールマイトのことをあまり意識していないというか、ありがたがってないのを良く知っていたからだ。まぁメスガキは常に相澤の予想のすこし斜め上をかっ飛んでいくのでいつも通りと言えばそう。

 

「どう、ね……そうだな。扱いにくい年上の後輩だな」

 

「えっ」

 

「そういう意見が聞きたかったんじゃないのか? 実績や素晴らしさなんて言わずと知れているしな」

 

 メスガキ相手に「オールマイトさんはすごい人で云々」だの「俺くらいの年齢だと特に実感してるんだが世の中の雰囲気がだんだん良くなっていく感覚が云々」だの語ってもしょうがない。どれほど相澤がそう思っていようとメスガキはそれに共感することはないのだ。「ぼくにはとてもできない」などという感想をメスガキは持たない。「ボクなら無傷でできるのにバカじゃないの?」としか思わないだろう。ば、バカとまでは思わないですっ! 

 

「そ、そうですね……えっと、そのー……あのおじさんはなんでああなんでしょう……他人の心配を無下にするというか……言葉が硬い壁に跳ね返ってくる感じがするというか……」

 

「……以前も言ったが、どう生きるかとどう死ぬかは表裏一体だ。生き方を決めれば死に方も決まる。オールマイトさんはそういう生き方をすると決断しているんだろう」

 

「もちろん覚えていますけど……自分を大事にするという感覚がないんでしょうか? 理解できないです……」

 

「俺の私見だが……それは逆だな。オールマイトさんは『自分』を絶対視している。お前と同じだ、新斗。だから腹が立つんじゃないか」

 

「同じ……?」

 

「あの人にとってああいう生き方は必然的なものだということだ。必要にかられてやってるから妥協がないし、曲がらない。お前にそっくりだろう?」

 

 オールマイトは『肉体』を軽視しているが『自分』は重視している。相澤はそういう印象を持っている。口にはしなかったが人間不信気味なのもそっくりだ。

 

「ぐにゅ……ボクあんなに聞き分けが悪いですか……?」

 

「いいや。お前は他者の言動を柔軟に取り入れ実践することに長けている。俺がお前に対して最も高く評価している部分だ」

 

 メスガキは相澤の言葉に対していつだって素直で、入学当初に考えていたような「生意気そうだからきっと大変だろうな」という予想はいい意味で裏切られた。表面上の態度とは裏腹に相澤の教師人生においても有数の優等生である。問題児でもあるがそれは彼女が『規格外』だからであって本人の責任ではないと相澤は思っている。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 直球のお褒めの言葉にメスガキはほっぺたを赤くしてそわそわと照れだした。褒められ慣れていないのだ。そのことに相澤は柄にもなく悲しみを感じる。

 

「だが他人の心配に対しての言動は同じだ。心配してくれてありがとう。でも大丈夫。強いから。そういうことだ」

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

 メスガキはぐうの音も出ない。ぐぬ声で呻いて悔しがることしか出来ない。それらは全くもって同じロジックで行われていることは明らかだった。

 

「問題の根本もお前と同じだな……つまり、周りの力不足。誰もオールマイトさんにはついていけなかったし、彼の後も継げなかった。お前が現れるまではな」

 

 ぽんぽん。今度は窘めるではなく、褒めるために触れた。サラサラとした素晴らしい触り心地で、まるで良くケアされた猫の背中を撫でているようだと相澤は思った。

 

「……せんせーはボクがオールマイトの後を継ぐと思ってるんですか?」

 

 相澤は仕事を中断して黎乃の方に向き直り、視線を合わせて言った。

 

「いや……お前は……お前たちはあの人を超えていく。そう思っているよ」




独自設定とか

・第四の壁:いわゆるメタ視点。
・メスガキの体温:冬はあったかくなる。
・庭でバーベキュー:メスガキハウスにはデカい庭がある。
・ぱんつ:スケスケの黒レース。ローライズ。
・過程と結果:全ては過程だ雌餓鬼。
・塚内くん:オールマイト案件なら彼が担当するんだけど何もしてないから……。
・100倍:ワタシメスガキ……強いね……。
・メスガキ〝個性〟効かない問題:あくまでオールマイト視点の話。
・雄英の休日:日曜は普通に休み。
・毒舌かうち:拘束中だ。手は取れない。
・クソナードデクデート:オールマイトのこと詳しいんでしょ?色々教えてよ。と言われて快諾。断れない男。
・THE 35th ALL MIGHT EXPO in SUMMER:夏休みにデカいイベントの一つや二つあるやろ多分……。
・トマトレッド:生鮮戦隊ヘルシーズのリーダー(多分)。ヒロアカには全然出てこない戦隊系。『僕のヒーロー』という読み切りに出てくるヒーロー。
・2パイアール:メスガキの胸は虚数。
・名前で呼んで:随分と傲慢で腐った組織だな……まず公安という名前が良くない。
・それはどっちの?:問いたい衝動をかろうじてデクは抑え込んだ。
・イツカがオールマイトファン:捏造。止まんねえかぎりその先にオールマイトはいるぞ!
・●バヤシ:●バヤシさんちのノストラダムス。
・フラットな目線:ヒーロー名の『ルール』は多分『基準』だと思う。サイズを変える自分が原点О。
・こんホーリー:流行らなかった。
・困らせてみたり:幼稚な試し行動。
・相澤の体臭:一見不潔そうだけど清潔。ヒーローなので。
・お姉ちゃん:夏休みも頻繁に会ってる。
・人間不信:秘密主義。他者に任せることが出来ない。象徴をやめられない。まぁ実際クソ民度だからしょうがないけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。