ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
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エンデヴァー超え達成!
「すみませんね、お構いもせずに。お話はどんな……え、なんですかこの雰囲気。喧嘩でもしたんですか?」
地獄のような空気になっている部屋に黒霧が戻ってきた。ある程度荷物を整理してここに残すものはほぼ最低限となったので確認に来たのだ。
「…………」
「お説教だよ~。馬鹿なことしてないでお家に帰れって言ってあげた~」
端的に纏めるメスガキ。家に帰れば両親がいる。もはやメスガキには味わえない贅沢だ。そこに待つものがあるいは決定的な破綻だったとしても。
「なるほど。……厳しいんじゃないですか? トガヒミコは確か連続失血死事件の容疑者だと義爛が言っていましたよ。捕まったら二度と出てこられないのでは?」
黒霧は現実的な懸念を口にした。トガヒミコが何人殺したかなど黒霧は知らない。しかし連続とついている以上最低でも二人はやらかしているのだから、無期懲役になってもおかしくない。
「だから今が最後のチャンスなんだよ? 弔くんに伝えといて。君たちが公安に都合良く動けば動くほど『仲間』のこれからが明るくなるってさ。照らせっ!」
過去は変わらない。しかし未来につなげることは出来る。生きているのであれば。
「ホーリーナイトも公安も本当にめちゃくちゃいいますね。被害者の気持ちとか考えてます?」
どの口が言うのか。とはいえ『黒霧』は人を殺したことがない。AFOから命じられたことはあるのだが、なんか変な動作をしてバグったので慌てて撤回された。脳無で実験したところ、『殺せ』と命じるとバグる事がわかったので、『引きちぎれ』と命じたところなんとか動いたという経緯がある。まぁAFOとかいうレジェンドゴミカスの移動を補助している時点で間接的に大量殺人に加担しているので何の情状酌量の余地もないが。
「あのさぁ……ご遺族の感情を考慮しだしたらキミたち死ぬしかないのが分かんないの? いいや、死んでも許されないんだよ? なんか抑圧されてるとか被害者面してるけど本当の被害者がキミたちに対してどれほど我慢してるか考えたことあるかな? 遺された人たちの気持ちについて考えてないのはキミたちだろ」
メスガキもだいぶイラッとしたらしくネチネチと口撃を加えた。
「すみませんでした……私ってほんと馬鹿。これヤベェな、いつの間にオレこんな人でなしになっちゃったんだ?」
ショックを受けたのかぶつぶつと独り言をつぶやきだす黒霧。完全にヤベェ奴である。
「不毛なこと言っていないで社会貢献しようね。公的な罪だけでも償おうね。どうせ犯罪者だからとか開き直らずに善行を重ねろ。100の悪事を1000の善行で償え。生きている限りだ」
感情面での償いなど出来るはずがない。いや、出来ると思ってはいけない。しかし、やらねばならない。そういうものだ。
「すみません……それでもオレは……死柄木弔を守らなきゃ……ごめん……ゴメンな……」
「……『黒霧』くんもそのうちボクがなんとかしてあげるよ。キミを……キミたちを……『死者』の尊厳を辱める『奴』をボクは絶対に許さない。『八相縁起』の本拠地が分かったらボクがキミを『
メスガキが赤く染まった眼で未だわけのわからない独り言を続けている黒霧を冷たく見つめていると、人生が終わりそうで終わっていないちょっと終わっている中卒が話しかけてきた。
「リノちゃん……」
「なぁに~?」
「私はこれから……どうすればいいんでしょうか……?」
「何回も言ってるでしょ~。自首しなよっ。弔くんとマグ姉はきっと喜ぶよ。他のアホどもはどうかな~。寂しがりそう。ていうかキミ自身はどうしたいわけ?」
メスガキはちょっとめんどくさそうに答えた。彼女にとっては答えはすでに出ている。何度も言ってきたし、変わることはない。
「わた、私ぃ……か、かえりたいんです……昔は……昔はパパもママも優しかった……しあわせだったんです……でも……」
ぽろぽろと涙をこぼしながら独白する偽JK。結局こんな所にいても彼女は偽物のままだ。あの家に……1年経つごとに家族皆が笑顔で柱に身長を刻んだあの日々にはもう、戻れない。
「だろーねー……キミの執着の強さで分かるよ。愛されてないとそうはならないよね。〝個性〟が出る年頃までは愛されてたんでしょ? 生まれてから4年間愛された記憶は一生を尽くそうって思うには充分だってボクは知ってる」
少しだけ優しい表情になってソファへ座り手招きするメスガキ。横におずおずと座ったトガヒミコを膝枕して頭を撫で始めた。最初は驚いたトガヒミコだったが横たわったまま再びポツポツと話し始めた。
「あのお家は……『私』を消しちゃった……覚えてないんです……愛されていた私がどんなだったか……パパもママもずっとよそよそしくて……私はそれを見てないふりをしました……私の帰りたい場所はもう……」
存在しない。そう口にするのは恐ろしかった。はっきりと言葉にしてしまえば、本当にそうなってしまうのではないか。
「そこは共感してあげられないな~。両親に愛されてない瞬間なんてボクにはなかったから」
メスガキにとってそれは今もなお存在する。温かな思い出に満たされた自宅。新斗黎乃の、帰る場所。
「羨ましいです……」
「ボクはキミが羨ましいよ? 今が愛し合えていなくても……言葉を交わせるんだから」
どちらにとっても心からの言葉だ。感覚の断絶。永遠の平行線。とはいえどちらも喪失だと定義するならば、取り戻せる可能性がゼロだと確定していない方がやはりマシなのだろう。
「きっと私と話してなんてくれません……元通りになんて戻れっこありません。それでも、羨ましいんですか?」
「新しい関係を作ろうとは思わないの? ……いいよ、答えなくて。分かってるから。キミは世の中と戦うより両親に立ち向かうほうが怖かったんでしょう?」
「!!」
「何もかも捨てて逃げ出す前に話してみればよかったんじゃないの? それで本当に拒絶されたなら、それはもうしょうがないけど……試してすらいないでしょ」
トガヒミコは自分を偽ることを覚えたあと、それっきり両親には『本当の自分』を二度と見せなかった。そうあろうと我慢を……努力をした。家に来たカウンセラーを名乗るあの人物に、どうすればいいか習った。笑顔の練習を、させられた。
「人間は完璧じゃないんだよ? ボクですらそう。問題を切り分けよう? キミが普通のフリしてた時、ご両親を含めた周りの人はキミを蔑ろにしたの? 本当に?」
トガヒミコは慕われていた。友達に『人当たりも良くいつも笑っている可愛い女の子』だと思われていた。だから周りはそう扱ってくれた。親切に、思い遣りを持って接してくれた。
「私は……親切なふりをしました。楽しいふりをして嘘の笑顔で騙しました。そんな私に皆は優しかった。けど苦しかった。本当の私が無価値だって言われてるみたいだった……」
全く手に入らないのであれば諦められたのかもしれない。しかし……『それっぽいけどそうじゃない』ものはたくさん貰えた。だからこそ心が歪み続けたのだろう。メスガキはトガヒミコの頭を撫でた。ぱさついた髪。清潔にだけしとけばいいだろ、と言わんばかりの安物の石鹸のにおい。逃亡生活でまともな手入れなど滅多にできない。
「違うでしょ~? キミが嘘にしたんだよ。キミがそう定義したからそうなったんだよ? それ『も』私! って思えばよかったのに」
他人から価値を奪うことなど誰にも出来ない。とりわけ「どう生きるか」というものは奪いようがない。本当の自由とはそこにある。トガヒミコはそれを親に決められたが、逆らうことだってできた。ろくなことにはならなかったのかもしれない。しかし彼女はやはり、自ら手放したのだ。親が世界の全てである4歳の子供がそうすることは、誰にも責めることはできないが、15歳の少女ならばどうだろうか。責めるのは酷な子供のままではあるが、そこには僅かな、しかし確かな責任がある。一人で生きることは、選べたのだから。
「誰と接するときも同じ態度の人間なんて居ないよ。好きな人と居る時。嫌いな人といる時。同じ態度だったらおかしいでしょ~。『本当の自分』はどっちだと思う?」
嘘の自分と本当の自分があるなら、どの自分を誰に見せるかは、本来自分で選ぶべきはずだ。しかし、女性の思考は往々にして「共感」がベースであり、それが得られないと考えそのものがまとまらない。つまりトガヒミコはこの「共感」を両親や周囲から得られなくなったことで、袋小路に追い詰められてしまったのだ。
「それは……ど、どっちなんですか……?」
「だからどっちもだよ。『ただ一つの本当の自分』なんて毒みたいな概念捨てよう? そんなもの存在しないよ。人は常に変化し続けているんだから」
メスガキの語りは解決を求めている。女性には珍しいタイプの喋りである。これは大好きなお父さんの喋り方を真似し続けて身につけた後天的なものだ。響香やヤオモモと喋っているときは共感脳で喋るので話が長くなっていつまでも終わらないし、自画自賛して気持ちよくなっているときも共感を求めるのでダラダラダラダラ続く。
「つねにへんか……」
低学歴の中卒は全くついていけていない。ぽけーっと歯並びのいい口を開けて半泣きのバカ面でメスガキの顔を見上げている。そもそも友人たちだって内心何を考えていたのか分からない。トガヒミコはそれを聞いたことがない。もしかしたら本音では「良い子ちゃんぶっててムカつく」と思われていたのかもしれない。「実は私血まみれなのが好きで……」と言えばむしろ仲良くなれる人も居たかもしれない。中学生ってなんかグロに興味持つ年頃だし。
「そもそも今のキミも『演じてる』よね? 過剰に『変』に振る舞ってるでしょ。抑圧からのリバウンドだ。『ステイン』そっくりだよ、キミ」
赤黒血染は演じていた。邪悪な
「あいつも自分に言い聞かせてたんだよ。動画で経歴見たなら分かるよね。本当はヒーローになりたいのにその気持ちを否定するために過激なことをやってた。キミもそうでしょ~? 本当は皆と『普通』に仲良くなってさぁ、『血をちょうだい』って言って、それに『いいよ』って返してほしかったんじゃないの?」
言えていたら違ったのかもしれない。拒絶するものは居るだろう。気持ち悪がるものも居るだろう。だが、全員がそうだっただろうか? それを確かめることはもうできない。大抵の物事には兆候がある。例えば、普段見たことのない幼稚な仕草をしているとか。例えば、普段見たことのない表情で刃物を扱っているとか。そう、例えば……笑った顔が、いつもと違ったとか。卒業式でなければ、いつもと違う特別な日でなければ。もしかしたら誰かが、その違和感を見逃さずに、声をかけてくれたのかもしれない。
「だからキミはボクを無視できないんだ。ボクとは出来たもんね、そういうやりとり。すっごく嬉しそうにしてたの、覚えてるよ。ニヤニヤするの我慢して変な顔になってたよ」
チウチウさせてください! ちょっとした冗談だった。いいよ、だなんて返ってくるはずがない。いいや、返ってきたとしても。「じゃあ代わりに〇〇させろ」という取引になるだけだ。だが、メスガキは血を与えたが、何も求めなかった。そういう人が本当に今までの仮初の友人たちにいなかったのか。もう分からない。
「…………」
「キミは『本当の自分』になったんじゃない。ただ入れ替えただけ。抑えていた『欲望』を解放して、今度はそれに支配された。ううん、そう振る舞った。『普通の自分』に蓋をしたんだ。何も変わってないね」
抑圧する部分が変わっただけ。友だちと遊びたい。おしゃれをしたい。ぐっすり眠りたい。両親に甘えて、おでかけして。『本当の笑顔』が出そうになるのを我慢する。そんな日々を、失った。欲しがっても得られなくなって、大切だったんだと分かった。その日常の中に「ヒミコちゃん血が欲しいの? もう、しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ?」と、そう言ってくれる人は、本当にいなかったのだろうか。確かめていないのだから、分からない。分からないのだ。
「改めて聞くけど。今のキミは本当に
「はい……私は、こわい。我慢できなくなって
中学生の女の子らしい極端で狭い世界観だ。実際は人生終わるほどのことではない。周囲との関係性は破綻するだろうが、それは世界の崩壊ではない。外から見てそれを知ったトガヒミコは……。
「ヤケになって飛び出して逃亡生活ってわけだね。はぁ~。キミのやったことだって発覚してないだけで窃盗も相当やってるでしょ。これも覆面くんと話が合う理由かな」
「またヤな共通点見つけないで……」
全てが、嫌になった。世間的には大したことがなかったのだ。世界は終わらず、何事もなかったかのように続いていた。……そんなの、許せない。滅べよ、世界。これじゃ私が馬鹿みたいじゃん。めちゃくちゃにしてやる。オオゴトにしてやる。重大な出来事に書き換えてやる。教科書にのるくらいの大事件に、なれ。そんな自分勝手さを、すべて見透かされ、打ち砕かれた。
「おんなじだと嬉しいんでしょ? なんで嫌がるのさ。変なの~」
変。メスガキはトガヒミコに何の遠慮もなく変だという。変なことを変だというのは、『普通』のことだ。つまりトガヒミコにとっては嫌なことだ。
「……なんで」
「何~?」
頭をメスガキのひんやりぷにぷにの太ももに乗せたまま、撫でられながら、トガヒミコは言った。
「なんで私は、リノちゃんに『変』って言われても、嫌じゃないんでしょうか」
嫌な事だった。嫌になるはずだった。今までずっと嫌がっていたはずだった。『お前は異常者だ』と言われるのは、本当に辛いことだ。だから『変』だと言われるのも苦しいはずなのに。
「え~? そんなのボクが『特別』で『友達』だからに決まってるじゃん?」
だってメスガキも変だもんな。変なやつに変だと言われたところで響かない。それに加えて、そもそもトガヒミコが『変』だと思われたくないのは『排除』されるからだ。『排除』されないなら別に『変』でいていいのだ。彼女が気にしているのはなにが『変』かではなく、周りの行動だ。仲間に入れてください。仲間はずれにしないで。かぞくから、おいださないで。
「……ともだち……なんですか? わたし、犯罪者なのに。人殺しなのに。刑務所に行ったらもう、会えないのに」
心とは裏腹な言葉。本当はそんな事言いたくない。見なかったことにして、知らないふりして、なあなあにして過ごしたい。このままここで……いつか終わる日まで、終わりから目をそらしていたい。だが、言ってしまう。
「それらが友達かどうかと何の関係があるの? ヒミコちゃんって本当に論理的じゃないねっ!」
返ってきた言葉は冷たかったし余計な嫌味がついていたが、嫌ではなかった。ありのままのトガヒミコを見つめて、本音で話している。それが分かったからだ。
「か、関係あるでしょ……? 犯罪者なんて、人殺しなんて、嫌われて当然のはずです……リノちゃんは私が……私なんか、嫌いなはずです……」
言ってしまった。口にしたら本当になってしまうんじゃないか、そう思って言いたくなかった言葉。それをついに、口にしてしまった。「そうじゃない」と、「好きだよ」と言ってほしいという、甘え。
「なんでキミが決めつけるの~? まぁボクは人殺しなんて大嫌いだから合ってるけど。でも嫌いだから友達をやめるのって、ボクは違うと思うなぁ」
だが嫌われていた。確定してしまった。だ、大嫌い……!? しかし続く言葉には優しさがあった。終わりでは、なかった。嫌われても、終わらないの……?
「ど、どういうことですか? 嫌いなのに、友達……?」
「ボクは期待するよ。キミが真剣に反省して、ボクに好かれようと頑張って変わろうとすることを。だって、友達だもん。獄中からお手紙送ってね、ヒミコちゃん。お返事、書くから。約束だよ」
ああ、それは。きっと本当は知ってなければいけなかったこと。どんなに嫌われても。どんなに疎まれても。それが一方的で身勝手なものだったとしても。私はきっと『期待』されていたはずだった。……パパと、ママに。
「やっホーリー♡弔くんにおしらせでぇ~すっ! ヒミコちゃんはこの度自首することになりました~!」
「……クソ遅れてやって来たと思ったら何だこれは。急ぎの用事じゃなかったのかよ?」
呼びに行かせてからだいぶ時間が経って開いたワープゲートから、もたもたと様子のおかしいトガヒミコが出てくるのを眺めていた死柄木弔。先に出てきていたメスガキが聞き捨てならないことを言ったので、イラッとしながら聞き返す。
「詳しくはあとでそこのポンコツくんに聞いてねっ!」
ぼーっとしながらヨロヨロと隅っこの椅子に座る破綻JK。のそっとモヤから出てきたあとそのままそこに立ち尽くしている黒霧。ぴょいんとカウンターの椅子に座るメスガキ。両手に花だね。どっちの花もバラどころじゃないトゲで、トリカブトもびっくりの毒花だけど。
「オレは……違う。私は……そう、守る者。守るべきものは……死柄木弔。陰気な彼にはオレがついててやんなきゃ。オレは曇りをつくる暗雲じゃない。お日様と一緒にある、入道雲だ。そうあると決めたんだ。強い日差しから、守るものだ……」
「バグっててもワープは正常にできるのすごく悲哀を感じるね、かわいそう」
先ほどの話し合いのあと、メスガキが「弔くんに挨拶するからいつものバーに送ってよ」と言うと、ブツブツは止まらないままにワープゲートが開いた。すでに黒霧の〝個性〟の解析を終わらせていたメスガキはそれがちゃんと安定していることが分かったので、トガヒミコを連れて普通に入った。座標が分からないので自分でワープは出来なかったのだ。
「またバグってるのか。一体どうなってるんだ? 喋れる脳無かなんかなのかこいつ……!?」
それは軽口のはずだった。何気ないいつもの罵倒。AIみてぇだ、という共通点を論うだけのつもりだった。しかし、口にしたことで気付いてしまった。『先生の命令で、死柄木弔の言うことを何でも聞く存在』。
「あ、気づいたんだ。そーだよ、『脳無』だよ。キミがここでの暮らしで感じている思い遣りは、『先生』じゃなくて『黒霧』くんの『中の人』の残滓ってこと。うーん、丁度いいタイミングで気付いてくれたねっ! やっぱボクって持ってるなぁ~!」
「……ふざけるな……ありえねぇだろ。こんなの……こんなの……!」
脳無は死体を使って作られている。死柄木弔がそれを知ったとき、「ふーん」で済ませた。関係なかったからだ。便利に使えるなら何でも良かった。仲間が材料にされるならともかく、どうでもいい他人が有効活用出来てお得だなぁ、くらいにしか思っていなかった。
「愚者は経験に学ぶってやつだねっ! ようやく他人の心について思いを馳せるようになった弔くんにはきっとショックな事実だったと思うけど。今までキミが使い捨てた『脳無』たちにだってそれぞれの人生があったんだよ~?」
そんなことはどうでも良かった。さっきまでは。黒霧との思い出の全てが、死者の声だったというのか。死んだあともなお動かされる哀れな人形だったのか。俺の『仲間』はすでに『脳無』だったと……。
「…………」
「とんだ愁嘆場だなぁ~。シッチャカメッチャカだねっ!」
メスガキにとっては今更だ。何もかもが今更なのだ。教えても信じなかっただろう。自分で気づいてもらわなくてはならなかった。今のように。
「うるさい……。結局急ぎって何の用だったんだ。トガを口説き落とした報告だけか?」
死柄木弔はぼけっと虚空を見つめて黙ったままのトガにちらりと目を向けて、それきり視線を向けなかった。もはや話すことはない。仲間じゃなくなったから……ではない。祝福だ。ホーリーナイトがきっと面倒を見るのだから、言うことはない。
「黒霧くんはまだ復帰しないのかぁ、仕方ないねっ! 公安とボクからオトクな司法取引のお知らせだよ~! 『八相縁起』をボクがボコってあげるから、おびき寄せて。そうしたらキミたちの犯罪行為を減刑してあげる~」
「はぁ? 取引なんてするはずないだろ。減刑で俺達が喜ぶと思っているのか?」
取り付く島もない。死柄木弔にとってはそもそも現行法など守るに値しない。勝手に押し付けられたものを罪だと言われても納得などしない。何が罪かは自分で決める。現行法など、どうでもいい無関係な決まり事だ。
「ふーん? ヒミコちゃんの罪が軽くなることはどうでもいい?」
「……お前……本当にクソガキだな……ヒーロー候補生、しかも雄英生が脅迫かよ……?」
だがそれはあくまで自分の話だ。これから捕まる仲間には無関係ではない。苦虫を噛み潰したような顔になる死柄木。
「真面目に考慮してくれてありがとうっ! まぁ公安だってキミたちが大人しく従うとは思ってないよ。でもこれはねぇ、チャンスなんだよ?」
「はぁ? 馬鹿か?
そもそも死柄木弔は牢に入れられたところで反省などしない。そして、仮に反省したとしても牢に入ろうなどと思わないだろう。禁固刑自体に何の正当性も感じていないからだ。牢屋で反省できるやつは牢に入らなくても反省できるだろ、と思っている。死柄木弔にとっては刑務所などただの隔離施設でしか無く、甚だ不合理な仕組みだ。
「分かってるって~。反発前提じゃなくてなんでこんな話が持ち込まれたかを考えてみたら~? この話を受けるとどうなると思う~?」
「はっ。大方俺達を都合良く動かそうって……いや、そういうことか」
鼻で笑って突っぱねようとしたが、実際に考えてみればすぐ分かった。この提案は『使い道がある』。
「何に納得したか知らないけど~? タイミングはキミたちからの連絡で決まるよねぇ、必然的に。場所だってキミたちが選べるよねぇ、必然的に。当然ボクたちにとってはキミたち連合は事が済んだら自首してくるんだから、監視も警戒も緩むだろうねぇ、必然的に」
「これは仮定の話だが……さっきの話と合わせると、もし逃げ出したとしても『そのまま残ったやつ』には逃げた奴らの『貢献』分も上乗せされるわけか」
「単純に人数分加算ってわけにはいかないだろうけどね~。ま、その辺りはボクが交渉しとくよ。あらかじめ明言しとくけど、どれほど貢献しても無罪には絶対にならない。ボクがそうしない、させない。獄中で反省すべきだから」
「お前はそういうやつだよな。分かっている。だが……やり直せるようにしてやれるんだな?」
具体名は出さない。しかし、誰のことを言っているのかは明白だった。
「本人次第じゃん? そんなの。ボクが用意できるのは出所したあとの就職先くらいかな~。お花屋さんでもやりたがるならそれも応援してあげる~。まぁ『もっと向いている仕事』を公安が紹介してくれそうだけど」
「……変わるのは公的機関に追われるかどうか、くらいなんじゃないのか、それ」
結局のところあの破綻JKには思想などないし、信念もない。目的もなく無軌道に走り回っているだけのアホガキだ。合法的に『性癖』を満たしたいなら医療にでも携わるのが良いのだが低学歴な上にそもそも学習意欲が低くて『たたかう』しかコマンドを選べないアホなので、公安に仕事を用意してもらうのはむしろ安牌である。
「それを小さな差だと思うか大きな差だと思うかは、残ろうと思った人が決めることでしょ?」
気に入らないならそのまま
「……そうだな。とりあえず今返答は出来ない。俺の一存で決めるようなことでもないしな。他の奴らにも話しておく。それでいいか?」
「おっけ~。でもなるはやでお願いだよ~? アレを野放しにしている日数が増えるほどボクはイライラするし、警察の皆様が頑張ってココや『八相縁起』を見つけたら公安もボクもそっちの援護にシフトする。分かるよね?」
その場合やってくるのがおそらくオールマイトになるであろうことは死柄木弔も分かっている。なのでなるべく速やかに意志統一をするつもりでいる。クソムカつくにやけ面なんて見たくないし、あれを相手に何度も逃げられるなどと楽観はできないからだ。
「ああ。すぐに連絡する。黒霧がまともになり次第緊急招集するさ」
死柄木弔は不安そうに黒霧を見つめた。『これ』がただのバグではなくあるいは致命的な損傷なのかもしれない、と心配しているのだ。
「警察のほうにすっごい敏腕が加わったんだってぇ。これは忠告だけど、本当に急いだほうがいいからね」
現在の流れが首尾よく進めばオールマイトを出し抜ける。だがそれは少々向かい風の流れになってきている。『塚内直正』はオールマイトの日本での相棒とも言える人物で、分野は違えどあのバグキャラに『助力』ができるなかなかに稀有な人物なのだ。メスガキはオールマイトの意志を尊重しよう、などと一切考えていない。むしろ台無しにしてやろうと思っている。言っても聞かないなら『わからせ』をするしかないのだ。
「ああ、ありがとうホーリーナイト。俺はお前を仲間だと思っている。お前がそう思っていなくてもな」
にやにや。本心でもあるが、メインは嫌がらせだ。メスガキはこういう事を言うと嫌がる。死柄木弔はすでに割り切っている。いつかこのちびっこに捕まるかもしれないと思っているし、それも悪くないと思っている。だがメスガキの方はまだ複雑らしい。全員説き伏せる自信があったらしいが、失敗しまくったのをからかうと良い反応をする。いつか何かが……何かが起こればこのメスガキは
「うるさ。バーカ、さっさと自首しろッ!」
案の定メスガキは不愉快そうに中身のない罵倒を繰り出した。暴力では到底敵わないがトークであればそれなりに付け入る隙があるのだ。
「ああそうだ、俺が管理している『脳無』が居るんだ。だからどうということはないんだが、俺が管理している『脳無』だからな。平和的な〝個性〟を詰め込んだ特別製だ。持っている〝個性〟の説明がてら面通しするからちょっと待ってろ」
黒霧がもとに戻るまでは動けない。ならばその間に一応顔見せをしておこう。そんな軽い思いつきだった。……そのうち喋りだしたりするかもしれないし。
「はいはい、キミが管理している平和的な『脳無』ね。だからどうということはないけどちゃんと覚えておくよ」
死柄木のあとについてのこのこと歩いてきた『脳無』はバーに入るなりメスガキにすごい勢いで殴りかかってきた。当然無敵なのでノーダメージで小揺るぎもしない。
「な、なんだあっ! やめろ脳無! とま…………Zzz」
「死柄木弔! さがっ……ぐぅぐぅ……」
「……すぴー……」
驚いて停止を命じる死柄木弔。しかし脳無がそれに従うことはなく、それどころか連発された『あくび』により死柄木は他のバカどもと一緒にすやすやおねむりしてしまった。くっそ強力な“個性”だ。きみ、ヒーローの素質あるよ!
「えー……『八相縁起』の命令だな? はぁー」
メスガキは眠らなかった。かっこいいマスクを付けていてなおかつちゃんと服を着ているので一見普通の人間に見える脳無は目を合わせて『思考停止』を発動させたがメスガキは何一つ変化がなかった。怪力で踏みしめられたバーの床はバキバキに砕けた。
「しょうもな。平和的、かぁ……大方ボクに通用する“個性”でも探りたかったんだろうけど……」
メスガキはとりあえず好きにさせて様子を見ている。『八相縁起』がどの程度メスガキのことを分析しているのかを知る良い機会だと思ったのだろう。さっきまで『あくび』していた口が開いたのを確認し待ち構えるメスガキ。
「『親殺しの呪い子が!』『お前が居なければ両親は死ななかっただろうな!』『おばけやしきのあくま!』『人間のふりをするな化物め!』」
火でも吹くのかと思ったらまさかの『悪口』にメスガキはほんの僅かに硬直した。が、即座に我を取り戻すとしらけ顔であっさりと「ダークマター」で脳無の全身を包み込み拘束した。『口』は特に念入りに固められている。
「今更すぎる。……読心……? ……
脳無は破裂した。『真空』と『ロケット』を発動させたがメスガキの“個性”を突破できずそのまま中で木っ端微塵になったのだ。『超再生』ですら回復できないミンチ状態である。
「……自爆? ……『八相縁起』ィ……! 本当にあのゴミカスは……!」
一瞬だけぎしりと空間が歪むが、すぐに収まった。メスガキはふー、とクールダウンをすると眠っている死柄木弔を足でぐにぐにと踏みつけて起こした。
「おーい、クソたわけっ! さっさと起きろ社会のゴミ! うぇいかーっぷ!!」
「ぐぅ……な、なんだ……? は? 何、どういう状況だ……?」
バーは一瞬だけ発動された『真空』によりめちゃくちゃになっていた。本当に一瞬の発動だったので範囲は狭かったが空気の瞬間的な移動により棚から様々なモノが飛び出して椅子と机は床に散乱している。幸いメスガキ以外の人物は『真空』には巻き込まれなかったようだ。吹っ飛んだものからもメスガキの〝個性〟により守られた。
「説明しなきゃ分かんない?」
周りを見渡す死柄木弔。めちゃくちゃになったバー。そろそろ捨てなければならないと思っていた憩いの場所。仲間たちとの、思い出の、場所。それが無惨にも崩壊している。彼は怒りで頭に血が上る、という感覚を久々に味わっていた。
「……『脳無』が襲いかかってきたんだったな。すまない、ホーリーナイト。そうかそうか。そういうことか。『あいつ』は俺のことを馬鹿にしているらしいな?」
感情を抑えるすべは学んでいた。べしべしと黒霧の胴体を蹴りつける死柄木。黒霧はそれで目が覚めたらしくばっと飛び起きて周囲を見渡し、死柄木弔の無事を確認すると露骨に安心した仕草を見せた。それを見た死柄木の雰囲気が少しだけ柔らかくなった。
「最初からそう言ってるでしょ。ボクがここでブチギレてキミたちを捕まえてもボクの『性能』が分かればそれでOK。あわよくば『崩壊』しろ、って感じかな」
メスガキの冷たい分析に頷いて同意を示す弔くん。その態度は彼が誰を『敵』として扱い、誰を『仲間』として扱っているかを雄弁に物語っていた。
「なんだろうな、やっぱりまだどこかで期待してたんだろうな。俺は今『
「し、死柄木弔……きっと何か事情があるんですよ。私が一度話を聞いてきますので落ち着いてください」
やさしくトガヒミコをゆすりながら黒霧がお人好しなことをいう。一度眠ったおかげかバグの影響が取り除かれたようだ。彼はこの期に及んでまだ納得行く説明が出てくるかもしれないと思っているらしい。起こし方もなまぬるいので中卒JKもどきはまだぐぅぐぅねむっている。
「しょうもない言い訳の伝書鳩なんてしなくていい。これを奇貨として『奴』をおびき寄せることに使う。文句があるか、黒霧」
というか黒霧をもう単独で『奴』に会わせるわけにはいかない。どんな『命令』を仕込まれるか分かったものではない。『仲間』を守るためにも、一刻も早く排除せねばならない。
「……いいえ。貴方に従います……」
がっくりと肩を落として死柄木弔への恭順を示す黒霧。これは、あんまりだ。せめて私に話を通して貰えていれば取りなすことだって出来ただろうに。黒霧だって木石ではない。10年以上も忠誠を尽くしてきたのに、この扱いは流石にショックだ。これだけであればそれでも裏切ることはなかっただろう。だが「どちらか選べ」と言われたらもはや答えは決まっている。まだどこかで和解の道があると思っていたが、もう、だめだ。死柄木弔にとってもはや『先生』は身内ではない。『決定的な亀裂』が、刻まれた。
独自設定とか
・トガヒミコの犠牲者数:2~3件くらい?5人以上殺してたらもっと扱いデカいと思う。
・司法取引:日本のやつじゃ他人に減刑は出来ないけど原作でジェントルがラブラバ減刑してるのでヒロアカジャパンでは出来る。いやあれ司法取引じゃないけど。何なんだろう?とにかく社会貢献したら減刑されるシステムがある。
・照らせ:ナイトアイの人生観が良く出てる。後悔ばっかなんだろうな。
・黒霧の殺人:こいつ居ないとAFOの活動自体ガラッと変わると思われるので共同正犯。
・イライラメスガキ:世界の危機。
・トガヒミコ:もうちょっとだけ愚弄は続くんじゃ。
・柱の傷:原作でも描写されている公式設定です。原作No341の刃牙ハウスみたいになってる渡我家の落書きを是非見てあげてくださいね。
・全部捨てたんだね:原作で空っぽの家を見てのセリフ。まだ捨てられてないと思ってたんだねぇ。カァイイねえ。
・哀れな行進:続けさせてやろうぜ。誰に?
・共感してあげられないな:でも『親』と過ごした期間自体は大差ない。
・非行少女:自分を傷つけることで親を傷つける心理。幼稚な試し行動。
・石鹸の匂い:臭くしても良かったんだけどね。
・トガヒミコの責任:加害者になっちゃうと世間は冷たい。お前が選んだんだろ?
・本当の自分:探してもそんなものは見つからない。どんな貴方も全部本物です。
・友達だもん:メスガキは執念深い。
・毒親の期待:生物濃縮ぅ……。
・やっホーリー:流行らない。
・雲と霧:同じもの。空にあると雲。地上にあると霧。山はどうなるかって?見る人の位置で変わります。外からは雲で内からは霧です。ちなみに
・人生の悲哀を感じますね:まぁ人生もう終わってるんだけど……。
・脅迫かよ:脅迫ですね……。
・なんだこれ?チャンスか?:未曾有の大チャンス。いけっ!メスガキ!を出来る機会などめったに無い。
・ヒミコのハラワタ:キモチイイ夢ヨ ウレシイナ
・仲間だもんげ!:荼毘にも会いたいなぁとか思ってる。
・メスガキ説得失敗:トホホーリー……。
・メスガキ の ふみつけ!:しがらきとむらはひるんでいる。