ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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メスガキの描写増えたよ!


『悪が勝利するために必要なのは善人が何もしないことだけだ』

「遅かったじゃないか」

 

 黒いモヤ……『ワープゲート』から出てきた『AFO』を見て開口一番文句を言う死柄木弔。ここは神野区の郊外にある廃工場の一室。死柄木弔が独自に確保している隠れ家のうちの一つだ。そういう事になっている。

 

「いやいや、これでも一応急いできたんだぜ? ちょっと確認することがあったからさ」

 

 確認したのは『イレイザーヘッド』の位置と本日の予定である。彼は現在雄英高校で仕事をしているのが確定している。別に死柄木弔を疑っているのではなく、単なるクセと言うか、出歩くときは必ず確認している。ウッキウキに舞い上がっていても流石にこれは忘れない。ちなみに『オールマイト』の位置は確認していない。あれはその気になったらすぐに文字通り飛んでくるので。どこに居ようが離れているから安心、とはならない。

 

「で、彼らが〝個性〟を奪ってほしい人物か。……渡我被身子は眠らせていないんだね」

 

 黒霧のそばでおどおどと所在なさげに佇んでいる彼女を見てAFOは愉快な気持ちになる。所詮は親という鳥かごから一歩も出ることが出来ていない弱き小雀。君の〝個性〟は僕が有効活用してやるから安心してつかの間の平穏を楽しむがいいさ、などと生命維持装置であるマスクの中でニヤついている。

 

「そりゃあな。自分の〝個性〟を渡すのはあんたが実際に〝個性〟を奪うところを見てからじゃなきゃ嫌だとさ。当然の要望だから許可した。何か問題があるか?」

 

 視線を遮るように前に出る死柄木を見て更にニヤニヤするAFO。今この小娘をバラバラにしてやったら弔はどんな顔をするかな。まぁ〝個性〟を貰うまではそんなことをするわけにはいかないし、やったところで気分がいいだけで損しか無いのでやらないが。

 

「なるほど、妥当な要求だと思うよ。じゃあ先にこっちを済ませてしまおう……『オジサン』から行くか」

 

 もうすでに信望者には今回奪う予定の〝個性〟をチェックさせている。どれも死柄木弔が話していた通りの〝個性〟だと確認が取れたので、ここでAFOがやるべきことは本当に〝個性〟の移動だけである。

 

「その連れてきている変な『脳無』に押し付けるのか? ……『破棄』は出来ないんだな」

 

 頭部に直接手足がついているみたいな到底戦えそうにない『脳無』がひょこひょことAFOに付き従っている。

 

「ああ。今回は不便な〝個性〟を貰ってあげるパターンだからこういう脳無が必要なのさ」

 

 そう言いながらベッドに寝ている異形の男から、『顔だけ脳無』に『オジサン』の〝個性〟を移動させる。変化する部分は把握しているのであらかじめマスクや袖を解放して引っかからないようにしたうえでだ。梅干しおじさんの顔が一瞬だけ魚類になったのを見て死柄木弔はつい笑ってしまった。それを見て渡我被身子も少しだけ笑顔になった。

 

「傷つくなぁ。他人の容姿を笑っちゃダメだぜ、君たち」

 

 少しだけ期待したが魚顔になっても目は生えてこなかった。まぁこれは予想の範囲内だ。人間に存在しない器官であるヒレやヒゲは生えてきたが、目や口などの共通の器官は『元の部位が変化する』のであって新しく増えるわけではないのだ。まぁ『変身』での治癒が本命なのでがっかりするほどではないが。『オジサン』の現所持者となった顔だけ脳無の見た目は金魚みたいになっている。

 

「何言ってるんだ。俺は笑いたいときに笑うんだよ。それが自由ってもんだろ」

 

「……あの、すみませんでした」

 

 渡我被身子は素直に謝った。自分がやられたくないことはしてはいけない。『常識』だ。それを取り戻していかなければいけないのだから、渡我被身子は笑ってはいけなかったのだ。いや、彼女は容姿を笑ったわけではないのだが。

 

「ちゃんと謝れて偉いなぁ。……弔はなかなか謝れないからね。見習いなさい。然るべきときに謝罪が出来ないと問題が大きくなるんだぜ?」

 

 親御さんの教育が良かったのかな? などといつもの嫌がらせが出そうになったのをぐっと堪える。いま渡我被身子の機嫌を損ねて良いことなど何もないからだ。我慢できてえらいでちゅね~。

 

「はぁ? そりゃあんただろ。不良品を押し付けて、バーがめちゃくちゃになって、『結果的に』ホーリーナイトがブチギレるかも、とかいう無用のリスクを負わせたことは結局謝ってないよな?穏便に収まったのは俺の今までの粘り強い交渉あってのもので――」

 

 敵意がグッと増したのでAFOはやらかしたことを悟った。ネチネチとした嫌味が滝のように出てきてしまった。

 

「おっと、藪蛇だったか。それじゃあ次は『スギ花粉』に行くか。はぁ……」

 

 梅干しおじさんは謝る気はないようで話をそらす。死柄木弔にとってもこの〝個性〟の移動は重大な出来事なので愚痴は中断され真剣に見守っている。髪の毛が生えたらだるいなぁ、とAFOは思った。事前チェックではそこがどうなるかまでは分かっていない。生えるな、生えるな、生えるなよ……。

 

「ふぅ、良かった。無事移動できたか。脳無がスギ花粉を垂れ流し始めたらどうしようかと思った」

 

 生えなかった。梅干しおじさんはハゲのままだったし、現在の所持者の顔だけ脳無もスギ花粉を発生させていない。いやハゲじゃないから。じゃあ何だと言われると困るんだけど。まぁ存在しない器官由来の〝個性〟は効果を発揮しない。手のない人間に手が必要な〝個性〟を与えても手が生えてこないのと同じだ。ちなみに必要なのは『頭皮』なのでAFOが通常のハゲであればAFOは花粉たれながしおじさんになるところだった。通常じゃないハゲって何? 

 

「はー、ドキドキしました」

 

「この場にスギ花粉がばら撒かれることにならなくてよかったぜ。そんな事になったらそこの脳無を『崩壊』させてやろうと思ってたからな」

 

 この二人は別に花粉症ではないが、この場で花粉症にされたかもしれないレベルでやべぇ〝個性〟なのでちょっと緊張していた。AFOはちょっと意外に思った。死柄木弔が「脳無を崩壊させる」と言ったときに『虚偽の赤』が混ざったからだ。まぁ、大して気になることでもない。すぐに忘れて興味は次の〝個性〟に移った。

 

「さて、『厨二言動』も貰うかな。……これもうちょっと名前なんとかならなかったのかな」

 

 ささっと掌を当てて速やかに次の〝個性〟を奪い取る。〝個性〟の名前は気に入らなかったが、大事なのはこれが出し得の身体強化であることだ。

 

「本人じゃなくて診断した医者が決めたやつだって言ってたな」

 

「ふん、医術士(メディック)に決めつけられた烙印(スティグマ)を拒むことなく受け入れるとは弱者(アンダードッグ)そのものの所作だね。……うん?」

 

 早速影響が出てしまった。仰々しく勿体ぶった言い方になってるのと「ふん」とか普段言わない感じの言葉まで飛び出している。

 

「ダッサ。まぁ老害のセンスなんてそんなもんか。元の持ち主はもうちょっと瀟洒だったぜ……いや、磨かれたのか?」

 

「思ったより精神(メンタル)への影響(サイドエフェクト)が深刻だな。喋ってるときは一切疑問に思わなかったし。もったいないけど常時持つのはやめとくか……」

 

 そういうこともあるかと思っていたのでそのまま速やかに脳無へ移す。さて、ここからはお楽しみの時間だ。ウッキウキになりながら渡我被身子に声をかけるヤバいスーツのおじさん。

 

「どうだい? 渡我被身子。〝個性〟を失うのは別段痛みもないのが分かっただろう。それに〝個性〟を無くして眠る彼らの表情を見てごらん。安らかだろ? 起きてたらきっとその感動を語ってくれたと思うんだけどね」

 

 これは別にAFOが何か特別なことをしたわけでもなんでもない。何か別の〝個性〟を併用したとかは一切なく、〝個性〟を奪っただけである。いや〝個性〟を奪うのは特別なことではあるが。

 

「これは人による事ではあるんだが、彼らは〝個性〟で悩んでいただろう? そういう人物の〝個性〟を貰ってあげるとね、本当に癒され満たされた表情をするんだよ。失ったはずなのにね。きっと君もそうなる」

 

 ちなみにヒーローとかはすごい絶望的な表情をする。特に〝個性〟を使おうとして使えない、その時の表情は本当に何度見ても良いものだ、とAFOは思う。

 

「私は……これで良いんでしょうか」

 

「ん?」

 

「この〝個性〟を手放して……本当に衝動が無くなっちゃったら……私はちゃんと反省が出来るんでしょうか? 反省したことになるんでしょうか?」

 

 うわぁめんどくせぇ~。というのがAFOの偽らざる気持ちだ。安らかな表情を見て逆にそれでいいのか不安になったらしい。とはいえ無理やり奪おうとして弔やトガヒミコと揉め事になるのも困る。まぁ中卒を言いくるめて納得させる事などAFOにとっては造作もないことだ。

 

「なるほどね。まぁ言いたいことは分かるよ。衝動そのものを超克してこその反省だ、という意志は尊いものだと思う。だがそうだな、本当の反省とはそもそも何か? それを考えてみよう」

 

「本当の反省……? どういうことですか?」

 

 先生とか名乗るだけあってちょっとねっとりしつつも低音のエエ声で語る内容はそれなりに人の気を惹く力があった。渡我被身子も人差し指を立ててゆっくり丁寧に説明する姿に多少警戒心が薄れたようだ。

 

「二度とそんな気を起こさない。それこそが大事なんじゃないか? 〝個性〟由来の衝動を持ったままではいつかまた同じ事が起こるかもしれないだろう」

 

「……なるほど……」

 

 実際のところ、これは答えの出ない問いだ。酔っ払って犯罪行為をしてしまった時、二度と酒を飲まないのが反省なのか、あるいは酒を飲んでも犯罪行為をしないのが反省なのか。思うことは人それぞれ違うだろう。『酒を飲んでも犯罪をしない』というのは人間的成長だ。道徳的にはこちらがより高レベルな反省と言えるだろう。しかしそれは、意志の力を信じる、すなわちあやふやなものをアテにすることでもある。一方、実効的な反省、つまり再発防止の確実性は『二度と酒を飲まない』のほうが高い。客観性、あるいは合理性を重視した考え方と言いかえてもいい。法的に『反省の度合いが高い』と認定されやすいのもこちらだ。一体、どちらが『本当の反省』なのか? 物理的に脳を切除し、酒を飲みたいという欲求そのものを削除することは、反省につながるのか? あるいはそうすると決めた本人の覚悟こそが反省の表れなのか? 

 

「〝個性〟という衝動の源を切り離せば君は『自分の本当の意思』を知ることになるだろう。我慢し続けるのではなく、衝動に振り回されていない状態になって初めて『本当の反省』が始まるんだと僕は思うよ。〝個性〟が精神と行動に与える影響は本当に大きなものなのだから、『我慢』してもまた破綻するだけさ」

 

 AFOは〝個性〟が精神に与える影響をこの世の誰よりも強く実感できる。つまり今言っていることに虚偽やごまかしはない。そのようなことをする必要がない。今まで散々見てきたのだ。〝個性〟を失った途端に青ざめて崩れ落ちる犯罪者たちを。急に神に祈りだしたり、衝動的に死のうとしたり……〝個性〟からくる欲求から切り離され、生身の人間として己の罪に向き合わされた者たちの反応は概ねそのようなものだった。『これが自分だ』と思っていたものの崩壊。『変身』の〝個性〟が欲しいということもあるが、アドバイス内容自体は実体験からくる確かな重みのあるものであった。

 

「ふーん。久々に『先生』っぽいところを見たな。まぁ、俺はどっちもありだと思うから、本人次第か」

 

 ゴミカス梅干しジジイは長生きしてるだけあって様々な経験をしているし、いろいろな人間を見ている。そのためその言葉にはこうしてたまにいい感じのものも混じる。弟に異常に執着しているクソキモブラコンだが、弟の方もこの兄にまぁまぁ執着していた。『死柄木 与一』は兄が時折見せるこういう部分に『期待』をしていたのだ。死柄木弔はAFOのアドバイスを聞いて独り言のように自分の意見を呟いたが、伝えたいことも、その相手も明白だった。

 

「弔。僕は『変身』を貰えるって君が言うからこんな埃っぽいところまで足を運んだんだぜ? 〝個性〟を渡す方向性に説得してくれよ。まぁ一応付け加えておくけど、衝動を抑えることも不可能ではないとは思うよ。ただ、抑えたところで別の部分が歪むだけだと思うけどね。君は手放す機会を得ながら持ち続けることを選ぶのかい?」

 

 このジジイも結局我慢できていないからな。本当は我慢したほうがいい場面でもやめられない。いまもそうだ。対価として押し付けられることになった3つの個性には無視できないレベルのリスクがあった。だが、それを飲み込んででも欲しかった……いや、欲しかったとは少し違う。『奪ったり与えたりしたかった』のだ。

 

「そうですね……私は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「避難誘導、完了しました!」

 

 バカどもの哲学的な会話が行われている廃工場の近辺。民間人とかが居たらいけないのでエンデヴァー事務所のサイドキックが総出で周囲をチェックし、ひとまずの安全確保が出来た。廃墟探索に来ていた学生や、素行の悪いチンピラなどがぽつぽつといただけで、そう時間はかからずに終わったが、これはエンデヴァー事務所が優秀だったからだ。複数の事務所のチームアップであればもう少し手間取っただろう。1事務所貸し切りなので費用はまぁまぁ嵩んだが、それを補って余りある成果と言えた。

 

「うむ、よくやった。ホーリーナイト、準備はいいか?」

 

 炎のサイドキッカーズに労いの言葉をかけると接待先(ゲスト)の少女に声をかけるエンデヴァー。

 

「準備が必要な大イベントだとは思いませんけど~? ボクにとっては『ステイン』も『血狂いマスキュラー』も『八相縁起』……『オール・フォー・ワン』も同カテゴリですからっ!」

 

 くっそ生意気な態度だがこのメスガキが案外素直なことをエンデヴァーは知っている。保須でもサイドキックたちに何かと質問や頼まれごとをしていたが、その全てに快く応えていた。だからこそ少し口幅ったい忠告を口にした。

 

「まだまだだな、ホーリーナイト。どのような些事であっても準備を怠ってはならん。心構えもそうだが、事前に時間があるのに無為に過ごすのは余裕ではなく怠惰だ」

 

「なるほど、気をつけまぁす! 例えばどんな準備をすればいいですか?」

 

 このように反発もなくするっと納得した。もちろんNo2としての自分の言葉なのだから聞いてもらわなくては困るが、このメスガキはエンデヴァーよりも強い。「ボクより弱いくせに」等と言われてしまえば何も言えなくなってしまうのだ。あるいは、だからこそか。

 

「……うむ。ホーリーナイトは素直だな。そうだな……緊張感がないのも問題だが、緊張しすぎているのも問題だ。雑談でリラックスをするのもいいだろう。ホーリーナイト、最近焦凍との仲はどうだ? 何故焦凍はあのように反抗的なのだろうか」

 

 工場内にいるという協力者からの合図があるまでは待機、となっている。何が合図なのかをエンデヴァーは知らないが、ホーリーナイトが把握しているらしい。公安が絡んでいる案件にはこういう曖昧な状態がよくあるので、エンデヴァーは特に気にしなかった。そして「具体的に何すればいいんだ?」と言われてちょっと困った。通常であれば合図の確認の手順などを共有したり再確認したりするのだが、それが出来ないので苦し紛れに(そして私情混じりに)雑談を振ることで誤魔化した。

 

「夏休み中はたまに雄英の訓練施設で会うくらいなので最近どうと言われても特にないですねっ! 反抗に関しては、ザ・自業自得では? 愛される親でありたいならちゃんと愛情を示し続けないとダメですよっ! どっかの幼稚な長男もそれでこじらせちゃったんですからっ!」

 

 ざくざくとエンデヴァーの心は切り刻まれた。大事な仕事中に振る話じゃないんだよね。馬鹿なのかなこの人……。旗色が悪かったのでエンデヴァーは話をそらすことにした。

 

「……そうだな。さて、そろそろ集中しろ。合図がいつ来てもおかしくな──」

 

 どぉ──ん! という音がして廃工場の一部が、吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が! 怪しげな廃墟に颯爽と来た!」

 

 壁をぶち砕いて室内にダイナミックエントリーしたのはオールマイトだ。塚内くんと共に東奔西走して公安の秘匿作戦を教えてもらったオールマイトは即座に行動を開始した。なにせ当日、つまり今日になってようやく場所が分かったので。即断即決速攻をかけて、文字通り飛んできたのだ。轟音が響き渡ったにもかかわらず、ベッドに寝ている一般人三人は目を覚さない。自然な睡眠ではなく薬で眠っているからだ。

 

「久しぶりだな、オール・フォー・ワン! 生きていてくれて嬉しいぞ!」

 

「オールマイト……? 一体どうやってここを嗅ぎつけた?」

 

 大した動揺もなく悠然と佇むAFO。もちろん脳内は疑問符でいっぱいだが、オロオロとうろたえるような小物ではない。こんなこともあるかもな、という想定力と、オールマイトならしょうがないか、という少しの諦めの賜物だ。

 

「なんだ、らしくないんじゃないか? 私の『教え子』が随分お世話になったと聞いているぞ! 例のバーではお前の金でジュースを飲み放題だったとなッ!」

 

 直接本人に聞いたわけではなく、塚内くんから教えてもらった余談の中にそういった話があった。心配すると同時に、すごい胆力だなぁと苦笑したものだ。

 

「……弔たちに何か仕込まれていたのか? 念入りにチェックしたはずなんだけどな」

 

 AFOは死柄木たちに場所はバレていない、と聞いていた。そしてバーの場所がバレていたところでこの場所は分からないはずだ。移動は『ワープゲート』で行っているのだから、尾行などは通用しない。発見できなかった発信機か、あるいはなんらかの〝個性〟か、と当たりをつける。外れである。死柄木弔にとってはもう邪魔でしかないAFO。それを公安を利用して葬る。そのためにこの場所はあらかじめリークされていたのだ。

 

「私もお前も所詮旧時代の遺物ってことさ! さぁ、今こそ年貢の納めどきだぞ、ご老人! 国民の義務を果たしてもらおうか!」

 

 逃さないために挑発して煽ってはいるがオールマイトもなぜこの場所が分かっているのかは知らない。公安から警察署に出向してきている人員に頼み込んで教えてもらっただけなので、情報源が(ヴィラン)側の内通者であることなど知る由もない。ちなみに塚内くんがくっそ頑張ってオールマイトを正式な捜査員としてねじ込んでくれたので守秘義務違反とかではない。いくら強くても学生を戦わせるのはどうなん? と思っている派閥も当然存在するのだ。あとオールマイトに頼み事をされて断るのはなかなか難しいというのもある。

 

「おいおい、待ちなよオールマイト。そこのベッドに寝ている三人が見えないのか? 彼らはただの一般人だぜ。なぁ弔」

 

「そうだな。〝個性〟で悩んでいたからそれを無くしてやった『普通の人々』だ。無関係とは言い切れないが、見てのとおり眠らせているからここで何があったかなんて何も知らない。安全な場所に送ってやりたいんだが?」

 

 死柄木弔としては用事は全て終わったのでさっさと立ち去りたい。オールマイトとここでぶつかっても何の意味もないのだ。これだけ派手に突入されては合図ももう出す必要がない。内にある憎しみをしっかりと抑え、建設的な提案をする。

 

「ムムッ……」

 

 死柄木弔たちを抑えるためにオールマイトが飛びかかればAFOはその隙を突いてくるだろう。さらに言えば三人の民間人は『普通の人々』……死柄木弔が作った団体でありながら、活動そのものは『〝個性〟で悩む人々同士の互助』や『社会に見捨てられたものたちの保護』などの合法かつ善行と言えるもので、しかしながらそれらの不幸を生み出す社会の批判も激しくしているという扱いにくい組織、その構成員だ。当然守るつもりではあったが……。

 

「送ったついでに弔たちはそのまま逃げるが、僕は残ろうじゃないか。だから邪魔をせず見送るんだ、オールマイト」

 

「…………」

 

 死柄木弔にとっては守るべき仲間。AFOにとっては社会を攻撃する手駒。オールマイトにとっては救うべき民間人。誰にとってもこの場で争いに巻き込みたくない存在だ。故にオールマイトは沈黙し、見送るしかなかった。

 

「それじゃあ俺はクールに去るぜ。いずれお前にも思い知らせてやるぞ、社会のごみ。『オールマイト』が生み出した現在(いま)の社会の歪み……その犠牲者の嘆きと苦しみをな」

 

「それでは失礼いたします。時が来れば貴方にも分かるでしょう、我々の活動の意義がね」

 

「あ、えーっと……オールマイト、頑張ってください? 私はオールマイトを応援する方……ですよね? なんかムズムズします」

 

 死柄木弔と黒霧、そして渡我被身子はそう言い残し素早く黒霧の『ワープゲート』で逃げていった。(ヴィラン)の少女に何故か応援されたので少し困惑したがすぐに我を取り戻しいつものように笑顔でお礼を返した。

 

「応援ありがとう! ……なんだか妙なことになったが、状況は整ったな! 覚悟は良いか?」

 

「まぁ待ちなよ。少しくらい話をしようぜ? 今僕が逃がした『死柄木弔』のことだ」

 

 去っていった死柄木弔は以前見た時とはまるで違った。静かに燃える危険な眼をしていた。ただのチンピラ、という評価を改め警戒心を強めたオールマイトだが、今はそれどころではない。

 

「時間稼ぎか? 大方『脳無』が来るのを待っているんだろう! 付き合うつもりは──」

 

 近場から徒歩(?)で来るのか、黒霧捕縛のリスクを飲み込んで『ワープゲート』を使用するつもりなのか分からないが、援軍を待っているのだろうと推測したオールマイトは話を聞かずに拳を振りかぶろうとした。

 

「彼は『志村菜奈』の孫だよ」

 

 だがそれが届く前に動きが止まる。尊敬するお師匠の孫が、(ヴィラン)に……。

 

「……嘘を吐くな! その穢れた口で! お師匠の名を出すんじゃあないッ!!」

 

 これ以上喋らせてはいけない。オールマイトは本当かどうか今は考えない事にした。勢い良く殴りかかるが冷静さを失っていたせいでAFOが片手を膨れ上がらせて放った衝撃波をモロに食らってしまう。壁ごと吹き飛び、視界が一気に開けた風景に変化する。

 

「僕は君よりあの無能とは付き合いが長いぜ。 君なんて所詮3年とちょっとだろ? 惨めなゴミがコソコソと僕から逃げ回りながら夫の仇を討とうと無意味な抵抗をしていた話は聞きたくないかい?」

 

 ヘラヘラとした声色で煽りながら、吹き飛んだオールマイトに近づいてくるAFO。

 

「黙れ! お前の話など聞く価値がないッ! 独り言はタルタロスで看守の方々にでも聞いてもらうがいい!」

 

 瓦礫から飛び出したオールマイトはそのままAFOの顔面に向かって右拳を突き出すも、片手でキャッチされ逆に右ストレートをぶち込まれてしまう。

 

「それじゃあ勝手に喋るとしよう。ああ、思えば君は志村菜奈の活動を虚仮にしてばかりだ。彼女がやりたくても出来なかったことを彼女の死後次々と成し遂げた」

 

 顔面をぶん殴られたオールマイトは返事をせずに再び拳を繰り出す。殴り合いが始まったがすぐに形勢はオールマイトに傾いた。AFOの防御が間に合わなくなりついにフルフェイスのマスクに命中したが、回避動作をされたせいか浅かったらしく砕けずに体ごと吹き飛んだ。

 

「……そのことを志村菜奈はあの世で誇っているだろうか? 僕はそうは思わないなァ……。君が活躍すればするほど、あの口だけ女の人生そのものが貶められていたのだから」

 

 瓦礫の中で腕をふるい壁もろともまとめて吹き飛ばしたAFOは何でも無かったように立ち上がり衝撃波を連発してきた。オールマイトはそれを拳の風圧で迎え撃つ。しばしの間撃ち合いとなったが、埒が明かないと思ったらしくAFOは腕をいくつかの〝個性〟で強化し接近戦を仕掛けてきた。

 

「アレがやりたがってた仇討ちなんて、それと知らずに達成してしまったね。君が何の感慨もなくぶちのめした僕の仲間の中にいたんだけど気にしたこともなかっただろう。それにそもそも彼女の夫は妻と子を守るために僕と戦ってたらしいぜ。故人の遺志を蔑ろにしているのは僕じゃないよな?」

 

 拳と拳がぶつかり合う。その瞬間AFOが発動させた〝個性〟は『衝撃反転』。余すこと無くそのダメージを受けたオールマイトの拳が砕け、腕がぼろぼろになる。AFOのこれみよがしに強化した腕は全力で殴らせその衝撃を返すための囮だったのだ。

 

「志村菜奈は『ワン・フォー・オール』のために我が子を手放し、君をその代わりにしていたわけだ。そんな『ごっこ遊び』にかまけていたせいで子も孫も悲惨な人生だというのにいい気なもんだよ。草葉の陰で夫もさぞかし嘆いているだろうね」

 

 腕を砕いたことで形成はAFOに傾いた……かに見えたが、オールマイトは砕けた拳でさらに攻撃してきた。AFOはもう隠す意味のなくなった『衝撃反転』を再び発動させるも、今度は突破された。『OFA』の特異性。残り火になってもなお通常の〝個性〟よりはるかに強力な『持ち主の想いに応える力』が発揮され、『発勁と変速の残滓の発動』によりインパクトのタイミングをずらしたことで貫通したのだ。AFOはそれを腕力で強引に突破された、と思い仕切り直そうと衝撃波を最大威力で放った。

 

「あれが一体何を為せたというんだい? やったことは全て逆効果な過ちばかりの無能。6代目の『揺蕩井(たゆたい) (えん)』だったかなァ。あの死に損ないに土壇場で強引に『呪い』を押し付けられて、自分が特別だと思って舞い上がっただけの──」

 

 空中へ吹き飛んだオールマイト。AFOは地上で右腕に何重も〝個性〟を発動させひたすらに威力を強化する。意趣返しだ。かつて右拳で頭を砕かれた。それをやり返そうと、近接系の〝個性〟ばかり集めたのだ。

 

「哀れな勘違い主婦。何が大切かを履き違えた……『育児放棄(ネグレクト)毒親(クズ)』さ」

 

「きさまがッ! お師匠をッ!! 愚弄するなぁーッ!!!」

 

 再び拳同士が激突する。衝撃波が発生し、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。

 

「ははは、いい顔だ。さて準備は整った。来い、『脳無』たちよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は──っ!! 老害! くそじじいーッ!! 段取りめちゃくちゃ! ボクに迷惑しかかけない身勝手で独りよがりで独善的なロートルッ!! ヒーロー免許剥奪されろッ!!」

 

 少し時間は巻き戻って、戦闘開始直後。ぐっちゃぐちゃになった郊外の工場、その中心でオールマイトが宿敵オール・フォー・ワンと戦っている。それを空から見ているメスガキは憤慨しながら頭を抱えツインテをブンブンと振り回している。いつもの翼ではなく円盤(手すり付き)を出してその上に乗ってふわふわ浮かんでいる。

 

「……『オール・フォー・ワン』……実在したのか。オールマイトと互角に渡り合っているな」

 

 メスガキの隣で腕組みして仁王立ちしながら二人の人外バトルを見守るエンデヴァー。べしべしと身体にツインテが当たって結構痛いが表情にでないように必死に我慢している。加齢臭のするオジサンといつものドラゴンにペア乗りしたくないという理由で足場がUFOになっていることを知ったらさすがのNo2ヒーローも傷つくだろう。知らぬが仏のエンデヴァーだが、やろうと思えば眼下の戦闘に参加するぐらいはできる。それをしないのはメスガキを抑えるためだ。

 

「ホーリーナイト。お前ならあの戦いにどう介入する?」

 

「介入~? 寝言はやめてくださいねエンデヴァーッ! 許可が出ればまたたく間に終わらせてみせますよっ! とはいえ『AFO』の所持〝個性〟が未知なのでそっちは『逃走』されるかもしれませんっ! 『ワープ』とかでねっ!」

 

「ふむ。既知の『ワープゲート』は問題ではないと?」

 

「あれは『ゲートを(くぐ)る』っていう動作が必要なので拘束すれば逃げられませんよっ!」

 

「そうか。……まぁオールマイトがこのまま勝てるようならこちらの出番はあるまい。伝説の(ヴィラン)といえども流石にオールマイトとホーリーナイトの両方を同時に相手取れるほどの強さではなさそうだ。お前の存在を認識したら即座に逃げを打つのではないか」

 

 当然それはメスガキだけでなく、エンデヴァーであっても同じことである。眼下で行われる戦闘は殆ど互角に見える。どちらかに加勢が入れば天秤は容易く傾くだろう。だからこそ、この場に待機がベターだと判断した。

 

「そうですね~……そういう『逃げてもプライドが傷つかない言い訳』をアレに与えちゃうでしょうね~! あ~もう! 台無しだよっ! コツコツ夏休みを削ってようやく状況を整えたのにィ~ッ!」

 

 オールマイトのせいで台無し。ダイナシマイトだ。現状であればAFOが逃走を選ぶことはおそらく無いだろう。『オールマイト』から『逃げる』ことは『AFO』にとって今度こそ言い訳のしようがない挫折となるからだ。『敗北』であればまだいくらでも正当化が出来る。『今後の布石のためにわざと負けたんだ』とか『タルタロスを落とすためには中のことも知っておかなければ』とかあながち嘘とも言い切れない理由がいくらでも出せる。だが『逃走』を選ぶということは『恐怖』の存在を認めなくてはならなくなる。それは魔王の矜持を決定的に崩壊させてしまう。

 

「……言い訳、か。そういうことであれば『オール・フォー・ワン』側に援軍でも来れば我々も参戦することになるだろう。今は耐えろ、ホーリーナイト」

 

 AFOが援軍を呼べば、あるいは来れば、オールマイトに援軍が来ても逃げるわけにはいかなくなる。そういう予測だ。メスガキがオールマイトから聞いたAFOとのエピソードから導き出した人物像。エンデヴァーはメスガキの予想に理解を示しつつ、メスガキの図太さにちょっと引いていた。オールマイトと互角に戦う(ヴィラン)を見てエンデヴァーとて思うところはあるのに、メスガキは一切気にしていない。いや、気にしている部分が違った。

 

「むー……あのクソボケおじさんはちゃんと先のこと考えてるのかなぁ? 『オールマイト』と互角に戦う『オール・フォー・ワン』の存在を確定させちゃって本当に低能っ! 大げさに散らかすから報道ヘリまできちゃった!」

 

 近くをすいーっと移動するNHAのヘリにメスガキが笑顔でふりふりと手を振るとレポーターは緊張した面持ちながらも少しだけ笑顔を見せ手を振りかえしてくれた。眼下で戦っているオールマイトに加えNo2たるエンデヴァーまでもが後詰に居ることで多少の安心と、それほどの(ヴィラン)なのかという恐怖を同時に抱いたようだった。

 

「つまり何か、お前は『オール・フォー・ワン』を陳腐化させようとしていたということか?」

 

 レポーターはエンデヴァーには完全無視されたと思ったようだが、実際のエンデヴァーは意識の片隅に報道ヘリを置いて何かあればいつでも飛び出して守れるように構えている。

 

「デビュー前の学生にこてんぱんにやられる伝説の(ヴィラン)。こんなの一般人はともかく裏社会のカスどもが信じるはず無いですよねぇ? 『どうせマスコミの提灯記事だろ』って相手にしないのが普通でしょ~?」

 

 この見通しは少し甘い。確かにほとんどは相手にしないだろうが、動き出すものも居るだろう。ただメスガキはそれでもいいと思っている。一斉に動くようなことにならなければそれでいいのだ。

 

「実在が……いや、『実在したが捕まった』と確定すると悪影響が出る、と睨んでいたわけだな」

 

「ただでさえ『オールマイト引退』の噂で犯罪率が微増してるんですよ~? 公安とボクで世の中を安定させようと一生懸命ストーリーを考えたのにあの無神経老人のせいで台無しですっ! メディアとそれが社会に与える影響のこと軽んじ過ぎじゃないですか? ……ってエンデヴァーに愚痴ってもしょうがないかぁ! 同類ですもんね!」

 

 最近は多少軟化したが相変わらずエンデヴァーはメディアに媚びたりしない。結果を見ていろ! というスタンスのまま一貫している。

 

「ぐっ……お前と公安の絵図ではどうなる予定だったんだ」

 

「エンデヴァー事務所がガッツリ動いたことは事後だと隠しようがないですよね~? 提灯記事で膨らませる予定だったのはボクだけじゃない。貴方もですよ、エンデヴァー」

 

「俺か?」

 

「ボクのデビューは卒業後ですよ? なんか~最近ボクが『オールマイトの弟子』みたいな扱いを世間でされているらしくて~……そんな不当な印象を払拭したいんですよ、ボクは! 世話をしてるのはこっちだっつーの!」

 

 喋っててイライラが復活したらしくメスガキはまたしても手をブンブンと振って怒りをアピールした。地面だったらゴロゴロと転がっていたかもしれない。恥ずべき痴態だ。

 

「そ、そうか……それと俺を持ち上げることがどう繋が……いやまて、俺を勝手にお前の師にする気だったのか?」

 

「察しが良いですねっ! 保須で、そしてここ神野でエンデヴァー事務所と連携したことでボクがどちらの派閥か民衆は知るわけです!」

 

「別に俺は派閥など作っていないが……」

 

 実際はそうでもない。憧れのヒーロー、というのは大抵がオールマイトだが、エンデヴァーに憧れるものも当然居る。ストイックに結果を求めるスタイルには一定数のフォロワーが存在するのだ。群れたりそのことをアピールしたりしないので、エンデヴァーは知らないが。

 

「実態なんてなくていいんですよ! 民衆がボクを『オールマイトの弟子』ではなく『エンデヴァー系』だと勝手に想像するだけですから! まぁつまり……伝説の(ヴィラン)(笑)を倒したエンデヴァー! オールマイト引退後も安心しろ! 俺が居る! ……と、民衆に感じてもらう第一歩にしようとしてたわけですねっ! 一方多少目端が利く裏の人間ならこの状況はすぐに『公安のプロデュースか、しょうもな。本物のAFOはまだどこかに潜んでるだろ』と看破(かんちがい)するわけです!」

 

「勝手なことを。俺が拒否したらどうするつもりだったんだ?」

 

「この流れのどこにエンデヴァーの許可が必要なんですかぁ? ボクらはフツーに仕事するだけでしょう? 民衆が勝手に想像するだけですっ! ……そうなる予定だったんですけどね~!」

 

 エンデヴァーが「別にホーリーナイトは俺と何の関係もないが?」などと主張したところで無駄である。メスガキなり委員会なりが適当にあること無いことアピールすれば「なるほどそういうことか。エンデヴァーはツンデレなんだな」とスルーされるだけだ。ザ・自業自得だぜ! 

 

「……ホーリーナイト、お前が公安と関わりだしたのはここ最近のはずだろう。染まるのが早すぎじゃあないか?」

 

 少なくともエンデヴァーが掴んでいる情報ではそうだ。しかしメスガキの行動はまるで以前からそうするつもりだったかのような段取りのよさを感じる。

 

「エンデヴァーは『ステイン』をどう思いましたぁ?」

 

「何? ……どうと言われてもな。500億万回見た主張だな、としか思わなかったが」

 

 いきなり話が変わったことに戸惑いながらも答える。『ステイン』などエンデヴァーにとってはもはや終わった話なので思い出すのに少し時間がかかった。

 

「じゃあそのあとその思想が拡散したことはどう思います?」

 

「例の『英雄回帰』か? 時代遅れの原理主義だが一定の説得力はあるだろう。だが『ステイン』はトッププロ……チャート内しか見てないのだろうな。チャート外の木っ端ヒーローの活動など本業の傍らでやっているボランティアのようなものばかりだ。ヒーロー業界全体を俯瞰していれば到底出てこない近視眼的発想。結局あの男も『観客』でしか無かったということだろう。しかしだからこそ同じ『観客』である大衆……『他人事だと考えている者たち』には響いた、そう分析している」

 

 つまり、いつものことだ。エンデヴァーにとっては何度も見た、一過性の流行り。無責任な民衆が八つ当たりの対象を求めて利用しているだけの都合の良い棍棒にすぎない。

 

「同意見ですっ! そしてステインの主張を体現しているのは『オールマイト』ではなく『ヒーロー公安委員会の暗部に属する人たち』ですよ。存在すると聞いたことくらいあるでしょう?」

 

 話が戻ってきた。つまりホーリーナイトにとっては『公安の暗部』は『英雄(ヒーロー)』ないし『その一部』だということだろう。そもそも『オールマイト』は『平和の象徴』を目指した、つまり知名度を欲していたので『英雄回帰』論で言うと贋物である。『平和』や『人々の意識の向上』は『見返り』ではないと主張するのは無理がある。オールマイトにとってはそれは明確な『利益(ベネフィット)』だからだ。『見返りを求めていない』など、とんでもない誤認である。『名声』だの『金』だのだけが『見返り』であると定義しているステインには理解できないレイヤーで生きているだけだ。

 

「……まぁ、そうだな。誰がやっているのかまでは知らんが……報酬は少なく、称賛もされず、誰もやりたがらないようなことを己の心身を犠牲にして行い、大衆に尽くしているのであろうことは想像に難くない」

 

 エンデヴァーとしてはそういった『汚れ仕事』を個人的にはどうかと思いつつも、他者が肯定的に見ることを否定する気持ちもない。まぁ必要な役割なんじゃないか、とドライに見ている。

 

「オールマイトの〝個性〟についてエンデヴァーは知っていますかぁ?」

 

 また唐突な話題転換だ。眼下ではオールマイトが猛攻を仕掛けAFOを追い詰めている……ように見えるが、エンデヴァーにはそれがオールマイトの焦りや怒り……隙だと分かった。おそらくは挑発され、動きが単調になっている。その上で互角。オールマイトが冷静さを取り戻せば勝利するだろう。このままであれば。

 

「超パワーということしか知らんが。話が飛びすぎじゃあないか、ホーリーナイト。何が言いたい?」

 

 先程のように話の結びで関連付けてくるのだろう、そう思ったエンデヴァーはじれったくなって先を促した。

 

「全部『オールマイト』なんですよ! 社会の癌! 旧人類たちは目をそらしすぎですっ! 『平和の象徴』? どこが? 『欺瞞の象徴』でしょ? みんな本当は『オールマイト』が怖いんですよ」

 

「……は?」

 

「民衆は怯えてますっ!圧倒的パワー!明かされない謎の〝個性〟!だから不自然なまでに称賛されるんですよぉ? 煽てないと、怖いから。「なんだあっ。この私のやることにケチをつけるのか? 日本沈没すまーっしゅ!」なんてやられたら困りますからねっ!」

 

 ヒーロー候補生やプロヒーローたちはそう考えない。大抵の場合人間が出来ているし、そうでなくとも同じ仕事に従事することで苦労なども想像できるから、オールマイトがそのようなことをするなどと夢にも思わないからだ。

 

「馬鹿な事を。オールマイトがそんな事をするはずが……。…………」

 

 エンデヴァーとてそうだ。オールマイトはそんな事するはずがないと確信している。だがそれは、他の人間がどう考えるかとは関係がない。真実不当な疑いであるが、しかし。

 

「民衆はそんな風に考えない。そう言えないんでしょう? もう分かりますよね~? あのおじさんはそんな事しない、と信じられるのは接したことのある人だけですっ! ほとんどの民衆は『オールマイトに対する恐怖』を誤魔化して、あるいは無自覚に過ごしている。ついでに『オールマイト』が汚いことをしなくていいのは『それ』を人知れずやっている人がいるからです!まさにいまその当事者ですよね、エンデヴァーっ!」

 

 本当にオールマイトが全てをこなしているのであれば、汚い事もやる羽目になっていただろう。しかしそうはなっていない。オールマイトの正しさを守るために、それを汚さないために、汚れている者たちが居る。あるいは、無自覚に。

 

「……そんな、馬鹿な」

 

 危険視。なぜそれがオールマイトに向かないのか。エンデヴァーにとってそれは『オールマイトがわかりやすいから』だった。しかし民衆にとっては分かりやすくなどない。『私人としての姿が見えず、現実味のない謎の男』だ。民衆はオールマイトを無根拠に信じているのではない。『オールマイトに怯えていると日常生活がままならない』から『信じるしか無い』のだ。

 

「引退の噂だけで何故犯罪が増えるんでしょうね? ……簡単なことです。『恐怖』が薄れたからですっ! 『オールマイト』の引退後に起こるであろう治安の悪化、犯罪率の増加なんてのはそれこそボクが『オールマイト』みたいに飛び回れば……『世界中に恐怖を与えれば』短期間で達成できます! でも何の進歩もないですよね、それ!」

 

 ステインがなぜ殺人で世の中を分からせようとしたのか? 非常に残念なことだが『オールマイトのフォロワーだから』だ。『腕力で他人を分からせる』という論理はオールマイトがこの国に広めた……正当化してしまった。『暴力が強いやつが偉い』と、子供にまで浸透している。

 

「……ならば、お前はどうするつもりだ?」

 

 オールマイトが吹き飛ばされ、オール・フォー・ワンから衝撃波が放たれて空気が震える。振動は離れているはずのここまでビリビリと響き、エンデヴァーに戦闘の激しさを教えてくれる。

 

「変えなければならないのは心です。人々が当事者意識を持ち問題意識を持ち社会的な問題を身近なことだと思って真剣に取り組むことです! すべきことをしていなければ1日の終りは不安に包まれ眠れませんっ! 『平和の象徴』なんていうのは『薬』と同じ! 傷だらけの時代を癒した有効性は否定しませんが……どっぷりと使い続けた人たちは摂取できなくなったらどうなると思います?」

 

「『平和の象徴』に対する信頼を薬物依存のように言うのだな」

 

 エンデヴァーの声には僅かな怒りが込められていた。彼の胸の内にも確かにあるのだ。『平和の象徴』に対する感謝と敬意、そして信頼が。拳を振るい衝撃波を打ち消したオールマイトが、距離を詰めたAFOを迎え撃つ。何らかの防御に阻まれて拳から出血しながらも、全く怯まず戦い続ける姿に頼もしさを感じてしまう。

 

「エンデヴァーが勝手に脳内で連想しただけでしょ~? ほら見てくださいよ、あの戦いとそれを見る人たちを。エンデヴァーは「ギリ俺でも参加できるか……?」とか思える『最高峰』だから分かんないんでしょ? いくつも飛んでる報道ヘリのレポーターさんたちの表情は恐怖と不安でいっぱいです! 『オールマイトみたいな強さの(ヴィラン)』が現れたからです!」

 

「……表情までは流石に見えん」

 

 何かを叫んでいるらしいのは分かる。おそらくオールマイトを応援しているのだろう。エンデヴァーにわかるのはそこまでだ。

 

「ふぎゅ……ボクならあんな恐怖は与えずに済んだんですよっ! 少なくとも今は! 『エンデヴァーと一緒に優秀な学生が強い(ヴィラン)をやっつけた』くらいで収まったはずなんです! あのオジサンの人間不信と腕力至上主義がこの国中に伝播してるのが分かりますかぁ? 民衆は己を『役割(ちから)がない』と思っています! 『ヒーロー』を『自分とは違う存在』だと思っています! エンデヴァーもさっき言ってましたね!『他人事』ですっ!」

 

「あの男を擁護するようなことを言うのは癪だが……お前の主張……『当事者意識を持て』というのはオールマイトがいつも言っている事と同じだ。まぁ奴は「皆様の応援のおかげだ!」といったオブラートで包んで取り繕っているがな」

 

 オールマイトはいつだって周りを鼓舞している。皆の力だと、助力やフォローのおかげだと、しきりにアピールしている。他のヒーローたちにも目を向けてほしいと、一人ひとりが立ち向かう勇気を持ってほしいと、願っている。

 

「いつもの勢いがないですよ、エンデヴァー。伝わってると思います? 『スーパーヒーローの謙虚な姿勢!』とオールマイト個人が称賛されて終わってますよねっ! 『オールマイトが特別なんだ』って! だから『それと互角の(ヴィラン)』も『特別』になっちゃいますよね?」

 

「……事実だろう。そもそもお前がそのように俯瞰した『他人事』の分析ができるのもお前が奴らを超える『特別』だからじゃないか」

 

 オールマイトが特別なのも、それと互角のオール・フォー・ワンが特別なのも、それらを鎧袖一触できるホーリーナイトが特別なのも、ただの事実だ。エンデヴァーには分かる。常人でありながら超人にならんとあがき続けた男には、分かってしまう。

 

「そうですねっ! ボクがオールマイトを超える『特別』だと民衆はそのうち知るでしょう! ですがボクはオールマイトみたいに中途半端なことはしません! 観客でいたいなら徹底的にそうなってもらいますし、逆もしかりですっ!」

 

 観客でいてもらう。つまり、見せるのは『事実』ではなく『演出された物語』だということだ。そして『観客』をやめて『当事者』になるのであれば、綺麗事だけでは終わらない『現実』も見てもらわねばならない。

 

「……だから『公安』というわけか。お前は最初からそこに食い込むつもりだったんだな?」

 

 ヒーロー公安委員会に『使われる』のではなく能動的に『使っていく』。そう考えていたのだろう。

 

「少し勘違いがありますよ、エンデヴァー! ボクは『どちらもやる』んですっ! ショービズに染まった『芸能人』も! 平和のために人知れず戦う『英雄』も! どちらもです!」

 

 それはきっと新斗黎乃が託されたもの。亡き両親からの『期待』。『将来はきっとすごいヒーローになれる』という、あやふやで希望に満ち溢れた未来予想図。幸せな、色褪せぬ記憶。本当はどうなって欲しかったのか確かめられないから、全部やるよ! そういうことだ。

 

「……なぜあの男が独断専行しあの場で一人戦っているか、分かった。お前だ、ホーリーナイト。お前は『オールマイトと同じ』だ。だからこそあの男は──」

 

 新斗黎乃は、自分ならもっとうまくやれると思っているのだろう。実践する方法論は違えども、根本は全く同じ。オールマイトを批判しながら、やろうとしていることはオールマイトそのもの。『特別な自分が頑張る』である。そして血塗られた道を歩んできた自覚のあるオールマイトはそれをしてほしくないのだ。『自分はやっていいけど、お前はダメ!』……考えていることまでそっくりである(笑)。

 

「『余計なお世話』ですよっ! エンデヴァーならボクの『邪魔』はしませんよね?」

 

「……そうだな。俺はお前に理解を示すことができる。お前は『平和の象徴』を……『オールマイト』を滅ぼすつもりなんだな」

 

「もう要らないでしょ? いい加減あの人も引退して、縁側でお茶でも飲んで、屋久杉でも眺めて余生を楽しむべきです! 大衆(かんきゃく)もそれを許すべきだと思いますっ! 彼を求める声を消さなければならないんですっ! 誰か一人に負担を押し付けるこの世界の構造そのものをアップデートし、人々を新たな段階へ導くッ! 己の足で立ち上がれる、自立した存在にっ!」

 

 彼女は自分のことを『誰かのうちの一人』だとカウントしていない。『新人類』たる自らの『負担』を考えていない。エンデヴァーの心に柄にもなく憐憫が生まれた次の瞬間、眼下の戦闘に動きがあった。『オール・フォー・ワン』の周りに黒い泥が広がり、その中から『脳無』がわらわらと出てくる。『ホーリーナイト』と『エンデヴァー』は一瞬だけ目配せすると、即座に向かった。6年前に終わったはずだった戦い。おぞましき屍人で満たされた冥府の底へと。

 




独自設定とか

・イレ先の位置確認:多分してる。
・顔だけ脳無:ムギちゃん。危ない個性を保管するために体の部位を極力削ってある個体。
・ハゲ:ハゲちゃうわ。
・本当の反省:あなたはどう思いますか?
・与一くんの執着:良いお兄ちゃんになってほしかった。
・ダイナミックエントリー:マイトセンスで中の民間人を把握して怪我させないように入ってきた。
・トガちゃんの応援:クソ気まずい。弔くんは気にしてない。
・志村と八木:中学で出会って卒業するくらいに死んでるぽい?OFAはいつ継いだんだろう。
・夫の仇:本人にモチベ無いならグラントリノに渡せばいいんじゃって思ったので。
・あの世で誇ってるか:俊典なら勝てると思って渡してるから喜んでると思われる。
・仇:そういう話自体俊典にはしてない。
・夫が嘆いてるか:まぁ嘆いてると思います。
・準備は整った:脳無の起動はちょっと時間がかかるぽいのですぐ呼び出しできなかった。
・志村菜奈:AFOは志村菜奈が大嫌い。
・メスガキUFO:ファンシーな見た目。
・メディア軽視:オールマイトはメスガキのほうが大事だっただけで軽視しているわけではない。
・エンデヴァーよいしょ:ホークスもそう思います。
・英雄回帰:世間に気付かせる。とか言ってるけど飯田くんには「感化され取り繕おうと無駄だ。人間の本質はそう易易と変わらない」とか言ってる。じゃあ世間がステインに感化されても無駄では……?
・本物:本物は何も求めず人知れず戦っているはずなのでステインの視界に入るプロは全部贋物。
・私人:塚内くんは敬語時代には「私の面を見せないのがNo1のあるべき姿でしょう」と言っていた。
・子供に浸透:間瀬垣小の子どもたちとかかっちゃんとかね。
・薬:物質が薬になるか毒になるかは適量かどうかで変わる。
・メスガキ論:理論武装してるけど要は親の期待に応えたいというだけ。子供!
・余計なお世話:ヒーローの本質。
・オールマイト滅ぶべし:原作の引退するヨロイムシャをバッシングするやつギャグで誤魔化してるけど闇すぎんか?戦って死ねってこと?頭ステインすぎるよぉ……。
・平和の象徴:恐怖で押さえつけてるのは原作設定です。まぁ敵をだけど。でも民衆にも戦えなくなった途端教師やめろとか言われてるんだよね怖くない?
・オールマイト:実際はメスガキの思うほどにはビビられてないと思われる。まぁでも結構な人が強さしか見てないと思う。
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