ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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1話1万字くらいにまとめたいと思って書いてるんですよ
引き算下手くそすぎる……


『未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ』

 戦闘は一瞬で膠着した。20体を超える『脳無』は今や星を散りばめたような黒い何かに包まれてぷかぷかと宙吊りにされている。

 

「……時間をかけすぎたか」

 

 AFOはそう呟いたが、メスガキもエンデヴァーも最初から居たのでそもそも詰んでいた。死柄木弔を逃がすため、という理由で残ったわけだがそれも無意味というか、最初からこうなるように仕組まれていたので。そんな事は知らないAFOに焦りはない。なにせ身近にビッグチャンスが転がっている。手が届く場所に素晴らしい〝個性〟の持ち主がいる。『弟』も、そこにいる。

 

「新斗しょ……ホーリーナイト! 下がっていてくれ!」

 

 助力のお礼を言いたい気持ちを抑えて硬い声で警告をする。教え子の可愛らしく整った得意げな顔がみるみる内に怒り顔になる。怖い。やっぱりこうなったか、と胸がズキズキと痛むが最後までやり通さねばならない。

 

「エンデヴァーっ! 『ご指示通り』に脳無たちを拘束しましたっ! お次はどうしますか?」

 

 ぷいっ! と音がしそうなくらいの勢いで顔を背けエンデヴァーに向き直るメスガキ。戦場で敵から目を離す愚行だがそれは誘いだ。メスガキは特例で仮免相当の許可を持っているので自衛のための〝個性〟の行使は認められている。AFOが攻撃を仕掛けたら合法的に反撃に移れるのだ。

 

(エンデヴァーおるやんけ! 一人じゃなかったのか! 良かった……いや良くない! 二人になったところで危ないのは変わりがない!)

 

 エンデヴァーは自身の〝個性〟で飛行しながら空中で睨みを効かせている。その気になれば中位混じりの『脳無』の群れなど余裕で倒せただろうが、殺傷能力の高さ故に手加減がしにくい。そちらは捕獲力の高いメスガキに任せ、逃走防止とヘリ防衛のためのバックアップに回ったのだ。オールマイトは本当に場所だけ聞いて急いで飛んできたのでてっきりメスガキが一人だと思っていたので少しだけ安心したが、危機感そのものは消えなかった。

 

「エンデヴァー! どうか、どうか私の意をくんでくれないか。後生だ」

 

 AFOの危険さというのは、戦闘力よりむしろ目をつけられたあとのしつこさや陰湿さであることを知るオールマイトは、なんとしても自分がここで終わらせると決意を新たにする。そしてそのためにはエンデヴァーに「いけっ! オールマイト!」と言ってもらわなくてはならない。

 

「この場の総指揮が俺であることは分かっているようだな、オールマイト」

 

 多分知らなくてメスガキの言葉で知ったんだろうけどそういうことにしてあげるエンデヴァー。やさしい。そもそもなんでオールマイトがおるんや。この場所をどうやって知った? 公安の案件はこれだから困る。おそらく縄張り争いだか派閥争いだかのせいだろう。意志統一しとけっつうの。まぁ今はとりあえず事態を終息させるのが先だ。エンデヴァーはトップである会長直々に頼まれているので、事後怒られるのはオールマイトの方だと分かっているため余裕があった。

 

「さて、どうしたものかな? さすがの僕もNo1とNo2に新進気鋭のニューフェイスまで加わると分が悪いね。まさか脳無がこうまで容易く抑えられるとは、誤算だった」

 

 これはちょっと嘘である。マイクロデバイスから送られてきていたデータを確認した所『真空』と『ロケット』のコンボですら小揺るぎもしなかった「ダークマター」の強度は未知数。そもそも破壊できるのかどうかすら分かっていないし、『悪口』でちょっとたじろいだくらいで、全く攻略法が見えてこないメスガキとは戦いを避けるつもりだったからだ。まぁここで戦闘になったこと自体が準備しておいたルートの中でも下の下である。念のため色々仕込んでおいてよかった、といったところか。

 

「オール・フォー・ワン! お前の野望もここまでだ! お前は私が倒すッ!!」

 

 びしっ! と指を指しかっこよく宣言するオールマイト。悪あがきである。こう、そういう雰囲気にしたらなし崩しで私が戦う感じの流れにならないかな……なんとかなれーっ! そういう意図の行動だ。メスガキが来たことで逆に冷静さを取り戻したオールマイト。そもそも地力ではAFOより残り火継ぎ足しオールマイトのほうが強い。今のオールマイトは確かに全盛期より弱いが、AFOの弱体化はそれ以上だからだ。なのでこの状況は戦力的には余裕だ。警戒すべきはAFOのネチネチした嫌みったらしい口撃だ。それを自分に向けなければならない。

 

「はぁー? 引退間近のお年寄りは引っ込んでてくださいっ! ねぇエンデヴァーっ! 新時代の先駆けたるボクがぶちのめした方がいいですよねぇ?」

 

 口撃はメスガキから飛んできた。手続き的な正当性だとややメスガキに分があるが、メスガキは司法取引で(ヴィラン)と通じているというあんまり大っぴらに出来ない弱みがある。一方オールマイトも冷や汗ダラダラだ。つまり公安はオールマイトが思うほど丸投げしておらず、それどころかエンデヴァーをつけるという考えられる限りで最高のバックアップをしていた。おそらくこの場所にAFOをおびき寄せる作戦もエンデヴァーの指揮によるものだろう(勘違い)。それを早とちりでぶっ壊したのがオールマイトである。ヒーローは多いんだよ……守らないといけないルールが! 

 

「おいおい、流石の僕もそこまで露骨にトロフィー扱いされたら怒るぜ? 魔王たるこの僕に挑むならもっと格式を整えてくれなきゃ困るな」

 

『泥ワープ』で黒霧を呼ぶかどうか。AFOにとっても悩みどころである。観念して大人しく捕まる、というのは流石にプライドが許さないが、最悪は黒霧を呼んだら黒霧まで捕まることだ。黒霧が今『ワープゲート』を開かないのは、文字通りゲートなので開いている間に誰かが飛び込めば黒霧のもとにたどり着いてしまうからだろう。こちらの状況は報道ヘリのおかげで把握できているはずだ。にもかかわらず『ワープゲート』が開かないのはタイミングを伺っているのか、そもそも来る気がないのか。時間を稼ぐべきか、賭けに出るべきか。

 

「お前たちもっと警戒しろ! そいつは伝説の敵なんだろう? こうして立っているだけでも感じるぞ、圧倒的なプレッシャーを。魔王と名乗るのもハッタリとは思えん」

 

 エンデヴァーには一切の油断がない。プロとして相手の力を見極め、全身に炎を漲らせ警戒態勢を取っている。戦場の温度が一気に上昇し、うだるような夏がさらに暑くなってしまった。エンデヴァーからしたらメスガキとオールマイトの意地の張り合いなど本当にどうでもいい。公安のクソムーブのせいで顔に泥を塗られているのに本当に大人の対応である。仕事ぶりは本当にすごいんですよエンデヴァー。私生活はヘルフレイムだけど。

 

(僕エンデヴァーのこと結構好きかも。雰囲気も良くなった(AFO視点)し、揺さぶりをかけるか)

 

 悠然と構えてはいるが、AFOにとってはもうこの場はほぼ詰み。いかに利益を最大化するかが焦点だ。一応今回の外出に当たって手持ちの〝個性〟に移動系を増やしてはいるが逃走自体優先度が低い。存在感をアピールして『平和の象徴』の欺瞞を大衆につきつけるのが今の目的だ。メスガキと全く同じ行動原理……。

 

「さすがは不動のNo2と言っておこうかな。おっと、お世辞や挑発じゃないぜ、純粋な称賛だよ。そこの『オールマイト』は『ズル』してたからな。そうだろ、友達(フレンド)。本当だったらNo1なのはエンデヴァーだ」

 

 流石にAFOもここで『OFA』のことまで明かすつもりはない。それはまだ早い。『オールマイト』が完全に終わったあとであれば『継承者』を追い詰める毒となるだろうが、使い所はここではない。今匂わせたいのは自分との関係。〝個性〟を使って音の通りを良くしての大衆へプロパガンダを行う。『オールマイトは秘密主義者だ』というただの事実をメディアで拡散……印象を悪化させることが目的だ。人知れず戦っていた、といえば聞こえはいいが、危険な(ヴィラン)の存在を隠蔽していたとも言えるのだから。オールマイトへの信頼が揺らげばヒーローへの信頼そのものが揺らぐ。信頼が揺らげば、振り落とされるものが出る。そしてそこから綻んでいく。

 

「…………」

 

 オールマイトは何も言えない。譲り受けた力で、平和の象徴となった。色々と正当化出来る言い訳はある。だがエンデヴァーを……No1を渇望する男を、長年踏み台としていたのは確かなことだ。だって『OFA』が無ければ。八木俊典は『エンデヴァー』に勝てっこないのだから。彼が本来立っていたはずの場所を奪っている。だから轟家のことは他人事ではなかった。八木俊典にも責任があると考えて、あの時……。

 

「僕も責任感じちゃうなぁ。すまないね、エンデヴァー。君が立つべき場所に立てなかったのは元はと言えば僕の『家族』の不始末さ。謝罪するよ」

 

 まるでオールマイトとAFOが家族であるかのように聞こえる言葉だ。実際は『弟』とそこから始まった『OFA』のことを言っているのだが。こういった場面で虚偽は使わない。世の中には虚偽を見破る〝個性〟の持ち主がいるからだ。すなわち……この言葉が『嘘ではない』ことも、分かってしまうのだ。

 

「……一体何を言っているか分からんな。お前達が何をしていようが、結果が全てだ」

 

 エンデヴァーとしてはもはやNo1を目指すというのは息子に託した夢だ。今の夢は……家族皆で……夕食を……。そんなささやかな、No1を目指すよりもなお遠い夢物語。しかしもしかしたら、もしかしたら叶うかもしれないのだ。

 

「ホーリーナイト。揃ったようだぞ。どうするかお前が決めろ。まぁ……どうするべきか分かってないとは思えんがな」

 

 なのでこのロートルどもに付き合うつもりは最初から無い。べらべらと喋るのを邪魔せず攻撃もしなかったのは待っていたからだ。主要各社の報道ヘリが揃うのを。この状況から俺をアゲるのは無理があるだろ、という冷静なプロの判断を目線でメスガキに伝え、最大限に警戒しつつも腕組みをして黙り込んだ。

 

「……あーっ! もーっ! それじゃあ~、オールマイトっ!」

 

 不服です! と全身でアピールしながらも俊典の方に向き直るメスガキ。

 

「な、なんだい?」

 

 びくびくしながら返事をするオールマイト。彼自身にとって恐ろしいのはAFOよりもメスガキである。もうこの場で終わるAFO。これからも付き合いの続くメスガキ。そういうことだ。怯えるオールマイトを見てため息を付いたメスガキから怒りの気配が霧散していく。

 

「血狂いマスキュラーの時みたく、一緒に戦いましょうねっ!」

 

 にぱっ、とメスガキは笑顔を見せた。最近はあまり見せてもらえなかった可愛らしい笑顔だ。まぁ営業スマイルなんだろうな、とは思うが、それでもオールマイトは嬉しかった。笑顔だけではなく、内容も。マスキュラーの時と同じ。つまりオールマイトに花を持たせてくれるということだからだ。だがこれは一つの事実を示している。こういうのはより大人な方が折れるもの……すなわちオールマイトは、メスガキよりも幼稚!! 人間は出来ているが、大人ではない! いや、綺麗事を命がけで実践する……幼児的万能感の抜けきらない、子ども大人だ!! 

 

「……!! ああ!! ありがとう、ありがとうホーリーナイト、ありがとうエンデヴァー! ……さぁ、今度こそ本当にお前の終わりの時だ、オール・フォー・ワンッ!!」

 

 裂帛の気合。先程までの情けないおじさんではなく、平和の象徴たるに相応しいオーラを纏う超人。一人ではない。一人にせずに済んだ。ああ、心が軽い。このような気持ちで戦うのは初めてだ。何も、怖くない。

 

「やれやれ、結局君か。ま、好都合かな。いいだろう、今度は僕が君の頭を砕いてやるよ、オールマイト。大衆よ、象徴が崩れる音を聞くがいい」

 

 邪悪なる嘲笑。どこか浮ついていた雰囲気は引っ込み、濃厚な死の気配を纏い浮かび上がる魔王。幾多の身体強化系〝個性〟を多重掛けにしたその姿はまさに怪物。オールマイトの顔面をミンチにしたあと、エンデヴァーの隙をついて、小娘の〝個性〟を奪い、拘束して連れ去る。そうできれば最高だけど……と取らぬ狸の皮算用までしている余裕ぶりだ。ヘリのレポーターたちは言うに及ばず、報道を見ている聴衆たちもモニター越しですら伝わってくるプレッシャーに緊張している。

 

「がんばれ♡がんばれ♡平和の象徴♡最後の大仕事♡」

 

 可愛らしいポーズでチアダンスを踊りながら応援するメスガキ。ポンポンまで付けてめっちゃ場違い。メスガキの応援に合わせて瓦礫だらけの地面が盛り上がりファンシーなステージになる。飛んでいるエンデヴァーを除く全員の身体が作られた大地に持ち上げられた。AFOは戸惑ったがオールマイトは躊躇わない。それが何のために出されたものか、すぐに分かった。残り火を全力で注ぎ込み100%の……いや、限界を超えた踏み込みを行う。地面が耐えられないため全盛期にも出来なかったそれ。

 

 

「LIBERTY ENLIGHTENING THE WORLD OF SMAAAASHHHH!!!」

 

 

 音を置き去りにして振るわれた拳は、『オール・フォー・ワン』に一切の対応を許さずにマスクを砕き、身体を枯れ葉のように吹き飛ばした。

 

「はい、きゃーっち♡」

 

 ぼふん、と吹っ飛んだ先で柔らかなクッションに埋まる元魔王。ぐったりとしていて起き上がる様子はない。生命維持装置(マスク)が破損したためか少し苦しげな呼吸をしているものの、完全に意識を喪失している。ただ威力が強いだけではない、完璧な力加減。オールマイトの現在持ちうる全てを余すこと無くぶつけた、全盛期にも勝る生涯最高の一撃。

 

「……よくやった、ホーリーナイト」

 

 エンデヴァーはオールマイトのものすごいパンチを褒めるのが癪だったのでメスガキだけを褒めた。決してビビったわけではない。後方腕組み師匠面でポーズだけ見れば一番強そうだ。脳無を除けばこの場で最弱なんだけど。

 

「ありがとうございます、エンデヴァーっ!」

 

 可愛いポーズを取って報道陣にアピールするメスガキ。いつぞやのように花火を打ち上げ、神野の空に燦然と輝く光り輝く文字を作り出し、全社のカメラに映るようにくるくると回転させる。

 

ALL MIGHT IS NOW HERE

 

 呼吸すら忘れていた報道陣や、固唾をのんで画面を見守っていた視聴者たちが、爆発的な歓声を上げる。

 

「お疲れ様でしたっ! オールマイトせんせー♡」

 

 さっきの営業スマイルとは違う、本当のねぎらいを感じる優しい笑顔。オールマイトも心からの笑顔を返し、左腕を掲げた。勝利のスタンディングだ。残り火はもう、あとわずか。報道のヘリが降りてきて記者たちに囲まれている間くらいは維持できるだろう。平和の象徴としての、姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで良かったんですか、死柄木弔」

 

『ワープゲート』で逃げ出した3名+眠っている3人は『普通の人々』の施設に着くと、死柄木弔は何も言わず眠っている3人と渡我被身子を『イグナイター』に預けすぐに新しい拠点に移動した。

 

「良いに決まってるだろ。そんなことよりさっさとあいつらを連れてこい」

 

 新しい拠点はまたしても隠れ家的バーに偽装というか、ちゃんとした店として許可も取っている。長く使うには存在を隠蔽するより正式に登録したほうが良いからだ。黒霧が無言で『ワープゲート』を開くとぞろぞろと連合のバカどもが出てきた。

 

「ただいまっと。いやー、こんなデカいヤマはオジサンも初めてだったよ。ま、『ワープゲート』のお陰で今までで一番簡単な仕事だったけどな」

 

 楽しそうな声色のコンプレス。ウキウキとしながら〝個性〟で『圧縮』した戦利品を掌の上で転がしニヤニヤとしている。

 

「さすが指名手配までされた怪盗は違うわね。私もそこそこ盗みはやったけどあんなに手際よくは出来ないわ」

 

 マグネはコンプレスの鮮やかな手並みを見て感心しているようだった。犯罪の手際を褒めるなんてどうかしてるぜ。

 

「マジですごかったよな! 俺でもできるぜ!」 

 

 トゥワイスも盗みはさんざんやっているのでこちらもコンプレスを褒め称えている。トゥワイスは『二倍』による人海戦術で無理やりゴリ押ししていたので余計スマートに見えたのだろう。

 

「うまく行ったようだな。報告をしろ」

 

「ほいよっと。指示通り『八相縁起』の溜め込んだ財産はごっそりと奪ってきたぜ。ま、俺の本領だわな」

 

 いくつか『圧縮』していた盗品を解除し死柄木に見せる。金塊だの現金だの調度品だのがバーのカウンターに広げられた。

 

「ホーリーナイトに怒られないように殺しはしてないわ♡まぁそもそも人自体が少なかったから戦闘というほどでもなく余裕だったわね」

 

「敵が来るなんて考えもしてねぇ、って感じだったな! ゲートが開いた時も普通に挨拶してきたし! ビビってたぜ!」

 

 そう、カスどもはさらなるカスから活動資金を奪っていた。ぼんやり決裂を考え出した頃から『オール・フォー・ワン』の資金源の情報を集めていたのだ。まぁ黒霧が大体知ってたんだけど。なので番人的ポジションの信奉者も目前で『ワープゲート』が開いても「ああ、黒霧さんが来たか。また資金が入り用になったのかな」と無警戒だった。

 

「よし、良くやった。こっちも公安にあの目障りな『オール・フォー・ワン』を捕獲させる作戦は成功した。ちなみに向こうは俺達の裏切りを知らないから、事によっては今後もまだ利用できるかもな」

 

「なーる、ボスがやばそうだから急いで資産を回収したって誤魔化すのか。信奉者っぽいやつもケガはさせてないし通らなくもなさそうだ」

 

 このあたりはMr.コンプレスが指揮をした影響である。彼は『まだ』怪盗としてのプライドを持っているし、自分の流儀でやれるならそれに越したことはない。

 

「で、お宝はどうする? 俺のツテで捌いとくか? 義爛に頼むのとどっちが良いか微妙なとこだが」

 

 義爛に頼めば安全に現金化することが出来るが、まぁまぁ手数料を取られるだろう。コンプレスのルートで直接売り飛ばせば換金率は良くなるが、リスクが高まるうえにコンプレスの手がそちらに割かれる。

 

「美術品が多いのが腹立つわねぇ。見てよこれ、フェルメールとカラヴァッジョよ。本物かしら? ……本物なんでしょうねぇ」

 

「ふぇる……なんて? 知ってるけどな」

 

「あら、仁くんは芸術(ゲイじゅつ)に興味あるのかしら? じっくり教えてあげましょうか♡」

 

 マグネはそれなりに教養があるらしい。トゥワイスの横に座り肩に寄りかかりながら盗品の絵画について語りだした。

 

「いや……どれくらいの金額になるかだけが気になるぜ! 興味ねえな!」

 

 トゥワイスはホモではないが、マグネがくっついてくるくらいならとやかく言わない。自分のおかしな言動を受け入れてくれている仲間たちに多少変なところがあろうと、受け入れるつもりで居るからだ。だが嘘を吐くのもどうかと思ったので正直に興味ないと伝えた。

 

「『失われた美術品(Lost Artworks)』を盗み出せるなんて怪盗冥利ってやつだな。市場に流したら芸術を愛する方々が喜ぶだろうなぁ……ハハハ!」

 

 コンプレスはマグネに聞くまでもなく盗品がどのようなものか見当がついているようだった。素手で絶対触るなよ? などと言いながらしげしげと眺めている。

 

「コンプレスはずっと上機嫌だな! 元気出せよ!」

 

「はしゃぐのはそこら辺にしておけ。急いで金にする必要はない。当座の活動資金はあるし、いざとなったら『普通の人々』がやってる炊き出しにでも混ざればいいからな」

 

 ボランティアのようなことも『普通の人々』は積極的にやっている。そんな活動のうちの一つに定期的な炊き出しがある。社会的弱者への救済策の一つだが、ヴィラン手前のような奴らも良くタダメシを食いに来る。それに混ざればとりあえず飢え死にすることはない。当然だが「俺は死柄木弔だ。飯をよこせ」みたいに使うのではなく、匿名の弱者としてしれっと混ざるだけだ。

 

「りょーかーい! アシがつかないように慎重に、高値で売り捌いておくよ。しばらく掛かりきりになるけどいいか?」

 

「こっちは潜伏して仲間集めをするからそっちは頼んだぞ、コンプレス」

 

「任せといてくれ! ああ、ご先祖様見ているか……」

 

 コンプレスがしたかった活動はまさにこういうものだ。悪を為して悪を討つ。先祖である『張間 歐児』がやっていたことに憧れるコンプレスは、今まさにこの世の春である。まだ世直しの最中なのだから喜ぶのはどうかという気持ちもなくはないが、我慢できないようだ。

 

「浸ってますねぇ。夢が叶ったという感じでしょうか。死柄木弔の夢が叶う瞬間も早く見たいものです」

 

「悪党から盗み出したのが余程痛快だったらしいな。義賊がやりたいんだっけか」

 

 黒霧は呆れつつもしみじみしているようだが死柄木はコンプレスが少し無理をしてテンションを上げているのが分かった。いや、それは全員そうだ。なにせメンバーの紅一点(死柄木の認識)はもう居ないのだから。一番落ち込むのはトゥワイスかと思ったが、彼は意外にもトガの自首を喜んだ。真っ当に生きていける見込みがあるならそれに越したことはない、と。そしてトガからのメッセージに涙を流して喜びながらも、自分はここで彼女の分も仲間を支え続けると力強く宣言をした。

 

「義賊ってほどお綺麗だとは思っちゃいないさ。バラまけるわけでもないしな」

 

 本来ならこれを困っている人々にばらまきたいわけだが、コンプレスもそこまで出来るとは思っていない。黎明期ならともかく、現在適当にばらまいたところで大した意味がないのもあるが、社会をぶっ壊すための資金などいくらあっても足りないからだ。

 

「……『普通の人々』のほうに合法的に『寄付』できるルートも作っておけ。……美術品は売り飛ばすより施設に飾ったほうが良いか? 心の支えになるかもな」

 

 マグネがべらべらと語る解説を死柄木もなんとなしに聞いていて、飾るのもいいかと思いだした。カラヴァッジョの『聖フランチェスコと聖ラウレンティウスを伴うキリストの降誕』。かつてマフィアに盗み出されたという曰く付きの一品で、行方がわからなくなっていたのだという。『オール・フォー・ワン』が持っていたのがなんとなく腹立たしい。自分を救世主(メシア)とでも思っていたのだろうか? 思っていそうだ。

 

「お、おお……リーダー! 一生ついていくぜ!」

 

 コンプレスは嬉しかった。死柄木弔は世の中のことを真剣に考えている。コンプレスの気持ちをわかってくれる。今の行き詰まった社会はただ壊すだけもやむなし、そう思って諦めとともに参加した『敵連合』だが、思ったよりもずっと自分の理想に沿った組織だ。トガちゃんともこの喜びを共有したかったなぁ。自分とは違っても良い。なにか理想を持ってほしかった。そういう思いは消えないが、切り替えていかなくてはならない。トゥワイスの言う通り、まともに暮らすことが出来るのであればそのほうが良いのだから。

 

「そういうのはいい。トガみたいに抜けたくなったらいつでも言えよ。俺達は自由だし……どこに居ようと仲間なんだからな」

 

 それから数日の間ニュースは神野の事件の話でもちきりだった。一部ではオールマイトが『伝説の(ヴィラン) オール・フォー・ワン』の存在を隠蔽していたことや、その関係性についてあること無いことを騒ぎ立ていたが、殆どはオールマイトたちを称賛する内容だった。少なくとも今はまだ。とある団体に寄付され飾られている絵画が歴史から失われた名画なのではないか、というニュースは、その中に埋もれて大きな話題にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、緑谷少年」

 

 ここは市営多古場海浜公園。かつてオールマイトと緑谷出久が『目指せ合格アメリカンドリームプラン』を共にこなし、絆を深めた場所だ。

 

「オー……ジサン! 体調は大丈夫ですか? その……ニュース見ました。オール・フォー・ワンは……倒せたんですよね?」

 

 大きな声が出そうになって慌てて誤魔化す。頑張って片付けたおかげでこの海浜公園はそれなりの人気スポットになっているので、チラホラと人がいるからだ。

 

「ああ。今度こそタルタロスの底にぶち込んでやったよ! これで君たちの育成に集中できるな!」

 

 海流の関係かこの公園の波打ち際には頻繁にゴミが流れてくる。そのはずだが、現在もゴミひとつない美しい砂浜が維持されている。公園に訪れる誰ということもない人々が、掃除をして維持してくれているのだ。ここに来ると緑谷出久はいつでも初心を思い出せる。自分が掃除をしなくても美しい海岸を見るたびに胸に希望が溢れてくる。だからきっとオールマイトもここが好きなのだろう。だからきっと話をする場所に選ばれたのだろう。

 

「えと……その……残り火はどうなりましたか?」

 

 ベンチに座り海を眺める。少し肉がついてきたトゥルーフォームのオールマイト。それでもまだ痩せていて不健康そうなガリガリのおじさんだが、『今にも死にそうな骸骨』から『不健康そうな人』まで回復したとも言える。

 

「……実はもうほぼ残っていない。食事で貯められる分はそうだな、一日3分と言ったところか。……近日中に引退を前提とした活動縮小を発表することになるだろう。ここまで急に減るとは思ってなかったから準備全然出来てないけどね! HAHAHA!」

 

 マッスルフォームの維持自体はなんとかなるだろう。だがもはやヒーローとしての活動は難しいとオールマイトは判断した。本当はもっと……後継者たちがデビューするまでは頑張れると思っていたのだが。師である志村菜奈は3年間八木俊典を見守ってくれていたから何となく自分もそう出来ると思っていたが、現実はままならないものだ。

 

「……そう……ですか……いえ、無事で良かったです……」

 

 クソナードはお通夜みたいな雰囲気だが『一日3分オールマイトになれる〝個性〟』だと思ったら普通にヒーロー活動できると思うよ。10秒くらいでそこら辺のヒーローの100人分くらい働けるし、貯めることも出来るからな。冷静になったら気づくだろう。まぁ『オールマイト』として活動するのは厳しいのはそうなので喜ぶというほどではないだろうが。

 

「えーっと、なんかゴメン……やっぱ私が引退するの寂しいよね……」

 

 最近メスガキに「ざぁこ♡ざぁこ♡引退しちゃえ♡」とケツドラムされたばかりなのでここまで惜しまれると申し訳ないという気持ちと同時に不謹慎にも少し嬉しくなってしまう。八木俊典は他人に頼られるのが大好きである。必要とされることが、大好きなのだ。人の役に立てることが、嬉しくてしょうがない。それこそが彼の生きる意味なのだ。

 

「それはもう! 世界中が悲しむと思います! これまでのオールマイトの貢献を思えば当然ですけど! 僕がヒーローを志したのも貴方の……そう、貴方が災害の救助をしている姿に……笑顔で沢山の人を救ける姿に憧れたからですから。そういう人は他にもたくさんいるはずです!」

 

「緑谷少年……そうか、だから君はレスキューを頑張っているんだね」

 

 オールマイトのデビューは華々しい(ヴィラン)退治などではない。大災害から被災者を救い出すという、泥臭く生々しい現実だった。本当はそうするつもりはなかった。大目的はAFOの討伐であり、他のことにかまける余裕などなかったからだ。だが、当然というかなんというか、放っておくことなどできず、結局大々的に存在をアピールすることになった。オールマイトの人生は大体このようにアドリブで構成されている。鉄パイプを持ってヴィランをぶちのめしてやるぜと意気込んだらなんか素敵な女性が空から降ってきたので舞い上がって弟子入りして以来ずーっとそんな感じだ。当の師匠には「こいつ頭おかしい」と思われていた(笑)。

 

「はい! やっぱりヒーローの本分は人助けだと思いますから!」

 

「そうだね! そのとおりだ! そういった点で言えばあの『死柄木弔』には気をつけないといけない。やっている内容が人助けだから一定の支持があるし、彼をぶちのめせば終わるような単純な話ではない。……正直一回自首して罪を償ってから活動し直したほうが良いんじゃないかとすら思うね」

 

 もしそうなれば応援してもいいくらいだとオールマイトは思っている。静かに燃える危険な眼。だが世の中を変える人間とはどこかに狂気を持っているものだ。今を疑うことのない『普通』の人は世の中を変える動機を持たない。AFOの言っていたことはきっと、本当なのだろう。あの危うくも揺るぎない信念のある瞳は、どこかお師匠に似ていた。

 

「……『普通の人々』ですか……僕は正直〝個性〟で悩む人に親身になれるのか不安です……どうしても思ってしまう……不合理で身勝手な嫉妬だと分かっているんです……でも……『無いよりは良いんじゃないか』って思いが消えてくれません……僕はこんなにも恵まれているのに……分かっているはずなのに……」

 

 クソナードはずーんと効果音が出そうなくらい落ち込んでいる。オールマイトの引退の影響でネガティブになっているのだろう。そもそも学生が考えるようなことではないのもある。ただ緑谷出久は自分が分不相応な待遇を受けているという強い自己認識があり、それに見合うような人間になろうと精一杯背伸びをしているので、身の丈に合わない悩みもたくさん持ってしまうのだ。

 

「なんだ、そんな事を気にしていたのかい? 私はむしろ逆だと思うよ」

 

「逆……ですか?」

 

「ああ。寄り添うために必要なのは『共感』だけじゃないだろう? 『羨ましい』と思ったならそれを素直に伝えることも新しい見方の提供になるかもしれない。大丈夫! 君の思い遣りがあればきっと自然と言葉が出てくるさ!」

 

 もちろん相手をよく見て行うべきだが、そういった点ではオールマイトはそこまで心配していない。本当に無い方がマシなやべぇ〝個性〟を見て羨ましがるのがまず難しいのもあるが、苦しみというものは皆感じているものだ。緑谷出久だってずっとままならない現実を抱えてきた。『周りと同じ』ではないことに、苦しみ続けた。可愛い愛弟子はそれに寄り添うことが出来ると、そのように成長していけると、強く信じている。ぐっと親指を立てて笑顔を向けるオールマイトに、緑谷出久はようやく笑顔を見せた。

 

「ところで新斗さんが『オールマイトちゃん』って言われてることについてなんですけど……」

 

「……いやぁ、オジサンも困っててね……それ以外にも新斗少女に謝らないといけない事があるんだけど、どう謝ったらいいと思う……?」

 

 この男、まだメスガキに謝っていないのである! 誤魔化しの象徴! 逃げ癖男! サー・ナイトアイから逃げ、グラントリノから逃げ、メスガキからも逃げている! 新学期が始まれば強制的に会うのに、先延ばしにしている! 積み残した夏休みの宿題……! 圧倒的小学生! これって……ああ。オールマイトの勝ちだ。〝象徴〟の戦績、神野に刻む!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトの超すごいパンチと『後継者』の話題が連日ニュース番組を賑わす中、事後処理も大体終わったエンデヴァー事務所に再びヒーロー公安委員会会長が訪れていた。

 

「エンデヴァー。この度は本当に申し訳ないことになってしまったわ。オールマイトは動かさないとあなたには言ったのに」

 

 会長の持ってきた手土産は「ホーリーナイトまんじゅう(未公認)」である。いくらなんでも先走りすぎだろ、とエンデヴァーは呆れた。謝罪内容も正直どうでも良かった。

 

「ふん。まるで公安の不手際が今回だけであるかのような態度だな。お前達が押し付けてくる案件ではよくあることだ。謝罪をしたいのなら先に組織改革から手掛けるんだな」

 

 エンデヴァーにとって今回の一連の流れは別段珍しいことでもないので怒りはさほどでもない。『段取りどおりに物事が進まない』『話が違う』などいつものことであり、それに対応できないようではトップヒーローは務まらない。メスガキは事後「うろたえすぎ。取り乱しすぎ。未熟者」とエンデヴァーにガッツリ説教されて涙目だった。メスガキは轟家のあれこれについても詳しいのでエンデヴァーはそこら辺をつつき返されることも覚悟して言うべきことを言ったが、それには一切触れずに謝罪と反省を述べたので逆に気まずかった。

 

「そうね。今までだって似たような事例はたくさんあった。それでもあなたはいつも最高の成果を出してくれたわ。もちろん今回もね」

 

 会長が、公安がエンデヴァーこそを頼るのはまさにそこだ。オールマイトは今回のように公安の思惑など一顧だにしない。いや、伝えていないのだから当然ではあるのだが……「公安の案件だから複雑な事情があるんだろうなぁ」といった思考を持たないのだ。まぁこれに関してはそもそもオールマイトの信頼を得ることができていない公安側にも問題があるのだが。その点エンデヴァーは苛烈ではあるものの様々な事情を飲み込んで自分の仕事に徹してくれる。余計なくちばしを挟んでくることはない。仕事中には、だが。

 

「オールマイトからはだいぶぼったくったらしいじゃないか。最初から更地にするためにあの場所を選んだことはちゃんと教えてやったのか?」

 

「……いいえ? 彼の事務所の方から被害額を算出して書類を提出してきたわ。いつも通りに、今回もね。特に問題もなく受理されたはずよ」

 

 オールマイトが建物をぶっ壊すのはまぁまぁ珍しい。珍しいが、それは膨大に解決してきた事件数の中で割合的に低いというだけで件数で言うと全ヒーローでトップだ。彼は人命優先で物は直せばいいじゃんと思っているところがある。なんならそのために稼いでるし、時には自分で修理することまである。ちなみに現在怒涛の勢いで物件破壊数という不名誉なジャンルでNo1を猛追しつつあるのがマウントレディである(笑)。

 

「さぞかしたくさんの人間が奴の失態を見ないふりをしているのだろうな。あるいは失態とすら感じていないか。オールマイトのシンパなどどこにでも居るからな」

 

 こんなことを言っているエンデヴァーにも割とがっつりシンパは居る。だからこそ公安内の情報もある程度入ってくるわけなので。とはいえ今回ぶっ壊したのは解体費用出すのがもったいないという理由で放置されていた稼働していない廃墟群を「こんなこともあろうかと」という感じで公安が買い取っていた場所なので、そもそも「被害額」などないというか、必要経費だ。というかなんなら解体費用出せよとオールマイト事務所が言えるレベルだ。オールマイトも事務所もそんな事は知らないのでバカ真面目に手続きを行ったわけだが。

 

「警察との連携がうまくいかなかったことが今回の反省点ね。オールマイトについては……こちらの失態だから、悪く思わないであげて頂戴」

 

 オールマイトに「実はあの場所は公安所有の国有地で~」などと明かすわけにはいかない。「え? なんでオール・フォー・ワンがそんな場所に来たの?」という疑問を持たれてしまえば連鎖的に裏取引の話もバレてしまうからだ。法的にまずいというわけではないが、オールマイトのただでさえ少ない公安への信頼がマイナスになるだろうことは想像に難くない。なお公安はそう思っているが実際のオールマイトは「人的被害を出さずにAFOを捕まえるためなら……」と理解を示すだろう。公安も自分たちで作った『完全無欠のヒーロー』という虚像に惑わされているのだ。

 

「分かっている。公安にも人の心があったんだと喜んでおいてやろうじゃないか」

 

 皮肉でもあるが、本心でもある。まぁ公安側もオールマイトとの関係構築に失敗した自覚があるのだろう。だから次期No1『たち』とはそうならないように密に関わろうとしているわけだ。オールマイトの制御など公安はできた試しがない。いや、誰一人できていない。当然だ。彼は世界最強だったのだから。あるいはそう言い訳して諦めたとも言える。

 

「知らぬは本人ばかりなり、というわけだ。あの男に腹芸などできるはずがない。だからこそこうやって無数の人間が『気を利かせて』いるわけだな」

 

 そもそも公安は『オールマイト』というブランドを汚すわけにはいかない。キラキラしたヒーロー業界の金看板。ヒーロー社会の土台は信頼。それが無くなれば社会はあっという間に無法地帯となるだろう。民衆が『ヒーローたちがなんとかしてくれる』と思わなくなれば、次に思うことは『自分で〝個性〟を使ってなんとかしなくては』だからだ。そうなれば超常黎明期に逆戻りである。全員が当事者の世界、という点ではメスガキの主張どおりと言えるかも知れない。

 

「……今回オールマイトには大きな貸しを作れたわ。その成果として彼の引退までのヒーローとしての残り時間を差し押さえることが出来た。まぁ、どこまで従ってくれるか分からないけど」

 

 オールマイトは今回の独断専行というか横入りを恥じているし、申し訳なく思っている(後悔はしていない)。なので事後にオールマイトから「今後は気をつけますので何卒……」という感じの謝罪を会長は受けた。この貸しを使えばある程度の頼み事を飲ませることができるだろう。

 

「もともとはホーリーナイトにやらせるつもりだったんだろう? 『伝説の(ヴィラン)』の討伐が一瞬で終わったら困るからな。わざわざ人の立ち寄らない廃墟から広範囲に念入りに避難させたのは最初から『大暴れ』させるつもりだったからだ。ホーリーナイトの能力であれば建物の被害など出るはずがないのだから」

 

 メスガキがステージを作った時「ついでに整地でもしといてやるか」とマイクラみたいなことを考えたので元廃墟の瓦礫はスッキリと片付いている。現実はマイクラと違って表面だけ平らにしてもすぐに建物が立つわけではないが「散らかってる」よりは圧倒的に助かるのは確かだ。

 

「そういう目論見があったことは否定しないわ。ただ、あの子を持ってしても敵は『未知数』だったのだから退避はどちらにせよ必要だったのよ」

 

「どうだかな。『建物を壊すな』と命じればあの小娘にとっては容易いことだったのではないか? 『血狂いマスキュラー』の捕縛の際、ホーリーナイトはオールマイトと(ヴィラン)を好きに戦わせながらも、周囲の観光地をわずかたりとも傷つけさせなかった」

 

 メスガキには伝えられていた。周りの施設はいくら壊しても良い、むしろ壊れたら助かるような場所であることを。『きっと八相縁起は大暴れするでしょうね』という公安の予測を。そう、だからきっとメスガキと戦うことになっても『八相縁起』は大暴れしただろう。周囲に被害を出しながら。

 

「あら、エンデヴァーともあろうものが学生に完璧を期待するなんてらしくないわね。もうあの子に『プロ意識』を求めるなんて。出来るだろう、とは思っていたけれど大人がそれをあてにするべきではないでしょう」

 

 実際エンデヴァーもそんな指示は出さなかった。エンデヴァーにとってもどう見ても放置されまくって再稼働などするはずもない廃墟など、どうでもいいというか、優先度が低かったからだ。しかし公安は二枚舌にもほどがある。「じゃあ学生使うなや」という言葉をエンデヴァーは飲み込んだ。そしてその代わりに言うべきことがあった。

 

「……念のため言っておくぞ? この俺が『明確な不正』を『見ないふり』してやるなどという『期待』はしないことだ」

 

 遠回しに言っているがつまりメスガキが公金横領じみた流れに巻き込まれている事をエンデヴァーは問題視している。オールマイト事務所にそのつもりはないだろうが、こうした被害には『敵災保険』や『ヒーロー控除』といった国が被害を補填したり費用を一部負担する制度がある。被害を受けたのは公安の所有するぶっ壊れていい、むしろぶっ壊れてほしい廃墟。金の流れを追いかけると公安のマッチポンプに見えなくもない。もちろんそうではないとエンデヴァーは知っているので警告で済ませているが。

 

「分かってるわ。あなたの視界に入るような事があればあなた自身の良心に従うと良いでしょう。それにそもそも今回だって『不正』は一つもないのよ。未だ〝個性〟社会に適応できていない不完全なルールがうまく回っていないだけ。私たち公安も、あの子も、そしてオールマイトも、悪意を持ってことに当たったものなど居ないわ。……少なくとも私はそう信じている」

 

 まぁぶっちゃけ公安も困って頭を抱えている。目的はあくまで被害の軽減、民間人の保護であったのに現行のルールで正しく手続きすると金の流れが非常にきな臭くなってしまった。エンデヴァー事務所であればそういう流れになりそうなことを察知して「これどうする?」と口裏合わせができたし、そもそもメインで戦う予定だったメスガキの今回のヒーロー活動を担保してるのは公安なので責任も当然公安にある。なので段取り通りなら賠償がどうのという話にはならなかったのだが。

 

「表立ってオールマイトになにか言う訳にはいかないのは分かるが……ちゃんと考えているのか? いや、引退間近のロートルのことなどどうでもいい。だが『ホーリーナイト』も同じように誤魔化し続けるつもりじゃないだろうな」

 

 エンデヴァーが一番気になっているのはそこだった。『ホーリーナイト』はきっと公安にとっても都合の良い振る舞いをするだろう。公安もそれをバックアップするだろう。エンデヴァーにはそれが新たな『毒』にならないか、気が気でない。国家運営において『健全な』組織などあり得ないのは分かるが、改善点はいくらでも見つかるだろう、ということだ。今回は騒ぎ立てると誰も得しないクソみてぇな状態なのでもうこれで終わらせるしかない。だがしかしエンデヴァーは公安がいつまでもこんな体たらくだと困る。……息子たちの将来にも差し障るのだから。

 

「まさか。あの子がそんなことを許すと思う? 私がすでにあの子のファン(シンパ)だと言ったらあなたは安心するかしら? それとも……ふふ、そんな顔をしないで」

 

 エンデヴァーはいかつい顔を更にしかめっ面にしてしまった。メスガキは制度に従順なのではない。法律を守るのではなく使うタイプだ。それが作る側に回ってしまえば、どうなってしまうのか。

 

「きっと少しずつ良くなっていくわ。いいえ、私たちがそう導くのよ。少なくともその気概を持つべきだわ。そうでしょう? エンデヴァー」

 

「……俺に何をしろと?」

 

 これ以上公安の都合で学生を良いように使おうと言うなら流石に抗議すべきだろう。良い父親たらんとするならば、息子だけではなく他の子供達の未来にも気を配るべきだ。そんな気合は次の一言で空振りした。

 

「そうね……さしあたって雄英高校への謝罪をとりなしてくれないかしら……OBよね? 根津校長が静かに怒っているわ」

 

「は?」

 

 我々は今一度しっかりとした話し合いの機会を持つべきでしょう。そんなカッチカチに硬い平坦な言葉で根津校長はヒーロー公安委員会会長に会談を要請した。その内心は推して知るべしである。

 

「事態が雪だるま式に膨れ上がったから終わるまで黙っててくれたけど、元々『ホーリーナイト』にお願いするのは『(ヴィラン)連合』の内偵だけという話だったのよね」

 

「はぁ!? か、勝手に戦わせたのか? 高校生を? 伝説の(ヴィラン)と?」

 

 話が違う……! つーかこれ俺も怒られるやつじゃねえか!! エンデヴァーの脳裏に蘇る学生時代の記憶。尊敬する恩師である根津校長の失望の表情を思い浮かべただけで胸が苦しくなる。公安案件って本当にクソ!

 

「戦闘が発生する可能性自体は織り込み済みだったわよ。……ええ、事前の取り決めは一つも破られていないわ。ひとつもね……あの子にとって私を思い通りに動かすことなど造作もないということよ。でも根津校長はそうではなかったようね。ふふ」

 

 先程の余裕たっぷりの笑いとは違う、乾いた笑い。現実逃避だ。ヒーロー公安委員会は絶大な権力を持つ組織……ではない。制度としての命令権のようなものはいわゆる『伝家の宝刀』であり、簡単に抜くわけにはいかないのだ。じゃあ何故イキり散らせるのかというと、公安はヒーロー免許の発行をしている、つまり取り消しもできるからだ。さらに言えば活動の評価、ビルボードチャートの審査も委員会が行っている。その上、ヒーローとしてのあらゆる活動に委員会の決定や認可が必要であり、公安と揉めてしまえば正当なヒーロー活動は一切が停止してしまう。なんならオールマイトだって「免許取り消し。次勝手に〝個性〟使ったら(ヴィラン)な」と合法的に認定できる。怖い。こんなもん腐敗して当然なんだよね。

 

「あるいはこれもあの子の思い通りなのかもしれないわね……」

 

 だが『雄英高校の根津校長』はそんなことを恐れない。なぜなら、雄英は公安の管轄外だからだ。教員免許の剥奪も学校の運営権も、公安ではなく『文部科学省』の領分。さらに国内最高峰のヒーロー育成機関たる雄英の最高責任者である校長の任命権に至っては、内閣総理大臣が持っている。つまり、公安委員会とは縦割り行政の壁で完全に隔てられた別系統の組織なのだ。もちろんヒーローを輩出する機関として仲良く協調する必要はあるが、唯唯諾諾と従う謂れはない。救けて……エンデヴァー。この件でおばさん会長がすがりつける『ヒーロー』は、エンデヴァーしか居ないのだった。




独自設定とか

・弟もそこにいる:居ないょ……。
・仮免相当:本当の仮免なら明らかなヴィランに対しては先制攻撃も出来るがメスガキのはそこまでではない。
・脳無の群れ:エンデヴァーなら一人で蹴散らせる程度のやつしかいなかった。上位以上は温存。メスガキとエンデヴァーがいなければオールマイトが敗北する程度の影響力はあった。
・独断専行マイト:ヒーローは独自の判断で動く権利があるのでなにかに違反しているというわけではない。問題はありまぁす。
・誤算だった:いつものことなので慌てない。失敗も見越して準備しておくのが梅干し流。
・わるあがきマイト:PPがたりない。
・ワープゲート:いつまで待っても開かないんよ。なんなら泥ワープも同系上位互換の黒霧のほうが優位なので拒否される。
・あの時:体育祭でのお茶会で家庭の事情を多少聞いた。
・メスガキの怒り:ビビっているオールマイトを見て反省。
・営業スマイル:オールマイトの勘違い。普通に切り替えて笑顔を見せている。
・LIBERTY ENLIGHTENING THE WORLD:自由の女神の正式名称。
・ALL MIGHT IS NOW HERE:オールマイトここにあり!タグ付け頑張ったけど実物(?)はもっとおしゃれな感じを想像してください。
・泥棒連合:初の連合活躍(?)シーン!JK喋り場しかしてなかったからな……。
・資金源:黒霧が捕まった途端困窮しだしたので多分黒霧が管理してたんじゃないかと。
・資産:多分現金は少ない。国中乱れる予定だし……。
・怪盗のプライド:原作だとなし崩しで段々失ったと思われる。
・ヴィラン手前の奴ら:ヴィジランテの爪牙たちみたいなの。
・紅一点:死柄木弔にとってマグネはオカマという認識。
・一日3分:トゥルーフォームの筋肉が増えてきたらもう少し伸びる。
・孫だと知っても動揺少なかったね:しょうもないチンピラじゃなくて大物感があったので逆に落ち着いた。
・クソナードの嫉妬:実物を見てない妄想だから出来る嫉妬。『スギ花粉』とか見たら泣き出すと思われる。
・オールマイトちゃん:インゲニウムちゃんが「おーるまいといずなうひあ!」とかやるからネットのおもちゃになった。
・ホーリーナイトまんじゅう:非売品。メスガキに見せようととりあえず作ったやつ。
・オールマイトの謝罪:申し訳ないと思っているのは連携がうまく取れなかったことであってメスガキをAFOと戦わせようとしていたことに納得しているわけではない。ただ公安からAFO討伐の話が自分に来なかったことは自分に責任があると考えている。メスガキからハブられたのは知らない。
・メスガキVS梅干しおじさん:くっ……これが伝説の敵の力かっ!とか言いながら苦戦するもエンデヴァーとともになんとかやっつけるみたいな展開になる(笑)。
・公金横領:多分直接賠償じゃなくて国が間に入って補填すると思われるので所有者が誰とかの情報は破壊したヒーロー側は基本的に知ることはない。
・ヒーロー公安委員会:ヒーローが逆らえるわけない組織すぎる……。逆説的に相当まともな人格者たちが運用していると思われる。ヒーローも公安も個人の人格頼り!ヒロアカワールドの闇!
・思い通りなの?:全然そんな事ないですね……。
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