ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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え!?まだ夏休みなんですか!?


『幸せを数えたら、あなたはすぐ幸せになれる』

「やぁ、良く来てくれたね!」

 

「こんにちは、校長先生っ! ……あのぉ、来る途中にエンデヴァーとおばさんとすれ違ったんですけどぉ……」

 

 寮生活が始まってすぐにメスガキは校長に呼び出されていた。来る途中にすれ違ったのは公安委員会の会長とエンデヴァー。両者ともに死にそうな顔をしてとぼとぼ歩いていて、声をかけたのだが力のない返事と会釈しか返ってこなかった。

 

「おや、大人同士のお話に興味があるのかい? 君にはまだ早いんじゃないかなぁ、ハハッ!」

 

「むぎゅ……お説教ぅ……ですよね? ボクも受けるべきでは? そのぉ、会長もエンデヴァーもボクが巻き込んだんです。立場を利用したのは公安の会長ではなく、ボクなんです」

 

 もう怒られたあとっぽいので無駄かもしれないが、メスガキは二人を庇うことにしたようだった。

 

「だろうね。あの二人がある種の犠牲者であることは私も分かっているさ。偉そうにお説教などと、とんでもない。反省せねばならないのはこの私さ」

 

 そう、あの二人は怒られたのでも説教されたのでもない。淡々と今後の協議を行い、最後には根津校長に謝罪されるという、逆に地獄のような時間を過ごしたせいでああなっていた。やらかした自覚があるのに、謝られてしまった。その事が逆にエンデヴァーには辛かったし、おばさん会長に至っては罪悪感でいっぱいだった。どっちもいい大人のくせに『根津校長に叱ってもらうことを期待していた』とも言える。大人ってフクザツ! 

 

「なぜ校長先生が反省を? ボクに出し抜かれたことが貴方の責任だということでしょうか?」

 

「ははは。出し抜かれたならそれはもう公に責任問題にして、校長の職を辞す事も検討せねばならかっただろうね。だが私は君の目論見を察知していたさ。……君自身も分かっているようにね」

 

「……」

 

「私は敵の正体を読み違えた。いや、小さく見積もったと言った方がいいかな。上手くいったのは君が更に大きかったからであって、私の読みの力ではない。大失敗で大失態さ。この歳になってもまだまだ恥ばかり増えていくよ」

 

 根津は本当に自身の行動を恥ずべき痴態だと考えているようで、心底申し訳なさそうにしていた。

 

「違いますッ! 校長先生はボクの言葉を信じてくれましたっ! ボクの背中を押してくれたっ! そんな風に言わないでくださいっ! 何が出てきてもボクは無敵ですっ! 読み違えてなんていませんッ!」

 

 メスガキはそれが我慢ならなかったらしく、激しく反発した。根津校長はいつだってメスガキのことを気にかけ……いや、全ての生徒のことを気にかけていることを知っていたからだ。まぁメスガキは特に手厚く構われているが、ぶっちゃけそれは特別だからというより問題児だからである。

 

「そうだね、それは一面の事実だ。私は君ならば大丈夫だと許可したし、果たしてそれはそのとおりだった。だが大人ぶるのであればやっぱり失敗なのさ、新斗くん。私は『AFO』が出てくるなどと思っていなかったのだから」

 

 まぁこのご時世に雄英高校にふっかけてくるあたりでそれなりの(ヴィラン)が出てくる可能性自体は検討されていたが、死んだはずの『AFO』が出てくるなどと予想できる方がおかしいだろう。

 

「大したことないですあんなやつ! オールマイトが居なくてもボクは勝てましたっ! なんならプロレスみたいに『オール・フォー・ワン』に花を持たせてやることだってやってのけたでしょう! オールマイトが必死になってやったことなんて、ボクには片手間ですっ!」

 

「そうかもね。君にそれができないとは言わないよ。でもね、新斗くん。私も含めた大人たちは君にそうさせたくなかったんだ。何故か分かるかい」

 

「ボクが子供だからですか? それとも身体が小さいから? 女の子だからでしょうか? あるいは可愛いから? 生徒だから?」

 

「いいや。君が傷つくからだ。肉体の話ではない。心の話さ。今回の一件は街中で起こる『事件』とは違う、プロでも尻込みするような本物の『闇』だったのだから」

 

 実際にそうなったかと言うとそうでもないし、根津の頭脳が分析した客観的な危険性は『ほどほど』といった所だ。だから続行させた。いい経験になると、判断した。

 

「……別に傷ついてなんていませんっ」

 

「おや、香山くんに抱きしめられて特別な絆を育んだと聞いているけど? まぁ実際どうかはさておいても、私たちはそう考えているということさ。君がもしすでに完成された心を持つ無敵のヒーローだったなら、私はすぐに君を卒業させていただろう」

 

 雄英高校は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは当然“根津校長”もまた然り。一介の教師のそれとは比べ物にならない権限を『校長』は持っている。飛び級も、卒業も、ふさわしい生徒にはいつでもそれを行える。

 

「教えることがない生徒を制度の都合で閉じ込めることなど、雄英ではありえないのさ。翻って君は、まだまだ学ぶことがあるということ。『AFO』は多種多様な〝個性〟と百年を超える経験を持つ危険な存在だった。そんな相手と在学中に戦わせたなんて、君の親御さんに申し訳が立たないよ」

 

 中断させるほどの危険性はなかった。その判断は正しかった。しかし、だから反省しなくていい、とはならない。現在考えうる最悪の(ヴィラン)との会敵を許可したのだから。

 

「……諸先輩方だってインターンで本物の(ヴィラン)と戦っています! ボクも同じことです! 伝説の(ヴィラン)なんて、まやかしです! ボクより弱かったし、プロヒーローに援護され問題なく切り抜けましたっ! ステインも、マスキュラーも、オール・フォー・ワンも! 同じです! どんな事態に遭遇するかなんて選べないんですから、リスクは生徒一同みんな一緒ですっ! ボクがいち早く校外活動を許可されたのはボクの優秀さゆえであって、校長先生は適切な判断をして下さいましたっ!」

 

 その考えは根津校長と全く同じだ。どんな生徒にだって雄英から一歩外に出れば危険は発生する。そしてヒーローとなろうというのならばその危険に立ち向かっていかなければならない。それを踏まえると毎日デイリークエストみたいに発生する一山いくらの(ヴィラン)では、もはやメスガキに何の学びもない。強力な『ネームド』にぶつけたことは雄英高校の方針としては一切の問題がないと言える。しかし。

 

「問題がないなどと他ならぬこの私が思えないのさ。論理的ではないのかもしれないが、私からの謝罪を受け取っておくれ、新斗くん。申し訳なかった」

 

 大人が解決すべき問題だった。本人がやりたがっているから、雄英高校としては許可するしか無かった。出来ることをやらせないのは、ただの過保護でしか無い。だがそれでも、だからといって、上手くいったから良かったなどと思えないのだ。成功も無事も、当然のことでしかないのだから。そしてそれが当然なのは雄英高校の教育の成果ではない。雄英がこの件で彼女に出来た助力など一つもない。世の中のために彼女のことを利用した。その強さを『いいように使った』事こそを恥じていた。

 

「べーっだ! 聞こえません! 受けるべきではない謝罪なんて受け取りません! 何故ならばボクも先生も最善を尽くしたと確信しているからですッ! ボクのことを思い遣ってくれたことだけ受け取らせていただきますッ!」

 

 わざわざ席を立って隣にまで来て深々と頭を下げた根津校長に対してメスガキはなんとあっかんべーをした。真摯な謝罪に対して非常に失礼な幼稚な仕草だ。

 

「まったくもう、困ったな。君は本当に問題児さ。ではこちらは受け取ってもらえるかな? 君のお陰で誰にとっても危険な(ヴィラン)を一人、捕らえることができた。一市民としてお礼を言うよ。ありがとう!」

 

 根津校長は納得したわけではなかったが、根負けしてしまった。論理的な整合性で言えば今回のケースは完全にメスガキの言う通りなので、最初から分が悪かったのだ。先ほどの絞り出すような謝罪とは違う、朗らかな声でお礼を言うと、メスガキはぱぁっと笑顔になった。

 

「えへへ……皆様の心配の種が一つ減ったなら何よりですっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりー! えー、本日は入居予定者全員が無事入寮し! 今日この日を迎えることができて……えーっと……お部屋披露大会! するよー!」

 

「途中で諦めんなよ」

 

「プルトラはどうしたプルトラは」

 

 メスガキが決して走らず急いで歩いて寮に戻ると1Fのロビーに大量の生徒がごった返していた。なんでも女子勢が他の生徒の部屋を見学したいと言い出したらしく、メスガキが帰ってきたのを確認すると何やら妙な大会を開催しだした。

 

「へ、部屋王決定戦だーっ!」

 

「おっ。男女差別か?」

 

「クソみたいな悪ノリやめようぜ!」

 

 ヤオモモは帰ってきたメスガキをちょいちょいと手招きして呼び寄せるとバックハグをして固定した。メスガキがこれ系の話題に入ってくると収拾がつかなくなるからだ。ヤオモモの機転によりメスガキはご満悦で幸せな感触を堪能しだしたのでロジハラで雰囲気が地獄になる事態は回避された。私がこうすることで喜ばないリノちゃんは居ませんでしたわ! 

 

「むしろ『王』に男も女もないって思ってないのが男女差別じゃんね」

 

「言葉狩りじみたことは良くないと思うが……」

 

「分かったこの話はやめよう。ハイ! やめやめ」

 

 瀬呂が(自分で始めたくせに)話題をビシッと切ってくれた。飯田が真面目に考えちゃう系の話題だと彼がうんうん唸りだして話が終わらなくなるのだ。

 

「それじゃあ最初の部屋いってみよー!」

 

 エレベーターは全員で乗れないので階段でのこのこ移動する一同。

 

「階段から一番近いのは……」

 

「峰田くんの部屋だねっ! エッチな本がいっぱい……みたいなのを皆想像してるでしょー? きっとびっくりするよっ!」

 

「違うんだ!? じゃあ見てみよっか」

 

「あんまハードルあげねぇでくれよ。まだ荷解き終わってねぇし」

 

「ところでなんで部屋の中知ってるの?」

 

「引っ越しのお手伝いしたからねっ! エッチなのが入ってる箱は見せてくれなかった~」

 

「おいおい……さすがのオイラもそこの常識ぐらいはあるぜ?」

 

「疑わしいね」

 

「新斗にぐいぐい来られて日和っただけだろどうせ」

 

「性癖開示は出来なかったんだな……」

 

 一斉に突っ込まれる峰田。峰田は自分からセクハラするのは得意だが女子の方から来ると尻込みしてしまう。マウントレディの事務所で一体何があったのか。

 

「うるせーっ! あんまり言うとお前らの部屋の隠し場所見つけてやっぞ! オイラ隠し場所には一家言あるんだからなぁ!?」

 

「ははは。なんか言ってらぁ」

 

「やれるもんならやってみろっての」

 

「オイラは紙媒体を嗜むレトロ趣味だが……今どきはスマホだもんなぁ? だから油断してんだよなぁ?」

 

「…………」

 

「部屋披露じゃなくて予測変換披露大会にするかぁ? 間抜けなやつはブックマークしてるかもしれねぇなぁ」

 

「…………」

 

「おっと、スマホを取り出そうなんて思うなよ? これは警告じゃなくて忠告だ。今それをしようとしたらどう見られるか分かるよなぁ?」

 

「…………」

 

 沈黙!! それが正しい答えなんだ。メスガキは女子の中では唯一峰田のエロトークに嫌悪を示さない人物なため話す機会も多い。故に話し方も似てきたりする。そう、これは峰田による反撃……メスガキの得意技の模倣、レッテル貼りである。もはや何を喋っても言い訳がましく聞こえるし、今日この後スマホを操作しているのを見られただけで「あっ……」と思われてしまう状況が作られてしまった。峰田はすでにスケベキャラが定着しているのでノーダメージだが、他の男子には致命傷だ。なにせこれから共同生活が始まるのだから。

 

「ケロ、男の子は大変なのね。五月雨(おとうと)もそういうのに興味持ち出す年頃かしら……」

 

「私がいつも裸見せてあげてるのに我慢できないのねっ!」

 

「見えてへんやないかーい!」

 

 葉隠(色気のないジャージのすがた)がくねくねとセクシーアピールをしだした。麗日はもう何回したか覚えていないレベルでコッテコテないつも通りのツッコミを入れた。

 

「ボクは把握してるけどねっ! 紫外線の影響受けていないからか、すべすべ滑らか肌だよねっ」

 

「えっ」

 

「ん?」

 

「……見えてるの?」

 

 葉隠は今は普通に服を着てるのでおずおずとした姿勢なのがわかる。まぁ声だけでも分かるくらい動揺してるけど。

 

「体育祭の時のこと忘れちゃった? 知らないものをどうやって再現するのさ~」

 

 光の屈折を操り透明になっている葉隠は可視光に頼らない観測手段があるのならば認知できる。メスガキは何らかの手段で葉隠の姿を認識しているようだった。

 

「あっ……そういえばそうじゃん。言ってよもぉ~……恥ずかしい……」

 

 メスガキには理解(わか)る。葉隠の頬は真っ赤になっている。

 

「えーなんで? きれいだから恥ずかしがること無いよ~」

 

 メスガキは全裸を見られても気にしないタイプなので他人の全裸に騒いだりしない。葉隠がたまに変なポーズをしてニヤニヤしてることも知っているが、微笑ましく見ていた。

 

「もー! 早く部屋入ろっ!」

 

「! ああ、入ってくれ!!」

 

 ただ葉隠が自分の部屋に早く入りたがっているというだけで峰田はこの程度の興奮が可能です。如何でしょうか、皆様方? その表情がキショかったので芦戸とメスガキ以外の女子は入るのを辞めた。

 

「おおー!? ヒーローグッズばっかだ! なんかレトロっぽい?」

 

 入室した一同は部屋の意外な様子に驚いた。壁にはヒーローのポスター。机にはヒーローグッズ。しかも量は少ないものの全て同一のヒーローというこだわりっぷり。どうせマウントレディのパンチラフィギュアでもあるんじゃねえのという予想は裏切られた。

 

「あ! これ『ポジティー』じゃない!? 峰田くん『ポジティー』好きなんだ! 『さよならは言わねえぜ』! かっこいいよね!」

 

「……そうか! 緑谷はやっぱり知ってたか! 実はよ……緑谷に「知らない」って言われたらショックだから言えなかったんだけど、オイラ『ポジティー』好きなんだ……」

 

「ごめん峰田……俺知らねぇわ……」

 

「めっちゃ古いヒーローだから知らなくて当然だから気にしなくていいぜ! そう、あれはその昔オイラがじいちゃんの家の倉庫で古びたエロ本を見つけた時のことだった……」

 

 峰田はビデオや本などのちょっとレトロな媒体が好きである。理由? 川原とかで拾えるから……。

 

「ちょっと待って! エロ本という言い方だと誤解が生まれちゃうよ! エッチな記事も載っているゴシップ誌って言うべきだよ! というのも昔のヒーローはアングラな性質が強くて新聞やニュース等では腫れ物みたいに扱われていた時期があって『ポジティー』はまさにその黎明期の過渡期のヒーローでブツブツブツブツ」

 

 まだ習っていないヒーロー史まで抑えているクソナード。こいつは歴史オタクでもあるのだ。特に近代(というかオールマイト)が好きではあるが、黎明期のヒーローたちも好きだ。とはいえ過去のヒーローは情報が断片的なことが多く、ソース元も峰田が持っているようなゴシップ誌だったりするので信憑性については疑わしいとされ正式に教科書に乗っていたりしないことも多い。

 

「よし! 次行こ次!」

 

 思ったより部屋はキモくなかったのに緑谷と峰田がキモ濃度を急激に上げたため耐えられなくなったのだ。それを直接口にして言わないという善性をみな持っていたが、キモくないわけではない。あと部屋の隅に山積みにされている段ボール箱の中身を想像して嫌になったのもある。メスガキが軽い感じで言っていたので1箱だと思っていたが、壁が見えないほど積まれていたのだ。そして次の部屋は……。

 

「緑谷の部屋は予想通りで良かった。オールマイトだらけだー!」

 

 部屋いっぱいのオールマイトグッズ。筋トレ用具とオールマイトしかないこの部屋は筋肉の信奉者のようにも見える。A組の生徒たちにとってはファザコン部屋にも見えてしまう。

 

「まさにオタク部屋って感じだな。実家に保管とかじゃなくて寮に持ち込むの本当にすげえよ」

 

「あ、うん。布教用の複数持ちのやつだけ持ってきたんだ」

 

「あっ……そうなんですか」

 

 急に敬語になる瀬呂。一応そういう文化があるらしいことくらいは知っていたが、実物を見て少し引いている。ハァ……本物! 

 

「わ、私は良いと思う! こ、今度ゆっくり見せてよ!」

 

 麗日はここぞとばかりにアピールした。上鳴は「やるんだな麗日! 今! ここで!」と思ってテンションを上げた。今じゃねーよ。

 

「わぁ! もちろんいいよ! 麗日さんはどんなグッズが好き? 持ってきてないやつだったら家から」

 

 好感触……なのだろうか? どちらかと言うとマイトオタ仲間認定されているような気もする。まぁ後日部屋で二人で過ごせばなにかが変わるかも知れない。

 

「オラァ! 次行くぞ次!」

 

 叫ぶ峰田。邪魔したかったわけではない。むしろどちらかと言えば応援している。だが、眼の前で見たいものではなかったのだ。

 

「フン……くだら」

 

 部屋の前に立ちふさがって「俺の部屋は見せないぞ」と全力でアピールしていた常闇はメスガキの〝個性〟でひょいっと退かされた。こんなことに対人で〝個性〟を使うというモラルの無さには誰も突っ込まなかった。だって、部屋が見たいから! それに本当にガチのガチに部屋を見せたくないなら部屋の前に立っているのはおかしい。鍵をかけて部屋の中にいればいいだけだ。実際関わる気ゼロの爆豪は鍵をかけて寝てる。まぁつまりそういうことだった。どうしてもって言うなら……見てもいいよ♡

 

「黒ー!」

 

「剣と盾……?」

 

「何と戦う用なんだ? 黒影(ダークシャドウ)?」

 

「シックで良いねっ! あっ……やっぱあんま好きじゃないかも……」

 

 メスガキは常闇の真っ黒い部屋を見て気に入ったようだったが、小物の趣味の悪さを見て撤回した。常闇はいきなりの手のひら返しにショックを受けたらしくそっと目が発光する趣味の悪い髑髏型ライトの電源を落とした。

 

「青山の部屋は……想定通りって感じ」

 

 闇の部屋の次に現れたのはミラーボールだの全身鎧だの鏡だのでまばゆく光る部屋だった。

 

「ボクと同じように部屋もキラメキが止まらないのさ☆」

 

 闇の存在を許さないと言わんばかりの光源。

 

「こういう部屋にしてそうって思ったまんま~」

 

「キャラ作り徹底してるねっ!」

 

 大量の鏡により死角のない部屋はまるで何かと戦っているかのようだった。

 

「僕は良いと思うよ青山くん! 『ネビルレーザー』の〝個性〟は光を放つものだから普段から光に慣れ親しんでおくのはブツブツブツブツ」

 

「あー、そう考えると私もライト増やしたほうがいいのかなぁ?」

 

「合宿で作ったやつ光量落としてまた作ったげようか~?」

 

「いいの? やったぁ~! ありがとう!」

 

「驚きのない部屋の見学はこれくらいにしとこっか! 次は3Fだよー!」

 

 失礼なことを言いながら部屋を出ていく芦戸。青山は仏頂面で沈んだ雰囲気を出しつつ部屋をあとにしてそれについて行った。

 

「3Fの最初は~……あっ、空き部屋じゃん」

 

「じゃあ俺の部屋が最初か……ちょっとまって! 最初に入るの女子がいい!」

 

 上鳴はなんかしょうもない事を言いだした。最初に入ったのは内装を整えた人たちで、それを除いたとしてもおまえなんだわ。

 

「もう達成してるでしょ~? ボクが荷物運んだときに入ったじゃん! 最高にカワイー女子が最初で良かったねっ!」

 

 メスガキはそんなアホ認識を否定せずに優しく過去を照らした。彼女は引越し業者が来るたび荷物を玄関で受け取って各部屋の前に積む作業をしていたし、部屋主がすでにいる場合は部屋の中まで運んだので、大抵の生徒の部屋に入ったことがあったのだ。

 

「あ! そうだったわ。じゃあ皆遠慮なく入ってくれ!」

 

 意気揚々と先導する上鳴についてぞろぞろと部屋に入るとそこは様々なアイテムが雑然と置かれた統一感のない空間だった。

 

「チャッラぁ」

 

 訂正。チャラいという統一感があった。

 

「なに? ここに女子連れ込んで何するつもりだったの?」

 

「え? ……一緒にカップ麺食うとか……?」

 

 このアホは本気で言っている。今は脳が友情モードなのでそのことしか考えられない。

 

「あ、ギターじゃん。結局買ったんだ」

 

「買ったっていうか、中学の同級生がいらねーって言うから貰った! 防音バッチリらしいけど後で響かないか確かめなきゃな! えーと隣は空き部屋と飯田で……」

 

「上は切島くん、下は緑谷くんだよぉ。響香ちゃんともう試したけど全然聞こえないから安心してねっ!」

 

「おお、それじゃあ夜も練習できるな!」

 

 上鳴は軽くギターを担ぐとぼよんぼよんと情けない音を出したが、表情がとても楽しそうだったので皆も笑顔になった。

 

「貰い物なのに新品みたいにピッカピカなのが悲哀を感じるな」

 

 勢いで買ったけど結局部屋のインテリアになっていたのだろう。楽器あるあるだ。

 

「ダーツとかもするんだー!」

 

「あ、それも貰い物。壁に傷つくからやったことねえわ」

 

 その後どのアイテムについて聞いても「貰い物」とか「友達の趣味で」といったワードが出てくるので一同は上鳴の交友の広さに感心しながら部屋をあとにした。

 

「次は俺の部屋だな! 特に見るべきものもないが!」

 

「本だらけじゃん。もう全部読んだの?」

 

 飯田の部屋は本棚に入りきっていない本が床にまで置いてあるというきっちりとした飯田には珍しい無規律な状態であった。

 

「持ってきたのは未読のものばかりだな! 家族に勧められたものが多いぞ!」

 

「メガネがダース単位である!」

 

 ボッ! と麗日が吹き出した。

 

「笑い事じゃないぞ! 訓練で破損したらすぐに代えないとパフォーマンスが落ちるからな! 必要に応じてだ!」

 

「本棚足りてないねっ! ボクが作ってあげる~」

 

 ひょいひょいと棚の上に積まれている本がメスガキの〝個性〟によって持ち上がったかと思うとあっという間に真っ黒な本棚が出現し、そこに器用に本が並べられた。

 

「おおっ! これはすまない、買い足さねばならないと思っていたから助かるよ! ありがとう!」

 

「お気になさらず~♡皆もなにか不足があればお気軽にご相談ください♡」

 

 次に向かった尾白の部屋は普通すぎて普通以外のコメントがなかったのでカットします。見どころは「普通」と言われるたびに段々と垂れ下がり最終的に床にだらりと横たわった尻尾くらいでした。尾白の部屋をあとにして4Fに移動した一同が最初に入ったのは障子の部屋。スッカスカで机と布団しか無い空っぽの部屋だ。

 

「良く片付いているな!」

 

「片付いているっていうの? これ」

 

「昔から物欲が薄くてな」

 

「分かるな~! 物より思い出だよねっ!」

 

「……ああ、その通りだ。大切なものはこの胸の中にある……」

 

 しっとりほんわかした雰囲気が空虚に見えた空間を満たす。何があるかではなく誰がいるかが大事なんだと一同は思った。

 

「なんかふっしぎー! 障子とリノちゃんって結構仲良しだよね!」

 

「両親に愛され仲間かな~やっぱ!」

 

「そうだな。俺も親に恵まれたと思うよ」

 

 周囲からの罵声と暴力の中で聞こえる泣き声。両親のものだ。障子が取り囲まれ『血祓い』などという前時代的な謂れのない加害を受けていた時。母は泣いていた。申し訳なさそうに、苦しそうに、泣いていた。父はそんな母を抱きしめ、悔しそうに歯を食いしばっていた。これは悪い思い出なのだろうか? きっと他者が聞けばそう思うだろう。確かに良い思い出ではない。だが、大切な思い出だ。守ってはくれなかった。けれど、愛してくれていることを隠さないでいてくれたんだ。

 

「??? 私もだよー!」

 

「ふふっ! そーだねっ! 三奈ちゃんがたくさん愛されて育ったのは見れば分かるよっ」

 

 響香は無言でメスガキの頭を撫でた。唐突だったが最早それを誰も疑問には思わなかった。いつものことだ。障子はそれを温かな気持ちで見守った。

 

「それじゃあ次は俺の部屋だな! 見てくれこの障子の部屋にも負けない男らしさを!」

 

 切島の部屋は男男男の男祭りという感じの暑苦しい部屋だった。

 

「初日からすでに汗臭そう」

 

「必勝はまだしも大漁って何?」

 

「サンドバッグ使う機会ある? トレーニングルームあるのに」

 

「寝ないと健康に良くないよーっ! 睡眠時間を削った学習は効率悪いからやめようねっ!」

 

 メスガキは「寝るな」と書いてある張り紙を勝手に剥がすという暴挙に出た。一応管理人なのでそうする権限はあるので切島は文句を言えずしょんぼりしてゴミ箱に捨てられた張り紙を見つめた。

 

「お、俺は好きだぜ、この熱意を感じるインテリア!」

 

「く、臭くねーから……あとありがとな、上鳴……」

 

 散々な評価だった。女子には分かんねえと思うけど……みたいな予防線を張るのは男らしくねえな! と思って何も言わなかったが、言っておけばよかった。おいヒーロー科女子ども、切島くんが半泣きだぞ。謝れ! 

 

「それじゃあ最上階ー! 5F! 最初の部屋は~?」

 

「俺だな。眠いから手短に頼む……」

 

 轟の部屋だ。各部屋を回っている時にはすでにうとうとしていた轟は部屋に友人たちを招き入れると布団を敷きだした。

 

「和室じゃん!? どうやった!?」

 

「なんか畳があったから……」

 

 経営科がプロデュースの授業で使ったもののあまりである。廃品倉庫には一部屋のリフォーム程度なら十分にできる程度の材料が保管されていた。ちょっとした人助けをした際にリカバリーガールが教えてくれて、持って行く許可まで取ってくれた。轟の実家の生活ランクからするとあまり良いものではないが学生の寮で使う分には充分であろう。

 

「それじゃあ俺は寝る」

 

「えっ! マイペースすぎでしょ……」

 

「わりぃ。出る時明かり消していってくれるか?」

 

 布団に入った轟は立ち上がって紐を引っ張るのが億劫になったらしくふてぶてしい頼み事をした。いや、まぁ眠いのに部屋に押しかけられてる部屋主なんだからこれくらいは言っていいか。

 

「前にリノちゃんが我儘って言ってたのこれか~」

 

「亭主関白~! エンデヴァーも家だとこんな感じなんだろうねっ!」

 

「え……」

 

 ショートくん、超ショック! 眠気は吹っ飛んで「俺があのクソ親父に似てるだと……」と友人たちが立ち去り暗くなった部屋の布団で横になりながら一人悩みだした。かわいそう。

 

「かわいー! うさぎだぁ!」

 

 クソボンボンのことなどすっかり忘れた一同は口田の部屋に居たうさぎのゆわいちゃんに夢中だ。いや、オスだからゆわいくんだけど。

 

「うさぎはストレスに弱いから優しく扱ってあげてねっ♡」

 

 メスガキは上機嫌でうさぎのまわりできゃいきゃいしている女子勢を眺めている。ゆわいちゃんは好奇心旺盛なタイプなので囲まれても怯まずに興味津々に鼻をブーブーと鳴らしている。

 

「お部屋もファンシーで居心地よさそー! 癒し空間!」

 

「うさぎって部屋ん中で飼えるんやねぇ」

 

うん。ちゃんとトイレとかも覚えるよ

 

 うさぎのトイレ事情は割と個体差が激しい。ゆわいちゃんは賢いのでトイレも完璧にできるタイプだ。というかだからこそ連れてくることができた。

 

「写真もいっぱいだ! 大事にしてるんだね!」

 

家族だから……寮が不安だったからついてきてもらったんだ

 

「困ったことがあったら何でも言ってね、口田くんっ!」

 

ありがとう、新斗さん

 

 ほんわかした雰囲気で口田の部屋をあとにした一同はいよいよ男子寮の最後の部屋に向かう。

 

「トリを務めしはこの俺ってわけか」

 

「爆豪が起きてきたら爆豪になるけど」

 

「部屋見せるのめちゃくちゃ嫌がりそう」

 

「お引越しの手伝いもいらねえって言ってたからどんな部屋かボク知らないんだよねぇ」

 

「かっちゃんの部屋かぁ……昔はオールマイトグッズがいっぱいあったけど……」

 

「今も持ってそう」

 

「ああ、だから見せたくないんだな」

 

 持っていることは持っているが現在の爆豪の部屋は登山グッズだらけの山男部屋だ。

 

「つーわけでこれが俺の部屋だ」

 

 瀬呂の部屋はアジア系の雰囲気で手堅く纏まった完成度の高い部屋であった。

 

「わ。統一感すご」

 

「ステキー! エキゾチック~!」

 

「めっちゃおしゃれー!」

 

「とってもいい部屋ね、瀬呂ちゃん」

 

 女性陣には大好評だったが男子勢はイマイチ反応が良くなかった。

 

「落ち着かなさそう」

 

「なんだぁこりゃあ。ここで寝るのか? オイラやだなぁ」

 

「ギトギトしてる」

 

「なにこのインテリア。呪術師?」

 

「ま、お前らじゃ分からないか。この領域(レベル)の話は」

 

 女子に好評だったので瀬呂は余裕の態度だ。あと峰田、お前の部屋も完全版になったら眠れない感じの部屋だろ。

 

「それじゃあ次は……女子部屋だよなぁ?」

 

「お? イイじゃん! 見せっこしよー!」

 

「乗り気なの? ウチはどうしよっかな」

 

「希望者だけで良いんじゃないかしら。私は峰田ちゃん以外なら入っても良いわよ」

 

 男子の部屋の時も言ってあげて、梅雨ちゃん。いやまぁ本当に嫌がってるやつ、つまり爆豪とかは参加してないし轟みたいに眠いやつは寝てるんだから明言されてないだけで最初からそうだったんだけど。

 

「ん~それじゃあオッケーな女子、興味のある男子は1Fロビーに集まろっ! 一旦解散~っ!」

 

 メスガキのその宣言にぞろぞろと階段を降りていく男子。気が利くね! 女子はどうするか話し合いながらエレベーターに乗った。

 

「えーそれじゃあね! 部屋王決定戦、女子の部ー! 開催しまーす!」

 

「ひょーっ! やったぜぇ!」

 

「峰田くん、見るだけだからね! 変なことしたら追い出すからね! 部屋じゃなくて、人類の生存圏から!」

 

「部屋主がNG判定するようなことしたらリノの〝個性〟で上空5000メートルに打ち上げることになったから覚悟しとくよーに」

 

 聖母のような対応だ。実際問題「学校側に報告するから」とか「相澤先生に言うから」とかのガチ対応ではないのは非常に寛容だ。つまり峰田が我慢できなくてやらかす可能性を真剣に検討して内々で済ますことにしたということなので峰田は喜んではいけないが。

 

「わ、分かってるっての! 見るだけ、入るだけだし蛙吹の部屋には入んねぇから!」

 

「ケロ……部屋の中のものは触らない、何もしないって約束出来るなら見てもいいわ」

 

「えっ……マジか、蛙吹……! 約束するぜ! 目を皿のようにして見るだけにしとく!!」

 

 梅雨ちゃんの優しい言葉に峰田は目に見えて喜んだ。罰則の発表による緊張感のある空気が和らぎ楽しい雰囲気になった。

 

「女子は人数が少ないから3Fからなんだよ! それじゃあまずは最初のお部屋ー!」

 

 張り切った芦戸が先導する。そして3Fにたどり着いたが困惑している。

 

「あれ? ネームプレートがない……」

 

「リノの部屋……になるのかな。ウチが開けるよ」

 

 一同に困惑が広がる。何が起こっているのか良く分からない。何故メスガキの部屋の鍵を響香が持っているのか? 

 

「え、ベッドが2つ? なにこれ?」

 

「わぁ~!キレー!」

 

 中に入ると2つベッドが並んでいる。ベッドの間にファンシーな棚がありその上にはちょっとしたぬいぐるみなどが乗っている。壁も床もメスガキの〝個性〟に覆われて星空のようになっている幻想的な空間だ。

 

「えーと……ウチとリノのベッド……ルームシェアみたいな……? 寝室的な部屋にして効率化して二部屋使うことにしたんだ」

 

 メスガキは服を筆頭に持ち物が極端に少ないのでね……棚の上の家族写真くらいしか持ち込んだものはない。ベッドも棚も〝個性〟で作ったものだ。

 

「ど、同棲だぁあああああ!!」

 

「オイオイオイオイこれ良いのかよ! うっひょおおお!!!!」

 

 芦戸と峰田は大はしゃぎだ。特に峰田は女子の寝室に入ったという感動に打ち震えている。

 

「部屋の中のものに指一本でも触れたらマジでリノにロケット打ち上げて貰うからね」

 

「わ、分かってるって……深呼吸してもいいか?」

 

「……き、キモい……許可取ったことに免じて一回だけね……」

 

 キモがられたことにもめげずにすーっと息を深く吸い込む峰田。その表情は満ち足りていてとても幸せそうだ。女子はドン引きです。蛙吹なんて情に負けて入室を許可したことを早くも後悔している。でも撤回はしない。約束したので……。

 

「わかるぜ峰田! なんかいいにおいするよな、この部屋!」

 

「ウチもリノも特に何もしてないんだけどな……」

 

 生理的嫌悪感は拭えないものの、女子としてこう、持ち上げられているのは分かるので嬉しさがないわけではない。複雑な気持ちになりながら二人の寝室のあとにした。

 

「まぁ次もウチとリノの部屋なんだけど」

 

「わー! 楽器がいっぱい!」

 

 ガッキガッキした部屋だ。ベッドがない分広めに感じるのが一番大きな特徴かもしれない。

 

「おお! ドラムじゃん! そういや新斗が文化祭でバンドやりたがってたな!」

 

 上鳴は「響香ちゃんが一番苦手なやつどれ? それ練習するっ」というメスガキの言葉を思い出しテンションが爆上がりした。

 

「えー! いいなー! 私もやりたーい!」

 

「興味ある? 時間ある時教えてあげようか。どの楽器が良い?」

 

 メスガキは速攻でドラムテクを学びあっというまに教えることが無くなってしまったのでちょっと寂しく思っていたのだ。その点上鳴なんかは「もた……もた……」という感じの上達速度なので可愛げがある。まぁ時間に余裕あるメスガキと違ってヒーローの訓練も忙しいからね。

 

「ダンスー! ダンスしたい!」

 

「楽器じゃねえじゃん。自由すぎる」

 

「あはは、まだ出し物何になるか分かんないからなんとも言えないけど、生演奏でダンスも楽しいかもね」

 

「新斗! 俺も今ギターを……あれ? 新斗居ねえじゃん!」

 

 上鳴は今更メスガキの不在に気づいたらしい。

 

「ああ、1Fに降りた時キッチンでなんかゴソゴソやってたから多分そろそろ」

 

「ボクを求める声が聞こえたぞーっ! キミたちの心にいつも安心をっ! 優しくて可愛くて最高の隣人であるボクからとってもおいしー手作りスイーツのお届けですよ~っ♡」

 

 メスガキが持ってきた皿には色とりどりのコロコロとしたオシャンティなお菓子が乗っていた。

 

「わあっ! すごーい! ……え!? 手作り!? これが!?」

 

「おお! なにそれ? マシュマロ? きれいだな!」

 

「……うん! フルーツのマシュマロだよっ! 甘いの苦手な人のためにビターなチョコ味も作ったからぜひ一つは味見してみてほしいな~♡」

 

 メスガキが作ったのはギモーヴでマシュマロとは製法が違うが、アホの上鳴を混乱させないために言わなかった。余計なことを考えずに美味しく食べてほしかったからだ。

 

「三奈ちゃんはこっちの酸味のある青りんご味がおすすめ♡」

 

「ふわっ! しゅわって! シュワって溶けた! あま~い! おいしぃ~!」

 

「新斗……俺も青りんごが良いんだが……」

 

「はい、どーぞ♡」

 

「全部うまそう! なぁなぁ新斗、俺にもおすすめある?」

 

「王道のフランボワーズから食べてみて♡」

 

「ふら……?」

 

「き、木苺ね! ピンクのやつ!」

 

「おぉ!? 不思議な触感だな? しゅわしゅわだ! うめぇー! ありがとな!」

 

 わらわらと他の生徒達も群がり結構大量にあったギモーヴはあっという間に無くなってしまった。

 

「苦手な人は居なかったかな~? 気に入ってくれたみたいでなによりっ! 明日の3時のおやつにモモちゃんの紅茶とボクのスコーンでお茶会する予定だから参加したい人はお昼までに女子棟側キッチンのホワイトボードに名前書いておいてねっ」

 

「リノちゃんのスコーンは絶品ですのよ。お茶はハロッズのイングリッシュブレックファストをミルクティーにする予定ですが、ご希望の品種がある方は同じくホワイトボードにお願いしますわ」

 

「えー! 絶対参加するするー!」

 

「だ、男子も参加OKですかね……?」

 

「皆で楽しく過ごそうって会だからもちろん! お菓子食べてお茶飲むだけで帰ってもいいよぉ~。お気軽にねっ!」

 

「このマシュマロは出ないのか」

 

「常闇くん青りんご味のギモーヴ気に入ったの? 作っとくよ~♡」

 

「有難い……実はりんごが好きなんだ。材料費と手間賃は出すので多めに食べたいのだが頼めないだろうか」

 

「そんなの気にしなくていいのにっ! ……! ……あ、そろそろ次のお部屋行こっか!」

 

 メスガキはなんだか何かに気づいたような、大事なものを見つけたような顔をして笑顔になって友人たちを先導した。

 

「この空気で私の部屋かー! ええい、どーだっ!」

 

「……切島の部屋の女子バージョンだな!」

 

 葉隠の部屋は『女子!』って全力でアピールしているかのような部屋だった。ふわふわもこもこで花柄でハート。お砂糖とスパイスと素敵なものぜんぶって感じ。

 

「普通の女子の部屋って感じだね……」

 

「うぉ……この部屋もいいにおいする……は、葉隠……」

 

「ダメー! 見るだけ! 普通の呼吸で満足しなさい!」

 

 ぷんすか、という感じで峰田の異常な要望を却下する葉隠。当然のことだ。むしろ響香ちゃんが許可したのがびっくりなんだよね。メスガキを甘やかしている影響と思われる。

 

「……なんかすげえイケナイコトしてる気になってくるな!?」

 

「俺達なんで女子の部屋に入ってるんだっけ……」

 

「罪深き聖域……」

 

 やめろやめろ冷静になるな! メスガキのギモーヴが〝トゲ〟に……! 折角部屋王を決めるほどに先鋭化させてきた〝熱〟が……! 

 

「急になにー!? 私の部屋まだ見せてないのにテンション下げないでよー!」

 

 実際はテンションが下がったと言うより弾道が上がってきたんだけどね。背徳感ってやつ。なんか怪しい雰囲気のまま一同は次の部屋へ移動した。

 

「ほら喜びなよっ! これが私の可愛い部屋だーッ!」

 

 ミステリアスで小悪魔チックな雰囲気の部屋であった。壁紙とフローリングがそのままなのが少しアンバランスだがそこがまた年相応で可愛らしい。

 

「立て続けにすっごく女子部屋!」

 

「葉隠よりギャルっぽい感じする」

 

「カーテンの柄が大阪のおばちゃんみてえ」

 

 なんてこと言うんだ! くらえワン・フォー・オール1000000%スマーッシュ!!! 

 

「三奈ちゃんはサイケデリックなタイダイ染めっぽいデザインが好きなんだよねっ! ヒーローコスもそうだし!」

 

「そーなの! レイヴカルチャーが好きだから自然とそーなった!」

 

 アシッド・ハウス……ってコト!? ファッション談義ではしゃぎながら次に移動したのは麗日の部屋だ。

 

「皆と比べたら薄味でごめん……」

 

 なんかこう、田舎っぽい雰囲気で満たされている。インテリアそのものは洋風なのに和の空気感。多分ゴザと扇風機のせい。

 

「薄味というか……落ち着いてんな」

 

「うん。ゆっくりできそうだね」

 

「俺はこういう雰囲気は好きだぞ、麗日」

 

「僕も良いと思うな! なんだか今すぐに川に泳ぎに行きたくなるようなノスタルジックな感じで!」

 

「あれ? 結構好評?」

 

 女子女子しすぎていないのが逆に良かったのだろう。ほっとするやすらぎ空間を挟んだことで弾道が下がった。しかしもうちょっと男子の言語化が進んでいればお茶子ちゃんは悲しんだかも知れない。男子たちが安らいでいるのは「田舎のおばあちゃんち感」によるものなので。アパート暮らしの癖が抜けてないんだろうけど、洗濯ハンガーはベランダに出しとこうねお茶子ちゃん……。

 

「次は私の部屋を見てほしいわ」

 

 梅雨ちゃんの華麗なるインターセプト。「これってもしかして……」と男子たちが言語化できていない部分を先んじて察してしまったので順番を飛ばして自分の部屋に招いたのだ。やさしい。

 

「おー! すずしい!」

 

「爽やかでいいな!」

 

「植物いっぱいだー!」

 

 蛙吹梅雨の部屋は木目調の家具とエスニック柄のタペストゥリー、そして何よりたくさんの観葉植物と謎の石が所狭しと並んでいるボタニカルな空間だった。

 

「これ何? 石? 石育ててるの?」

 

 きれいなガラス瓶の中に苔むしたごっつい石と、その他にも何やらごちゃごちゃと入っている。

 

「育てているのは苔のほうよ。コケリウムというの。将来的にはパルダリウムにしたいわ」

 

 いちいち余計なことは言わなかったが梅雨ちゃんのやりたい本格的なパルダリウムは経済的に厳しいのでね……。梅雨ちゃんの家は貧乏ではないがごく普通の一般家庭の3人姉弟なのであまり我儘を言えないのだ。苔テラリウムもコツコツと自作したものなのだが、こだわり抜いているだけあって美しく仕上がっていたので誰もそれがハンドメイドだと気付かなかった。

 

「こりゃ綺麗だなぁ……オイラこの部屋からハブられるとこだったのか……」

 

 見れてょかったと峰田ゎ思った……っゅちゃんはぃっも峰田を制裁するけどそれゎ思いやりなんだって……ゎかってる……。でも峰田ゎ我慢できなぃ……っぃゃっちゃぅ……。

 

「本当は皆に見てほしかったの。私がこういうの好きだって知ってほしかったから」

 

 ぽっと頬を染めてひかえめに宣言する梅雨ちゃんに一同はほっこりしながら最後の部屋に向かった。

 

「ラストはついに八百万の部屋だな……」

 

「一体どんなカルチャーショックが待ち受けているんだろうな」

 

「ふふ……私の部屋なんて大したことありませんのよ……」

 

 どよーん、とした雰囲気の八百万。メスガキと響香があわてて両隣に移動してベタベタしだした。

 

「あっ……」

 

 そう。仲良し三人組の中で一人だけ一人寝なのが八百万だ。メスガキの部屋のベッドをワイドキングサイズにして3人で寝ようという話も出たのだが、八百万は寝具が変わるとあまり安眠できないタイプなのが合宿で分かっていたのでおじゃんになった。

 

「ほ、ホラみんな見てーっ! すごいでしょ! モモちゃんのベッドーっ!」

 

 でーん! と部屋を占領するクソでか豪華ベッド。半分はベッドで埋まっている空間に一同は度肝を抜かれた。

 

「……うおーっ! こりゃすげえ豪華! これで眠れるなんてさすが八百万はすげえなぁ!」

 

「ああ! こんな素敵なベッドで眠れるなんて八百万さんが羨ましいよ!」

 

「煌びやかでいいね☆」

 

「新斗も言っていたが、ぐっすり眠ることは健康においても重要だからな。使い慣れたベッドで寝るという判断は素晴らしいと思うぞ」

 

 ちょっと狭くね? みたいなネガティブなワードは誰も出さなかった。だって八百万が悲しんでいるから! 元気になって欲しいから!! 

 

「あ、ありがとうございますわ……」

 

 男子たちの心からの称賛に心が上向く八百万。そもそも引っ越し当初に一度割り切った話なので比較的すぐに元気を取り戻したようだ。

 

「そのうちお泊りしようね、モモちゃん!」

 

 メスガキが相澤に取った許可はルームシェアであって外泊(寮内でも他者の部屋で寝るのは外泊扱い)の許可ではないので、八百万とはまだ一緒に寝られないのだ。

 

「ええ、その日を楽しみにしておりますわ!」

 

 ポジティブな話題になったことでヤオモモが元気を取り戻したのを察した一同はがやがやと騒ぎながら1Fの談話スペースへ向かった。

 

「それじゃあ投票をしていきましょー! 自薦禁止だよー!」

 

 ヤオモモが用意した用紙と箱を使ってついに投票が始まった。

 

「皆さん投票はお済みですかー? まだの人はー? ……居ないね! それでは集計しまーす」

 

「誰が勝つんだろうね?」

 

「分かんねー。まぁ見るのがメインで勝敗なんておまけっしょ!」

 

「オイラはやっぱりあの寝室だなぁ!」

 

「おい集計してんだからまだ言うなよ。いや、まぁお前がどこに入れるかなんてわかりきってたけど……」

 

「けっかはっぴょー!! 第一回部屋王暫定一位はー!!」

 

「第一回……?」

 

「次回があるのか? これ」

 

「暫定ってなんで? 轟と爆豪が居ないから?」

 

 数多のツッコミを置き去りにして芦戸は突っ走っていく……。

 

「得票数6票ー! 単独首位を叩き出したのは~! 新斗~黎乃~~!!!

 

「やっぱり~? ボクと響香ちゃんの絆の力だねっ! 投票してくれた人ありがとうっ!」

 

「まぁインパクトあったしな」

 

「オリジナリティじゃぶっちぎりだもんな……」

 

部屋自体も幻想的で綺麗だったよ

 

 自室を完全寝室にして女を連れ込むというものすごい欲望を感じる部屋。相澤先生は許可するかどうかかなり悩んで校長に相談したくらいだ。

 

「えー内訳としては……「お菓子美味しかった」「願望を叶える実行力に感銘を受けた」「一緒に寝たい」などですね!」

 

「おい賄賂」

 

「最後の絶対峰田だろ」

 

「ちげえよ! そういうの何でもオイラにすんなっつーの!」

 

「峰田の投票理由はキショすぎて口にしたくない」

 

 芦戸は無の表情でそう言った。隙あらばセクハラしてくる峰田に呆れている。ちなみに峰田のほうは正直に投票理由を書いただけでセクハラのつもりはゼロであった。

 

「すみません……一緒に寝たいと投票したのは私です……」

 

 ヤオモモでした。一緒に寝たい雰囲気出してたもんね。

 

「おっ。誰の心が汚れてたかはっきりしたな!」

 

「やらかしたわ~」

 

 瀬呂くん痛恨のミス。鬼の首を取ったかのように勝ち誇る峰田にも全く反論できない。ヤオモモのピュア票を峰田の薄汚い欲望と誤認したことで大ダメージだ。

 

「ちなみに2位は障子の3票! 「一番整頓されていた」「言葉がかっこよかった」と好評です!」

 

「そうなのか? ありがとう」

 

「部屋の評価なのか? それ」

 

「まぁ1位もほぼ部屋主票だしな……」

 

 瀬呂は自分の部屋にそれなりに自信があったらしくちょっとローテンションになっている。上鳴は響香の音楽室に票を入れたのでちゃんと部屋評価である。

 

「こんな些細なランキングでもボクがトップかぁ~! 皆ちょっと不甲斐ないんじゃないの~? 数少ないボクに勝てるチャンスだったのに~♡」

 

 メスガキのちょうはつ! 空気がひりついた! メスガキは出来ることがとにかく多いので何かで勝利するのは非常に困難である。しかしこういったセンスの分野では天才的と言うほどでもないので、勝ち目はある。第一回部屋王決定戦は終わった。だが一部生徒の強い希望により第二回……というより似たような大会が遠からず開催されることは、今はまだ誰も知らなかった。

 




独自設定とか

・エンデおばさん:最終的に謝罪合戦になった。
・叱られたい:もうそんな事してくれる人いないからね……。
・メスガキの目論見:ハハッ!いいんじゃないかな?街も少しは静かになるね!え……『AFO』……?ハハッ……。
・飛び級・卒業:まぁ出来ると思う多分。前例無いだろうけど。
・校長叱らなくていいの:こっちのほうが効くのさ!(腹黒)
・雄英の影響無いの?:雄英入ってないとヴィジランテ(本人の主張)になるよ。
・部屋王:神野の悪夢無いけど寮生活は不安なので原作より軽いノリで開催された。
・見えてるの?:把握してるよ。
・峰田の部屋:実家の部屋はそこまでエロエロじゃないぽいので……謎のヒーローのポスターも貼ってあったし。しばらくしたらかっちゃんが爆破したくなるようなスケベ部屋になる。
・マウントレディのパンチラフィギュア:すまっしゅに出てきたやつ。プレミア付いてるらしい。多分初期に勢いで出したんやろなぁ……。
・ファザコン部屋:もはや誰も驚かないし気にしない。
・驚きのない部屋:しっかりキャラ作りができている証拠。
・アホの上鳴:メスガキと二人きりの荷解きに緊張しすぎて友情スイッチを入れたまま。
・障子くんといっしょ:原作だと親のことどう思ってるか分かんないけどここだとこう思ってます。メスガキの影響ってことで。
・サンドバッグ:トレーニングルームがいっぱいだったら使う機会はある。
・ちょっとした人助け:小説で発目が無くしたものを探してあげてた。
・親父に似てる:何度言われてもショック。
・かっちゃん部屋:枕元に漫画があるくらいしか情報がねえ……。
・一旦解散:轟・爆豪以外全員来た。
・メスガキドラム:ケツドラムは伏線だったんだよ!
・お菓子なメスガキ:ざっくり言うとギモーヴは卵白を使わないマシュマロ。
・弾道が上がった:ボールを打った時の打球の高さに影響するパラメータ。
・アシッド・ハウス:なんかこうクスリキメたみたいな幻想的なサウンドのこと。
・アスイ・ルーム:ファンブックだと部屋そのものがパルダリウムっぽい感じの言い方だったけどフローリングの寮で初日からそれは無理やろと思って。そのうちメスガキがなんとかしてくれると思われる。
・ヤオモモのベッドで半分?:寮自体が1.5倍くらいデカくて部屋も広い。
・同棲とか許されるの?:許さないとどうなると思いますか?あなた。
・砂藤くんのポジション……:それはもうそういうもんだろう!
・瀬呂の部屋:2票獲得して響香ちゃんと同率3位だったり。
・メスガキトップ:誰がどこに投票するかは一応脳内エミュした。お菓子が原作で強かったから……。無くても1位だけどねお茶子ちゃんが天体好きっぽい(部屋に星図ポスターがある)ので4票取れるから。原作が5票で圧倒的と言われてるので3票以下しかいないはず。
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