ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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まだ読んでくれている人本当にありがたい……
いつも励みになっています!


『おとぎ話が教えてくれる真実は、竜が存在することではなく、それを倒せることだ』

「着いたぜ! 国立多古場競技場!!」

 

 夏休み明けの休日。夏休みじゃないんだけどまだ始業式は始まっていないという変な状態のなか、雄英高校1年A組は仮免取得試験の会場である国立多古場競技場に来ていた。

 

「はー、緊張する……」

 

 響香は胸に手を当て落ち着こうとしているが、あまり上手く行っていない。

 

「イベント参加とかでは来たことあるけど、試験で来るなんて思わなかったなぁ」

 

 クソナードも何度か来た場所であるのにキョロキョロと周囲を見渡して落ち着かない様子だ。

 

「オイラ仮免取れっかなぁ……身長制限とかねぇよな……?」

 

「何を馬鹿な事を言っているんだ峰田。そんな非合理的な制限あるはず無いだろう。アトラクションじゃないんだぞ」

 

 なんだか自信なさげなことを言っていたので小言の一つでも言おうと思ったらアホみたいな心配が出てきて呆れる相澤。上鳴のアホは感染するのか? などと真面目に心配している。

 

「よし、緊張しながらでいい、聞け。この試験は非常に重要なものだ。もしこの9月の試験で落ちれば次の試験は来年の6月……分かるな? ここでの出遅れは一生響くぞ。セミプロとして活動する同級生を指をくわえて眺めたくなければ、全力を尽くすことだ」

 

 雰囲気が引き締まった。セミプロとして活動する同級生……『ホーリーナイト』。その優秀さでいち早く大人たちに認められ、仮免取得前から『ホークス』『エンデヴァー』『オールマイト』という前期ビルボードチャートNo1~3の錚々たるメンツとともに実績を上げたトップランナー。戦った相手は『ヒーロー殺し ステイン』『血狂いマスキュラー』『伝説の(ヴィラン) オール・フォー・ワン』……どう考えても学生が関わるべき(ヴィラン)ではない。現在も彼女はこの場にいない。スーツ姿の大人が丁寧な態度でへりくだりながらメスガキを呼び出し、連れて行ってしまった。またしても特別扱いだ。クラスメイト一同、なんとも思わないはずがない。

 

「しゃあっ! やってやろうぜ、みんな! 俺達だっていつまでもあいつの背中を眺めてばっかじゃねえってとこ、見せてやるんだ!」

 

 こういうときにテンションを高めるのは切島だ。飯田や八百万は鼓舞すると言うより整える役割を担うことが多い。メスガキがすぐ暴走するし、かっちゃんはどっか飛んでいこうとするからな……。

 

「円陣組もうぜ! いつものやつやんぞ!」

 

 わちゃわちゃと騒ぐクラスメイトからさり気なく離れる爆豪。短い寮生活で多少軟化したというか、付き合い方がこなれてきたのだ。「俺は参加しねーよ」などとアピールすると逆に強制的に参加させられる。なんかこうそっと離れると「あ、本当に嫌なんだな」と察してほっといてくれる。そう学んだ。切島はそれを寂しそうに見た。それに気づいた爆豪は悪いことなんて一つもしてないはずなのに罪悪感でテンションが下がった。なんとなくだるかったのでやりたくねぇ、くらいの気分でしかなかったのでむしろ参加したほうがマシだったと今更な後悔をしている。

 

「せーのっ!」

 

「「"Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)"!!」」

 

 雄英高校1年A組の円陣とそのそばに立っている知らない青年の声が合わさった。

 

「え!? 誰!?」

 

「なんか知らない人きた!」

 

「こんにちはーっ! いきなりすみません! どうしても俺も"Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)"したくて!」

 

 ものすごい勢いで頭を下げたので風が発生した。もう少しで地面につきそうなくらいに下げられた頭は挨拶と謝罪を同時にしたため2倍下げられているのかもしれない。

 

「そうなのか! 良かったらもう一回やるか? ほら、円陣入れよ!」

 

 切島はなんだかそこに男らしさを感じ好感をもったようで、自分の横に手招きした。

 

「え!? い、いいんですか! 勝手に混ざったことを許してくれるだけでなく、もう一度!? か、感動っス!! よろしくお願いしまァす!!」

 

 言葉通り男はぷるぷると震えて感動しながらいそいそと円陣に加わった。一同もいきなり知らない人が混ざったのに知らないままに歓迎しているようだ。ハイテンションで強引な奴には慣れているからな……。

 

「しゃあっ! いくぜぇ──!! 禁断の“二度打ち”だッ! せーのっ!!」

 

「"Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)"!!」

 

「揃ったな、ヨシ!」

 

 細目を見開いてぽかーんとしていた男が素早く駆け寄ってきて謝罪をした。どうやら謎の青年と同校らしい。

 

「イ、イナサが失礼した、雄英高校の方々。我らが同胞を温かく迎え入れて円陣への参加を許すとは、斯様な寛大さに深甚なる感謝を申し上げる」

 

 すっときれいな姿勢で頭を下げる謎の青年その2。その後にぞろぞろとこれまた同じ高校らしき集団がついてきている。

 

「さす雄~。超ニンデキじゃん、マジ寛容ー」

 

 これどゆこと? さっぱりわからんかった。大騒ぎをしていたので周りの他の受験生たちがざわめき出す。ハイテンションな乱入男の一団はどうやら士傑高校の生徒たちらしい。

 

「イナサ相手にも動じないとはね……一年生なのにすでに肝が座っている」

 

 全身毛むくじゃらの男が感心したような声で言った。体毛というより毛皮っぽい触りたくなる毛艶である。

 

「我々は士傑高校の者だ。規範となるべき雄英高校の生徒たちの情誼(じょうぎ)に厚き歓待、最高峰に相応しき品格であると感銘を受けざるを得ない」

 

「自分雄英高校大好きっス! 今日もっと好きになりました! 競えて光栄の極みっス! よろしくお願いします!!」

 

 細目の男もハイテンションハゲも結局名乗らなかった。まぁこの後ライバルとして競い合うのだからそのときにでも名乗るつもりなのかもしれない。今いちいち全員の自己紹介とかしてたらキリがないからね。

 

「おぉ、西の士傑ってやつか! よろしくなぁ! お互い頑張ろうぜ!」

 

 チラチラ振り返りつつぶんぶんと手を振りながら去っていく無も知らぬ男にほっこりする一同。メスガキの唐突さとハイテンションもたまには役に立つものだ。なんならメスガキが居なくてちょっと寂しいまであったのでむしろ気合とリラックスが丁度いい感じになった。

 

「お前達……気をつけろよ。あいつは夜嵐イナサ。昨年度の雄英の推薦入試でトップの成績を取った男だ。何故か入学は辞退したがな」

 

 未だかつて無い珍事が連続した年だったと相澤は思い返す。推薦入試トップの入学辞退、一般入試の筆記で満点を取られる、実技試験で今後二度とないであろう大記録が樹立されるなど。まぁ毎年似たようなもんだけどね。去年とか1クラス丸ごと除籍とかいう前代未聞の珍事があったので。

 

「へー! それじゃあ士傑高校も1年生から仮免取得してるんですね!」

 

「……いや、どうだろうな。例年はそうじゃなかったはずだが……あいつが特例で来て──」

 

「イレイザーッ! 久しぶりだなっ! 会いたかったぜ!」

 

 相澤に親しげに声をかけてきたのは笑顔が素敵な女性の『Ms.ジョーク』。クソナードは知っているヒーローの登場にテンションを高め、彼女の敵退治がいかに狂気に満ちているかを語りだした。かなりキモかったが彼女は笑って流してくれた。

 

「……ジョークか……」

 

 うんざり、という態度を隠さない相澤。好人物なのだが態度が本当にうざったいので苦手としているのだ。

 

「テレビでは見てたけど直で会うのは久々だな! 結婚しよう!」

 

「すまんが俺は他人の面倒を見るのは生徒たちだけで手一杯だ。ほかを当たってくれ」

 

 きっちりと断りの言葉を入れる。今はこの場にいないが、メスガキの前で曖昧な態度を取ると余計なお世話をしてくることが火を見るより明らかだからだ。この場の生徒たちからの伝聞で動き出しても困るのではっきりと意思表示をしておく。

 

「……そんな事言うなよー! 私は面倒を見なきゃいけないほど子供じゃないぞ! 逆に私が面倒見てやるし、笑顔でいっぱいの家庭にしてみせるからさー!」

 

 ジョークは一瞬だけ寂しそうな顔をしたあと、笑顔に戻って更にグイグイ押してきた。

 

「とっても仲良しなんですね」

 

「そうさ! 私とイレイザーの関係の始まりは私たちがまだ教師になる前に事務所を持っていた頃に遡る! 私がとある敵に追い詰められピンチだった所に」

 

「おい。生徒たちにおかしな情報を吹き込むな。教師として来てるんじゃないのか?」

 

 話が長くなりそうなので中断させた。そもそも彼女が声をかけてきたのはおそらく自分の生徒たちとの面通しのつもりだろうから、さっさと始めたほうが合理的だからだ。

 

「おカタイなー、イレイザーは! もちろんそうだよ! おーい、皆おいでーっ! 雄英高校の生徒たちと交流できるよ!」

 

 少し離れたところでMs.ジョークを見守っていた生徒たちがわらわらと集まってきた。最初からついてきていないのは……まぁ……分かるでしょ? 生徒たちも先生に幸せになってほしいわけですよ。そんな事はおくびにも出さずに近寄ってきた一団の先頭にいた爽やか青年が朗らかに話しかけてきた。

 

「おお! 本当だ! って1年生で仮免か! やっぱ雄英はすごいな!」

 

 今年の体育祭は1年に注目が集まっていたので、周りには大体1年生だとバレている。大抵の高校は仮免取得は2年生の9月からだ。雄英高校ですら今までは2年生の6月だったので、1年生の9月で受けるのは異例の速さだ。一応そういう学校がないではないが、それは雄英高校より厳しいのではなくむしろ逆、そもそも初回から合格できるとは思っていない複数回受験前提の学校である。

 

「わー! TVで見た人がいっぱい! ……あれ? 優勝した娘は?」

 

「色々大変そうだけど頑張ってるよね、君たち。感心するよ」

 

 陽キャっぽい女子生徒と陰キャっぽい男子生徒が思い思いの言葉を喋った。女生徒は『中瓶 畳』、男子生徒は『投擲 射手次郎』というすごい名前である。

 

「傑物学園高校2年2組! 私の受け持ちの生徒たちさ!」

 

「どうもー! 先輩方、よろしくお願いしまーす!」

 

 一同ペコリと頭を下げて挨拶をする。こうした場での振る舞いは先生たちの評判にも関わる。それをI・アイランドで学んだ生徒たちも多かったので、割ときっちりしている。なんとあの爆豪ですら軽く会釈をした。

 

「ああ、よろしくね! 俺は真堂! 今年のはじめの雄英襲撃事件、大変だったろう! それに挫けずヒーローを目指し続ける君たちは立派だ! 尊敬するよ! オールマイトの引退が現実味を帯びてきた今、これからのヒーローが持つべきは不屈の心だからね!」

 

 いろんな生徒たちの手をぎゅっと握りながら声をかける真堂。握手は信頼関係の醸成、リラックス効果、第一印象の良化など様々な効果がある出し得の手札である。特にイケメンや美女がやると効果大だ。

 

「あざっす! 不屈の心!大事ですよね!俺も心がけてますよ!」

 

 切島はあっさり心を許し軽口がでてくるほどにリラックスしてしまった。見事に術中にハマっている。

 

「そうだね、あの圧倒的な彼女を間近に見て折れないのは本当に素晴らしいと思うよ! ……彼女はなぜこの場にいないのかな?」

 

 真堂が一番接触したかったのはメスガキだ。どのような試験内容であっても基本は他者との競い合い。情報はどれだけあっても足りないのだ。生徒たちはメスガキが呼び出されて何処かへ行った事は知っているが何の用事かは知らないので顔を見合わせた。

 

「そういや居ないね。イレイザー、なんかあったの?」

 

「心配するな。公安委員会に呼び出されているだけだ。内容はまぁ、想像がつくだろう?」

 

「あー、そういうやつね! まぁ競わせてもあまり良いことなさそうだもんね、どっちにとっても」

 

 これからのヒーローに必要になるもの。『不屈の心』。露骨な特別扱いを受ける同級生、あるいは下級生を見て、負の感情を抱かずにいられるのか。彼らはもうすでに、試されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー……それでは仮免取得試験を開催します。僕はヒーロー公安委員会の目良です。よろしくお願いします。この中にはもしかしたらヒーロー引退後は公安委員会に入りたい、と思っている方もいらっしゃるかも知れませんがぁ……忙しくてろくに眠れない事は覚えておいてください。それもこれも人手が足りないからです……!」

 

 受験者でぎゅうぎゅう詰めになった試験会場。その壇上に立つのはヒーロー公安委員会のほどほどに偉い人、目良善見だ。眠気も全く隠さず、人員を求めてるんだか求めてないんだか分からないようなことを言っている。その言い方だと志望者がいても辞めちゃうと思いますよ目良さん。

 

「ではご説明を開始させていただきます……試験内容はこの場にいる受験者1540名全員の勝ち抜け演習です。現代はヒーロー飽和社会などと言われております。多くのヒーローが切磋琢磨してきた結果、事件か発生から解決までの時間は今、非常に迅速になっております。この仮免試験で合格した方はその激流の如きスピード感に身を投じなくてはなりません」

 

 ヒーロー飽和社会。一体誰が言い出したのだろう? 余っているのは都市部だけで、少し都会の喧騒から離れたらそこにはまだまだ〝個性〟に振り回される人間でいっぱいだというのに。海外では今もヒーロー不足に喘いでいる。敵犯罪発生率が20%を下回る国など日本以外に存在しない。このように『社会』がどこからどこまでかはそれを口にした人物の都合で決まるものだ。公安としては当然「何寝ぼけたこと言ってんだ?」と思っている。

 

「また、オールマイトの引退表明以降、犯罪件数は増加しつつあり今後のヒーロー活動は危険が増してくることも予想されています」

 

 前会長はヒーローに夢を見すぎていた。とにかく数を増やせばトリクルダウンじみた事が起こると思って増員に勤しんだ結果、大失敗してしまった。人格の査定が疎かになった結果、ヒーローの犯罪が増えたし、都会に一極集中するばかりで地方のヒーロー事務所が増えることは殆ど無かった。ヒーローを増やす。過密化により競争が激化する。それにより品質(モラル)が下がる。それを『どうにかする』ために公安が忙しくなる。この負のサイクルをなんとかしようと頑張ってるのが現会長である。前会長の残した負債を『オールマイトが引退するからなー! かーっ!』という大義名分で改革に踏み切ったのだ。

 

「であるがゆえに、求められるのは強さと速さ! この変化に対応していくため今試験より合格者を例年より絞ることとなりました。まず一次試験ですが……条件達成者先着150名を通過とします」

 

 ざわめく会場。学生の受験、つまり高校のヒーロー科に合格している者を対象とした会場では、最初からそれなりの能力は保証されているため例年は二人に一人が受かる程度の合格率があった。何と言っても仮免は所詮敵対応重視の緊急用資格なので、様々な特権が付与される本免許より圧倒的に取りやすくなっていたのだ。だがこれからはそれすら絞るという。量より質にシフトしたい、という公安の意向の現れだ。戦闘力は当然のこと、人格も重視していこうというのがこれからの方針となる。

 

「いきなりの狭き門となったわけですが、ヒーローとはこのように状況の変化や理不尽さに対応することが求められる職業ですのでご了承ください。では条件を説明いたします」

 

 目良はターゲットとボールを手にして説明を始めた。まぁ後ろの方からは見えないから背面の液晶ディスプレイに全部表示されるので手に持って見せる必要はあまりないんだけど、寝ぼけていたのかもしれない。

 

「このターゲットを3つ、身体の好きな場所に取り付けてください。ただし常時晒されている部分にお願いします。足裏や脇などはNGってことですね。そしてこのボールが当たるとターゲットが発光し、3箇所が発光した時点で脱落となります。二人脱落させたら勝ち抜きで、脱落させたと認定されるのは3つ目のターゲットに命中させた人物のみです。ボールの配布数は6つとなります」

 

 あたかも他人をだしぬけと言わんばかりの内容だ。だからこそ人格が試される。3つ目だけをかすめ取ろうとするような者は『要注意人物』としてしっかりと公安のデータベースに記録される。

 

「それじゃあ展開後ターゲットとボールを配ります。全員に行き渡るまで開始しないので受け取り漏れはないのでご安心を」

 

 その言葉とともに『展開』が始まって壁が開いていく。例年ならこういった試験の場合「各々好きな地形、嫌いな地形があると思うので有利な場所に陣取るといいですよ」といったアドバイスが飛ぶのだが、今回からはなくなっている。これも選別の一つだ。しかしお人好しの目良はつい余計な一言を付け加えてしまった。

 

「それでは『自分を活かして』頑張ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イレイザー。チャック空いてるよ。閉じてあげようか」

 

 会場の観客席でクスクスと笑う妙齢の女性。Ms.ジョークはいつもこういったセクハラじみたジョークをかましてくる。彼女の言う笑顔の絶えない家庭とやらはきっと彼女だけの笑いで満たされるのだろうな、と相澤はイライラしながらその言葉を無視した。

 

「あの、イレイザー。チャック……」

 

「…………」

 

「私が悪かったって。マジで空いてるから! これ以上無視するなら本当に私が閉じちゃうぞ」

 

 相澤はそこまで言うなら、と自身の股間を見つめた。チャックは空いていた。立っているときは目立たなかったのだが、座ったことでぱかっと空いてしまっている。生徒たちの一大イベントに相澤も冷静さを維持できていないのだ。

 

「本当に空いてるじゃないか。……こうなるから普段から嘘をついてはいけないんだ。分かるか? ジョーク」

 

 ジーッとジッパーをあげてギロリとMs.ジョークを睨みつける相澤。その表情に恥ずかしさや気まずさはない。本当にただオオカミ少年みたいになってるぞと注意をしているだけだ。自分は合理的虚偽とか言ってるのにね。相澤は身だしなみなんて相手に失礼じゃなければどうでもいいだろくらいしか考えてない。まぁチャックが空いていたこと自体は気の緩みだし相手に失礼な事だと思って反省しているが。

 

「えっごめん。……すっかり先生が板についたなぁ、イレイザー。それに今年は一人も除籍してないんだね。お気に入りなんだ?」

 

 会うたびにしょうもないからかいで構ってもらおうとしまくってることは事実なので非常に分が悪い『福門(ふくかど) (えみ)』(まだまだ女盛りの28歳)は素早く話をそらした。なんなら久々の先輩後輩っぽいやり取りにドキドキしている。

 

「機会がないだけだ。それに除籍するかどうかは俺の気分ではなくヒーローとしてやっていけるかどうかで決めている」

 

「ほうほう。例のあの娘はちゃんとやっていけそうな感じなの? 体育祭、私はちょっと怖かったけど」

 

 ジョークは会場でメスガキが戦うところも、優勝後の宣言も見ていた。爆豪を蹴り飛ばした時などは背筋が凍りすらしたし、決勝戦のド派手なバトルはプロとして自信をなくしそうになったほどだった。対戦相手の轟も戦闘能力で言えばすでにプロを超えていたし、火力はまるでエンデヴァーのようだったのに、それを文字通りあっさりと一蹴したのだ。

 

「……俺達はあいつを導いて見せる。あいつが目指す世界最高のヒーローにな」

 

「え!? そういうの目指してる感じなんだ。やっぱ実際に接してる人に聞かないと分かんないもんだなぁ。もっとこう、世界征服してやるぜ! みたいな性格かと思ってた」

 

 恐怖もあったが、ジョークの心の大半を占めていたのは心配だった。あの娘は上手くやって行けているのだろうか、友人たちと笑い合っていられているだろうか、と。

 

「誤解されやすい性質(たち)でな。本人はそうならないように頑張ってるつもりらしいが……」

 

「まぁ……周りの扱いってやつは如何ともし難いところがあるよね。今も特別扱いされてるんでしょ? 始まる前から別室で免許授与、ってとこかな」

 

「そうだな。仮発行されてた仮免を正式な仮免に……はぁ、不合理だ」

 

「そうカリカリすんなって、HAHAHA!」

 

 くっそくだらない寒いギャグ。相澤のテンションは更にガタ落ちだ。滑ったことを察したジョークは真面目な話にシフトした。

 

「オールマイトの引退後、あの娘……『ホーリーナイト』だっけ。彼女に期待する人々も多いみたいだね。新たな平和の象徴だー、ってさ」

 

 オールマイトちゃん。ネットの悪ノリでしか無かったはずのそれは、拡散するにつれて次代の平和の象徴の証のような扱いとなってきている。

 

「ホーリーナイトにそのつもりはない。あいつが目指しているのはもっと夢みたいなものだ」

 

 叶えばいいな、と相澤は思っている。あの少女以外の誰が言っても「現実を見ろ」と説教しただろうそれ。だがあのヒーローの卵はもしかしたらと思わせてくれる何かを持っている。

 

「夢みたい? 平和の象徴を上回るようなものがあるの?」

 

 相澤は言うかどうか少し迷ったが、期待に満ちたジョークの視線に負けて渋々口にした。

 

「……おとぎ話のような、めでたし、めでたしさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〝雄英潰し〟。全国放送の体育祭で〝個性〟が公開されていることで対策や弱点が判明してしまうため、仮免試験の会場で毎回行われるものだ。とはいえ結果も毎回大して変わらない。〝個性〟が分かっているというアドバンテージがあったところで、やっぱり雄英生は強いので殆どが返り討ちにあう。ただ、それを押してでも毎年行われる理由がある。大抵の雄英生はチームワークが弱い。強力な〝個性〟の持ち主にありがちだが、協調性に難があることが多いし、そういった人物が集団から外れ単独行動しだすこともまたよくある。なので集団戦になるととたんに綻びだすのだ。全員が落ちる、といったことはまず無いが、全員が通ることもほぼ無い。

 

「それじゃあ皆、ひとかたまりになって動くぞ! いつも通り出席番号奇数は俺、偶数は八百万くんの方へ並んでくれ! 2列で駆け足ッ!」

 

「まずは私たちの中の一番の汎用火力、轟さんと爆豪さんが自由に〝個性〟を活かせる山岳ゾーンの麓に向かいましょう!」

 

 そう、今年はカッチリした男とキッチリした女がビシッと締めていた。爆豪は別行動しようかほんの一瞬迷ったが、周りが自分を活かそうと動くのならばひとまず同行してもいいか、と思い大人しく並んだ。

 

「1分でどこまで行けるかが勝負だ! カウントがあるなんて親切だな!」

 

「あの山を背面にできればひとまずの地の利を取れますわ。とはいえピクシーボブやセメントスのようにあのゾーンを〝個性〟で操れる方がいらっしゃるかもしれませんから近づきすぎず、警戒は怠らないようにしましょう!」

 

 駆け足しながらも注意事項などを話していく委員長コンビ。特に飯田は将来的には多数を引き連れて活動することになるので普段から気合が違う。それに引っ張られてクラスメイトたちも集団行動に慣れ親しんできているのだ。

 

「轟くんの〝個性〟で冷やすか熱するかすれば操作系の能力者を牽制できるかも! 大規模な操作をするには〝触れる〟必要があることが多いからね!」

 

「凍らせる一択だろそんなもん! 余計なこと言うなやクソナード!」

 

 この二人は相変わらずだ。一緒に行動させるととにかく爆豪が怒鳴りまくる。とはいえ緑谷も他の生徒もすでに慣れっこなので嗜めるものはいない。

 

「……え!? なんで? どっちでもいいんじゃねえのか? つーか熱するなら爆豪も出来るから展開早くなって有利じゃ?」

 

 上鳴は集団行動中はこのようにちゃんと考えることも出来る。電撃に指向性を与えることが出来るようになって以降、メスガキのアドバイスで一人で自主練はしないようにしていた。必ず誰かと一緒に訓練しろと、制御を失敗すれば仲間を巻き込むのだと常に考えるようにと言われ実践し、なんとか仮免試験前に実用レベルにまでコントロールを高めることができた。彼にとって仲間といることは何よりも重要なことで、今も思考が回せているのはそのおかげだ。

 

「表面も覆えるし逆に利用された場合かっちゃんでも熱して常温に戻せるから! ……だよね!?」

 

「ちっ!」

 

 間違ってたら怒鳴りつけてやろうと思ってたので空振って不機嫌になる爆豪。とはいえ間違ったらさらに不機嫌になったので対応に失敗したわけではない。成功したら微減、失敗したら激減のクソ択を押し付けてくるクソ男……。

 

「ていうかこの試験早いもの勝ちなんだよな? なんで纏まって行動するんだ?」

 

 瀬呂は大人しくついてきてはいるが疑問に思っているようだ。いや、何故纏まるかを分かっている生徒のほうが少ない。何も考えていないと言うより、取りあえず動く事にしたという方が近いが。

 

「ヒーロー活動の縮図だろ。仕事の奪い合いってのはプロじゃ常時発生してるが、だからといって同じ高校の奴とすら協力できねぇようなやつが『ヒーロー』として認められると思うか?」

 

 協調性のなさで言うと轟も相当だ。というか本人は合わせる気があるのだが、対人経験の低さによりいつどう合わせるかの判断がしょぼすぎてよくハブられている。本人もまずいと思っているので今回は意識して周りに合わせている。轟は入試に『レスキューポイント』なるものがあったと聞いているし、体育祭のレースで『隠し条件』にボコボコにされたので、公安の試験にもそういった隠し条件があるかもしれないと警戒しているようだった。

 

「そうだね! それにこの試験が見たいのは的あての巧さじゃないと思うんだ。ヒーローとしてやるべきことは(ヴィラン)の無力化、捕縛でしょ? つまり動きを止めてからターゲットにボールをくっつける、っていうのが正攻法だと思う。説明の仕方でわざと対抗心を煽って連携を阻害してるんじゃないかな」

 

「……なるほど! あ、それが分かったから爆豪も一緒に来てるのか! さすが!」

 

 勝ちにこだわる男だから試験の性質を見切って同行してるんだな、と解釈し上鳴は感心した。

 

「アァ? いいか、てめェらが足を引っ張らねぇと思ってるから俺ぁここに来てやってんだ! 無様なマネしやがったら承知しねぇからな!」

 

 いつも通りの態度とはちょっと違う、ツンデレっぽい言葉にほっこりする面々。そうこうしている内に試験が開始されわらわらと他校の生徒たちが寄ってきたが、今回で落ちればあとがない3年生は整然と移動する雄英生を見て今年は違うなと即座に見切りをつけたので殆どいなかった。あと今年6月の試験で雄英の二年生にボコボコにされて落ちた奴らも来てない。

 

「うーん、綻ばなさそうだな。向かう先も俺の〝個性〟じゃ危険すぎるか……」

 

 走り去った雄英生達を見て追跡を断念する真堂。うだうだとそこら辺で立ち往生してくれたら仕掛ける気にもなったのだが。

 

「ヨーくんが調子に乗って平地が得意っぽいこというからじゃないのお? 避けてくれたんだよ多分」

 

 開始前に先生に勧められて普通に〝個性〟の概要を話したのも良くなかったのだろう。中瓶の言う通り、雄英生たちはそれを信頼の証と受け取り真堂たちを敵と認識せずに争いを避けようと別のフィールドに向かったところもある。

 

「真堂を軸に足場を崩して攻める、ってのはまァあの山の側じゃ危なすぎて無理だな。どうするんだ?」

 

 そう言ったのは『硬質化』の〝個性〟を持つ『真壁 漆喰』だ。投擲射手次郎の『ブーメラン』とのコンボにより地面で軌道を隠す戦法は地盤が硬すぎる場所だと使いにくいため、出来れば硬さが分かっているコンクリートのフィールドが有利なのもある。岩場の地面が自身の『硬質化』より硬いと困るのだ。

 

「……挑んでみたかったが……仕方がないか! 切り替えていこうぜ、皆!」

 

 ばちこーん! とウインクしながら宣言する真堂。爽やかイケメンな雰囲気をこれでもかと放出している。

 

「僕は別に最初から誰が相手でも良かったけどね。敵を選ぶなんてヒーローらしくないし」

 

 投擲射手次郎は苦言なのかフォローなのか分からない言葉を口にした。

 

「いや、確かに苦手な相手と戦わなければならない時もあるだろうけど、それは状況を分析し適切な行動を選んだ結果であるべきさ!」

 

「そもそも〝個性〟も分かってて一年生(としした)だから有利って思ってた目論見が外れたからでしょ? こすいんだあ」

 

 中瓶は真堂と付き合っているのでその言葉にも遠慮がない。お互いを信頼しているからこそ率直な事も言えるのだ。

 

「さあ行くぞー! 傑物ーファイッ!」

 

「初めて聞くやつをさも前からやってたみたいな態度でやるのやめなよ」

 

 初見の人間ならこの爽やかムーブで大体押し切れるのだが、すでに1年以上付き合いのあるクラスメイトには当然通用しなかった。真堂たち傑物高校の面々はこの状況で雄英潰しに向かうような者たちは大した奴じゃないだろうとあたりをつけ、逆にそいつらを狙うことであっさりと一次試験を通過した。遠くでは雄英高校の生徒たちが雄英潰しを返り討ちにしているのが見える。二次試験がどうなるか分からないが、一緒に競い合えるといいな、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、うちのコたちはそっちの生徒たちとの対決は避けるみたいだな。私のせいで対抗心バリバリだったんだけど」

 

 私の婚約者にイレイザーってやつがいてさぁ~。そいつがいっつもつれない態度で……オヨヨ~……等と虚偽だらけのヘイトスピーチにより傑物学園高校の生徒たちは雄英高校に対抗心を抱いていた。まぁ実物を見たら「はぁ~いつものジョークか」と呆れ返ってだいぶ萎えていたが。そもそもそこまで信じてなかったので「バリバリ」というのも虚偽。とはいえよく恩師の話題に出るのは確かだったので対抗心自体はガチだったが。

 

「……おまえな……まぁ、俺も少し驚いたな。整列して移動するとは」

 

「ブハッ! 思い切りよすぎだろ! 整列て! そりゃボール配り終わるまでじっとしてろとは言われてないけどさ! 周りの子達引いちゃってた!」

 

 下級生によく通る声で「失礼する!」「通してくださいまし!」と言われてオロオロと道を譲る上級生たちはジョークにとっては面白い見世物だったようだ。

 

「委員長の杓子定規さと柔軟さの両方が発揮されたな……」

 

「さっと従うのもすごいね。雄英の子ってやんちゃというか、自信家が多いじゃん? 国内通り越して世界最高峰のヒーロー学校に受かっているんだから自負って言ったほうがいいか?」

 

「例年……二年生になるころにはだいぶ丸まっているんだがそれでも外から見たらそうだろうな。だが今年は自惚れるにはちょっと環境がな」

 

「それでいて自信喪失しているわけでもないね! 迷いのない足取りだ。お、始まったね」

 

 メスガキと数ヶ月過ごしてまだ自分がすでに何者かになれているなどと思うものはいない。あの爆豪ですらそうだ。それがやる気の喪失に繋がっていないのは本人たちの資質だけでなく、雄英高校の見えない尽力あってのものだ。二人が話している間に試験の開始時刻となり、状況が始まった。

 

「……切島と緑谷を前衛に峰田と瀬呂で拘束か。爆豪は……好き勝手動いているのを利用して連携に仕立て上げているようだな」

 

 雄英の生徒たちは移動でクッソ目立ったので位置が割れていたため、それなりの人数が襲いかかって来ていた。警戒されて減った分と、目立ったことで増えた分あわせて例年と変わらない数、といったところだろうか。そんな大量に来た未知の〝個性〟の持ち主たちをオールラウンダーな2名が足止めしつつ掻き乱し、その隙をついて拘束系の〝個性〟の持ち主たちが捕獲していく。次々と捕まっていく姿に怖気づいた受験生も出てきだしたようだ。

 

「お? あの子の個性『酸』じゃなかった? 粘着も出来るんだ! 器用だね」

 

 ジョークは芦戸がベタつく酸でトラップを作ったことに感心しているようだ。完全に接着できるほどではないようだが、転倒したり動きが鈍ったり散々である。液体なので『テープ』や『もぎもぎ』と違って剥がすという手段が使えないのも強力だ。

 

「……纏まってたら年上だらけでも敵なしか……優秀だから褒めてやるべきなんだろうが……」

 

「ん? 褒めてあげていいんじゃないの? 実際すごいよ、うちの子たちが最初から避けるって判断は正解だったね。簡単に負けるとは思わないけど、乱戦になったら……あはははは! お前らがやるんかい!」

 

 真堂たちがうろたえている雄英潰しの面々を次々と撃破していくのを見てジョークは大爆笑している。単に面白かっただけではなく、成長を確認できて嬉しかったのだ。

 

「……雄英潰しの利用か……クレバーだな。多勢の利を活かすことに失敗して浮き足立つ奴らを的確に捕らえている」

 

「真堂以外は語弊を恐れずに言えば地味な〝個性〟だからね。でもだからこそよく考えないといけないんだよな。自分の〝個性〟をどう使って目的を達成するかを。……私はいっぱい褒めてあげるつもりだけど、イレイザーはなんで褒めないの?」

 

「今年の奴らは特に優秀だから褒めてやりたいことが多いんだが……同じクラスにもっとすごいやつが居ると、お世辞みたいに聞こえるだろう? タイミングがなかなか難しいんだ。今回は特にあいつが居ない状況だから、褒めるのがいいのかそうじゃないのか分からん……」

 

 イレイザーヘッドの教師生活はそれなりに長いが、大ベテランと言うほどでもない。まだまだ教師として、大人として成長途中と言える。かわいい生徒たちの将来にとってどのようにしてやるのが一番いいのか、悩みは尽きない。こういったことを相談できる教師は雄英だと根津校長くらいしか居ないのだが、校長は忙しいのでなかなかそうした相談をする時間も取れないのだ。

 

「ああ~。分かるな~。私も迷うことばっかりだよ。でも生徒たちの前じゃあ「これが正解だ!」って自信たっぷりにしてないといけないしな……」

 

「そうだな。おどおどとして指導するなどあってはならない。迷いを増やすだけだ……無事切り抜けたか」

 

 各地でまだ乱戦は続いているが、〝雄英潰し〟に来た受験生たちは散々な状態だ。テープで拘束されているもの。ふわふわと浮かばされているもの。電撃でしびれているもの。氷漬けになっているもの。その他様々な〝個性〟の影響で行動を停止させられている。

 

「うちの子達はちょっと前にちょうど8人分通過報告があったからそれかな。あ、ホラ! 控室に向かってるよ! やったあ! ふふん、うちが先だったね、イレイザー!」

 

 それから少し遅れて、辺りを警戒しつつぽちぽちとボールをターゲットに接触させたあと控室へ向かう教え子たちを見て相澤はようやく一息ついた。

 

「……そっちは8人、こっちは19人。倍以上の人数で大して時間差は無いんだから、うちのほうが優秀だろう」

 

「ブフゥー! なんだ、ベタ惚れじゃんかイレイザー! 私にも惚れろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー! なんとかなったな!」

 

 合格者のみが入室を許される空間で、ターゲットを外し切島は一息ついた。他のクラスメイトも軽く反省会をしつつ明るい雰囲気だ。全員揃って突破できたことを口々に喜び合っている。

 

「気ィ抜くんじゃねえ! まだ一次試験が終わっただけだろーが!」

 

「わ、わりぃ……そうだな、まだ受かったわけじゃねえ……いや! 仮免自体が通過点でしかねぇ! そうだよな、爆豪!」

 

 口は悪いが思いやりを感じる言葉。こうした忠告は爆豪のストイックさの表れでもあるので、切島はいつも通り素直に受け取った。

 

「爆豪。御校の品位を貶めるような粗野な態度は慎むべきだ。帰属する場に相応しき挙止というものがある」

 

 それに口を挟んできたのは試験前にも絡んできた謎の男だ。雄英高校そのものの印象が良かっただけに、落差で余計ひどく見えているようだった。

 

「アァ!? いきなり話しかけてきて何だテメェは! 名乗りもせずに会話にくちばし挟むのが礼儀正しいってのか!?」

 

 正論……圧倒的正論……! 言い方は糞だがまず自己紹介しろよというのは最もな言葉だ。

 

「……士傑高校2年生、『肉倉(ししくら) 精児(せいじ)』である。さぁ、私は改めたぞ。貴様も改めるがいい」

 

 細目先輩も反論のしようがなかったので素直に従った。「お前には言われたくない」とか言ったらブーメランになっちゃうからな……。まぁ別に悪気があるわけではないので普通に反省して改めたんだけど。

 

「あの! 先輩、すみません! こいつ本当にいつも態度が悪くて! でもこんなんでも段々マシになってきているんです!」

 

「爆豪はこう見えて本当にダメなことは(緑谷以外には)しません! どうか長い目で見てもらえませんか!」

 

 上鳴と切島が慌ててとりなそうと二人の間に入ってきた。なんとなく体育会系っぽい態度の後輩二人に肉倉の態度も少し柔らかくなったが、主張自体は曲がらなかった。

 

「む……だが先日オールマイトの活動縮小が発表され、そして今試験は異例の少数採用。すなわちヒーローというものをより高次の存在とするべく選別が強まったと推察できる。そんな中他者に不安を与えるような言動を繰り返す事はヒーローの資質の有無すら問われると思うが?」

 

 爆豪への言葉は非難に近い口調だったが、今回は諭す雰囲気だ。冷静な議論の空気となったことで八百万が口を挟んできた。

 

「はじめまして、肉倉先輩。雄英高校ヒーロー科1年A組、八百万と申します。先輩の言うことも分かりますわ。ですが勇気を与える行動とは誠実さや丁寧さのみではないと思います。爆豪さんの言動は私たちクラスメイトにとっては問題だと思うと同時に、頼もしくも感じるものですわ」

 

「ふむ……」

 

 まさに肉倉の思う『クソ雄英っぽいやつ来たー!!』って感じの八百万の言葉はだいぶ響いたようで、顎に手を当てて考え込み始めた。すぐ影響受けるなこいつ。

 

「お話中に失礼します! 雄英高校ヒーロー科1年A組、飯田天哉と申します! 爆豪くんの粗暴さが他者に不快感を与えるものである、という肉倉先輩のご意見はその通りかと思います! ただ『規律』を重視する士傑高校とは違い、雄英高校は『自由』を重視しております! 多様な形の『ヒーロー』を排出する事こそ雄英高校の校風であるとご理解いただきたく!」

 

 今度は『クソ士傑っぽいやつ来たー!』と肉倉は思った。そしてその言葉が確かな説得力のあるものだったこともあり、肉倉は深々と頷くと爆豪含む雄英の生徒たちにペコリと頭を下げた。

 

「……私の狭窄と浅識を認めざるを得まい。士傑の規律には沿わずとも、雄英の不羈(ふき)なる校風に於いては粗野ではなく勇猛の証左ともなりえると蒙を啓かれた心地である」

 

 分かってくれたか! 良い細目だ! 校風の違いならしょうがないな……と納得してくれたようだ。めっちゃ士傑っぽい飯田の言葉が決め手になったらしい。まぁ実際士傑のやり方を雄英で再現する意味ないしな。じゃあ士傑に入学すれば良かったじゃんって話になるし。

 

「肉倉がすまなかった、雄英の皆さん。御校のことを尊敬しているからこその口煩さなのだが、気を悪くしただろう。ただ、我々士傑高校は雄英高校と良い関係を築き上げていきたいと思っていることをどうか知ってほしい。良ければ我々も少し話をさせていただけないだろうか? お互いの授業の内容の共有など、きっと糧になるのではないかと思うが」

 

 のそのそとやってきた士傑高校の委員長である『毛原(もうら) 長昌(ながまさ)』は肉倉よりも深々と頭を下げて謝罪した。止めるのが遅くなったことを恥じているのだ。とはいえいつまでも頭を下げていても何も良いことはないので、雰囲気を切り替えるためにも建設的な提案をした。曲者だらけの士傑を纏めるに足るリーダーシップだ。上級生からの丁寧なお誘いに雄英生たちは喜び、いたるところで話に花が咲き始めた。

 

「く、クソが……」

 

 話したそうな雰囲気でじっと見つめてくる肉倉先輩から目をそらす爆豪。いや、直視できないのは先輩だけではない。クラスメイトの方を見ることが出来ない。まさかこんなふうに思われているとは考えたことすら無かった。耳まで真っ赤になり悪態も覚束ない。爆豪は自分がクラスメイトに嫌われていると思っていた。だからこうまで庇われるとは思っておらず、反論のタイミングを逃してしまい、最終的に細目の先輩は自分が何をするでもなく納得してしまった。庇われた屈辱を感じてもおかしくないはずの状況なのに、かっちゃんの胸にあるのはクラスメイトたちに認められているという温かな喜びであった。

 

 

 

 

 

 

 一方、別室ではメスガキとおばさんが何やら悪巧みをしていた。はい、これ正式な仮免ね。今まで持ってた仮の仮免は返してちょうだい。そんなあっさりとしたやり取りが終わったあとも話は続いていた。

 

「それじゃあお願いするわね、ホーリーナイト。貴方ならきっと上手くやれるわ」

 

 話が一段落し、最後の打ち合わせも無事終わった。おばさんのお仕事は無事終了である。

 

「はーい! 会長はこの部屋で吉報をお待ちくださいっ!」

 

「あら、観客席から見学させて貰うわよ。もう座り心地の悪い椅子を温めるのは懲り懲りだもの」

 

 仮免の2次試験ごときにわざわざ会長が出張ってくるのは異例だった。まあ、メスガキに試験無しで仮免を渡すのはこれまた半端な役職のものには任せられない異例のことなので仕方がないのだが。

 

「そうですかぁ。じゃあ目良さんが睡眠時間を削ってまで頑張ってくれた成果が崩れ落ちる様をしっかり見ていってくださいねっ!」

 

 メスガキは睡眠時間を削って働くことをめちゃくちゃ問題視しているのでチクチク言葉を投げかけつつ会長を半眼でじとーっと見つめた。

 

「も、もちろん。目良には特別手当がしっかりと出るはずよ」

 

 会長はメスガキのこの眼で見られるのがとても苦手で、とても好きだ。心の奥にある後悔や罪悪感が否応なく刺激される。麻痺させたはずの心が、また動いてしまう。

 

「必要なのはお手当じゃなくて改革でしょ~? まぁ急にできないのは分かりますけど、少しずつでもちゃんと手掛けてくださいねっ! あと色々押し付けてるんだからちゃんと言葉でお礼を言うこと! 分かってますかぁ?」

 

「そうね……後で声をかけておくわ。ありがとうホーリーナイト」

 

 本当は。『レディ・ナガン』にそうしてあげないといけなかった。一体誰があの娘に寄り添っただろう? それができた人物は誰? あの娘のキラキラ輝く瞳が濁っていき、心が擦り切れてぼろぼろになるまでの、一部始終を見ていたのは誰だったか。過去はやり直せない。だから、未来に繋げなくては。

 

「気をつけてね……なんて、貴方には必要ない言葉だったかしら? でも言わせてちょうだい」

 

 駄弁ってねえで仕事しろオバハン。推し活してる暇あんのかババア。目良がこの光景を見たら心の中でそう罵っただろう。でも口には出さない。大人だからね! 大人ってたいへ~ん! メスガキはこの先一体どうなっちゃうの~!? メスガキ伝説の幕開けだぁ!




独自設定とか

・一緒にやろうぜ!:メスガキがいろんなグループの話に唐突に混ざってくるので慣れてる。
・さす雄~:さすが雄英高校。とても人間が出来ている。本当に寛大。
・珍事:問題児はメスガキだけじゃねえんだ。
・ジョーク:28歳でこの冗談はまぁその気がないと言わないと思う。
・mela:今でしょ!
・ヒーロー飽和社会:言い出したの絶対AFOだゾ。
・敵犯罪率:高いところは80%とかあるかもしれない。最低ラインが20%。
・前会長:ただのカスが殺されました、じゃあヒロアカっぽくないかなって思って。
・150名:ちょっと増えた。公安は質を上げたいが、警察は数を増やしたがっている。
・説明不足:原作より公安が精鋭思考になってるので。
・チャック:口を閉じろみたいなツッコミ待ちだった。え?口で閉じろって?(セクハラ)
・先輩後輩:ヒーローとしての関係のこと。
・雄英全員通れない:目良さんが「今回はまだ脱落してないな、珍しい」みたいなこと言ってるので。
・説明の穴をつく:よう実じゃないんだから……。
・雄英潰し潰し:多分あるだろうなって。
・相澤自信なし:最長でも教師生活6年とかだったと思う。
・肉倉先輩:会場をウロウロして独断で選別してた。ステインの影響は原作より少ない。
・納得先輩:笑止!ってならなかったのは円陣に迎え入れた印象がとっても良かったから。
・いい関係:原作だと登場時はライバル視してるぽい雰囲気出してたけど別にそんな事なかったから……。
・悪巧み:これがメスガキの力ァ!
・レディ・ナガン:原作でもスカウトのとき若かりしおばさん会長が同席してた。
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