ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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こういうのってどの程度わかりやすくするのが良いのか全然分かんねえ


『本当に危険なのは、何もしないことだ』

「なぁ……俺なんかしたか?」

 

「……別に、何も。俺他に話したい人いるんで! それじゃ!」

 

 思いがけず始まった士傑と雄英の交流会っぽい会話はそれなりに盛り上がった。肉倉の無礼のお詫び的な意味合いもあったので、先輩として色々と教えてくれるという交流が殆どだったが、一部は気まずい会話もあった。他の生徒にはニコニコと本当に嬉しそうにしていた夜嵐が、轟にだけは何故か塩対応で、なんなら睨まれすらしていたのだ。

 

(……なんだ……? なんかあったとすりゃ推薦入試の時か……?)

 

 轟はうんうんと唸って考えてみたが心当たりがなかった。競争では夜嵐にぎりぎりで負けたことを思い出したが、勝ったならともかく負けたのに恨まれる理由もないだろう。全くピンとこない。

 

「どうかしたか轟。懊悩があるなら私に開陳してみるが良い」

 

 微妙に浮いてる肉倉先輩が話しかけてきた。一度も会話したことがないのに名前が把握されている。体育祭を見ていたのだろう。

 

「肉倉先輩。あのイナサ……ってやつに俺は嫌われてるみたいなんですが、心当たりがないので悩んでいました」

 

「……ふむ。イナサの嫌悪が向きしは……いや、他者の抱く葛藤を第三者が安易に明かすは道義に(もと)る。我が口から語る道理なし! 答えは自分で見つけよ!」

 

「……やっぱり俺になにか原因があるんですね」

 

 憂鬱そうな顔になった轟を見て士傑高校のえっちな感じのヒーロースーツのお姉さんがツッテケテーと駆け寄ってきた。『幻惑』の〝個性〟を持つ『現見(うつしみ) ケミィ』だ。

 

「テンアゲてこ。イナサはエンチだからマナムスにもコミイっててきゃぱいっていうかー。ヤツアタでヤバ」

 

「????」

 

 悲報。現見ケミィが何を言っているか全く分からない。知らないカードゲームの用語みたい。肉倉は夜嵐が轟を嫌っている理由を知ってるので推測できるが轟にはちんぷんかんぷんだっただろう。肉倉はケミィに説教すべきか迷ったが答えを出す前にモニターが点灯し目良の声が室内に響き渡った。

 

「えー、通過者の150名のみなさん。モニターをご覧ください。……あー! 壊れちゃう!」

 

 目良は発狂してしまった。一時的狂気というやつだ。その声とともに画面内では先程まで演習で使っていたフィールドがボッコボコに爆破された。

 

「それでは次の試験でラストになります。皆さんはこれからこの被災現場に『ヒーロー』として赴くことになります。『プロの方々』がフィールドでスタンバイしておりますので、みなさんは『適切な対処』をお願いします」

 

 一瞬だけ発狂してその後すぐ何事もなかったかのように話しだしたのでむしろ怖かった。これを見てまだヒーロー公安委員会に入りたいなぁなんて思う間抜けは一人もいなかった。皆はちゃんと寝ようね! 

 

「あらゆる行動は採点の対象です。終了時にポイントが基準値を超えていれば合格となります。開始はこの放送終了から10分後です。それでは頑張ってください」

 

 説明が終わると控室はざわつき出した。

 

「説明不親切すぎだろ! 何すりゃあいいんだこれ!?」

 

「おそらく救助演習じゃないかな? プロの方々……おそらく最近訓練で引っ張りだこだっていう『HELP US COMPANY』……略して『HUC(フック)』が来てるんだと思う」

 

 レスキューについて調べていくと頻繁に名前が出てくる企業だ。僕が〝無個性〟のままだったらこういう仕事についてたりしたのかな……なんて考えたことをぼんやり思い出す。

 

「それだけなはずねェだろ。『HUC(フック)が来てます』って言やぁ良いだけのことを濁したのは意図があるに決まってる。どっかでスタンバってるんだろ、『プロヒーロー(ヴィラン)』がな」

 

「あ! たしかにそうだね、すごいやかっちゃん! なるほど、些細な言葉からも情報を引き出せればこの10分を有効活用できるってことか!」

 

「救助はまだ実技回数少ねえからオイラ自信ねぇよぉ……」

 

「大丈夫だよ、峰田くん! たしかに僕たちは未熟だけど、放送を聞く限り二次試験は全受験者が一丸となって協力する必要があるはず! できない事は無理せず出来る人に任せるのも救助では大事なんだ! 迷いなく行動している人をよく見て、その人の手伝いをするのも立派な救助活動だよ!」

 

「なるほど。適切な行動が出来ない、って判断もまた適切な判断ってことか」

 

「うん。救助においての絶対条件は『自分が安全であること』……つまり『二次被害を防ぐ』のが最も重視される要素なんだ。半端な知識で被害を拡げるのは多分すごく減点されると思う。まずは自他ともに安全の確保が最優先。試験であることを考えるとおそらくどこかに救護所にするために破壊が小規模な場所があるはずだから、最初はそこを探そう!」

 

「私は救助も当然得手としている。自信がなければ私に付き従い補助をするがいい」

 

「おお! 肉先輩! 助かります!」

 

 細目先輩の〝個性〟の『精肉』はけが人の出血を強制的に止め、パニックを強制的に止め、行動を強制的に止められるというけが人のレスキューにめちゃくちゃ適正のあるチート〝個性〟だ。サイズも小さくなり重量も軽くなるので本当に救助向けである。原作だと一次試験で落ちたとかマジ? 

 

「肉先輩ではない。肉倉である! あるいはヒーロー名である『シシクロス』と呼べ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリリリ!! 

 

 けたたましく鳴り響く警報に受験生たちが驚く。

 

(ヴィラン)による大規模破壊が発生! 規模は〇〇市全域! 建物の倒壊により死傷者多数! 交通網が寸断され先着救急隊の到着時刻は未定! 救助活動は現着したヒーローたちが指揮し、一人でも多くの生命を救い出すこと!』

 

 控室の壁がまた展開された。開始の合図は特にない。状況はすでに始まっているのだ。150名の一次試験通過者はいずれも精鋭と言えた。大した戸惑いもなく素早く飛び出していく。

 

「誰か! こっちに来てください! 夫が瓦礫の下に!」

 

「いだいぃいぃいいい!!!」

 

「ひっ! ひっ! あああああんたすげでぇえええ!! ひっ! ひっ!」

 

「おいヒーロー! 救けてくれぇ! 俺が最初だ! 早くしろォ!」

 

「おかあさあああああん!」

 

「腕がぁああああ!」

 

 無数の叫ぶ人々。到底演技には見えない。それだけではない。人、人、人。倒れている人が大量にいる。……いや、人形だ。体の一部がなかったり、関節が明らかにおかしな方向にひしゃげている、人形。一目でそれが何を表すか分かった。死体だ。

 

「大丈夫! すぐに助けま……」

 

 瓦礫の撤去なら得意分野だ、と麗日お茶子は張り切って向かった。

 

「早く! お願いしますぅ! 夫がぁ! 返事が無くなってもう10分も経つんです!」

 

 それは人形だ。一目でわかる。だって、下半身がない。瓦礫の下になど埋まっていない。ただそこにあるだけだ。

 

「早くたすけてぇええええええ!!!」

 

 呆然と立ち尽くす。ただの演技のはずの被災者の絶叫が、思考を真っ白に染めた。

 

「麗日さん! 落ち着いて! その『人』は黒だ!」

 

 とても親切な試験だ。人形はトリアージ黒。わかりやすすぎて涙が出てくる。緑谷出久は泣いていた。ただの人形を見て、涙をポロポロとこぼしていた。これは演習で、被災者の慟哭は演技だ。だが、現実にある出来事なのだ。ヒーローになったらこのような光景を、何度も見ることになるのだ。

 

「奥さん! 歩けますね! あちらに救護所があります! ここは危険ですから、すぐに向かってください!」

 

 どこかが避難所に設定されているという想定は甘かった。先程まで居た控室の跡地を利用するしかない。同じ判断をしたものが多数いたらしく、展開された壁の利用や誰かの〝個性〟が合わさって急ピッチで救護所が形作られているのが遠目に見える。叫んでいる女性は薄汚れてはいるが外傷は見当たらず、意識もはっきりしている。トリアージ緑だ。

 

「でも夫が……夫を残してはいけません!! はやく、早くたすけて!!」

 

「~~~~!! う、麗日さん! 旦那さんに〝個性〟を! 一緒に行けるように!」

 

 その判断は間違っていた。爆豪のように「うるせえ! 歩けるんなら自分で歩けや!」と怒鳴りつけたほうがまだマシだった。死体を浮かせて持っていってどうするのか? どうせなら妻の方を浮かばせて強制的に運ぶべきだった。あるいは『ここは任せて救護所に向かってください』と伝えるべきだった。『明らかに正常な判断力を失っている』と冷徹に判断し取捨選択をすべきだった。だが、出来なかった。麗日お茶子にも緑谷出久にも、その判断はできなかった。分かっていたのに、できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「おいヒーロー! こっちを先に助けろよ! 誰の税金で生活できてると思ってるんだ、あ!?」

 

 いかつい顔の男が座り込んで大声を出している。足首を捻っている、ような演技をしている。

 

「す、すみません! すぐにお助けいたし」

 

「黙れクソボケ! そんだけ怒鳴れるならトリアージは緑だな! 一人でずっと叫んでろ!」

 

「! あ、ごめん……って爆豪!? ありがとう! て、手足は動かせますか?」

 

 体育祭で3位になった爆豪はそれなりに有名人だ。お礼を言った受験生は気を取り直して行動し始めた。

 

「知らねえよ! 抱えていけ! 俺はけが人だぞ!!」

 

「ええと、歩けますか! 救護所へ案内します!」

 

「ちっ! そんなやつ放っとけ! わざとらしい人形も無視しろ! 瓦礫の下にいる、声を出してねえ『人間』を探せ!」

 

 爆豪が気にしているのは瓦礫の下でうめき声すら出せない段階に至ってしまっているもの、つまりトリアージ赤が居ないかどうかだ。

 

「叫んでいる人を減らして声を聞き取りやすくすれば『聴覚』系の〝個性〟の持ち主が索敵してくれるはずだ! 声が出せなくても、生きているなら心音がある!」

 

 冷静になればやはり2年生のほうが場数を踏んでいる。これだけの人数がいれば他人の〝個性〟を当てにすることも現実味があるので、索敵に向いた〝個性〟が使いやすい環境を作るのも有効と言えるだろう。

 

「! 行けや! ここに俺のやることはねぇ! 認識範囲を広げる!」

 

 爆豪は身近にいる心音で索敵できそうな人物を二人思い浮かべる。それを踏まえると爆破は簡単には使えない事に気づき舌打ちをした。近場だけではなく遠くまで空から一気に状況を把握するべきだと考えた爆豪は、なるべく音を抑えつつ高く飛び上がった。絶対に考えたくなかった。自分の〝個性〟が『爆破』でなければ、なんてことは。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

 耳郎響香は索敵をしていた。探しているのは心音。瓦礫に『イヤホンジャック』のプラグをあてて集中しているが、捗々(はかばか)しくない。音が聞こえない訳では無い。瓦礫をどかすためなのか、断続的な破壊音が鳴り響き鼓膜が破れそうなのだ。痛みに耐えつついくつかの心音を見つけ、周囲の人間に場所を伝える。

 

「鳥たちよ……ヒーロースーツを着ていない人間を見つけたらその真上で旋回するのです……」

 

 口田は鳥を使って索敵を試みた。……この場には虫が居ない。人工の施設であるここには、殆ど存在しないのだ。ああ、虫が沢山いれば瓦礫の下もチェックできたのに。大嫌いな虫に頼りたくなるほどひどい状況に口田は心を痛めていた。

 

「二人とも良い〝個性〟だな! よし、手の空いている奴らは鳥を目印にして救助に向かえ! そこの『念力』の君! 瓦礫はどれくらいの範囲で浮かせられる? 耳郎が見つけた生存者を救出してくれ!」

 

 やっぱり先輩方はすごい、と耳郎は思った。戦闘に於いて、脅威だとは思わなかった。『イヤホンジャック』『生き物ボイス』の練度は事実、この場の誰よりも高まっていると言えるだろう。だがそんな事は関係がない。これが『経験』の強みなのだろう。訓練だけでは得られない場馴れを先輩方はすでに持っている。

 

(リノだったらどうだったかな。ウチたちみたいに苦しみながら動いたんだろうか。それとも先輩たちみたいに冷静に、笑顔すら見せながら指示したんだろうか……瓦礫なんて一人で全部飲み込んじゃうかな)

 

 この場のリーダーとして振る舞っている女性は二人の〝個性〟を褒める時、笑顔だった。それを不謹慎だとは思わない。励まされた。頼もしく思った。『オールマイト』と『親友』を思い出した。

 

「口田、笑おう。被災者の人たちに、ウチたちが来たんだから絶対に大丈夫だ、って思って貰うんだ」

 

 虚勢だ。現実は人形が……死体がゴロゴロと転がっている。そんな現場なのだから。本物の現場だったら動くことすら出来なかったかもしれない。

 

「……! うん、新斗さんならきっと笑う。生きている人は全員が助かるって、必ずそうなるって言うはずだよね」

 

 その姿が勇気を与えると知っている。心の持ちようで生存時間は伸びる。エビデンスのあるれっきとした事実だ。絶望し諦めれば、死は容易く全身を覆う。だが希望に向かう意思があれば、生命は限界を超えてあがき続ける。

 

「そうだね。ウチたちの頑張りで、そうするんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローどもの調子はどうだ? 目良」

 

「え? ああ……初動はやっぱり戸惑いがありましたね。ただ概ね良いんじゃないでしょうか。雄英生のみなさんも頑張ってますよ」

 

 いきなりの声掛けに戸惑いながら応える目良。モニターの中のその人物はどう見ても例のあの人にしか見えなかった。

 

「フン! 何故あのひよっこどものことを俺に伝えるのか分からんな。で? そろそろ時間だろう? この俺の力を奴らに見せつけてやるときが来たんじゃないか」

 

 その見た目でそういう事言わないでほしいな、と目良は思った。ギャップ萎えとでも言うのだろうか。

 

「開始前から徹底してますねぇ。……それじゃあ1分後にお願いします。ちゃんと手加減してくださいよ?」

 

 なんだかすごくやりすぎそうな雰囲気を出している。普段とはえらい違いだ。全く安心できなくて逆にすごい。

 

「誰に物を言っている? 象徴たるこの俺に任せておくがいい」

 

「アッハイ。頑張ってくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 BOOOOM!! 

 

 突如として会場の壁が大爆発した。その衝撃は会場中に響き渡り、救助は一時中断された。

 

「なにっ!」

 

「なんだあっ!」

 

「い……いきなり始まるのかあっ!」

 

「嘘だろ……こ……こんなことが……こ……こんなことが許されていいのか!」

 

 救護所として再建された控室。爆発したのはその直ぐそばの壁だった。崩れた壁面から出てきたのは大量の(ヴィラン)。その数……500億。さらにそれを率いるシャチ頭の男。そして。

 

「一つ問おう! ヒーローになるためにはなにが必要だと思うかね?」

 

 真っ黒な全身タイツに金縁の意匠が施された戦闘服に身を包んだ、謎のマッスル。身長2メートルはありそうな巨体の、(ヴィラン)のボスだ。

 

「そう、力だッ!」

 

 顔まで覆われたその姿の頭部には……誰もがある人物をイメージする、Vの字に伸びた意匠の金細工。

 

「旧態にしがみつく者共よ! 絶望しろ! 俺が来た!」

 

 男が拳を振るうと暴風が起こり瓦礫を吹き飛ばした。でたらめなパワーだ。救助が終わっているエリアを的確に狙った辺り、馬鹿ではないらしい。男は〝個性〟かよってくらいのクソデカボイスで叫んだ。

 

「ジャアクマイト! 新しい象徴の名だッ!!」

 

 

 

 

 

 

(ヴィラン)が姿を表しました。ヒーローたちは適切に状況に対応してください』

 

 

 

 

 

 

「いやこれ厳しい……厳しくない? 状況の放送もなんか例年より曖昧だし」

 

 ジョークは冷や汗を垂らしながら引いている。『ジャアクマイト』とかいうふざけたパロディが無ければ苦笑いすら消えていただろう。もちろん彼女はプロなのでこのような状況でも適切に対処ができる。おそらく意図的だろう説明の少なさに対しても様々な想定を瞬時に導き出せる。

 

「ああ……仮免試験でここまで高難度の案件にしてくるとは」

 

 イレイザーヘッドも当然どのように動くか、すぐに決断ができる。だが、それはプロヒーローとしての長年の経験があってのものだ。学生レベルを通り越してなりたてならプロでも慌ててしまうような状況である。

 

「行動に正解なんてない状況だよね。結果を出せるかどうかだ」

 

 自分であればこうする、あるいは生徒たちにこのように指示をするだろう、といった判断はできる。だが、生徒たちがどうするべきか。そこに明確な答えは持てない。相澤は判断に『合理性』という軸を持たせたが、それが絶対の正解ではない事も知っている。

 

「……うちの生徒はこのあたりはまだ殆ど机上でしかやってないからな……正念場だぞ……」

 

 時間が足りない。準備ができていない。心構えも覚束ない。そんな事、ヒーローは言えないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この俺の力の前にはヒーローですらない、ただの人間でしかないようだな、ひよっこ共!」

 

 その場に居合わせた受験生たちが攻撃を仕掛けたが、ジャアクマイトが腕を一振りするだけであらゆる飛び道具があらぬ方向に飛んでいく。拳の風圧で瓦礫をふっとばすような身体能力に接近戦を挑む馬鹿はいなかった。

 

「ハッハッハァ! どうしたどうした! この俺を倒さねば救護所は壊滅だぞ! 怖気づいている場合かぁ?」

 

「……ボス。少しやりすぎではないですか? これでは雛鳥が潰れてしまう」

 

「Oh……俺に楯突こうというのか? 悲しいなぁギャングオルカ……」

 

「えっ……そんなつもりは」

 

「じゃあどういうつもりなんだ? 言ってみるがいい」

 

「このノリ続くんですか? でらしつこい……

 

「なんだって? 誰がしつこい? このジャアクマイトを批判してるのか? 日本沈没スマッシュするか? ん?」

 

(聞こえたのか……まずい……)

 

「ジャアクマイトは何も間違わない! すべてが正義だ! じゃなかった悪だ! 分かったかサカマタ!」

 

「本名呼ぶのやめてくれるか?」

 

 クソみたいなしょうもない茶番の間も誰も手出しができない。周囲には500億(30人)を超える黒スーツ。

 

「ぎゃ……ギャングオルカだっ! そ、そんな……オールマイトにギャングオルカだって!? 無茶苦茶だ!」

 

 どう見てもオールマイトっぽい黒タイツ。その他にもわらわらと救護所に向かおうとする黒服の(ヴィラン)たちを率いているのは『(ヴィラン)っぽい見た目ヒーローランキング』のNo3、『ギャングオルカ』だ。見た目云々の前に名前にギャングって入ってるんだけど。まぁ多分原義の『歩く・進む』の方が由来なんだろうけど。

 

「オールマイトではない! ジャアクマイトだッ!」

 

 ぶおん! とアッパーカットが上空に振るわれると、急激な上昇気流の発生により気圧の薄い上空まで空気が押し上げられ膨張し、雲となり雨が降り出した。

 

「うぁぁぁ……こ、拳の一振りで天候を変える伝説の一撃だぁ……」

 

 この場にいるのは精鋭だ。選ばれし150名。ヒーローを志し、厳しい訓練にも耐えて今、羽ばたかんとする雛鳥たちだ。その心が今、折れかかっている。小雨が降り出したことで身体は冷え、闘志も萎んでいく。

 

「皆! 離れていてくれ! 最大威力をぶつける!」

 

 真堂は折れなかった。いや、折れそうだったからこそ、立ち向かうことにした。引退間近のオールマイトに全力をぶつけるなんて、二度と得られない貴重な経験だ! と無理やり自分を奮い立たせる。あわよくば誰かが続いてくれ! そう思いながら自身の全力をぶつけた。大地にビシビシと亀裂が入りジャアクマイトに襲いかかる。

 

「ヌルいわぁ!」

 

 ドォン! と片足を踏みつけただけで〝個性〟による揺れを相殺されてしまった。地面はバキバキに砕けたが、それだけだ。

 

「なん……だと……」

 

 ダメージになるとは思っていなかった。だが地形を破壊して(ヴィラン)たちを分断できる見込みだった。それすら、通用しなかった。チョコラテの如き甘い見通しだったのだ。〝個性〟の反動でグラグラと揺れる頭だけが原因ではない。ふらつく足が、言うことを聞いてくれない。

 

「先輩! 助太刀します!」

 

 バギン! と巨大な氷の壁が発生した。轟が一次試験で助力をしてくれたかっこいい先輩(雄英生たちにはそう見えた)のピンチに必死になって駆けつけたのだ。ジャアクマイトとギャングオルカが氷壁の向こうに閉じ込められ、500億(笑)の部下たちと分断された。

 

「今のうちに救助を……」

 

「無駄無駄ァ! これが象徴の力ァ!!」

 

 ワンパンで氷を粉々に砕いてジャアクマイトが飛び込んできた。

 

「くそっ……まだ救助が終わってねえのに!」

 

「街への被害などクソくらえだァ!」

 

 そんな事言っちゃダメだぜ、平和の象徴。もしかして本音が出た? って思われちゃいますよ。

 

「ウオーッ! 俺の突風をくらえっ!」

 

 ゴオッ! と突風が吹き雨を散らしながら乱入ハゲが乱入してきた。500億の(ヴィラン)はかなりの数が吹っ飛んだがジャアクマイトは平然としている。ギャングオルカはふっとばされそうになったのでジャアクマイトの触覚を掴んで事なきを得た。

 

「敵乱入なんて酷いっス! こんなに沢山死んでるんですよ!? 人の心とかないんスか!?」

 

 一次試験ではヘラヘラしながら120人を脱落させた夜嵐。不必要に他人を蹴落とす風使いのくせに空気が読めないハゲ。その彼は今、苦しんでいた。

 

「イナサ! だったよな! お前の〝個性〟なら救護所の避難のほうが適切だろ! なんでこっちに!?」

 

「ハ!? 救護所は肉倉センパイが行ってくれたんでこっちに来たんだよ! それともなんだ!? 邪魔だって言いたいのか!? 入試の時みたいに!」

 

 風の〝個性〟でけが人を運ぼうとした。だが雑だと言われて先輩にもHUC(フック)にも叱られてしまった。コントロールには自信があったが、負傷者の移送が出来るほどではなかったのだ。瓦礫を退けたあとはやれることが無くなった。退けた瓦礫の下にあったのは……人形、人形、人形。俺にできることは死体掘りしかないのか。身勝手な感情。死者を見つけ出してご遺族の元に帰すことだって立派なヒーローの仕事だって分かってる。分かってるのに、あの場に居たくなかった。未熟者。未熟者。未熟者。

 

「は……? にゅ、入試……?」

 

 やっぱりなんかやらかしてたらしいことを悟りうろたえる轟。まぁ薄々分かってた。クソみたいな態度を周りに取ってたのは確かなので、どこかで知らない間に彼を傷つけたのだろう。問題は全方位にクソだったせいで何をやらかしたか全く見当がつかないことだ。邪魔ってなんだ……? 雄英合格のためには全員邪魔だと思ってたことは想像に難くないが、直接声に出してしまったのだろうか? 

 

「わ、わりぃがとりあえずあとにしてくれ! 今はそれどころじゃねえだろ!? 協力して(ヴィラン)を救護所から引き離さねえと!」

 

 再び大氷壁を出して壁を作る。ジャアクマイトはなんかトーク中は待機してくれるので喋ってた方がいい気もするが、ギャングオルカや部下っぽい奴らは普通に攻撃してくるので戦闘に集中しなければならない。

 

「……ちくしょう! 炎だと俺の風とは相性が悪い! 上昇気流が入ると制御が乱れるんだ! 氷の方で頼む!」

 

 分かってくれたか!良いハゲだ! だが内容はちょっと厳しい。氷は時間稼ぎにしかならないのはすでに分かっているのだから。だがもしかしたら何かプランが有るのかも知れない。

 

「つっても氷結は決定打にならねぇ! お前の風だって防がれたじゃねえか! なんか作戦でもあるのか!?」

 

 炎を使わない戦い方自体は慣れているので可能だが、ジリ貧だ。ギャングオルカは完全に轟をターゲッティングしてきている。脅威度の高い相手だとみなされたのだ。

 

「……奥の手を使う! ちょっと危険だけど我慢してくれ! あと集中するから『氷だけ』で時間稼ぎたのむ! 周りの皆さぁん!! 30秒稼いでくださいっス! 稼いでくれた人はクソ危険になることをご了承くださァい!!」

 

 空を飛んでいた夜嵐はでかい声で周りにも救援を要請すると地面に降りて集中し始めた。それを見た他の受験生たちは希望を見出したらしく何人かが立ち上がり戦い出した。

 

「フン……なにかすると分かって放置などすると思うか? 作戦会議はこっそりやることだ」

 

 まぁこんなことを言ってるがギャングオルカも内心ではそれなりに高評価だ。ジャアクマイトとギャングオルカとその部下たちをどうにかするプラン。実に興味深い。ぜひ成功させてあげたいのだが、試験官として手を抜くわけにはいかない。

 

「行かせねぇ! 俺と勝負しろ、ギャングオルカ!」

 

「氷しか使えないお前など脅威ではない。シャチがどこで暮らしているか知らないのか?」

 

 シャチの生息域は流氷漂う極寒の海だ。ギャングオルカはその性質を更に強化したような能力を持っていて、低温には非常に強く砕氷も得意だ。

 

「氷結が効かねえやつとの戦い方を俺が考えてねえと思うか?」

 

 ゴッ! っと足元から爆発的に飛び出す氷。複数の氷壁を複雑に組み合わせることで氷の礫を弾丸のように打ち出す新技『圧砕氷壁』だ。

 

「ほう! これはなかなか……」

 

 ギャングオルカは両腕で捌こうと構えたが予想に反してマシンガンのように連打されたため結構食らってしまった。

 

(でら痛い……超音波も併用すべきだった。それか重りがなかったら捌けたのに……)

 

 デカい氷壁ならワンパンで勢いを削げたのだが、飛礫が相手だとそうはいかない。同じ〝個性〟でも使いようということだ。口には出さないが情けない言い訳が思考をよぎるギャングオルカ。カッコつけて余裕で捌くところを見せたかったのだ。でらしょうもない。

 

「HEYHEYどうしたサカマタぁ! このジャアクマイトが手を貸してやろうか?」

 

 ギャングオルカがしっかり足止めされたのを見てジャアクマイトがちょっかいを出そうと寄ってきた。ギャングオルカは露骨にうざそうな顔をした。

 

「邪魔はさせねえ」

 

 邪魔者の足元に氷を発生させるが、あっさりと踏み砕かれてしまう。だがこれは予想通りで、狙い通りだ。ジャアクマイトが踏みつけて勝ち誇っている氷を急激に『成長』させる。

 

「おおっ!?」

 

 氷が伸びる勢いでジャアクマイトが天高く吹っ飛んでいった。メスガキとの戦いで編み出した技をブラッシュアップした『伸天氷柱』。勝利条件は被災者の救助で、今やるべきことは時間稼ぎだ。故にただ吹き飛ばすだけのこの技も役に立つ。空中では流石に身動きが……。

 

「とおっ!」

 

 ジャアクマイトはドォン! という音を響かせ空気を蹴って地面に戻ってきた。でたらめなパワーに一瞬唖然としたが、ギャングオルカとその部下たちもびっくりして動きが止まったのでぎりぎりセーフだった。

 

「皆さま時間稼ぎありがとうございまぁッス!」

 

 夜嵐の準備が終わったのだ。ゴッ! っという音が一瞬したかと思うとすぐ静かになった。

 

「がはっ! ……なんだこりゃ……」

 

 耳と顔中に痛みが走り呼吸が苦しくなりグラリと倒れ込む。一体何が起こった? めまいと吐き気と頭痛に苦しむ轟には分からなかったが、周囲では一緒に戦っていた仲間たち、そしてギャングオルカやその部下たちもふらふらとしてへたり込んでいた。

 

「低気圧っす……皆さんすみません……!」

 

 30秒、というのはブラフだった。実際は救護者がいる間は使えなかっただけで、さっきまで雨が降っていたので気圧を下げやすくなっており実際の準備は10秒ほどで出来たのだ。試験なので無いだろうとは思ったが、人質を使われたり救助妨害をされると困るので言わなかった。夜嵐の精密な大気の操作により現在は0.7気圧となっている。人間はゆっくりと慣らせば大体0.5気圧までは適応できる。しかし急激な変化だとそれより手前で人は立っていられなくなる。夜嵐は多少耐性があるので大丈夫だが、時間稼ぎしてくれていた仲間たちも巻き込む一種の自爆攻撃だ。

 

「ぐぅ……っ……俺は……何を勘違いしていたんだ……」

 

 士傑高校に入って、1年生で特別に仮免試験へ挑むことを許されて、何者かに成れたと思っていた。何かを為せると思っていた。だが違った。現実は救助では大して役に立てず、それならと挑んだ対(ヴィラン)でも仲間もろともでなくては倒すことが出来なかった。そう思って辺りを見渡すと……。

 

「ウソだ……ウソだろ……? ギャングオルカだって立ってられないのに……いや、人間なら俺みたいに耐性がなきゃ耐えられるはずが……!」

 

 夜嵐の目尻に涙が浮かぶ。仲間ごと攻撃するという、熱くない……それどころか冷徹な攻撃を繰り出したのに……! 

 

「すこぉし耳がキーンとするかなぁ? ひよっこに出来ることがこのジャアクマイトにできないと思ったかぁ?」

 

 悠然と立っている大男。ジャアクマイトが振らせた雨。轟の氷。夜嵐の低気圧。それらの影響で空気が冷えてわずかに漂う霧が筋骨隆々の身体に纏わりついている。夜嵐にはそれがまるで雲より背の高い巨人のように感じられた。

 

「うおぉおおお!」

 

 夜嵐は殴りかかった。低気圧を解けばギャングオルカたちが遠からず復帰してしまう。これは非常に繊細なコントロールが必要な奥義なので他の風は使えないのだ。それにあまり時間が経てば段々慣れて来てこれまた復帰してしまうので、すぐに戦うしか無い。最初に復帰してくるのは当然身体能力の高いプロヒーローのギャングオルカになる可能性が高いからだ。

 

「今何かしたか? もっとビシッ! っとした技はないのか? なければそろそろ終わらせちゃうけどいいか?」

 

 全く効いていない。かなり体格の良い夜嵐は身体能力も高いのだが、顔面に一発入ったのに仰け反らせることすら出来なかった。愕然として動きが止まる。

 

「デトロイト……」

 

「ん?」

 

「スマ──ーッシュ!!!」

 

 ドゴォッ! っと人体からは絶対出ないような音がしてジャアクマイトは吹っ飛んだ。

 

「応援に来ました!」

 

「なんだァ!? 死屍累々じゃねーか!」

 

「まもなく移送が完了する! 正念場だぞ、皆!」

 

「ゆ、雄英高校の皆さん……! くぅー! 熱い! 熱すぎるッス!」

 

 夜嵐はデクが低気圧ゾーンに一瞬入ってクラっとしたのを見て慌てて解除した。周りもしばらくしたら復帰するだろうし、(ヴィラン)側のほうが復帰が早い見込みだが、万全の雄英生が何人も来たなら弱っているギャングオルカもなんとか出来るだろうと考えた。癪だがエンデヴァーの息子は強かった。同級生もきっと強いはずだというどんぶり勘定。まぁ救援に来た奴らは期待通りに強いから問題ないんだけど、全員が轟級じゃねえからなハゲ。

 

「これは……高山病!? あ、低気圧か! 夜嵐くんが風を使えるって言ってたもんね! すごい!」

 

 素早く轟の症状を確認してやれることがないことを確認したデクは笑顔で夜嵐の〝個性〟を褒め称えた。気遣いだ。倒れている人たちの容態が心配だが、それを表に出すと夜嵐の心を傷つけてしまい、彼が動けなくなってしまうかもしれないと思ったのだ。なんか繊細っぽいので。しかし周りを巻き込んだ範囲攻撃とは、さっき殴ったオールマイトもどきがよほど強かったのだろうか? でもあんなんオールマイトじゃないから。ハァ……贋物! まず立ち姿が違う。オールマイトのフロントラットスプレッドはもっと拳の位置が脇腹側だし手の甲を正面に向けてないのもおかしいしもっと言えばそもそもの姿勢がぜんぜん違ブツブツブツブツ。

 

「チッ。拘束できるやつも居りゃあ良かったんだが」

 

 かっちゃんが仲間をアテにするような言葉が耳に入ったことでキモオタモードから保護者モードに切り替わり内心で感動するクソナード。おばさんとおじさんに教えてあげなきゃ……! と心のメモリーに刻んでいる。さておき、今から仲間を呼ぶかどうかは微妙なところだ。あとどれくらいで救助が完了するかは、実は分かっていない。飯田は皆を鼓舞するためにでまかせを言っただけだ。とはいえ完全無根拠でもない。様々な〝個性〟により生存者が索敵され、まだ見つかっていないものは居ないと見られている。現在分かっている限りでは救助や移送の完了はもはや秒読みの状態だ。今もなお捜索は行われているはずだが、戦闘向けの〝個性〟の持ち主はそろそろ手持ち無沙汰になりこちらに救援に来るはずである。

 

「活きのいいやつらが来たじゃあないか! 殴られた屈辱は返さなきゃなあ!? これを見ろ、ヒーロー共!!」 

 

 吹っ飛んだ先から戻ってきたジャアクマイトはいつの間にか片手に持っていたものを掲げる。それは銀髪ツインテゴスロリ美少女だった。

 

「キャー。タスケテー。ヒーロー。タスケテー」

 

 どうしようもない棒読みちゃん。機械音声かよ。

 

「ひ、人質!? 嘘だろ!? 仮免でそんなのありえない!」

 

 仮免の試験の過去問について詳しい二年生が悲鳴をあげた。今回からガラッと変わったため過去の知識は基本的に役に立たないのだが、『人質が居た場合の対処』というものは非常に高度な判断が求められるうえに正解と言えるものも無いため、プロヒーローの本免試験ですらめったに無いということを知識として知っていたのだ。

 

「どうしたヒーロー! ここで躊躇っていれば誰かが助けてくれると思うかァ!?」

 

「タスケテー。ハヤクタスケテー。エッチナコトサレチャウー」

 

 ぷらぷらと揺れながら緊張感のないことをのたまう銀髪ツインテゴスロリ美少女。かわいい。受験生たちは「演技なのはわかるけどもうちょい真面目にやってくれよ」と思っている。

 

「くそっ! なにが目的だ!? 新斗さ……人質を解放しろ! ニセマイト!」

 

 デクは珍しくめちゃくちゃムカムカしているので口調が少し荒れている。オールマイトの贋物も腹立たしいし、大切な友人にして恩人が演技とはいえ人質になっていることにも怒りが湧いてくる。

 

「ニセマイトではない! ジャアクマイトだ! 目的ィ? そんなものがあると思うかぁ? それに解放だとォ……? そうだなぁ……よし、こうしよう! 『お前達のうち誰か10人が合格を諦め試験を辞退すればこの娘を解放する』!」

 

「は、はああああ!?」

 

「いや、条件設定に無理があるでしょ!」

 

 ざわつく受験生たち。すぐには言っていることが理解できなかった。不合格になれば解放? 

 

「まだ他人事と考えているようだな! じゃあもう一つ条件を付け加えてやろう! 『この娘が解放されず〝時間切れ〟になればランダムで100人不合格』だ! そら、少しは真剣に考えるつもりになったか? ん?」

 

「り、理不尽すぎる! なんだそれ!!」

 

「ふざけるな! ただ落とすためだけの条件じゃないか!?」

 

「試験の体をなしてないだろ!」

 

「ていうか試験でそんな……人質だって演技なわけで……」

 

「今もお前たちは採点されている最中だというのになぁにを甘ったれているんだぁ? たしかにこれは演技だがぁ……演技だからと手を抜くようなやつに仮免を渡すと思うかぁ? なんならすでにここに居る全員不合格かもしれないなぁ?」

 

 受験者たちには明かされていないがこの試験は持ち点100から減点されていく仕組みだ。そして50点を下回ったものは問答無用で不合格。実際この場にはすでに50点以下になっているものも居る。

 

「タスケテー! タスケテー! エッチー!」

 

「おい黙れ! 気が散んだよクソガキ!」

 

 かっちゃん、吠えた! 状況がシリアスなのに気を抜けたことを言われまくって集中を妨げられたことに我慢ができなかったらしい。そもそもこいつが人質になどなるはずがないと考えているのもあってイライラは最高潮だ。

 

「ハイゲンテンー! コリナイネー!!」

 

「がっ……ぐっ……クソがぁあああああ!!」

 

「馬鹿が減点されたところで一つ良いことを教えてやろう! 当然のことだがこのジャアクマイトとこちらの世界一の超絶美少女は試験官だ! つまり! 『解放のために不合格になる』というのは『お前たちの辞退申請の受理』という形で確実に実行される! そしてコミックなんかでよくある『自己犠牲的に不合格を選んだから逆に合格!』みたいなご都合主義は一切ないぞッ! なにせ合否を決める権限や得点を増やす権限など俺は一切持ってないからなッ! HAHAHA」

 

 もしかしたらそういう構造なのでは? と考えていたものは多かった。雄英の入試のレスキューポイントはまさにそうした隠し要素だったし、似たような条件を付けた入試を行うヒーロー学校は多いからだ。しかしそれはないとジャアクマイトは言う。

 

「どうしたヒーローども! ステインも言っていただろう! 真のヒーローには『自己犠牲』が必要だとなぁ! 仮免など所詮ただの資格でしかない!! 『ヒーロー』になりたいんじゃないのか!? 他者のために! 自分の仮免なんて要らない! そういう本当の英雄は居ないのかぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいやいやいやエグすぎだろ! 絶対仮免試験でやることじゃない!」

 

 観客席のジョークはめちゃくちゃうろたえている。ジャアクマイトがジャアクすぎてドン引きだ。これ本当にヒーロー公安委員会が許可してるのか? 現場の暴走じゃ? そうであってくれ! と思っている。

 

「……異例の少数採用……試験の高難度化……どうやら委員会は少数精鋭に切り替えたいらしいな」

 

「あいつの言ってることに従ったら『ヒーロー』が落ちて自分のために黙ってたやつが受かっちゃうじゃん! おかしいでしょ!」

 

「ジョーク。冷静になれ。この状況で黙りこむようなやつが『ヒーロー』として評価されると思うか?」

 

 そう、この瞬間もすべての受験生の動向はチェックされている。一人ひとりについた公安の職員によってどのような行動をするのか細かく審査されているのだ。

 

「……あああああああ!!! 黙ってても減点されて落とされるってこと!? クソわよ!!!」

 

 実際にはただ黙っているだけであれば即減点、とはならない。内心で解決法を模索しているかもしれないからだ。ただしこの場から無策でこっそり逃げ去ったと見なされれたりすると見込み無しとして大幅に減点される。

 

「お前ならどうする、ジョーク」

 

「ええ? そんなん私の〝個性〟ぶちかまして人質を救出するに決まってるだろ。……いやでもその解決法は受験生によっぽど都合の良い〝個性〟がいないと無理じゃない? ジャアクマイトめちゃくちゃ強いよ? オールマイトじゃん」

 

 ジョークの〝個性〟の『爆笑』が効けば人質など取っている場合ではなくなる。ジョーク自身は爆笑しながら行動できるし、人質を範囲内に巻き込んでも全く問題ないのが彼女の強みで、『人質を取られている』というのはむしろ得意な状況とすらいえる。

 

「そうだな。ジャアクマイトの言葉を総合するとランダム性を排除した合格のためには『いつ終わるかも分からん制限時間の中で人質を救出しやつを倒さなければならない』となる。だが緑谷のあの一撃でも全くの無傷で戻ってきたからな……」

 

「すんごいパンチだったね。デトロイトスマッシュとか言うだけあるわ。あんなんまともに食らったら私だったら死んでるっつーの。倒された判定しとけよな」

 

 デクがジャアクマイトにぶちかましたのは大体30%くらいのスマッシュだ。防御系の〝個性〟を持たないプロヒーローなら一撃で昏倒に追い込めるし、当たりどころが悪ければ死ぬだけの威力があった。

 

「まぁだから『ジャアクマイト』……『オールマイトのパロディでめちゃくちゃ強い』とアピールしてるんだろうな。倒せないから交渉しなければ、と思わせるために強さが必要なわけだ。俺なら交渉するふりして時間稼ぎを……ん? 〝時間切れ〟? ああ、そういうことか」

 

「え? ……あ!? 喋り上手いな、ジャアクマイト……! すっかりペースにハマってたわ。そもそもあの娘が──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰も立候補しないのかぁ? 解放してほしいんだろう?」

 

「イヤーン、エッチー。タスケテー」

 

 猫みたいに首根っこを掴まれている銀髪ツインテゴスロリ美少女。ちょっと持ち上げられてるせいで微妙に中が見えそうなスカートの下でぷらぷらと揺れる細い脚が蠱惑的だ。ジャアクマイトがデカいので相対的にチビさが目立たないため、スタイル自体はとても良いのがよく分かる。

 

「卑怯者! 人質なんて全然熱くないッス!」

 

 夜嵐はまだ具合の悪そうな仲間とギャングオルカたちを風でゆっくりと持ち上げ慎重に運んでいる。まだきっと雑なのだろうが、背に腹は代えられない。気圧は正常化してるので遠からず回復するとは思うが、この場に寝かせておくのは危険だろう。あとはまぁ救助してるんだからそのまま寝ててくれないかな、という下心もちょっとある。

 

「ジャアクマイト! これ以上罪を重ねるな! 人質を解放し、速やかに自首したまえ! 今もたくさんのヒーローがここに向かっているのだから、悪あがきにしかならないぞ!」

 

 飯田は仲間たちが来るのを待っているようだ。交渉に応じるつもりはないらしい。今は手が足りないが仲間が揃えば事態を打開できると信じているのだろう。

 

「……つーか本当に10人が不合格になれば解放すんのか!? そのことをどうやって証明すンだァ!?」

 

 爆豪も似たようなことを考えている、有利な〝個性〟の持ち主が来れば人質を救出してこのクソマイトをぶちのめせると思っているのだ。

 

「何を言ってるんだ? お前はそのようなことを気にする必要はない! 来年また頑張れ!」

 

「……んだとォ!? ま、まさか……」

 

 ありえない。まさか先ほどの減点で……? 

 

「ハァ……ハァ……そりゃつまり……ガチでここから頑張っても」

 

 こんなに血の気が引いたのはいつぶりだろう。

 

「俺」

 

 入学当初の演習で、クソナードに負けた時。

 

「完全に」

 

 クソナードが俺が女だったら良かったとかキッッッッショい事を言った時。

 

「試験に」

 

 体育祭であのクソガキの怒気を浴びた時。

 

「あっ!」

 

 絶望顔で戦慄する爆豪をよそにクソナードは何かに気づいた顔をするとなんと勢いよく大ジャンプして飛びかかった。

 

「おっ!? どういうつもりだ!?」

 

 ついっと銀髪ツインテゴスロリ美少女を盾にするかのように突き出すジャアクマイト。だがクソナードは怯まなかった。大丈夫だろ……多分。

 

「お前の望みは何一つ! 叶わない!」

 

 クソナードは全くお構いなしにわざとらしく大げさに殴りつけようとするモーションをした。すると何故かジャアクマイトは銀髪ツインテゴスロリ美少女を盾にするのはやめて手放し、ダブルバイセップスのポーズを取った。

 

「エンプティ・スレット・スマーッシュ!!」

 

「ぐわああああああっ!!!!」

 

 ジャアクマイトは大した威力もなさそうなパンチでめちゃくちゃ遠くに吹っ飛んだ。ていうか明らかに自分でジャンプして飛んでいった。手放されてその場に残った美少女はにこっと笑うとジャアクマイトの方へツッテケテーと走り去った。

 

「……は?」

 

「え。な、何? 何事?」

 

「こ、これは一体? 緑谷くん、どういうことだ!?」

 

 戸惑う面々。そこにヒーロー公安委員会の放送が鳴り響いた。

 

『えー只今を持ちまして試験は終了となります。お疲れ様でした。集計の後合否を発表いたしますので怪我された方や体調に問題のある方は医務室へどうぞ。問題のない方は着替えて会場で待機をお願いします』




独自設定とか

・夜嵐:先輩もいるし素敵な雄英の皆さんも居るので我慢。
・肉倉先輩:後方先輩面がすごい。
・テンアゲ~:元気を出して。夜嵐くんはエンデヴァーを嫌っているから息子さんにも複雑な気持ちを持っていて、いっぱいいっぱいになっているんです。八つ当たりじみたことは良くないんですけどね。
・壊れちゃうよぉ:睡眠が足りない。
・クソナードとHUC(フック):まぁそれでも警察官目指したんじゃないかな?
・肉先輩:後輩に色々言うの好きそうなので。
・死体だらけ:神野がマイルドなので……。こういうので現実見せないとね、って公安が言ってた。
・夫がー!:先に救護所へ行って旦那さんの状態を詳細に伝えてください!みたいに役割を与えると良いらしい。
・そんなやつ放っとけ:実際の救助だとこういうのはマジで放置される。
・心の持ちよう:カート・リヒター博士の実験。
・目良ァ!:出番まだですかぁ?
・その数500億:ヒロアカの単位になるキャラ誰だろう。マスキュラーか?
・ジャアクマイト:一体何者なんだ……。
・でら:ヒロアカじゃ言わなくなったの寂しかったから……。目もアイパッチだけになっちゃったし……。
・日本沈没スマッシュ:出来まぁす。
・ギャング:シャチが海のギャングとか言われてるのもあると思う。
・真堂先輩:グラグラが治ってきたとこに低気圧でダウン。
・街への被害などクソくらえだ:オールマイトはこういう事言う。
・疾風迅雷やね:アカンと判断したら不合格にしてくれてかまわんで。
・納得ハゲ:雄英高校で変わったんなら信じてみようかな……。
・自爆攻撃:まだ自分も範囲内に居ないと上手く制御できない。
・気圧変化:ギャングオルカは頑張れば戦えたけど空気読んでくれた。安全に制圧するためにもっと気圧下げられるところを手加減してるのが分かったので。
低気圧:こんなに劇的に効くかどうかですがぁ……諸説あります(逃げ)。俺の作品ではこうなるんだよってことで。
・ジャアクマイト:ギャングオルカとは役割が違う。
・ジャアクマイトのセリフ:ミスはないと思います。
・銀髪ツインテゴスロリ美少女:かわいい。
・ステインも言ってた:他者を蹴落として『合格』したやつなんてヒーロー失格だよなぁ?高等教育なんて要らねえんだよ!
・爆笑:AFOもボコボコに出来そう。呼吸に障害ありそうだし。
・エンプティスレットスマッシュ:この場で編み出した新技。ただの右ストレート。
・なにこれ?:ジャアクマイトを倒したヒーローたちだったが疲労困憊の一同の前にさらなる絶望の権化、悪魔の力を得たデビルマイトが現れる!デビルマイトの圧倒的な力の前に一人また一人と倒れていくA組の生徒たち……もはや崩壊は止められないのか!?次回!ボクのヒーローアカデミアくらっしゅ!!第53話!『嘘つきは泥棒の始まり』!運命を愛せ!〝Amor(アモール) fati(ファティ)〟!!
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