ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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解答編?です
期待外れだったらごめんな!


『多数に追随するな。自分自身で決断せよ』

「緑谷くん。結局どういうことだったんだ? なぜジャアクマイトは……人質を手放して負けを認めたんだ? なにか確信があったようだったが」

 

 試験の集計中、他のクラスメイトたちと合流しようと歩いていく雄英生たち。轟を含めた低気圧で倒れた者たちは大事を取って医務室に運ばれ、夜嵐はそれについていったので歩いているのは緑谷・飯田・爆豪の3人だけだ。

 

「えっと……時系列じゃなくて僕の思考の順番で話していくね。まず最初におかしいと思ったのはかっちゃんの減点についてなんだ」

 

「爆豪くんの減点は暴言が原因だろう? その……おかしいとは思わないが」

 

 飯田はちらっと爆豪の方を見て遠慮がちに言った。肉倉先輩に試験直前に注意されていたのに、それを肯定してしまった手前飯田もちょっと気まずい。かっちゃんはしょんぼりしてトボトボ歩いている(かわいい)。単に仮免試験に落ちただけならここまで落ち込まなかっただろうが、直前に肯定されたことが効いている。恨みなどではなく、むしろ逆。『期待に応えられなかった』からだ。

 

「あ、うん。減点されて当然だと思うんだけど。本当に減点されたならそれってあの場で明かすべきじゃないよね」

 

 HUCだっていちいちその場で採点したりしなかった。これは本当に演技なのか? と思うくらいにずっと苦しみ、嘆き、怯えていた。『プロ』という言葉の重みを思い知らされた。自分たちもこれから『プロ』にならなければならないと身が引き締まる思いだった。

 

「まぁジャアクマイトはハチャメチャだったからあいつが言うならもうちょっと混乱したかもしれないけど、新斗さんが減点だって言うのも人質の演技中だとしたらおかしいんだ。すごく棒読みだったから演技……つまり仕事の一環としてやってたわけだし」

 

 しょんぼりかっちゃんに励ましの声をかけたい気持ちでソワソワするクソナード。でも僕が今話しかけたらぶち切れそうだな(正解)と考えてあえて知らないふりをしている。何が当然だって!? クソナードが! と元気にはなるだろうが、クソナードはそのやり方はあまり良くないと最近気づいた。手っ取り早く元気にはなるが、反省も浅くなるのだ。

 

「なるほど! ……たしかにそうだな!」

 

 飯田は交渉には乗らずに時間を稼ぐというまぁ基本中の基本の対応を取っていたので問題ないが、かっちゃんはメタ読みして怒鳴りつけたので減点をされた……ように見えた。だが試験中に採点を公開してしまえばその場で修正されてしまう。つまり「あ、その回答間違ってるよ」などと教えられたら学びにはなるが試験にならない。

 

「ところで飯田くんは新斗さんの演技、どう思った?」

 

「む……優秀な彼女にしてはなんというか棒読みというか、ジャアクマイトやHUC(フック)の皆様と比べるのも間違っているのだろうが、あまり真剣味が感じられ……ん?」

 

「ジャアクマイトも言っていたよね。「演技だからと手を抜くようなやつに仮免を渡すと思うか」って。『新斗さんは既に仮免を持っている』んだから『出来ると思って仕事を任された』はずなんだ」

 

 これもオールマイトと共に戦ったときに全国に放送され知れ渡っていることだ。実際は仮の仮免だったが、そこまでは報道されていないし、それを知っているのは雄英でも一部教員くらいのものである。まぁニュースを見てなければ知らないかもしれないが、そういう情報のアンテナの低いヒーローの卵は来年頑張ってねということだ。

 

「他にも色々あるけどとにかく新斗さんは演技がわざとらしかったし、余裕たっぷりだった。……これは僕も反省しないといけない事なんだけど、彼女は体育祭でその強さを全国放送されてるから態度も相まって『殆どの人が心配しなかった』。でもそれって試験にも救助にも持ち込むべきじゃないことなんだ。たとえば『オールマイトが瓦礫の下敷きになったら心配しなくていい』なんて判断、レスキューでしていいはずがない。飯田くんはその点しっかりしてたね」

 

 レスキューは相手が誰かだとか何を言ってるかだとかは一切考慮してはならない。主観や感情を排し状況を見極め、設定された判定基準……歩行の可否、呼吸の状態、血液の循環、意識状態等に従って機械的・客観的に判定しなければならないのだ。HUC(フック)の演技はその全てが完璧に状況に沿っていた。重症者という設定の人物は重症者のようにしか振る舞わなかった。では、人質はどうか? 『なぜ人質はHUC(フック)ではないのか?』

 

「……たしかに俺は新斗くんだということは考えなかった。人質になった無力な市民という状況だと思ったからな……」

 

「クオリティの差が酷かったでしょ? 人気だからって理由で無理やり映画のヒロインに抜擢されたヒーローみたいに。それに悲惨な事故現場にはあまりにも場違いだった。状況からしたら彼女も被災者のはずなのに、いつものきれいなゴスロリ姿だった。あの姿は体育祭でも鮮烈な印象を残してるだろうから、誰も気にしなかった。……真剣味が、足りなかったから。僕らにも『人質』にも」

 

 HUC(フック)たちはボロボロの汚れた服を着て、血糊を負傷のレベルに応じてキッチリと付けていた。一方人質の少女はあまりにも綺麗すぎた。公安の試験でそのような手抜きが行われるだろうか? 数多の受験生の将来を左右する重要な局面にクソ映画のごとき判断をされるようならクソナードもお手上げだ。ちなみにクソナードはそういうクソ映画も好きなヒーローが出てれば楽しめるタイプである。

 

「あとその……新斗さんは「えっちなことされちゃう」って言ってたけど、ジャアクマイトは僕らに何も要求してなかったんだ」

 

「ん? 「10人が不合格とならないと人質を解放しない」と言ってなかったか?」

 

「ううん。そもそも『人質』って言い出したのこっちなんだよね。ジャアクマイトは新斗さんをどうするとも言ってない。ただ片手に掲げて「これを見ろ」と言っただけなんだ」

 

 状況的に蓋然性が高かったから勝手に想像した。繰り返すがレスキューではしてはいけないことである。「火災現場で倒れているからきっと酸欠に違いない」だの「意識がないから頭をぶつけたのだろう」だのと言った『想像』はしてはならないのだ。

 

「……そういえば解放しろというこちらの要求に応じて条件を出してきたんだったな」

 

「決定的だったのは『合否を決める権限や得点を増やす権限など俺は一切持ってない』って言葉だね。思い返したら『10人の不合格』も『辞退を受理する』って表現だった。つまり言葉どおりならジャアクマイトには試験を受けている人間を不合格にすることは出来ない……だから『ランダムに100人不合格』なんて出来っこないんだ……おそらく『辞退』は正式に処理されただろうけどね……」

 

 それが虚偽である可能性はほぼない。受験生の辞退は受験生側が持つ権利であってジャアクマイトとは無関係だからだ。まぁ仮に虚偽であったとしてもどちらにせよジャアクマイトの言葉の信憑性が低いことだけは確かである。

 

「つまりジャアクマイトと新斗くんの虚偽を見抜けるかどうかがこの試験の鍵だったというわけだな!」

 

 演技の演技であることに気付けるかどうか、はあまり重要ではない。クソナードの判断は非常に早かった。『時間経過』で難度は少しずつ緩和される予定だったのだ。

 

「放送のタイミング的に多分終了条件だったんじゃないかな? ジャアクマイトは『この娘が解放されず〝時間切れ〟になればランダムで100人不合格』って言ってたけど、〝時間切れ〟って何? って事なんだよね。試験の終了は救助の完了……演技とはいえ災害にこんな事言いたくないけど終了は『受験生の勝利条件達成』であって敗北条件じゃないから、実際はあのまま堅実に時間稼ぎをして交渉を引き伸ばしてたら皆気づいたんじゃないかな……『いくらなんでもまだ救助が終わってないのはおかしい』って」

 

 いつまで経っても〝時間切れ〟などない。『現実的』に考えれば時間を稼げばやって来るからだ。有利な〝個性〟の持ち主が。あるいはエンデヴァーやオールマイトなどのトップヒーローが。この試験の状況設定は『交通網が寸断され先着救急隊の到着時刻は未定』というもので、いずれ増援や救助が来るという前提があるのだから。

 

「なるほどな! そうか、緑谷くんはそれに気づいたから、気づいたことをアピールするために殴りかかったんだな!」

 

「うん。それとジャアクマイト曰く彼女は試験官……『要救助者』か『(ヴィラン)役』のどちらかなわけで、そのうえで『新斗さんは人質ではない』、つまり(ヴィラン)役な可能性は高かったけど、それも含めて全部あいまいな推測だったからそれを確かめるためでもあったんだ。だから〝個性〟を防御に全振りしてわざと大げさなモーションで攻撃した。推測が外れていれば避けたり耐えたり反撃されたりするかもって思って。でも思った以上に派手に飛んでいったね……」

 

 クソナードのチート技『OFA・ナイトモード』を前提にした脳筋的解決法だ。現在は防御のみに集中すれば大体80%オールマイトくらいの頑丈さを引き出せる。メンタル的な相性も良いので伸びも早い。ここまで来ると大抵の攻撃をノーダメージでしのげるが、ジャアクマイトのでたらめなパワーでパンチされたら流石に多少のダメージは入ったかもしれない。

 

「クソナードテメェ……あの短時間でそこまで考えてやがったのか……?」

 

 かっちゃんは悔しそうにクソナードを睨みながら話しかけてきた。クソナードは不謹慎にもちょっと嬉しくなった。多少は元気が出たことと、悔しがる顔を見られたことに。デクはいいやつなんだけど、頭のおかしい狂人であることも確かなのだ。

 

「えっ!? えーと、今整理して言語化したからすごく複雑な事考えてたみたいだけど、実際は『なんか変だから殴って確かめよう』ってくらいだったんじゃないかなぁ……?」

 

 悲報。クソナード、ついにオールマイトの悪いところを学んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、ホーリーナイト。仮免取得のその日にヒーロー活動を開始するなんて、すごいですね」

 

「あ、どうもお疲れ様ですっ!」

 

 ぺこり、と頭を下げるダークマイト。じゃなかったジャアクマイト。開始前とは打って変わって丁寧な態度だ。

 

「あ、そっちが中身入りの方なんですか? ……その姿はもうやめていいんじゃないでしょうか。いつもの可愛い姿のほうが僕は好きですよ」

 

「えー? もう、しょ~がないな~っ! はいどーぞ、これがボクの最高に可愛いプリティフェイスだッ!」

 

 ぶわっとジャアクマイトの身体を形作っていた何かが剥がれ、中からメスガキが出てきた。マトリョーシカ人形もびっくりだ。声も野太くてエエ声から天上の美声に戻った。

 

「いやぁ……貴方が善良なヒーローで本当に良かった。貴方に倫理と道徳を伝えたご両親には頭が上がりませんよ」

 

 目良はしみじみと呟いた。ホークスから注意点を聞いているのもあるが、本音でもあった。たった一家族の愛情の有無が世界の興亡を左右する重大事項なのだと……〝個性〟社会の不安定さを思い知ったとも言える。世界は変わらなければならないことがはっきりと可視化されているのだ。

 

「えへへぇ~……でしょお~? とっても素敵な両親だったんですよぉ~。お父さんはいつも明るくてボクとお母さんのことを何よりも大事にしてくれてぇ、それでいて周囲の人にも優しくてぇ」

 

 へらへら。くねくね。メスガキは嬉しそうに不思議な踊りを踊った。目良の心はそれを見て悲しみに染まった。完全なる擬態能力。悪用されればどれほどの犠牲者が出るだろう? 尋常でないパワーなど所詮は暴力でしかない。だがこの変身は他者の心を冒す毒となるだろう。不安と疑心暗鬼で社会を木っ端微塵に出来る恐るべき〝個性〟。

 

(この能力だけでも充分に破滅的なのに、能力全体からすると余技でしかないのが恐ろしい。……公安の接触に二つ返事で何もかもを了承したのはきっと『危険視』されることを避けるためなんでしょうね……)

 

 あっさりと公安にこの変身能力の存在を明かしたのも意識しての事だろう。あとから判明すれば消えない疑心暗鬼が残るからだ。目良は人がいいのでメスガキの延々と続く家族自慢を最後まで聞いてあげた。幼い頃のほんの一時の蜜月。それを(よすが)に必死に頑張る少女の、他愛のない自慢話。いつまでも、いつまでも聞いてあげたいと思った。目良が温かな雰囲気でうんうんと聞いていることをどう捉えたのか、メスガキは少し照れくさそうな表情をして話を区切ったので、気になっていることを聞いてみた。

 

「そういえばそっちの娘が出たときは貴方がジャアクマイトの内側? から出てきたと思ったんですけど……いやはや、ハリボテはそっちだったんですねぇ」

 

「「失礼なことを言わないでくださいっ! 誰がハリボテですか!」」

 

 無言でぼーっと突っ立っていたほうのメスガキが急に動き出し二人のメスガキがハモる。当然手動なので虚しい一人遊びである。

 

「す、すみません……ええと、それどうやって消すんですか? あれ? どっちがどっちなんです?」

 

「消す!? そんな、ボク消えるのか……?」

 

「いやそっちが本体でしょ! ボクがやるやつだろそれッ! ずるいぞッ!」

 

「なんか消しちゃうのかわいそうですね……」

 

 自我がある存在がこの後消されてしまうと考えた目良はしょんぼりしてしまった。それを見てメスガキは焦りだした。メスガキのこれはパフォーマンスなので他者にネガティブな感情を想起させては本末転倒である。悲壮感が出ないように明るく演出したつもりだったのだが、失敗したようだ。

 

「あ、あー! じゃああれやります! ●ュー●ョ●!」

 

「え?」

 

 メスガキ二人は顔を見合わせ頷きあうと例の掛け声とともに完璧にポーズを決めた。「はッ!」といって光ったあとそこには凄まじいオーラを纏うメスガキが一人ポーズを取っていた。

 

「……え? 本当に?」

 

 バチバチと迸るエネルギーを纏いながら金色に輝くメスガキ。いや●ュー●ョ●じゃないのかよ。●ーパー●イ●人じゃねえか。

 

「はい! 消えずに融合して一つになりましたよ、もう一人のボクと! 感じますか? このあふれる超パワーを」

 

 何がもう一人のボクだ。あふれる超パワーとかもハッタリである。〝個性〟で演出しているだけで実際にパワーが増したわけではない。ただしメスガキは普段から本気を出していない。そしてこういうしょうもない演出によって出せる力の度合いを増やしているため、本人以外には普通にパワーアップしているように見える。

 

「は~……本当に多芸ですねぇ……」

 

 目良さんはすっかり信じてしまった。そしてそのタイミングで会長がやってきて話は有耶無耶なまま終わってしまった。会長が来たのでバチバチするのをやめたメスガキを見て、会長はちょっと残念そうな顔をした。なに笑とんねん。

 

「おまたせ。ホーリーナイト、初仕事……正式なもの、ということだけれど、初仕事お疲れ様」

 

 目良は内心でぎょっとした。公安委員会会長が「おまたせ」みたいなフランクな喋りをするのは初めて見たし、軽々しく労いをかけるようなことはない石のような女だったからだ。それが今、まるで親戚のおばさんが労うかのような態度で接している。そうしたくなる気持ちはとてもよくわかるのだが、実際にそうするとは思っていなかった。

 

「目良も良くやってくれたわね。大きなトラブルもなく恙無く進んだのは貴方を始めとしたスタッフ一同の尽力によるものでしょう。今後も期待しているわ」

 

 今度こそ態度に出てしまった。ぽかーんと口を開けてアホ面を晒してしまう目良。

 

「あーあー。見てくださいよこの表情を。これがあなたの今までに対する評価ですよ? 反省しましょうね」

 

 メスガキは目良の驚愕を見て会長が普段どのように周りに接しているかが大体わかった。じとーっと会長を見つめるときまりが悪そうに目をそらされた。

 

「……ええ。表情に出るほど驚かれるとは思わなかったわ。部下を蔑ろにしてきた証拠ね……」

 

 会長の脳内予想だともう少し気軽な話ができるはずだった。だがその予想は外れ、目良はまともに会話ができそうな状態ではなくなってしまった。ああはならないと誓ったはずの男と同じことをしていたことを突きつけられてしまった。

 

「ふぅ……それで、あなたから見て気になったヒーローの卵は居たかしら? ぜひ聞きたいわ」

 

「え~? 皆一生懸命頑張っててよかったと思いますッ! 〝個性〟はやっぱり人助けに使ってこそですよね!」

 

 メスガキにしては良いことを言う。逆説的にジャアクマイトはマジでクズだったな。演技で良かった。悪党をぶちのめすとスカッとするんですよ! とか言い出したら怖すぎるからな……。

 

「そうね……あの、『ジャアクマイト』についてなんだけど……ホーリーナイトはオールマイトに思うところでもあるのかしら。なんというか、ずいぶんとカリカチュアしていたように見えたのだけれど」

 

 会長は大人なのでぼかした物言いをしてくれたようだが、簡単に言うと『お前ずいぶんとオールマイトを愚弄してたじゃん』ということである。とはいえ会長は叱るつもりはなく、むしろオールマイトに叱られそうなら庇うつもりで意図を聞いておきたかった。

 

「それはもういっぱいありますよぉ~。なんですか『オールマイトちゃん』って。ボクはあの人間不信おじさんの後継者じゃありません!」

 

「あら……でも貴方はまさに『後継者』なのよ。次期No1ヒーローさん」

 

 デビューしたらすぐにトップ層に食い込むだろうことは殆ど既定路線だ。本人にも意欲があるし、世間的にも期待の声は大きい。特に情報操作などせずともいい感じの流れになっていて公安としては非常に都合のいい話でもある。本人のプロデュース力の賜物だ。

 

「まさか学生をチャートに乗せるわけでもないでしょうに~。ボクの卒業までにはエンデヴァーがNo1の座についてるでしょ流石に~。後継って言うならエンデヴァーの後継になるはずですけど~?」

 

「まぁ、筋道で言うならそうなるわね。でも大衆が求めているのは『平和の象徴の後継者』なのよ」

 

「違いますよ? 大衆が求めているのは都合の良い奴隷です。自分たちの平穏が維持されるなら誰がその奴隷になろうが気にしないでしょうっ!」

 

 もちろん実際に触れ合えばその人柄なども気にするようになるだろう。だが大抵のヒーローは画面の向こうの現実感のない存在だ。地元で治安維持をしているヒーローなどにお中元を送ることがあっても、オールマイトに送るやつはめったに居ない。同じように『お世話になっている』はずなのにだ。

 

「……恐ろしいことをサラッと言うわね。一面の真実ではあるでしょうけど」

 

「まぁ~? お互い様のギブ・アンド・テイクというやつですよっ! ヒーローは税金で養われていますし、好き放題〝個性〟を使っていいという特権を持ってるんだからそのくらいはね? でもこの社会のために本当に頑張っていて、真に平穏を約束してくれているのは『オールマイト』じゃなくて『名も無き警察庁職員の皆さん』ですよねっ! 市民たちと同じに生まれ持った〝個性〟を封じ、公に尽くす! どうして人々はこの高潔さがわからないんでしょうね!」

 

 個性を使ってはいけないよ。それが分からないなら個性を使って痛めつけて分からせるね。ヒーローはそういう存在だ。公安を含む警察庁職員は違う。個性を使ってはいけないよ。実際我々は使ってないよ。そういう組織だ。武力を管理しているのは個々人ではなく『法』であり、違法行為を行えば市民と同じように罰される。

 

「制度そのものの歪みは様々な識者や学者が何度も指摘し、しかしながら有効な代案を出せなかった問題ね。何といっても、今も対処療法の最中なのだから。だからこそ貴方には期待しているわ」

 

 一方本来違法である行為を特別に個人に許可されるのが『免許』だ。やってはいけないことを『免』じ、それを行う権利を『許』すことだ。ヒーローとは『違法行為を許可されたもの』である。その始まりが、そうだから。人気と武力で無理やり違法行為を認めさせたのだ。正しさなど黎明期のヒーローには存在しなかった。そこにあったのは『善行』であり『正しさ』ではない。だからこの世界は今も『間違い』続けている。

 

「だからやるべきことは〝個性〟の解放なんですよっ! 無規律に使わせるのではなく、管理を進めながら段階的に解放していきましょうっ!」

 

「言うは易く行うは難し、そうでしょうホーリーナイト。私だって自分の〝個性〟を思いっきり使ってみたいと思ってるのよ?」

 

 〝個性〟の使用禁止。恐ろしいことに大抵の職員は死ぬまでこれを守る。そして大衆は誰もそんなことを知らないし、職員たちも誇らない。『当然』のことだからだ。『アピール』しなければならない『ヒーロー』とは違う。

 

「そういった〝個性〟由来の願望はそのうちなくなりますよぉ。必ずそうなりますっ!」

 

「ずいぶん自信たっぷりに言うわね。そんな事ができればノーベル個性賞ものよ?」

 

「必要ならボクが取りますよ。必要ならね」

 

「まぁ……頼もしいわ。学業も非常に優秀だと聞いているけれど、研究も得意なの?」

 

「人体についてはそろそろ一家言あると言ってもいいんじゃないでしょうかっ! 素晴らしい先達に恵まれましたのでっ!」

 

「ああ……『リカバリーガール』ね。暇さえあれば彼女の手伝いをしているらしいじゃない」

 

 寮になってからは教師陣との関わりも増えている。響香やヤオモモが自主練している時などはメスガキは割と暇を持て余すのだ。メスガキが居ると気が散るからね……。特にリカバリーガールは定期的に時間を取ってメスガキの相手をしている。情もあるが、メスガキが未来の医療に齎すであろう莫大な貢献を見越してのものでもある。

 

「早く引退させてあげたいですからね~。縁側でお茶でも飲みながらボクの作ったお菓子を食べるのが楽しみだって言ってくれたんですよぉ~」

 

「ふふ。そうなるように一緒に頑張りましょうね。……引退、か」

 

 会長もそろそろ後進に引き継ぎを考えなくてはならない。筆頭の男は今そこでぼへーっと会話を聞いている。一応正気には戻ったようだが会話に入るタイミングが掴めていないのだろう。

 

「来期はどうなるかしらね。というのも『オールマイト』の神野の件の貢献度をどう算出するか悩みどころなのよ。事件解決に多大な貢献をしたわけだけれど、こちらの段取りは粉々になったわけだしね。学生を矢面に出そうだなんてオールマイトが許すはずがないことをもう少し重大に考えておくべきだったこちらの過失ではあるのだけれど。それを踏まえて機械的に評価するならそれなりの貢献度、という感じになる見込みかしら……来期でオールマイトがNo1にならなかったら公安の基準が疑われるでしょうね。あなた達はどう思う?」

 

 神野で強力な(ヴィラン)を撃破し、その代償に力を失いつつあるオールマイト。非常にヒロイックで、現在も続々と支持の声が届いており、支持率はぶっちぎりになる見込みだ。ただ、社会貢献度のほうがチャートへの影響が大きいのでオールマイトが1位になるかはまだ未集計だ。というよりエンデヴァーの貢献度が多大であることが大衆に分かりにくいので仮にしっかり計算してエンデヴァーが1位になったらどうすればいいのか、ということだ。つまり今、そうなりそうな見込みなのだ……。

 

「その件ですか。僕はやはり工作なんかは辞めたほうがいいと思いますけどねぇ。慣れないことしてミスったら事でしょう。今まで通り粛々と集計すべきかと。それが大衆の意に沿わず苦労するとしても、我々が楽になるために不正をするのは違うと思いますね。世の中が不必要に乱れるということであればやむなしですが、この件は我々がバッシングされるとかそういう話でしょう」

 

 仕事の話になったので復帰した目良が会話に入ってきた。ランキングの工作は今までも殆ど行われていない。裏で犯罪をやっているヒーローをあらかじめ除外した、位が関の山で、順位を入れ替えたことなどない。そんな必要はなかったからだ。オールマイトがトップで、エンデヴァーがNO2。ずっとそうだったから。この件で公安の信頼が揺らぐか? というと別にそんなことはない。なぜならヒーロー公安委員会にはそもそも大した信頼などないから。信頼されているのは、信頼が重要なのは『ヒーロー』なのだから。

 

「目良がそう言ってくれるのであればそうしましょうか」

 

 そもそも会長が気を遣おうとしていたのは眼の前の目良を筆頭とした部下たちのことだ。ただでさえ評価などされない汚れ仕事なのにバッシングまで受けさせていいものか、という気遣いだった。

 

「そんなの『オールマイトは引退間近だからランキングからは除外します』で良いじゃないですかっ! それかオールマイト本人に辞退でもさせればいいでしょ~! なんならボクから言っておきましょうか」

 

「え?」

 

「だからぁ、ボクが『来期はエンデヴァーをNo1にして盛りたてていきたいからチャート辞退してください』ってオールマイトに言えば普通に受けてくれると思いますけど?」

 

 オールマイトもぜひそうなってほしいと思っているので大喜びするだろう。オールマイトにとって重要なのは『平和の象徴』であることであって『No1』はおまけでしかない。むしろこうやって特別に辞退することで『平和の象徴』感が高まるとすら考えるかもしれない。ついでに『No1から陥落するオールマイト』という構図にならなくて済むので公安的にも大助かりである。

 

「……本当? ぜひお願いするわ。……なんだか不思議な関係ね、あなた達。いがみ合っているのか信頼し合っているのかわからないわ」

 

 メスガキは少し考えるような仕草をしたが、すぐに嗜虐心丸出しのにやにや顔になった。

 

「まぁ先生と生徒ですから~。あのおじさんがなにか言いたげに寮のそばまで来てはトボトボ帰るの見てるとなんかボクが悪いコトしてるみたいな気分になるので、頼み事してチャラにしてあげるのが良いかなって思っただけですよっ! くすくす♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みなさんお疲れ様でした。長らくおまたせしてすみませんね。合否の発表の前に採点方式について説明させていただきます』

 

 集計が終わり放送が始まった。いよいよ結果発表の時だ。

 

『えー皆様の行動は要救助者のプロたるHUC(フック)の皆様と、我々ヒーロー公安委員会による二重の減点方式で見させていただきました』

 

 クソナードはやっぱり、と思った。『試験官は採点に関わっていない』。

 

『救助向けの〝個性〟の方々はかなりもどかしい時間を過ごしたかと思います。戦闘が長引いたのでこちらの都合で延長させていただきましたのでね……加点はありませんが……皆様の必死の要救助者の探索は委員会一同、これからの皆様の活躍に否応なく期待を寄せるものでした。誇ってください』

 

 これも予想通りだ。『ジャアクマイトを倒すまで試験は終わらなかった』。

 

『戦闘……でかい声で喚いてたんで聞こえた人も多いかと思いますが……『ジャアクマイト』についてです……しょうもないパロディですが、皆様は彼を見てどう思ったでしょうか。勝てない、そう思ったのではないでしょうか。しかしあなた方がヒーローになれば、明日オールマイトが急にデビルマイトなどと名乗って(ヴィラン)になったら戦わねばならないことを覚えておいてください……それでは合格者の一覧を表示します……』

 

 勝てない(ヴィラン)が現れたらどうするのか。常に考えておかなくてはならない。真正面から戦うだけではなく、出来ることはあるはずだ。ヒーロー公安委員会は常に考え続けることを求めているのだ、と緑谷出久は思った。

 

「しゃ! あったぜぇ!」

 

「わ。受かったぁ!」

 

「ふー。ドキドキしたぜ」

 

「おお! 合格だ!」

 

 雄英高校の一同は皆受かったようだ。

 

「お……おおおおおお!?」

 

 かっちゃん、驚愕! 受かってんじゃねえか!! クソガキがァアアアア!!!! 

 

「……おお! 爆豪くんの名前もあるな! やはり新斗くんの減点やジャアクマイトの言葉はハッタリだったか!」

 

 ちなみに減点自体はされてます。メスガキがやったわけじゃないだけで。当然だよなぁ?

 

『皆様ご確認いただけましたでしょうか……続きまして採点内容が記載されたプリントをお配りいたします。ボーダーラインは50点となっており、採点は減点式です。……50点ちょうどだとギリギリ合格、ということですね」

 

「65点かぁ……あんまり良くなかったみたいだ」

 

「俺87点! かなり高得点じゃね!?」

 

「わ! ヤオモモ98点!? むしろ何で引かれたの?」

 

「救助活動は一刻を争うので簡潔な言葉を使用し時間を短縮してください、とありますわ……」

 

「しゃ、喋り方ぁ……? 100点出したくなくて無理やりひねり出したんじゃ……」

 

「むむむ……! 86点……! 瀬呂くんに負けてしまったか……不甲斐ない! 全体的に固すぎたようだな……」

 

「僕は83点……行動は的確なのに情に流されすぎだって……反省しなきゃ……」

 

 反省できるのだろうか。クソナードは不安になった。きっと何度同じ状況にあっても同じようにしてしまうのではないだろうか……訓練ですら冷徹な判断ができなかったのだ。

 

「なぁなぁ爆豪は何点だった? 見せてくれよ。ちな俺65点。割り切り方は悪くないが割り切りすぎ、だってさ」

 

 発電機をやったり耐電性を活かして電線がショートする危険な場所に対処するなど要所要所では活躍しているので合格自体はできた。

 

「爆豪はいつも態度デケェからなぁ! さぞかし高得点なんだろうなぁ! ちなみにオイラは88点だぜ!」

 

 高得点なので自信があるのだろう峰田はだまってプリントを見ているかっちゃんに絡みに行った。高得点だと(クソナードに)見せびらかすはずなのでおそらく大したことがないのだろう、とあたりをつけたのだ。

 

「……」

 

 無言でプリントを見せてくるかっちゃん。

 

「50点ぴったりかぁ……」

 

 気の毒すぎてとても突っ込めねぇよ……それが峰田の偽らざる気持ちだった。ネタに出来ねえ。「ギリギリじゃねえかワハハハ!」とか「受かって良かったな!」とか色々と思いつく言葉はあるのだが、無の表情でプリントを見せてきた爆豪があまりにもつらい。見ているだけで悲しくなってくる。

 

「どれどれ……総評:判断力には優れているが救助とは生命だけを救えばいいというものではない。最優先が生命であることは間違っていないが、心を無視していい、ということではない。履き違えず健全なる成長を望む……せ、説教されてる……しかも雄英でも何度も言われてるやつ……」

 

 上鳴は総評を読んで納得した。そのとおりじゃん。肉倉先輩にも言われたばっかじゃん。まぁ、運も悪かったのだろう。流石に死にかけの相手に暴言で対応したとまでは思わない。態度は悪かったのかもしれないが必要な言葉はかけたはずだと信じていた。つまりトリアージ緑ばかり見つけてしまったのだと思った。そうです。空から探したからね……。

 

「これなんかあれだな。ギリギリ50点残してくれたんじゃねえか? 作為的なものを感じるぜ」

 

 かっちゃんが無言なのはそれを察してしまったからだった。欠点は態度一つ。そしてそれを理由に落とされはしなかった。何故ならば優れた機動力で縦横無尽に駆け巡り、周りに情報をとばし、沢山の現場で大量の対応をしたからだ。

 

「あ、峰田も思った? なんか減点理由の後半-0.2とかなってるもんな。指摘内容は殆ど前半と同じなのに」

 

 であるがゆえに暴言という減点機会が大量の現場で振りまかれ、それが不合格ラインまで行くという珍事になったので慌てて点数を調整されたのだ。凡人であれば数件の現場にしか対応できないため、暴言だけのマイナスでは落ちない見込みだった。だからこそその非凡さを認められこのような『特別な対応』で合格をさせてもらったわけだが、かっちゃんのプライドは木っ端みじんこだよぉ……。落ちたなら逆に強がれたんだけどね。見る目がねえ奴らだ! みたいに。でも見る目があるうえで『合格させたけど実質補欠な! お前の欠点はこれ!』と突きつけられたのでぐうの音も出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『合格者の皆さん、おめでとうございます。君たちはこれから緊急時には『ヒーロー』として振る舞うことが可能です。ただし、それは『ヒーローとして振る舞う権利』であって、義務ではない。この事をよく胸に刻んでおいてください。行動の結果の責任は、君たち個人の行動の一つ一つに生じることになります』

 

 プリントを配り終え、それを受験生たちが確認する時間を充分に取ったうえで、最後の放送が始まった。仮免を得たセミプロたちは今後、間違った判断をすればその責任を取ることになる。学生だからと甘やかしてなどくれないのだ。

 

『オールマイトの引退が現実となりつつある今、社会は変革期にあります。ただ一人の英雄にすべてを任せる時代は終わり、これからはオールマイトが背負っていたものを皆さん一人ひとりが背負っていくこととなります。我々ヒーロー公安委員会はそのバックアップを惜しみませんが、最後にものを言うのはやはり君たち一人ひとりの意思です。これからも皆さんが各々の学舎で精進し続け成長し、再び我々の前に本当の『ヒーロー』として立つ日を心待ちにしております』

 

 放送が終わるか終わらないかくらいのタイミングでメスガキがのこのこと歩いてきた。にこにこふわふわちかちかの上機嫌だ。

 

「みんなーっ! どーだったぁ? ボクは全員受かったと信じてるけどっ!」

 

「おかえり、リノ。こっちは皆受かったよ。リノこそどうだった? 仮免は貰えた? それとも本免許だったり?」

 

 べたーっとくっついてくるメスガキに好き放題されながらクールに話を進める響香。周囲にいる他校の生徒たちがぎょっとして見つめてきたが、雄英生たちは気付かなかった。

 

「あははっ! そういう話もあったらしいけどね~! 一次試験の間に軽く仮免貰ってその後はお仕事の話してたよっ!」

 

「まぁ! 早速の初仕事ですか! 一体どのような?」

 

 ヤオモモはまるで自分にいいことがあったかのようにぱぁっと笑顔になって興味津々に尋ねた。メスガキの頭をナデナデするのもだいぶ自然にできるようになっている。

 

「演劇のお仕事かな~!! どういうものだったかは~……ボクも実際に見た人に感想が聞きたいなっ!」

 

「なんか人質役やってたって聞いたけどマジ?」

 

 上鳴は直接は見ていない。なんかジャアクマイトとかいうしょうもないパチモンが現れたらしいことは周りから聞いて知っている。かっちゃんに詳しく聞こうと思ってたが失敗したのでメスガキに聞くことにしたようだ。

 

「まじまじ~! あの場にいたのは雄英の生徒だと……飯田くんとぉ、轟くんとぉ、緑谷くんとぉ、爆豪くんだね! あ、爆豪くんどこ? もっと大騒ぎしてるかと思ったのに静かだね?」

 

 轟は医務室に運ばれてるとメスガキも知っているので特に話題に出なかった。

 

「……」

 

 プリントをじっと見つめている茫然自失っちゃん。メスガキの嗜虐心丸出しのにやにや顔にも無反応だ。どこ? などと聞いているが普通に視界に収めて言っている性格の悪さである。

 

「キミって結構ナイーブだよねっ! ていうかだからそんなに攻撃的なんだろーねぇ! 繊細な部分を守るための自己防衛って感じ?」

 

「るせぇ……」

 

 ちょっと反応した。メスガキは瞳をきらりと輝かせ追撃を加えた。 

 

「ボクに減点の権限がなくてよかったねぇ~? くふふ♡」

 

「テメェ……!」

 

 挑発に簡単に乗っちゃん。こりないっちゃん。方言かよ。

 

「新斗さん! 『ジャアクマイト』についてだけど! ああいうパロディキャラそのものはいいとして、ちょっとリスペクトがなさすぎると思うんだ!」

 

 かっちゃんとの醜い争いが始まりそうな雰囲気を察知したクソナード。雄英の負の面を晒さないように軌道修正を試みる。その方法はなんと論戦のお誘いだ。多分かっちゃんも苛ついている部分なのでおそらく黙って成り行きを見守るはずだ、という予想があたり、爆豪は静観の構えを取った。かっちゃんがクソナードに内心で『敵わねぇ』と思っている部分はいくつかあるが、それを隠していないのがオールマイト知識についてである。

 

「ん? 『ジャアクマイト』はオールマイトが演じていたのではないのか?」

 

 飯田はそう思っていたらしくきょとんとしている。雄英生からしたらオールマイトはそういう事やりそうな人物なのだ。

 

「それっぽくはあったけど……あくまでぽいだけで中身はオールマイトじゃないね。新斗さんの『リミナルゲート』で再現したんでしょ?」

 

 クソナードの「ダークマター」の分析によるとそのくらいは出来るので、確信を持ってメスガキに問いかけた。

 

「……へー……分かる人にはわかるんだね。まだまだボクも未熟ってことかぁ。隠してたつもりだったんだけどな~……」

 

「外見は完璧だったと思うけど、仕草が全然違ったからね! 話を戻すけど、パロディする以上どれだけ思うところがあったとしても最低限の敬意が必要なんじゃないかな? オールマイトはきっと笑って許してくれると思うけどだからって何しても良いわけじゃブツブツブツブツ」

 

 また始まった……という空気になった。とはいえそこまで嫌がられてはいない。試験がとてもしんどくて全員精神的に参っていたのでむしろいつも通りのクソナードを見て安らぎすら感じていた。演技の被災者。偽物の死体。しかしそれらは確かにいずれ本物に出会うはずのものであった。

 

「ほっほーう。ボクと舌戦しようっての? しょうがないにゃあ……いいよ。まずジャアクマイトのあのキャラクター性は単なる嫌がらせじゃあないよっ! 必然性があってああなっている! すなわち、オールマイトの力や人間性への無条件の信頼、そんな物はもう消え失せた! それをはっきり伝えるためのものだっ! それにヒーローとしての第一歩たる重大な試験にファン目線を持ち込むことは『オールマイトの後継者』であるボクたち新世代のヒーローがやるべきことかな? ボクは違うと思うな。『平和の象徴』なんて無くても世の中を平和にすること! それこそが本当にオールマイトをリスペクトするってことでしょう~? ジャアクマイトは未来の平和につなげるためにああいうキャラクターになっているんだからむしろリスペクトの塊だよっ!」

 

 メスガキはクソナードのブツブツにも全く怯まない。早口でまくしたてるのはむしろメスガキのほうが得意まである。

 

「むむっ……そういう形のリスペクトもあるんだね……いやでもオールマイトが懸命に築き上げた『平和の象徴』という安心の柱を無遠慮に蹴るようなマネはやっぱりどうかと思う! もはや引退が秒読みだからこそ、そして今世界から象徴が失われつつあるからこそ、それを大切に繋ぎ止めて次代を紡ぐための土台にしていくのも大事なんじゃないかな! 新斗さんがジャアクマイトを通して言いたいことはつまり『平和の象徴への依存からの脱却』だよね? でもそれは一足飛びに実現できることじゃあないんだから、『平和の象徴』の素晴らしい点は引き継ぎつつ、信頼と甘えを区別する、というアプローチが現実的なんじゃないかな!」

 

 クソナードも負けていない。ファン目線を引っ込めて真面目に考えてみたが、結論は大して変わらなかった。

 

「思ったよりずっと真剣に考えてくれて嬉しいよっ! ただの厄介ファンの言いがかりじゃなかったんだねっ! では反論の反論と行こうか! その『象徴論』こそが現代を歪ませた原因だよっ! 誰もがボクやキミのように強くあれると思うかな? キミは健全に受け取ったからきっと想像もできないんだろうけどさぁ……『平和の象徴』の半分は『恐怖』で出来てるんだよ? 『言うこと聞かないやつをぶん殴って相手に言うことを聞かせる』っていう暴の論理だっ! まぁ黎明期から消えなかった閉塞感をボコボコに殴って蹴散らした功績そのものはボクだって評価しているけど、いい加減アップデートすべきでしょう?」

 

 だばぁと次から次へとメスガキ論をぶちかまされる緑谷。以前から考えていたメスガキと今考えながら喋っているクソナードでは土台勝負にならない。早くも言葉の勢いが衰えてきた。なにせ緑谷はまさにジャアクマイトを『殴って黙らせた』わけだし。

 

「それは……そうだけど、あのやり方じゃあむしろ絶望を煽るんじゃないかな? ……新斗さんだって分かっているから気の抜けた演技で中和したんだよね?」

 

「そうだねっ! でもかつての『オールマイト』がそうだったように、時には劇薬も必要でしょう? 今後重要になるのは個人あるいは少数の巨大な力じゃなくて、無数の小さな力を集めたものなんだからついていけない人を切り捨てるべきじゃないのはそのとおりだけど、だからこそ『絶対的な個』に価値を感じる思考そのものを変えていかないと! 『(ヴィラン)から見たオールマイト』のカリカチュアである『ジャアクマイト』を作り出したのはそのためだよっ!」

 

 オールマイトがいるから大丈夫。その思考をジャアクマイトに適用すると『ジャアクマイトがいるからおしまいだ』となる。そんな思考はヒーローとは言えない。(ヴィラン)が強いから諦めるのか? 弱くて倒せるから戦うのか? あるいは逆に、絶対に死ぬけど戦えと強制するのだろうか。

 

「……ジャアクマイトに確かなリスペクトが込められていることは分かったよ。『オールマイトが社会に牙を向いたらどうするか』っていう危機感を突きつけて一人ひとりに当事者意識をもたせようとしたってことだよね。まさにオールマイトがいつも言っていることだ。『私が戦えているのは皆さんのおかげだ』って」

 

 メスガキが言っているような問題点はオールマイト本人が一番良くわかっているということだ。だが、いかに彼とて問題の解決法まで持っているわけではない。八木俊典は馬鹿ではないが、政治は全くできない。国民栄誉賞を固辞したのも世間で言われているような高潔さだけではなく、政治に関わりたくない、関わっても上手くいかないだろうという思いがあったからだ。平和になれば色んな賢い人が何かいい方法を考えてくれるだろう! ……などと考えていた八木俊典の姿はお笑いだったぜ。彼の人間不信、政治不信は故なきことではない。

 

「どうしてボクがキミに殴られたジャアクマイトを吹っ飛ばしたか分かる? パンチが強かったからじゃない。キミが考えることを止めなかったからだっ! 最も忌むべきものは『思考停止』なんだよっ! 『オールマイト』が正しいかどうかは関係がない! 『それ』が毒になるか薬になるかは、投与された側の問題だからだっ! そして現状の『オールマイト』は『思考停止』させる毒になっているっ! 緑谷くん! 今まさにオールマイトが身を削って作り出した時間の余裕は無為に消費され続けた上、失われる寸前! 彼の功績に泥を塗らないように、なんて悠長にしている暇があると思うかい! 立ち止まることこそが泥になるとは思わないかなっ!」

 

 AFOがいなくても、社会の破綻自体はいつか来るものだった。いや、それどころかむしろこの件についてはAFOは破綻を抑え先延ばししていた側とすら言える。闇の支配者とも言える死柄木全は、悪ではあったが秩序でもあったのだから。あの社会のゴミがオールマイトに顔面を砕かれて支配者から転落した時にカウントダウンは始まった。敗北を予見した時、そうなるように準備していたのだ。

 

「時間がない、危機意識が足りないのはそのとおりだと思う……でもだからこそ僕らはオールマイトが残してくれたものを毒にしないように、ままならない現実を綺麗事で塗り替えないといけないと思うんだ。沢山の人に世の中はもっと良くなる、良く出来るっていう夢を示して……あっ」

 

 緑谷が出した結論はメスガキと同じだった。実践方式は違えども、目指す先は同じなのだ。

 

「ふっふーんっ! だからボクは『ドリームヒーロー ホーリーナイト』なんだよっ! 納得した?」

 

 にこーっと笑顔を向けるメスガキ。勝利の笑みだ。

 

「理解は出来たけど納得まではちょっと……新斗さんの事を否定するわけじゃないけど、やっぱり僕はオールマイトの残してくれた灯火を継いでいきたいから……」

 

 クソナードは苦笑した。舌戦では完全敗北と言っていいだろう。まぁ今更そんな事は気にならない。負けて負けて負けまくって生きてきたのだから。緑谷にとって大事なのは自身の勝敗よりも誰かが救われることだ。……『勝利しなければ救われないもの』との出会いは、すぐそこまで迫っている。

 

「むーっ……まぁキミはそうだろうね。『ジャアクマイト』を今後使うかは分からないけど、キミの言葉はちゃんと覚えておくよ、緑谷くん!」

 

 議論で『勝利』したのはメスガキだったが、折れたのもまたメスガキだった。どちらも言葉は相手に届いたのだから、WINWINと言っても良いかもしれない。話に区切りがついたのを察したクラスメイトたちは口々に感想を言い合った。

 

「……新斗も緑谷もなんか難しいこといっぱい考えてるんだなぁ」

 

「ウチは『ジャアクマイト』は見てないけどなんとなくどんな言動取ったか分かったわ。(ヴィラン)から見たオールマイトか……さぞかし絶望的な敵だったんだろうね」

 

「オールマイトがもし敵になったら、なんて考えたこともありませんでしたわ。反省しきりです……」

 

「俺もだ! 思考停止か……厳しくも正しい指摘だと思うぞ!」

 

 わいわいと騒いでいるといつの間にかそばまで来ていた相澤が口を開いた。

 

「なかなか聞き応えのある議論だったぞ、お前たち。いずれそういったディベートの授業もあるから聞いていたものたちもそれぞれ考えておくといい」

 

「雄英生はやっぱ進んでるなー! ホーリーナイトだけじゃなく……緑谷くん! だったよね! すごいパンチの! 君はなんてヒーロー名なの?」

 

 Ms.ジョークはメスガキだけでなくクソナードにも興味を持ったようだった。プロヒーローにヒーロー名を尋ねられる。将来の同僚、仲間、そしてライバルとして覚えておく価値があると認められたということだ。

 

「え、あっ……『デク』です! 『エールヒーロー デク』です!」

 

 胸に熱いものがこみ上げる。仮免を取得した喜び。ヒーローとしての第一歩を歩き出したんだという実感。未だ触れたことのない、本物の死者との出会いへの、悲しみと恐怖。被災者たちの嘆きと苦しみに触れたときの、不甲斐なさ。それら全てが渾然一体となって胸の中で鼓動を始めた。お母さんに、そしてオールマイトに、無性に会いたい気持ちだ。こういうときに会いたいと思われない本当のお父さんは一体どういうことなんでしょうね。




独自設定とか

・あの場で明かすべきじゃないよね:原作だと二次試験の100人は仮免取らせることが決まってたので教育も行われたけどね。
・映画に出るヒーロー:アクションは本人がやれることが多いので一概にダメというわけではない。
・ジャアクマイトのセリフ:解答と合わない変なとこがあったら教えてください。修正します。
・キチナード:頭おかしいのは公式。
・●ュー●ョ●:メスガキとメスガキでメスガキになる。
・●ーパー●イ●人:とっくにご存知なんだろ?
・チャートのあれこれ:ジーニストが支持率1位でもNO1取れてなかったから。
・メスガキのスタンス:あくまで彼女視点の話。
・公安死ぬまで個性使わない:リデストロとの戦いで個性を使った様子がないので。銃構えてるけど。
・リカバリーガール:メスガキをとっても可愛がっています。
・公安のチャート工作:まぁ工作もクソもヒーロー公安委員会が出してるチャートなんだから最初から公平性も透明性もないんだけどね。やってる本人たちは真剣。
・100点出したくなくて無理やりひねり出したんじゃ:ご想像におまかせします。
・50点っちゃん:補習編はあんまりやる意義を感じなかったのでカット。納涼ゴチンコ祭はどうしようかな。
・轟とハゲの点数:轟は75点くらい。ハゲは70点くらい。どちらも上鳴のやや上位互換的な評価。
・演劇のお仕事:ヤオモモは自分のCMのことを思い出してしょんぼり顔になった。
・ジャアクマイト情報:救護所には不安を与えるような情報は入ってない。
・クソナードのみやぶる こうげき!:クソナードはジャアクマイトのしょうたいをみやぶった!
・舌戦:普段やられたらうんざりしたと思う。皆へこんでたので逆に元気になった。
・キミに殴られたジャアクマイトを吹っ飛ばした:クソナードが気にするかと思ってそういうことにした。
・響香ちゃん:口田くんと一緒にめっちゃ必死に被災者探ししていた。公安も平謝りです。
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