ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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前回の更新が一週間前……?
嘘でしょ……


『人生最大の幸福は、愛されているという確信である』

 

 クソナードの名乗りの後、傑物高校のメンバー(まだちょっと具合が悪い真堂以外)と話したり、やたら慕われて心配されている真堂に傑物高校の面々がプルプルしながら笑いをこらえたり、Ms.ジョークが大爆笑したりといろいろあったが、夜嵐に支えられながらまだちょっとふらつく轟が帰ってきたのでお開きとなった。士傑高校と傑物高校と雄英高校で何かできたらいいね、等と教師陣が盛り上がっていたのでそのうち合同演習でもあるかもしれない。一同はバスに乗り込み轟の介抱をしつつ寮へと帰ってきた。

 

「たっだいまーっ」

 

「まだ慣れねえなぁ、それ」

 

「おかえり、新斗」

 

おかえりなさい……

 

 メスガキは寮をもう一つの家だと認識しているので玄関に入った瞬間にこのように「ただいま」と言うのでなんとなくロビーに待機する者が増えてきている。おかえりと言ってあげるためだ。超ニンデキ~。特に今返事をしてあげた障子と口田はメスガキが出かけているときには暇さえあれば大体ロビーに居て二人(+1匹)でのんびり過ごしたり、レンタルしたトレーニング器具を二人で試したりを良くしている。

 

「わりぃな、新斗……」

 

「なにが~? 轟くんは以前ボクが炎をくれって言ったら何も求めずに出してくれたでしょう? どうしてボクがキミを〝個性〟で運ぶことに負担を感じると思うの?」

 

 メスガキの〝個性〟で形作られたふわふわと柔らかなクッションに横たわって運ばれている轟。仮免取得により体調の悪いものを〝個性〟で運ぶことも気軽にできるようになったのだ。

 

「言ってることがイケメン! イケメンがイケメンの介抱してるぅ~!」

 

 私も運ばれた~い! などと葉隠がくねくねしだしたのでメスガキは葉隠も〝個性〟でひょいと持ち上げて運んであげた。最初は大はしゃぎしていた透ちゃんだったが寮のロビーについてもメスガキが降ろしてくれないので今は気まずそうにモジモジとしている。本当にアホ。降りるって自分で言い出さないとメスガキはいつまでも君のためにクッションを出し続けちゃうぞ。轟の部屋は5階、そしてこの寮は気密性もしっかりしているので気圧ダメージの影響が残っている今しばらくは開放的なロビーでゆっくりしたほうが良いと判断されソファーに寝かされた。

 

「医務室でイナサって人としっかりお話できたかな?」

 

 メスガキはソファーで轟を膝枕して頭をナデナデしながら問いかけた。轟は面食らったが、まだ身体がだるかったのでされるがままだった。そのまま医務室での事をほわんほわんと思い浮かべようとしたが周囲の驚きで強制停止させられた。

 

「えっ! ど、どーゆーこと!?」

 

「お前らいつの間にそんな関係に!?」

 

「嘘だろ新斗ォ! やっぱりイケメンがいいのか!?」

 

「な、何? どしたの皆」

 

 メスガキは周りの剣幕に驚いたらしくキョロキョロとあたりを見回し不安そうな表情になった。

 

「リノが急に轟を膝枕したからびっくりしてるんだよ。恋人みたいな距離感じゃん」

 

 ぽふっとメスガキの横に腰掛ける響香ちゃん。何だ? ナワバリバトルか? 

 

「エンデヴァーとも仲良しっぽいし、これはもしかしてもしかしちゃうやつ!?」

 

「きゃー! リノちゃんがまさかの彼氏持ち一番乗り!?」

 

 ぴょんとクッションから飛び降りた葉隠はそのままぴょんぴょんと周りを跳ね出した。うさぎのゆわいちゃんより落ち着きがない16歳。

 

「えぇ~……全然そういうつもり無いけど……一緒のお家に住んでる家族なんだからこのくらいよくない?」

 

 きょとんとしながらメスガキは周囲に問いかけた。その表情と言葉に一同はちょっと恥ずかしくなった。お前そういう話大好きのくせにテンション合わせてくれないのかよ……。

 

「! じゃあオイラが具合悪かったらオイラにも膝枕してくれんのか!?」

 

 ここぞとばかりにハイハイハイと手を挙げながら身を乗り出してくる峰田。

 

「それはもちろん~。轟くんは今しんどいんだからあんまり騒いじゃダメだよ~? 静かにねっ」

 

「え……マジでしてくれるの? オイラを? 膝枕?」

 

 努めて声を抑えるような必要はなかった。峰田は震えてか細い声しかでなかった。それほどの衝撃だった。

 

「? なんで同じ事二度聞くの? してあげるよ~。……あ、峰田くん膝枕してもらいたいから体調崩そうとしてる? ダメだよそんなの~。わざとだったらしてあげなーいっ」

 

「オイラあんまり病気しねえんだよな……くそっ……!」

 

 峰田は本当に悔しそうだ。周囲は峰田がここまで悔しがる姿を初めて見たのでちょっと驚いた。こんなことで? という驚きが8割くらい含まれているが。

 

「というかお前『もぎもぎ』がくっつくんじゃねえか? ……そういえばお前寝る時の枕とかどうしてるんだ?」

 

「頭にあるうちは跳ねないしくっつかねえ。もぐまでは『もぎもぎ』じゃなくて髪なんだ。だから膝枕もしてもらえるぜ!」

 

「謎物質すぎる……」

 

 本当にそう。その後轟を安静にさせるためということで介抱する一部生徒以外は自室に戻っていった。とはいえ皆心配らしくちょくちょくロビーに降りてきてはキッチンで食事を作りながら様子を見たりそのままロビーで食べたりしながら何かと気にしていた。何人かは家族と仮免合格のお祝いに外食をするとかで、少し申し訳なさそうにしつつも着替えて出かけていった。

 

「ひんやり柔らかくて気持ちいいな……お母さんにもしてもらいてぇ……」

 

 クソボンボンは超絶美少女に膝枕してもらっているときに別の女の話を出すという恐るべきボンクラさを発揮した。

 

「イケメンだと何言ってもサマになると思ってたけどこの絵面でマザコンっぽいこと言われると流石に貫通してくるなぁ……」

 

 幼女に膝枕してもらいながら「ママぁ……」みたいなことを言ってるからな……。人によっては恐怖すら感じる構図だ。

 

「轟くんって頭も温度がくっきり分かれてるんだね~。面白~」

 

 キッチンで夕食を作っている芦戸がメスガキの言葉の「も」という部分にぴくっと反応したが何も言わなかった。また恋愛絡みでロジハラされたらたまらないので。三奈ちゃんは割とトラウマを持ちやすい。

 

「俺もなー! 膝枕してもらいてぇけど! 風邪とかひいたことねえんだよなー!」

 

 上鳴は轟が心配なのか羨ましいのかそわそわうろうろとソファの周りをうろついている。それがわんこっぽかったので響香ちゃんはブフゥと吹き出したが、周りはなぜ吹き出したのかピンとこなかったので不思議がられた。

 

「なんとかは風邪ひかないってやつ?」

 

「上鳴くんは『帯電』するたび殺菌してるからね~。ウイルスも表面のタンパク質が電気で破壊されたら無害化されるし病気知らずなのはそのせいだと思うよ~」

 

「おぉ……そういうことだったのか! 昔からずっとバカは風邪ひかないって言われてたからそういうもんかと思ってたけど、違ったんだな!」

 

「なんか俺がすげえ性格悪いみたいになって悲しい」

 

 瀬呂くんは結構毒舌で無神経だから普通に気をつけたほうがいいと思うぜ。

 

「あっ。なんかゴメン……轟くんご飯どーする? おかゆでも作ってあげようか」

 

「そばがいい……温かくないやつ……」

 

 熱湯をぶっかけられて以来轟は温かい食べ物を避けがちだ。『膨冷熱波』も正直いつもビビりながら出している。母親との和解によりかなりマシにはなったが、やはり温かい食べ物にはいまいち食指が伸びない。顔にふわっと湯気が当たる感覚が、苦手なのだ。

 

「……まぁ食欲あるなら大丈夫かな……ざるそばね」

 

 メスガキはソファでなでなで膝枕したまま〝個性〟を使って背後のキッチンでそばを茹で始めた。明らかに手慣れている運用に感心した生徒たちから称賛の声が上がった。

 

「おぉ~。器用だなマジで」

 

「ウチには頼ってくれないの? リノ」

 

「響香ちゃんにはぁ、ボクのご飯作ってほしいなぁ~♡」

 

 隣りに座っている響香によりかかりほっぺたを響香の二の腕にすりすりと猫のごとく擦り付けるメスガキ。ちょっと寂しそうだった響香ちゃんがいつものクールな雰囲気に戻った。

 

「……おっけー、何がいい?」

 

「前作ってくれた丼のやつとか!」

 

 ありものをざっくり卵とじにしたまさに家庭料理って感じの名も無きどんぶりである。数日前響香が自主練で疲れ果てて食事抜きで眠ってしまった日に、深夜に空腹で目が覚めるとちょうどメスガキも起きていたので二人で夜食を食べた時のものだ。普段は料理上手のメスガキが2人分作っているのだが、その時は響香が作った。

 

「むむ……なんか気ィ遣ってない? あの手抜き丼はあくまでさっと作れるからお腹すいたときに出しただけでウチ料理できないわけじゃないから」

 

「ふつーに味付けが美味しかったからなのに~。じゃあれを手間ひまかけて作ってほしい~♡」

 

「わかった。楽しみにしとき。冷蔵庫見てくる」

 

 メスガキルームの冷蔵庫にはお菓子とその材料ばかり入っていて響香の部屋の冷蔵庫にはそれ以外の食材が入っている。エレベーターの方へ向かおうと立ち上がった響香の背中へ弱々しい声がかけられる。

 

「耳郎……俺の部屋の冷蔵庫にそろそろ食べねえといけねえ鶏肉とかの食材があるから良かったら使ってくれ……これ、鍵な……」

 

「いいの? ありがとー!」

 

 メスガキがすぐにお礼を言ってしまったので断ろうかと思っていた響香ちゃんはたたらを踏んだ。

 

「まぁ、うん……じゃあ貰うね」

 

 エレベーターで男子寮の5Fに到着した響香はソワソワしながら轟の部屋に入った。

 

(リノも轟も全然気にしないんだなぁ……ウチが変なのかな)

 

 どう考えても変なのは情緒の幼いガキンチョ二人の方なので響香ちゃんは自分を強く持ってほしい。

 

(鶏肉っていうか、鴨じゃん……しかもそろそろ、じゃないでしょ。期限今日だし)

 

 雑に冷蔵庫に放り込まれている調味料や具材を見るに鴨せいろを作ろうとしていたようだ。いくつかの鴨ロースの塊がごっちゃりと冷蔵庫を占領している。響香はそれらの材料をまとめて持っていくと自室へ向かい、卵等の轟の冷蔵庫になかった食材を持ってキッチンに降りて調理を開始した。その手際は言うだけあってなかなかに熟れている。

 

「つーわけでついでだし鴨せいろ風のつゆ作ってあげたよ。リノはもうちょっと待っててね。なんだろこれ……鴨と鶏の卵だからいとこ丼、かな」

 

 鴨せいろはてきぱきと作ったおかげでメスガキが麺を茹でている間に出来上がった。轟は目を輝かせて喜んでいる。

 

「うめぇ……耳郎は料理上手だったんだな、知らなかった」

 

「ああ! すげえなマジで! 音楽も出来て、料理もできるなんてよ!」

 

「別にこのくらいフツーでしょ。レシピ見ながら作れば誰でも出来るって」

 

 その後すぐに丼も出来上がり、鴨せいろ用の食材がたっぷりありすぎたので轟の許可をもらいその場に居た他の生徒の分も作ってくれた。称賛の声に満更でもない表情で応える響香ちゃん。やさしくてかわいい。

 

「女子の手料理……オイラ明日死ぬのか……?」

 

 峰田はガチで心配しているらしく本当に不安げな表情をしている。女子とこんなに密な交流をしたこと自体が初めてである。雄英に入って良かった! などとピントのズレた感動をしている。

 

「縁起でもないこと言わないでよっ! キミが死ぬようなことにはならない! ボクが守るからねっ!」

 

「あ、新斗ォ……」

 

 何きゅんとしてんだゴミブドウ。さっさとセクハラして空気をめちゃくちゃにしろ。上鳴と峰田は轟が女子に世話を焼かれている状態を放置したくなかったのでずーっとロビーに居たのでメスガキになにかとこき使われたが、その甲斐あって響香ちゃんの作るご飯に混ぜてもらえた。こういう言い方すると具材になったみたい。ちなみに丼も蕎麦も両方食ってる。高校生の胃袋はすごい。

 

「おっ……轟の介抱したら飯作ってもらえたのか。失敗したな」

 

 ちょくちょく様子見に来ていたが見ていただけのノンデリ男瀬呂は手元のカップ麺にお湯を入れながらしょんぼりとしている。

 

「いや、そんな何人も居てもしょうがないし、別にそういうつもりなくて成り行きだから……食材の大半が轟のだからお礼的な感じになってるのは否定しないけど」

 

「ん~結構カップ麺食べてる人多いよねぇ~……」

 

 男子はレトルトやインスタントになりがちで、ゼリー飲料で済ませてるものすらいる。イレ先の負の影響……。毎日真面目に料理を作っているのは男子ではかっちゃんくらいだ。

 

「手軽だし色々種類あるから結構飽きないんだよな。自炊は手間がなぁ」

 

「そうだな……俺も準備はしたんだが結局やらなかった……」

 

「轟くんそろそろ元気になった?」

 

「ああ……まだ少しぼんやりするが、問題なさそうだ」

 

 好物を食べて気分も上向いたらしくほんのりと笑顔を見せた轟にイケメンはなんかずりィなと思った峰田。

 

「イナサって人はなかなか強かったねぇ。ギャングオルカはまだ動けたと思うけど、サイドキックの人はガチダウンだったよ~。まぁ全員重り付きで〝個性〟封印のハンデ戦だったんだけど、だからこそそれと関係ない部分で倒したのは高評価だったみたい。轟くんもギャングオルカが褒めてたよ~。あと重り無かったら飛礫も全部防げたって強がってた。ふふ」

 

 その場にいるメンバーでワイワイと仮免試験の振り返りが始まり、話題はメスガキが聞いたギャングオルカの裏話になった。まぁプロヒーローの言うタラレバ話なんて全部冗談である。ギャングオルカも当然ガチ負け惜しみというよりメスガキと楽しくお話するためのエピソードトークみたいなつもりで話題に出したものだ。負け惜しみ要素自体は普通にあるけど。

 

「……俺は色々と反省しなきゃいけねぇ事があるみてぇだ。推薦入試の時にイナサにひでぇ事を言っちまったらしい。エンデヴァーにそっくりだったって言われたよ……」

 

 応える気力がいまいち無かったのと、話の流れがゴチャついたのでスルーしてしまった話題を今更蒸し返す轟。

 

「そりゃそうでしょ~。親子なんだからさっ! 似てるのが嫌だ、なんて不毛だよ~? キミのこれまでの全てが今のキミを形作ってるんだから、まずはそこを肯定してあげないと土台がふらふらぐらつくばっかりだよっ!」

 

「え……いや、肯定できねぇことだってあるだろ……態度悪かったこととか……」

 

「今キミは反省してるでしょう? 学びのために必要な行程だったと思うようにしよっ! 迷惑をかけた人達に対して居直れって言ってるんじゃないよ? 分かるよね! 完全無欠で失敗をしたことのない存在なんてものが居たらきっと誰にも寄り添えないよ。爆豪くんとかそういう鼻持ちならないとこあるじゃん!」

 

「なるほど。すげぇ説得力だ」

 

 峰田は思った。鼻持ちならなくはないが、爆豪より眼の前のメスガキのほうがそれっぽいと。なんか色々とズレてる女の子なのが峰田にはとても良く分かる。メスガキは峰田に対してどんな女子とも違う反応をするのだ。性欲に鈍感なのではない。むしろ理解度が高い。つまり嫌悪感を示さない理由はおそらく本人が尋常ではなく強いから……『身の危険を感じない』からなのだろう。

 

「そうか……間違いは否定するんじゃなくて、糧にしないといけないんだな……俺がもっと新斗みたいにちゃんとしてたらイナサにそう言ってやれたのかな……」

 

 あんたはエンデヴァーに似てると思った。でも変わった。エンデヴァーも変わろうとしてるなら、応援したい。態度悪くて、ごめん。そういった彼は、なにかに堪えるような表情だった。あれはきっと後悔だ。何かを憎むことに時間を使ってしまった後悔。とても良く分かる。あいつは、俺だった。だからきっと仲良くなれると、友達になれると轟は思ったのだ。

 

「ほら~まぁたやってる~。出来なかった後悔じゃなくてさぁ、次会うときに話したいことが出来たって思おう? ほら、再会が楽しみになってきたでしょっ!」

 

「そだね。轟ってちょっとネガティブなとこあるから、リノのこと見習うくらいで丁度いいと思うよ」

 

 いい感じの話なので空気を読んで黙ったが、峰田、上鳴、瀬呂は思った。イケメンってやっぱなんかずりィな、と。悩みもなんかかっこいいの何なの? 彼女が欲しいとか、勉強が不安とか、欲しいインテリアがあるけどカネがないとか、そういうことでも悩めよ! まぁ実際は轟もそういう身近な悩みを持っているけどね。「やべぇ買いすぎた食材どうしよう」とか。友達のお陰で、もう解決したけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいクソガキ。ちっと話がある。表でろや」

 

「え? 嫌だけど。ロビーで出来ない話なんて聞く気ないよ」

 

 響香ちゃんが食器を洗っていてメスガキから離れたタイミングを見計らい、爆豪は声をかけた。元気になった轟も部屋に戻り人気がなくなったロビー。そんな状況をわざわざ待ってまでなにか話があるようだが、すげなく断られてしまった。

 

「ハァ? いいから来いや」

 

「キミって時々すごく馬鹿だよね。なんでボクがキミの言葉に興味がある前提なの? ボクの時間の使い道はボクが決めるの。分かった?」

 

 メスガキはきっぱりとしている。爆豪の対人能力はクソ低い。クソナードであればこの誘い方でもついてくるのだが、普通はこのように断られて終わりである。メスガキはこのロビーで外食組の帰りを待つつもりでここに居る。普段ならさらに障子と口田も追加されただろうが、二人は現在トレーニングルームに行っている。索敵組だった二人は他の生徒と違って体力的に少し余裕があったためだ。

 

「……俺の家族の話だ……お前くれぇしか聞けるやつが居ねぇ。そ、相談乗ってくれ……!」

 

 言えたじゃねえか。聞けて良かった。メスガキ相手にしょうもない意地を張っても状況は悪化するばかりだとようやく悟りつつある爆豪は、絞り出すように話の内容を伝えた。

 

「もー。どうして最初からそうやって普通に頼めないのかなぁ。余計な時間を使って不要な恥をかいただけでしょ? ていうか中庭でいいよね。なんで表?」

 

「……中庭だと耳に聞かれんだろーが」

 

「次ボクの前で響香ちゃんのこと『耳』って言ったら反省文提出させるから。ボクが寮の管理人なの忘れてないよね? 共同生活する相手を無礼な渾名で呼び続けるつもり? ていうか響香ちゃんが理由もなくプライベートな相談を盗み聞きするっていう不当な疑いはどこからでてきたの?」

 

「テメェと俺が二人で話してるのは充分にみ……耳郎が聞き耳立てたくなるシチュエーションじゃねえのか」

 

「……? どゆこと? 分かんない」

 

「つまり……テメェを心配して、ってこった」

 

 かっちゃんはなんで俺がこんな事説明しなきゃならんのだと辟易としながらも説明した。そもそも男女で二人きりになる危険性とかこいつにあるのか?

 

「うーん……? 心配って何が……? 響香ちゃーん!」

 

「ん? なーに、リノ」

 

 洗い物の手を止めてこちらに視線を向ける響香ちゃん。メスガキの言葉通りこちらの会話内容は把握していないらしい。まぁそもそも常時つかうようなもんじゃないからね、イヤホンジャック。不意に大音量食らうと鼓膜にダメージ来るし。

 

「話聞いてたか!? 呼ぶなクソボケ!!」

 

 こうやって急に叫ぶアホも居るしね……。

 

「えぇ? プライベートな相談を聞くから〝個性〟で部屋作るけど気にしないでね、って言っておかないとそれこそ心配して聴きに来ちゃうよ?」

 

「……クソがよ!」

 

「悪態つかないと喋れないの?」

 

 その後響香ちゃんに事情を説明して中庭に出ると、メスガキは壁が透明な部屋を作った。響香ちゃんは爆豪の危惧通り心配して「聞こえなきゃいいなら見えるようにしといて」と要望を出したのでこうなった。

 

「はいこれでおっけー。で、相談って何? どんなアドバイスが欲しいの? キミって自己流大好きだからボクのアドバイスなんて求めてないと思ってたよ!」

 

 メスガキの〝個性〟で作り出したふかふかのソファに座った爆豪は落ち着かない気持ちだ。デザインがメルヘンすぎる……。座り心地が良いだけに文句を言うのも憚られて仕方なく話し始める。

 

「俺は自己流が好きなんじゃねえ。最短で行くのが好きなンだよ」

 

Wow(ワオ)! ボクのほうが『最短』だってついに認めたんだ! 自惚れ、増長、厚顔無恥! 蒙昧、放逸、傍若無人! 僭越、頑迷、傲岸不遜! そんな過剰積載された自意識をようやく省みたんだねっ!」

 

 にまにまと勝利の笑みを浮かべながらチクチク言葉を使うメスガキ。かっちゃんの諦めない心は屈服したのか? いや、そうではない。諦めていないからこそ、成長している。こうして他者に自らアドバイスを求めるようになったのも劇的な成長と言えた。仮免試験での経験は、成長せざるを得ないほどに痛くて苦しかった。

 

「なんだそりゃ自己紹介か? くだらねぇ前置きは要らねえ。お前から見て俺に足りてないものを教えろ」

 

 爆豪はレスバをする気がなかったのでざっくりと切り捨てて本題に入った。暴言をやめろ、というのは散々言われているので問題だと知っている。爆豪が聞きたいことはそれ以外の要素だった。

 

「家族の話って言ってなかった? まぁいいけど。ん~、キミの目標って結局何? 世界一になるとか最強とか色々言ってたけど、一番になってどうなりたいのか、結局のところそれが重要だよね!」

 

「……オールマイトに……」

 

「うんうんっ!」

 

「いや……体育祭ん時にテメェが言ってたとおりだ。クソ親父とクソババァに……心配をかけない大人になりてぇ……オールマイトみてぇに強くなればそうなれるかと思ってたんだが、ちげぇんだろ?」

 

「~~~!!! 言えたんだねっ! 聞けて良かった! そういうことならね、ばっちりアドバイスできるよっ! そもそもご両親は君の何が心配なのか、考えたことはあるかなっ!」

 

 家族の話。メスガキの大好物だ。自分で話すのも好きだし、他人の話を聞くのも好きである。

 

「……協調性がねえ。思いやりがねぇ。他人に共感できねぇし尊重しねぇ。総じて『ヒーロー』らしくねえ。……俺がいくら強くなっても親父もババアも安心どころかさらに心配そうにしてやがるのは、俺がヒーローになれないと思ってんのか?」

 

 しっかり自己分析できていることに少し意外そうな顔をしたメスガキ。本人もずっと悩んでいたのだろう。考えて考えて、自分だけで考えてもダメだ、と自省したらしい。一度腹を決めたら優秀な男である。

 

「惜しいなー! 『君がそれでもヒーローになれてしまう』のが心配なんだと思うよっ! 分かるかな?」

 

「……?」

 

 全くピンとこないかっちゃん。ヒーローになれるなら良いんじゃねえのか? と考えている。

 

「今回の仮免だって、補欠合格みたいに思ってるでしょ? 違うんだよ~? 『君が優秀だから落とせなかった』んだよっ! 精鋭思考に切り替わったヒーロー公安委員会に惜しいと思わせるだけの実力があるってこと!」

 

「……俺はそうは思わねぇ。俺が思えねぇなら意味がねえ」

 

「自我つよ~。雄英に入ってからご両親に心配される頻度上がってたりしない? 学校のことよく聞かれてたでしょう! 寮に入ってからはどう? 毎日連絡きてるでしょう!」

 

「きっしょ。なんで分かんだよ」

 

 やけに詳細に自分のことを把握されているのでクソナードを思い出して青ざめつつ引いているかっちゃん。かわいそう。かっちゃんにとってクソナードは完全にトラウマなんだよね。幼い頃に強烈に植え付けられた『敗北感』が今の爆豪勝己を形作っている。

 

「簡単な推理だよワトソンくん! 君は勝利を……『他人を踏みにじる』ことを躊躇しない! それどころか完膚なきまでに勝とうとする、つまり『グリグリと踏みつける』のが大好き! それってどういう人間に周りからは見えると思う?」

 

「……(ヴィラン)予備軍」

 

「分かってるじゃーん! 入学後も全然態度が変わらないキミを見て「雄英は大丈夫なのか?」ってご両親は思ってるんだよっ! 簡単に言うと『上っ面の才能に目が眩んだクソ学校なのでは』と思われてるわけ! 信用ないね~キミ! 入学前も『きっと雄英なら息子の目を覚まさせてくれる』って『期待』されてたんだろーね、ぷぷぷ」

 

「何がおかしいんじゃクソが」

 

「ごめん……笑い事じゃないよね……ご両親に信じてもらえない事って、きっとすっごく辛いんだよね? ボクはそんな経験ないから分かんなかった……」

 

「やめろボケカス! 深刻に受け取られるほうが腹立つわ!!」

 

 かっちゃん的には別にそこまで辛くない。今更の話だ。母親が自分の『すごさ』を褒めてくれたのはいつが最後だったか覚えてない。小さい頃は良く褒めてもらえていたのに。クソ親父は今でも結構褒めて来るんだが。

 

「そ、そお? えーとじゃあ話戻すけど、このまま君がヒーローになったらどうなると思う?」

 

「どうなるって、そりゃあ勝ちまくり稼ぎまくりで高額納税者ランキング入り待ったなしだろ」

 

「まだ強がるならお話やめちゃうよ?」

 

 しらけたジト目で見つめられてたじろぐ爆豪。何もかも見透かされそうな七色の瞳に射抜かれて、背骨が引っこ抜かれたような落ち着かない気持ちになってしまう。

 

「…………どうなるんだ? 人気が振るわねぇだろうことは分かるが、エンデヴァーだって人気低くてもNo2だろうが。何が問題なんだよ」

 

 かっちゃんはオールマイト信者なのでエンデヴァーを軽く見ている。エンデヴァーみたいにならすぐにでもなれるなどと調子こいてる。本人にはそのような自覚は一切ないが、無意識に侮っている。実際に触れ合ったことがないからだ。直接見ればすぐに気づくだろう。彼が圧倒的格上であることに。

 

「うーん、核心の話をする前に聞くけど、息子がエンデヴァーみたいになって嬉しがるご両親なの?」

 

「……! い、いや……全然ちげぇ……」

 

 つまりエンデヴァーについて真面目に考えたことがなかった。言われて初めて考えた。その結論がこれだ。エンデヴァーみたいになっても、親は喜ばない。

 

「親御さんはどちらもデザイナーだって聞いたけど~……そういう『見せ方』のプロがキミを見てどう思うかなんて火を見るより明らかでしょう~? 問題しかないよね」

 

「は? なんで知って……クソナードォ……!」

 

 大正解! 君は天才だ! クソナードはかっちゃんのことをペラペラ喋る。少しでも周りといい関係を築けるようにだ。自分とではない所に人生の悲哀を感じますね。

 

「キミの性格ってご両親のどちらに似てる~? 似てる方の親御さんはネットでキミのアンチとレスバしそう。それでメンタルやられそう。キミみたいにタフなの~?」

 

 かっちゃんは割と繊細で傷つきやすいが、最大HPが多くて回復力もすごいので傷ついていないように見えるタイプだ。タフっちゃあタフ。いや、タフって言葉はかっちゃんの為にある。なにっ。

 

「……違ぇ。強がっちゃあいるが繊細なババアだ」

 

 なんだそりゃ自己紹介か? 爆豪光己の〝個性〟は『グリセリン』。グリセリンは保湿力が高く水に溶けやすく、水と混ざると発熱する。味は甘い。まぁつまり大体かっちゃんのママって感じの性格です。カラッとしてるように見えて意外とジメッとしていて繊細で熱くなりやすく甘やかすし甘える。誰にどう発揮されているか、説明しなくても分かるよね? 

 

「ババアって……じゃあキミもいいお歳なんだね。ご両親の目線になって色々考えてみよう。勝己は本当にヒーローとしてやっていけるのかな? 子供だから許されていることを勘違いしたまま大人の社会でやっていけるかな? 謝罪も感謝もなかなか言えない息子が他人とうまくやっていけるのかな?」

 

「…………」

 

 見てきたように語るメスガキに反論する言葉は出てこない。説教のときにチラホラと出てきたワードばかりだ。

 

「じゃあいよいよ核心ね。他の悩みなんてこれに付随するものでしかない。『息子とうまくやれるのは能力目当ての人間だけなのでは?』」

 

「!!」

 

「ご両親が恐れているのは君の『孤独』だよ。分かるかなぁ? ヒーローになったらキミはいっぱい稼ぐだろうね? 優秀だもん。色んな人が寄ってくるだろうね~。……私たちが居なくなったあと勝己はどうなるのだろう。誰が寄り添ってくれるのだろう。いや、寄り添ってくれる人は本当に息子を見てくれるのだろうか。……そういう切実な愛情を君は足蹴にしてるんだよ」

 

「……クソが……」

 

「緑谷くんがやたら君のことに詳しいのおかしいと思わなかったの? 明らかにプライベートな、それこそ君と一緒に住んでないと知らないようなことまでたくさん知ってるよね。『ご両親に君のことをお願いされてる』でしょ、明らかに」

 

「クソナードが俺に絡んでくるのは俺の親に言われたからだったのか……?」

 

「何その驚き。絡まれるの嫌がってるくせにショック受けた顔してどういうメンタルなの……? まぁそれだけじゃないと思うけど、そういう面がないとは思えないなぁ。緑谷くんって頼まれたこと全然断らないし、なんなら嬉しそうだし」

 

 当然かっちゃんもそれは知ってる。なのでいじめてる時もパシリにはしなかった。中学に上がって試しに一度わくわくしながら「クソデク! パン買ってこいよ!」と言ったら口ではブツブツ文句を言いながらも嬉しそうに買ってきたのが腹立たしかったので。周りに禁止令まで出していた。同級生がそれをどう思っていたか、かっちゃんは知らない。緑谷じゃない方の幼馴染は「こいつらの関係性きっしょ」と思ってた。

 

「だから今度のお休みにでも切島くん連れて実家に帰ったらいいよ。そしてキミの自室に迎え入れて、楽しく過ごす。そうしているうちにきっとキミのお母さんは飲み物とかお菓子を持ってきて切島くんと話したがるから、それを邪魔せずによく見るんだね。切島くんがきっとキミのお母さんの心配を吹き飛ばしてくれるよっ!」

 

「……そうか。分かった……あ、あ……」

 

「キミはもっと切島くんに感謝すべきなんだよー? 一度くらいお礼言ったことある? 彼がどれほどキミのために奔走しているか知らないでしょ! I・アイランドでボクに暴言をぶつけたの覚えてる? ボクは許したしもう気にしてないけど、あれって切島くんの面目も丸つぶれだったんだよ?」

 

 かっちゃんは頑張ってお礼を言おうとしたがメスガキの二の矢に貫かれてあえなく失敗した。話が終わってしまってお礼を言えなかった。こいつスロースターターだからな……。

 

「……切島にも謝っとく」

 

「ご両親を安心させるためにすべきことは戦闘力の向上じゃないのが分かった? キミのお父さんもお母さんも、キミが幸せになれるかどうかが一番の関心事なんだよっ!」

 

「……知ってらァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方こちらはハイツアライアンス1年A組棟の玄関口。ぼーっと突っ立っている人影が見えたので様子を見に来た響香は、薄手の白ワンピを着ている小大を発見した。

 

「小大じゃん。どしたの?」

 

 玄関を開けて声をかけると挨拶もそこそこに小大は本題に入った。そこそこにっていうか「ん」だけで終わっちゃったんだけど。

 

「出久に会いにきた」

 

「え、ああ、緑谷は親と仮免合格のお祝いに外食だってさ。多分そろそろ帰ってくるんじゃない? 聞いてみよっか」

 

 今緑谷のこと下の名前で呼んだ? 距離詰めるペースはっや。麗日大丈夫かな。などと考えつつスマホを取り出す響香。寮則ではよほどの夜間でない限りロビーまでは出入り自由である。何故小大が入口で突っ立っていたのか良く分からず困惑している。

 

「お祝い」

 

「……ウチだとあんまり小大語分かんないな……拳藤かリノがいれば翻訳してくれるんだけど……緑谷のお祝いに来たの?」

 

 メスガキはまだ拳藤ほどの精度はないが、それでも意を外すことはない程度には理解度が高い。

 

「ん。あと報告」

 

 報告。タイミング的に一つしかないのでこれは分かった。

 

「ああ、B組は仮免試験どうだった? こっちはジャアクマイトとかいうのが出て大変だったみたいだけど、ウチは直接見てないんだよね」

 

「ん。グリード」

 

「ぐりーど……?」

 

 B組はどうなったのだろう。多分最初の「ん」に含まれていたのだろうが、ハイコンテクストすぎて分からなかった。文脈からするとB組の会場には『ジャアクマイト』ではなく『グリード』というのが出てきた、ということだろうか。

 

「あー、やっぱここに居たか。緑谷は今雄英に居ないよ、唯」

 

 B組の寮の方からツッテケテーと小走りでやってきた拳藤。どうやら小大を探していたようだ。B組の方はかるく祝勝会っぽい感じの催しをやっていたので急に居なくなった小大を心配していたらしい。

 

「耳郎ごめん、相手してくれてありがとね。そっちは仮免試験どうだった? こっちはもちろん……全員合格だよ!」

 

 ウチも周りからはこんなふうに見えてるのかな、と拳藤に対して思う響香。小大ちゃん係……ってコト!? 拳藤は全員合格の部分でほんのりと挑戦的な表情をした。とはいえそれだけでなく、信頼もにじませている。当然そっちも全員受かったでしょ? と思っているのだ。ちなみに食後すぐに先走った小大と違い拳藤の方は普通にメッセージで緑谷の所在地を確認している。B組にもお祝いのために外出許可を取った者が何人か居たので、緑谷もそうなんじゃないかという読みが当たったわけだ。

 

「もちろんこっちも全員受かったよ。それに相手するなんてそんな、何言ってるか考えるのも楽しいから負担とかないよ。ところで『グリード』って何?」

 

 まぁちょっとお世辞入っているが、楽しさ自体は実際にある。端的な言葉に込められた感情を読み解くのはリリックにも通じるものがあるからだ。

 

「ああ……仮免試験にすごい強い仮想ヴィランが出てきたんだよ! アレ絶対中身ホークスだよ、ホークス! 鷲の被り物した仮想ヴィランが『グリード』って名乗ってたんだ。『ごうよく』ってことだろうね」

 

「そっちはホークスだったんだ。こっちはオールマイトのパチモンで『ジャアクマイト』ってのが出てきたよ」

 

「えー! なにそれ! 見たかった!」

 

 拳藤は中身がオールマイトだと思っているのだろう。そわそわとして羨ましがっている。響香は勘違いを訂正するべきか迷ったが、考えている内に拳藤の話が次に移ってしまった。

 

「あともう一人『シンエンカムイ』ってのも出てきたよ。どっちも広範囲制圧型で対処がすっごく大変だった! もう一会場は誰だったんだろうねぇ」

 

 仮免試験は全国3箇所で行われているため、もう一つの会場にも何らかの仮想ヴィランが出たはずだった。ちなみに彼女たちは意識していないが、学生ではなく一般向けの仮免試験もある。日付も違うし規模も小さいので学生の間には関係ない話ではあるが。

 

「オールマイト・ホークスと来たら一人しか居なくない? 該当者」

 

 火事親父ですね。『エンヴィー』って名乗ったらしいですよ。卑屈! 公安はエンデヴァーを盛りたてて行きたいので『エンデンジャー』とかのもう少しマシなやつを提案したけど炎髭くんはゴリ押しした。ついでに相方は『ギガントマリア』ってのが居ました。名前は本人がテキトーにつけてくださいと公安に丸投げしたせいで不本意なものになって後悔していた。

 

「中がいい」

 

「え?」

 

 急に何? という表情になる響香。なか……中? 中の人の話がしたいのだろうか?急に猥談が始まったわけじゃないよね? 

 

「あー、緑谷のことロビーで待たせてもらえないかな? 流石に門限前には帰ってくるよね」

 

 拳藤がばっちり翻訳してくれた。雄英は自然に囲まれているので9月の夜の今はそこまで厳しい暑さではないため響香も失念していた。

 

「ああ、気が利かなくてごめん。どうぞあがって……ってウチが言うことなのか分かんないけど」

 

 ロビーのソファに腰掛けて一息つくと、少し疲れを意識してしまい触れにくかったネガティブな話題が出てくる。

 

「結構きつかったね、試験内容。難しいのもそうだけど、プロになるって大変なんだなって思ったよ」

 

「ん……」

 

「そうだね。テレビの向こうの華々しい活躍ばかりじゃない現実ってやつを見せつけられたね……」

 

 しんみりした空気になる3人。つけっぱなしのテレビではエンデヴァーがコーヒーのCMをしている。それが終わると次はオールマイトの栄養ドリンクのCMだ。華々しい活躍のほうも実際はこのようにバチバチである。その後雰囲気を切り替えようと中庭で行われているメスガキと爆豪の相談会を見学しながらあれこれ内容の予想をしていると緑谷が帰ってきた。

 

「緑谷おかえり。お客さんが来てるよ」

 

「ただいま、耳郎さん。……ゆ、唯さんと拳藤さん?」

 

 耳郎はポカーンとした顔で緑谷を見つめた。唯さん??? こいつらいつの間に下の名前で呼び合ってるんだ? ちょっと不思議ちゃん入ってる小大が下の名前で呼んでるのはなんとなくそういうもんかと思ったが、お互いに呼び合ってるのはかなり麗日やべえのでは? 呼んであげたほうがいいのか? 二人きりならあまりにも野暮だが自分も拳藤も居るしいいよね? と理論武装し麗日に連絡してあげる響香ちゃん。

 

「よっ、緑谷。そのシャツで外食行ったの? 勇気あるね」

 

 緑谷のクソダサシャツの胸元には「コングラッチュレーション」とカタカナで書いてある。ちなみに緑谷のセンスではなく母のセンスである。クソナードは自分で服買ったりしないからな……。まぁ感覚も親子なので問題視してないけどね。「お祝いならこれかな」と選んだのは本人なので。拳藤はダサさを通り越して逆にセンスを感じたらしく「攻めてんね~」くらいの軽い調子でからかった。

 

「出久。合格おめでとう。お祝い」

 

「え? ……これ……! 『キャベツグリーン』の……!」

 

 小大が緑谷に差し出したのは『生鮮戦隊ヘルシーズ』が以前出した応募者全員サービス企画のキーホルダーだった。ヘルシーズは少し昔のヒーローなので現在は活動していないが、だからこそグッズなどはそれなりにプレミアが付いている。このキーホルダーも当時は子どものお小遣い程度の切手同封で入手できたが、現在揃えようと思うとそこそこお高いものだ。小大は物持ちが良いらしくキーホルダーはピカピカで新品のようである。

 

「おそろい」

 

 強い。付き合ってもいないのにこれ。小大は『トマトレッド』バージョンをスマホのストラップにしているのを緑谷に見せた。お前もこうしろ、という圧か? 

 

「私も貰ったんだ。ほら」

 

 拳藤も自分のスマホを取り出し『ジャガブラウン』バージョンをつけているところを見せびらかした。そう、これは圧力。お前もこうしろという策略的同調圧力。拳藤一佳は策士である。クソナードはその周到な外堀埋めに全く気付かずに自然と誘導されてしまった。

 

(ひえっ……強すぎる……麗日……これやばいでしょ……! 緑谷めっちゃ嬉しそうだし……!)

 

 クソナードは友人とヒーロー戦隊のグッズを各々が所持し合うという友情イベントに感動しているだけだが、心を大きく動かしたという点ではまさにこれはリードと言えよう。その場でいそいそと自分のスマホに『キャベツグリーン』のキーホルダーを付けたクソナードは満面の笑みでそれを掲げた。

 

「……どうかな!? 僕のヒーローコスが緑だから同じ緑の『キャベツグリーン』を選んでくれたんだよね? 心憎い気遣いだ! こだ……唯さんって無口だけど思いやりがある素敵な人だね! 本当に嬉しいよ! ありがとう!」

 

 ヒーロー大好きクソナードの眩しい笑顔。珍しく湿気を感じない、爽やかな夏風のような表情と褒め言葉に小大がぽーっと見惚れている。

 

「小大さん! 拳藤さん! いらっしゃい!」

 

 麗日がドタバタとあまり麗らかじゃない感じで部屋から降りてきた。もう完全に部屋着ってスタイルで小綺麗な白ワンピの小大と並ぶのが恥ずかしいレベルだ。拳藤も結構ラフだがそれでも最低限外行きの格好はしているのに。言葉も八百屋のおっさんの「へいらっしゃい!」みたいに聞こえる。

 

「あ、麗日。ちょうどよかった。唯」

 

「ん。お祝い」

 

「えっ?」

 

 小大が麗日に渡したそれは『ダイコンホワイト』のキーホルダーだった。

 

「唯から仮免合格のお祝いだよ」

 

「おそろい」

 

 かわいい。A組の二人はほんのり恥ずかしくなった。響香は焦って麗日を呼び出したこと。そして麗日は出し抜かれると思って慌てて走ってきたことを。最初からこうするつもりだったのだろう。小大はヒーロー科に入るまであまり濃い友人付き合いが出来ていないので、とても友人を大事にしている。緑谷は当然として、麗日だって大切な友人だと思っているのだ。

 

「あ、ありがとう! これ唯ちゃんが前好きって言ってた『ヘルシーズ』やんな? 本当に貰っていいの?」

 

「ん!」

 

「……大切にするね……!」

 

 一同が手元に出しているスマホにつけているのを見て麗日も嬉しそうにスマホに付けだした。友達とおそろい。好きな人と、おそろい。同じ物ではない。でも、いっしょだ。ふわふわと幸せな気持ちになる。そのままクソナードの『ヘルシーズ』トークが始まってしまったので麗日と小大はそれを聞く姿勢になったが、拳藤は緑谷が今話し始めたおそらく主に麗日のためであろう初心者向けのヘルシーズ情報は全て把握していたので聞き流しながら響香に話しかけた。

 

「黎乃は爆豪との話まだ終わんないのかな。あの子にも唯がお祝い渡したがってるんだけど……あっ、耳郎の分なくてごめんね」

 

「え、言及されると逆に気まずい……ウチは別に大して絡みないんだから無くて当然でしょ、気にしないで」

 

 友達の友達、位の距離感だ。なんならイヤホンジャックぶち当て事件の分だけ気まずいまである。まぁ同じ高校のヒーロー科なので仲間意識はあるし、これからきっと付き合う機会も増えるだろうとは思っているが、現段階でお祝いのプレゼントなど貰っても「なんで?」となるだろう。そんな話をしているとメスガキとかっちゃんの話は終わったらしくのこのこと中庭から出てきた。出てきた? 入ってきた? どうでもいいやろそんなもん! 気にすんなや! かっちゃんはクソナードをちらっと見ると不愉快そうにエレベーターに乗って部屋に帰っていった。

 

「おまたせーっ! 一佳ちゃんに唯ちゃん、いらっしゃーい!」

 

「お邪魔してるよ。ほら、唯」

 

「ん。お祝い」

 

「んえ……? キーホルダー? これ唯ちゃんが好きなヒーローだっけ? ……え、くれるの?」

 

「ん!」

 

「わぁ……ありがとう、唯ちゃんっ!」

 

 メスガキは言うが早いか小大に貰った『ナスブラック』のキーホルダーをなんかファンタジーじみたきれいなクリスタルみたいなもんに閉じ込めて伝説のアイテムのごとく保管してしまった。あの、スマホに……今そういう流れで……。

 

「にへへ~。見てみてぇ、響香ちゃんっ! 貰っちゃったぁ~~! お祝いだってぇ~! も~~! 困っちゃうな~~!! ボク仮免なんて取れて当然だからお祝いとか貰っちゃうと困っちゃうな~!! も~! も~~!」

 

 両手で宝物のごとくキーホルダーINクリスタルを掲げるメスガキはある種幻想的だった。そのだらけて緩みきった表情がなければだが。あまりの喜びぶりに拳藤はスマホにつけようと提案することを諦めてしまった。響香はこんなに喜ぶならウチもなんかあげれば良かったかな、とちょっと思った。確か彼女の誕生日がそろそろなのでその時はちょっと奮発しよう、と心のメモに刻む。小大はほんのりと笑顔になってメスガキを見つめている。

 

「あの、新斗さん! ちょっと大事な話があるんだけど、良いかな! ついてきてほしいところがあるんだけど!」

 

 クソナード~! 今そんな事言ったらやべえことになるのがわかんねえのか? わかんねえんだろうなぁ。ヘルシーズトークが一段落した緑谷は上機嫌なメスガキを見てチャンスだと思ったらしい。何のだよ。

 

「はえっ!? で、デクくん!? リノちゃんの笑顔がとっても素敵やったからってそんないきなり!?」

 

 麗日はがたっと立ち上がって今にも緑谷に飛びかかりそうな姿勢になった。肉食獣のような気配すらある。怖い。

 

「ん……!」

 

 小大はクソナードのクソダサシャツのすそをきゅっとつまんで「いかないで」という感じの雰囲気を全身から出している。幼稚園児か? 

 

「今日は千客万来だねっ! いいよぉ、どこに行くの?」

 

 上機嫌なメスガキは案の定気軽に了承した。今なら何でも言うことを聞いてくれそうである。

 

「緑谷、大事な話って何系? もしかして告白とか?」

 

 拳藤は雰囲気的にそれはないな、と思いつつ緑谷から否定の言葉を出させて獣と幼児を落ち着かせるために問いかけた。

 

「え!? 違うよ! えっと、系統は……ざ、懺悔かな……?」

 

 たしかにそれは機嫌良いときにしたほうが良いっすね。機を見るに敏。疾風迅雷やね。




独自設定とか

・ナワバリバトル:響香ちゃんはヤキモチと言うよりメスガキが寂しい気分なのかと思って寄り添った。
・もぎもぎ:原作でも頭はたかれたりしてるので頭にあるときはもぎもぎではないはず。
・外食メンツ:緑谷・八百万・飯田・常闇
・温かくないやつ:冷たいやつ、ではない。「温かくない」ことが大事。
・料理男子:もう一人料理上手が居たはずだろ!?
・イナサ:肉倉先輩がイナサイナサ言うせいで苗字の印象が薄れている。
・てめーの個性の話だ:対決する理由がねえ……。オールマイト終わらせてないし……。
・お悩み相談:かっちゃんは原作よりちょっと子供っぽくて素直です。メスガキの影響。
・かっちゃんママ:イレ先生の謝罪会見がないからまだ大丈夫だと思えていない。
・パン買ってこい:お金はちゃんと渡してる。みみっちい。
・全員受かった:1発で全員通るのは何気に快挙。目良さんが誰も落ちてないことに驚く程度には毎年誰かしら落ちるみたいなので。
・『グリード』:当然『エンヴィー』を聞いてから名付けたよ。強火ファン。欲しいと思ったらどうにも我慢できない性分で。
・『エンヴィー』:卑屈なおっさんの自虐。
・『ギガントマリア』:死柄木弔にクソつよ巨人がいるらしいと聞いたメスガキが公安に伝えたので。備えよう!
・中:外じゃ嫌。
・エンデヴァーのコーヒー:BURNINGっていうコーヒー。原作にあるやつ。
・オールマイトのエナドリ:マイトビタミンZ。すまっしゅにあるやつ。
・コスが緑だから:苗字が緑谷だからみたいなことはなんかヒロアカ世界じゃ認識できなさそうなので……名前から〝個性〟をメタ読みするキャラが一人も居ないから……。
・クソナード女に囲まれる:またかよォオオお…!
・クリスタル:そのうち他の友人がスマホに付けてるのに気づいてしれっとお揃いにする。自分もスマホにつけるし友人のキーホルダーはクリスタルで包む。
・懺悔:クソナードも何を謝罪するか詳しくは知らない。でも今でしょ!
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