ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「前会長ってどんな人だったんですか? レディ・ナガン」
地獄のような雰囲気になった部屋の中でも、メスガキの態度はいつも通りだ。瞳は七色に輝きツインテはゆらゆらしている。ナガンと会長が落ち着くのを待って、再び話し始めた。
「……どんな人、か……ひょうきんなおじさんだったよ。少なくとも私の前ではな……けど……いつからか笑わなくなった。冗談も言わなくなったし、珈琲も淹れてくれなくなった」
こんな話は誰にもしたことがなかった。口にすると分かる。そのことがナガンの心をどれほど暗くしたことか。若くして両親を亡くしたナガンにとって、父のように慕っていた人だった。
「……今にして思えば、それも嫌になった原因かもしれないな。あの人にとって私は道具でしか無かったんだって思った……でも……」
言葉にしたことで思考が纏まっていく。自分があの時何を考えていたのか、バラバラだった思考が整理されていく。
「多分あの人も……すり減って……笑えなくなっちゃったんだ……笑わなくなったあと、一度だけ言われた。珈琲の淹れ方を教えてやろうか、ってさ。私は「疲れてるからまた今度な」って言ったと思う……教われば、よかった。そうして何が変わったとも思えないけど……もしかしたら『最後の引き金を引いた』のは……わ、私だったのかもしれない……」
止まった涙が再び流れ出す。涙なんてとっくに枯れたと思っていたのに。無くなったのではなく、蓋をしていただけだった。どうして自分はあんなにわかりやすい変化を見過ごしていたのだろう。それどころかそこに存在しない悪意を見出し、不貞腐れていただなんて。ナガンには言い訳があった。『命令されている』という絶対の真実が。それがないあの人の心労が自分より軽いなんて、そんなはずがないのに。その苦しみと痛みをこの世界で唯一人、自分だけは分かってあげられるはずだったのに。
「ナガン……そんなに自分を責めないで……私が、私が知っているわ。珈琲の淹れ方なら今も受け継がれているの。だから……出所したら、私が教えるから……」
くだらないことだと思っていた。珈琲の淹れ方など覚えてもしょうがないと。だが、人の心とはそんな些細なことで癒され、あるいは壊れてしまうのだ。あの男が。冷徹で血も涙もない、命をなんとも思っていないように見えた人でなしが。傷つき悩む心を、隠していたなんて。……自分と、同じだったなんて。
「はは……ありがとう。でも私は外には出たくないんだ……いつか外に出たら、なんてたまに考えてた。ハリボテの世の中がまだ続いてたら……ぶっ壊してやろうって考えてた気がする。……今となっては何がしたかったのか解んねぇや……だから、出る意味がない。私はもう……終わっちゃったんだ」
「そんなことは!」
「そーですねっ! 『ヒーロー レディ・ナガン』は終わらせましょう! これからはボクが、ボクたちが貴方が繋いだ世の中の平和を! 守り、育て、より良い未来を紡いでいきますっ!」
「え……? ……え?」
会長は本日何度目か分からない驚愕の表情でメスガキを見た。そしてナガンを見た時、さらに驚愕した。彼女の涙が、止まっている。驚きと戸惑い、そして
「もうあなたは世の中のことなんて考えなくていいんですよ! ううん、考えすぎてるので一旦お休みしましょう?」
「でも、私には責任があるんだ……いっぱい殺したんだよ。世の中のために。私は今でもそれが……『間違い』だったとは思わない……思いたくない……彼らのいのちは……
殺した犯罪者たちは、ヒーローであることを悪用するような屑たちだった。だが、それがその人の全てだったのだろうか? 疲れて、魔が差したのかもしれない。一時の気の迷いだったのかもしれない。だとしたら、この世の中は一体何なんだ? 未だナガンの中に答えはない。考えるのが嫌になって、全てを無かったことにしようとしていた。
「過ちも間違いも全てが今を創る
「…………そうだね……投げ出すんじゃなくて……中身を探して……ううん、中身にならなきゃいけなかったんだ……」
ほんの僅かだったレディ・ナガンの瞳の希望の輝きが増していく。たった一人で背負い続けた重荷を、一緒に持ってくれると……そんな一言で、こんなにも。
「『中身』は今、育っていますよっ! 貴方たちが守り続けた『理想』を実践しようとする、次世代のヒーローたちですっ! 貴方は立派に務めを果たし、守り続けた秘密はボクたちに引き継がれ、今こそあらゆる責務から解放されたんですよっ! お疲れ様でしたっ!」
「あぁ……そうかぁ……私は……もう、頑張らなくていいのか……」
いつからだったろう。綺麗事に吐き気を催すようになっていたのは。だが今は、清々しい気持ちで聞いている。不思議な感覚だ。ナガンは今、走り出したくなるようなエネルギーを自らの内に感じていた。
「外に出たら、もう『レディ・ナガン』じゃあなくていいんですよぉ。どんなことがしたいですか? クレー射撃とか、バイアスロンとか?」
「この右腕を使った趣味か……どうだろうな、ちょっと今は考えられないけど……現役の頃は出来なかったおしゃれとか、してみたいな。ほら、イメージってやつがあるだろ、ヒーローには。だから出来なかったファッションを…………ああ……お前の言うとおりだった。私は拒絶するべきだったんだ……『レディ・ナガン』は会長を撃ち殺したときに彼と一緒に死んだんだ。もうその名前で呼ばないでくれ、ってはっきり言うべきだったんだな……」
未来のことを考えると心が沈んでいた。今は……少しだけ、楽しみかもしれない。
「そこのおばさんが部下を
「そうなのか……そいつ、私には散々愚痴ってたんだぜ。『会長は部下を
笑顔が、戻った。当初のような皮肉げな作り笑顔ではない、本当の笑い声だ。会長は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「ナガン! じゃなかった、なんて呼べばいいかしら……ああもう! とにかくやめなさい! 公安の職員には守秘義務が…………」
しかしそれは途中でしぼんでしまう。ナガンの言葉が止まる理由はもうない。だからこそタルタロスに入れなくてはならなかったわけだし。なんかこう言うと陰口を誤魔化すためにぶちこんだみたいじゃん。
「元、な。今は名も無き
「……気づいていたの」
「私がタルタロスに入れられたのは……私を生かして、なおかつ情報は外部に漏れないように、だろ? なんとなくあんたがやりそうだな、とは思ってた。ずいぶん出世したなぁ、マジで。タルタロスにも顔が利くなんてやべぇだろ……ああ、また考えちゃってる……世の中のこと……」
普通にヤベェ。ヒーロー公安委員会に権力集中しすぎである。メスガキや会長の言った通りやろうと思えば社会をめちゃくちゃに出来る暗黒権力者なのだ。民衆がクソな反動なのか権力者はなんか人間出来てる人ばかりなのが逆に闇深い。
「このおばさんこの期に及んでまだあっまーい夢を見てたんですよぉ。『いつかレディ・ナガンと和解して、また一緒に働けたらいいな』みたいな」
スーパーお花畑である。メスガキの影響なので本人ばかり責めないであげて欲しい。ちなみにタルタロスは『拘置所』なので法的には公安が「出していいよ♡」と言えば合法的に……というかタルタロスで行われるあらゆることには法的根拠がなくただの気分で運営されている闇の煮凝りのような施設なので会長の気分一つで出すことは可能だ。社会制度は全然〝個性〟犯罪に対応できてないのになにがヒーロー飽和社会なんでしょうね。
「ぐっ……バレていたのね。私は過去の過ちを無かったことにしたかった。ナガンと和解出来れば前会長とは違うことをはっきり証明できると思っていた……いいえ、そうしなければならないと……」
ナガンが「公安鬼つええ! これからヒーロー社会の信頼を揺るがす奴らをぶっ殺していこうぜ! よろしくなあ!」とか頭チェンソーな事言い出したらすぐにでも出せるんよ実際。だってナガンがタルタロスに入ってる理由は「いっぱい殺しちゃってつらたん……もうやめゅ……」とか言い出したせいで一連のアレな所業を暴露される危険性が発生したためなので、それが無くなれば隔離する理由ないからね。もう一つの理由である「ナガンをぶっ殺して口封じしたい派閥」はおばさん主導の公安のクリーン化(未達成)の過程で全部黙らせたし。だからナガンさえ良ければ……と、会長はそう思ってここに来ていた。
「そうだったのか……なんか悪いな……私を生かしてくれた事のお礼は言いたくないけど……申し訳ないとは思ってるよ。私がダメになったのはあんたのせいじゃあないさ……あんたは、強いんだね。私よりもずっと」
自分が弱かったのが悪い。ナガンはそう思っている。誰も彼もが弱くて、しかし社会はそれを許さない。ツヨイやつだけが『正義』なのが、ナガンの知っている世の中だ。現会長はそんな中でもまだ頑張っている。強いな、と素直に思う。
「まぁボクも一緒に働けたらいいなーって思ってましたしおばさんの夢も叶えてあげたかったんですけどぉ…………『ヒーロー名』を呼ばれた貴方の顔を見て思ったんです。ああ、『痛そう』な顔してるって……痛みに耐えて我慢してる時の顔だ、って」
「おまえ……そう思ってたのにヘラヘラしてるとか言ってこき下ろしてたのかよ……怖……」
言葉とは裏腹に彼女は恐怖よりもむしろ恥ずべき痴態だったと感じているようで顔を赤くしてそっぽを向いた。
「こき下ろしたなんて失礼なこと言わないでくださいっ! 膿んだ傷口は切開しないと痛み続けるんですよ? 冷静で的確な判断と言って欲しいものです! ほらぁ、どうですか? まだ傷跡は痛みますか? 背負っていたものは、もう全部ボクたちに渡していいんですよ! 先達の負債を引き継ぎ解決するのも若者の役目ですからね!」
「ん……そうだな。お前みたいなヒーローが生まれたんなら……私の、私たちのやったことにも意味はあったんだって思えるよ……ハリボテの社会でも……空っぽで嘘っぱちの綺麗事でも……きっとそれに憧れる気持ちは……本物だから」
ヒーローになりたかった。誰かの助けになれる人に。そう思う人を守れたならきっと『レディ・ナガン』の、そしてあの頃の仲間たち皆の必死さに、意味はあったのだ。
「ハリボテなんかじゃあ、空っぽなんかじゃあないですよ、『レディ・ナガン』! あなたが守ったのは、子どもたちのゆりかごです! 夢見る安らぎの中でこそ、すてきな未来を信じる心が育まれるんです! 理想と現実の違いに傷つくことはあるでしょう! しかぁし! それに耐える力を与えてくれるのも、夢なんです! 『罪』を受け止めるのであれば、同じように! 貴方の『功績』も、誇って良いんですよ!」
レディ・ナガンは今度こそしっかりと新斗黎乃のキラキラとした瞳を見つめた。七色の不思議な輝き。心の中まで見透かされそうで怖かった。でも今はもう、怖くない。心の奥まで、見て欲しい。
「……私ね、世の中をもっと良くしたかった。この腕が、私の全てが血に
託す。レディ・ナガンから後輩へ、継いでいってほしいもの。この世全ての子供達に、夢を見せ続けて欲しい。キラキラしたその瞳が、曇らないように。大人になればきっとナガンのように現実にぶつかり、傷つくのだろう。でもきっとそれが『普通』なんだ。未来を信じることが出来るなら……夢の終わりは絶望の目覚めではなく、希望の朝になるのだから。
「ボクは『ドリームヒーロー ホーリーナイト』っ! 昨日よりちょっと良い明日を! 奇跡のようなわくわくを! ホーリーナイトが皆様へお届けしまぁす! もちろん、貴方にもね! ……ねぇ筒美 火伊那さん。今夜はぐっすり眠れそうですか?」
どこかで、あの人が笑った気がした。
「……うん! ……きっともう、悪夢は見ないよ……ありがとう、『ホーリーナイト』」
「死柄木ー! 仲間になりたいってやつを見つけたぜ! 予定あけておいてくれよな! 今行くぜ!」
トゥワイスは町中をうろついて犯罪の現場を目撃し、その主犯を仲間に誘うという頭のおかしな行動を取っていた。彼は頭がおかしいやつを放っておけないのだ。自分みたいで、かわいそうだから。
「タイミング悪いな……まぁしょうがないか、とりあえずサブ拠点Dに連れてこい」
義爛に色々と薬品を持ってきてもらってキメラに臭いを比較してもらったり、一緒に色々と調べ物をしたりしてピックアップしたそれっぽい場所を回ってみよう、となったのがついさっきだったので死柄木はまさに出鼻をくじかれたが、トゥワイスに八つ当たりするようなことはなかった。ちょっとは成長したじゃん。
「分かったぜ! サブ拠点Dってどこだっけ?」
「ん……マジで分からないのか? いつもの発作か?」
「すまねぇ、いつもの発作の方だ! マジで分からないぜ!」
死柄木にもさっぱり分からない。トゥワイスに以前「逆の言葉が出るのを踏まえて喋ってくれ」と頼んでみたが、逆の逆みたいなことを言い出してさらに意味不明になったので好きにさせている。
「そいつとは今一緒にいるのか?」
「連絡先だけ貰ってるぜ! なるべく早く会いたいからいつでも連絡しろと言っていたけどな! 後でいいだろ!」
「……先に済ますか……黒霧を送るからそいつと合流していつものとこにいろ。いいな」
なので結局はこのような形式になる。行動はちゃんとしてるし対面なら仕草や態度でわかるのだが電話だといまいち要領を得ないのだ。新しい仲間がもしかしたら探索向きの〝個性〟だったりするかもしれない、と意識を切り替える。
「本当にすまねぇ……行かねえよ!」
「そのうちお前のそれもなんとかしなきゃな。医者の仲間も探すか……違うか、カウンセラーだな」
死柄木は最早なんかこう『医者』自体にちょっと不信感がある。ちゃんとしたお医者様も居るんですよ……カスヒゲを基準にしないで欲しい。とりあえず仲間予定のやつがいきなり襲いかかってきたら困るのでマグネを呼んで拠点に向かおうとしたら、キメラが「俺を頼ってはくれねぇのか?」と耳を垂れさせて寂しそうにしていたので「じゃあ護衛よろしく」といったらすごく張り切っていた。それを見てマグネも「ウッホホーイ!」と張り切っていた。
「噂通り羽振りは良いようだな」
黒霧の『ワープゲート』によってそれなりに豪華な応接室っぽいサブ拠点に現れたのは死柄木にとって見覚えのある男だった。触れられたらヤバい〝個性〟を持っているんだったか。『AFO』情報なのでどこまでアテになるか分からないが。
「どうでもいいだろそんな事。それで、仲間になりたいと聞いたが、目的は? お前確か『死穢八斎會』の若頭だよな? ヤクザの復権がしたいならよそを当たれ」
いきなり金の話をしてきた落ちぶれヤクザにもはや死柄木は殆ど興味がなかった。まぁなにか切実な目的があって頼ってきたかもしれないので問答無用で追い出すことはしなかったが。
「単刀直入だな。ヤクザの復権……まァ間違っちゃいない。だがそれだけじゃあない。今とある研究をしていてな。それには資金が必要なんだ」
「タカリに来たのか? しょうもない……こっちに何のメリットもないを通り越して時間の無駄だったな。黒霧、お帰りいただけ」
もはや興味ゼロ……持っている〝個性〟は強力らしいが態度も動機もダメ。AFOから奪った資産は莫大だが無限にあるわけではないし、増える予定もないので使い道は慎重に決めなければならない。このちょっと豪華な部屋だってただの贅沢ではなくコンプレスが「ちゃんとした場所もないと舐められて不必要な衝突が起こるぜ」という意見を出したので採用した結果である。乞食に恵んでやるような余裕は一切ないのだ。
「ま、待て! 研究内容を聞けば必ず興味を持つはずだ!」
面接に来たのにでかい態度で不採用になったあと焦ってもダメだろ。バイトすらしたことのない死柄木だがそれくらいは分かる。ヤクザはメンツで生きてるからなぜそういう態度だったのかは分かるが、それを考慮してやる理由は死柄木にはない。
「くだらない駆け引きに付き合わせようとするんじゃあない。いまは一刻も早く解決したい案件があってな。また今度相手してやるから次はその勿体ぶった態度をやめてプレゼン資料でも用意しておけ」
せっかくトゥワイスが見つけてきた仲間候補なので余裕がある時にならかまってやっても良いのだが、とにかく今はわんこのためにも急いであげたい。
「〝個性〟の消失だ! 興味があるだろう!?」
「なに? ……キメラ、すまん。少し時間をくれ」
聞き捨てならないことを言われた。〝個性〟の消失。このまま放置するのはあまりにも危険だし、使えるものなら使いたい。
「謝るこたァねぇぜ、死柄木。俺も興味あるしな」
ナインの〝個性〟が消されたら困る。キメラにとっても他人事ではない。実験が失敗するかも、というのはあくまでも予想でしかなく、杞憂に終わる可能性もそれなりにある。のんびり待つことなどありえないが、焦って動いてナインの強化実験を行っている施設を警察だのヒーローだのに嗅ぎつけられては本末転倒なのだ。
「そうだろう、そうだろう! 〝個性〟に苦しむ奴らの救済なんてしているらしいな? それに全くもってぴったりな、素晴らしい研究だ。もちろんただの絵空事じゃない。実物も既に完成している!」
「ほう。お前の言っていることが本当なら資金はたっぷり出してやれるが……もう一度言っておく。くだらない駆け引きをしている時間はない。お前がそういった素振りを少しでも見せたら話は終わりだ」
めちゃくちゃ興味はあるが足元を見られても困る。そのためいつでも打ち切ってやっても良いんだぜ、という態度を見せる。とはいえ実際具体的な内容が下らなければ即座に黒霧に追い出させるつもりではある。
「ああ……では結論から言う。俺は『〝個性〟を消失させる弾丸』を作り出すことに成功した。現在は1ヶ月に5発ほど精製するのが精一杯だが、施設を拡充すればさらに増産できる見込みだ! これが大量生産できればどうなるか分かるか!? この世界の構造そのものを破壊し! 作り変えることが出来るんだ!」
熱っぽく語るヤクザの若頭。死柄木は話が一気に胡散臭くなったことに白けた表情になった。〝個性〟の登場は世界を変えたが、〝個性〟の消失は世界を変えるだろうか? 今後二度と発生しないと確定すれば変わるかもしれないが、そうでないのなら……。
「この世から〝個性〟を消そうってか? で、それにはいくら掛かるんだ。俺の資金も無限じゃあない。これから生まれてくる全人類一人ひとりに弾丸をぶちこむつもりじゃあないだろうな」
馬鹿の考える世界征服みたいな地道な作業である。減らす〝個性〟より増える〝個性〟のほうが多いっつーの。人類は1日あたり約20万人ほど生まれているが弾丸を何発量産する気なんだろう、このバカは。
「まさか! 今は血中に打ち込まなければ効果を発揮しないから弾丸型にしているが、ゆくゆくはもっと簡単に……例えば触れただけで個性を消失させることが出来るようになるはずだ。そうなれば世界中から〝個性〟を消失させることも夢じゃなくなる」
「一過性のモノにしか思えないが。そのうち解析されて〝個性〟を取り戻す研究も始まるだろ? それに地方のいちヤクザのちゃちな施設で出来たことを国はたっぷりの資金と最高のスタッフでやれるんだぜ。何のためにそんなことをするんだ?」
死柄木が駆け引きを入れず話せといったせいで「短期的にはヒーローに撃ち込んで優位を取って……」みたいな話がすっ飛ばされたので本当にアホに見えるが実行されたらそれなりに社会を混乱させることが出来るだろう。しかしその後は死柄木の言う通り遅かれ早かれ弾丸の研究がされて陳腐化する。確実にそうなる。
「同じ事はできないさ。なぜならこれは〝個性〟由来の効果だからな。つまり俺しか扱えない。市場は独占できる!」
「市場? 売りに出すのかよ。まずお前にぶち込まれそうだがそこら辺はどう考えてるんだ。それで二度と作れなくなるだろ、バカバカしい」
もう100%研究されて終わりである。現物を購入できるなら解析されないなどということはありえない。それこそ物質の構成を分析する〝個性〟や、原材料に戻せる〝個性〟だってあるのだから。
「材料は俺の〝個性〟ではないし、この『個性消失弾』のキモは『血清』も作れることだ。当然これも〝個性〟由来だから独占可能だ」
自分が撃たれても血清を使えば良い。若頭はそう考えているようだが、それにも根本的な問題がある。
「それじゃあ若頭に残念なお知らせだ。『個性は複製できる』らしいぞ。必要なものは血液。というかまぁ……個性因子が含まれてる遺伝子だろうな。で? 弾丸にはどうやって〝個性〟を込めてるんだ?」
当然、体の一部が入っている。〝個性〟とは身体能力であって、発揮するには人体が必要だからだ。
「な……〝個性〟の複製だと……!?そ、そんな馬鹿な……」
「実物も見たことがあるぞ。『劣化コピー』と言っていたし実際機能は落ちていたが、科学者なら分かるよな?『弱毒化』は利点もあるし、研究が進めばいずれ解決できる問題であることは明らかだ」
「……それじゃあ俺の計画は……」
「一過性の優位だな。売りに出すならその優位性はさらに短期間になる。お前が世界一の天才科学者だったり他人には理解できないような超絶研究者なら有利な期間は伸びるかもしれないが……世界中に優秀な研究者が沢山いるのは知ってるよな?」
「…………」
悲報。ヤクザの野望、学歴なしの底辺に完全論破されてしまう。メスガキにメタクソにロジハラされたせいで弔くんはレスバに力を入れているのだ。しょうもない能力向上。そんな暇あるなら社会貢献しろカス。
「なんかかわいそうね。ねぇ極道くん、ファーブルは知っているでしょう? 昆虫記の作者の。彼も染料の研究で特許を取って、これから大儲けだ! って時に化学染料が開発されちゃって素寒貧になったらしいわよ。偉人と同じだから、元気出してね♡」
ファーブルくんはとっても貧乏だったので一攫千金を夢見ました。当時フランス軍でアカネという植物から取れる赤色染料がとても流行っていて地元の重要な産業でしたが、これに目をつけたファーブルくんは学校の実験室すら使わせてもらえないような状況の中、自宅のキッチンで実験を繰り返しなんと特許を取るほどの最高効率の精製法を開発します(マジ天才。関連特許含めると4つも取ってる)。しかしファーブルくんにはツキがありませんでした。生活が楽になるかと思われたその直後、安価な合成染料がよそで開発されて地元の産業そのものごとまとめて崩壊してしまいました。かわいそ……。
「……これ俺が連れてきたせいか!? いや、いち早く問題点を知れたんだからお得だよな!? 大損ザマァ見ろ!」
トゥワイスはオロオロとしながら若頭を見て無自覚に追撃をした。直接ではないが……そうなるな。どう見えるかだ。まだまだ心眼が足りぬ。もう……散体しろ!
「まァ逆に言えば短期的には十分脅威だろ。俺の認識範囲内で拳銃を取り出したら……いや、懐に手を入れたらその時点で顔面を殴り飛ばすぞ、ヤクザ」
キメラはヤクザ相手も慣れているし好感を持つ要素がないので冷淡だった。平坦な口調でただの決定事項として伝えたので怒鳴りつけるより怖い。可愛いわんこなのは仲間に対してだけである。そういうところも死柄木とは気が合うね! キメラは自分の〝個性〟を消したいなどと思っていない。今となっては本当に信用すべき人間が誰か教えてくれるとすら考えているからだ。ナインを救けるためにも力はいるしな。ちなみにぶっ殺すわよ! と言わなかったのは死柄木サークル(笑)では殺人がご法度なのを聞いているからである。かわいい。
「若頭はがっかりだろうが……俺にとっては関係ない。お前の研究、俺が買ってやるよ。〝個性〟なんて要らない、って奴にはまさに特効薬になるからな」
「何……?」
「いまさら世界から〝個性〟をなくそうなんて土台無理だろ。消せるなら足すことも出来るし、血清が作れるんなら『消失』じゃなくて『機能停止』なわけで、『再稼働』が不可能だとは思えない。例えば明日急に〝個性〟がこの世から消滅したら色んな国が躍起になって取り戻そうとするだろうし、そうなれば遠からず陳腐化する技術にすぎない。だが『要らない』ってやつにとっては取り戻せる方法があろうがなかろうが関係ない」
実際は『消失』も『血清』も効果は『巻き戻し』の〝個性〟によって実現しているため死柄木が思うほど簡単ではないが、簡単ではないだけだ。弾丸の現物があればいくらでも研究できて、いくらでも増産できる。元の〝個性〟の持ち主など、究極的には必要ない。
「金は出してやる。それに生体研究に詳しいやつがちょうど欲しかったんだ。ファーブルと違ってツイてるな? 『
「会長! ずいぶんと時間がかかってましたが、何かあったのでしょうか?」
オールマイトはタルタロスの応接室でそわそわとしながらメスガキと会長を待っていた。AFOとの面会を取り付けてくれてこの場に連れてきてくれたのは塚内くんだが、彼はオールマイトを公安案件にねじ込んだことで方々に迷惑をかけたため色々と忙しい。最初からメスガキと合流して雄英高校に帰還する予定だった。
「あったといえばあったわね。私の妄想じみた夢が砕け散ったりとか」
ぐったりとした表情でぼやくおばさん。来るときはもっと溌剌としてたんですけどね。
「そこまで自虐しなくてもいいんじゃないですかぁ? あの人とまた一緒に働きたいって気持ち自体はとても良くわかりますよぉ。責任感が強くて凛としていてそれでいてちょっと乙女で、ああいう人といっしょにいると幸せな気持ちになれますよねっ。はぁ~、やっぱ今の社会はダメですね~! 聞いてますか? オールマイト!」
「え、急に何!? 私!?」
耳郎少女と八百万少女のことかな? とぼけっと聞いていたオールマイトはいきなり自分に話の矛先が向いたのでびっくりしている。
「ダメよホーリーナイト、ダブルスタンダードは。あの娘のこれまでを肯定して、今の社会の意義について語ってあげたのだから、オールマイトのこれまでも肯定するべきでしょう?」
「うへぇ~……やだやだ、おばさんのチクチク言葉は聞くに堪えないよっ!」
「ちょっと。オールマイトの前でそういう態度はやめてちょうだい」
どこならOKなんですか? このおばさんもちょっとおかしくなってきたな。まぁ独身アラフィフおばさんにとってメスガキは娘のように可愛い相手なので完全プライベートだともっと甘いんだけど。
「いーのいーの、このおじさんをそんなに尊重しなくて。雑に扱うくらいが丁度いいんだよっ! それにこういうノリに混ぜてあげたほうが喜ぶよ?」
独身アラ還(アラウンド還暦)おじさんにとって雄英生は全員子供みたいなものなので実際喜ぶ。生徒たちはなんか勝手に気遣ってオールマイトに軽々しく声をかけたり遊びに誘ったりしないけどはっきり言って無意味を通り越して寂しがってるまである。
「あの娘って誰?? 女性同士のあれこれに混ざるのはオジサン苦手かも」
とはいえ何でもOKというわけでもない。いやOKだけど混ざっても置物にしかなれないことがオールマイトにだってある。こいつの青春は9割くらいがグラントリノ(ぜんせいきのすがた)にボコられることに費やされたからな……。体格も良かったし肺活量も今の数十倍はあったので『ジェット』の速度もそこから繰り出される攻撃の威力もOFAの継承者と殴り合いが成立するレベルで強力だったのだ。
「ぷっ……オールマイトもそういう事言うのね。……『レディ・ナガン』に面会してたのよ、オールマイト。ナガンの事はご存知かしら?」
メスガキと同列に女性扱いされてちょっとトゥンクとした会長は笑顔を見せた。しかしオールマイトの質問に答えようとするとどうしてもシリアスな空気になってしまう。
「……あのレディ・ナガンですか……彼女の起こした事件には、やはりなにか事情があったのですね?」
ヒーローと口論になって殺害。社会に与える影響が甚大なためタルタロスへ収監。うっっっっっさんくさい事例すぎてオールマイトも良く覚えている。
「そうね。貴方には詳しく言うわけにはいかな――」
「キラキラした皆のあこがれのヒーロー社会を守るためにぃ、ヒーロー公安委員会の命令で沢山の犯罪者ヒーローを闇に葬ってたんですよぉ。ひどい話だっ!」
「ちょっ……何を!?」
石のような女と部下たちに思われている彼女をして醜態を見せざるを得ないほどの暴露だ。おばさんはオールマイトの方を見られない。彼は一体どんな表情をしているのだろうか。
「…………そういうことか……彼女は立派なヒーローだった。言い争いがエスカレートして殺害、というのは正直不可解に思っていたが……人知れず血にまみれて、苦しんでいたんだね」
沈痛な面持ちだ。自分が平和の象徴をやる裏で、その幻想を守るために人知れず傷つき汚れていた人間なのだとすぐに思い至ったのだろう。
「……オールマイトは、ヒーロー公安委員会をどう思っているのかしら……潰すときはせめて一報が欲しいわ……」
おばさんはタルタロスにふさわしい死刑囚みたいな顔でせめてもの懇願をした。部下たちだけでもなんとかしてあげなくては……。
「えっ! あの、私はそんな狂犬みたいな人間だと思われてたんですか? 当事者の事情や社会情勢などの考慮位は流石にしますよ……」
それを聞いて会長が安堵したかと言うと、全くの逆である。考慮してダメだったら潰す。この超人は自分がそう言っている自覚はあるのだろうか。こわ。
「公安を潰そうと思ったら一報を頂戴、オールマイト。説明できる事情がきっとあるから」
おばさんは逆に覚悟が決まったらしくキリッとした表情となった。言葉も内容は先ほどと殆ど変わらないが込められた力は段違いだった。
「……あれぇ!? 全然ご安心いただけてない!?」
「何でも暴力で押し通してきたからですよぉ、オールマイト。ボクのほうが圧倒的に付き合いが短いにもかかわらず既にオールマイトよりずーーっと厚い信頼を得ているのはボクの強さゆえだと思いますかぁ? 相互理解ですよ、相互理解~」
「いやいや……私も理解を諦めたことはないぞっ!」
「良く言いますね~。相手に『理解してもらって』ゴリ押ししてただけでしょ~? 分かり合えたんじゃなくて分からせたり、分かってもらってるんでしょう、子ども大人!」
「くぅ……本当に口が上手いな、新斗少女は! そのとおりだから何の反論もできない……!」
オールマイトには反論できないがおばさん会長はいくらでも反論できる。あなたもオールマイトとおんなじでしょう、とかゴリ押しはしないけど引っ込めもしないわよね? とかである。おばさんはオールマイトより付き合いが短いのに良く分かっている。
「上手いのは口じゃなくて人付き合いですぅ~! 相手が
「むむむ……」
「何がむむむですか。よく見てないとボクが悪に誑かされるって思ってるんでしょ~? そうなったら世界は終わりですもんねっ! でも違うんですよぉ? ボクがもしこの世界をめちゃくちゃにぶっ壊してやりたくなったとしたら、悪いのはボクだと思いますぅ?」
「あなたを含めた子どもたちに希望を、未来を示せなかった大人が悪いわ。自業自得ね」
ピシャリと言い放つ会長。メスガキに限らずヒーローがこの世界を見放すのであれば、それはもはや限界が来たと潔く認めるしかないのだと思っているのだ。
「ほら。大人っていうのはこういうことを即座に言える人です。あなたとは当事者意識のレベルが違うのが分かりますかぁ? だからボクも頑張ろ~って思えるんですっ! オールマイトは今ボクをどうやってぶちのめすか考えてたんじゃないですかぁ? もっと力を貯めなくちゃ、みたいな~。社会の一員としてボクを導く、じゃなくて社会の外からなんとかしようと思ってたでしょ~?」
「……私は力を失ったほうが、良かったのかな」
図星であった。メスガキが暴れ出したら自分にも責任がある、と思う部分までは会長と同じだが、責任を持って止めなければ……自分の暴力で! と思ってしまうところが違う。まずぶん殴って止める。それが染み付いてしまっているのだ。それはオールマイトが暴力の信奉者であるというより、彼の生きた時代が表面だけ取り繕ったクソカスごみワールドだったせいなので彼を責めるのはどうかと思うが。まずぶん殴って止めなければ、躊躇って相手に一瞬の時間を与えれば、それだけで何十何百という生命が失われた時代だったのだ。まぁメスガキが暴れ出したら失われるのは多分生命じゃなくて尊厳だけど。
「ボクの意見を聞いてるんですか? そうですねぇ、貴方個人の人生にとっては害悪だったんじゃないですか? 強大な力を扱えるから『どう使うか』を考えちゃうのは分かりますけど~、すっぱり無くなってたほうが考え方も変わったんじゃないかと思います」
「そうか……そうかもしれないな……」
「私はあなたの空前絶後にして未曾有の社会貢献を良く分かってるつもりよ、オールマイト。ただこの娘の言う通り、あとは若い力に託して貴方はゆっくり休んでも良いと思うわ」
しょんぼり俊典。今まで社会のために頑張ってきたくたびれたおじさんを言葉責めする構図に過去の過ちを刺激されたおばさんがさりげなくオールマイトをかばうかのように立ち位置を変えたのを見てメスガキはロジハラを中断(終了ではない)して話を変えた。
「そういえば頼んでいたことはやってくれましたぁ?」
「もちろん。だがのらりくらりと躱された気しかしないんだが。本当にあんな軽い質問で良かったのかい?」
「ボクはオールマイト先生よりずーっと他人を頼るのが上手なんですよぉ。あなたここがどこだかわかってます?」
「え? タルタロスの応接室だろ?」
すっとぼけた言葉を返すオールマイト。
「オールマイト先生……あなた教師なんですからもうちょっと質問の意図を考えたりとかしてくださいよ……あの支配者気取りの生ゴミが今どんな状態か把握してます?」
メスガキは呆れを通り越してちょっと引きながら続けて質問をした。
「えーっと……君が言っていた通り、税金で生かされてる哀れな状態、かな?」
「かいちょ~……これですよ。この脳筋はこの程度のことしか考えてないんです。すごいでしょ? はぁ~……アレの状態は詳細にモニタリングしてるって話は聞いてないんですか? 〝個性〟を使おうとした瞬間に攻撃されるんですよ。知ってます?」
「ああ、そういえばそんな状態らしいな」
続き、話して! 新斗少女! って感じのワクワク顔である。素直。
「……あの、あいつにいっぱい喋らせるだけでデータが集まってバイタルデータだの脳波だので虚偽かどうかは分かるんです。『脳無の制作者』が『I・アイランド』に居るかどうか、『医者』かどうか、ボクが知りたかったのはそれで、貴方がちゃんと質問をしてくれたなら明確に回答は出るんですよ」
「……なるほど! 冴えてるな、新斗少女!」
すごーい! 君は賢いフレンズなんだね! と言わんばかりのぽんこつな空気感。平和の象徴にふさわしいと言えなくもない。あんまり賢いと鼻につくからな。賢い人はバカのふりも上手だけど。
「……貴方何しに面会に行ったんです? 勝利宣言して優越感に浸りたかっただけ……? アンダーカバーが分かれば調査も楽になるの分かりますよね。『善意の情報提供者』いわくあいつは他者の虚偽をどうやってか見破れるらしいので何も知らない貴方にお願いしたんですけど、その調子ならあのノウナシも完全に騙せてそうで良かったです……」
機嫌を良くしたわけではないようだが、メスガキはオールマイトの作った雰囲気にのせられてべらべらと喋りだした。メスガキはオールマイトと話すたび何らかのロジハラをぶちかましているが、これはメスガキ側の意向だけではなく、オールマイトが求めているからでもある。だって誰もそういうの言ってくれないんだもん……。
「制作者……『ドクター』は話によると『個性の複製』まで出来るらしいわ。『AFO』なんて最早いくらでも量産可能な手駒にすぎないのよ、オールマイト」
わりと大事な話だったので会長が軽く補足した。情報源についてはいちいち言わない。「おっ、公安潰すか?」ってオールマイトが思ったら困るので。
「ボクはそれちょっと懐疑的ですけどね~。細胞を培養して『個性を奪う個性』で個性因子から無理やり抽出してるだけじゃないですかぁ? 『変身』や『二倍』を欲しがってたらしいですし、優秀な科学者と言うより『AFO』頼りの二流って印象ですね~。移植なんかで発動するにしても限界があると思います。劣化や不具合が頻発するんじゃないかと。『脳無』なんてその典型例じゃないですか?アレで技術レベルは推し量れますよ」
「それならそれで構わないわ。けれど戦う前から敵を低く見積もらないほうが良いでしょう」
おそらく分析としてはメスガキのほうが正しいが、組織としてはそういう決めつけをするわけにはいかない。大量に『AFO』が出てくる前提で対策を準備せねばならない。
「……会長は『ドクター』のほうが主であるとお考えなのですか?」
「少し違うわね。公安とヒーローの考え方の違いかしら。『発生源』がどこか、が重要なのよ」
公安にとって大事なのは生まれた『AFOの後継者』を倒すことではなく『後継者が生まれる前に制作者を潰す』事だ。事件が発生したあとにしか動けないヒーローとは違う。事前に潰すために動くのが公安である。
「死者の尊厳を辱める屑をのさばらせてたら世間の皆さまが安心して眠れないでしょう? まぁ引退するロートルマイトさんはもう気にしなくていいですよ、屋久島への旅行の日程でも組んだらどうですか」
「失礼する!!」
バァン! と扉を開けて入ってきたのは七三分けのおっさんだ。
「え……ナイトアイ!? なぜここに」
鬼のような形相でメスガキを睨みつけるのは『サー・ナイトアイ』。かつて活動方針で揉めに揉めてケンカ別れしたオールマイトの相棒である。
「オールマイトの元サイドキックの人でしたね。……な、なんですか? 初対面なのにそんな睨むの失礼じゃないです?」
「サー・ナイトアイ。一体何の用かしら。学生相手にずいぶんと大人気ない態度ね」
なんだか良く分からないがメスガキが戸惑っているのですっと前に出て視線から遮る会長。メスガキ相手にはたじたじだが、ヒーロー公安委員会会長は現役プロヒーローの鋭い視線相手でも全く怯まない胆力をもつ女傑である。それに加えて立場自体もクソ強いので睨み返す余裕まである。
「未来を……変えに来た! ここが……ここが分岐点だ!」
「はぁ……?」
いきなり現れて電波なことを宣う七三分けにメスガキは困惑顔だ。未来は自分たちで創るものだって話をさっきしたばっかだし……。
「ナイトアイ。一体何を見たんだい? タルタロスまで突入してくるなんて尋常じゃない事情がありそうだが」
オールマイトはナイトアイの〝個性〟について部外秘のことまで知っているのでメスガキのように戸惑うことはなかった。
「オールマイト! あなたは……あなたという人は! いえ……これで未来は変わる……そのはずだ! オールマイト……平和の象徴の『死』の運命は、これで……」
「……ナイトアイ」
オールマイトは感動していた。未来を変えるために活動をやめろ。そう言われてもオールマイトは従わなかったのに。〝無個性〟の中学生に譲渡を決めた事を報告した時も、反対を押し切って断行したのに。体育祭の後久々にナイトアイから会いたいと連絡があったのでドキドキしながら向かったら上機嫌なナイトアイが居て和解できるかと思ったらメスガキを後継者と勘違いしていて未来は変わったんだとウキウキしてたナイトアイに後継者は緑谷出久だと訂正したらまた喧嘩になったのに。それなのにサー・ナイトアイはこんなにも必死になって自身の死を覆そうとしてくれている。
「オールマイト。未来が変わったか、確かめさせてもらえるか……」
「あ……ああ! もちろんだ!」
オールマイトはぎゅっとサーの手を握りしめる。精一杯の感謝と友情を込めた和解の握手だ。
「……やった! 変わっ……いや変わってない! 一体何故だ!! オールマイト、あなたは何故!!」
一瞬だけ喜色満面の笑顔を見せたナイトアイだったが、すぐにまた曇った。しかしオールマイトは笑顔のままだ。死の運命が覆っていないことに悲観などない。なぜならそれは彼の人生の前提だったからだ。
「ナイトアイ……良いんだ。そもそも象徴になろうとしたときからまともに死ねるなどと思っていな──」
「何故!! あなたはロリコンなんだ、オールマイトォ────ッ!!!」
「何の話ィ!? 心当たりゼロなんだけど!? 私の好みはむっちりして筋肉質な年上のワケアリ子持ち未亡人だっつーの!! 真逆だから!」
度し難い。このままタルタロスに入れ、八木俊典。彼もこの世界の歪みに押しつぶされた被害者の一人であることがよく分かる闇を感じる性癖だ。こりゃ結婚できねーわ……。ハァ……本物!
「どうして……どうしてこんなことに……誰か……教えてくれ……〝個性〟は私に残酷な事実だけを見せつけ、解決法を示してはくれない……」
床に這いつくばるナイトアイ。やめろめろめろ佐々木めろ。まさか今聞いたオールマイトの性癖に絶望してるわけじゃないよね?
「ヒーローってやっぱどこかおかしくないと出来ないんでしょうねぇ~」
「あなたが言うとものすごい説得力ね、ホーリーナイト」
独自設定とか
・前会長:ナガンを娘のように思っていた。
・オヤジ……ごめんなァオヤジ……:原作で治崎廻がうわ言のように連呼していた。
・ナガン親なし:家族の話題が出てこねえので。生きてるなら言及あると思うんだ。
・『間違い』だったとは思わない:私は心が保たなかった。
・暗黒権力:タルタロスに入れるかどうかを公安が決めてるの超怖いんですけど。
・タルタロスの法:原作の説明に「刑の確定、未確定を問わず様々な〝個性〟の持ち主が収監されている」とかサラッと書いてある。未確定!?
・ナガンの刑期:実質嘱託殺人1件。つまり懲役7年以下。どう少なく見積もっても10年はタルタロスに居るはずなので不当な拘束……。まぁ法廷で認められるかはまた別の話なんだけどそんな事言いだしたらタルタロス自体が法に喧嘩売ってる……。
・緑谷出久。お前は本も―:ナガンが『本物』の『ヒーロー殺し』。誰にも知られること無く自己犠牲。
・前会長:安らかな死に顔だった。
・カウンセラー:ヒロアカ世界のカウンセラーって胡散臭そう(偏見)。
・拠点いっぱい:原作と違って金があるから……。
・オバホのスタンス:原作は連合の看板を奪ってパトロンを募って金を集めようとしてた。ここはパトロンになってもらいに来てる。
・オバホの態度:ワープで仲間から引き剥がされてちょっと焦ってた。
・人口増加:ヒロアカの時代だから数値が違ってぇ……とかやるとめんどくさいので2026年準拠。
・あっさり諦める治崎くん:独学で行き詰まって外部に頼ってる時点で既に追い詰められてんだよね。資金集めも杜撰でナイトアイに目をつけられてる。
・オヤジィ……:オヤジを喜ばせたいならエリちゃん可愛がって幸せにすると良いぞカス。
・塚内くん:怒られているわけではなくて関係維持のためのドサ回りですね……。こういうの出来るからねじ込める。
・メスガキからナガンへの印象:個人としては結構好き。
・メスガキのダブスタ:話をそらした。誤魔化しの象徴の後継……!
・グラントリノにボコられマイト:7人(6人)の蓄積より八木くん一人の蓄積のほうがデカそう……。
・自業自得ね:ヒーロー公安委員会会長だからマジでそういう責任が肩に乗ってる。
・モニタリング:原作でもやってるので喋れば喋るほど情報取れるんだけどね。まぁタルタロスの闇とかべらべらオールマイトに喋られたら困るもんな。許せん!タルタロス沈没すまーっしゅ!
・メスガキの戸惑い:オールマイトにロジハラしてたところだったので元相棒に睨まれて気まずい。
・ロリコンマイト:不当な疑い。
・サーの〝個性〟:一応この作品ではこういう解釈、っていうのは決まっているのでそのうち説明します。
ナガンの進路はどうなると思いますか?(大筋は決まってるけど描写が多少変わるかもしれない)
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一般人に戻る(ですよね)
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公安の犬に戻る(モチベはそこそこ)
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革命家になるぜ(過激派)
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ヒーロー復帰(嘘やろ)
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婚活(モテそう)