ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「定刻となりましたので、ただいまよりオールマイトの今回の疑惑に関する記者会見を執り行います。報道各社の皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。……それでは、オールマイトの入場です」
一斉に焚かれるフラッシュ。激しい嵐のようなシャッター音が響き渡るなか、オールマイトが会見会場に入ってきた。いつもの「私が来た!」という豪快な声も、大仰なポーズもない。ただ粛々と歩いて席につくその姿に、マスメディアはシャッターチャンスとばかりに張り切って撮影しまくっている。今回の会見は、「オールマイトとJKの温泉旅行デート、熱愛発覚」という、あまりにもスキャンダラスな疑惑によって開かれた緊急記者会見である。
「それではオールマイト本人より、皆様へ謝罪と説明がございます」
オールマイト事務所の広報官がよく通る声で促すと、オールマイトはマイクに向かってゆっくりと話しだした。
「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。今回、私の不用意な行動によりこのような疑惑が出てしまったことでファンの皆様、ならびに関係者の皆様に多大なるご心配をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。最初にお話したいことは今回の報道は温泉旅行に行ったという部分を除き事実無根であるということです。私と当疑惑を向けられている生徒である新斗黎乃さんは親密ではありますが、報道にあるような不適切な関係は一切ございません」
滝のごとく鳴り響くフラッシュ音。会場の雰囲気は正直そこまで暗くない。「ロリコンだったのかぁ、道理で」とか「男女で師匠と弟子だとまぁそういうの多いよね。女子スポーツ選手もよくコーチと結婚してるもんな」とかの「ですよねー」感が会場に広がっている。ネガティブなスキャンダルと言うより超絶美少女を射止めたお騒がせ男を皆でつつこうぜ的な明るい雰囲気すらあった。
「オールマイト! ホーリーナイトと一緒に温泉に入ったと記事にはありましたが本当ですか!」
「事実無根です。男湯と女湯に別れて入浴することをあたかも混浴かのように勘違いさせる悪質な印象操作です」
メスガキは混浴でも気にしないし何なら混浴に悪意なしに誘ってたけどオールマイトはちゃんと断った。
「一つのソフトクリームを二人で分け合っている写真もありますが!」
「悪意ある切り抜きです。単に教え子が他の味も食べたいと言ったので交換しただけです」
これはちょっと問題な気がするけど本人たちにはマジで何の含みもないのでつついても何も出なさそうだと思った記者たちは次の質問に移った。
「そもそも一体何故二人きりで旅行を?」
「予定では二人ではなく他にも生徒がいる予定でしたが、インターンなどで予定が合わなくなり結果的に二人となってしまいました」
あたかも他にもいっぱい生徒が居る予定だったかのような表現だが実際はクソナードがインターンで来られなくなっただけである。
「膝の上に乗せて密着している写真もありますが」
「父と子のような微笑ましいスキンシップであっていかがわしさは一切ありません」
まぁ旅行で心の距離が近づいた結果なのでそういう点で言えばヤバさを含んでいないとも言えない。
「年齢的に無理がありませんか?」
「じゃあ祖父と孫でも大丈夫です」
「いえ、そうではなくホーリーナイトは16歳ですよね」
JKを膝に乗せているおっさん。文章にするとマジでいかがわしい。
「はい。未成年ですので一切猥雑はありません」
オールマイトがあまりにも堂々と言い張るので突っ込みづらかった。もちろんはぐらかし誤魔化しテクである。平和の象徴の言葉には未だに確かな重みがあるのだ。
「ちんちんもがもがしている写真もありますよね?」
「ただの息抜きの遊びです」
この部分が切り抜かれてオールマイトは
「……という感じでオールマイトは引退を余儀なくされ、ホーリーナイトは終始ニヤニヤしていた。引退したオールマイトは田舎にひっこんで縁側でぼーっとお茶を飲む生活を40年続け眠るように息を引き取った。許せない」
「まだやってないことで睨まれるなんて。ナイトアイは公安向きの性格してますね(嫌味)」
能力も向いてる。総理大臣とか予知しろよマジで。まぁプライベートが丸裸になるから実現しなかったのかもしれない。予知能力者って「~しろよ」「~すればいいじゃん」が無限に出てきてホントやだ……。
「そんな事はしない、とは言わないのだな」
「旅行中は単に楽しんだだけだと思いますけど~……まぁ、事後に疑惑を煽るような言動をしたであろうことは想像に難くないですね。でもそこの限界おじさんが早期引退するのは良いことでしょ?」
「スキャンダルで引退かぁ……『平和の象徴』は木っ端微塵だろうな……新斗少女強すぎない……? あの、ところでナイトアイ、いつ『予知』を発動したの? タイミング的にこの間の喧嘩の時だよね? 私聞いてないんだけど」
怖いよね本当に、どっちも。メスガキは冗談じゃなく引退させることに身体張ってるし、サーはプライベートを丸裸にしたことを全く悪びれていない。メスガキにここまでされないと引退しないオールマイトもどうかと思うけど。あとサーは結構勝手に見るからな。最初の死の予知も無断でやってるし、お前マジふざけんなよ厄介ファンがよ。
「引退そのものは私も賛成だ……しかし今までの彼の貢献を台無しにするような終わらせ方はいかがなものか。華々しくとまでは言わないが敬意を持つべきだろう……!」
オールマイトの強火ファンで本人に押しかけてサイドキックに収まるという究極の迷惑男であるナイトアイ。メスガキの策略による引退は解釈違いだったようだ。こいつこんな経歴のくせに自分からサイドキックやめてホント迷惑。まぁ多分死の予知ではサイドキック続けてたからワンチャン未来変わるかと断腸の思いでやめたんじゃないかと思うけど。
「そんなことより、オールマイトは40年間力を振るう事無く天寿を全うしたんですね? そうですかぁ。ボクもこの社会も少なくとも40年は上手くやれるという事ですねっ! 教えていただきありがとうございまーすっ!」
「あら……たしかにそうね。翻って私も上手くやれたということになるわ。自信が湧いてくるわね」
ポジティブ。まぁそうじゃなきゃ人生やってられないくらい辛いんだよ、どっちも。ネガティブだったらこの場に立てていないんだ。
「待て待て! 私はなんとしてでもこの未来を変えてみせる! そのために来た!」
「へぇ~? その結果オールマイトが天寿を全うできなくなったらどうするんですかぁ? 現状が最善の未来に繋がるとは思わないんですね?」
メスガキはじとっとした眼でナイトアイを見つめた。今にも「いい度胸じゃん。勝負すっか?」とでも言い出しそうな雰囲気である。
「ぐっ……だがこれほど未来が激変する『今』はターニングポイントに違いないんだ! 私は今まで未来は変えられないとどこかで諦めていた……だが! それは間違いだった! より良い未来を模索することを諦めてはならない……!」
とはいえナイトアイもどちらかと言うとこの変化をポジティブに捉えている。なにせオールマイトが生きてるからな。だがだからこそ欲が出たのだろう。未来に『期待』する気持ちが蘇ったのだ。
「えーと、ナイトアイ、まだ私への予知は効果時間中だよね。この話を聞いて私の行動が変わらないなんてありえないと思うんだけど予知はどうなってる?」
「…………はっ! か、変わっている……何故こんなにあっさりと……!? いや変わってない! 結局引退してる!」
温泉旅行はナシになったようだ。しかし『この話』はメスガキだって把握している。つまり、そういうことだ。
「?? なんか変なこと言ってますね。引退は結果じゃなくて状態でしょ? オールマイトがこの話を聞いてなにか対策を取ったけどボクも聞いてたから対策を見破って引退に追い込んだってことですよねっ! 変わってるでしょ、未来!」
「新斗少女、本当にすごいね君。まったく悪びれない……」
ブーメラン使い、八木俊典。色んな人に心配かけまくってるのに全くブレない貴方が他人にとやかく言えることじゃないと思いますよ。不本意な引退に追い込まれようとしていることは怒っていいことだけどそっちは気にしてないんだよねこのおじさん。
「リアルタイムで反映されているの? じゃあこういうのはどうかしら。『ホーリーナイト。今現在聞いている限りだと貴方とのスキャンダルをネタにオールマイトを引退に追い込んでるみたいだけど、それだと他の雄英高校の関係者にも迷惑がかかるわよ』。『それに私も悲しいわ。貴方のファンである私の気持ちも考えて』」
「ん……そうですね。別の方法考えたほうが良いかぁ……」
メスガキは少し考えたあとこの作戦を破棄したようだった。まぁ実行したらイレ先とかミッナイとか響香ちゃんとかヤオモモとかがくっそ悲しんでアホほど後悔することになっただろうから辞めといて正解。ナイトアイはオールマイトの周囲しか見れないので教師を辞職したあと迷惑をかけまいと関わらないようにした関係者たちが見えないから忠告もできないからね。会長に感謝しとけよマジで。ねじれちゃんと天喰くんにドヤ顔で嫌味言ったくせにこれ。ブーメランマスターか?
「……か、変わった! そうか、この少女が!! 鍵だったのか!!」
変わった未来ではオールマイトはなんかすごい華々しく……公安がかっこよく演出してくれたようで平和の象徴としてキラキラと夢を見せながら勇退している。これにはナイトアイもにっこり笑顔だ。でもそれ多分メスガキじゃなくて会長のプロデュースですよ。
「なるほど。彼女は出来ることがとにかく多いからな。どうするか気分が変わっただけで未来が激変するのは『らしい』感じがするね」
「これほど予知が乱れるまでに彼女が特別だということか……? …………」
ナイトアイはメスガキをじっと見つめた。目付きが悪いのでまだちょっと睨んでる感じに見えるがナイトアイ本人にそのつもりはない。
「ボクの予知をしたがっています~? まぁ試してみてもいいですよ」
「……いや。次に予知が可能になるのは『12時間後』だ。今は試せない……」
試しても無駄だけどな。メスガキの手を握ったところで『予知』は発動しない。メスガキと深く関わる人物を『見る』ことで間接的に知ることは出来るが、今回判明したようにメスガキの気分でコロコロ変わるので情報収集にしかならない。まぁその情報はデカいと思うから定期的に見たほうが良いと思うけど。
「結構制限キツイんですね。〝個性〟の詳細をお伺いしてもいいですか?」
「…………」
「ナイトアイ。大丈夫だ! 彼女は私を引退させることには熱心だがそれは彼女なりに私を思い遣ってのことであって、私の不幸など望んではいないよ。詳細を聞いて『より良い未来を模索しようとしている』のさ」
「オールマイト……分かった……ホーリーナイト、私の〝個性〟の詳細についてはここだけの話で頼むぞ……会長もお願いします」
信頼し敬愛するオールマイトのお墨付きがでたことでメスガキを信じる気持ちになったらしくナイトアイは神妙な顔をしてこの場で〝個性〟の詳細を話す気になったようだった。オールマイトはメスガキにふくらはぎあたりをげしげしと蹴られたが、笑顔がこぼれ出てしまった。痛みもないし、照れ隠しだと分かったからだ。まぁ本気で怒らせて害意を持って蹴られた場合でも痛みを感じる間もなく即死だけど……。これで笑えるオールマイトは本当に大物。
「はぁい。基本的にあなたの許可なく他人に明かしません。……その情報を『私的な都合で悪用しない』ことを両親に誓います。何らかの致命的な事態が起こればその限りではありませんけど」
このようにオールマイトの信頼にしっかりと応えたことからも照れ隠しだったことが分かる。
「〝個性〟届に書いてない部分まで話すということね? いいわ、胸の内にしまっておきましょう。私も念のため言っておくけど社会に著しい悪影響が出ると判断したらその限りではないわ。例えばあなたの〝個性〟が他者に奪われてしまった、などのケースね」
メスガキが省いた言葉を補足する会長。『複製品』が既に完成している可能性があるため、杞憂ではない。
「どちらも当然の判断かと。では……」
ナイトアイは語った。自身の〝個性〟について自分が知る限りのことや実際に行った検証等多岐にわたるが、それを聞いたメスガキの表情は微妙だった。
「なんだかナイトアイの主観に偏りまくった曖昧な説明でしたね」
「そうね。今回私の眼前で起こったであろうこととは整合性が取れていないわ。一番気になったのは『未来は変えられなかった』という表現ね。今までも変わっていたでしょう?」
会長も不可解そうな顔で質問を投げかけた。
「……? どういうことでしょう」
「マジで言ってます? 『余分なカット』が挟まってるじゃあないですか」
メスガキが言っている『余分なカット』とはナイトアイが未来を変えようと行った行動や『その結果変化した部分』のことだ。こうやって文章化するとわかるが明確に『変化』している。
「だがそれは無意味だった。帳尻合わせが起こり、元の流れに戻され、未来は分岐しなかったんだ」
「分岐って考え方がそもそもおかしいでしょ。 現実に人間が歩める『今』は常に一つしかなくて、未来を観測し行動を変えた時点で、未来そのものが変化……書き換わってるじゃないですか。まぁナイトアイの主観に合わせて『分岐』って言葉を使うなら、『元に戻った』んじゃなくて、最初のルートから明確に分岐してますよね」
「……??」
ナイトアイは全然ピンときてないようだった。困惑顔でメスガキを見つめている。
「ホーリーナイトせんせー! よく分かりません! もっと簡単に……私でも分かるように説明をお願いします!」
ぴっ! と右手を上げて質問するオールマイト。きれいな姿勢である。
「お、オールマイト先生……教師のプライドとかないんですか……?」
「あるから年下の生徒にも素直に質問できるのさ! HAHAHA!」
立派な心がけである。分からないことを分からないと放置しない。プライドは教師として向上する事にこそ持っているということだ。まぁ直前に教師としてもっと考えろって怒られたばっかだしな。考えても分からなかったので質問することにしたのだろう。
「……なるほど! 今まで聞いたオールマイト先生の言葉のなかで一番心に響いたかもしれません!」
珍しくメスガキも素直にオールマイトを称賛した。そしてすごいドヤ顔になって得意げに説明を始めた。
「ではそうですね……そもそも未来は分岐するかどうか、つまり『ナイトアイの見る未来が今まで変化していたかどうか』ですがこれは確定してます。ばっちり変化してます。ナイトアイは『もとに戻ってる』と主張していますが、これは明確に間違いです。地球の自転と公転はご存知ですよね? 『余分なカット』が挟まることで発生時刻がずれる……すなわち『宇宙全体で見た時の座標』は明確に『ズレている』ため全く別の事象です」
水が200mLあったとする。コップの中にあるのと、胃の中にあるのと、頭蓋骨内にあるのとでは全く違う事象であることがおわかりいただけるだろうか。位置が違うというのはそれくらい重大な変化である。おんなじじゃん、って思う人はサー・ナイトアイの素質あるよ。
「……変えたい事象が変わらないのであれば、無意味ではないか?」
ナイトアイにとってはそういうことだ。宇宙の座標がどうだろうがコップの中に水があるなら一緒だろ、という主張である。しかし。
「それは貴方の主観であって事実とは違います。ナイトアイは予知を味方に使わないそうですが、これは『死』の未来を見たくないから、ですよね? ナイトアイの言ってた『変えられなかった未来』ってつまり『平和の象徴の死』のことでしょう」
「ああ、それは私も気になっていたな。確かかつての予知は『
「えっ……そこまで変わってたんですか? 真面目に説明しようとしていたボクの時間返して」
聞くまでもなくがっつり変わってるじゃねえか。ドヤ顔が消えてがっかりした表情になるメスガキ。かわいそ……。
「なるほどね。『ナイトアイが変化させたい何か』が変わらないことを『未来は変えられない』『元のルートに戻った』と表現しているということね? それが物理的な死でも社会的な死でもナイトアイにとっては同じだということね」
「そうみたいですねっ! ……ほら、主観の問題でしょ? 変えられない理由も明白ですね。『オールマイト本人が頑固だから』ですっ! 社会的な死で引退に追い込まれるのはオールマイトがボクの引退のすすめを頑なに断り自分のプランニングに固執しているからです! おそらく
「……ああ。その通りだ。オールマイトは聞き入れてくれなかった……」
「わかりやすく置き換えてみましょうか。駅に行きたい人がいたとします。ナイトアイは駅に行ってほしくないので色々と妨害するわけです。例えば道を通行止めにしてみたりとかですねっ! ですが駅に行きたい人は迂回して駅に向かいます。これが『余分なカットが挟まる』けど『結果が変わらない』ロジックです。やるべきことは『駅に行く動機』を潰すことなんですが、ナイトアイの『力不足』によりそれはできないため、『駅にたどり着いてしまいます』。ボクは違います。『駅を破壊する』だとか『駅に行く理由を無意味にする』とか『駅へ行けば他者に迷惑がかかる状況を作って諦めさせる』とか色々できます。オールマイトを害する予定の
これでも分かりにくければ『駅に行く』を『うんこを漏らす』に置き換えると分かるだろう。ナイトアイが色々やっても漏れそうな人のうんこを1時間以内にどうにかすることができないので、うんこする場所を変化させることくらいしかできない。これを『うんこ漏らす未来が変えられないよぉ』と嘆いているのがサー・ナイトアイ。
「私の主観の問題……か。そうかもしれない……この〝個性〟を私は今まで慎重に秘匿してきた。他者には曖昧に、わかりにくく説明していた。だからこそ誰にも指摘してもらえなかったのだろうな……」
しかしながら周りにとってはどこで漏れるかは重大な問題だ。飲食店の店内と公衆トイレの前では影響が全く変わってくる。当然漏らす当人にとってもどこで漏れるかによって社会へ与える影響やその後の人生まで変わってくるだろう。だがナイトアイの変えたい未来は「うんこが漏れること」なので「変わってないよぉ」と嘆いている。
「もっと周りの意見を聞いたり広く対策を募ればよかったんじゃないですかぁ? ボクほどじゃなくてもナイトアイにできないことができたり、ナイトアイに浮かばない発想を聞けたりしたんじゃないですかねっ! サイドキックだけあってオールマイトにそっくりというか、問題点が一緒! 人間不信コンビですねっ!」
メスガキなら一瞬でトイレに移動させたりその場にトイレを作ったり腹からうんこを消滅させたり出来るのでナイトアイは『うんこ漏らさなくなった! 未来が変わった!』と認識するわけだ。これって……ああ。オールマイトの死をうんこ扱いだ。最強のヘイト二次創作、ハーメルンに刻む! 失禁の次はうんこかよ小学生か? ナイトアイはメスガキの言葉を聞いて暗い表情になった。
「…………」
ぐぅの音も出ずに黙り込むナイトアイ。他人の秘密を丸裸に出来るを通り越して本人の知らない未来の決断までも見通せる〝個性〟を持っているがゆえに、ナイトアイは他者を『信じる』のが難しい。『見』れば分かることだからだ。だから『オールマイト』のファンなのだ。『信じてもらう』ために生きているような彼が、とても眩しく見えた。
「詳細を聞いても正直あまり参考になりませんでしたねっ! というか結局ナイトアイはオールマイトにどうなってほしかったんですかぁ? ボクに言っておけばいつか思い出して考慮する日が来るかもしれませんよぉ」
「……幸せに……なってほしかった。そうなればきっと……私も未来を信じられると……希望を持てると思ったんだ……」
出来事全てが既知であれば、そこに喜びはあるだろうか。結果の分かっている人生に楽しさを見いだせるだろうか。ナイトアイは〝個性〟に目覚めた時、母の未来を見た。それによりナイトアイの人生からは驚きが消え失せた。小学校、中学校、高校で起こる出来事を母に報告する自分の姿を見た。ヒーロー科に入学した自分を、見た。幼い自分はそれを喜び、その通りに動くことでヒーローになろうとした。それは、果たして本当に自分の意思だったのか。
「そうすることで……私が幸せになりたかったんだ……。オールマイトが不幸になるのならば……私の人生は、一体何なんだ?」
では自分の意志で未来を見るのをやめた時に、なにか悲劇が起こったとしたらどうだろう。見ていれば防げたと、後悔しないだろうか。他者の中の自分ばかりを見て、母のことも父のこともろくに見なかったから、二人は死んだ。『ヒーロー』になろうとして『ヒーロー』の資格を失った、愚かな子供。驚きはないのに責任だけはある全てが色褪せた世界。
「オールマイトが世の中に示し続けた『平和の象徴』は……私の希望そのものだった……」
そんな中でただ一つの輝きを持つのがオールマイトだった。何もかもを救ってくれるかのような安心感が、どれほど『佐々木 未来』の人生を豊かに彩ってくれたことか。ああ、自分だけが頑張らなくてもいいんだ。自分が『見』きれない場所まで、彼は救ってくれる。彼と共にあれば、自分もきっと本当のヒーローになれる……。それは代償行為だ。本当に変えたいのは過去……あの日救えなかった両親をこそ、救いたい。誰かを救い続ければ、あの日の後悔を無駄にしなければ、いつか二人に赦してもらえる気がした。
「オールマイトは私に夢を見せてくれた。モノクロの人生に色を与えてくれた。笑顔を、取り戻してくれたんだ……」
ユーモアのない社会に未来はない。ユーモアのない人生に喜びはない。実体験だ。ナイトアイにそれをくれたのはオールマイトだった。心を和ませ、笑顔をくれた。生きる意味をくれた。
「だからどうか……どうか。彼を殺さないでくれ。私の夢を……壊さないでくれ……どうか……」
「え……し、辛気臭いっ……なんでオールマイトの関係者って尽くじめじめしてるのぉ……もうやだぁ……」
ツインテがへにょーんとへたるくらいテンションが下がっている。おめめと毛先も寒色系でピカピカしてて文字通りブルーな感じだ。グラントリノは結構カラッとしてるんだけどメスガキはジェットおじいちゃんとは保須でちょろっと話したくらいだからな……。
「ホーリーナイト。いい大人が泣きながら懇願しているのだから茶化すのはやめなさい……考慮するかどうかはともかく、真剣に受け止めましょうね」
おばさんはぽんぽんとメスガキの頭を撫でながら優しく諭した。部下が見れば目玉が飛び出して会長にぶつかり全治二日くらいの負傷を(会長が)しただろう。ヒロアカ世界はギャグ描写に物理的な威力があるから……。
「ナイトアイ……! そんなふうに思っていてくれていたのに私は……くぅ……!」
オールマイトも半泣きだ。幾度となく衝突もしたがそれはむしろ喧嘩も出来るほどに心の距離が近かったということでもある。当然オールマイトにとってもナイトアイは大切な友人なのだ。
「もー……分かりましたよ。ボクとしては『平和の象徴』を『無価値』って言ってるわけじゃあないんですけどね。ポジティブに言い換えれば……『役目を果たした』と思いませんか?」
「役目を……?」
「もうさんざん絞り尽くした残りカス……じゃなかった、大願成就のお役御免でしょうっ! 一度やり始めたんだから最後までやれみたいな脅迫、どうかと思いますね、ボクは。いいじゃん、途中でやめたって。いつでもやめてOKな体制を作れていないことを恥じるべき。現行の制度は属人化しすぎ」
「全部当たってるわ。耳が痛いわね」
ヒーロー公安委員会なんて属人化の最たるものだからな。その場しのぎの場当たり的な対処の自転車操業です……。量産品は一つもなくて全部職人手作りの商品でスーパーが営業できると思いますか? あなた。この商品ってどんな商品? って聞いても誰も答えられないんすよ。「とにかくかっこいいです!」くらいしか言えることがない。どうやってまとめるんだこんなもんすぎる……。『ヒーロー』『一般人』『
「今頑張ってる人を責めているわけじゃあないんですけど……口だけだして何もしない人がいるじゃないですか。本当の邪悪はその『他人事感』でしょ。『自分と関係ない』からどこまでも残忍になれるわけですよ。だからボクはどうかと思いますね、『私が来た』ってやつ。オールマイトはあれですよね、『だから勇気を出してくれ、安心してくれ』って気持ちを込めてますよね? でもどう受け取られてるか真剣に考えたことありますか?」
「えっ。それは、皆安心して笑顔になってくれてると思うんだが……違うの?」
「……そーですね。オールマイトの原点はそこなんでしょうね~。笑顔のない時代に生きてないボクにはちょっと共感が難しいかも。ここはボクも反省点かな。……民衆は『あとはオールマイトがなんとかしてくれる』って思ってますよ。あなたのデビュー動画とか顕著ですよね。ボクあれ嫌いです。誰も貴方を手伝わない。動画撮影して実況してる暇と余裕があるなら一人背負うくらいしろよって思います。あれをもてはやして誰も問題視しない世の中が大嫌いです。もっと言うとオールマイトがそもそも他人を頼らないのが問題の根本ですよね。「そこの君! 良かったら少し手伝ってくれ!」……その一言があれば今の世の中が激変していたであろうことが分かりませんか?」
ネチネチネチネチ~♪ と曲がかかりそうなくらいねちっこい。今関係ない部分やもうどうしようもない過去にまで話を飛ばして絶好調である。実際問題視している人が存在しないわけではないが「嫉妬だろ」とか「性格わりぃ」とかクソミソに叩かれている。まぁただこういうので大事なのはバランスなのでメスガキは偏りの是正のために過激なことを言ってるのもある。デビュー動画の撮影だって被災者が泣きながら撮ってるわけで傍観者だったわけではないしな。本当の傍観者はデビュー動画を見てなお他人事に考えてる奴らなので。まぁでもオールマイトは自己犠牲に偏りすぎているので「お前のそれ全然ダメだから」って厳し目に言わないと……。
「……君の言う通り、私は人間不信なのだろうな……」
扉を開けたら
「そうですそうです。自覚して考慮して行動するといいと思いまぁす。あ、もうオールマイトのこと『見』なくていいですよ、ナイトアイっ! ボクの気分一つで『変化』するんだから余計な気苦労にしかならないことが分かったでしょ? このおじさんの余生はボクが暇な時に『見』といてあげますから、これからは希望で胸を一杯にしてご自身のヒーロー活動に専念してくださいねっ!」
「そうだね! いや、新斗少女に面倒を見てもらうってことじゃないぞ! 君はもう私の未来について考えて苦しむことはしなくていい。大丈夫! 私は幸せになってみせるよ! たとえそれが周りの人々に理解されないものだったとしてもね! ……だからナイトアイも自信を持って幸せになってくれ! 君は私のことをとても良く助けてくれた、私のヒーローなのだから!」
メスガキは全然分かってないオールマイトの膝裏をべしっと蹴り飛ばしてオールマイトに膝カックンをした。オールマイトの隙をついてこのようなことが出来るのは全世界でメスガキのみである。慌てて体勢を立て直しつつメスガキに「いまかっこいいセリフで感動的に締めようとしてただろ!?」と文句を言うオールマイトを見てナイトアイは苦笑し、それにハッと気付いたあと大声で笑った。
「いんたぁん……インターンか! お前な……俺がなんでヒーロー免許持ってるか説明したよな?」
色々とすったもんだはあったようだが、結局インターンそのものは例年通り行われることとなった。ただしなるべくインターンの実績があり雄英高校としっかり連携の取れる事務所のみが対象、つまり相手方だけではなく雄英高校側でも審査と許可が必要という条件がついた。緑谷出久がインターンに行きたがっている相手であるグラントリノは条件から外れていたが、根津校長やオールマイトからの信頼が厚いので申請すれば受理されるだろう。しかし当のグラントリノからは色よい返事は出なかった。
「えっ! ハイ、あの、雄英高校でオールマイトの教師をするためとお伺いした覚えがあります!」
今回は申請前の確認……正式に雄英から話が行く前に相手方の意向を確認するステップだ。このあたりは今回から手続きが変わったのでごたついている部分である。「審査したけどダメでした」とか相手方に伝えると失礼なので手続きとしてはまず雄英高校で審査し、その後正式にインターン申し込みという手順になるのだが、学生側からしたらそこで断られたらどうすんねんという不安があるため当然インターン先に「受けてくれますか?」という事前確認をするわけだ。そういうホットラインが無いならそもそも受けてもらえないのでこのようなクソ手続きになるのは今回のみだろう。
「分かってるじゃねえか。真っ当なヒーロー活動を学びたいなら俺のところは向いてねぇぞ。職場体験だってお前、俺ぁドキドキしながらやってたんだからな。近隣のヒーローなんかに色々聞いたりしてよ……インターンで同じ事させる気かお前。お断りだっつーの。指名したのはそもそもお前のヒーロー活動のためってだけじゃなかったの分かってるだろ?」
殆ど『ヒーロー』として──つまり今どきの職業ヒーローとして──活動してないグラントリノは基本中の基本くらいしか教えてやれない。例えば書類の書き方なんかは懇意にしている警察の知人などに丸投げしていたりするため聞かれても困る。そもそもグラントリノが職場体験で緑谷出久を指名したのは『OFA』の後継者としての資質を見極めるためだったので、純粋にヒーローとして学べたかと言うと疑問だとグラントリノは思っている。実際いわゆる商業的なあれこれは全く学べなかった。しかし戦闘力の向上は劇的で、クソナードにはその実感があったので今回もお願いしたいと思っていた。
「ウッ……でもその、僕はグラントリノに教わりたいなと……」
緑谷にとってグラントリノは第二の師とでもいうべき人物であり、インターンの話を聞いた時に真っ先にまた会いたいと思ったヒーローでもあった。彼の教えは非常に実戦的で、事件に対する嗅覚も鋭く職場体験後半で共に行った渋谷でのパトロールでは幾度となく驚かされた。その秘訣を今度こそ教わりたいと思っていたのだ。
「……『ギガントマキア』については俊典から聞いているか?」
グラントリノとてこのように純粋に慕われて心が動かないわけではない。ただ、「いいぞ」と言えない事情があるのだ。
「え? いえ……知らないです。『ギガントマリア』なら知ってますけど」
トレーニングルームでたまたま一緒になった二年生の先輩が教えてくれたことだ。前期、つまり6月の仮免試験で合格できなかった先輩は9月の試験でようやく仮免を取れて一安心できたとのことで、異例の速さで仮免を取得した後輩に驚きつつも色々と世話を焼いてくれて、その際に先輩が受けた試験で出てきた仮想
「あぁん? そっちは俺が知らねぇな? ちっと説明してもらっていいか」
クソナードは先輩から聞いた話をかいつまんで説明した。エンデヴァーとマウントレディが変な衣装でヴィランに扮して『エンヴィー』『ギガントマリア』と名乗っていたことを。
「なるほど。公安委員会の啓蒙活動の一環ってところか……」
「啓蒙活動……ですか? ……『ギガントマキア』は巨人、ということでしょうか」
思えば新進気鋭として評価されているシンエンカムイ、じゃなかった『シンリンカムイ』はともかく、デビューしたての『マウントレディ』は仮想ヴィランの中では少しキャリアが浮いている。であればマウントレディでなくてはならなかった理由があると考えて然るべきだ。彼女の最も顕著な特徴といえば、やはりその巨体であろう。尻じゃねーよ踏み潰すぞ。
「おっ。いいぞ、デク。そうやって常に思考を回し続けろ。軽く説明しとくとだな……」
なんで俊典は説明してないんだ? まさかギガントマキアのことまだ聞いてない? とちょっと不安になりながら公安から聞いた情報を伝える。『AFO』の残党であることは部外秘だがクソナードは思いっきり関係者なのでその辺りもしっかりと言い含める。ちなみにとっしーはギガントマキアの存在をメスガキから伝達してもらったので周りと脅威度に対する認識を共有できていません……。メスガキも俊典も悪い。二人にしちゃいけない奴らなんだよ!
「俺としてもまだお前に教えてやりたいことがないわけじゃあねえが……インターンとして、つまり今の俺の仕事である『ギガントマキア探索』に付き合わせるのはリスクばかりがデカくて得るものが少ない。悪いが他を当たれ。そのほうがお前のためだ」
「残念です……探索、応援しています! しかし、他ですか……正直ツテがなくて……」
インターンの話を聞いた瞬間クソナードの脳内は「やったー! またグラントリノと会える!」というクソナード感でいっぱいだったので何も考えてなかった。グラントリノにバレたら「思考停止するな!」って叱られるやつ。
「冗談だろ? お前には特大のツテがあるじゃねえか」
グラントリノは「俺を立ててくれてるんだな」と上機嫌に考えていたのでお叱りはなかった。クソナードのキモオタファンボーイ部分は師である自分へのリスペクトに見えてるので……。
「え……? あ! そういえばそうですね!」
「ああ。あいつもお前の教育に力を入れるって息巻いて」
そう。オールマイトだ。あまりのレジェンドぶりにクソナードも思考から外してしまっていたのだろう。
「エンデヴァー! それにホークス! 保須で名刺を貰ったんでした! 直接見てもらえなくても、信頼できるヒーローを紹介してもらえるかも! 特にエンデヴァーは轟くんのお父さんですし失礼にならないように事前に話を聞いてもらうことも出来ますね! さすがは古豪、グラントリノ! 僕より数段深い洞察と先見の明だ!」
保須で『脳無』の上位個体をトップヒーローたちとともに倒した時、グラントリノはホークスにもエンデヴァーにも一目置かれていた。そのおかげでデクにも声をかけてもらった上「こいつはいいヒーローになるぜ」とグラントリノにお墨付きをもらった結果二人が名刺をくれたのだ。クソナードはそのことを「あの時からグラントリノは先を見据えていたのか!」と驚愕し、感動した。
「……もう一人いるぜ! 俊典だ! 活動縮小で時間も増えてるから選択肢に入れとけよ!」
かわいそうだったので直接言ってあげた。まぁ並べて比較して選ばれなかったらあいつのせいってことで……。ただ俊典の事務所でデクが何を学ぶんだ? とふと思った。一般的なヒーローの活動方式とはぜんぜん違うので。クソナードが将来どのような活動がしたいか……つまり、オールマイトのように四六時中ぴょんぴょん飛び回りたいならありかもしれないが……。いや、無いか。『OFA』のことを隠すんだから公で繋がりをアピールするのは悪手だ。現在の状況でクソナードがオールマイト事務所でインターン活動をしたら「え、オールマイトちゃんを差し置いて何こいつ? 誰だよ? なんで?」と世間の疑問や好奇心や反感をバチボコに刺激するだろう。
「そういえばそうですね! ああ、僕はなんて恵まれているんだろう!」
クソナードはもはや半泣きだ。沢山の人が期待してくれている。そのことがこんなに力を与えてくれるなんて。オールマイト事務所でのインターンのデメリットは思い至っていないようだ。グラントリノは「まぁこれ叱るのはちょっとあれか……俺が勧めたせいでデメリットよりメリットに目が行ってるんだろうし……俊典に説明して受け入れないように言っとこ」と思った。
「……お前は俺が亡き盟友に託された諸々を、さらに託された存在。つまり孫みてぇなもんだ。今回は力になれなかったが、いつでも頼ってこいよ!」
オールマイトの師、グラントリノ。弟子の誤魔化しテクに匹敵する素晴らしい修正力。まさに臨機応変、縦横無尽。変幻自在のグラントリノは意見だって即座に切り返すことが出来る。小回りが効いていいね!
「クソ親父。お前のところはインターンは受け付けてんのか」
「! ああ、もちろんだ! いつでも構わんぞ!」
エンデヴァーは息子からの連絡にテンションを上げて答えた。最近は少しずつまともなコミュニケーションも取れるようになってきている。エンデヴァーはそれが息子の多大なる歩み寄りによってなされていることを自覚していた。エンデヴァー本人の意識が変わったところでくっそ忙しいパパなことは変えようがないのでいきなり家族サービスをしまくれるわけでもないので……。
「お、おう……マジか。俺の友達……緑谷……じゃなくて『デク』が、インターンの申し込みというか、そのさらに事前のお伺い? とかいうやつをしてほしいって言っててな。どうだ?」
「『デク』といえば……保須で『グラントリノ』と共に居たお前の同級生だったな。……まぁ構わんが……お前は来ないのか」
ちょっとオールマイトっぽいヒーロー候補生のことはしっかりと覚えていた。息子の前でエンデヴァーをアゲてくれたので好印象だったのもあり、インターンで受け入れるのもいいだろう、と判断したのだが、息子はどこへインターンに行くのだろうか……。
「改めて確認する必要あんのか? お前の所以外どこに行けるんだよ」
「……まぁ、そうだな。職場体験ならともかくインターンでお前を受け入れるだけの度量がある事務所は多くなかろう……いや、度量だけで言えばそれなりにあるだろうが、お前にふさわしいかは別の話だからな」
ネームバリューが高いのはメリットばかりではない。例えば轟が「地元密着型のヒーローになりてぇな」と思ったとして、ネイティブ辺りに打診したとしても「エンデヴァーの息子さんなんてウチじゃ面倒見きれないよ……」と断られてしまうだろう。弱小事務所ではエンデヴァーに恨みを持つ強力な
「いや……新斗に頼めばホークス事務所にならいけるか? サイドキックがすごくいい人たちばかりでアットホームらしいから興味があるんだよな……将来は俺もそういう事務所にしてぇ」
メスガキにさんざん自慢されたせいでショートくんはそういう職場に憧れがあるようだ。なんかブラック社長になりそうな気がしますね……。戦闘力は極論どこでも学べると言えば学べる。〝個性〟というのは結局のところ最終的には自分で感覚を掴まなければならないからだ。もちろん同系、轟だと『炎』や『氷』の〝個性〟の持ち主に師事する方が感覚も掴みやすいが。
「しょ、焦凍! うちの『炎のサイドキッカーズ』も温かみのある素晴らしいチームだぞ! ホーリーナイトも楽しく過ごしたはずだ! それに、自分で言うのもなんだが俺がどうサイドキックに嫌がられているかを見れば、何をしてはいけないかを学ぶことが出来るぞ!」
「ん、ああ……なるほどな。じゃあやっぱ炎系のエンデヴァー事務所がいいか……」
なので似たようなことを学べるならば当然同系の事務所のほうがいい。エンデヴァー以外の炎系の〝個性〟の持ち主たちと話すのも良い影響があるだろう。
「デクが事前確認をしてきたように、こうした密でざっくばらんなやり取りは家族であるからこそ出来る、いわば特権だ! お前にそれを使わず足踏みをしている余裕などないはずだ、そうだろう?」
「特権ね……納得はしたくねぇが、理解は出来る……そうだな、やっぱお前の……いや、エンデヴァー事務所にインターンを申し込みたいと思います。ご都合はいかがでしょうか……」
メスガキが言っていた言葉を思い出し丁寧な態度に改める。自分の不遜な態度──主観的にはこのくらいの扱いをされてもしょうがないダメ親父なのだが、周りにどう見えるかはまた別の話──が他者に与える影響を考えた結果だ。
「!? そ、そこまで他人行儀だと逆に無礼だぞ焦凍……! ヒーローというものはあまりビジネス色を出すのも問題がある! 社会人としての振る舞いが必要な場面はたしかにあるが、基本は親しみのある態度を取るべきだ!」
エンデヴァーはそげんこと言わん! 誰やお前! くらすぞコラァ! ハァ……偽物!
「……てめぇが言うことか? 俺の態度が動画サイトなんかで拡散されたりしたらクラスメイトにも迷惑がかかるし、きっちり公私は分けたかったんだが……まぁお前の所へインターンに行く時点で今更か……」
「……そういうことであればサイドキックたちには俺の息子だとは思わないようにと厳しく言っておこう。そうすれば新人としての扱いを体感できて、どの程度の態度がふさわしいかも学べるはずだ。そして俺にだけ砕けた態度であれば、むしろTPOをわきまえていることを強くアピールできるだろう」
さりげなく自分の願望も混ぜる轟炎司。こいつはこういう奴っちゃんね。見ろやくん見とるか? ちゃんと見んと。
「助かる。……ヒーローとしてのお前は、アテにしてる。都合が良くてわりぃが……利用させてもらうぞ」
エンデヴァーもインターンを利用して息子との関係を修復しようとしてるのでお互い様である。
「構わん。むしろ俺を踏み台にする気概を持て、焦凍! それで、お前とデクがインターンを申し込んでくるということでいいのか?」
「ああ。その……俺の友達も受け入れてくれてありがとう……親父」
エンデヴァーはその日一日中上機嫌でサイドキックたちに逆に心配されてしまった。お前……消えるのか……みたいな感じで。
「インターンの打診か。もちろんいいぞ、バクゴー。しかしお前の方から言い出すとは思わなかったな」
かっちゃんが使えるツテといえば彼しかいない。ベストジーニスト。職場体験で指名され、徹底的にジーンズを押し付けられ、くどくどと説教されただけの時間を過ごした事務所だった。
「なんか文句でもあんのかよ」
本人にとってはこれでも丁寧に接しているつもりなのだ。ジーニストはそれが分かったので気を悪くするどころかその逆、だいぶ良くなってきたなと上機嫌だった。
「いいや。歓迎しよう。職場体験は話ばかりで退屈しただろう? 今回は……」
土台をまず整えねばならなかったがゆえに、学生の職場体験としては非常につまらないものになってしまったことはジーニストにとっても反省点だった。もし次があればもう少し楽しませながら矯正してあげなければならない、と考えていた。人間が出来ている。
「いや……あんたの言うとおりだったって思うことが増えてきてる。だからこそまた行こうと思ったンだ……俺をインターンとして採用してくれ、ベストジーニスト」
「! ……そうか。嬉しいぞ、バクゴー。成長したお前に伝えたいことが沢山ある。此度のそれは前回の『矯正』とは違って『教え』となるだろう。なぜだか分かるか」
「……俺が『受け入れることが出来るようになったから』か」
それはまさしく成長であった。独力の限界を悟り、他者の力を必要とし始めたのだ。
「そうだ。お前の強固な自意識は強さであると同時に脆さでもあった。だが、今のお前にであれば言える。それは『美学』へと昇華できるものだ。ディストレスト・デニムがファッションへと昇華されたようにな」
ベストジーニストの心にあるのは驚愕と喜び。まさかここまで早く芽吹くとは思っていなかった。なんなら卒業後思い出してくれればいいなくらいの長期的な展望だった。不満だらけで帰っていった彼がもう一度ここに来たいと言ってくれるなんて。デニム冥利に尽きるというものだ。デニム冥利?
「お前は先程私への筋を通したな。だから返礼としてこちらもそうしよう。私の元へ来い、爆豪勝己! お前にふさわしい身嗜みの整え方をお前に教える!」
独自設定とか
・記者会見:て、天丼だから……。
・祝福ムード:途中までは「まぁオールマイトほどの人なら美少女JKと結婚するくらいのご褒美はあってもいいよな」みたいな雰囲気だった。
・ちんちんもがもが:けんけんぱのこと。
・ナイトアイの嘆き:本気で嘆いてる。象徴論には敬服してるのでそれが破壊されることは彼にとって死の次くらいに重大事項。
・予知の乱れ:あくまで現時点で分かっている情報からの推測。
・12時間:メスガキが生まれた頃くらいからまれに予知が乱れていたのでサーの心境も結構変わって〝個性〟を使う回数が激増しているので向上している。
・メスガキック:本気で蹴ればタルタロスも崩壊します。
・ナイトアイの『予知』:お前が変わらないって言い張ってるだけだろ!変わっとるやろがい!
・ナイトアイの両親:30代~の登場人物(特にヒーロー)の親はだいたい死んでると設定してます。AFOの全盛期に全盛期だったはずの人たちですので……。
・動画撮影:批判されがちですがこれは心理的な逃避の一種で、慣れている行動をしたり画面に収めることで「状況をコントロールしている」という偽りの支配感を抱くことで平常心を取り戻す、あるいは保とうとする正常性バイアスという防衛機制だったりします。
・デクのインターン先:エリちゃあああああああん!!
・ディストレスト・デニム:ダメージジーンズとか言われてるやつ。意図的に汚したりしてヴィンテージ感を出す加工を施したもののこと。
・ジーニスト:かっちゃんが素晴らしいヒーローになると世界で一番信じてる。親は「大丈夫か?」って思ってるのでね……。
・お前に教える:かっちゃん、覇王化!?よくやった。それは私のデニムじゃない。履かなくて正解だった!?