ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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誤字報告とか感想とかここすきとかお気に入りすごい励みになる!


『運命は我々の行動の半分を支配し、残りの半分を我々自身にゆだねている』

「何だこのガキは……まさかこいつの〝個性〟が弾丸の材料なのか?」

 

 死穢八斎會の地下研究施設。パトロンになった死柄木弔はまずは施設を見せろと要求し、何度かのやり取りがあったあと今回ようやくお披露目となったのだが、計画の『核』だという〝個性〟の持ち主はまさかの幼女であった。

 

「ああ。『巻き戻し』の〝個性〟を持っている。壊理、挨拶しろ」

 

「こ、こんにちは……壊理です……」

 

 ぺこりと頭を下げる子供に死柄木弔は胡乱げな視線を向けた。その後ろではキメラが悠然と構えており、ぶっちゃけどっちがヤクザかと言うとこっちに見える。おまえキメラくんは他人の仲間なのにすっげえこき使うじゃん。しょうがねえだろ本人がついて来たがるんだから。犬かよ。犬だったわ。狼やろがい!

 

「……お前の娘か?」

 

「まさか。オヤジ……組長の孫娘だ。父親を消滅させて組長(オヤジ)の娘に捨てられたそうだ」

 

「……手足の包帯は何だ?」

 

「手足から素材を採取している。今はまだ血液だけではなく肉体の一部も必要でな」

 

「お前の〝個性〟で治してやらないのはなんでだ?」

 

「……肉体の一部を採取しているからだ。『オーバーホール』は無から有を生み出すような〝個性〟じゃない。小出しにしても出血は止められるが傷……組織の欠落はそのままだ。だから限界まで使ったあとで全身まとめて『オーバーホール』している。そうすれば体力も戻るし、全身を組み直すことで感染症なども未然に防げる」

 

 脂肪などに蓄えられたエネルギーを使うことで欠損を修復するのでとても腹が減るらしいが、知ったことではない。……小出しで回復しない理由はそれだけではないが、パトロンに話すようなことではないため言わなかった。 

 

「はぁー……治崎……治崎……治崎廻!! おまえなぁ、ふざけてるのか? ガキを材料にした弾丸を売りさばくだと? 中止だ中止、馬鹿野郎」

 

「な……どういうことだ! まさか同情でもしてるのか? 話が違うぞ!」

 

「同情は同情かもしれないが、ガキじゃなくお前のためだゴミヤクザ。まだこの世界の新ルールを知らないらしいな。殺人と家族愛の愚弄は自殺と大差ないぞ、無知野郎」

 

 こんな事も知らないのか、やれやれ。みたいなやたらアメリカンな仕草でごみヤクザを馬鹿にするごみヴィラン。ごみとごみのごみコラボだ。誰が喜ぶんだよ。

 

「な、何を言っている?」

 

「ガキが自分の意思でやってるならまだ……いやダメだな、ダメダメだ。なんだこのいかにも虐待されてますって感じの卑屈な目は。ガキな上にこれじゃあ、あいつに知られた瞬間に研究まるごと闇に葬られて終わる。ああ、畜生。お前は残念だろうが、俺だって本気で残念なんだからな? 良い研究だと思ったのに、なんてことだ、クソ……クソ……!」

 

「……あの」

 

「ん?」

 

 呆けている治崎を尻目にがきんちょがおずおずと死柄木に話しかけてきた。

 

「これって……いいけんきゅう……なんですか?」

 

「そうだな。お前みたいなガキは知らないだろうが、この世には自分の〝個性〟で苦しむやつが大勢いるんだ。どうしてこんな〝個性〟を持って生まれたんだ、出来ることなら無くしたい、ってな。そんな奴らを救える素晴らしいアイデアだったんだが……子どもを切り刻んで救われたなんて、そいつらがもっとかわいそうな奴らになっちまうだろ。台無しだ」

 

 本当にがっかりである。もうすでにちょっと金を注ぎ込んでるのでそれも悲しい。どっかにデータでも売り飛ばせば補填できるかな、などと死柄木弔が現実逃避気味に先のことを考えていると幼女が服をくいくいと引っ張ってきた。

 

「こせいでくるしむ……わたしと、おんなじひと……すくえる……?」

 

 卑屈なへつらいの目にほんの僅かに希望の光が灯る。

 

「……おい、がきんちょ、まさか」

 

「わたし……わたしの〝個性〟がくるしむひとを無くしてくれるなら……わたし、がんばる」

 

 どうやら死柄木と治崎の言葉をぼんやりと理解して『自分がやる気になれば人助けになる』と結論を出したらしい。麒麟児か? 

 

「治崎……おまえどんな教育をしてるんだ? ずいぶんとヒーローじみた事を言いやがるじゃないか」

 

 一体何をどうやればこんなメンタルに育つのか、死柄木弔には皆目検討もつかなかった。

 

「……4歳までは組長(オヤジ)の娘夫婦に育てられたんだからそっちの影響だろう。こんな病人じみた気持ち悪い考え方は俺のせいじゃない」

 

 治崎はありったけの侮蔑を込めて言い捨てた。死柄木が居なかったら壊理を分解・再構築(オーバーホール)してたかもしれないほどに苛ついている。

 

「……ん? このちびっこは何歳なんだ?」

 

「さぁな。個性が出てすぐに捨てられただろうから……6歳くらいじゃないか」

 

「……お前2年で〝個性〟を消失させる弾丸を作ったのか。思ったよりは優秀だったようだが手段がな……。…………」

 

 研究所もなかなかの規模だし独学という割にしっかりとした施設であったことで能力評価を上方修正したが、やってることがカスすぎて仲間としてはクソゴミである。ガキをいじめて世界征服ごっこって終わってるだろ。死柄木弔は何かを考え込むような顔をして治崎廻をじっと見つめた。

 

「なんだその顔は。しかし、これは好都合なんじゃないか。本人の意思があればいいんだろう?」

 

「何言ってやがる。ガキすぎて自分の意思もクソもないだろ。騙されてやってると思われて終わりだ」

 

 実際はもっとまずい。死柄木弔が気にしているのはメスガキの逆鱗に触れることだが、エリちゃんが自分の意志でこの個性消失の研究に志願するようになったのは状況の好転などではない。むしろその逆。自己犠牲を素晴らしいと刷り込んで道具として使い潰そうとしているように見えるこの構図は発覚すればブチギレメスガキックが炸裂してヤクザハウスが地下施設ごと消し飛ぶほどのクソ悪化である。住宅街の下にも通路があるので大惨事……。

 

「……天下のヴィラン連合が何にビビってるんだ? オールマイトなど既に形骸……種が割れた以上対策はいくらでも思いつく。今こそ勢力を拡大し、新たな支配者として君臨するチャンスだろう。俺は約束通りこの組の名を高めてくれればそれでいいが、それにはパトロンのお前が『AFOの後継者』になるのが手っ取り早いと思うが」

 

 個性消滅計画(笑)は実現が難しそうなので前段階の『ヒーローの〝個性〟をしばらく封じることが出来る』という使い方での金稼ぎくらいしか出来なさそうだ。そのため当初の目的である『死穢八斎會の復興』にシフトというか原点回帰した治崎。実際大金を稼げば名声など勝手についてくる。連合が金回りの良さとネームバリューで一躍裏社会のスターになったように。どこかの敵団体とでもぶつかって実力──この場合は戦力──をはっきり示すことが出来れば裏社会に君臨することはそれなりに現実的である。

 

「カス。半年前の俺だったらもう殺してたぞ。俺があのクソ老害の後継者だと? 知らずに言ったことだろうから一度目は許すが、二度目は侮辱とみなす」

 

 メスガキの話はいちいち教えてやらない。こいつは駄目だ、ダメダメだ。仲間扱いされたら寿命が縮む。あのメスガキに「こいつら捕まえなきゃまずい」と思われたら一瞬で終わりだ。連合が見逃されているのはやろうとしていることが曲がりなりにも善行に分類出来なくもないからで、しかも単に後回しにされているだけである。これについては公安も同じで『敵連合』のネームバリューのわりに担当者の真剣味は薄い。こんな大学生の革命サークルレベルの奴らより『ギガントマキア』だの『裏で出回りつつある違法サポートアイテムの出どころの探索』だののほうが遥かに重大な案件なのだ。もちろんどのような案件だろうと同程度の真剣さを持つのが理想だが、身も蓋もない事を言えば『クズ同士が勝手に潰し合ってくれるんだからほっとくほうが社会のため』ということだ。公安は目的のためなら手段は選ばない。

 

「……すまなかった。どうやら俺が思うような単純な関係ではなかったようだな」

 

 警察はまぁまぁ真剣に追いかけているけどね。塚内くんは単純な師弟関係ではなさそうだ、というところまでは掴んでいるけどメスガキの報告内容を全部知っているわけではないのでプロファイリングの精度が低めなので危険度も大きめに目算している。このあたりは国の問題というかヒーロー公安委員会と警察庁を別組織にしている弊害が出ている。

 

「お前と組長もそうだろうが。寝たきりにしたのはお前らしいな、若頭。さっさと起こしてやったらどうだ、おまえの〝個性〟なら簡単だろう」

 

 大半の組員は『オーバーホール』とか名乗りだした治崎のことをよく思っていない。なので治崎相手にでかい面している死柄木弔にちょいちょい悪評を吹き込んでくる。「もしかしたらこの男が治崎に命じれば組長を治してもらえるのでは」という期待を抱かれているのだ。

 

「…………」

 

 黙り込む若頭。怒り、憎しみ、悲しみ、後悔、様々な感情がブレンドされた味わい深い顔だ。AFOとかが見たら「おいしい! おかわり!」的なテンションになること請け合いである。

 

「おまえなぁ……はぁ~……いいか? まずはお前の願望を整理しろ。本当はどうなってほしいんだ?」

 

 仲間にはしたくないがまぁもう金注ぎ込んじゃったし、無関係アピールしてもダメかな……そう思った死柄木はせめてこれからの行動が少しでもマシになるようアドバイスをしてあげることにした。

 

「実現しないとか、そんな事はありえないとか、そういうのは一旦脇において、理想の『こうなったらいいな』を言語化してみろ。ヤクザが復権したらお前は何故嬉しいんだ。それはヤクザの復権以外じゃ叶わないのか」

 

「……極道に栄光が戻れば……組長(オヤジ)が……喜ぶ。組長(オヤジ)の喜びが、俺の喜びだ……」

 

 ぼんやりした顔で呟く治崎。嘘ではないようだが、それが全てでもないだろう。熱意自体はこもっていても到底この地下施設を作るような熱量には足りなかった。ていうかそもそも組長だってそんな栄光とか体験したことねえぞ。一人のチンピラだった頃に当時の組長から聞いたくらいだし、栄華と引き換えの外道についても聞いていて「お前はそうなるなよ」って『組長』に言われてそのアドバイスを律儀に守っていた。その上で治崎にもそうするように言ってたわけで、本当に恩知らずのゴミカスだよ治崎くんさぁ。

 

「お前のオヤジが何に喜びを感じる人間なのか俺は知らないが、寝たきりになるのがそいつの幸せなのか?」

 

 組長の喜びがどうとか言ってるのにやってることがおかしい。なので死柄木はセンシティブっぽそうな部分をつついてみることにした。メスガキから良くない学びを得てしまった弔くん……。

 

「…………」

 

「死柄木。そいつのガキを見る眼で分かる。理由までは分かんねえが、こいつ嫉妬してやがる」

 

 黙り込んだ治崎を見てずっと後ろに控えていたキメラが口を挟んできた。キメラにとっては見慣れた眼だ。キメラはとにかく強かった。いわゆる異形型は肉体的に優れている傾向にあるが、その中でも図抜けて強かった。だから、路地裏の異形コミュニティでも仲間に入れてもらえなかった。異形だからと差別されるのは同じなのに、強さに格差があるのだ。弱い方はたまらない。せめてあいつくらい強ければ。そうした眼を、何度も見た。ずっとそういう目で見られていた。それは嫉妬だと、ナインが教えてくれた。

 

「わんわん……」

 

 エリちゃんはキメラが気になっていたようでチラチラと見ていたが、キメラと死柄木が治崎をやり込めているっぽいのを見てうっすらと希望を抱き始めたようだ。とてとてと歩み寄ってキメラを見上げている。

 

「お? おう、わんわんだぜ、お嬢ちゃん。尻尾は蛇で手は鷲だ。面白いだろ? ……ヘビとワシは分かるか?」

 

「にょろにょろと……とりさん」

 

「おお、賢いな。そうだ。わんわんとにょろにょろととりさんが混ざったつよ~い怪物なのがこの俺さ。火も吹けるぜ。ふぅ~っとな」

 

 火を見ればビビるだろう。そんな考えでぽわっと口から小さな火を吹いたが子供はビビらなかった。むしろぽーっと見惚れてすら居る。ガキは怖いもの知らずだな。そう思ったキメラは動物みてぇな蛮族脳で身体をデカくすりゃビビるだろうと考えた。

 

「角と翼も出るぜ。ほーら、バサバサ翼、怪物の翼」

 

 コートとシャツを脱いで変なポーズをしつつおかしなダンスを踊りながらエリちゃんににじり寄ったキメラに虐待児は目を輝かせた。誰も注意しねえけど絵面がマジやべぇ。治崎は黙ったままキメラを睨みつけているが、それはへんたいふしんしゃを問題視しているわけではない。

 

「かっこいい……つのいっしょ……」

 

 身体もデカくなり牛のような角まで生えてきてさらに恐ろしい外見になったキメラにエリちゃんは全く怯んでいない。それどころか頼もしそうにじっと見つめている。もうあからさまに治崎より強そうなところがお気に召したのだろう。実際は戦闘力ではなく立場の強さゆえの上下関係なんだけど子供には区別がつかないので。

 

「……子供ってのは、無邪気で残酷だなァ……胸が苦しくなるぜ。もし俺がガキの頃の周りがこんな娘ばっかりだったなら、俺はどこでどう暮らしてたかな……」

 

 エリちゃんを手のひらの上に乗せ(すげえ体格差)肩に乗っけるキメラ。背負いやすいすい。彼女は久しぶりの『たかいたかい』にぽろりとひと粒の涙をこぼした。死柄木弔はそれをじーっと見つめるとため息をついてキメラに話しかけた。

 

「タラレバの話は過去を悔いるためじゃなく未来を良くするためにするものだぞ、キメラ。素直に新しい小さな友達を喜んどけ。しかし、嫉妬か。……『本当の息子じゃない』のが苦しいのか、治崎」

 

 色々と考え込んでいた死柄木はついに結論を出したらしかった。こんなガキに嫉妬する要素などそう多くはない。『血縁』『性別』『若さ』『無垢』くらいだ。

 

「……黙れ」

 

 治崎の表情は雄弁に語っていた。図星である。いきなり転がり込んできた子供。『組長(オヤジ)の孫』。だが治崎廻にとっては……他人だ。

 

「盃を交わした親子なんていっても、結局のところ他人だもんな。本当の血の繋がりには勝てないって思ってるわけだ」

 

「やめろ」

 

 壊理。オヤジはあのガキをそう呼んだ。俺は『治崎』なのに、何故。どうして。血が繋がっているからなのか。俺だって組長(オヤジ)の息子じゃないのか。いや、家を捨てた『あの女』よりも俺のほうが組長(オヤジ)の役に立っているのに。許せない。俺は若頭だ。組長(オヤジ)の一番の『息子』だ。俺が上、お前は下だ。わからせてやる! 『個性消失弾』は治崎廻の悲願などではない。だってそれは偶然転がり込んできたもので、探していたわけでもなんでもない。むしろ転がり込んできたのが迷惑な、おぞましい存在の副産物である。

 

「八つ当たりに切り刻んで商品化して売り飛ばそうってか? 組長は任侠映画のキャラみたいな侠客だったらしいじゃないか。大方例の計画を叱られてカッとなって寝たきりにしちまったって感じか」

 

 ──ウチの考えに背きてぇなら、おめェ……もう出ていけ──

 

 それは、治崎廻にとって死刑宣告よりもなお重く響いた。俺は『また』捨てられるのか? 捨てないでくれ。『恩返し』するから、俺は役に立つから、捨てないでくれ。息子で居させてくれ……お願いだ……。そのためにはお前が邪魔だ。オヤジにも理解ってもらわないと。治崎廻にとって〝個性〟は病気だ。だから壊理の〝個性〟が『巻き戻し』だったのはラッキーだったが、〝個性〟が何であろうと治崎は壊理を切り刻み弾丸を作り、それで『ヤクザの復権』を目指しただろう。『個性消失弾』は所詮『組長(オヤジ)に理解ってもらうための大義名分』でしかない。壊理は『呪われた道具』だと、理解って貰わないといけないのだ。同じ血が流れていることがおぞましくなるような、『呪い』になってもらわなくてはならない。『あの女が壊理に対してそう思ったように』。呪われろ、呪われろ、呪われろ!! 

 

「黙れ!!! 殺すぞ、死柄木弔!!!」

 

 治崎の頭に血が上り、手袋を外す。『分解』する準備だ。それ以上喋るなら、殺してやる。最後の理性で踏みとどまって睨みつけるが、死柄木弔は怯まない。

 

「落ち着けよ、若頭。ちゃんと自覚してたのか? 自分を知らないからどこへ行っても何をしてても苦しいんだぜ。本当にしたいことはなにか、本当に欲しいものはなにか、はっきり言葉にしろ。全てはそこからだ、治崎廻」

 

「ふざけるな……俺が壊理に嫉妬しているだと!? ありえない! こんな、こんな呪われたガキなんかに! 嫉妬なんかするわけがないだろう!」

 

 ぎろりと睨みつけると、びくりと震え縮こまる憎たらしいガキ。狼男が肩に乗せた壊理を守るようにその腕で包み込むと、呪われた道具はそいつの頭にしがみついた。ばらばらに分解して殺してやりたいが、そうしてしまえばこのガキは組長(オヤジ)の中で永遠に『可哀想な孫』として美化され続けるだろう。そんなことは絶対に許せない。『これ』があらゆる価値を失い世界の敵になるまで、生きていてもらわなければ困るのだ。

 

「悪口ってのは本人のコンプレックスが出るんだぜ。……お前の〝個性〟……『オーバーホール』だったか。それも『呪われてる』のか? ……そうか、『親を壊す』のは初めてじゃないんだな?」

 

 死柄木弔は自然と連想した。そう、そんな『事故』はありふれている。ニュースでは報道しないそれ。親を殺して一人になる子供。『超常遺児』。孤児院にはそんな危険な〝個性〟の持ち主が溢れかえっていると、『あのクズ』が珍しく真顔で言っていた。

 

「黙れッ! 知ったような口を利くなァーッ!!」

 

 バラバラにしてやる! そう思って振りかぶった掌が死柄木の次の言葉でピタリと止まった。

 

「いいや理解るぞ、治崎廻。そうだ。俺達の手は呪われている。触れるものを壊すことしか出来ない俺がこの手をどう思ってるか、お前なら分かるんじゃないか」

 

「……!! そうか、お前も……その手で……」

 

 怒りの色が少しずつ薄れていく。そこにあったのは共感だ。『侵略者』である壊理ではなく『支援者』である死柄木にならば、共感することが出来る。『崩壊』。発動条件は『意思』ではなく『五指で触れること』。死柄木弔はこれを裏に自分で喧伝している。敵対的な存在や無知なやつに『勝手に触られて死なれたら困る』からだ。このあまりにもあっけない発動条件からすれば、過去に何が起こったかなど自明のことだ。

 

「どうもそうらしい。未だぼんやりしたおぼろげな記憶だが……夢を見るんだ。柔らかな幸せに包まれているはずなのに、その毛布にはびっしりと小さな棘がついているような、落ち着かない夢だ。俺はその幸せな痛みを、壊した」

 

 死柄木弔にとってもはや過去などどうでもいい。思い出したところでなにかが変わるとは思えないし、無理して思い出そうとは思わない。あるいは変わってしまうのが嫌だから思い出したくないのかもしれないが……。過去ではなく、現在(いま)を壊すのがやりたいことだ。

 

「なぁ、誰にだってあるよな? 好奇心からやったことが取り返しのつかないことになったり、カッとなって心にもないことを言ってしまったり、してしまったりが。幼ければなおさら。俺達にとってはそれが人生の崩壊の序曲になるわけだ。これを呪いと言わずしてなんと言えばいいんだろうな」

 

 父親を消して捨てられた子供に目線をやる。キメラの肩に乗っているそいつの頭を、撫でてやりたくなった。キメラはどうやってかそれを敏感に察知しまるで騎士のように(ひざまず)いた。気の利くわんこだ。扱い的には一応対等な同盟者なのだが、犬気質というか最初に格付けしたのが良かったのか悪かったのか、とにかくキメラは死柄木弔にとても恭しく接する。ナインって奴が上下関係に厳しかったのだろうか? もっとざっくばらんでいいんだが。益体もない事を考えながらびくりと怯えるガキの頭を撫でた。羨ましそうにするな、キメラ……。後で撫でてやるから。

 

「……俺は……4歳になってしばらくしたある日、それがどんな結果をもたらすかも知らずに父を『分解』した。当時はまだ今のように『再構築』が出来ずに、ばらばらになったままもとに戻らなかった。そしてあの女は……俺を捨てた。なにが〝個性〟だ。こんなものが俺の『個性』なはずがない。これは呪いだ。呪われし病だ。こんなものをもてはやすやつらは病気なんだ、この世界は病んでいるんだ、だから俺が『オーバーホール』しなくてはならないんだ」

 

 虚ろな表情となり語りだした治崎。それは死柄木弔に聞かせているというより、蓋が壊れて漏れ出した呪詛のようだった。

 

「初めて会ったときから思ってたぜ。お前は俺が何度も見てきた奴らと同じ顔をしていた。『個性に振り回されている奴』の顔だ」

 

 結局のところ、こいつもこいつが虐待している子供も〝個性〟に振り回されているただのガキだ。ガキ同士だから際限無く加害がエスカレートし、歯止めが効かない。死柄木弔は哀れみを持って二人を見た。

 

「治療せねばならない。作り変えなくては。そのためには壊理の病気を上手く使って……世界中にこの呪いをばらまく。そうやって全人類を夢から覚まさなければ。そうすればきっと気付くはずなんだ。今まで見ていたものが悪夢だったことに」

 

 ぶつぶつと一人で喋り続ける治崎。結局のところ『病んでいる』のはこの男なのだ。世の中から〝個性〟が消えたところでヤクザの復権など叶わない。ヤクザは銀行口座も作れないし、スマホも契約できないし、クレカも作れないし、家も借りられない。ヤクザ側に〝個性〟があるからこそぎりぎり抵抗・対抗できているところに個性の消滅など起これば現代社会のシステムに無慈悲にボコられて終了である。『死穢八斎會だけが個性を使えるぜ!』なんて状態に出来たところで裏切り者が出て終わるだろう。人望ゼロで洗脳しか出来ないし、ヤクザ側が勝ち組になったら洗脳解けちゃうからな。『負け組のクズに唯一価値を見出している』から命令できているだけなので。そもそも『異能者』が市民権を獲得できたのは結局のところ技術的に『異能』の広まりが止められなかったからにすぎない。ごく一部しか所持できなくなったらミュータント扱いされて『滅菌』されるのが関の山である。

 

「そうだ、これは悪夢なんだ、だから目を覚まさなければいけないんだ。夢の中で眠ればきっと目が覚める……だからオヤジは、幸せな現実に居るんだ。そうに決まってる……オヤジは俺に生きる意味をくれた、世界一偉大な男だ。こんな薄暗い場所でゆっくり衰えて死んでいくなんて、あっていいはずがないんだ……」

 

 寝たきりにしたのは自分なのにその事はこの男にとっては悲劇なのだ。本当はやりたくなかったのにそんなことをさせた壊理が悪い! やっぱ呪われてるわー! という感じで正当化を行っている。父と慕う男に絶縁宣言された時、治崎廻は死んだ。ここに居るのは治崎廻ではなく『オーバーホール』である。組長(オヤジ)が目覚めたら改めて名前をつけてもらいたいとか思ってるイカレポンチだ。そうしてもらうためには『八斎會』を世界で一番すごいヤクザ(小学生みたいな発想)にしないといけないのだ。支離滅裂なことを言いながら研究施設内をウロウロと歩き回る狂人にキメラは呆れと哀れみを感じながら言った。

 

「一見まともに見えてもやっぱ狂ってんだなぁ。他人を病人呼ばわりするのは自分がそうだからか、かわいそうに。俺の新しい友達をいじめてなきゃ仲良くしてやっても良かったんだけどなァ」

 

「ちがうの……わたしが呪われてるのがわるいんです……だから、がんばる。私とおんなじに苦しんでる人を、たすけるの」

 

 キリッ。って感じの音がしそうなくらい強い意志を感じる言葉だ。こう言っちゃなんだけど多分かーちゃんも意志の強い……そして気の強い女だったと思われるので遺伝かもしれない。うぉおヤクザの実家なんて捨ててやるぜ! 理解ある彼くん大好き! あー娘に消された! ふざけんなお前もういらねぇ! 縁切った実家に捨てよ! ……おそらく結婚しても『女』のままで『母親』になれなかったのだろう。見本になってくれるはずの極妻が居ねぇもん。早くに亡くなってると思われる。弔くんはなんとなく背筋が寒くなる思いでぼそっとつぶやいた。

 

「ガキンチョのくせに覚悟決まるの早すぎだろ……ヤクザの血筋ってやつか? こわ。メスガキはやっぱ強キャラなんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いんたぁん? ……事務所側からのスカウトって禁止されてませんでしたっけ?」

 

「だから俺が誘ってるんだよね!それと禁止じゃなくて制限さ!環なんかは熱心にスカウトされてインターンに行ったんだよね!」

 

 ロビーでいつメン3人でお茶しながらのんびりしているメスガキを訪ねてきたのは通形ミリオ。雄英ビッグ3とかいう学生の厨二病を刺激して自発的に競わせるための名誉称号を持つ……つまり公的には学内で最も優れているとされる生徒だ。

 

「まぁ決まり事をちゃんと理解してる上で言ってるのなら良いんですけどぉ……一体どんな理由なんですか?ナイトアイの事務所に来てほしいって」

 

 雄英高校の生徒ともなれば将来優れた人材になることがほぼ確定している、つまりSSR確定チケみたいなもんなのでかつては事務所間で取り合いが起こっていた。当初はこれもまたヒーローの世界の現実だ、と雄英も静観していたのだが、プロ側の接待合戦がどんどん過激化して身持ちを崩しかけた生徒が出たため一律禁止となった。このようにルールとは馬鹿に合わせて作られるものである。

 

「いやいや、実はサーの思惑はついでなんだよね! ビッグ3でホーリーナイトとまともに話せるの俺だけだからさ! あのときは恥ずかしいところを見せちゃったけど、それだけじゃないところも見てほしい! 近い内に合同でデカい案件があるらしいから、それに参加してみないかってお誘いさ!」

 

 ミリオもちんちん見せてるからな。見せてるっていうかメスガキのせいで隠す余裕がなくなったからメスガキのせいなんだけど。まともな情緒があればちんちん見えないように気を使った拘束だって出来たのだが、出来るかどうかとやる動機があるかどうかは別の問題だから……。

 

「はぁ。つまりオトモダチのためということですか。どーせその案件に来るんでしょ、余り物の二人が。三大〇〇みたいなやつって数合わせになりがちですよね」

 

「なんかそういう言い方すると俺が友情に厚い良い奴みたいだね! 照れるなー!」

 

 クソみてぇな嫌味をスルーして「たはー!」と元気に照れて……というより喜んでいる通形。メスガキはしばらく通形をじとーっと見つめたあとぱっと笑顔になって返事をした。

 

「…………通形先輩は良い人だと思いますよっ! ボク先輩みたいな人結構すき。でもなー友達の友達イコール友達とはなりませんよねぇ? 天喰先輩はともかくもう一人の不思議ちゃんとは仲良くしたくないなー」

 

 不思議ちゃん。波動ねじれのことである。天喰のやりたかったことはその後に通形が強引に対決に持ち込んだことでメスガキには見透かされており、つまり1年生のためのものであったため既にわだかまりはない。しかし波動の行動は天喰へのフォローと自分の興味の2つが原動力であり、メスガキからすると好感を持つ要素ゼロなのでマイナスだけが残っている状態だ。執念深い……。そもそも1年生の教室に時間を割いてわざわざ来てくれているんだからそこ考慮してあげないといけないと思うよ。

 

「もちろんそんな関係性を押し付けるようなことはしないよ! 単に見てほしいだけ! 環や波動さんのかっこいいところを見たら気持ちが変わるかもって俺が期待してるだけさ! 紹介もしないし、聞かれてないことを教えたりもしないよね!」

 

 だが通形はそんなところを論って説教をしたりはしない。本人たちの認識はともかく実態としては『雄英側に頼まれた』形なので、レスバをふっかけてもメスガキにその部分を突かれて平行線になるだけだとしっかり予測できているからだ。あとその、好奇心の発露についてはミリオだって全肯定してるわけじゃないから……。いやミリオ自身にやるなら全肯定しているんだけど他人がどう受け取るかはその人の自由だと思っている。それにミリオが好きな『お節介』、つまり『余計なお世話』だって嫌がられることはままある。そしてミリオは反省はすれどもやめようとは思わない。だから波動も反省すべきだとは思うが、やめるべきだとは思わない。

 

「なるほどぉ……ん~……ナイトアイ事務所でインターン活動かぁ~……ボクはイレイザーヘッドかミッドナイトにお願いして雄英高校で正式にインターンしようと思ってたんですけどぉ。そういえば響香ちゃんはギャングオルカのところに行くんだよねっ」

 

 即座に突っぱねる気は無いようで検討する素振りを見せるメスガキだが、すぐに興味が別のことに移ってしまったようだ。

 

「そだね。ギャングオルカのとこが受け付けてくれて良かった。皆結構断られてるぽいし」

 

「私は学業との両立ができると確信できるまではインターンはお預けですわね。何を学ぶべきか、それを決めてから探すつもりですわ」

 

 モモちゃんはしっかりしているね。どこでも良いから行きてぇ~って人が大半なのに。まぁどこ行ってもプロとはどういうものかは学べるから雄英側も特に問題視してないけど。響香ちゃんは職場体験先がまさに学びたい分野の名手でしかも実績もたっぷりある上に歓迎もしてくれるとかいうラッキーガール。

 

「雄英高校でインターンかぁ~! その発想は無かったんだよね! もしかして将来的には教師を目指していたりするのかな?」

 

芸能人(ヒーロー)なんて旬は数年でしょ~? 特にボクはセンセーショナルだから飽きられるのも早いと思いますよぉ。引き延ばす気もないですし~、世界一のヒーローになる夢を叶えたらぁ、人気絶頂の内に引退してここの教師になろうかなって人生プランをけいかくちゅ~です」

 

「え、初耳なんだけど。サイドキックのウチはどうするの」

 

 聞き捨てならない話が出てきたので静観していた響香ちゃんが話に入ってきた。とはいえ不満や不安というより本当に「どういう計画なの」と聞いているだけのようで表情はいつも通りだ。

 

「雄英の先生方が両立してるからそのコツを聞いてから相談しようかと思ってた~。オールマイト先生みたいにどっちも半端にはなりたくないし~。専念しないと無理そうなら~……響香ちゃん次第かなぁ? 音楽活動も興味あるしぃ、二人でアイドルユニットでも組む~? モモちゃんもどぉ~?」

 

 最近ようやく「オールマイト結構抜けてんな」って認識が浸透してきて先生たちも能動的にアドバイスとかしてくれるようになってマシになってきたが、ヒーロー活動にかまけて授業をすっぽかすとかいうUSJでのクソムーブの印象が尾を引いているようだ。え? ちょっとだけ来たって? それプラスの情報のつもりで言ってる? 

 

「ん~、ヒーロー引退後の話だよね。それこそアイドルとしての旬が過ぎてるんじゃないの。やるならもっと早めに始めた方が良くない?」

 

 響香ちゃんはそれも良いなと思ったらしい。なんか具体的に検討し始めた。リノならアイドルも行けるっしょ、ウチは楽器担当かな、みたいに考えてるけどメスガキは二人でフリフリの衣装着て歌って踊るつもりで言ってますよ。

 

「最近はアンチエイジングの技術も進んでおりますし、というかリノちゃんの〝個性〟の浸透能力があれば若さを保つのも容易なのでは? シワなんて出来ようがありませんし。お誘いの件についてですが、私はヒーロー活動ともう一つ、研究職に興味がありますの。実家の家業でもありますし、そちらに注力しなければなりませんのでアイドルは難しいですわ……」

 

「……〝個性〟で若さ保てるのあんま大っぴらにしないほうが良さそう」

 

 無限に需要があるので大変なことになるでしょうね。あと響香ちゃんはナチュラルに受け入れてるけど、ヤオモモはアイドルになろうと思えばなれる自信がバッチリあるようで、そっちもあんまり大っぴらにしないほうが良いっすね。CMデビューとその評価を受け止めて冷静に分析した結果なので正当な客観視の賜物なんだけど。

 

「やー、引退後じゃなくて両立だよぉ? 響香ちゃんは音楽とヒーローどっちもやるんだよねっ! ボクもなんか両立したいし~、響香ちゃんが音楽やってる時に先生か音楽やるみたいな? 実態がわからないし実感もないからまだ計画止まりだねぇ。そこら辺を確かめるためのインターン希望って感じ」

 

 ヒーローと教師or音楽の二足のわらじ、そしてヒーローを引退したあとは音楽と教師(たまにヒーロー活動)、そういうプランのようだ。現在メスガキに全く敬われていないプレゼント・マイクに訪れた未曾有の尊敬チャンス、彼は活かせるのだろうか。

 

「んん……」

 

「響香さん、お顔が真っ赤ですわ」

 

 響香ちゃんはメスガキがあまりにもナチュラルに響香の活動を人生プランに組み込んでいることに照れてるんですよ。本人は「押しかけサイドキックってちょっと重いかな……」って不安があったんですね。でもメスガキからも同等以上の重い矢印があることを認識して恥ずかしがってます。同棲しといて今更すぎる……。このようにガールズトークが始まってしまったのできんにくんは話から締め出されてしまった。しかし彼はビッグ3。この程度の困難などプルトラだよね! 

 

「センセーショナルにセンセーニナルってね!!」

 

 シィィィィィン。ガッツリ滑った。一応タイミングは図っていたようだが、すっごい唐突。だが通形は一仕事やりきった表情だ。ハァハァとわざとらしく肩で息をしながらも「ハッ」と笑顔になった。

 

「しょ、しょーもな……ふふっ」

 

「まぁ……うふふ」

 

「滑ってますよぉ……もぉ、くすくす♡」

 

 なんかずりィよな、滑るのが面白いみたいなこの空気。JK3人の注目を一気に集めた上に笑いまで取る。まさしく雄英ビッグ3にふさわしい器だ。

 

「ふぅ……通形先輩のお気持ちは分かりました。インターンをどうするかは置いといて、とりあえず『話しかけるな』って雰囲気はもう出さないことにしますっ!」

 

 波動は例のやらかしの翌日に原因を分析して障子と轟とメスガキに謝罪に来た。轟は「分かりました」とあっさり許し、障子は「気になるのは当然ですのでお気になさらず」と返事を無視されたことを一切気にしないイケメンムーブでねじれちゃんを笑顔にしたが、メスガキは「誰でしたっけ?」と塩対応でねじれちゃんは半泣きになりながらトボトボと帰っていった。轟はドン引きだったが障子は「今は俺のほうが強いみたいだな」とメスガキをからかった。わからせ完了だ。メスガキは「むぎゅ……」と意味のわからないつぶやきを残して黙り込んだ。障子は大人なのでメスガキでは勝てない。

 

「さっき別の先輩にも言われちゃいましたしね~。雄英の3年生が皆あんな素敵な人だったら良かったのにな~っ!」

 

 通形が来る前にメスガキとなかよしの先輩が来ていたようだ。りぼんの先輩もいるのかな? メスガキはニコ☆プチでも読んでなさい。チクチク言葉もやめようね。

 

「なんかすごい人だったね、あの先輩。もうプロ感あるというか」

 

「リノちゃんと仲良しなのがよく分かる自己プロデュース力でしたわ!」

 

 二人は件の先輩の独特な世界観に圧倒されたようで口々に感心の言葉を述べた。メスガキの波動への対応についてはクラスメイトの大半がノータッチで、緑谷が「波動先輩も悪気はないと思うよ……」とビクビクしながら言ったくらいだった。メスガキ以外は人間が出来ているので半泣きの波動をみて罪悪感がチクチクと刺激されてはいたが、ぶっちゃけ何にそんなキレてるか分かってないので口出しできないのだ。ちなみにクソナードはメスガキに「だから何? 悪意の有無が何か関係ある?」とロジハラされて半泣きで自分の席にトボトボと帰って飯田と麗日に慰められていた。

 

「ああ、だから連絡通路ですれ違ったのか! 彼女とはすっごく仲良しだって聞いてるよね! うーん、余計なおせっかいだったかな?」

 

 通形も何かと関わりがあるので例のあの人とは結構仲良しである。ばっちりユーモアもあるしな……。

 

「さぁどうでしょう。例のアレみたいな厄介後輩にはなりたくないので素直に聞いておきまーす」

 

 時既におすし(猫)。メスガキも既に先輩方の中では厄介後輩枠ですにゃん。世話焼きさんだから問題児を放っておけねえんだ……。

 

「いやぁ……君たち後輩同士の関係にもかなり気をもんでるみたいなんだよね。もちろん人間同士だから相性ってやつはあると思うけど、少し歩み寄ってくれると嬉しいな!!」

 

「え~……ボクが悪いんですかぁ? どう考えてもあっちが改善すべきでは~? うーんでも先輩が困ってるのかぁ……サポ科だから関わらないと思ってたんだけどな~……」

 

 メスガキはサポートアイテムとか基本要らないからな。まぁだから向こうも今となっては興味持ってないんだけど。

 

「欠点も含めて受け入れることから友情が始まると思うんだよね! それにホラ、俺から言おうにも俺はサポートアイテム使えないから名前すら覚えてもらえなくてさ! 興味ない相手の名前を覚えないのはあの子の良くないところだよね! どう思う? ホーリーナイト」

 

「通形先輩って太陽みたいな人ですねっ! ところで衣替えが来月だなんて早すぎですよねぇ、まだまだ暑いのに」

 

「たはー!」

 

「くすくす♡」

 

 怖い。迂遠なやり取りでイヤミをぶつけ合うな。まぁある意味仲良しってことなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バクゴー。お前というやつは、どこまでも私を驚かせてくれる」

 

 爆豪勝己、ジーニスト事務所への初インターンの日。顔を合わせた瞬間ジーニストの表情は驚愕に染まった。

 

「まさか……自主的に髪型を整えてくるとは……」

 

 かっちゃんの覚悟と決意は生半可なものではない。彼の教えを正しいと思った以上、すべて余すこと無く吸収しなければならない。当然髪型もしかりだ。

 

「あんたがこうしろっつったんだろうが。コスもジーンズにしたほうが良いならそう言え」

 

 この男は真剣である。腹をくくればなんだってやる。

 

「いや……必要ない。髪型もな。おっと、怒り狂う前に私の話を聞くが良い。まず何故職場体験ではお前の髪を撫でつけ、デニムパンツを履かせたのかを説明しよう」

 

 かっちゃんは別に怒ったわけではなかったが、ピクリと反応したのは事実なので黙って続きを促した。ジーニストも当然既に爆豪の覚悟を感じ取り怒ってなど居ないことは察知していたが、今までの爆豪に対して抱かれていたイメージを強調するためにあえてそう言った。

 

「まずジーンズについて。これはお前という存在が『ベストジーニスト事務所』に所属しているとわかりやすく示すためのものだった。学生の制服と同じだな。そして上半身はヒーローコスのまま、ボトムスだけジーンズははっきり言って奇妙な出で立ちだ。最初から合わせてコーディネートしていた我々の中でも浮いていたと言っていい。つまり……『誰がどう見ても職場体験中の学生だと分かる』という効果があった」

 

 かっちゃんの表情に納得の色が浮かぶ。あの時点では『守られていた』ということだ。敵からだけではなく、風評からも。不服はない。強いとか弱いとかではなく、職場体験とはそういうものだと今は理解している。そもそもあまり外出せず事務所に居る時間が長かったのも『ジーニストにとって責任を持って守れると確信している状態』を維持するためでもあったことを同時に理解した。

 

「髪型についても同様の効果が期待できた。あのツンツン髪はお前の特徴でもあった。体育祭でそれなりの知名度を持っていたお前は良からぬ輩にも目をつけられやすい。それを緩和するためのものでもあったわけだな。それに加えて周囲に私がお前をしっかりと御すことが出来ているというアピールに加え、一番重要なこと……『誰がどう見てもベストジーニスト事務所は爆豪勝己に手間を掛けている』……つまり私がお前に期待していることを示す目的もあった」

 

「!!」

 

 何となくそうだろうとは思っていたが、本人からもはっきり明言されたことで驚きと喜び、そして少しの申し訳なさが爆豪の胸に宿る。体育祭での爆豪勝己はストイックさと同時に粗暴さも喧伝され、見ていたものの中には不安を感じたものも居ただろう。ジーニストはそれを払拭するために『No4が期待する未来のヒーロー』だと示した。民衆を安心させるために、そして爆豪勝己の将来のためにだ。

 

「お前ならもう分かっただろう。どちらも既に役割を終えた。まぁジーンズは事務所の制服でもあるから本格的にサイドキックとなるならコスに取り入れてもらう必要があるが……今はむしろない方がいい。『インターン中』であるとはっきり示すことが出来るからな」

 

 ジーニストとしては爆豪が望むならサイドキックとして迎え入れることもやぶさかではない。ただ、この男にはもっとふさわしい……フィットする生き方が他にもあるだろうと思っている。

 

「……あんたの『矯正』はいつだって俺の迷いに答えをくれた。電話じゃ教えてくれるっつってたが……それに甘えるつもりはねぇ。今度こそしっかりと学び取ってみせる。あんたの『教え』以外のこともな」

 

「……お前というセルビッジデニムに出会えたことを誇りに思うぞ、バクゴー。ヒーロー名は決まったのか?」

 

 その問いにかっちゃんは痛いところを突かれた表情になった。前回の職場体験のときはまだ素直になれずにごまかしの言い訳を重ねたことを思い出したのだ。

 

「ぐっ……実は前回の時点でもう決めてたんだが、言えなかったンだ……個人的な問題になるから今話すことじゃねえ。後で相談に乗ってくれ……」

 

 言えたじゃねえか。聞けてよかった。そりゃ相談してぇでしょ。

 

「今で構わん。ヒーロー名とは非常に重要なファクターだ。お前というブランドを輝かせるためには真剣に検討する必要がある。まずはその名を教えてくれるか」

 

 ジーニストはごまかされてたことに対する不快感など欠片たりとも見せず、爆豪の不安に優しく寄り添い促した。人間が出来ている。

 

「……『ダイナマイト』ってつけようと思ってる……」

 

「ホゥ……お前らしくて良いと思うが。何が問題なんだ?」

 

 爆神王だの爆帝だのの本当にしょうもないやつの延長線上にあるやつが来るのかと思っていたジーニストはわりと素直なネーミングが出てきたことに少し驚きつつも即座に肯定した。実際いい名前である。

 

「……ガキっぽいだろ……実際小2んときに決めたやつだしよ……あと授業で発表すんのを延期して後でさらっと発表して誤魔化すつもりだったんだが……そん時に他人に同じものを提案されちまって……名乗れずにズルズル来てる。不合理だと理解っちゃいるんだが、どうしても迷いが消えねぇ」

 

 まぁ「ボクはなんたらマイト~」って言ってるガキンチョなんてそこら中にうろついてるからな。そっちはいいとしてもしょうもない策略で照れくささをごまかそうとしたことこそが恥だと思うよ。他の皆はその気恥ずかしさを既に乗り越えてるから珍しくマジで一番遅れとるんよ。

 

「なるほどな。言えることは2つある。まずひとつめ、幼子がつけるようなオールマイトリスペクトかつ安直なコテコテのネーミングだという件についてだが、その通りだ。だがそれに何の問題がある? 『ヒーロー』という名称とてだいぶ子供っぽいが……子供の夢のように振る舞うことこそ我らの存在意義だ。そう考えれば子供にもわかりやすいネーミングというのはむしろ利点にして美点だろう」

 

 身も蓋もない事を言えば、危険な〝個性〟でも社会の役に立つことを示しているということだ。だからこそジーニストは規律を大事にしている。そして子供っぽいというのも一面の真実だが、物事は見方を変えれば容易く印象も変わるものだ。

 

「ふたつめ。提案者が誰であろうと、名乗ると決めるのはお前だ、爆豪勝己。決断と覚悟、そしてその名を使って為す事こそがその名をお前のものたらしめる。込める願いこそが重要なのだ」

 

 大事なのは最初に名乗ることではなく、その名前を背負ってどう生きるかだ。一人で生きるのであれば名前など要らない。関係性の中にこそ意義が生まれる。木っ端ヒーローの中にもたまにいる。『オールマイトセカンド』とか名乗ったが誰にも認められずに結局改名するようなアホが。

 

「私の『ベストジーニスト』とてデビュー当時から名乗っているんだぞ? 想像してみるがいい。この名を冠しながらも『ベストジーニスト賞』を授かれぬ無念と恥を。最近になってようやく『シュリンク・トゥ・フィット』してきたと言ったところか」

 

 ベストジーニスト『袴田(はかまだ) (つなぐ)』35歳。8年連続ベストジーニスト賞受賞。通常は5回受賞すると永久ベストジーニストとして殿堂入りするのだが、彼が殿堂入りした翌年の受賞候補者が『この賞にふさわしい人物は自分ではない』と次々にジーニストを推薦して辞退したため異例の6度目の受賞を果たし、それが3年続いているというレジェンド中のレジェンド。輝かしい栄光だが、初受賞は27歳。つまり18歳でヒーローデビューしてから9年間は『ベストジーニスト』ではなかったのだ。今はまだ、『ベストジーニスト』は『ベストジーニスト』ではなかった期間のほうが長く、ようやくそれが入れ替わろうとしている時期である。何言ってるかわかんねえと思うがそういうことだから。

 

「名乗った瞬間じゃねぇ、認められた瞬間が『ダイナマイト』の始まりってことか……」

 

 馬鹿にされたことも幾度となくあるのだろう。だがそれにくじけること無く、その名にふさわしくあれるよう精進し続けたからこそ今の彼がある。そのことに思い至り爆豪は尊敬を新たにした。まさに今、自分が耐え忍び、そして成し遂げるべきことのように感じた。みなぎったやる気に呼応するかのように、BOMB! と髪が爆裂し、いつものかっちゃんヘアになった。

 

「名乗り始めはまだまだ育っていないリジッドと同じ。お前の『ダイナマイト』が穿き込まれ育ち、ヴィンテージの風格を纏う時を楽しみにしているぞ」

 




独自設定とか

・無から有:まぁ出来ないと思う。
・エリちゃん!?:精神に限界が来て逃走を目論んでいるタイミングなのでね……。
・2年で弾丸精製:エリちゃんの個性の解析とかヤクザの仕事()もあるから実際はもっと短期間。
・ブチギレメスガキック:地盤ごと消滅して国土の形が変わる。
・オールマイトなど既に形骸:あえて言おう、カスであると!
・ヒーロー公安委員会:警察の下部組織(公安警察)っぽいんだけど国家公安委員会も兼ねてるぽいんだよね。
・願望を整理しろ:メスガキに言われまくったので感染った。
・ヤクザの栄光:〝個性〟登場前から死にかけだろ!百年以上前やぞ!
・ヤクザの復権:なんかクスリとかチャカとか捌いたらそれっぽくないっすかぁ?みたいなふわふわしたやつに見える。
・キメラの境遇:クソ強いのに虐げられていたらしいので……。
・わんわん:エリちゃん「あいにーどもあぱわー」
・怪物の翼:動いてもフィット。
・壊理:恐ろしい治崎が下手に出てるのが世界が崩壊するほどの衝撃だった。
・おめェ……もう出ていけ:お前は求められていない。
・消滅したってところ治崎お前に似てる:組長はなぜそれを知ってるのか?重傷負わせたことにキレる組長が分解を許すとは思えない。つまり拾われる前に分解してるはず。
・お前に似てる:境遇も似てるから一生懸命世話してくれるだろう(伝わってない)。
・呪いなんかじゃねえ:だからおめぇの〝個性〟も呪いじゃねえよ(伝わってない)。
・治崎:組長はいつかカタギに戻れるようにと養子縁組はしなかった(伝わってない)。
・羨ましいキメラ:頭を撫でたそうな眼だ……俺か?違うよな?違った……。
・壊理ママ:ヤクザの娘って感じの苛烈さやでぇ……。こわい。
・極妻不在:『姐さん』は極道にとってかなり重要なポジション。
・アイドル:響香ちゃんもいけるって。
・プレゼント・マイク:敬われてないのは単に接触が少ないからで喋る機会増えたら気が合うと思われる。
・素敵な先輩:誰かわかるよね?
・ニコ☆プチ:小学生対象のファッション雑誌。
・メスガキじゃない方の厄介後輩:誰かわかるよね?
・連絡通路:他寮との連絡通路。雄英の守人。
・セルビッジデニム:旧式力織機で時間をかけて織り上げられた、希少価値が高く頑固で味のある高品質な生地。
・シュリンク・トゥ・フィット:穿き込むことで自分の体にフィットさせていく仕様やその工程のこと。
・リジッド:リジットデニム。生デニム。一度も洗いや縮み加工を施していない、糊が残ったままの未洗いデニムのこと。
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