ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「ほ、本日は大変お日柄もよく……あの、インターンを受け付けてくださってありがとうございましゅ!」
「……うむ。初対面というわけでもないのだからそこまで緊張するな、デク。ショート共々歓迎するぞ」
エンデヴァー事務所にインターンにやって来たクソナードとクソボンボン。お友達ごっこかぁ? ちゃんと学べるんだろうな?
「は、はひっ!」
「……緑谷……なんかオールマイト相手より緊張してねぇか……?」
してますよ。オールマイトとはアメリカンドリームプランですっごい密に関わってるから入学する頃には敬意そのものは薄れずとも慣れてたし、接し方もフランクなので。ついでにおこがましい言い方をすれば父のように慕っているからね。あの、本当のパパは?
「だだだってエンデヴァーだよ! 『フレイムヒーロー エンデヴァー』! 強烈な威圧感が頼もしい45歳! 事件解決数は史上最多! 史上だよ、史上! エンデヴァーを超えるヒーローは過去に遡っても一人もいないってこと! あのオールマイトすら超える輝かしい実績なんだよ!? そしてそのストイックな仕事ぶりは20~40代に限定すれば支持率はオールマイトを超えているとすら言われている! No2にランクインしてからの20年以上一度もチャートを落としたことのないレジェンド中のレジェンドの! エンデヴァーなんだよ!! 僕たちは今! 伝説の! さなかに居るんだ!!!」
「お、おう……」
轟くんはいまいちピンときてないけど上にオールマイトが居るからってエンデヴァーの功績がなくなるわけでもなんでも無いのでクソナードの反応のほうが現実に即していると言えなくもない。さらに言えば緑谷出久は『OFA』についても知っているためそれに追随していたエンデヴァーの不屈さや向上心の凄さをこの世界でトップクラスに理解しているうちの一人なのだ。オールマイトへの尊敬が深まれば深まるほど連鎖してエンデヴァーへの尊敬も深まると言える。まぁ実の父であるオールマイトに大げさに感動しないのは分からんでもないか、とショートくんは事実は勘違いしつつも実情はしっかりと捉えていた。
「そこまで持ち上げられると流石に面映ゆいな。おだてたところでインターンの指導が甘くなるようなことはないぞ?」
エンデヴァーは褒め言葉そのものではそんなに心が動いたりしないが、息子の前でアゲてもらえるのはとても嬉しい。自分で言うと嘘くさいし押し付けがましいが、友人の素直な反応なら多少は響くだろうという考えもある。実際轟くんはオールマイトをとても尊敬しているので、実の父がわずかとは言えど尊敬する人物を上回っている事を実感してちょっとだけ見直してる。
「おだてだなんてとんでもない! 事実しか言ってません! それに厳しい指導はむしろ歓迎です! エンデヴァーの貴重な時間を割いていただく以上、将来的にはそれによる損失を上回る社会貢献をしなければならないわけですから、僕も遊びに来たつもりはありません! 必ず学び取って将来に活かしてみせます!」
緑谷出久にはインターンにあたってのお手本が居た。メスガキである。理屈っぽいクソナードにとってロジハラクソガールはかなり参考にしやすい。社会人としての態度を取るべきという明確な指標も相まってエンデヴァーもデクの姿勢に感心している。
「ほう……ショートよ、デクの姿勢はまさにインターンの要点を押さえた素晴らしいものだ。見習うように。とはいえずっとつきっきりでお前たちを見てやるような余裕は俺にはない。午前中はサイドキックたちの言うことを良く聞いてこの事務所のやり方に慣れるように。午後からは俺が見てやれるから楽しみにしていろ」
「わあああ! はい! よろしくお願いいたします!」
「……よろしくお願いいたします」
友人の異常なテンションに少し引いている轟。しかし一般的にもこのくらいはギリありの範囲である。エンデヴァーも多少は丸くなったし、息子の友人相手だから対応も多少柔らかいのでどっかのハゲもこのエンデヴァーが相手だったらこじらせなかっただろう。
「うむ。ではバーニン! あとは任せたぞ!」
「了解! それじゃーショート! デク! 事務所の施設について案内するからこの冊子を見ながらついてきて! 案内終わったら燃やすから必死こいて覚えるよーに!」
「はい!」
「分かりました」
轟はこの事務所のことをある程度は知っているつもりだったが、冊子には初めて知る情報が大量にあった。何気なく通っていた場所にさり気なく消化施設が設置されていたり、天上のデザインに紛れてスプリンクラーがあったりと新たな発見がいっぱいだ。
「最初はここっ! 所長室ね! セキュリティも一番厳重だから重要な案件の会議なんかもここでやることが──」
美人でハツラツとした上に『炎のサイドキッカーズ』の中でも一番の成長株であるバーニンをつけてもらえるなどかなりの特別待遇である。年齢も一番近いし忖度的にエンデヴァーを褒めたりもしないのでショートにかなり気を遣った人選なのが分かる。滞り無く施設の案内を受けたあと宣言通り冊子が『燃髪』の〝個性〟により灰となった。
「さて、初日だけどヒーローには遊んでいる暇なんてなァい! ……とまでは言わないけどダラダラ過ごすなんてありえないのは分かるね? いくよ、パトロール!」
「了解しました!」
「分かりました」
「んー、ショートはちょっとカタいな! 元気も足りない! 大きな声出してみよっか! プルスウルトラぁー!」
「"
「えっ」
緑谷は元気よく反応できたが轟はついていけなかった。クソナードはヒーローイベントなどにもよく参加していたのでこういったコールの経験が豊富なのだ。
「ぼーっとしてるんじゃないショート! デクに意識で負けてるぞ! プルスウルトラァ──!!」
「「"
「よォし!! 気合が入ったところでついてきな! ショートのはある程度知ってるけどデクの〝個性〟は体育祭で見たことしか分からない! 単純な身体強化で良いの?」
キビキビと歩きながらインターン生の〝個性〟を確認するバーニン。ヒヨコふたりはそれに慌ててよちよちとついていった。
「基本的にはそうです! 理屈としては体内のエネルギーを身体能力に変換する的なやつなのでちょっとした浮遊もできますし、エネルギー系の新技を練習中です!!」
オールマイトが調べてくれた歴代継承者たちの〝個性〟のうち詳細が分かっているものが『浮遊』『煙幕』『黒鞭』の3つ。その中から言い訳の効きそうな『黒鞭』を現在練習している。まだぴょろっと出すことしかできないが、出し入れのコツは掴んできたのである程度伸ばせるようになれば『浮遊』と組み合わせて機動の自由度が劇的に上がるだろう。捕縛にも使いやすそうなのも緑谷にとっては嬉しい。ぶん殴って止めるのってホラ、ね?
「おっ! 飛べるのは良いね! 私も飛べるけどショートはどう!?」
「……やれます。やってみせます!」
炎の出し方を工夫すれば飛べそうな気はする。爆豪だってバーニンだってやれているんだから似たような理屈で飛べるはずだと考えた。
「んー、ぶっつけ本番をパトロールでやられると困っちゃうな! まだできないんだね?」
「……はい。すみません」
かっちゃんじゃないんだからそりゃね。まぁショートくんも十分天才と言えるセンスを持っているのでぶっつけでもある程度形にはなるだろうが、ちゃんと練習用の施設がある雄英でやったほうがいい。一応エンデヴァー事務所にもあるけどインターンで自主練とかイミフだからな。
「叱ってるわけじゃないから! ただの確認だよ! んじゃあまずは大通りまでダッシュで行くよ! 私は滑空するけど二人は今出せる最高速度でついてくるように! ……一応言っておくけど最高速度っていうのは限界速度じゃなくて自分と周囲の安全を確保したうえで出せる速さってことな!」
事務所の外に出るなりバーニンは髪の炎を翼のように広げてぴょーんと飛び去った。ミニスカでやることか? 殆ど変わらない速度で即座についていった緑谷に遅れて氷で加速しつつあとに残らないように解かしながらついていく轟は結構必死だった。
「パトロールで大事なことは何かなー? はいデク! 早かった!」
「はい! ヒーローのパトロールにおいて重要なのは存在をアピールすることです! まずは事件の発生を抑制し、それと合わせて事件の早期発見を目指し事件発生率の高い場所や時間帯に見回りをします!」
「その通り! オールマイトほどじゃあ無くても私たちが抑止力になるってこと! アピールの方法は様々だけど……代表的なものはやっぱり「私が来た!」だね! そして私の場合はこの燃え盛る髪! そして大きな声! これね!」
ぼうっ! とバーニンの髪が空に向かって広がる。蛍光色に揺らめくそれは非常に美しく周囲からも歓声が上がった。
「素敵な髪と声だと思います! それにコスチュームもすっごくキャッチーですよね! 白を基調としたダブルボタンのジャケットにオレンジのラインのアクセントに加えて、引き締まった黒のタイツとブーツ! 規律を重んじる印象を与えつつ活発さも表現できている上に近接戦でも素早く動ける機能美に満ちています! そしてヒーローの定番のドミノマスク! 意思の強い瞳にとってもよく似合ってますよ! 総じて見ているこちらまで元気を与えてもらえるパワフルさが全身から溢れ出ています!」
メスガキのせいで女性の初めて見る衣装を殆ど反射で褒めてしまうクソナード。ヒーローオタクでもあるためコスにはまぁまぁ造詣が深いのでコス褒めは同級生にもかなり評判が良い。小大なんかは授業で見せる機会がないのでわざわざクソめんどくさい申請して放課後の自主練にコス着用でやって来て(麗日と拳藤はジャージ)ほんのり圧をかけてきたからな……。褒めて。
「お、ぉおお!? そんなに直球で褒めてくるやつは珍しい! 事務所のやつらはどいつもこいつも気まずそうに目をそらすかチラチラ見るかで
ばしばしとクソナードの肩を叩くバーニン。まぁほら、エンデヴァーに憧れてくるやつが多いからさ、性格も不器用なやつが多いんよ。あと25歳のバーニンから見ると垂れ目でそばかすのデクは可愛い印象なのでモテそうに見えるようだが同級生から見ると頼りなく見えちゃうのでどちらもモテ要素ではない。ジェネレーションギャップってやつ。
「お、俺も綺麗だと思います、バーニンさん」
俺のほうがバーニンさんとは昔から仲良しなんだが? とでも思ったのか少し照れながらもバーニンを褒めるクソボンボン。
「ショートく……ショート! いや、なんか照れるなー! け、警戒も怠っちゃダメだぞっ!」
エンデヴァーに俺の息子として扱うな! 新人扱いしろよ! とクッソしつこく言われてるので頑張っていたのだがちょっと漏れ出してしまった。ただでさえ有名サイドキックなバーニンだがここらへんじゃさらに輪をかけて有名人である。そのバーニンが珍しく照れてるので先程の炎とも相まって周りの注目がかなり集まった。アピールは大成功だ! そのままパトロールのイロハを教わったり細々とした騒動を解決したりしてデクとショートの初インターンの午前は忙しくも充実した時間となった。
「そんじゃあインターンやっていくぞ、ホーリーナイト。インターン中は俺のことは『イレイザーヘッド』で通すように。「イレイザー」みたいな省略は可。「相澤」はNG。「先生」は文脈次第」
「はーいっ!」
メスガキのインターン先は雄英高校となった。事務所として考えると『イレイザーヘッド』『ミッドナイト』『プレゼント・マイク』『セメントス』『スナイプ』そして『オールマイト』が所属するという一流のるつぼだからな……。いろんな『両立している』ヒーローに話を聞きたい、活動を見たいというメスガキの目的を考えると他に行く価値がね……。
「ま、インターンとは言ってもお前は林間合宿で既に経験済みだし、I・アイランドからも大変高評価をいただいているので今更うるさく言うようなことはない。今日は俺の仕事を見学、補佐しながら疑問や質問があれば適宜といった感じだな」
I・アイランドからはもう半分身内扱いされている感すらある。デイヴを通すとツーカーだし、将来世界中に名を轟かせたいという夢を持つメスガキに「事務所はI・アイランドに作りなよ。資金出すよ」という打診がすでに大量に来ていたりする。正式なデビュー前からスポンサーが付くことはメスガキが初というわけではないが、全世界の企業や団体が複数希望しているのは前代未聞だ。特に決まった場所に定住せず洋上をウロウロしているはずのI・アイランドがなんか最近は日本近海にばっか居ることは公然の秘密である。
「よろしくお願いします、イレイザーヘッド!」
「はい、よろしくね。んじゃ早速こっちの仕事を始める。普通科寮の裏へ行くぞ」
それを知っても相澤は平常運転だ。別にイレ先の指導内容に影響しないしな……企業との関わり方なんかはミッドナイトやマイクのほうが詳しいのでそっちに任せる予定だし。
「一気にいきましょーか!」
「頼む。……効率的でいいな」
イレイザーヘッドが許可した瞬間出てきたのは『ワープゲート』だ。黒霧のそれとは違いピンクとブルーにキラキラしてファンシーである。パクったものをブラッシュアップして完全に自分のものにしてしまったようだ。
「……先生! と、新斗さん……? お、おはようございます……」
インスタ映え重視の綿菓子みてぇなもこもこが急に発生したので警戒していた心操だったがのっそり出てきた不審者が相澤だったのでホッと一息ついた。メスガキワープについてはあまり深く考えていない。なんか宇宙っぽいからワープも出来るんだな、みたいな曖昧な理解である。〝個性〟にあんま突っ込んだこと聞くのは良くないって道徳の授業で習うからな。
「おはようございまーすっ! 心操くんだ! 久しぶりーっ!」
「ああ……久しぶり」
心操は以前メスガキに『洗脳』を試してもらうよう頼まれた時に挨拶を済ませている。結局『洗脳』は通用しないことがその時に判明したので逆に気軽に話せる。心操の〝個性〟を知る人間は大抵が彼と話すときには身構えるが、心操の方だって緊張するのだ。例えば制御が緩んでうっかり『洗脳』しちゃったら信頼関係は木っ端みじんこになるからね……。
「以前より筋肉ついたねっ! ……お仕事ってなにするんですか? イレイザーヘッド」
「ありがとう。……えっと、先生? 何故彼女がここに?」
お互い「?」という感じになってしまったので相澤はテキパキと説明をした。
「ホーリーナイト、心操はヒーロー科への編入を希望していて、現在そのための訓練を見てやっている状態だ。心操、ホーリーナイトは現在セミプロとして雄英高校にインターンに来ていて、俺の仕事を手伝っている。インターンについて説明してやれ、ホ-リーナイト」
「かしこまりました! インターンっていうのは仮免を取得した生徒が任意で行う校外活動のことだよっ! プロヒーローの事務所でサイドキックとして実際に働くことでヒーローがどういうものか知ること、そして本当にやっていけるのかを改めてしっかりと考えるための大切な活動だねっ! 心操くんからしたら想像もつかないだろうけど、記録を見るとインターンで挫折してヒーロー科から普通科に移る生徒もちょくちょくいるんだよぉ」
誰かを救えなかった。目の前で命が失われた。そういう経験はまさに人生を激変させるほどの衝撃を与えるものだ。大量の出血に耐えられなかったり、他者の悪意に晒されて参ってしまったり、とにかく理由は様々だがヒーローを諦めたり、あるいは別の道を志すことはそれなりにある。挫折は、悪ではない。普通科はそういった生徒たちの受け皿でもあるのだ。
「マジかよ……いや、プロはそれだけ厳しいってことか……ん? 校外活動? ……雄英でやるなら校内活動では」
うるせえ、緑谷ぶつけんぞ。
「雄英高校でインターンしたいって希望だしたら許可が出たんだぁ。まぁボクが既に外部で活動した実績があるからこその特別な許可だけどねっ!」
こいつ特例ばっかだな。まぁでも雄英高校からしたら通常運転なんだけど。〝個性〟なんてもんを使っていくにあたって一律で教えるなんてそもそも無理だからね。通常の生徒も十分に〝個性〟が伸びてくる2年生くらいからは大体個別指導になる。雄英体育祭とか仮免試験とかの時期はそういう事情にあわせて決まってる。そう、仮免試験のスケジュールは雄英高校が基準である。こわ。2年生の6月に仮免取ってヒーロー活動を……しろ! 大人というか公安の願望がにじみ出てますね……。
「ついでに言っておくとホーリーナイトは「将来的な活動の模索のために雄英高校の教師の活動実態を詳しく知りたい」という明確な目的を持って雄英高校にインターンを希望した。インターン先がないというような理由で漠然と希望しても却下されただろうな」
「なるほど……やっぱりすごいですね……発想力からして俺とは違う……」
メスガキはまぁ特に意識高い系(根津校長とも気が合う)だからな。こういうめんどくさいことを実行に移すことをむしろ好むみたいな性質がある。
「ボクと比べて落ち込んでいる暇はないぜっ! キミはボクを見て発奮すべきだっ! 違うかな!」
メスガキは褒め言葉に気を良くしてにこにこしながら心操に言った。
「……その通りだ。それに俺だってイレイザーヘッドに特別扱いをしてもらっている……!」
「いや……普通に業務の一環だから。それに俺がお前に見どころがあると感じたのはお前自身のこれまでの行動の積み重ねの結果だろう」
先生ェ……。君は特別だよって言ってあげなよ。まぁ実際特別扱いなのは誰がどうみても分かるので心操くんは落ち込んだりはしなかった。
「ふふーん! いいでしょ~! これがボクたちの担任の先生~~! あーあ、2年生になったら担任変わっちゃうのやだなー!」
当然メスガキもイレ先の照れ隠しなんだか朴念仁なんだか分からんすっとぼけた言葉を真に受けたりせずにまるで自分が特別扱いされているかのように自慢した。
「……C組の担任だって良い先生だけどな。ヒーロー科に行きたいっていう俺の相談にいつだって親身に、真剣に応えてくれた……ただ、俺もイレイザーヘッドは最高の先生だと思ってる」
「慕ってくれるのは有難いが、2年A組の担任……セメントスだって良い教師だぞ。さて、雑談はこのくらいにしておくか。ホーリーナイト、現在心操には俺の捕縛布の使い方を仕込んでいる。まだ始めたばかりだが進捗はそれなり、と言ったところか。とりあえず現状の復習も兼ねて見せてもらうとしよう。じゃあ心操、よろしく」
「はい!」
良い返事をした心操は周囲の木に捕縛布を巻き付けてぐっと引っ張る、という基本の技を何度か繰り返したあと布を器用に使って木の枝の上に飛び乗ったり枝に引っ掛けた布をさっと外したりの基本的な動作をゆっくりと確実に行った。
「前回よりずっと良くなっているな。さて、ホーリーナイト。いつもならここで俺が色々とアドバイスをするわけだが、お前からは何かあるか」
メスガキは少し考える素振りをしたあとにぱっと笑顔になって口を開いた。
「応力ベクトル制御を基本に捕縛布自体の特性を利用しつつ先端にエネルギーを集めるような手首のひねりを……」
「もう少し簡潔に、短くわかりやすくまとめること」
「えっとぉ、使い慣れるのが一番かとっ! 今見せてもらった動作が素早く、あるいは咄嗟に出来るようになるだけでセミプロレベルですよねっ!」
最初からそう言えよ。「歩いてください」の一言で済むことを「まず右足を上げながら体の姿勢を傾けて……」とか言い出すみたいな真似をするな。
「……身も蓋もないがその通りだな。俺が実戦で研鑽した有効かつ頻発する使い方を覚えるだけで付け焼き刃以上のものとなるだろう。動きそのものは出来ているから次は速度の向上が課題だな。反復練習を怠るなよ。ただし高所への移動の練習の際は必ず誰かを伴うこと」
「ご指導ありがとうございます!」
「ん~、ボクの〝個性〟で一人でも練習できるような場所を作りましょうか~? ここらへんの地面に体育祭の『ザ・フォール』の時の落下対策の特殊素材をつければ遥かに安全になりますよねっ!」
「……出来るなら助かるが、出しっぱなしにして疲れたりしないのか? それにいざという時に出せる量が足りなくなったりするんじゃないのか」
相澤の心配事はそれだ。出せる量には限界があるはずなので、ここに使ったことでピンチの時に足りなくなったりすれば本末転倒である。まぁないんだけどね、限界。より正確に言えば限界自体はあるのだが『二倍』でいくらでも増やせるし耐久力の劣化はメスガキの〝個性〟には全く影響がないので実質無限という感じだけど。
「消すほうが大変なんですよぉ? それに「ダークマター」の『性質変化』は『定義』なので一度出してしまえばボクとは無関係に成立し続けますっ!」
オールマイトの内蔵もいちいちモニタリングしているわけではない。しようと思えば出来るけどね。ひえっ。
「……なら頼む。お前が教師になることを検討していると聞いたときは面食らったが……〝個性〟も向いているし、案外良いかもしれんな」
量についての回答をメスガキがぼかしたことに相澤は気づいたが問題視はしなかった。『凄すぎて引かれるかもしれないので隠している』パターンだと気付いたからだ。正解です。相澤の心配はあくまで「足りなくて困る可能性があるならやめといたほうがいい」だったので問題がないならそれでいいのだ。
「えへへ……それじゃあ心操くん、地面の感触チェックしてみて! 歩きにくくはないかな?」
「……いや、これ本当にすごい……ありがとう、新斗……じゃなかった、ホーリーナイト」
「どういたしましてぇ。イレイザーヘッドが見込んだヒーローの卵なんだし、このくらいはなんてことないよ~! 期待してるんですよね、イレイザーヘッド!」
編入希望の生徒の指導、まぁつまり生徒の自主性の支援は確かに業務の一環だが、心操の場合は相澤の方から声をかけているので殆ど厚意によるものである。
「そうだな。『洗脳』は非常に強力だ。相手が単独なら決まればほぼ必殺かつ無血。非常にヒーロー向きの良い〝個性〟だと思う」
ヒーロー向きの〝個性〟。そんな事を言ってくれる人は心操の人生において一人もいなかった。この〝個性〟のことを話せば誰もが『悪用』を想像したからだ。心操はそれがおかしいことだとは思わない。自分だって他人が持ってたらそれはもう警戒しただろうし。だが、それは
「ただ俺の『抹消』と同じように一人で活かすことが難しい〝個性〟だからな。だからこそ最低限動けるだけの……いわば『足手まといにならない強さ』が必要となるわけだ。体育祭での敗北は心操の価値を下げるようなものではない。今の課題がクリアできればどこの事務所からも引く手あまただろうさ」
「そうですねっ! あ、でも体育祭のアレはちょっと言いたいことがあるかなー! あの戦いの流れってつまり『怒らせるようなことを言って発動条件を満たそうとしたら飛びかかられて失敗』ってことだよね? ボクならー……心操くん、靴紐解けてるよ?」
「え? ……ほどけてないぞ……あっ、なるほど……」
つい気の抜けた返事をすると同時に足元を見てしまったことに気づいて心操は感心した。実戦でどれほど有効かは相手やシチュエーションによるだろうが、怒らせる前に試せる出し得ムーブだ。
「返事させればいいんだよね? 怒らせるより疑問や困惑を抱かせるほうが低リスクで効果的じゃないかなっ! 反射的に声が出るような問いかけは同時に動きも鈍るし上手くいけば完全停止するからねっ! 怒りはハイリスクだよー! ヒーロー科の模擬戦ならともかく対
やけになって暴れてる
「……たしかにな。そのラインで考えると例えば場面にそぐわない緊張感の抜けるような唐突な話題転換なんかも効果的だろう。俺は猫が好きだ」
「えっ! おれも好きです! ……あ、すごいな……これがヒーロー科……!」
つい反応してしまう心操。あこがれの人との共通点に黙ってはいられなかったようだ。まぁこのようにポジティブな話題でもいくらでも返事は誘発できる。
「お前も猫好きなのか……よく意外だと言われるからそっちの驚きを狙ったんだが」
何となく自分に似てるな、とは思っていたがそんなところまで似ていることに逆に驚かされた相澤くん。おすしちゃんがだいぶ高齢になってきていて食欲が落ち、眠っている時間がずいぶん増えているとミッドナイトが言っていたことを思い出し少ししんみりとした気分になる。寿命が尽きようといている兆候だ。
「ボクは犬派だったけどぉ、最近は猫も好き~っ! 話を戻すけど、ヒーローはそのうち手口がバレちゃうんだから感情より反射を利用するのが良いと思うっ! 我慢すれば良い、って思ってる相手の思考の隙をつくんだよっ!」
「……確かに。けど俺はあんまりこう……派手に露出するつもりはないんだ。その、イレイザーヘッドみたいな仕事人的なヒーローを目指してるから」
少し恥ずかしそうに、しかしはっきりと口にする心操。
「ん……もう将来どうなりたいかのヴィジョンがあったのか」
「イレイザーヘッドといっしょに居る内に自然とそうなったんでしょ! 分かるよーっ!」
メスガキは仲間を見つけたと言わんばかりにテンションを上げてぴょんぴょんと飛び跳ねだした。スカートがヒラヒラしているが心操も相澤もそういうのあんまり気にしないタイプなのでツッコミは入らなかった。え、どこに何を突っ込む気だよへんたいふしんしゃ!
「……ああ。俺にとってのヒーローは……俺の夢を見出してくれた恩人……イレイザーヘッドなんだ。俺は、先生みたいになりたい……」
「そ、そうか……俺よりもっといいヒーローが居ると思うが……いや、この反応は違うか。ありがとう、心操。嬉しいよ」
悲報。ホーリーナイトちゃん、イレイザーヘッドの人生初のファンサを目の前で奪われる。
「おっと! ぶつかっちゃったね! ごめんよ! 大丈夫かい?」
通形ミリオはインターンにてナイトアイ事務所が『死穢八斎會』を探る手伝いをしていた。サイドキックとしてはぶっちゃけバブルガールより信頼されているミリオは学生なのに単独で見回りを任されている。もちろんプロ二人が危険度の高い直接の監視を担当している、という事情もあるが。
「あぅ……ごめんなさい……ちゃんとまえを見てませんでした……」
「ちゃんと謝れてえらいね! ご両親の教育が良いのかな!」
褒め言葉のつもりだったが、少女の顔はぶつかった申し訳なさに加えてさらに暗い表情になった。どうやらセンシティブな部分だったらしい。通形は無神経というわけではないが、グイグイ行くタイプなので結構こういう事がある。だからこそたくさんのユーモアを身に付けてリカバリーに励んでいる側面もあった。
「おいおい、大丈夫かよ? やっぱり俺の肩の上の方が良いんじゃねえか、なぁしがっ…………シュガーラッキー」
とっさに考えたにしてはいい偽名だとキメラは自画自賛した。なんとなくプリユア感のある名前。
「その渾名は気に入らないぞキメラ。外に出ただけでこのハシャギようか……治崎のやつ、どういう扱いしてるんだ全く。おいエリ、キメラの肩にもどれ」
路地裏からどすどすと出てきた二人、特に巨漢の男の方に通形は一気に警戒を高めた。異形云々ではない。『こいつ、強い』という、今はまだ漠然とした予感。それをおくびにも出さずリラックスした状態になる。呼吸を楽にした自然体……通形の強みの一つ、相手にそうとは見えない戦闘態勢だ。
「あの、もうすこしだけ……」
「うーん、シュガー。やっぱもうちょっといいだろ?」
キメラは幼女の言いなりだった。通形は少し拍子抜けしつつも、警戒そのものは怠らない。まぁ一応誰が相手でもやるレベルにまで下げたけど。何が起こるか常に予測するというのは何が起こってもいいように備えるということでもある。
「おまえなぁ……俺は好きにしたほうが良いと思ってるんだからな? お前が言うから俺は……っと、そこの人、飴やるよ。詫びだ」
それはエリがなにか良い事をしたときに時々もらえる飴。エリちゃんはそれを知っていたのでますますしょんぼりとした。今回はぶつかったので飴が減ったのだ。実際は壊理が獲得できる飴の数が減ったわけではないが、子供なので混同している。
「ちゃんと謝れてえらい。今回は特別に飴をやろう」
死柄木はなかなか謝れないやつだから多分本気でそう思ってる。飴をもらったエリは「!」という感じの表情になり真剣な顔で飴玉を舐めだした。かわいい。
「……あまくておいしい……」
ころころとコーラ味の飴を舌先で転がす。ここ数日ですっかり気に入った味だ。治崎はなんかすごいイライラして「虫歯になるだろう」とか「褒美を与えるとアンダーマイニング効果が云々」みたいな正論風の言葉で飴に喜ぶエリちゃんを曇らせようとするという陰湿な嫌がらせを仕掛けたが「虫歯になったらお前がオーバーホールしろ」「お前の痛みによるしつけ未満の『調教』より500億倍マシ」と完全論破されていた。金出してるほうが立場が強い……計画の『核』であるエリちゃんも完全に手懐けられて踏んだり蹴ったりである。治崎の想像の一万倍くらい金持ってたからな……100年以上裏社会のインフラじみたことをしていたフィクサージジイは世界経済に影響が出てそうなレベルで溜め込んでいたから……。これで身持ちを崩さず『新しい社会のために使うんだ』とか思ってる連合の奴らは意思が強いを通り越してむしろやべえやつである。
「……新人ヒーローか? ずいぶん若ぇな。迷惑かけたな」
キメラはヒーローが好きではないが、嫌いというほどでもない。特にまだ学生に見える男には敵意を見せなかった。だがキメラにとって最も大事なのは年齢ではなくその眼だ。この青年の目は自分を蔑みも恐れもしていない。それが少しだけ心地よかった。だからこそすんなりと謝罪の言葉が出てきた。
「迷惑だなんてとんでもない! 可愛い子との出会いがあってまさにラッキーですよ!」
クソナードとかが言うとへんたいふしんしゃ扱いされただろうが、通形の朗らかな口調と雰囲気には爽やかさしかなかったので誤解はされなかった。
「ん? なんかどこかで見たようなツラな気がするな……あぁ、思い出した、全裸のやつ。雄英体育祭で去年全裸になったやつだ。今年は優勝していたな、全裸で」
リアルタイムでは1年生のやつを見ていたが、当然3年生の分も録画してみている。バイザーから透けて見えたつぶらな瞳に死柄木は見覚えがあったようだ。
「わァ……ぁ……その節は大変申し訳ございませんでした! お茶の間にお見苦しいものをお見せしてしまったんだよね!」
死柄木の胸にほんのりと寂しさが蘇る。あの頃はまだ『先生』が自分に何らかの愛情を持っているのだと信じてたっけ。いや、無いわけではないのだろう。歪んだ愛着のようなものは今思い返しても確かにあった。だが結局のところそれは死柄木弔の人格に対するものではなかった、そういうことだろう。柄にもなく感傷ふけりながら目の前の青年に問いかける。
「……お前も〝個性〟で苦労しているクチか?」
ヒーローも苦労しているんだろうな。ホーリーナイトもそうだったし、この全裸筋肉もそうだ。やっぱ今の世の中はダメだわ。仕組み自体が終わってる。個性犯罪者をぶちのめしてはしゃいでる場合じゃねえ。ホーリーナイトの予想では裏の世界はこれから荒れまくって衝突を繰り返して蠱毒のように悪意と憎しみが濃縮される地獄となるらしい。あいつはそれを止めようと思えば止められる。だが、そうすればもはや一人の人間としてまともに生きることは二度と叶わない。にも拘らずきっと彼女が『出来る』ことを知った人間は、彼女を罵るのだろう。やるせない。
「えっ! ……そうですね、一言で言い表せない苦労をしてきましたがなんとか最近モノにできまして……体育祭で優勝することができたり、こうしてインターンなんてさせてもらってます!」
「そうか。……お前は今の世の中をどう思う。お前は苦労を乗り越えられたようだが、それが出来ないやつはどうすればいい。誰にだって出来ることじゃないのは、成し遂げたお前が一番よくわかってるだろう」
今協力してやってる若頭もその一種だ。どれほど強くなっても、どれほど〝個性〟を高めても、『呪い』は解けない。過去は変えられない。じゃあ未来を良くしようとあがいても……上手くいかなかったら。取り返しのつかない失敗をしてしまったら、一体どうすればいいというのか。他人事なら言えるだろう。弱いのが悪い。失敗したのが悪い。努力が足りないのが悪い。才能が足りないのが悪い。意思が弱いのが悪い。『お前が悪い』。分かるぜ。よく分かるよ。だから悪党になるしかないんだよ。
「……俺に出来る限りで、そういう人たちを救け続けます! そんな俺を見て、勇気を出して続いてくれる人が出てきてくれると、それが皆に広がっていくと、信じています!」
目の前の男が真剣に答えたのが分かったから、死柄木弔に不快感はなかった。しかし到底納得など出来るはずがなかった。だって彼は世界一の聖人でもなんでもないはずだ。良いやつなのは分かるが、同じようなことを考えた奴は今までだってたくさんいたはずなのに、世界は変わってない。
「お前だっていっぱいいっぱいだろ。ようやく苦労が実って夢の端っこに手をかけたところなんじゃあないのかよ。足手まといなんて消えればいいとは思わないのか。出来ないやつが悪いと笑わないのか」
自己実現と、自己犠牲。今のヒーローはその2つを持っていて、それらは本来相容れないものだ。その矛盾が今の社会を軋ませている。
「まさにかつての俺がその『足手まとい』の『出来ないやつ』だったんだよね! でも、俺は乗り越えました! そうなるまでに沢山の人達に助けてもらいました! 今度は俺が返す番だと思うんだよね! だから、人助けも俺の夢です!」
「ふーん。お前はちゃんと考えてるヒーローなんだな。……ん? どうしたエリ、こいつが気になるのか?」
とてとてと通形にゆっくり近寄ってきた少女。死柄木弔はそれを不思議そうに眺めている。
「ヒーローさん……かっこいい。ほんものはじめてみました」
ハァ……本物! エリちゃんは通形の言葉を全て理解したわけではないが、恩返しに人を助けるという部分に感銘を受けたようだった。
「おっ。そうなのか? なァあんた、名前なんて言うんだ? ああ、ヒーロー名な。エリがファンになってくれるってよ。もしかして第一号だったりするか?」
キメラはエリのテンションが上っていることに喜んでいるらしく上機嫌に訪ねた。
「……まだまだ名乗るのもおこがましい仮免の新人ですね! ……恥ずかしいのでこの子……エリちゃんにだけこっそりでも良いですか?」
「ちっと残念だが、そういうことなら構わねぇぜ。ほら、内緒話してきな」
「はい……あうっ」
ぽんと背中を押されたエリちゃんがちょっとよろめいたのを見て通形は何かを言おうとしたが、やめた。キメラが口をあんぐりと開けて耳がみるみる内に垂れ下がったからだ。力加減を間違ったことを本人が一番実感したのだろう。とはいえ通形の目からもそこまでよろめくような威力には見えなかった。……体重が、軽いのだ。手足の包帯。清潔そうなゆったりとした服の下は、まさか……。
「……それじゃあ内緒話するんだよね。なにか困ってることはないかな? 俺の名前は『ルミリオン』。もし君が困っているなら、君のヒーローになっちゃうよ。痛いことはされてない? 苦しくて嫌なことをムリヤリされてたりしたら、勇気を出しておしえてほしいな」
不自然にならないように耳打ちしながら探りを入れる。後で会話の内容をバラされても問題のない範囲にしたので少しぼやけた言い方になったが、何かあるなら言うかどうかはともかく何らかの反応をするはずだ。……出会ったばかりでこんな事を言っても、応えてもらえるはずもない。それでももし助けを求めてくれるなら、何を
「こまってること……だいじょうぶです……ルミリオンさん……」
こしょこしょと耳打ちをされながら良く観察する。……態度にわずかに違和感があった。嫌なことはされているが、無理やりではない? いまいちよく分からない。ただ一つ分かったこと。……瞳にあるのは、使命感だ。あまり長く内緒話をしては不審がられるだろうと思い、話を切り上げ彼女の脇の下に手を入れ持ち上げる。されるがままの彼女はルミリオンの胸にあるデザインに興味を持ったようだった。
「まるがいっぱい……ひとつだけちがう?」
「これは100万って読むんだよ! 100が100個ある塊が100個あると100万さ!」
「……いっぱい」
「ははは、いっぱいだな。良かったなぁ、エリ、かっこいいヒーローに抱っこしてもらえてよ」
「はい……」
キメラはエリにも親しげな態度で、本当に良かったと思っているようだ。ただしいつでもこの娘を守れるように僅かに警戒しているのが通形には分かった。……どう考えても堅気じゃない。先ほど口にした『治崎』はやはり『治崎 廻』なのだろう。
「いやぁ、すごく可愛い女の子ですね! お二方どちらかのお子さんか妹さんですか?」
片手で抱えて腕に座らせる。彼女を抱えている時間はなるべく長くして、話を延長して情報を引き出したい。……朗らかに話してくれる『キメラ』に対する申し訳なさが胸中に宿るが、己の弱さだと飲み込む。
「俺はただの友達さ。シュガーラッキーの……ん? 俺達はどういう関係なんだっけ?」
「俺もただの友達だな。おっと、不審者じゃないぜ。こいつの保護者から面倒を見てくれって頼まれて散歩に出てるところだ。正式な保護者の爺さんは寝たきりでな。そいつの『息子』が暫定の保護者だ。〝個性〟の暴走で親をなくしてるんだよ、こいつ。優しくしてやってくれるか? ヒーローさん」
おそらくあらかじめ準備していたのであろう言葉だ。なんかこうセンシティブなワードを混ぜて突っ込んで聞きにくい雰囲気を作ってきた。嘘の響きはなかったが、判定できる〝個性〟を持っているわけではなくただの予測なので参考程度に考えておく。ただ『〝個性〟の暴走で親をなくした』は真実だろう。エリちゃんの表情が明らかにその言葉を肯定していた。
「もちろん! ところで保護者の方はもしかしてさっき話に出ていた『治崎』さんですか? 『死穢八斎會』の! ここらじゃ有名な方ですよね!」
彼女の頭を撫でながら話を続ける。優しくしてくれと頼まれたのでしばらく降ろさなくても不自然ではないだろう。なのでちょっと突っ込んだところまで聞いてみる。
「新人ヒーローにまで知られてるのかあいつ。どんだけここらでイキってるんだよ……それともお前が情報通なのか? ……『ナイン』って人物に心当たりがあったりしないか」
「……いえ、心当たりはありませんね! お役に立てず申し訳ない。ご友人ですか?」
一応真剣に記憶を探ってみたが心当たりはない。『シュガーラッキー(偽名?)』『キメラ』『ナイン』。本名で呼び合わない纏まりや関係というのはこのご時世それなりあるので、不審というほどではないが……『キメラ』は自称するには少し自虐的すぎる響きだ。他称された『
「俺のじゃなくてこっちのわんわんのな。しばらく連絡が取れないらしくて心配してるんだよ。ま、よくあることらしいけどな。ダメ元だったから気にするな」
「焦ってもしょうがねえ。気長に探すさ。そろそろ行こうぜ、エリ。腹も減ったしな」
裏のツテ……ヤクザの情報網もある程度(治崎が情報通の古株組員とは折り合いが悪いのでいまいち連携がとれない)使えるようになったのでナイン探索に於いてはプラスだったと言えるため、キメラには焦りはない。「お前の鼻は情報を絞り込んでから使う」という死柄木弔の言葉にも納得している。そこら中を無計画に『嗅ぎ回る』と逆に相手の情報網に引っかかって警戒されてしまうかもしれない、というのはキメラにとって盲点だった。
「朝もたっぷり食っただろうが……お前本当に燃費悪いよな……いや、パワーのわりには良いのか。エリ、何か食いたいもんあるか? 俺はカレーが食いたい」
「カレー……わたしもたべたい……」
不思議なまとまりだ。通形には本人たちの言う通り(年齢を考慮しなければ)本当に友人同士の気軽なやり取りに見える。『治崎』の名前が出てなかったらここまで疑ってなかっただろう。エリちゃんが降りたがってるような身動ぎをしたので優しく地面に下ろす。ほんの僅かに名残惜しそうにこちらを見たあと、とてとてと二人のもとに駆け寄るとキメラが抱きかかえて肩に乗せた。
「カレーならこの通りを真っすぐ行って3つ目の信号から右に曲がったところに美味しいお店がありますよ! 玉ねぎなしのタイプもありますのでキメラさんも安心かと!」
見回りをするにあたって現地のことはしっかり調べてある。その情報の中にあったものを伝える。下心なしの完全なる親切心である。いろんな〝個性〟にあわせたカレーをおいてあると評判の店だ。
「俺の見た目で玉ねぎが食えねぇかもって思ってくれたんだろうが、ちゃんと食えるさ。だが気遣いには礼を言っておく。あんたはきっと良いヒーローになれるぜ、新人さん。それじゃあな」
嫌味や皮肉ではない。キメラから見た通形ミリオの第一印象は「強そうだ」だったし、目を見れば分かる。キメラに全く怯えておらず、バイザー越しのつぶらな瞳が自分をまっすぐに見つめていることに気づいていた。こういうヒーローは嫌いではなかった。キメラを恐怖、あるいは侮蔑によりあからさまに害獣のように見てくる人間のほうが世の中には圧倒的に多い。いや、そっちがスタンダード……『普通』なのだ。
「せいぜい頑張れよ、ヒーロー。これから世の中は荒れるからな。自分をしっかり持つことだ。お前が今のまま時代の潮流を乗り越えることを祈っといてやる」
「る……ヒーローさん、ばいばい!」
朗らかに別れの挨拶を返したルミリオンだったが、胸中には沢山の気がかりが渦巻いていた。死穢八斎會に情報になかった小さな少女が居たこと。何らかの
独自設定とか
・メスガキのデクへの影響:ちょっと理屈っぽさが増している。
・冊子を燃やす:見学者向けのパフォーマンス。かっこいいと好評。
・エンデヴァー事務所:バーニンモテそう。あいつのよさは俺だけが知ってるんだ系。
・メスガキのインターン先:ナイトアイ事務所しょんぼり。
・I・アイランド:卒業後はぜひここを拠点に!とラブコールがすごい。
・洋上ウロウロ:多分いろんなスポンサー国家んとこをぐるぐる回ってるんじゃないかな。
・ワープゲート:めちゃくちゃ速いよりこっちがマシかなと公開に踏み切った。
・インターン挫折:現実でも結構そういうのはあるらしいので。
・緑谷ぶつけんぞ:なんてこと言うんだ!
・セメントス2-A担任:最終回らへん見てると多分そうだと思うけど一応独自設定としておきます。
・おすしちゃん:16歳くらい?ケアとか餌とか気を遣ってそうだしまぁ生きてると思われる。
・メスガキは犬派:ブラキンと犬トークしたりする。
・君はヒーローになれる:心操にそう言ってくれたのはイレイザーヘッド。
・シュガーラッキー:かわいい渾名すぎて気に入らない。
・キメラ:他人には偏屈な男だが仲間内では素直。
・アンダーマイニング効果:自発的にやっていたことに報酬がつくとむしろやる気が下がる現象。報酬が無いとやらなくなる。
・今年優勝はミリオ:種目が何でも最後はタイマン対決らしいので。去年はおそらくねじれちゃん。
・ちゃんと考えてるんだな:死柄木は基本的にヒーローは嫌いだが「頑張ってるやつも居るんだな」とメスガキを見て考えが変わっている。
・『ナイン』:ナインを知らないん?
・俺はカレーが食いたい:なんか子供ってカレーとかハンバーグとか好きだしな(ブーメラン)。