ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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またの名をメスガキ過去編


砂藤力道:オリジン

 俺の名前は『砂藤(さとう) 力道(りきどう)』。ヒーローを目指して日々特訓をしている中学生だ。

 

 〝個性〟は『シュガードープ』と言って、糖分を消費してパワーを倍加させるというヒーロー向けのものだ。

 

 小さな頃からヒーローになるために筋トレをしているが、最近はお菓子作りにもハマっている。

 

 〝個性〟の都合上、大量に糖分が必要なんだが、砂糖をそのまま摂取してると見た目がちょっと危ないのと、単純に飽きるという問題を解消するために始めたんだが、これが案外楽しい。

 

 お菓子作りはなかなか体力勝負な所があり、〝個性〟を使いながら作ることでかなりの高効率を実現することが出来る。

 

 実益も兼ねた素晴らしい趣味だと自負している。この調子でヒーローを目指して頑張っていこう。

 

 

 

 俺の人生は、そこまでは本当に順風満帆だったんだ。彼女のことを、知らなかったから。

 

 

 

 少しは中学生であることに慣れてきた昼休み。図書室に行くと変な雰囲気だった。見渡して原因を探してみると、とある一角が不自然に閑散としている。

 

 その中心で一人の可愛らしい少女が座って本を読んでいた。不思議に思ってなんとなしに見ていると後ろから声をかけられた。

 

「おーい砂藤! 何を見てるんだ? ってうおっ! 悪魔女じゃん!」

 

 中学校で出来た新しい友人の一人だ。俺が見ている少女を視界に入れると驚きと恐怖に染まった顔になった。

 

 思いやりがあって、お菓子作りというともすれば男がやるにはバカにされがちな(長く続けているパティシエは男性も多いのだが、このくらいの年齢だとそんなことは知らないからな)趣味もすごいと褒めてくれた気のいいやつだ。

 

 その彼が、女の子をそんなふうに言うなんて想像もできなかったから、しばらくフリーズしてしまった。

 

「あいつには関わんないほうがいいぞ! 将来は絶対(ヴィラン)になるって言われてるんだ。本人はヒーローになるとか言ってるらしいけど」

 

 最初は言葉の意味がよくわからなかった。理解が追いつき、かっと頭に血が上る。

 

 あの女の子のことは知らない。知らないが、俺は友だちがそういう……陰口みたいなことを言うのが嫌だった。

 

 それが表情に出ていたのだろう。友人は慌てて謝罪した。

 

「ごめん! いきなりこんなの聞かされたら気分良くないよな。でも本当に関わらないほうがいいんだ。今俺が何言っても言い訳にしかならないから、説明はしない。俺のことは嫌ってくれていい。でも関わる前にちゃんとアイツのこと知ったほうが良いよ」

 

 そう言った友人は、いつもの彼だ。あまりにもいつもの彼らしい真っ直ぐな言葉だった。

 

 俺はなんだか混乱してしまって、その後ろくに会話もせずに家に帰った。

 

 母に『悪魔女』を知っているか聞いてみたが、心当たりはないみたいだった。

 

 気になった俺はとりあえず友人に言われた通り彼女のことを調べてみることにした。

 

 何の根拠もなくあんな事を言うやつじゃないと思ったから。

 

 と言っても中学生に出来る調査なんてたかが知れている。せいぜいが彼女と同じ小学校出身の奴らに話を聞くくらいしか出来ない。

 

 そして俺が信頼できる、あの娘と同じ小学校のやつなんて、今のところ彼一人しか居なかった。

 

「あ、砂藤、おはよう。どうしたんだ?」

 

 話しかけると相変わらず爽やかな笑顔で応対してくれる。昨日はちょっと気まずい別れだったから安心した。

 

 俺が「あの子の話を聞くならお前から聞きたい」と伝えると、友人はためらいがちに話してくれた。

 

 曰く、彼女は昔から『お化け屋敷の悪魔』という渾名で呼ばれていて、恐れられていたそうだ。

 

 森の奥にある不気味な邸宅に住んでいるのが由来らしい。

 

 幼い頃に両親を殺して一人になり、小学校では同級生を〝個性〟で大怪我させてけらけらと笑っていたのだという。

 

 信じられない、という気持ちが大半だ。そもそも他人にそんな大怪我をさせたなら、捕まったりするもんじゃないのか? 

 

「あいつの親戚が金持ちで、ジダンしたんだってさ。子供のやったことだからって見逃されたんだ。それに「オールマイトが嫌い」って言ってるから、砂藤みたいなヒーローっぽい奴のことも攻撃してくるかもしれない」

 

 彼女の〝個性〟は大岩をも容易く砕き、彼女の悪口を言うと暗がりで襲われて大怪我をさせられるのだという。

 

「怪我した奴らはみんな転校しちゃったよ。金持ちの親戚がケンリョクでやったんだって」

 

 話を聞いたあと、俺は一番気になったことを彼に聞いてみた。

 

 彼女がそういうひどいことをする場面を実際に見たことはあるのか? 

 

「え? いや、直接は見たこと無いけど。でも小学校では有名だったぜ。あ、ヒーローを目指してるやつを罵倒してるのは見たことがあるな」

 

 ……これは、俺が別の小学校だったから、分かることなんだろう。あるいはそれなりに裕福だから、というのもあるかもしれない。

 

 聞けば聞くほどバカバカしい話だと思った。

 

 友人は恐らく小さい頃から聞いていたから不自然に思わないんだろうな。噂の一部が真実であることを目撃しているのもあるかもしれない。

 

 俺達の通う江湖(えこ)中学校は何の変哲もない普通の公立だ。そんな訳ありの女の子が通ってくるような特別な場所じゃない。

 

 それに示談、というのはお互いが納得して行われることだったはずだし、そういう理由で転校するなら加害者の『悪魔』のほうになるのが自然なんじゃないのか。

 

 根も葉もない、かはともかく誤解や誇張が混じっているであろうことは間違いないと思った。

 

 俺は友人にそれを話し、本人に直接聞いてみると伝えた。

 

「砂藤ってほんとカッコイイよな。尊敬するわ。真剣にヒーロー目指してるやつは違うな。……気をつけろよ?」

 

 友人は反発もなく俺の話を受け入れてくれた。正しいと納得した訳ではないと思う。

 

 ただ、俺を信じてくれたんだ。

 

 中学生ともなると多少は現実が見えてくる。『自分はヒーローになれない』という現実だ。

 

 だって、面倒だから。孤立してるやつに話しかけたり、人助けしたりなんて、だるいから。

 

 大抵の人はヒーロー科を記念受験しつつ、なんとなく学力に応じた高校を目指す。

 

 周りはみんなそんな感じになってしまって、むしろ俺は戸惑っている方なんだがな。

 

 そうして俺は彼女を探しに行った。彼女はいつも一人だし目立つのですぐに見つけて話しかけることが出来た。

 

「はぁー? 何だよオマエは。近寄るなっ! 失せろ!」

 

 取り付く島もなかった。まず会話にならなかった。誤解もクソもないな、これ。

 

 もうめちゃくちゃ態度が悪い。かわいい顔で誤魔化すにも限度ってもんがある。

 

 嫌われているから噂が消えず、本人もどうでもいいと思っているのだろう。

 

 だが俺は諦めなかった。ここで彼女を放置して、ヒーローになるのか? 

 

 ヒーローになったあと、それを誇れるのか? 

 

 そんなのは俺のなりたいヒーローじゃない。

 

「キモい。話しかけるなっ!」

 

 話すくらいは良いだろ? なんか困っていることはないか? 

 

「薄っぺらいんだよ! ヒーローごっこは他所でやれっ!」

 

 ごっこじゃない。本気で目指してるよ。おまえもそうだって聞いたけどな。 

 

「ボクはヒーローになる。オマエたちみたいな愚者とは住む世界からして違うんだよッ!」

 

 そんなことはないだろ? 同じ世界にいる。こうやって話もできているじゃないか。

 

「オマエみたいな雑魚がヒーローだって? 無理ムリ! 誰も救えずに死ぬだけだッ! 弱者が偉そうな口を聞くなっ! 思い上がりも甚だしいぞッ!!」

 

 実際はこの100倍は言われてるんだけど一部抜粋してみたぜ。つらい。

 

 ヒーローを目指しているやつを罵倒するってのはとりあえず本当だったな……。

 

 彼女を心配して話しかけに行くとこんな感じで拒絶されて、それが噂になっているわけだ。

 

 だが俺は挫けない。ヒーローは負けない。とはいえ正直手詰まりだ。

 

 どうすれば良いか親に相談してみると、お菓子をあげて話の取っ掛かりにしてみたらどうかとアドバイスを貰った。

 

 いい考えかもしれない。よし、やってみよう! 

 

 

 

 

「はぁ~~~?? 手作りのお菓子ぃ? きっしょ!! 誰が食うか!!! ばーか!!」

 

 き、きしょいって……。美味しいぞ。あ、もしかして遠慮してるのか? 

 

 これは俺の〝個性〟の訓練のためでもあるから、気にしなくていいぜ。

 

「見当外れのことを言うなッ! 近寄るんじゃない、失せろブサイクッ!」

 

 まぁまぁ、俺はブサイクだけどお菓子はキレイだろ? 美味しいぜ。

 

「お前が触れたものなんて食べるわけ無いだろ生ゴミ野郎ッ! 臭いんだよ、あっち行けッ!!」

 

 清潔にしてるし、素手で触る工程なんて無いぜ! そうは言ったがそれっきりその日は無視されるようになってしまった。

 

 だが俺は諦めない。何度だって挑み続ける。

 

 

 

「いつになったら懲りるんだ? 食べたくないって言ってるだろ!」

 

 そうか? 食べたくなったらいつでも言ってくれ。すぐに作るぜ。

 

 

 

「しつこいよ! 食べないって言ってるだろ! もったいないから作るな!!」

 

 いや、お前が食べないなら他の友人たちに渡すから大丈夫だ。いまだかつて余ったことはないさ。大人気なんだぜ。

 

 

 

「いらない! やめろ! ボクを憐れんでるつもりか? 見当外れの勘違い野郎ッ!!」

 

 そんなつもりは……無いと思う。うん、ないぞ。だいぶ腕を上げたから、一口くらい食べてほしいんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 来る日も来る日もお菓子を渡しに行くが、受け取ってもらえない。

 

 だが俺は手応えを感じていた。本当に少しずつだが、反応が変わってきている。

 

 きっともう少しだ。もう少しで、ちゃんと話ができるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん……ボクのお母さんが好きだったんだ? ガトーショコラかぁ……仕方ないから食べてあげる。ありがたく思うように」

 

 ああ。記念日のたびに買ってたんだってさ。メリークリスマス。

 

 

 

 

 

 

 

 ついに俺の手作りスイーツを食べてもらうことに成功した。

 

 今度こそはと気合を入れて作った入魂のケーキ。

 

 両親の居ない彼女にクリスマスプレゼントだ、なんて、傲慢だっただろうか。

 

 でも初めて彼女が食べてくれた。

 

 そこに至るまでほとんど毎日俺はお菓子を作っていた。

 

 試作を積み重ね、自信のある味になるまで改良し、彼女に贈るのは週に一度。

 

 その時に出来る最高のものを贈ろうとした。

 

 ずっと食べてもらえなかったのに、どうしてこのケーキは食べてもらえたのかが分かるのは、まだ先の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

「砂藤くんおはよーっ! とってもおいしかった! キミってすっごくお菓子作りが上手なんだねっ!」

 

 冬休みが開けた教室で最初に聞いた言葉がそれだった。

 

 初めて笑顔を見た。良かった、ちゃんと笑えるんだな。

 

 笑顔を知らないなんて物語のキャラクターみたいなことはなかったみたいだ。

 

 周囲の表情は驚きで固まっている。きっとみんなも初めて見たんだろうな。

 

 

 

 

 

 

「また作ってくれたの? 今回は何? バスクチーズケーキ? へぇ~」

 

 ああ、自信作だぜ。定番のレシピから少し砂糖を控えめにしてバニラエッセンスとレモンを加えてみたんだが、うまく出来たと思う。

 

 向こうからもたまに話しかけてくるようになり、ようやく会話が成り立つようになったので、色々と噂について聞いてみる。

 

 少し嫌そうな顔はされたが、それでも彼女はちゃんと話してくれた。

 

「ボクはヒーローになるんだ。「将来はきっとすごいヒーローになれる」ってお父さんとお母さんが期待してくれたんだ。だから、他人を傷つけたりなんてしないよ」

 

 やっぱりな。思ったとおりだぜ。

 

 まぁ、軽々しく暴力を振るうようなやつじゃないって、とっくに分かってたけどな。

 

 でもヒーローになるなら口の悪さは直したほうが良いぜ。他人を傷つけてる。

 

「やだなぁ。人間は言葉で怪我なんてしないよ。そんな事も知らないの? え? 違うの?」

 

 身体じゃない。心が傷つくんだよ。

 

 お前だってイヤだろ、悪口言われるの。最近はだいぶ減ってきたと思うけど。

 

 言うのも、言われるのも。

 

「そっか。これが傷つくってことだったんだ。気をつけるよ。ボクが人を傷つける言葉を使ってたら、教えてね」

 

 そうだな、お前はナチュラルに上から目線だからそこから直したほうが良いかな。言葉選びよりまず先にそっちな気がするぜ。

 

「めちゃくちゃ言ってくるじゃん。気をつけまぁ~す」

 

 一度会話できるようになったら彼女はとても素直だった。俺のどんな言葉も突っぱねずに、真剣に検討してくれた。

 

「同級生に大怪我? させてないよ。でもボクが両親を殺した、って言われてムカついたから、近くにあった岩を粉々にして脅かしたんだ。そしたら引っ越しちゃった」

 

 まぁ……それはさぞかし怖かっただろうな。おまえも怒られたんじゃないか? 

 

 ……そうか、誰も叱らなかったんだな。

 

 ダメだぞ、力で脅かすなんて。

 

 ひどいことを言われて怒るのは当然のことだ。

 

 けど、恐怖で言うことを聞かせてしまえばお前は孤独になる一方だ。

 

 周りに「怯える人」と「力を利用しようとする人」しか居なくなっちまう。

 

 ヒーローになるならやっちゃいけないことだ。

 

「……そっか。うん、分かった!」

 

 彼女は驚くほど勉強ができるのに、誰でも知っていることを知らなかったりする。

 

 それはきっと彼女だけのせいじゃないと思った。

 

「お金持ちの親戚ぃ? 居るわけ無いじゃん。虫みたいに集ってボクたちの家を奪おうとする奴らしかいなかったよ。本当に親戚だったのかも怪しいねっ!」

 

 虫って……気持ちはわかるけど、良くないぞそういう言葉の使い方は。

 

 相手が悪いやつだからって悪い言葉を使ったら同類になっちまう。

 

 言葉は行動になり、行動は習慣になり、習慣は性格になり、性格は運命になる、だったかな。

 

「ほえー。気をつけないといけないねっ!」

 

 大丈夫。少しずつ良くなっているさ。話し始めた頃よりずっと穏やかで丁寧だ。

 

 

 

 

「ボクがお父さんとお母さんを殺したって噂ね……根も葉もない話ってわけじゃあないんだ。あのね……」

 

 ある時ついに彼女にとっての一番の傷であろう事を、話してくれた。

 

 それを聞いて思ったことは、彼女のせいじゃない、という事。

 

 でも彼女は自分の責任だと思ってるようだった。そうじゃないと言っても、納得はしてもらえなかった。

 

 

 

 

 

 

 まともに会話はして貰えるようになっても前途多難というか、話す前よりずっと悩みが増えてしまった。

 

 強さとはなんだろう。彼女は俺よりずっと強いのに、いつも一人ぼっちだ。

 

 反面、俺の周りにはいつも沢山の人がいる。

 

 俺の何がそうさせているんだろう? 真剣にヒーローを目指しているから? でもそれなら彼女だって同じだ。

 

「どうでもよくない? 弱いやつが周りにいると邪魔だよ」

 

 そういう人たちを守ってこそのヒーローだぜ。

 

 強いんだったら、余裕があるはずだ。

 

 おまえが世界最強だっていうなら、できるはずだ。そうだろう? 

 

「むっ……気をつける……」

 

 ……俺は嫉妬されない程度のほどほどの優秀さだから? 

 

 どうだろう。自分で言うのもなんだが俺は文武両道で学校での成績もトップクラスだし、体格も良くて〝個性〟も強力だ。

 

 冗談交じりではあるが、嫉妬の言葉をかけられたことは一度や二度じゃない。

 

「ボクは化け物なんだってさ。子供を食べて乗っ取った悪魔らしいよ。田舎ってどうしてこう迷信じみてるんだろうね?」

 

 まぁ最近はそういう風潮も薄れてきてるだろ? 

 

 一気に良くなるだなんてことはない。

 

 こういうことは皆の地道な努力が大事なんだ。

 

 もちろん俺達も『皆』の一員なんだから気をつけていかないとな。

 

「まぁボクって強くて可愛いからね~。皆嫉妬してるんだよね。かわいそうだから言わせておいてあげよっと」

 

 まぁ言うだけあるとは思うけど……顔か。

 

 これはあるかもしれない。俺は我ながらイケメンとは言い難い顔をしている。

 

 ただ、そこまで気にしては居ない。恋人を作ったことはないが、告白は何度もされたことがあるしな。

 

 目の前の彼女はとても見目麗しい。今より小さい頃でも同じだろう。

 

「ボクが可愛すぎるから変な奴らを引き寄せちゃうんだよね~。かわいそうだ、俺なら君を悲しませない、って感じのしょうもないやつら。オマエらがボクの何を知ってるんだか」

 

 人間は顔じゃない。いや、というより俺は顔がイケメンじゃないからこそ告白されてるフシがある。

 

 完璧すぎると近寄りがたいものだ。わかりやすい欠点がある方が親しまれる。

 

 ……ここを起点に攻めるか? 彼女のクソ生意気さ、人格的欠点を愛嬌だと思ってもらうことができれば友だちができるかも。

 

 

 

 

 

 

 

「お菓子パーティ? 他の奴らも来るの? やだぁ……どうしてそんなひどいことするの? ボクのお菓子に変なもの入れられたらどうするんだよぉ……」

 

 そんな事するやつが居たら俺が叩き出すから安心してくれ。

 

 まぁそもそもそんなことするやつは俺の友達にはいないけどな。

 

「うーん……わかった。砂藤くんが絶対そんな事しないって信じている人だけならいいよ」

 

 そうして開かれたパーティはまぁまぁ成功、と言ったところだった。

 

 お菓子をにこにこぱくぱくと食べる可愛らしい彼女を見て、友人たちは彼女が噂のような危険な存在ではないと分かってくれた。

 

 ただ、じゃあ友達に、とは行かなかった。

 

「砂藤はよくあいつと会話できるな……本当に尊敬するよ。人間出来過ぎじゃないか?」

 

「砂藤くん性格イケメンすぎる……アタシはちょっとあの娘とは合わないっていうか……。口を開けば悪態と上から目線でしんどい……」

 

 このように誤解が解けたところで友達は出来なかった。

 

 誰かと仲良くなってくれたらいいな、とは思ったが、うん。

 

 ナチュラルに上から目線でしんどいってのは全くそのとおりだ。

 

 俺も認められているのは根気とお菓子作りだけで「脆弱な旧人類」みたいな扱いは変わらないし、それを言うだけの差が実際にある。

 

 生物としての格の違いと言えばいいんだろうか。

 

「人間って弱いよね! 砂藤くんは周りから強いって言われてるけど、ボクには他との違いがわからないや!」

 

 〝個性〟を使わずとも彼女は強い。

 

 友人は、親から「彼女と関わるな」と再三聞かされていたので噂話でしか知らなかったが、俺が彼女の過去について興味を持っていることが広まると色んな人が過去のことを教えてくれた。

 

 そのうちの一人から、聞いた話。

 

 小学三年生の頃、学校中の〝個性〟自慢が集まり、彼女を襲撃したらしい。

 

『おとなでもかてないヴィランをやっつける』という名目で、手加減無しで十数人が彼女に高熱、電撃、光線、粘液、岩弾なんかをぶつけたそうだ。

 

 結果は無傷。

 

 彼女の服だけがずたずたのぼろぼろになり、お互いしばらく呆けていたらしい。

 

 しばらくすると彼女がギャン泣きしだして、周囲の空気が子供でも分かるくらいに異様に歪んだことで逃げ出したのだという。

 

 その時着ていた服は、だぼだぼの、大人が着るような黒いシャツ。

 

 きっと両親どちらかの服だったのだろうとのこと。

 

 それ以来彼女は自分の〝個性〟で作った服だけを着るようになったらしい。

 

 被害が服だけだったので公的な事件にこそならなかったものの、大騒ぎとなり、加担した者たちには厳しい沙汰とお説教があったのだとか。

 

「こんな私でもヒーローを目指していた時期があったんだよ」

 

 彼女は右手をピカっと光らせたあと自嘲しながら去っていった。

 

 

 

 ──あの子は黒しか着ない。きっと今も葬式の最中なんだ。私は、怖い。いつかあの子が私を殺しに来るんじゃないかって今でも思ってる──

 

 

 

 結局のところ、彼女の強さが壁を作っている。

 

 彼女は自分が圧倒的に強いことを知っているし、関わってみて分かったが、別に寂しがってもいない。

 

 いや、正確に言うと他人に寂しさの埋め合わせを求めない。

 

 両親が居なくて寂しいのは、両親が居ないからであって、だから友達を作ろう、という発想にならないのだ。

 

 そして各家庭の親御さんが自分の子供に「彼女に関わるな」って言うのも、ぶっちゃけ仕方ないと思う。

 

 生き物としての格が違う。未熟な子どもがいつ他人を〝個性〟で攻撃するか、誰にも分からない。

 

 禁止されていても、やるやつはやる。誰だって生命は大事だ。愛する子供のものならなおさらだ。

 

 いつ爆発するか分からない危険物に近寄らせたいと思うものはいないだろう。

 

 俺のやったことは徹頭徹尾余計なお世話だった。そりゃキモがられるわ。

 

「砂藤くんはキモくないよ! 立派な人だなって思う! 友達のために一生懸命になることは、カッコイイ事なんだって分かった。砂藤くんのご両親はきっと、キミのことが誇らしいって思ってるはずだ! ボクもお手本にするねっ!」

 

 なんか照れくさいな。彼女がいつも言っていること、つまり「両親に誇れる立派なヒーロー」という夢のヴィジョンに俺の行動が取り入れられたということだ。

 

 ああ……そうか。俺は、誰かのヒーローになれたんだ。

 

「砂藤くんの友達がボクの悪口を言ってたのが嫌だったんだよねっ! 彼に謝られたよ!」

 

 そうだったのか。謝っていただなんて知らなかった。そうか、あいつが……。胸がじんわりと暖かくなる。

 

「ボクにとっては知らないところで誰が何を言ってようがどーでもいいことなんだけど、砂藤くんにとっては大事なことだったんでしょ?」

 

 その通りだ。だから彼女の悪態なんて全然気にならなかった。

 

 俺が彼女に何をどう言われても、それこそどうでも良かった。

 

 でもそれは、彼女自身のことなんてこれっぽっちも見ていなかったってことだったんだろう。

 

 きっとそうじゃなくなったのは、あのクリスマスケーキからだった。

 

 あれは本当に、彼女のためだけに作ったものだったんだ。

 

「砂藤くんのおかげで思い出せたんだっ! ボクはねぇ、記念日に食べる甘いものが大好きだったんだよ! そんなことすら、分からなくなってた。食べたものは全部、覚えていたはずなのに」

 

 彼女の母親がガトーショコラをよく買ってたって、懇意にしてるケーキ屋の店長さんに聞いたから。

 

 もしかして彼女も好きなのかなって思ったんだ。

 

 だからきっと、食べてくれたんだ。

 

 本当に彼女のためにお菓子を作り出したのは、それからなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「高校なんてどこでも良くない? 免許取れるならどこでも一緒だし近いところでいーかなって……もったいない? そーかなぁ」

 

 お前ならどこでも入れるだろ? 雄英高校なんておすすめだぞ。

 

 最高峰の場所なら、お前についていけるやつもいるかも知れないしな。

 

「え~? 到底そうは思えないけど~。ま、どこでもいいんだから雄英高校でも良いかな」

 

 雄英に合格したらお前の好きなガトーショコラを作ってやるぜ。

 

「わ、ほんと? がんばっちゃお~っ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、ボクにも教えてよ、お菓子作り。月謝払うよ、月謝。いらない? うーん、じゃあ材料費ってことで。お父さんとお母さんの大切な遺産だけど、ちゃんとしないときっと怒られちゃうから」

 

 女の子の一人暮らしの家に行くのはちょっとなぁ。

 

 月謝っつーか、対価をもらうのもなんか違う。

 

 別に何も返さなくていい……いや、それも違うか。

 

 おまえが立派なヒーローになるのがお返し、ってことにしてくれよ。

 

「そうよ! 二人きりでお菓子作りなんてそんなのぜったいだめっ! 他にも習いたがってる娘いっぱい居るし、動画にしてアップするのはどうかな!? アタシんちなら撮影用の設備とかいっぱいあるし!」

 

「いい考えじゃないか? 最近クラスで手作りお菓子めっちゃ流行ってるし、みんな喜ぶだろう。俺に手伝えることがあったら何でも言ってくれよ」

 

「別にボクは砂藤くんが家に来ても気にしないけど? まぁ動画でもいいよ。ちゃんと初心者でもわかりやすく、美味しく作れるようにしてよ~? 出来てなかったら容赦なくダメ出しするからねっ!」

 

 彼女に食べてもらおうと考えた無数のレシピを、動画を通して彼女やたくさんの人に教える。

 

 これは俺にとってもすごくいい経験になった。

 

「大さじってナニ? 道具の紹介もして」

 

「バターがなんか変な感じになった! 動画のとおりにしたんだぞっ!」

 

「生地を1時間休ませますってなに! 疲れないでしょ!」

 

「良く混ぜます、じゃなくて具体的にこのくらいの状態になるまで混ぜる、って提示するべき!」

 

「適量ってのやめろ! 少々と何が違うんだよえーっ!」

 

「冷まして型から抜く、ってちゃんと言えッ!! ぼろぼろになっただろッ!」

 

 もう本当にドチャクソ言われた。

 

 動画編集をしてくれてる友人も相当言われてるみたいでよく涙目になっていた。

 

 だがその甲斐あって回を重ねるごとに動画のクオリティは上がっていき、クラスメイト以外にも視聴する人が増えてきた。

 

『マッチョな中学生男子が、プロ顔負けの本格スイーツを狂気的なまでの精度で作る』というギャップがネットの話題をさらい、二年生の夏頃にはSNSや動画サイトのトレンドを総なめにする一大コンテンツへと成長していた。

 

「動画の伸びやべえな!? もうプロの番組じゃん! 再生数もフォロワーも桁が違うぞ!」

 

「アタシも裏方として死ぬほど鍛えられたわ……。あ、そういえばなんか出版社から書籍化の打診が来てるんだけど……」

 

 それをきっかけに話はトントン拍子に進んだ。

 

 周囲に勧められるがまま、お菓子コンクールに出場したところ、審査員を務める一流パティシエたちを驚愕させ大賞を受賞。

 

 中学三年生の春頃には、出版したレシピ本がベストセラーとなり、テレビや雑誌の取材がいくつもやってきた。

 

「次世代の超新星」「スイーツマイト」などと持て囃され、気づけばちょっとした社会現象的な存在になっていた。

 

 もうすっかり天才扱いで、なんだかこんなにうまく行って申し訳ない気持ちすらある。

 

「砂藤ってさぁ……アイツのこと好きなの? それなら応援するけど」

 

「え!? 砂藤くんあの子が好きなのぉ!? やだぁ……やめてぇ……」

 

 嫌いではないぜ。見た目はすごく良いし性格も可愛い所あるしな。

 

 俺のお菓子をニコニコしながら食べてくれる所もポイント高い。

 

 でも恋愛的な意味だとちょっと……俺はもっと大人っぽい娘がいいな……。

 

 穏やかに紅茶を飲みながらゆったり会話できるような感じの。

 

 ちょっとあのハイテンションに毎日はついて行けないんだわ。

 

 たまにお菓子をあげて笑顔にする親戚のおじさんくらいのポジションがちょうどいい距離感だな。

 

「ほっ……。砂藤くんって大人っぽくて落ち着いてるよねぇ~。ねぇねぇ、砂藤くんはパティシエを目指すんだよね? アタシ、経営の勉強もするからさ、将来一緒にお店やろうよ!」

 

「目指すってレベルじゃないだろ? もういくつもコンクールで賞取ってるじゃん。超新星とかスイーツ界のオールマイトとか言われていろんな店から引く手数多って聞いたぞ」

 

「ずっと配信者でもいいのかもしれないけど、やっぱり自分たちのお店が欲しいよね!」

 

 自分の店か。それも良いかもな。

 

 俺は友人に恵まれた。

 

 話しても分かってくれない人ってのはどうしてもいる。それはしょうがないことだ。

 

 でも色々と頑張ったかいあって、少しは学校の雰囲気も良くなってきたんじゃないか? 

 

 適切な距離感つーのか? 俺達全員がだんだん大人になりつつあるってことなのかもしれないな。

 

「いや……俺にはもう砂藤は大人に見えるわ……。ていうか既に大人ともやり取りしてるし、何時でも働けるじゃん。……ヒーローの方はどうするんだ?」

 

 ヒーローか。勿論今でも俺の夢は『ヒーロー』だぜ。

 

 ただ、ヒーロー科に入学して、プロヒーローとして(ヴィラン)と戦う、みたいなのはもう考えてない。

 

 そのうちヒーロー免許自体は取りたいと思っているけどな。

 

 〝個性〟使用の自由度が段違いだし、人助けしたいって思った時に免許がなくて出来ません、じゃあ後悔するだろうから。

 

「ふわぁ~……砂藤くんかっこよ……アタシも夢に向かって頑張るから……!」

 

 俺のスイーツは心が落ち着くと、癒やされる温かい味だと、世界を救う味だと、たくさんの人に言ってもらえた。

 

 俺のやりたいことは、そういうことだったんだ。

 

 この中学校での経験で俺は学んだ。

 

 物事にわかりやすい善と悪なんてなくて、世界は灰色だ。

 

 そいつをやっつければ問題が解決する諸悪の根源なんてのが居るとは限らない。

 

 一方的に決めつけると争いが起こる。

 

 だから俺はできる限り、仲立ちをしてあげたい。

 

 どちらかに肩入れをするのではなく、みんなを俺のスイーツで笑顔にしたい。

 

 誰かを打ち倒すのではなく、仲直りするための力になりたい。

 

 その想いと、俺の〝個性〟の要である『糖』に因んだアカウント名。

 

 そうありたいという俺の願い(ヒーローネーム)

 

 偉大なる中立──『グラン・ニュート』。

 

 スイーツで人の心を救う。それが俺が選んだ、掴みたい未来だ。

 

 

 

 

 

 

「これから先、もし友だちができたら……砂藤くんがしてるみたいに、大切にするねっ! そしたら、そしたらさ、ボクもキミみたいに、沢山の人に──」

 




独自設定とか

・お菓子を振る舞う:原作だと寮生活まではやってないと思われる。意外な一面とか言われてたし、本人も「こんな反応されるとは」って言ってたからな。
・メスガキと本:読んだことのない本がいっぱいあったのでしばらく入り浸っていた。
・友人その1:爽やかイケメン男子。
・お化け屋敷の悪魔:年季の入った渾名。
江湖(えこ)中学校が公立:捏造。
・真剣にヒーローを目指す:原作1話で「大体ヒーロー科志望だよね」って言ってるけど折寺中学校は進路希望の紙を投げ捨てるクソ学校なので現実が見えてないんだと思います。
・この力に一番戸惑っているのは俺なんだよね:雄英入れるようなのは地元じゃ神童。
・トゲアリメスガキトゲトゲ:ちくちくどころじゃない。
・メリークリスマス:8ヶ月近くメスガキに根気強く話しかけ続けた。すごい。
・毎日お菓子作り:『シュガードープ』もくっそ伸びてる。パワーじゃなくて持続性や精密動作、糖分のエネルギー変換効率方向に。
・思ったとおりだぜ:それであんなにスパイシーだったのか。
・メスガキの親戚:メスガキママが成功した時にいろいろあって縁切ってる。
・田舎扱い:鳥取は日本で一番人口が少ない県で自然がいっぱい。まぁ福岡(障子)で血祓いあるレベルだしどこの県でも田舎はやべえと思う。
・友達できないメスガキ:あったりまえだろ!
・メスガキ襲撃事件:警察沙汰にならなかっただけでクッソ揉め事になった。
・ピカちゃん:怒られて反省できる子。メスガキなんかが同級生に居たばっかりに……。
・黒しか着ない:だいぶ前に感想でバレてたのに今更?学校の制服も着てるからカモフラできるかなと思ってたけどダメでしたね(制服は喪服としても使える)。
・メスガキのお手本:砂藤力道。迷ったときは彼ならどうするかで判断。
・高校なんてどこでもいい:学ぶことなんてないと思っていた。思い上がり!
・雄英おすすめ:メスガキに『プロヒーロー』の夢を託した。
・砂藤力道の進学先:製菓コースのある高校。
・アタシちゃん:砂藤くんの友達(?)その2。
・砂藤くんの得意スイーツ:原作だとベリータルト。ここだとガトーショコラ。
・ベリータルト:砂藤くんのベリータルトは世界から争いをなくす(お茶子談)。
・グラン・ニュート:だいぶ前に感想でバレてたのに今更?すっとぼけてゴメンな!
・砂藤不在タグ:不在じゃないから!別の高校に進学しただけ!

バレバレでしたか?

  • たりめーだろ(両方知ってた)
  • まあね(喪服は分かった)
  • それなりには(グラン砂藤は分かった)
  • びっくり~!(どっちも分からんかった)
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