ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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皆が砂藤くんのこと見直してくれて俺も鼻が高いよ
ありがとうシュガーマン……


『私は決して負けない。勝つか、学ぶかだ』

「はっぴばーすでーでぃあリノちゃーん! はっぴばーすでーとぅーゆ~~!!」

 

 メスガキがふーっとケーキの蝋燭を吹き消すとぱちぱちぱちぱち! と拍手が鳴り響いた。その数……500億(16本)。本日9月12日(木)はメスガキの誕生日である。そのため寮のロビーにてパーティーが開催されていた。平日なので豪華さとは程遠いが、メスガキは満面の笑みで不満など一切無いようだった。だがその裏で、本日からメスガキより年下という不名誉なレッテルを貼られるものが同級生に発生してしまった。以下にその人物を記す(辱め)。

 

 ・八百万 百 (9/23)

 ・峰田 実 (10/8)

 ・取蔭 切奈 (10/13)

 ・切島 鋭児郎 (10/16)

 ・鉄哲 徹鐵 (10/16)

 ・常闇 踏陰 (10/30)

 ・黒色 支配 (11/1)

 ・泡瀬 洋雪 (11/7)

 ・小森 希乃子 (12/1)

 ・小大 唯 (12/19)

 ・凡戸 固次郎 (12/23)

 ・麗日 お茶子 (12/27)

 ・鎌切 尖 (1/7)

 ・轟 焦凍 (1/11)

 ・口田 甲司 (2/1)

 ・庄田 二連撃 (2/2)

 ・吹出 漫我 (2/2)

 ・柳 レイ子 (2/11)

 ・蛙吹 梅雨 (2/12)

 ・障子 目蔵 (2/15)

 ・宍田 獣郎太 (3/26)

 

 おわかりいただけただろうか? クラスメイトの中で有数の大人の雰囲気を醸し出す障子目蔵は実はA組で最も年下なのだ!! そしてもう一つ。

 

 ・爆豪勝己(4/20)

 

 はい。こいつ1年生で一番年上なんすよ。障子くんより10ヶ月も長く生きてるとか信じられるか? 俺は信じない(ロックロック構文)。優秀とか褒められまくってるけど遅生まれアドがあるんですね。イキってて恥ずかしくないの? 

 

「それでは紹介しまぁすっ!! 今回ボクの誕生日にこのガトーショコラを作ってくれたのはこちらの~……ボクの地元の友達っ! 砂藤くんですっ!」

 

「どうも皆さんはじめまして。新斗の友人の砂藤力道です。パティシエやってます」

 

 友達、というところで本当に嬉しそうにするメスガキに砂藤はニッコリと笑顔になった。包容力のある温かい笑みにクラスメイトは「やっぱこういうおかん系の人と相性がいいんだな」とぼんやり思った。

 

「いやいやいや動画で見たことあるぞこの人」

 

「グラン・ニュート! グラン・ニュートじゃん!」

 

 動画配信を始めたのが中学生なので顔を隠すとかしてないので即バレである。ネットリテラシーゼロ。まぁ今どきはヒーローも顔出しでやってるから問題視する人はそんなに居ないしこの親しみやすい顔がウケたところもあるのでデメリットばかりではない。ちなみに初期からだんだん育つ筋肉に対するコメントも多かったので筋トレ動画も出している。

 

「例のBGMが聞こえるぅ~! てれれれれーれーれーれーれーれー♪」

 

 気の所為ではない。メスガキが鳴らしてる。音の発生はだいぶ熟れてきてそろそろPCのスピーカーあたりのクオリティはある。『グラン・ニュート』の動画はレシピ系の動画を検索すればすぐにおすすめに入ってくる程度に人気なので寮生活が始まった雄英での認知度は爆発的に上がっていた。男子も実際には自炊諦めたけどやろうとしなかったわけないからね。動画だけ見て料理した気分になるみたいな虚しい時間を過ごすことがヒーロー科の生徒にもあるんだよ。

 

「知ってくれてる人が居て嬉しいぜ。見てくれてありがとうな!」

 

 ぐっ! っと右腕の筋肉を見せつける。お菓子が完成した時にやる決めポーズだ。クラスメイトたちはただでさえ高いテンションをさらにアッパー調整してしまった。

 

「本物! 本物食べられる! すごい!」

 

「ニュアンスは分かるけど別に自分で作ったのは偽物じゃねえから!」

 

 芦戸は動画を見ながら作ったものではなく動画の本人が作ってくれたガトーショコラを見て「ハァ……本物!」とはしゃいでいる。ちなみにこれで芦戸はニワカなのが一部生徒にバレた。ガトーショコラのレシピ動画は出してないんだよね。まぁ言ってることは分かるしそもそも料理動画なので見てない動画があったところでニワカもクソもないんだけど。

 

「一人暮らし用の料理動画も最近出してるよな! 俺あれ見てちょっとやってみようかなって思ってるんだよなー!」

 

「ああ、雄英で寮生活が始まったって聞いたから何かの役に立つかなと思ってよォ」

 

「え!? めっちゃタイムリーとか思ってたけど……私たちのための動画だった!?」

 

 よくやった! それは俺の動画だ。少ない材料で手軽に作れる料理をお前に教える。視聴して正解だった!? お前の動画俺によく馴染むぜ。メスガキじゃんけんじゃんけんぽん。おれはパーを出したぞ。力道、ありがとうございました。

 

「すごい! いい人じゃん! 動画でも人が良さそうなとこ出てたけど!」

 

「まぁまぁ、俺の話より今日は新斗の誕生日だからよ、出来ればそっちをチヤホヤしてやってくれよ」

 

「でも砂藤くんが褒められるたびめっちゃニコニコしてるよ?」

 

 メスガキはまるで自分が褒められているかのように嬉しそうに身体をユラユラさせている。上機嫌な時のメスガキはツインテがふわふわしだすのですぐ分かるが、動作までふわふわしだすのは相当である。

 

「え? ……おお、マジだ……中学時代はもっとキレたナイフみたいな感じだったんだがなァ。感慨深いぜ」

 

「よけーなこと言わなくていいから! ボクは常に成長してるのっ!」

 

 メスガキは頭をぶんっと振ってツインテを砂藤の背中に「べちっ」と当てて抗議した。メスガキが特に信頼している相手によくやる幼稚な仕草に、一同は二人のこれまでの積み重ねを感じ取る。

 

「中学時代どんな感じだったん? 今と違うの想像できねえ」

 

 上鳴は入学当初からメスガキとわりと仲良く話しているのでキレたナイフ状態を想像できないようだ。

 

「そうだなァ、俺からするとクラスメイト全員が新斗の誕生日を祝ってくれてるなんてのは夢みたいな光景だぜ。こいつすげえ人付き合い悪かったからな」

 

「えー! 意外ー! めっちゃ人懐っこくない? 誰とでも仲良しに、あっ」

 

「あー……」

 

 最近そうじゃないところを見たばかりなのを思い出すクラスメイトたち。メスガキは誰にでも人懐っこいわけではない。それどころかむしろ偏屈で人の好き嫌いの激しいタイプだ。そういった面が今まで出てなかったのは雄英が世界最高峰と言っても過言ではない名門であるため、所属する生徒や教師も相応に人間が出来ていたからだ。

 

「俺ぁ別に仲良くねンだわ。うめェもん食えるっつーから待機してるだけだ」

 

 ただし雄英は毎年意図的にこの爆豪みたいな『問題児枠』を採用している。様々な考え方に学生時代から触れることも大切だと考えているからだ。各クラスに一人は居るように配置され1年だと物間もそうで、3年だともちろんねじれチャンがそれにあたる。メスガキ? こいつ入学前は雄英に『ウチで正しく導いてあげないとやべえことになるな』と思われていたのでこの枠じゃないよ。問題児枠は『ウチならこんな問題児も正しく導けるぜ』という自信であってメスガキみたいに「我々がやるしかない!」と高潔かつ悲壮な決意があったわけじゃねえからな。

 

「リノちゃんはとても優秀ですから、周りとあまり馴染めなかったというのは想像がつきますわ。その……少し烏滸がましい言い方になりますが、私も似たような経験はあります……」

 

 ヤオモモは幼稚園児のころから賢かったので周りからまぁまぁ浮いていた。周りの能力が最低限追いついて緩和され出したのは中学生になってからで、小学校にもあまり良い思い出はない。優秀な人物しか入れないような大学付属校の中にあってすら飛び抜けていたのだ。それに加えて内部進学組と外部受験組のあれこれとかもあったし、そもそも富裕層でヒーロー目指すってそこそこ異端だからね。掘須磨大付属高校にはヒーロー科そのものが存在しないくらいに。

 

「この子一回嫌うとすっごい根に持つからね……。小中で色々溜まってたんでしょ」

 

「なになになにー!? 吊し上げはんたーい! ボクの誕生日だぞっ!」

 

 響香の背中に飛びついて首に腕を回し不満を表明するメスガキ。中学の同級生が見たら悲鳴をあげただろう。あるいは、惨劇の予感に目を背けたかもしれない。だがこの空間では違う。砂藤も、クラスメイトも。『新斗黎乃が首を絞めようとしている』などという解釈はしない。その恐るべき怪力が頭を砕く場面を想像したりしない。ただ微笑ましさしか感じていない。だから、彼女もそうあれるのだ。

 

「おっとそうだな、主賓のおもてなししなきゃな。お詫びってわけじゃないが保存の効くお菓子も色々持ってきてるから皆さんといっしょに食べてくれ。それじゃあ俺はそろそろお暇するぜ」

 

「えー!? もう行っちゃうの? 来たばっかりじゃん!」

 

 ぴょーんと跳ねてメスガキは砂藤力道の服を掴んだ。これには一同びっくりである。響香に引っ付いたメスガキが能動的に離れることは非常に珍しく、大抵が響香本人に何か言われるまでくっつきっぱなしだからだ。

 

「おいおい、引き止めんなよ。友達の友達って気まずいだろ? それにお前と一緒にいると彼女がすげえヤキモチ焼くから勘弁してくれよ」

 

「ダシにしていちゃついてくる、の間違いでしょ~? 本気で思ってるわけじゃないって! もっと遊ぼーよぉ、皆が砂藤くんのケーキ食べて笑顔になるトコ見てって!」

 

「リノちゃんの友達なら私たちにとっても友達だよー! もっとお話しよーよ!」

 

「そうだな! 気まずいどころか欠けたピースが埋まったかのような安心感があるぜ!」

 

 やめろめろめろ電気めろ。どうした一体いい加減。何の話だ何なんだ。上鳴……上鳴……愚かな上鳴……お前は雄英入って半年……言動おかしさ目に余る……。

 

「ええと、帰りの時間もあるからそんなに余裕は無いんだけどそれで良ければ」

 

 シュガーマン(シュガーマンじゃない)は平日の放課後にメスガキの誕生日のためにわざわざ静岡くんだりまで駆けつけてきてくれたんだから無理言うなよ。

 

「むーっ! ボクが送れば一瞬だから! 先生もこの後来てくれるからそこで事情を説明すれば許可くれるはずっ!」

 

 メスガキにとってはスーパーハッピーイベントだが相澤が寮に来る=なんかお小言があるとほぼ同義なのでクラスメイトはちょっとたじろいだ。メスガキの誕生日を祝いに来るわけなのでお小言がないのは分かっているのだが、条件反射みたいなもんである。そして先生=イレイザーとミッナイが来るとメスガキは言ったつもりだったが誰にも伝わっていない。

 

「おぉ……そういや今年の雄英一年生は早めに仮免取ったとかなんとかニュースでやってたな。〝個性〟を自由に使えるんだったか? まぁそういうことならもう少しゆっくりさせてもらうか」

 

 砂藤のその言葉に真っ先に反応したのはメスガキ……ではなかった。芦戸だ。

 

「やったー!! それじゃあまずは彼女のこと教えてーっ!」

 

「まったくこりない悪びれない!」

 

「大丈夫? またリノに凹まされても知らないよ」

 

「やっぱ料理男子はモテるのか? どうなんだ?」

 

「それより人気配信者がDMでウンタラカンタラみたいなやつ実際はどうなのか知りてぇんだけど! オイラにこっそり教えてくれよ!」

 

 お誕生会を開いてもらっているメスガキを放置しての質問攻め。まぁゲストって点だと砂藤くんもそうだからな。当人は一通り質問に答えたあと、にこにこしているメスガキの方を見てしみじみと言った。

 

「……新斗、沢山友達ができて、良かったな」

 

「うん──っ!! ボク雄英に入ってほんっとーに良かったっ!! 砂藤くんのおかげだよーっ! ありがとう♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイトアイ! 資料まとめ終わりました!」

 

「ご苦労、バブルガール。……やはりミリオの報告にあった『キメラ』は敵(ヴィラン)だったか……しかし……」

 

「なんかやるせないですよね。犯罪歴見ただけで私かなしくなっちゃいました……」

 

 そこに書かれていたのはキメラのざっくりとしたプロフィールと犯罪歴だ。幼い頃に投石された反撃で大怪我を追わせたことで『保護』されたという一件から始まる転落人生。この時点で親に捨てられていたらしく児童養護施設に入ったが馴染めずに脱走。路地裏で野良犬のように生き、その過程で数多の犯罪行為を行い正式に敵(ヴィラン)となった。……彼が『異形型』だからだ。これに関しては差別云々の前に制度が狂っている。

 

「本当になんとかしたほうが良いと思いますね、この構造。私も他人事じゃないですし」

 

 センチピーダーも覚えがある。『異形型』はただそこにいるだけで〝個性を使っている〟扱いになるのだ。〝個性〟使用禁止のスポーツに参加することもできないし、様々な施設から入場を断られる。例えば銭湯。衛生面でのリスクの観点から断る場所はそれなりにある。例えば病院。理由は銭湯と同様。例えば銀行。表情が見えない〝異形〟はその他の一般人に比べて非常に面倒な手続きを要求される。これらは実際にどうかではなくただの気分で運営されている。〝個性〟は文字通り千差万別で、一律で清潔だの不潔だの言うことは出来ず毎回チェックなどやってられないからだ。

 

「異形型だとただの犯罪者が『敵(ヴィラン)』になっちゃう制度の欠陥ですよね」

 

 キメラは〝個性〟を使って攻撃をしている自覚がなかった。当然だ。彼にとって『使う』とは変身……自身に宿ったすべての動物の力を解放することなのだから。例えば電撃の〝個性〟を持つ人物が「ウェーイ! れいとうパンチ!」と個性を使わずに殴りつけるとただの暴行……普通の犯罪者だ。しかし『異形型』が同じことをするとどうなるか。『わおーん! かつあげパンチ!』と殴りつければ『〝個性〟を犯罪に使った』と見なされ『敵(ヴィラン)』と認定される。境界線が誰にも分からないからだ。ひどいときには肩がぶつかって相手が倒れ怪我をしたとかで『敵(ヴィラン)』扱いとなることすらある。

 

「彼が……『キメラ』が社会に打ちのめされた弱者から『敵(ヴィラン)』に変貌するまでの犯罪の流れを見ていると、ヒーローとは何なのかと考えさせられるよ……」

 

 幼い頃から生きるために窃盗を繰り返していたらしきことが資料から読み取れる。きっと『暴力は悪いことだ』と施設で教わり、最初はそれを守っていたのだろう……。10代半ばに差し掛かると体格が良くなり路地裏のチンピラたち相手に敵無しとなり、暴力に傾倒していく。能動的に他者を傷つけるようになり、警官だけではなくヒーローすら撃退した時、彼は『良い獲物』になった。倒せばヒーローの名が上がる『大物敵(ネームドヴィラン)』の出来上がりだ。複数人のヒーローに追い詰められ、あと一歩で『討伐』という状態となった時、局所的な暴風雨と激しい落雷が起こり包囲網は壊滅し、彼は逃走して捕まらないまま現在に至っている。

 

「……ただの勘だが……この落雷か暴風が『ナイン』なのかもしれんな」

 

「恩人を探している、ってことですか? ありそうですね」

 

 通形ミリオから聞いたキメラの人物像は『少し偏屈そうではあったが信頼する人間には素直に胸襟を開くタイプ』とのことだった。ナイトアイは「ミリオ自身の人柄のよさが対話に好影響だったのだろう」とドヤ顔分析しているが、聞けば聞くほど眉間にしわができる話だった。怒りではなく、悲しみで。通形から見たキメラはとんでもない敵(ヴィラン)には見えなかった、らしい。友人だという幼子を守ろうとする姿は『ヒーロー』と言われても信じてしまうような真剣さがあったとのことだ。悪い人には、見えなかったと。

 

「あるいは既に部下になっていてもおかしくないですね。ピンチを救われるってのはやっぱり強烈な印象を残しますし。何らかの事情で行方知らずになったから、ヤクザの人脈で人探し、と」

 

 キメラの犯罪はとんでもないやらかしというほどではない。件数がめちゃくちゃ多いので大変なことになっているだけで、路地裏のチンピラという範囲から一歩も出ていない。当然だ。彼はただ生きるために日々を過ごしていただけで、目的など特に無い……無かったのだろう。だが彼はただそれだけで『大物敵(ネームドヴィラン)』となった。『ヒーローを撃退できるような強さ』を持っているからだ。そんな彼に『目的』が出来てしまえば、どうなるか。恩人のために、友人のために。きっと『キメラ』は恐ろしい強敵となる。大した目的や動機がないチンピラは、すぐに諦めてしまう。しかし、義理堅い人物が他者のために戦うならば……殺人を避けなくてはならない『ヒーロー』にとって最も恐るべき存在、『死ぬまで諦めない敵(ヴィラン)』となるのだ。

 

「『シュガーラッキー』は……とっさの誤魔化しっぽかったらしいのでやっぱり『死柄木弔』なんですかね?」

 

 キメラの話はやればやるほど暗くなるので、必要な情報の共有は終わったとばかりに話が切り替わった。プリユアの新キャラみてぇな名前はサーがちょっと気に入っているので少しだけ雰囲気が明るくなった。辛気臭い雰囲気で話していては仕事に差し障る。この事務所は明るく楽しく、ユーモアを持って働くことがモットーだ。だって世界は、そうしないと辛すぎるから。

 

「おそらくはな。資金集めに奔走していたらしい『死穢八斎會』の関連組織の動きが唐突に鈍化した……『敵(ヴィラン)連合』により資金が提供されたと見るのが妥当だろう」

 

 ナイトアイは『妥当だろう』とか言ってるがまぁまぁ論理が飛躍している。最近起こった出来事だけ並べればそれらしいが、実際に関連しているかは分からないからだ。しかしナイトアイの『勘』は馬鹿にならない。センチピーダーはナイトアイがこのような根拠の薄い勘を元にした捜査から何度も本丸に行き着くところを見ているので、『予知』の〝個性〟が何らかの影響を与えているのではないかと思っている。百発百中とまではいかないので過信は禁物だが、捜査の取っ掛かりとしてはかなり上等である。

 

「……つつける部分はありますよね。治崎がエリちゃんという娘の保護者としてちゃんと振る舞えているとは到底思えません。あとその、和気あいあいとしていたらしい彼らに言うのもなんですが……不健全ですし」

 

 バブルガールは気まずそうに言った。親でも親戚でもない大人二人が6歳の幼女を連れ回しているのはまぁうん、色々言われちゃうよね。エリちゃんを含めた当人たちにとってはマジで余計なお世話なのだが。死柄木は年齢の無意味さを100年以上生きてるのに幼稚なままのジジイと倫理観ゼロの推定ジジイのゴミコンビのせいでこれでもかと叩き込まれてしまったし、キメラはぶっちゃけ情緒面では幼児と大差がない。エリちゃんにとっては初めて出来たお友だちであり、年齢を理由に引き裂かれてもヒーローへの不信感が生まれるだけである。

 

「そんな顔をして言うことではないな、バブルガール。問題視することも根本的には不健全なのだから、むしろ茶化したほうがマシだろう。ユーモアが足りないぞ。センチピーダー、例のものを」

 

 不健全なのは一部の邪悪な存在のために問題のないやり取りまで邪推される、しなくてはならない世界そのものである。永遠に邪悪な人間が存在しなくなればおじさんがJKと遊んでも何の問題もないことが分かるだろうか? 大多数の問題のない関わりを疑って傷つけたり不愉快にさせるデメリットよりも、疑わずに致命的な何かを見過ごしてしまうほうが害が大きい。だからこそ良い歳した大人は幼女と関わると猜疑と警戒の目で見られるのだ。

 

「え。まぁ持ってきますけど……アレ本当に使うんですか? 見せるためだけのやつじゃなかったんですか?」

 

 センチピーダーはナイトアイが持ってこいといった狂気の産物について今でもどうかと思っている。ストレスでイカれたのかな、と真面目に考え出しているくらいだ。元々は新しくインターン生が来るかも、ということでインパクトを与えるために準備したやつだった。だがその話は頓挫して未使用のまま御蔵入りしていたので安心していたのに。

 

「実際に使うためのものだ。なんだ? 不健全とか不謹慎とか言うつもりか? 全く嘆かわしい。コンプライアンスは大事だが、笑いとは元来不謹慎なものだ。誰かを傷つけるようなものは論外として、あの機械のようなギリギリの悪ふざけ(ユーモア)でほぐしていかねばこの固く冷たい世界に押しつぶされてしまうぞ」

 

「ユーモアではなくセクシャルな気がしますけど。まず拘束するのがヤベェでしょ。純度100%のセクハラをユーモアって言っちゃうのはどうなんですか?」

 

 昭和のおっさん上司かよってくらいやべぇよな。タバコスパスパしながら女性社員のケツ揉むみたいな。ほんとにそんなの居たのか知らんけど……。

 

「あのー、例のものってなんですか? 機械? 拘束??」

 

「全自動くすぐりマシーンだ」

 

「全自動くすぐりマシーン」

 

 21歳とは思えないすっとぼけたバカヅラで聞き返すバブルガール。

 

「その名も『TICKLE HELL』という」

 

「てぃっくるへる」

 

「バブルガール。ワクワクしちゃダメだって。君がハラスメント認定してくれないと正式採用されちゃう」

 

 どうなったかは皆さんご存知のはずです。上司に触られたらプライベートを丸裸にされる危険性がある職場でも働けるやべぇやつら。ミリオもバブルガール(南半球丸出し)も羞恥心薄いからな……。センチピーダーはとっても苦労しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイナマイト、よく来た。今日はお前に渡すものがある」

 

「あ? 渡すもの?」

 

 ベストジーニストの事務所でのインターンは職場体験とは打って変わってパトロールが中心だった。しかも爆豪をサイドキックのように二人きりで連れ歩くという手厚いにもほどがある対応だ。かっちゃんは内心大喜びをしつつ、ジーニストの貴重な教えを余すこと無く吸収してやるとやる気満々だった。

 

「ああ。これだ」

 

「手紙……?」

 

 そうして今回も意気揚々とやって来たのだが、ある種出鼻をくじかれた気持ちで受け取ったそれは『だいなまいとさんえ』と書いてある子どもからの手紙だった。

 

「前回のパトロールでお前が手を引いて交番まで連れて行った子どもからのものだ。申し訳ないがこちらで中身を検品させてもらったため内容も把握している」

 

「まぁそりゃそーか。……別に礼なんて要らねぇんだがな。プロヒーローはこういうのも僅かとはいえ『貢献』として計上できるんだしよ」

 

 手続きがめんどくさいので単品で報告するようなヒーローはよっぽどというか、今季の活動実績に書くもんがねえー! みたいな兼業ヒーローが報告するくらいである。

 

「ふっ……そうだな。そんな表情で言われても私は微笑ましいと思うばかりだが」

 

「ぐっ……」

 

 手紙をいつもの粗暴さをひっこめてそっと掴んでいるその手だけでもどう思っているかは丸わかりだ。ジーニストにとっても嬉しいことだ。職場体験の時点ではこういった手紙など破り捨ててもおかしくないレベルだったのだから。

 

「ついでにお前の熱心なファンは早速この事務所にインターンに来ていることを察知したらしいぞ? いくつか問い合わせが来ている。まぁ、実は職場体験の時もそういった声はあったのだがな」

 

「……あん時にそれ聞いても悪態をついただけだったろうな」

 

 かっちゃんには体育祭で出来たファンがそこそこの数いるのだ。まぁ押しかけてくるような厄介ファンはこのご時世少ないというか、学生に出来るファンは大抵が成長を見守りたい年上勢である。ぶっちゃけジーニストがその筆頭です。

 

「おっと、悪態の自覚があったのか? てっきり私は平常運転だと認識していると思っていたよ」

 

「学校でも散々言われてっからな。それ自体はまぁそうなんだろうなとは思うんだが、指摘してる本人もクソ態度だからムカつく」

 

「誰に指摘されているか理解ってしまったぞ。彼女のヒーロー名は確か……ホーリーナイト、だったか」

 

「っ……あいつ雄英の外でもそういう認識なんか、グプブ」

 

 かっちゃんはよほど面白かったらしく掌を口に当てて笑いを我慢しようとしたようだが、失敗してブププシシシとかいうくっそきしょい声を出してジーニストをビビらせた。すげえよプロのNo4が冷や汗かいてるぞ。才能マンはこんなところでも才能があるな(嫌味)。

 

「ま、まぁ彼女ほどのプロデュース力があればあの尊大な態度も『キャラクター』として受け入れられるだろう。……不本意かもしれんが、お前の目指すべきものもそれだ、ダイナマイト」

 

 ジーニストのメスガキのイメージは体育祭の宣言とオールマイトとの共闘くらいなので『野心家で尊大だが他者を立てることは出来る』くらいの印象なのでこういう言葉が出てくる。実際のそのイメージを上手く使ってインタビューなどでオールマイトのネガティブキャンペーン(微笑ましすぎて効果はいまいち)を行っている手法には感心していた。やりたいことも何となく分かる。「オールマイトがいない事など大したことではない」と人々を安心させたいのだろう。

 

「……ちっ。またあのクソガキに先を行かれてるってのか……」

 

「ふむ……そんなに気になるか? お前の先を行っているのは彼女だけではなく、私もだぞ」

 

「あ? あんたは……その……いいんだよ!! いいだろうが! 別に!!!」

 

 オールマイトに負けているからといって気にするのか? というメスガキの以前の問いかけを思い出し少し顔を赤くするかっちゃん。ジーニストがいつの間にかそういう位置にいることに気付かされてしまったのだ。ちなみに気にしていないわけではない。いつか勝ってやると思っている。目標として、敬意を持っている。かわいい。

 

「ふっ……ヒーローをやっていると常に感じるよ。私の行く先にはいつだってオールマイトが居た。例外は『ベストジーニスト賞』くらいだな、フフ」

 

 先を行かれていることはそもそも敗北なのか。ジーニストとしてはオールマイトよりチャートの順位が低いことなど気にしたことがない。ヒーローとしてやるべきことはチャートの順位上げではないからだ。聞いてるか轟炎司。ただ、もしオールマイトが今年の『ベストジーニスト賞』を取ったとしたら流石のベストジーニストとて平常心とは行かないだろう。

 

「……そういやオールマイトはとったことねぇな、『ベストジーニスト賞』」

 

 アメリカでは結構ジーンズを着用してた映像が残っていたので日本ジーンズ協議会もオールマイトの来日を楽しみにしていたのだが梯子外されたからな……。デイヴの作ってくれたヒーロースーツを彼とともに戦うんだとばかりにほぼ常時着用しているのでね……。たまに私服も目撃されるけどヒーロースーツのイメージが強すぎるのでノミネートされない。

 

「世間に知られている実績では『エンデヴァー』が『事件解決数』でオールマイトを上回っているな。おお、エンデヴァーはオールマイトの先を行っているじゃないか。何が言いたいか分かるか?」

 

「……一芸でいいから勝てって事か?」

 

「惜しいな。己の内に揺るがぬ経糸を通しておくべきということだ。不動の自信の源となるものがあれば勝敗そのものは根幹ではなくなる。重要なのは名前に込めた願いを達成することだ」

 

 あんまり惜しくないけど惜しかったことにしてあげるベストジーニスト。切り取る部分を変えれば勝利などいくらでも得られる。若さでオールマイトに勝ってるぞかっちゃん。でもそんなの嬉しくねえだろ? 他にもいっぱい居るもんな。大好きなオールマイトの特別な存在になりたいって素直に言え。

 

「その願いが『勝利』なんだよ俺ぁ! 勝ちてぇ~! 勝って勝って勝ちまくりてぇ~! オールマイトみてぇに!!」

 

 高校生とは思えない、いや逆に高校生らしいかもしれない幼稚な駄々のこね方をするかっちゃん。ジーニストに相当気を許しているらしい。結局こいつガキのまんまだからね。『オールマイトになりたい』とかいう小学校高学年くらいで『無理だな』『そうじゃないな』って気づくやつをいまだに追いかけているバカ犬。追いかける能力があるのはむしろ哀れなことだ。両親が息子の優秀さに無邪気に喜んでいられたのは最初だけである。

 

「うむ。願いを素直に口にするようになったな。では問おう。お前にとって勝利とは何だ?」

 

「そりゃあ……相手を徹底的に打ちのめすことだろ……」

 

「ふむ。まだ私には話したくないか?」

 

「あークソが! お見通しかよ!! ……俺ぁ昔っから優秀だった。年上のやつには一時的に負けることもあったが……最後には必ず勝ってきた。……昔はババアもそれに喜んでたんだが……」

 

「ご年配の女性をそのように言うものではないぞ……いや、文脈からするとご母堂なのだろうが……ダイナマイト、お前まさか……母親をババア呼ばわりする事がかっこいいと思っているのではないだろうな……?」

 

 呆れた目でかっちゃんを見つめるジーニスト。クソのドブ煮込みっちゃんはバツの悪そうな顔になってジーニストから目をそらした。

 

「……かっこわりぃな……でもつい出ちまうンだ……話を戻すが、いつからかバ……オフクロは俺が勝っても喜ばなくなった。俺ぁただ勝つのに飽きられちまったんだと思って頑張った……」

 

「それはまた……ご母堂も複雑だったろうな。自分の関心を惹くために頑張る息子を、喜びと申し訳なさで見ていたことだろう」

 

「そうなんだろうな……あんたが概要を聞いただけで分かるようなことが、俺ぁ分かんなかった。色々やったンだ。スポーツだのゲームだの勉強だの……全部うまくできた。けどオフクロは喜ばなかった」

 

 かっちゃんママが全然褒めなくなったのでかっちゃんパパが頑張って褒めるようになったが、目の前で見た母は褒めずに、伝聞の父が褒める構図はかっちゃんにとってはあまり嬉しいものではなかった。

 

「心配していたのだろうな。何でも出来るということは何にも執着が生まれないと言うことだ。うわべの勝利を重ねながら、お前は真に欲しいもの……『家族の喜び』という勝利を、得られていなかったということか」

 

「そうだな……それに執着するものはあったんだが……それもマズかったんだろうな……」

 

「ほう。……ずいぶんと話しにくいことのようだな。羞恥、慚愧……恐怖? ふむ……?」

 

 痛みを堪えるような表情。ただ事ではないと思ったジーニストはしばらく黙り込んだ爆豪を急かさずにじっと待ち続けた。ややあって話し始めた爆豪は、まさに罪人のような顔をしていた。

 

「………………俺にはデク……緑谷出久っつー幼馴染が居るんだが……そいつを……いじめてた」

 

「なんと……正直今日一番意外な言葉が出てきたな。お前がそういうことをしそうにない、とまでは思わんが……自覚を持ち、あまつさえ言葉ではっきり認めるとは」

 

 ジーニストが驚いたのはそこだった。ぶっちゃけいじめをしていたのというのはジーニスト的には「でしょうね」という感想しかない。いかにもそういうことをしそうなクソガキそのものだと思っていた。まぁこれをジーニストにはっきり言われるとそのまま羞恥で死にそうな顔をしていたのでちょっとぼかしてあげたが。

 

「叱らねえのか……? あるいは、失望されてもしょうがねえと思ってる……」

 

「お前が悪びれず自慢気に話していたら失望したかもしれんな。だが、もう忘れたのか? 私はそもそもお前を『矯正』するために指名したのだぞ。お前がその苦しみを乗り越え、良き色のデニムに育っていけるように私も言葉を尽くそう」

 

 そう、ジーニストはだからこそ自分の元へ呼んだのだ。「もったいない」と思ったからだ。傷も汚れも、手入れをすれば美しさに変えられると、変えてみせると決意して彼を招いた。

 

「…………」

 

 ジーニストをじっと見つめる爆豪。その瞳にあるのは言葉にすら出来ない感謝だ。謝りたいと、感じている。まさにそういった心地だった。

 

「おそらく客観的に見れば「いじめ」だったのだろう。そうでなくてはお前がそのように表現するはずもない。しかしお前と緑谷出久の間の認識でもそうなのか?」

 

「……?」

 

 不思議そうにジーニストを見返す爆豪。自分の認識は既に話したと思ったが、ジーニストはそこにも疑問があるらしい。緑谷出久がどう思ってるか、については爆豪も分からない。例の件以降、クソナードを理解など出来た試しがないからだ。

 

「お前を見ていると到底そうは見えないというか……」

 

 ジーニストは言葉を濁した。これをはっきり言ってしまえば爆豪勝己は再び心を閉ざしてしまうのではないか。『まるでお前のほうが被害者(はいぼくしゃ)のように見える』などと。

 

「お前たちはどのような関係性なんだ? 何がきっかけでそうなった? 言語化してみるがいい」

 

 なので爆豪勝己の賢さに賭けた。おそらく言葉にして他人に話したことはないはずだ。悩みは話すだけで解決することがある。これはよく『悩み事は本人が最初から答えを知っているから聞いてあげるだけでいい』などと言われるが正確ではない。『言語化する事により考えが整理されたことで思考がまとまる』のだ。言葉として出力されたことで客観視出来るようになる、つまり『話したことにより答えを得る』のである。

 

「……昔は……仲良かった……と思う。一緒に近所の森に探検しに行って……俺がいわゆるガキ大将だったから……先頭を歩いて……あいつを含めた幼馴染が全員ついてきてた」

 

「……そういえば『緑谷出久』は雄英生に同名のものが居たと思ったが……すごいなおまえたち。なかなか聞かんぞ。幼馴染同士で雄英高校入学か」

 

 すっごく珍しいんだけど実は3年の通形と天喰もそうなんだよね。ジーニストもかっちゃんもそんなこと知らないから話題に出ないけど。

 

「妙なトコに反応すんなや。つーかそれも俺は苛ついてんだわ! あいつが居なきゃ俺の中学から唯一の雄英高校合格者として箔が付いたのによ!」

 

「幼馴染と二人で入学、のほうが圧倒的に箔が付いてるぞ、ダイナマイト。プロデビューしたらメディアに擦られまくるだろうな。……話を続けてくれ」

 

「あんたが脱線させたんだろが……森ん中には川があった。今見りゃあ大したことねーんだろうが、ガキだった俺達にとっては流れでえぐられたそれは断崖絶壁で、そこには倒木の丸太橋が掛かってた」

 

 あまりネガティブになりすぎないように追い焚きしてあげているのだがまだまだガキンチョのかっちゃんには分からなかったらしい。かっちゃんはこの件以降くだんの場所には近づいていないので曖昧な認識だが、大人でも落ちれば怪我をする高さである。というか高さが1mあれば人は死ぬ。「1mは一命取(いちめいと)る」だ。

 

「……まさか渡ったのではないだろうな……」

 

 聞いているだけでハラハラするジーニスト。その場に居たら全員強制的に〝個性〟で引っ張って連れ戻しただろう。

 

「そのまさかだよ。俺達は探検隊だ、とか調子に乗って意気揚々と丸太橋の上に乗って川を渡り始めた。倒木はマジでデカかった……直径は当時の俺の身長の二倍はあったと思う……だから普通にしてりゃ落ちようがねえレベルだったんだ」

 

「褒めるわけではないが、最低限の分別はあったようで安心したぞ」

 

 せめてもの良かった探しである。話せば話すほど死にそうな顔になっていく爆豪のメンタルを気遣ったのだ。

 

「るせぇ……当時の俺は〝個性〟が発現して調子に乗ってた。だから意味もなく掌で爆発を空撃ちしながら歩いていた。だから、バランスを崩して落っこちたンだ。幸いガキの体重の軽さとそれなりの水深があったこと、岩なんかも無かったことで俺は無傷だった」

 

 肉体的には無傷だった。しかしこれはかっちゃんのその後の人生を決定づけたレベルでのやらかし……文字通りの『自爆』となった。

 

「幸運だったな。死んでいてもおかしくないシチュエーションだ」

 

「そうだな……俺の幼馴染たちは心配しなかった。俺が強ぇって知ってたからだ。早く上がってこいとか囃し立ててた。だが、デクだけが違った。あいつはすぐに降りてきて服が泥で汚れるのも構わずに俺に手を差し伸べた」

 

 その瞬間、爆豪勝己は嫉妬で全身が灼けつく音を聞いた。懸賞で当てたと自慢していたオールマイトのTシャツ。発売したばかりのオールマイトコラボの半ズボン。オールマイトデビュー25周年に限定販売されたスニーカー。どれも内心羨ましいと思っていたそれが泥まみれになることを、緑谷出久は一切気にせず爆豪勝己だけを見ていた。

 

「幼いながらもヒーローの片鱗を見せたわけだな」

 

「あんた要約がうめェな……ガキの俺は差し伸べられた手に『安心』しちまった……そしてそのあと猛烈な羞恥心と……恐怖心が湧き上がった」

 

 こいつがいる限り俺はNo1に、オールマイトみたいになれない。ストレートに言語化するとそういうことだった。爆豪勝己は緑谷出久のヒーロー性に完全敗北したのだ。

 

「俺ぁ……勝てねぇって思っちまった! かっけぇって思っちまった! イキって川に落っこちたダセェ俺と、それを助けるために躊躇わず川に降りてきたあいつ! 誰がどうみても! 俺じゃなくて、あの何も出来ねえデクのほうが! ヒーローだったんだ!! あいつが居る限り俺はずっと、負け犬のままなんだ……!!」

 

 ガキ大将のメンタルはずたずたに引き裂かれ関係性は決定的にこじれた。絞り出すように叫んだ爆豪をジーニストはじっと見つめたあと、少し落ち着いたタイミングを見計らって声をかけた。

 

「お前から見た緑谷はどんな人物だ? 雄英高校に受かっている以上、お前のいじめによって精神が曲がった、等ということはなさそうだが」

 

 実際になんの影響もなかった、とジーニストは思っているわけではないが、雄英に一緒に入れる程度の影響なのだろうとちょっと甘く見てる。プロにあるまじき楽観である。とはいえこんなに短期間で劇的に成長したかっちゃんから逆算すると「ワンチャンダイブ」とか想像できるはずがないと言うか、想像できたらエスパーである。洞察が深いがゆえの勘違いだ。まぁワンチャンダイブ自体はかっちゃんも内心言い過ぎたと思ってるからな。クラス全員が緑谷出久の雄英高校受験を笑う中ただ一人笑えなかったかっちゃんの内心は焦りと恐怖でいっぱいでかなりラインを踏み越えている。だからこそ友人だけの場では作り笑いも消え、「流石に今日のはやりすぎ」という正当な指摘を爆破での脅しで返してしまった。

 

「……全然変わらなかった。昔のままだ……俺がやったことなんてあいつに何の影響もなかったンだ……」

 

 実際そんなことは全然ないんだけどこいつもこいつで脳内で肥大化したクソナードにビビり散らかしてるからな……。まぁかっちゃんが負けた! って思った『自分を勘定に入れない』部分はマジで何も変わってないから完全に勘違いってわけでもないんだけど。つーかこのクソボケ男はまだ自分が緑谷にガキ大将として慕われてると思ってる節すらある。過大評価だから。自分にも緑谷にも。普通に嫌われてるんだけどクソナードはそういうのあんまり態度に出さないし、嫌いなやつが相手でも困ってたら助けるし、頼み事も普通に聞くから勘違いしてもしょうがないんだけど。「かっちゃんはすごいなあ」みたいなプラス評価もそれはそれ、と言わんばかりに持ってるし。

 

「そうか……言語化してみてどう思った? 今の率直な思いを聞かせてくれ」

 

「……だっっっっっっっっっっっっせぇええええええ!!!! なんっっっっっだこのクソボケカスは! 聞いててイライラするわ!!!」

 

 ボン! と両腕が爆発する。他人事として見れば本当にくだらない。素直に負けを認めて態度を改めるべきだろ! としか言いようがない。緑谷出久に勝ちたいなら率先して人助けに動くよう心がけるべきなのだ。それを相手をいじめて遠ざけようとか、あわよくばヒーロー諦めろとか、本当にみみっちくて幼稚。さらに救いようがないことにかっちゃんは緑谷出久に甘えていた。こいつは俺より心が強ぇから何言ってもいいや、みたいな。ワンチャンダイブだって本当に飛ぶなどと一ミリも考えていない。だから言えたのだ。きっしょ……。

 

「だろうな。恐怖と敗北感は今もなおその身を苛んでいるのか?」

 

「……多少はな……クソデクのほうがすげぇッて思うことは今でもたまにある」

 

 まだちょっと強がってる。だって爆豪勝己は常に敗北してるというのが自己認識なのだから。だからこそ勝ちたいのだ。負けているままだからこそ、勝利への渇望が尽きることはない。

 

「ではそんな自分にかけてやりたい言葉を言ってみるがいい」

 

「くっだらねえこと気にしてんなクソカス!! てめぇはンなどうでもいいことで足踏みしてる暇あんのかボケ! 思い上がりも大概にしろ!!!」

 

 他人事だったらもっと早く気付いただろう。無様すぎる有様に溜息しかでない。一体いつまでガキンチョの頃のワンエピソードに執着しているつもりなのか。

 

「言えたじゃないか。聞けてよかった。では私からもアドバイスだ。お前には2つ、したほうがいいことがある。まずひとつめ。『喧嘩』をしろ。お前と緑谷出久でお互いの不満をはっきりと言い合うといいだろう。腹に溜まっているものを曝け出すんだ」

 

 雄英生だからそのくらい出来るだろう、と会ったこともない、しかし自身の後輩でもある緑谷出久にも期待する言葉だ。ゴミカスだったバクゴーにいじめられてもヒーローを目指し雄英にまで受かったガッツを高く評価していると言える。全部かっちゃんからの伝聞な上にかっちゃんに勝ってると聞いてるので実態よりタフなやつをイメージしちゃってるんだよね。なにっ。まぁ実際どちらにとっても良い影響があるだろう。

 

「……やってみる。ふたつめは謝罪だろ? ……そっちは分かってる……」

 

「いいや。謝罪はする『べき』こと、通す『べき』筋だ。分かるだろう? つまり私から言える『したほうがいい』事のふたつめは謝罪ではない」

 

 謝罪はしなくてはならないことであってやったほうがいいよ、みたいな助言ではない。ジーニスト的には言わなくても謝罪する気だった爆豪が可愛くてしょうがないが、頑張って真面目な顔を作ってアドバイスを続ける。

 

「……謝罪じゃねえのか? それじゃあ何なんだよ……?」

 

 ジーニストが言うことならばなんだってやるつもりだった爆豪だが、出てきた言葉にすぐには頷けなかった。

 

「喧嘩をしたあとにすることなど決まっているぞ、ダイナマイト」

 

 ビシッとポーズを決めてジーニストは言った。

 

「『仲直り』だ。私はお前がこの件を消せぬダメージ加工のような『罪』としてではなく、味わい深い色落ち……『友との思い出』に昇華出来ることを祈り、願っている」




独自設定とか

・ハッピーバースデートゥーユー:パブリックドメイン。
・遅生まれアド:特に幼い頃はクソデカアドバンテージ。
・例のBGM:ヒロアカの動画でも見て好きなやつ思い浮かべてください。
・メスガキじゃんけん:勝っても負けても、まあ楽しかったらいいじゃないか。いい1日にしろよ!
・掘須磨大付属:色々捏造。
・欠けたピース:うるせぇシュガーラッシュぶつけんぞ!
・仮免:砂藤は自由に使えると思ってるけど許可が出やすいだけで本来は対敵限定。
・異形型お断り:都会じゃほぼないけど田舎じゃ全然ある。
・敵認定:敵(ヴィラン)◆個性を使い社会と敵対する者の総称。
・くすぐりマシン:初登場のインパクトのためだけに出てきたやつと思われるので作中での理由もそういうことにした。
・羞恥心:バブルガールの服マジすげえわ。
・迷子の手を引くっちゃん:メスガキへの逆張りで戦闘しかできねえなんてダセェよなと自己防衛してる(笑)。
・お手紙:悪態ついてるけどクッソ喜んでる。大事にカバンに直した(九州の方言)。
・ブププシシシ:マボロキくん見たときのやつ。
・かっちゃんのいじめ:相当執拗だったと思われる。遠ざけたいとか言ってたけどお前から絡んでるだろ!!
・マイトTシャツ:シャツはオールマイト関連のもので間違いないと思うけどズボンと靴は捏造。
・何の影響もなかった:虚像のクソナードに脳内敗北しまくってるためこういう認識。
・ジーニスト:被害者の心情もあるので軽々しく「許してもらえる」とか「大丈夫」とか言えないのでちょっと曖昧な態度。片方の伝聞しか聞いてないのもある。とりあえず現状は爆豪の言葉を信じているのでクソナードを実際よりつよつよメンタルな感じにイメージしてしまってる。
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