ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「おい黒霧。戻せ。まだ話の途中だっただろうが」
「危険すぎます。オールマイトにプロヒーロー複数。詳細不明の物理無効の〝個性〟の子供。あのままあそこに居ればどうなったことか」
『ワープゲート』で撤退してきた彼らが居るのはとある地区にある隠れ家的バーだ。ちなみに客足はない。宣伝もしていないから当然ではあるが。黒霧は一応客が来たときのために最低限の知識だけは学んでいるが、披露できる日はまだ来ていない。
「お前が邪魔しなきゃあのガキをぶち殺せたんだが?」
「安易な判断は危険です。無効化の仕組みが不明な以上、あなたの『崩壊』が通用するかわからないのですよ」
「……」
黙り込んだ死柄木にパソコンのモニターから声がかかる。
「どうだった、弔。その様子だとあまり上手くいかなかったようだが」
「先生。……あんたって俺の何の先生なんだっけ?」
モニターの向こうにいるのは『先生』と呼ばれる男。一体何ール・フォー・ワンなんだ……。
「うん? そりゃあ人生のじゃないか。僕がずっと導いてきてあげただろ? 何もかもを壊したい、という君の望みを叶えるためにね」
「そんなことより脳無はどうしたんじゃ。あれはなかなかうまくできた逸品なんじゃが」
モニターの向こうに居たのは一人ではなかったらしく、先生と呼ばれた男とは別の声が話に入ってきた。その声に黒霧が答える。
「謎の〝個性〟に拘束され無力化されました。回収は不可能です。『ワープゲート』は脳無だけを回収できるような都合の良いものではありませんからね。詳細不明の〝個性〟も一緒に来てしまう」
「そんなこと、で流される俺の人生ってなんなんだ? クソガキにコケにされてすごすご逃げ帰ったあげくここでも馬鹿にされるのかよ。最悪だ。
黒霧に話を中断され苛ついていた死柄木は、またしても話が中断されたことでさらに気分を害したらしい。あからさまにすねた態度ですたすたとカウンター奥の自室に向かって歩いていく。
「なんだい弔。哲学に興味があるのかい? いい本を紹介してあげようか……っておーい。あーあ、ドクター。今のはまずいよ。どうもオールマイトじゃなくて生徒に負けたみたいだな。その上五体満足なのに鬱憤晴らしに選んだのがネットゲームとは。戦略思考の養成と息抜きを兼ねてゲームをやらせたのは失敗だったかな」
最初は普通の据え置きゲームを与えたが、ムキになってくると五指で触れてしまいコントローラーが崩壊しまくった。それを通して「自分のための『道具』は壊しちゃダメだよ」と教えた。『先生』はそれを思い出してニヤニヤする。微笑ましさではなく嘲笑だ。癇癪を起こす『アレの孫』が面白かったのだ。人間のクズ!
「まぁ
これはあくまでゲームの何たるかを分かっていない時代遅れのおじさんの個人的な感想であり、
「すまん、先生。ワシが教育の邪魔をしてしまったようじゃな。しかしあのオールマイト用に調整した脳無を無力化とは、気になる〝個性〟だのう」
「オールマイトに勝てれば良し、敗北しても更なる憎悪を燃やしてくれる予定だったんだけど……思ってたのと違う感じになっちゃったな。黒霧、弔が負けたらしい『クソガキ』はどんな子だった? ワンチャンオールマイトの隠し子だったりしない? 彼の弱体化は確認できたかい?」
オールマイトが今年になって唐突に雄英の教師になった理由は『先生』も色々と勘ぐっているようだ。『隠し子を見守るため』というのはその推測のうちの一つである。実際後継者が今年入学している。どうかしてるぜ、オールマイト。そんな露骨なこと僕のライバルがするはず無いよね、という過大評価で『後継者がいるから』という可能性は低く見積もられているがそれも長続きしないだろう。生徒たちも「あっ……」ってなってるので。
「小柄な女生徒でした。教師かつプロヒーローである『イレイザーヘッド』の敗北を見ても全く臆しておらず、脳無の攻撃を何らかの〝個性〟で完全に無効化。彼女の〝個性〟だと確定はしておりませんが、黒い帯のような何かを操って脳無を拘束、宙に浮かべ完全に無力化。そうしている間もずっと死柄木弔と聞くに耐えない幼稚な口喧嘩をしていましたね。容姿は銀色の髪に可愛らしい顔で、オールマイトには似ておりませんでしたが、母親に似たのかもしれませんので隠し子かどうかはなんとも。弱体化については、オールマイトは戦闘しませんでしたので確認はできておりません」
「……黒い帯のような何か、と言ったね。どんな感じだった? こう、エネルギーのような見た目だったんじゃないか?」
「言われてみればそんな気もしますね。ラメ入りの黒い絵の具を空間に塗った、という表現が一番近いでしょうか? キラキラしていました」
「ふむ……いや、まだ結論を出すには早いか。口喧嘩の内容と状況を掻い摘んでくれ」
「はい。まず前提の話ですが、オールマイトは当初あの場所には居ませんでした。とりあえず予定通り生徒を『ワープゲート』で散らしたあと私は13号との戦闘に入ったのですが、仕留めそこねてしまい、生徒を一人施設外に逃がしてしまったのです。救援を呼ばれては撤退に支障が出るため、直ぐに死柄木弔に報告に向かったのですが、彼は私の失敗が気に入らなかったらしく、しばらく私に説教をしました。そしてようやく撤退の決断をしてくれたのですが、そのタイミングで件の女生徒が空から降ってきました」
「ほぉ。飛行能力か、あるいは跳躍したのか。跳躍だとするとオールマイトみたいじゃのう」
このご時世誰も彼もがオールマイトを意識する。それはヴィランの老人であっても例外ではない。今を生きる人々の心に鮮烈に焼き付いているのだ。
「彼女は大声で、逃げるな卑怯者、といった趣旨の言葉を我々に投げかけました。死柄木弔は戦略的撤退だ、と言い返し、そこからはちょっとあまり良く覚えていませんが、とにかくすごく幼稚な口喧嘩となり、その最中に死柄木弔が脳無を彼女へとけしかけました。攻撃は顔面にクリーンヒットしたのですが、彼女は微動だにしませんでした。これが『物理無効』と推測した根拠です。頑丈なだけなら吹っ飛ぶはずですから」
「脳無に与えた『ショック吸収』も似たような挙動をするから、妥当な推測だね。僕が持ってる『吸収と解放』のダメージなしの上位互換か? それなら大ジャンプ(仮)の説明も付くな。黒い何かは別人の〝個性〟か、あるいは複合〝個性〟持ちか……おっと、続きをよろしく」
「吸収ですか、ありえますね。そう言えば着地の際や、脳無の攻撃が彼女に当たっても無音でした。ともあれ彼女は脳無の攻撃をしばらく完全無視していました。異様な光景でしたが、死柄木弔は彼女の謎の〝個性〟にも全く怯まず、その最中も貧乳がどうとか、俺は女に興味がないとか、そういった低俗な内容の言い争いをしていたら、オールマイトが遅刻して到着してきました」
「大方弱っているところを無理して来たんだろうな。傍証はいくらでもあつまるんだが……」
「件の生徒はかなり腹を立てたようで、死柄木弔との口喧嘩を中断し、オールマイトを責め立てました。何故予定通りに行動していないのか? 新任という立場に甘えているのか? No1ヒーローの立場に驕っているのか? といった内容でしたね。私が来た、じゃないでしょ。遅刻してごめんなさいでしょ? と言い放ったのはかなり印象に残っています」
「それはまた……すごいのぉ。
「ぷくく……んんっ、いや、ごめん。その娘とは気が合いそうだな」
「そうですね。あるいは死柄木弔もそう思ったのか、彼女の発言に同調して一緒にオールマイトを責め立てました。その際に言ったワードの何処に引っかかったのか、彼女は死柄木弔にこう言いました。救けてあげようか、と」
「…………」
梅干しみたいなおじさんは梅干しが酸っぱかったのかむっつりと黙り込んだ。一体何を考えているのだろう。
「死柄木弔はそれに激昂……なんでしょうか? とにかく激しい反応を見せました。いつの間にか脳無が拘束されており、先も述べた通り宙に浮かべての無力化をされていたので、返せとか返さないとかその際に漏らした『先生』というワードに反応されたりだとか、チートはずるいだとか、そういう話が続きました。そしてその最中に出た死柄木弔の、お前は人間じゃない、というワードに彼女が反発し、もう救けてあげない、嫌なら謝れ、と叫んだあたりで教師陣のプロヒーローが駆けつけてきたので、限界だと判断し強制的に撤退しました。以上です」
「大体分かった。まいったな、本当に大失敗じゃないか。表向きの作戦失敗自体は全く問題ない……というより襲撃を実行した時点で目的達成なんだが、僕の本当の目的であるオールマイトの戦力確認と弔のオールマイトへの敵愾心を増幅する、が達成できなかった上に、弔の僕への信用もだいぶ落ちたぞ。『次の僕』にする計画が危うくなってきてる」
「そこまでかのぉ? いや、ワシがやらかしたから言ってるんじゃないぞ」
「ああ、非常に良くない状態だ。弔は帰ってきた時「話の途中」と言っていただろう。演説でもしていたのかと思ったら、口喧嘩だって? まだ『話』がしたかった、ってことだぜこれは。黒霧、ファインプレイだったよ。もし件の娘が『崩壊』までも無効化出来たとしたら計画は破綻していたかもしれない」
「それは、何故でしょう。殺せない〝個性〟が居たところで、奪ってしまえば良いだけでは?」
「究極的にはね。とはいえ直接触れないといけないから無効化の仕組みによっては奪えないんだが。ついでに〝個性〟を奪うのはノーリスクじゃない。人格に影響するような〝個性〟も少なからずある……というか全ての〝個性〟にそういった要素はある。僕はそれを強く感じることができる。〝個性〟は『使わずにはいられない』んだ。それに」
『先生』は少しもったいぶって重々しく言った。
「僕の経験上、これは非常に良くない出会いだ。バカバカしく聞こえるかもしれないが、弔は『恋』をしてもおかしくなかったんだよ」
飛び出してきたのはまさかの恋バナである。いい歳したジジイ×2、動く死体×1でやる話ではない。この組み合わせは悲しいな……。
「はぁ? なんじゃそりゃ。いや、年頃じゃしありえんとは言わんが。よしんばそうなったとして、それが何故計画を破綻させるんじゃ?」
「恋ほど人を狂わせるものはない。僕はそれ……『狂人』に何度も計画を狂わされてきたんだ。分野は違うが、オールマイトもイカレ野郎だろ? いや、アレも『平和に恋をしている』と言えなくもないな。仮に件の娘が『崩壊』しなければ、弔は『期待』してしまう。もしかしたら自分を受け入れてくれるかもしれない、という具合に」
「理屈は分かるが、そうなると何がまずいんかの? ……あれが一人で何かできると思えんから、制御は出来ると思うが」
「『ロミオとジュリエット』だよ。恋は障害が大きければ大きいほど燃え上がるものだ。僕もMMK(モテてモテて困っちゃう)だった頃があるから多少は分かる。とある女性が『魅了』という〝個性〟に困っていたからそれを貰ってあげた時の話なんだが彼女は僕に」
「大変興味深いお話の途中で恐縮ですが、死柄木弔にどう関係が?」
「……弔にとっての僕が『モンタギュー家』になってしまえば、『彼の生家』のように僕を壊したいと思うのも時間の問題だ」
「すみません。分かりません」
AIみたいな返答にちょっとイラッとしたおじさん。長生きしているが人間的には未熟である。ふー、と溜息をついて心を落ち着けると再び話し始める。
「簡単に言うと、僕の庇護を巣ではなく檻と思われたら困るってことさ。弔は今ゲームをしながら考えていることだろう。次会ったらどんな反論をしてやろう、とか、あいつがこう来たらこうしてやる、とかね。これがオールマイトだったら問題ない。むさい筋肉のおっさんのニヤケ面なんて思い出すだけでムカつくだろうからな。だが可愛らしい少女だとどうなると思う?」
「なるほどの。寝ても覚めても異性のことを考える。それが最初は憎しみであったとしても、何時変わるか分からんっちうことか。恋愛なんぞ脳の勘違いでしかないしの」
「ああ。心理的リアクタンス……人間は禁止されるとやりたくなる習性があるし、弔は人一倍それが強い。こちらがなにか言えば逆効果だろう。最悪は『崩壊』が効かないことを確認してしまった場合だったが、中断された会話の流れもあまり良くない。弔は思考の中でいつか考える。『謝ったら救けてくれるのかな』とね」
果たして死柄木弔は本当に恋をするのか? 梅干しみてぇなおじさんの恋愛論はどの程度あてになるのだろう? この場には「お前の恋愛観ってなんか昭和だよな」と突っ込んでくれる人は居ない。唯一それが出来た死柄木弔は今自室でイライラしながら暴言チャットをしている。彼の破壊衝動は高まるばかりで、メスガキのことなどすっかり忘れてランク戦に必死であった。『先生』はLoLの闇と中毒性を侮っていたのだ。負けたときにGG(グッドゲームの意。捻くれ者以外は楽しかったよ、お疲れ様、的な意味で使う)って言えないゲームはプレイ辞めたほうがいいと思うよ。
ヴィランのUSJ襲撃の翌日。は臨時休校になったので更に翌日。あいも変わらずメスガキが時間ぴったり(ギリギリとも言う)に教室に入ってきてクラスメイトたちに宣言する。
「おはよー諸君っ! 可愛いボクに会えるはずの日が急に一日減っちゃって皆可哀想っ! からの~? ハイ! ボクのとびっきりの笑顔だよ~っ! 取り戻せてよかったねっ!」
「朝からうるせぇ! 黙れクソガキ! 死ね!」
「ふふっ。そんな事言っちゃって~。誰よりも早い即レス。ボクじゃなきゃ見逃しちゃうね、そのほっぺたの赤み! ちょっといいじゃねえか……そう思ったんだろ? 素直になれよ! 男のツンデレはモテないぞっ!」
「ねぇわボケ! 俺の好みはボン! キュッ! ボン! だからてめぇは落第だ!」
「へぇ~~! そっかそっか、キミはそういうことを言うやつなんだなっ! その照れ隠し、後悔するぞっ! この可愛いボクとの未来の可能性をたった今キミは爆破したんだっ! ばーか! 童貞!」
「爆豪って童貞なの?」
当然のごとく童貞である。顔の作りもいいし、こういう俺様系はそれなりにモテるものだが、爆豪は行き過ぎているので同世代の反応は悪い。さらに緑谷に対する態度もアレなので、中学生時代の女子からの評判は「何でも出来すぎてイヤ」「女殴りそうな顔じゃないけど殴りそう」「みみっちい」「ホモ?」「ホモ!!」などと散々であった。しかし憧れのオールマイトも童貞だから爆豪のような『オールマイトはなぁ! スケベなことなんてしねえんだよ! なんか不思議なパワーをズムってして子作りするに決まってんだろ!』的な本人の幸せを願えないクソ下水煮込みファンも安心だ。
「かっちゃんはバレンタインチョコを一度も貰ったことがないくらいモテないんだよ」
「きっしょ。なんで知ってるんだよ」
上鳴が言ってしまった。こいつきっしょ、というのは皆思ってたけど言わなかったことだ。しかしついにラインを越えてしまった(どっちがライン越えしたかは諸説あり)。
「なんでそんなこと知っとんだクソナード!! きめぇわ!」
「お前らの関係性自体なんかキモい。お互いへのその執着なんなの? ホモの痴話喧嘩?」
そう言ったのは『テープ』の〝個性〟を持つ『瀬呂 範太』だ。一度箍が外れると堰を切ったように本音が飛び出す。俺達思ったことをなんでもすぐ言っちまうんだ、爆豪ちゃん。
「ふっっっざけんなしょうゆ顔!! 殺すぞ!」
「僕は普通に女子が好きだから……かっちゃんが女の子だったら良かったのに」
ぞわっ。爆豪は青い顔になり大量の冷や汗を流した。これほどの恐怖はヘドロ野郎に纏わりつかれたときですら感じなかった。悪態が出てこないを通り越して呼吸が上手く出来ない。真の恐怖とは日常に潜み、ふとした瞬間に顔を出す。軽い冗談からむしろホモであってほしかったレベルの闇深い言葉が出てきてしまい、止めようと近寄ってきていた切島も固まっている。教室の空気がめちゃくちゃ変な感じになりかけたところに、救世主が現れた。
「分かるぜ緑谷ァ! 爆豪が女になったら絶対エロいよな! きっと爆乳だぜ!」
峰田実。TS(ハーメルンだと一般性癖)にも理解がある男。緑谷が女になっても胸がデカそう、とかも考えていて、楽しい妄想で夢いっぱいである。あ、そういう……という感じで上手いことクソナードのエロ妄想という結論になりかけたが、緑谷はまたしても口を滑らせた。コミュ障ナードは黙るべきときに黙れないからコミュ障なのだ。
「え? いやそういう意味じゃなくて! 悪態も少しはマシに感じるかな、みたいなやつだから! ほら、新斗さんとかそういうところあるでしょ?」
「どういう意味、緑谷くん。ちょっと詳しく話して。ボクは今冷静さを欠こうとしているよ。ここからは慎重に言葉を選べ。ボクがこのノンデリポップコーンと同レベルって言った?」
「ひえっ」
真の恐怖とは日常に潜み、ふとした瞬間に顔を出す。これもその一つだ。正しい言葉が正しい結果に繋がるとは限らない。緑谷出久は人助けのときには勇気を出せるが、それ以外ではダメダメの泣き虫弱虫クソナードである。大人ではないのでメスガキには勝てない。
「誰がポップコーンじゃくたばれクソガキ!」
生来の負けん気でどうにか声を出すことに成功した爆豪。緑谷を図らずも救ける形となったが、本人は気づいていない。緑谷は普通に他人に感謝できるので丸太橋から落ちたマヌケなガキ大将みたいにいつまでもネチネチと恨みに思ったりはしないが。ニトログリセリンの原液はねっとりした液体(しかもちょっとの刺激ですぐ爆発する)なので爆豪はまさにニトロボーイと言えよう。しかし彼はノンデリの自覚はあるらしい。彼は正当な指摘を「違う」と言ったりはしない。弱みになるからだ。敗北するからだ。無視すれば敗北しない。そういうことだ。爆発的にみみっちい。
「リノみたいに可愛かったら何でも許せちゃうって言いたいんだよね、緑谷は」
ちゃんとした助けも来た。しかもその発言者である響香はメスガキから直々に「大人っぽい」と認められた女性である。つまり、メスガキでは勝てない。ノンデリクソナードを庇いつつ、メスガキの自己肯定感を高めてやるなど、まさに大人って感じのクールな対処だ。これにはメスガキも思わず笑顔。わからせ完了だ。
「そろそろHRの時間だぞ! 皆席につきたまえ!」
上手いこと話がそれた上にいい時間になったので、タイミングを見計らっていた飯田が委員長らしく仕切ると、はーい、と返事してみな素直に自らの席につく。爆豪はまだちょっと顔が青い。全員が席について10秒もしないうちに、挨拶をしながら相澤が教室に入ってきた。多少歩きにくそうだが「おはよう」という声はいつも通りのもので、生徒たちは相澤の復帰を喜んだ。
「俺の安否より大事な話を今からする。良く聞け。雄英体育祭が迫っている!」
「クソ学校っぽいの来たぁぁ!」
雄英高校はクソ学校ではない。クソ学校というのは折寺中学校みたいなしょうもない学校のことを指す言葉であり、甚だ不適合である。とっても学校らしいイベントですわ、と言うべきだ。
「かつてのオリンピックに代わるビッグイベント。それが雄英体育祭だ。ここでプロに見込まれればその場で将来が拓ける。年に一回……計3回しか無いチャンス。今年は襲撃の件もあってお前たちの注目度も上がるだろう。上手く活かせよ」
そんな話からのいつもの授業が終わって昼休み。生徒たちの話題は体育祭への熱意と意気込み一色だ。
「いやぁ、皆ごめんねっ! ボクが1位取って話題も独占しちゃうから皆の注目度下がっちゃうね……でもこれもトレードオフっ! ボクという最高に可愛い同級生が居ることの代償っ! 将来プロヒーローになってもつきまとう問題だから、今のうちに慣れておいてね!」
メスガキは早速宣戦布告なんだか自慢なんだか分からんいつものアレをかましたが、律儀に返事をしてくれるのは友人たちくらいだった。
「なにおう。ウチだって負けっぱなしじゃないからね。って言いたいところだけど体育祭だと地力の差がねー。上手いことウチの強みを活かせる競技が来てくれたらいいんだけど」
「USJでは響香さんのおかげで皆様の安否を確認できてどれほど安心できたことでしょう」
「あそこまで詳しく分かったのはヤオモモのおかげだし。……一人じゃ慌てて何にも出来なかったと思う」
「将来3人で事務所開こーよっ! ボクね~もうヒーロー名も考えてあるんだっ!」
「俺俺! 俺も頑張ったよな!」
「多分なんか都合の良い妄想してるんだろうけどあんたの妄想通り4人で組んだら100%辛くなると思うよ」
上鳴はバカな上にアホであり、未来の予想など全く出来ない。彼も入れて4人で事務所をはじめたとしたら、事務所の隅で体育座りしてコンセントになるのが関の山であろう。女所帯に男一人、など針の筵以外の何物でもないのだ。
「上鳴くんかぁ~。ナシよりのナシかな~。レディに対する扱いがなってな~いっ! それじゃあこっちも男性として見てあげられないねっ! 今のところそれが出来てるの障子くんと切島くんだけかな!」
「ん? 俺か。光栄だ、新斗」
特に肯定も否定もせず、短くお礼だけを言う。峰田あたりがこんなことを言われたら「オイラのことが好き……ってコト!?」と勘違いすること請け合いだが、障子は人間が出来ているのでそのような幼稚な反応はしない。このクールで大人っぽい反応には周りの生徒もカッコイイ……と感心している。彼は大人なのでメスガキには負けない。切島は少し離れたところに居るので聞いてなかった。
「新斗ってさぁ……何好きなん? 飯行こーぜ」
めげないアホ。食い下がる意味は果たしてあるのだろうか。上鳴は顔もよく〝個性〟は電気系と勝ち組でさらに雄英に受かるなど将来性も抜群なので中学まではこの杜撰なやり方でもモテたのだろう。えー上鳴くんってリノちゃんのこと好きなの~? 趣味悪~い! きゃははは!
「好きなものは手作りスイーツだよっ! ていうかねぇ! ボクはねぇ! うちのお父さんみたいにかっこよくって優しくってボクのことを世界で一番愛してくれる大人の男性が好きなんだよ! 上鳴くんすぐ浮気しそうだから絶対やだ~っ!」
「新斗ォ! オイラ一途だぜ! お前しか見えねえ!! 付き合ってくれ!!」
「え~? ん~…………」
メスガキは峰田の欲望しか感じない誠意ゼロの告白に対し意外にも考える素振りを見せた。上鳴よりはアリらしいことにクラスがちょっとどよめく。上鳴は割と強めに拒絶されてどんよりと落ち込んだ。峰田は超絶美少女(ペタンコな所だけが不満)が想像よりもずっと好感触な反応を返したことに激しく動揺している。ぶっちゃけ断られる前提のギャグみたいなつもりだったからだ。
「ダメだねっ! 峰田くんは自分のこと好きになってくれる女の子なら誰でもいいんでしょ~? ボクはボクだけをちゃんと見てくれる人じゃなきゃヤダ! だからそもそもヒーロー科の男子なんてお断りなんだよねっ! 5年くらいNo1ヒーローやってから素朴で優しい一般男性と結婚して引退するんだっ!」
小学校の中~高学年くらいによく聞く感じのありふれた未来予想図。メスガキの精神年齢はそこらへんと同レベルなのだろう。峰田はフラれたにも関わらずなんだか満足げな表情で薄ら笑いを浮かべていた。キモい。その時教室中に麗日の大声が響き渡った。
「皆! 私! 頑張る!」
その表情はいつもふわふわしている彼女には珍しく険しい。その勢いに押されてクラス中が何となく「おおー!」とまとまり、それぞれが昼食へと赴いた。緑谷はいつものように麗日、飯田とともに昼食に向かう途中、麗日に何故ヒーローを目指しているのか聞いてみることにした。曰く「お金のため」。詳しく聞くと、家族を楽させてあげたい、という『無重力』の〝個性〟の割に全然ふわふわしていない地に足のついた目標を掲げているようだ。緑谷が感銘を受けていると、廊下に〝個性〟かよってくらいクソでかい声が響き、3人はビクっとした。
「おお!! 緑谷少年が! いた!!!」
ヒーロー候補生とはいえ、急にでかい声を出されるとビビる。それが大柄な筋肉ムキムキマッチョから発生したものならなおさらだ。
「その……良かったらごはん……一緒に食べよ?」
飯田と麗日は「あっ……」と思ったがスルーした。本人たちはあれで隠せているつもりらしい。緑谷は女々しい男を惹きつけるフェロモンでも出しているのだろうか。その謎を解くため我々は現地へ飛んだ。
独自設定
・黒霧の接客スキル:あちらのお客様からですっていうのをやりたいと密かに思っている。
・アジトでLoLが出来る:捏造。
・先生のゲーム観:昭和のおっさん的発想でゲームは有害でゲーム脳になると偏見を持っている。
・オールマイト弱体化の把握:実際どの程度把握していたか分からないのでここではこんな感じ。原作のどっかで言ってたら教えて下さい。
・『魅了』の“個性”を持っていた女性:かつて居た信望者の一人。先生はよくこの手の自慢をして黒霧をうんざりさせている。
・ロミジュリ:黒霧にシェイクスピア読ませてない先生が悪い。
・昭和:ヒロアカの年号は矢甁とか?西暦2100年は超えてそう。
・爆豪が童貞:捏造。モテないのは公式設定。母親も息子にチョコをあげるタイプに見えない。旦那には毎年あげてそう。
・爆豪の好み:理想が高いので一箇所でも気に入らなければ落第。
・ハーメルンだと一般性癖:みんな知ってるね。
・上鳴のモテ度:気軽に告られてあっさりフラれるイメージ。