ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
なんでだっけ……?オールマイトの蓄積が1人分より大きい的な……?
「いい顔になったな。……と言ってやろうと思っていたんだが……うまく行かなかったのか?」
「え?」
週末のインターンでベストジーニスト事務所に到着したかっちゃん。開口一番ジーニストから出てきたのは爆豪勝己のモヤモヤを言い当てる言葉だった。
「スッキリとしてはいるが、まだリジッド感が残っている……そういう顔だと思ってな。……中断でもされたか」
「いや……腹を割ってお互いの不満を話したはずなんだが……なァんかしっくりこなかったっつーか……」
クソナードに見破られると苛つくのにジーニストに見破られるとすげェ……ってなるのはなんでなんだろう、とぼんやり考えながらかっちゃんは返事をした。
「かいつまんで話の流れを聞かせてもらえるか? かなりプライベートな話となっただろうから無理にとは言わないが」
「今更あんたに隠すようなこたァねえよ」
かっちゃんはデクの〝個性〟関連のことをぼかしつつわりと赤裸々に話した。特に両親が緑谷に謝罪に行っていたことを知らなかったことはものすごく恥じているのでまた泣きそうになったがなんとか堪えた。長男だけど弟妹は居ないので特に耐えられる理由にならなかったので持ち前のタフさでなんとかした。つまりHPで受けてひんし状態である。
「ふむ。全体的にかなり腹を割って話せたようだが……なるほどな」
「……聞いただけで問題点を把握したってのか? マジかよ」
かっちゃんも結構長いことなんでスッキリしないのか考えていたがさっぱり分からなかったので、一瞬で何らかの答えに行き着いたベストジーニストに改めて尊敬の眼を向けた。
「買いかぶりだ。問題点を把握したというより、お前が完全に出し切っていないという結果から逆算しただけのこと。大抵の物事は結果を見れば過程も想像がつくものだ」
「……問題があるこたァ分かるんだが、どこが問題なのか分かるのはまた別の話じゃねえか?」
「そうでもない。お前たちの関係性の根本的な問題は表面と内面のちぐはぐさだからな。お前が素直になった以上それは解消されつつあるが、残る問題もまた『不揃い』にあると考えられる」
「俺とあいつの認識がまだ食い違ってるってことか?」
「……いや。現状とお前たちの認識の食い違いではないかと思う。緑谷出久……彼には後日にでも謝らねばならんな。話の流れとはいえ、彼のプライベートな話をかなり聞いてしまった」
「んなことあいつは気にしねェよ……あんたが話しかけるだけですべてを許して大喜びだぜ。かこつけてサインください! くらいは言うかもしれねェが。ヒーロー関連になると周りが見えなくなるところがあっからな」
「それだ、ダイナマイト」
「あん?」
「私はそうは思わない。プライベートな話題をある意味盗み聞きされたとなれば、私のファンであったとしても違法デニムだとがっかりしてもおかしくない。だがお前は緑谷出久の反応を断定した。理解できない、と言ったその口でだ」
「……言われてみればそうだな。なんだこれ……どうなってやがる……」
自身の不可解な思考に戸惑うかっちゃん。違法デニムとかいう言葉もいまいちピンとこないが、ジーニスト語録はなんとなくニュアンスで流すしか無い。
「それは『理解』ではなく『信頼』だ、ダイナマイト。……いや、これまでの経緯を鑑みるに……『甘え』と表現したほうがお前には分かりやすいかもしれん」
「……!? 俺がデ、出久を信頼して、甘えている……?」
「『デク』はヒーロー名にするほど気に入っているのだからそう呼んでもいいと思うぞ。……そこも普通ならこうも考えられる。『自分への当てつけのためにデクと名乗ったのだ』とかな。だがお前はその可能性を考慮すらしていなかったんじゃないか?」
「!!」
爆豪勝己は緑谷出久が己に悪意をぶつけるなどと一切思っていなかった。だからこそ「〝個性〟を隠していたのは俺を馬鹿にしていたのか」と取り乱したのだ。見下しているのは、いや、見下そうとしているのは『仲間内のマウント』……猿の群れみてぇな順位付けであって『敵』に分類しているわけではない。モンキー・D・かっちゃん……ちなみにこの『D』はダイナマイトではなくドブカス。
「正直私はびっくりしているぞ……良くぞそのヒーロー名にしたものだ、とな。お前の恐怖の一端を理解できた、と言い換えてもいい。狂信的ですらあるな」
「……あんたですら、そう思うのか」
「お前が弱いわけではない、とはっきり断言しておこう。一流のヒーローと呼ばれる者たちはどこかに狂気をはらんでいる。オールマイトやエンデヴァーは言うに及ばず……私もたまに(デニムに)狂ってると言われるよ。『デク』にもそれらと同種の狂気を感じる。彼のヒーロー名の理由をもう少し詳しく話してもらえるか?」
かっちゃんはその点まともというか、ファッションキチガイなところがあるからね。弔くんとかとおんなじで何が悪いか分かったうえで悪いと知りつつやってるタイプ。常識がないんじゃなくて常識を無視することで強がっているのだ。テーブルマナーとかの無視するとカッコ悪い(かっちゃん主観)やつはきっちり守ってるからな。つまりこいつ机に足を乗せるのはかっこいいと思ってんすよ……ダッサ。腰パンも短足を誤魔化してるみたいでダサいから辞めたほうがいいよ。
「……ワリィ、俺も詳しくは聞いてねぇ……戦闘訓練で『頑張れって感じのデクだ』っつってたから誰かに努力を褒められたんかと思ってるが」
急に筋トレを始めたのを最初は笑っていた。内心諦めていたくせに今更何を。すぐに音を上げるだろうと思っていた。だが未だに継続して続け、授業中でも空気椅子をしたりハンドグリップをにぎにぎしてるのはウザがりつつもちょっと感心していた。正確に言えば感心していたことを素直に認められるようになった。
「さて、また一つ話してないことが出てきたな? 気になることは全て聞いてみたか? あるいは……『彼のすごいと思っている部分を褒めた』か?」
「あ……そうか……俺ァまだ全然……」
話は尽きたと思っていた。しかしそうではなかったのだ。終わったのは不満の言い合いであって、内心をすべてさらけ出したわけではない。そしてかっちゃんには言わなかったがジーニストはさらにもう一つ気づいていた。緑谷出久は『不満』はすべて言ったのかもしれないが、『気持ち』を殆ど話していないことを。『爆豪勝己の親に謝られるのは心苦しい』とだけ漏らしていて、そのことは爆豪勝己にも重く響いている。
「どこまで話すか、何を話すかはお前次第だったが……スッキリしなかったということはやはり、お前にとっては話すべきことだったのだろう」
「そうだな……クソが……自己分析……客観視……今更あのクソガキの言葉が身にしみてきやがる……」
今回ジーニストに指摘してもらって初めて気付いたことは、爆豪勝己の頭脳であれば自身で導き出せるものである。自己分析はしていたが、客観視がなかったため歪んだバイアスがかかり現実を直視できていなかったのだ。
「どちらも重要なことだな。特にお前の欠点は内面に集中しているのだから、客観視を出来るようになれば……いや、お前は客観視が出来ないというより主観を大事にしすぎていると言ったほうがいいか。自己を見つめ直し、良いと思う方向へ変わろうとすることが、お前という生地を美しいジーンズへと変えていくだろう」
いつものポーズをキメるジーニスト。かっちゃんは内心「やっぱジーニストかっけェ~」と思いながら神妙な顔を作って頷いた。最初は変なポーズだって馬鹿にしてたくせに。ジーニストの言う美しさ──かっちゃん的にはかっこよさ──を必ず手に入れてみせると意気込んでいる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの逆で、かっちゃんは最近私服のジーンズ率が増えてきている。
「しかしなんというか、緑谷出久は不思議な男だな。ガキ大将のお前の子分のようでもあり……まるで保護者のようでもある。お前の横柄な態度を擁護する訳では無いが反発されて当然だな」
反抗期のガキンチョ扱いである。ジーニスト以外が言ったのであれば、かっちゃんは激怒しただろう。
「……当然、なんかな……最近は俺がガキすぎる気がしてきてンだが……」
ほんのりと俯く爆豪。親にすら見せない、むしろ親には絶対見せたがらない弱気な仕草だ。爆豪勝己にとってベストジーニストは自分の『弱さ』を見せてもいい、見てもらいたい相手なのだ。彼は爆豪勝己の弱さを見ても心配しない。それどころか成長の機会として捉え、昇華を求めてくれる。
「ふむ……少し自罰的になっているな。お前側の話しか聞いていないから言及はやめておこうかと思ったが……緑谷出久にも相応に問題点があると私は思うぞ」
「……?」
かっちゃんから見たらクソでしかないクソナードだが、客観的に見たらあっちが正しい、というのは昔からずーっと一貫していたのでピンとこない表情をするかっちゃん。
「私はもっと激しい言い争いになると想像していた。だからそれを見越して『仲直り』をあらかじめ提示したわけだが……どうにもお前の独り相撲で終わってしまったように思える。消化不良なのはそのせいもあるのではないか」
ジーニストとしては手が出ちゃうんじゃないかくらいに思っていた。爆豪勝己が、ではなく緑谷出久の方からである。「今更謝罪とかふざけるなよ」と殴りかかって来てもおかしくない状況だ。謝らないのであれば謝れないカスとして見下せるが、謝罪をしてきたら『許し』を求められる。相手の『成長』を感じて腹立たしくなる。『てめぇ人をいじめたことを過去にして糧にして成長しましたじゃねえんだよふざけんな殺すぞボケカス』とブチギレるくらいあって当然と考えていた。
「……それがあいつの問題点ってことは……デクは腹を割って話してねぇって言いてェのか?」
「それは分からん。不満の内容自体は本心をありのまま語っているように思える。だがそうだな、お前の話の切り出し方の影響かもしれん。先ほど『ヒーローのこととなると周りが見えなくなる』と言っていたな? ……語弊を恐れずに言えば緑谷出久の話しぶりは『私の手伝い』をしているような印象を受けた」
「!?」
──ベストジーニストは『腹を割って話したほうがいい』的なアドバイスをくれたのかな?──
──ベストジーニスト的には多分これがかっちゃんの成長に繋がるって思って提案してくれたんだよね?──
「あンのクソナードがぁあああああッ!!! どこまでも人を馬鹿にしくさりやがってえええええッ!!!!」
ブチギレかっちゃん。何が仲直りだあのクソカス!!! と珍しく正当な怒りである。普通に愚弄だからねこれ……かっちゃんは真剣に仲直りしたかったのにクソナードは「僕が大人になってあげなきゃね」って感じにスカしてきたのだ。『緑谷出久にも悪いところがある』ではなく『あちらにも問題点がある』という表現になったのはこのためだ。応えるか応えないかは緑谷出久が決めることなのでその決定そのものは『悪い』わけではない。
「落ち着けダイナマイト。そう思うのも無理はないが、馬鹿にしているというよりもむしろこれは『お前とずっと仲直りしたがっていた』ということだと思うぞ。だからこそ『チャンスに飛びついた』のではないか」
「ぐぎぃ……」
ここだけ切り取るとかっちゃっちゃの怒りは正当だけど全体を見るとカツキくんが悪い。だって今までがクソすぎるもん。クソナードだって『はいここでおわり! 仲直り! 以後この話やめやめ!』って言いたくなって当然なんよ。さっさと切り替えて終わった話にしたいくらいかっちゃんが好きで、爆豪勝己にムカついてるんだよ。まぁ一番でかいのは仲直りしたら両家の親が安心することだけどね。かっちゃんは納得してないけどクソナードの方は『昔みたいに家族ぐるみでバーベキューとかしたいなあ』と未来に思いを馳せてワクワクしてる。なのでここからかっちゃんが爆発的にキレたらいじめられたことより傷つくぜ。落差やべえもん。もう母親にも仲直りを報告して引子さんも感涙して、それにつられてクソナードも泣き出すみたいな感動のシーンがあったからよ……。
「それともう一つ。かなり憶測が交じるが……『忠誠』もあるのではないか? ガキ大将であるお前の決定に、子分として応えたのではないか、ということだ。だが、もうお前も分かっているはずだ。『今のお前はそういった関係を望んでいない』ということをな。故にわだかまりが残っているのだろう」
爆豪勝己は緑谷出久と健全に競い合いたかった。ライバルとして、幼馴染として、ムカつくけどすげェって思う相手として、同じ道を歩いていきたいと……ようやく自覚したばかりなのだ。
「……俺が一貫してねぇから……デクもふわふわした反応になったってことか……?」
自然とそういう流れになったのではなく、爆豪勝己が段取りを組み、爆豪勝己がルールを定め、爆豪勝己がジャッジをした。まぁうん、「はい、わかりました」って言うしかないよね。親分と子分のやり取りだもん。かっちゃんもクソナードもそういう構造に無自覚だったけど。両者にとっては自然な流れだからよ……端から見たら「何年ガキの頃の探検ごっこの延長戦やってんだよ」という感じですね。
「そういう面もあるのではないか、という程度に認識しておくがいい。お前は物事にくっきりと白黒つけたがっているが、世の中は色落ちのようなグラデーションだぞ、ダイナマイト。完全なる悪も完全なる善も存在しない。そうあろうとする『意志』のみがデニムを染め上げるのだ」
きっともう一度話せば……爆豪勝己が立場も何もないただ一人の人間として話せば、緑谷出久からも一人の人間としての生デニムな言葉が出てくるのではないか、とジーニストは考えている。そうして初めて彼らは『親分と子分』から『友人』になれるのではないだろうか。
「…………」
来たときよりもいい顔になって、これからどうするべきなのかを考え込むかっちゃんを眺めてジーニストは穏やかに微笑んだ。かっちゃんもジーニスト語録にだいぶ慣れてきてすっと頭に入るようになってきたようだ。
「ふっ……まるでスパッツ大会だな……」
「……????」
とか思っていたらいきなり過去イチ分からないデニム用語……デニム用語? が出てきてかっちゃんは宇宙猫になって思考の全てが吹き飛んだ。スパッツ大会ってなんだよ。
「
ネジレチャンの必殺技により倒れ込む巨大な
「二人とも! 今っ! 被害を広げないように攻撃の軸を揃えてねっ!」
「了解! 必殺! メテオファフロッキーズ!!」
麗日お茶子と蛙吹梅雨の声がハモる。ウラビティが浮かべた瓦礫をフロッピーが舌で弾いて攻撃するコンボ技だ。転倒した
「いい感じだったよー! 被害拡大ぜろっ! おつかれさまー!」
ふわふわぴょんぴょんしながらネジレチャンが二人に駆け寄ってねぎらいの声をかける。表情は朗らかだが倒れ込んだ
「分かりやすい指示をありがとうございます!」
「頼りになる人がいたので落ち着いてやれたわ」
きゃいきゃいと女子三人で反省会というか感想会が始まった。和気あいあいとしていて非常に良い雰囲気だ。
「ねじれ、ずいぶん良くなったわよ。破壊をこれ以上広げない転倒のタイミング、なおかつ攻撃の方向はすでに出てしまった被害箇所に軸を合わせることで軽減、そしてそれらを明確に伝える適切な指示、これならすぐにでもサイドキックとして働けるわね」
うんうんとドヤ顔をしながら近寄ってきたのは波動の、そして麗日と蛙吹のインターン先のプロヒーローである『リューキュウ』だ。名前から分かる通り沖縄県出身で、南国育ちらしいおおらかな女性である。
「リューキュウ! ありがとうー! ……やっぱり今まではサイドキックの水準まで至ってなかったんだね……ううん、これからもっと頑張って取り返すねっ!」
むんっ! と気合を入れる波動をみてリューキュウは思わず笑顔がこぼれ出たがすぐに真面目な表情を作って言った。
「んん……インターンってそもそもそういうものだから良いのよ。最初から完璧にできる子なんて見たことないわ」
後輩を連れてきたことにも驚いたが、なんだかふわふわした雰囲気が目減りして真面目になってしまってリューキュウは寂しく思っていた。ぶっちゃけもっと甘えてほしかった。プロのフォローがある内に失敗も経験しておいたほうが良い、という実務的な理由もある。独立したあとに『初めての失敗』を経験するとそのままヒーローをやめてしまう者も居るくらいの大事になることもあるのだ。
「大切なのは間違わないことではないわ。いえ、間違わないに越したことはないけれど、それは現実的には不可能だから次善の策を用意しておいて、素早くリカバリー出来るよう備えるのが重要ということね」
人間である以上ミスはなくせない。だから考えるべきことはいかにミスからリカバリーするかである。しかしそれが『リカバリーの効かない致命的なミス』に繋がる油断とならぬように戒めなければならない。言葉にすると簡単だが実践は非常に難しく、どれくらい難しいかと言うと、リューキュウだって完璧にこなせているわけではないくらいだ。
「見事な対処でさすがビッグ3! って思いましたよー!」
ふわふわ仲間のウラビティにとってはなおさらかっこよく見えた。メスガキに凹まされて半泣きだった姿からは想像もつかない凛々しさであった。
「そうね。ウワサ通り良い指示だわ。ついていくわね」
それじゃあリューキュウ事務所で優勝していくわね。お前は蛙なんだから●蛇丸のマネしてんじゃねえよ。いやその人は自分を大蛇●だと信じて止まない一般男性だから。おい伏字貫通してんぞ。そもそも真似してねえだろ別作品の語録じゃん(支離滅裂)。
「あなた達二人も素晴らしかったわ。過度な緊張もなく、巨大な
「ありがとうございます! ご迷惑をおかけするかとは思いますがよろしくお願いいたします!」
「2名、波動先輩と合わせると3名もインターンを受け入れてくださった恩返しができるよう頑張ります」
ぴり……と空気が張り詰めた。リューキュウは内心でしょんぼりである。せっかくJKが3人も居るのになんでオフィスみたいな緊張感に包まれないといけないんですか? カフェで駄弁るみてぇな雰囲気で仕事させろ!
「んん……ちょっとカタすぎないかしら……もっとざっくばらんでいいのよ? ウチはそんなにうるさく言わないし、ねじれくらい気安く接してくれたほうが嬉しいわ」
「ではお言葉に甘えさせてもらうわ」
それじゃあリューキュウ事務所で優勝していくわね。
「梅雨ちゃん切り替えはやっ!」
「こういうのは郷に入っては郷に従えよお茶子ちゃ……ウラビティ」
「あなた達の担任の先生は礼儀に厳しいの? なんだか雄英生っぽくないというか……」
厳しいけど礼儀には無頓着かな……最低限ちゃんとしてればいいよみたいな……具体的にはズボンのチャックが空いてるのは問題視するけどズボン自体は何でもいいくらいの……。謝罪会見でスーツ着るくらいの社会性はあるけど髪を切るほどの社会性はないみたいな。
「えーと……同級生に激励? 喝? を入れられまして……」
「私たちの外での行動が雄英そのものの評判を左右すると言われてはっとしたの。その通りだって思ったわ」
「まぁ……それはそうね。私はアットホームなのが好きだけど、インターン先によってはそうでないこともあるでしょうし。ただ雄英生のインターンはぶっちゃけ問題児を見るのを楽しまれているところがあるわ」
「えっ」
その言葉に反応したのはネジレチャンである。結構好き放題させてもらっているのはなんとなく分かっていたが、楽しんでいた……? 問題児だから声をかけてくれた……ってコト!? そうだよ。ヒーローはお人好しだけど流石に見込みのないやつやメリットがない存在にまで構ってたら本末転倒だからね。ベストジーニストとかもかっちゃんが問題児かつ将来有望だから面倒を見る気になったわけだし。
「……校風からして『自由』だもの。そういうこともあるかなとは思っていたわ」
しみじみと言う梅雨ちゃん。リューキュウがインターンとして受け入れた生徒に特に共通点がないので不思議には思っていたのだ。麗日だけなら『浮遊』、つまり空を飛ぶリューキュウについて行けるのが重要なのかと考えることが出来たが、自分も同時に採用したことといまいち整合性が取れないと思っていた。そう……梅雨ちゃんは大人たちからの印象とは裏腹に自分のことを問題児だと思ってます。舌禍について自覚があるんですね。なので波動先輩にもかなりシンパシーを感じていて自分がどうやってメスガキと仲良くなったかをネジレチャンに話してたりします。
「あのっ。リューキュウ。あのっ」
自分でも何が言いたいのかが理解ってなくて言葉が出てこないネジレチャン。感謝したいのか、謝罪したいのか、文句が言いたいのか、そのどれもなのか。リューキュウにはそれが手に取るようにわかったのでニッコリと笑いかけながら言った。
「さ、事務所に戻りましょうか! 言っておくけど私は貴方が大好きよ、ねじれ」
「ムゥーっ!!」
からかわれてるのが理解ったので大好きなリューキュウの言葉も素直に受け取れないくらいのふくれっ面である。いつもなら「私もー!」と抱きつきに行くところだ。
「ふふ。もちろんそれだけじゃあないわよ。雄英生は強力な、あるいは練度の高い〝個性〟を持っていることが殆どだから多少の問題があろうと『即戦力』なの。2人も追加で受け入れたのは単なるボランティアではないということね」
「それってつまり……」
「ええ。人手が必要な大きな案件が迫っているわ。オールマイトの元サイドキック……『サー・ナイトアイ』からのチームアップ要請よ」
浮ついた雰囲気を切り替えて真剣な表情で連絡事項を伝えるリューキュウ。
「指定
「『死穢八斎會』ですか? なーんかヤな名前ですねぇ」
今日も今日とて雄英高校でインターン中のメスガキ。先程まではミッドナイトとイチャイチャしていたのだがイレイザーヘッドに呼び出されて職員室のソファで資料を見ながら打ち合わせ中だ。まぁもう放課後で半分休憩というか、休憩中に仕事の話をしている、という状態なんだけど。つまりミッドナイトとのイチャイチャは別に仕事ではありません。
「ヤクザの看板だからそりゃそうだろうな。サー・ナイトアイからチームアップ要請、となるがどうする、新斗。おまえもぜひ、とのことだったが」
メスガキの目的からするとチームアップでイレイザーヘッドについていくのは若干ずれる。とはいえ先方から要望が来てることは伝えないわけにはいかなかった。教師との両立を見たいのであれば学内での書類作成や仕事の処理を見るだけでよく、実際についていく必要はない。ヒーロー活動そのものはナイトアイのところじゃなくても見られるので。まぁ無駄というわけではないし、一度くらいは実際についてくるのもいいだろう、と相澤は思っているので本人の意向を確認することにしたのだ。
「えー……また『オールマイトのここがすごい』を延々いい続ける気じゃないでしょうねえ、あのおじさん」
タルタロスでナイトアイと多少打ち解けたあと、図々しく帰りの車に乗り込んできたナイトアイがメスガキに対して延々とオールマイト情報を垂れ流してきたのだ。公安の車なのでナイトアイが不当に乗車したわけじゃないけどな。ヒーローの補助は普通に公安のお仕事なので。
「そんな事されたのか? そういったハラスメント行為があったのならすぐに相談しろ。雄英からも然るべき通達をしておく」
相澤はメスガキがタルタロスでナイトアイとすったもんだあったことを知らないので言葉通りただ嫌がらせをされたと解釈してしまった。会長といっしょにタルタロスに行って元公安のエージェントを『見学』した、という概要だけしか聞いていないのでどこでナイトアイと接触したかもやり取りの内容も知らない。
「あっ……えーっと、ボクがそのぉ、ナイトアイの前でオールマイトを愚弄しすぎたのが原因だと思うのでお互い様ということで……」
メスガキはナイトアイとのじめじめしたやり取りを説明したくなかったのでぼんやりと誤魔化した。
「お前な……あんまり外でオールマイトさんを愚弄するんじゃない。彼に命を救われた人、彼を尊敬する人を無意味に敵に回すぞ」
学内では今更である。言うて人生においてまぁまぁの頻度で出会うしな、オールマイトアンチ。メスガキみてぇに本人に直接言う頭のおかしいアンチは珍しいけど。その珍しいアンチのおかげでオールマイトがそんなアンチにも真剣に対応する上に丁寧で優しいことが判明してさらなる尊敬を集めている。
「それはわざとなので大丈夫ですっ! ボクが聞かなくちゃいけないのはオールマイトに救われた人の感謝の言葉じゃなくて、オールマイトが救えなかった人たちの怨嗟の声ですからっ!」
「……やりたいことは分かるが……無理はするなよ?」
心配というより忠告に近い。相澤くんはだいぶメスガキに伝わる言い方を身に着けてきてるね。これが『理解してもらってる』ってやつです。
「はいっ! 気をつけまぁすっ! 以前通形先輩が言ってた『合同のデカい案件』ってやつですよね、これ。ナイトアイはボクに何を求めているんですかぁ?」
相澤は通形が何を言っていたかなど知らないので一瞬ピンとこなかったが『合同のデカい案件』かどうかは回答できるのでいちいちツッコまずに話を続けた。
「確かに10を超える複数のヒーロー事務所が集まる大規模チームアップだな。ナイトアイの事はよく知らんがオールマイトさんの元サイドキックなんだから『後継者』とか言われているお前を見極めたいとかそんなところだろう。あとはもしかしたらお前の『リミナルゲート』が『死穢八斎會』の誰かの〝個性〟の天敵だったりするのかもしれん」
メスガキがその気になれば地方ヤクザなど一瞬で鎮圧可能だとイレイザーヘッドは考えているが、ナイトアイがそれを知っているとは思えないのでこういう推測となる。体育祭でメスガキが見せた出来ることのいずれかが、すでに判明している組員の〝個性〟に刺さるのであれば熱心に誘う理由になる。その辺りは行けば分かるだろ、と考えていちいち調べていない。メスガキが行かないなら無関係になるし。
「ん~……先生は特に理由は聞いてないんですね?」
「そうだな。声をかけておいてほしいと頼まれているだけだ」
「ということはやっぱ通形先輩かなぁ~。ホントお節介焼き~~……ふふっ」
メスガキは通形が一生懸命ナイトアイに自分を誘うよう頼んでいる場面を想像してにやにやしている。
「通形? ……ナイトアイの事務所にインターンに行っていたな。あいつがお前といっしょに仕事をしたがっているのか」
「させたがってる、ですかね~。天喰先輩ともう一人がかっこよくインターンしてるところを見せたいみたいですっ!」
例の揉め事をまだ引きずっているらしい波動のことは相澤も気にかけていたので、こちらの話はすぐにピンときた。
「ああ……そういうことか。……天喰も波動も1年のときは俺が担任だった。天喰はただ気弱なだけだったから大したことはなかったが、波動ははっきり言ってかなりの問題児だった」
なので少しばかりおせっかいを焼くことにした。どちらも相澤にとっては可愛い教え子なのだ。担任で無くなったからといってその愛情が消えることはない。
「でしょうねっ! あれでも改善したとかびっくりですっ!」
「お前の考えているような問題じゃない。あいつは入学当初、心を閉ざしていた。他人と話すことは殆どせず、最低限の事務的なやり取りだけで済ませていた」
「……へぇ」
相澤は今でも波動の陰鬱で冷めた表情を思い出せる。相澤も学生時代は大概コミュ障だったが、それを上回るヤバさだった。
「そんな調子だったからあいつはクラスで浮いてあっという間に孤立した。正直最初は「こいつは駄目かもな」と思ったよ。コミュニケーションが多少苦手くらいなら俺のようにスタンドアローンでやればいいだけだが……『拒絶』はまずい。雄英のヒーロー科は人格査定もある。つまりここに入れるようなお人好しとすら上手くやれないようじゃはっきり言って将来は暗い」
そこまで厳密なものではないものの、雄英が教育するにあたって『話を聞かなさそう』な人物は書類の段階ではじかれる。かっちゃんみたいなやつを何人も面倒見られるわけじゃないんだよね。国立なんで血税で動いてるからよ……。『問題児枠』だって『ノウハウの蓄積』のために入れてる面があるからな。
「……波動は1年の体育祭で優勝したが……表彰台でも薄っぺらな作り笑いで熱を感じなかった。波動の人生にとって『ヒーロー』になることが好影響だとは到底思えなくなった俺は除籍を検討し始めた」
とりあえずは擬似的なやつの方である。しかしそれは劇的な変化を起こさないとそのまま本除籍に繋がるという最後の手段でもあった。孤立したヒーローなどいくら強くともいつか『死ぬ』だけだ。それが物理的な命の喪失を伴うのかは分からないが。波動は『問題児枠』なのでかなり『大目に見てもらえる』のだがそれでもなお検討せざるを得ないほどにまずかったのだ。
「…………」
感情の読めない味わい深い顔で黙り込むメスガキ。何を考えているか相澤には分からなかったが、真剣に聞いている様子なので話を続ける。
「そんな状況を好転させたのが天喰だった。あいつが声をかけて、それに通形も加わって、根気強く交流することで波動は笑顔を見せるようになった。そしてその甲斐あってクラスメイトとの溝は徐々に埋まった。
ねじれちゃんの全肯定勢である『
「それはよかったですね~」
他人事のようなそっけない返事である。視線もそっぽを向いて「聞きたくない」とアピールしているが、相澤はそんな幼稚なアピールを考慮したりしない。必要な言葉を必要なだけ投げかけるのみだ。
「あいつのあの『悪癖』が出たのは……というより話を聞くにアレのせいで中学時代に孤立した結果塞ぎ込んでいたそうだから、復活したと言ったほうがいいか。復活したのが1年の終わり頃だ。当初はたまに出てくるくらいですぐに撤回していたが……まぁ、わかるだろう? クラスメイトたちは『素』を出し始めた波動を歓迎した」
頑張って改善しようとして、それでもダメだったから塞ぎ込んでしまった少女。こんなもんヒーロー目指している奴らが放置するはず無いんだよね。まずは安心して素を出せるようにしてあげるのが先決だったということだ。ちなみに相澤もぶちかまされたことがある。「相澤先生ってどうしてヒゲを剃り残しているの? どうしてホームレスみたいな風体なの? 不思議!」とのことです。なんでだろうね?不思議!
「つまり『長年悪癖を放置していた』というのは少し違う。対処療法として封印し、友を得て抜本的な改善を手掛け始めたのがここ最近の話……ということだ」
相澤が伝えてやりたかったのはこの部分だ。クラスメイトたちだってただ波動を甘やかしたわけではない。お互いに積み重ねた絆があり、その上に成り立っている信頼関係。諦めずに……あるいは挫折から立ち上がり、向上を目指す意思。それらを知らないまま『拒絶』するのは、それこそ入学したて頃の波動と同じである。
「……むー……」
「波動への指導やその過程で得た知見はお前に対する指導にも活かされている。間接的にお前も世話になっていると言ってもいいな」
その「むー」ってやつも波動に似てるな、と思った相澤だったがこれを言うと流石に怒りだすかもしれないと思って飲み込んだ。
「むぎゅ……せんせーのいじわる……ボクにどうしろっていうんですか……」
相澤は大人なのでメスガキでは勝てない。真剣に言葉を尽くし懇々と諭せばこの通り。
敗 完
北 全
°
「どうするかはお前が決めることだろう。俺はただお前がより良い道を選べるようにできるだけ多くの情報を持つべきだと思って話をしただけだ。俺が「仲良くしろ」と言えばお前はうわべだけ取り繕って笑顔で接することもできるだろうが……雄英の外ならともかく学生生活においてそういうしょうもない人付き合いはしなくていい」
まぁつまりインターン中に揉め事持ち込むなよって話でもある。もちろんメスガキもそれは分かっているのでもしチームアップに参加すればまさに『うわべだけを取り繕った対応』をすることになるだろう。ついでに通形もそれを分かっているから『活躍を見てもらう』ことでメスガキの内面の変化を期待しているわけだ。
「新斗。成長の速度も、そのタイミングも人それぞれ違う。波動はいまだ改善の途中の未熟者だが、それを周りが支えることは悪いことだと思うか」
「……良いことだと思います……」
「あいつから学ぶことは無いと思うか? あまりこういう知ったようなことを言うのは好きじゃないが……お前らしくないぞ」
新斗黎乃はいつだって他者の言葉や行動を自身に取り入れ昇華させてきた。相澤にとってなぜ波動だけがこうまで拒絶されるのかピンとこないと言ってもいい。実際はもう一人拒絶されてるやつが居るんだけどそっちは把握していない。
「うぎぎぎ……だってぇ……」
「だって、なんだ? 話してみろ。俺が知らない、思い至っていない問題があるなら聞かせてくれ」
相澤にしては珍しい、穏やかで包容力のある言葉だった。ちゃんと相手に合わせた対応ができるってことですね、メスガキと違って。メスガキは知能のわりにデッキが少ねえからな……。天喰よりはマシだけど……。
「だって……ずるいもん……」
「……?」
「なぁんでボクが能動的に変わってあげなきゃいけないんですか~っ! あっちが改めるべきでしょお!? えーえー分かりますよ、今改善している途中だから大目に見てやれって、こっちが『大人』になってやれってことですよねっ!」
お前も砂藤くんに散々そうしてもらっただろいい加減にしろ!
「ん……まぁ、そうだな。これは俺が『
相澤は中学時代のことを概要しか知らないのでお前もそうしてもらったんじゃないのかと思いつつも言及はしなかった。メスガキ視点だと『自分が変わったから雄英で友達ができた』って感じなのでイラっとするのがおかしいってほどでもないって考えてるからね。
「波動が変わる……『成長』するのを待っているんだな? であるなら俺からこれ以上言うことはない。……波動はきっと成し遂げるだろうから、お前たちの揉め事の解決はもはや『時間の問題』だからな」
そもそも波動とギスってるのはメスガキの将来にとっても良くないと相澤は考えている。気が合わないやつがいるのは良いがそれを周りに悟らせているのは問題だ。相澤だって気質的にはオールマイトと合わないなと感じることは多いが、だからといって彼を嫌わないし、態度にも出さない。波動もメスガキも将来はトッププロになることをすでに約束されているようなものなので、デビュー後も何かと関わる機会があるだろう。齢の近い先輩後輩でコラボなんていかにも企業やスポンサーが考えそうなことで、その度に過去の揉め事を引き合いに出されるようでは『使いにくい』と思われてしまう。つまり『エンデヴァー枠』になっちゃうわけだ。
「むーーーっ!!! ………………分かりました……それじゃあナデナデしてください……」
「は?」
「せんせーのせいで悩みが増えたので補填してください! ナデナデシテー! ナデナデシテー!!」
チョップしたら「モルスァ」って言いそう。16歳になっても幼稚さ全開で本当にがきんちょ。
「……時間だな。はい、休憩おわり。インターンを再開します。出張の書類を作成するから横で見ていろ、ホーリーナイト」
休憩用のソファから立ち上がりデスクの方へ向かうイレイザーヘッド。メスガキは後ろからついて行きつつもぎゃあぎゃあと大騒ぎしている。
「おーぼーだーっ!! 無視はよくないですよーっ!! モラハラはんたーいっ!!」
「分かった分かった……仕事が終わったらな」
独自設定とか
・リジット感:まだ糊が残ってるみたいな。
・HP受け:数値受けの一種。割合ダメージ持ちには相性が悪い。
・かっちゃんとジーニスト:職場体験だけの原作でもかなりリスペクトされてたので。
・違法デニム:ジーンズが禁止されていた国があるんですよ。ギャグみてぇな現実。
・ダサっちゃん:イキるのがかっこいいと思っているお年頃。
・大人になってあげなきゃ:状況次第で毒にも薬にもなる。
・スパッツ大会:語録で一番伝わらない言葉らしい。意味は皆様各自で考えてください。
・大蛇◯:伝説のビッグ3。じゃなかった三忍。
・梅雨ちゃん問題児:リューキュウは普通にねじれちゃんの紹介だから受け入れただけ。
・死穢八斎會:多分『死穢』は治崎があとからつけたやつ。
・オールマイトアンチ:ステインは厄介ファンじゃなくて反転アンチ。お前が止めないともっと人を殺すぞ!
・ねじれちゃんの過去:天喰が話しかけたら即笑顔みたいな演出だったけどすったもんだあったんじゃないかなぁ。
・ヒーロー誰が好きなんだい?:孤立してたから頑張って話しかけたんじゃないかなって。
・有弓ちゃん:ねじれちゃんのママ気分。波動の成長に伴い関係性が逆転しつつある。
・完全敗北:原作でかっちゃんがさらわれたときのやつ。縦書きにしたら崩壊しそう(未確認)。
・時間の問題:だからさっさと和解しろよ時間の無駄、と遠回しに言ってる。
・ナデナデシテー:ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー。
・仕事が終わったあと:ナデナデしてもらえました。上機嫌。