ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
「ひぃ~ん……とんでもないこと言っちゃったぁ……」
メスガキと相澤がナイトアイ事務所から立ち去ってしばらく後。会議室の片付けを終わらせたビッグ3は雄英への帰路についていた。道中での話題はどうしても暗くなってしまうヤクザクランバトルのことではなく、しょうもないメスガキバトルのほうだった。波動としてはメスガキと仲良くなりたかったのだが、結果はその逆になってしまった。
「いや、俺は良いと思うんだよね! やっぱり波動さんは波動さんらしくぶつかるほうが良い結果を生むって思ったよ! 一度の失敗にくよくよせず、元気出していこう!」
通形は元気を取り戻したというか、気合を入れ直したらしくすっかりいつもの態度に戻っている。
「え? 喧嘩になっちゃったのに良い結果? どうして? 不思議!」
そもそも波動が激おこぷんぷん丸になったのは相澤に「もっと素直に接したほうが良いんじゃないか」というアドバイスを受けて取り入れた結果だ。つまり相澤はメスガキVSメスガキにおいて中立だったはずなのだが、高校3年生のほうのメスガキには後輩のメスガキの味方したように見えたので「ずる」とかいうガキンチョ丸出しの幼稚なワードが飛び出してしまった。イレ先はしょうもない喧嘩をしろって言ったわけじゃないから止めたんですけどね。
「俺も悪くない流れだと感じた……今まではなんだかこう……相手にされてない雰囲気だった……当初の『話す価値なし』みたいな認定を覆せてなかったように思う……」
「今回は喧嘩にはなっちゃったけど、正面から向き合えてた感じがしたよ! これまでの暖簾に腕押しみたいな態度よりずっと良いと思うんだよね!」
「わあっ! そうかもっ! やったぁ~! ……あれ?」
熱くなって勝負を挑んだがその原因の天喰はもうすでに何事もなかったかのように平常モードだ。こいつすぐ傷つくけどすぐ立ち直るからな。めんどくさいやつ。
「勝負の種目をミスコンにしたのも良い機転だったと思う……さすがの彼女も……絢爛崎さんと波動さんをミスコンという舞台で同時に相手にするとなったら手こずるだろう……」
空気の読めない天喰は波動がちょっとモチベを下げたことにも気づかず勝負を既定路線として話を進めたので波動はまぁいいかと流し、この勝負を通してもっとあの子と仲良くなる! と考えモチベを取り戻した。ポジティブ。
「甲矢さんも張り切ってたしね! 今年こそ絢爛崎さんに勝つんだ~、って! 色々と考えているみたいだから、一緒に対策を練っていこう!」
絢爛崎は美人ではあるが濃度がすごいので人によっては引いてしまう雰囲気を持っている。反面波動はほんわかあっさりの可愛い系なので大衆受けする顔と言える。にもかかわらず二連敗である。一年目は波動にもあまりやる気はなかったというか、
「去年は絢爛崎さんに対抗するためにこっちも豪華絢爛にしたけど……それじゃあダメだったんだよね」
前年の波動は絢爛崎の派手さを打ち負かそうとカワイイ系衣装と派手派手しい感じの演出で挑んだ。ド派手対決! という感じでミスコン自体はめちゃくちゃ盛り上がったし、波動自身の学内での印象も劇的に改善されてとても良い思い出になったのだが、それはそれとして負けたことは悔しいし、敗因もしっかりと分析していた。
「波動さんだけの良さを探してそれをアピールするべきだ……って甲矢さんは言ってたね」
「うーん、私だけの良さってなんだろう? 飛べることかなぁ? 去年はいっぱい『波動』をだしてアピールしたから飛んでないし」
中学の同級生には評判悪かったからな……。「見下してる」とか言われたのって機会さえあればふわふわ浮かんで見下ろしてたからだし。もちろん波動にはそんなつもりは無かったが、多感な時期に勉強もできる顔の良い女から〝個性〟格差を見せつけられつつ空中から見下ろされながらノンデリ発言されて冷静でいられる中学生なんて居たら転生者かなんかだと思う。
「飛行はやっぱりインパクトがあるからね……問題は新斗さんも飛べるし、絢爛崎さんも飛んでもおかしくないってことかな……」
まぁ個人で飛行するサポートアイテムは命の危険がめちゃやべぇので認可がなかなか降りないのでそこまで警戒しなくても良いというか、想定はしておかないと動揺してしまうかもしれないので一応話した、という程度だが。メスガキの方はマジで何をしてくるか分からない。ついでに体育祭を見る限り普通に優勝候補というか……文化祭のミスコンにあの娘が出るよ、と広まればそれ目当てに人が来そうなレベルだ。今年は特にエンデヴァーの息子だのオールマイトの教師就任だのもあって超ホットなのでチケットの倍率は例年からさらに跳ね上がる見込みである。
「3人を比較すると波動さんはひとつ有利な点があるんだよね! 新斗さんと絢爛崎さんの強み、アピールポイントは同系統……ド派手で豪華絢爛! つまり!」
「……そうか! この二人は……票を奪い合う! 去年の波動さんと同じというわけか……!」
「おー! それなら確かに私が有利かも! ……ってなんかずるくない!?」
二虎競食の計だ……! ってかっこよく言えばいいと思うよ。あるいは天下三分の計。
「ず、ずるではないだろう……まぁ気をつけるようアドバイスをしてあげるくらいはしても良いかもしれないが……」
「気になるなら俺から言っておこうか! とはいえどちらも魅力をアピールしようとすると自然と似通ってきちゃうと思うからどれほど効果があるか分からないけどね!」
勝利とは何か? 単に票を多く獲得すればいいだけなのであればこれは勝利から遠のく行いだ。しかし、そうではない。波動が求める勝利とは……悔いや心残りのないものだ。だから、これは勝利のための行動なのだ。まぁ通形は「本人たちも分かっているか、もしくはすぐに気づくだろう」って思ってるけど。
「わぁい! やっぱり通形は頼りになるぅ~! ライバルは強敵だけど、今年こそ! グランプリを取るぞーっ!」
ふわふわくるくるしながら喜ぶ波動を見て、通形は思い出す。かつてメスガキに勝負を挑んだ時、彼女がとても嬉しそうだった事を。あの根本にあったのはきっと、寂しさだ。いわゆる強者故の孤独というやつだろう。正直に言って通形にはいまいち理解が出来ない心理である。だがきっと、波動ならば理解できるはずだ。つまりこの対決は、二人にとってはもう得るものしかない、ボーナスステージだということ。
体育祭でのメスガキの宣言が脳裏によぎる。いい言葉だ、俺もそうする! 実現してほしい未来のために、全力を尽くす!
「すいやせん。現状回収率は2割を切っちまってます」
難しそうな顔をして治崎と死柄木に謝罪する玄野。『個性消失弾』をできるだけ回収すると言っていたが、進捗は捗々しくないようだった。
「良く回収できたな。繋がりがバレないように慎重に流したとか言ってたからどこに流れてるか把握してただけでもびっくりだが」
「まぁ……もう隠してもしょうがねぇですし。トぶ準備のほうはどうです」
「えっ。じゃあなんだ、『八斎會』だと大っぴらに明かして回収した……ってコトか?」
弔くんびっくり。流石にそれだとすぐにヒーローや警察がここに突っ込んでくるのではないかと危惧してる。そこらの雑魚なら最悪ボコって逃げればいいだけだが、『
「さすがにそこまでは。ただまぁ、隠しきれてるとは思いやせんね。言いたかないですが……『八斎會』は終わりでしょう。どう終わらせるかを考える段階ですよ」
玄野はしれっと組の終わりを口にした。若頭補佐なのでこういう現実的な判断を伝えるのが役目なのだ。表面上は冷静に見えるが努めてそうしているだけで、内心は荒れ狂っている。
「……やっぱりそうか……そうかなとは思っていたが……これも俺のせいか……」
「……組が終わるのが辛いことなのは分かりやす。ですがね、死ぬってわけじゃあねぇんですから……やり直しましょうや。あんたならそれができるって、組長は信じてんですよ」
「バカガシラのナルシシズムに満ちた自分カワイソウごっこに加担するな、クロノ。治崎お前いい加減エリにも謝れよな。組長はお前の心情を慮って何度も言わないだけで、気にしてないわけじゃないぞカス」
トぶ……逃げる準備なんてものは死柄木たちにはない。黒霧が居るタイミングかどうかが全てだ。もうこの場所でやるべきことはそんなにない。組員たちがしてくれている今までのやらかしのとりまとめが終わり次第組長は警察に出頭するつもりらしい。この結論に至るまでに治崎と組長で見るに耐えない幼稚な親子喧嘩があったが割愛する。二人だけが知っていれば良いことだ。一つだけ言えるのは、組長はやはり親であった、ということだけである。今も組員たちのこれからのために各所に頭を下げに行っていてここにはいない。死柄木が施設ごと研究を買い取ったのでそれを組員たちの退職金というか功労金に当てる予定だが、金だけあれば問題ないってわけじゃないからな。
「ぐぅ……」
「なにがぐぅだ。何が『オーバーホール』だバァカ。『
治崎は甲斐甲斐しく世話を焼こうと組長の周りをうろちょろしていたが『オーバーホール』の結果痩せてる以外はクソ健康なので最初は鷹揚に対応していた組長についにウザがられてショックを受けた顔で仕事というか後始末に取り掛かった。
「わ、分かっている……」
「本当に分かってるのか? お前、ギリギリ蘇生が間に合っただけで2回も組員ぶっ殺しかけてるらしいな? 黙っててもらえてよかったな。組長だけじゃなく、組員全員がお前にまだ『期待』してるんだぞ」
まぁそれだけじゃなく組長がそれを知れば現在のように色々と準備をする間もなく即警察へ出頭していただろう、という事情もある。文字通り『死ぬほど』痛い目にあった組員は組のために沈黙を選んだ。
「……ああ。俺ほどじゃあないが、あいつらだって
ちょっと話が飛んだがこれはつまり治崎の脳内では『治崎を許す=組長の意向を尊重する』ということなので自然な帰結となる。「カッとなって最大の禁忌を破ろうとしたが思いとどまった」ということにしてくれた、という認識だ。分かりにくいが治崎は組員のことも大切に思っている。だがこいつの脳内では『組のために死ぬ=愛情を証明できる最高のゴール』なのでぶっ殺すことをためらったりしない。『殺人は悪いことだ』とちゃんと分かっている連合のファッションキチガイどもとは格が違う『本物』である。ただ、現在まだギリギリ一線を越えていないのは偶然にも助けられているが、組長の教えが心の何処かに根付いていたからでもある。
「しようもないマウントを取るな……」
「よっす、死柄木、治崎。連れてきたぜ」
呆れ果てた死柄木のもとにキメラがずるずると引きずってきたのは『八斎衆』の『
「……乱破を一蹴か……やるじゃないか」
「いやぁ、結構強かったぜ? あんなに殴られたのは生まれて初めてだ。けど結局のところただの打撃だしな。この程度で化物退治しようなんて甘えよ」
全力を出すまでもなかった。キメラにはさらにパワーが増す『うしさんもーど』(命名:エリちゃん)があるのでマジで余裕である。まぁ相性勝ちもあるけど。キメラはとにかく頑丈なのでそれを突破できない相手に負けるようなことはない。とはいえパッと見余裕そうに見えるのは無傷に見えるからなんだけど、体毛の下はちょいちょい青痣がある。
「ま、まだだ……俺はまだ死んでいないぞ……犬……」
乱破が意識を取り戻した。タフネス!
「命を粗末にすんなよ。お前が死んでも俺はどうでもいい。生きててもどうでもいい。どうでもいいんだから生きたほうがお得だろ?」
「違う……生きる事と死んでいない事は同じじゃない……俺を負かしたお前に無視されたら……死ぬよりも苦しい……戦いの中にあってしか俺は生きられない……」
そうか! 君は頭が悪くて他にとりえがないから闘うことでしか自尊心を満たすことができないんだね。かわいそ……。
「??? 難しいこと言わないでくれよ、わかんねぇ。また戦いたい……ってコト? でもお前卑怯者だしやだなぁ」
「……卑怯……?」
「銃とか刃物とかの武器なしで戦うのがいいとか言ってたから手甲外すのかと思ったらそのまま殴ってきたじゃねえか。ずるだろ」
「!? ……本当だ! 悲報……! 俺は卑怯者だった!?」
乱破の脳内ではこれは服の一部なので気にしてなかったし今まで戦ってきた相手も「拳を保護する防具なんだな」と理解していたのでツッコミはなかったが、キメラからしたら武器も防具も同じである。攻撃のための道具にしか見えない。ヒーローの
「乱破はバカだからな。狂犬のような男が死に場所を求めていると聞いたから会いに行ってやったのに、思ってたのと違った」
治崎は恩着せがましく言った。まぁこれじゃないってなるのは分からんでもない。乱破くんははた迷惑の擬人化みたいなやつだからな。ところで狂犬と『強肩』をかけてます?
「オバホ! お前にも負け続けてキメラにも負けて、俺ってもしかして弱いのか? 困ったな……今までやってたのは弱いものいじめだったんだろうか……俺……卑怯者……」
ズタボロのくせに真剣に悩みだした乱破を見てキメラはなんだか可哀想になったらしく励ましの言葉を口にした。
「まぁ……拳を保護するのは大事なんじゃねえか? 生まれつき持ってたもので競い合いたいってことなら……お前の体の一部で防具作れば良いんじゃねえの。髪の毛を編むとか」
いまいち励ましにならなかった。弱くないよ、とかそういうの言ってあげないと……。まぁここでそういう事言おうとすると「俺が強すぎてゴメンな」とかになっちゃうので言えなかったんだろうけど。
「……そもそもこいつら……『八斎衆』ってなんなんだ? 鉄砲玉が欲しくて洗脳しやすい奴らを探し回ってたのか?」
死柄木はなんか統一感のない──マスクで無理やり統一しようとした形跡のある雑な──集団にゲーム脳が刺激されて質問を投げかけた。ちゃんと設定を考えてるのか気になったらしい。組長が存在を知らなかったのでこいつらはここ一年で集めた急ごしらえの集団なわけで、しっくり来てないのはしょうがないといえばしょうがないのだが。
「失礼なことを言うな。オーバーホール様は世間に捨てられ生きる価値を失った我らを救ってくださり……『八斎衆』という居場所を与えてくださったのだ」
坊さんみたいな格好をした男……『
「鉄砲玉、結構じゃあないか。こいつのために死ねるなら本望だ」
「スポンサー様と言えど言って良いことと悪ぃ事があんだろぉ? 若頭はなぁ! 俺達に価値を与えてくれたんだよ! 闇の支配者の御曹司サマにゃあ分かんねぇよなぁ! 生きる価値を無くした人間の悲哀なんてよォ!!」
スキンヘッドの『
「……いいや。分かるぜ。自分が生きていることを肯定できなくなると……本当に惨めだよな。この世の全てが憎くなって、手当たり次第に攻撃したくなるよな。おい治崎……部下にはちゃんと言ってなかったのか? 俺があの男の『後継者』扱いされることが不愉快だと……」
その言葉には重みがあった。この共感がうわべだけのものではないと理解した八斎衆の面々も少し死柄木の印象が変わったようだ。
「すまない、そもそも会話の機会があると思っていなかった。こいつらは鉄砲玉……事が起こったときに組長や俺の代わりになって肉壁となるための存在だから、組織同士の会話に参加することなどないはずだったからな」
治崎は言外に「お前が急にこいつらと話したいとか言うからだろ」と嫌味を言った。道具として使い潰すとはっきり明言されたにもかかわらず、八斎衆の面々には一切の動揺はなかった。ごく当たり前のことを言っていると認識していた。
「若頭が謝ったなら俺も謝んなきゃあな。おい音本、あれ頼む。……すまねぇ、あんたが嫌がる言葉を選んだつもりはなかったんだ。許してくれ」
わざわざ仲間の〝個性〟を使ってもらったのは誠意というよりこいつが謝れない男なだけである。弔くんとおんなじだね!
「まぁいいだろう。二度と言うなよ。……本音を喋らせる〝個性〟だったか? 相当生きにくかっただろ、お前も」
「……ああ、そうだな。若に出会うまでの私は死んでいたのと同じだ。惰性で人を疑いながら生きてきた。だがここではそんな生き方はしなくて良かった。最高の場所だったよ」
しみじみと答えたのは『
「音本は俺等と違って若頭の横に立ててたからな。羨ましいぜ」
「また始まったか。ここでまともなのは俺だけなんだよなぁ! どいつもこいつもオバホのために死のうとしている! 少しは自分のために生きようとは思わないのか!」
乱破は八斎衆に全然馴染めていない。居場所を与えてもらった恩義とか一切感じていない。乱破は自ら居場所を捨てた男だからだ。ベクトルが違うだけでズレ度合いは大して変わらへんで、乱破くん。
「やっぱこいつクビにしましょうよ、若頭。あんたのために死ねないやつが同じ『八斎衆』なのは嫌です」
「お気楽な奴らだな。クビもクソも、組はもう終わるだろうが」
もはや見えている終わりだ。それなのにまだ繋がりが続くような事を言っていることに思わずツッコミを入れる。
「組が無くなっても俺達は八斎衆さ。若頭が俺達を必要としてくれる限り、ついていく。邪魔するやつは許さねぇ」
「この国には『結社の自由』がある。今まで通りの活動ができずとも、集まることそのものをなくすことはできない」
「ふーん……なるほど。組長の真似事か、治崎」
「……は?」
「ん? なんだ、無自覚だったのか? 『見捨てられた存在を拾い、居場所を与えてやる』。……そう考えるとお前なりの善意なのか、鉄砲玉扱い。お前が組長にしてほしい扱いだよな? 『恩人のために人生のすべてを使いたい』って感じの。こういう言い方するとそこだけは侠客っぽいな、お前」
「……ああ……そうか……そうかもしれない……」
治崎は『八斎衆』を使い潰すことに一切の疑問を持っていなかった。だって、治崎は
「お前本当に組長に『甘えすぎ』だろ。自分の願望ばかり押し付けて最低だな。そのくせ言葉にしてこうしてほしいとは言わない。害悪ムーブやめろ」
イグナイターくんも泣いてますよ、ブーメランマスター。
「特別な私! は昔から知っていましたよ。若が心から我々の幸せを願っていることをね」
ドヤ顔でそれっぽいセリフを言う音本。クズにはクズなりの絆がある。こいつらは特にそれが固い。治崎は組長の意思を曲解し自分に都合のいいように捻じ曲げたが、曲がっていない部分もあった。無価値な存在を憐れみ、居場所を与えてあげる。そのオリジンだけは、裏切れなかったのだ。
「はぁ~……あなたは良いわよねぇ、まだ若くて未来に希望がたっぷりで」
エリちゃんにクソみたいな絡み方をしているこの害悪女はぷっくりした唇が色っぽい『スライス』。ナインからブレーンとして頼られている、男に騙されガールである。ガール? いやまだギリギリガールで行けるよ、多分。
「みらいは……じぶんでよくするの……」
ここは死柄木弔のアジトの一つ。ナイン御一行のためにちょっといい場所を提供しているのだが、そこに壊理を預けているのだ。祖父と孫の時間を組長と僅かに過ごした後、壊理は完全に『八斎會』から離れた。
「そうね。私もおんなじ。私たちはこのクソみたいな世界をぶっ壊して、ナインをこの世界の王にするの」
悲報。スライスさんまた男に騙されてしまう。ナインに騙す気は一切ないけど、実現は不可能っすよ……。
「ナインさん……どんなひとですか?」
「え? 聞いちゃう? まずねぇ、とってもイケメンなのよ。そして何処か影があってぇ、それがまた堪らないの! そして何より……隠しているけどとっても優しいのよ! 私が男に騙された過去を知って、私を女として見ないようにしてるんだけれど……見てほしい~~♡」
悲報。ナインのブレーンは恋愛脳だった。何度も男に騙されて今度こそはと思ってもまた騙されて、ようやく騙さない、そもそもそんな発想がない
「おとこにだまされた……?」
「ええ。男女の痴情のもつれよ」
実際は詐欺師にカモにされた、のほうが実情に近いのだが、スライスはエリちゃんのためにぼかしてあげた。気遣ってそれかよ。
「だんじょのちじょうのもつれ……」
「ええ。うっふんあっはんすっぽんぽーんよ」
そこまでにしておけよ羽咲。子供に何吹き込んでるんだカス。茶化してはいるが『スライス』……『
「拙者はどうかと思うぞ、そういう破廉恥であけすけな話を子供にするのは……」
腕を組んで重々しく話しかけてきたのは『マミー』。全身に包帯を巻いたホタホタの実の包帯人間である。
「マミー……またキャラ変したの? 先月は
「忍者でござる。にんにん」
エリちゃん向けにおどけただけでガチで「にんにん」とか言ってるわけではない。服もまだ忍者っぽくしてないのでスライスには伝わらなかった。
「ふーん。まぁ包帯を操って騎士はちょっと無理があったものね。忍者ならまだマシかも」
お互いの〝個性〟の相性的に『スライス』がクソ有利なのでこの二人はよく組まされていた。そういった『安心要素』がなくては『スライス』はもはや人と関われないのだ。今でこそもうそういった警戒はないが、スライスは当初このエセ忍者……当時は路地裏の野良犬だった『マミー』の加入に反対していた。人を増やすこと自体に消極的だったし、男が増えるのも嫌だったし、なんかチンピラっぽくて役に立ちそうに見えなかったからだ。だがマミーは役に立つアピールをするためにナインへの忠義を示した。「わんはいぬですわん。お役に立ちますわん!」としょうもない媚びを売ったのだ。ナイン(動物好き)は「ええやん」と仲間入りを認めてしまった。しかし急ごしらえの忠犬キャラはキメラに劣っていた上に丸かぶりという最悪の選択だったのでマミーはキャラ変の必要性を感じ、御覧の通り迷走している。
「ござる……? にんにん……?」
エリちゃんは何でも気になるお年頃である。マミーのしょうもないキャラ作りにも興味津々だ。
「ござっ。ござざっ……これ良くねぇな。やめよ。拙者は
「…………」
「ぷっ。子供は正直ね。この子いいわぁ~、子供らしくてカワイイのに子どもの小生意気なところがなくて。……一体どんな育てられ方したのかしらね」
気まずそうに固まったエリちゃんの頭を撫でながら過去に思いを馳せるスライス。ちょっと母性が疼いてきてめっちゃナインに会いてぇ~ってなってる。もっと懲りろよ。
「……親に捨てられ、ヤクザのもとで拷問されていたのだったか。不愉快だな」
「ま、私たちが不愉快なクズと関わらなくてもいいように『死柄木弔』が采配してくれたのだから良しとしましょう。ムカつかない方のヤクザの情報網もある程度は掌握できたしね」
この二人はキメラに頼まれて『ナイン』の探索のための情報収集をしていた。犬顔の大男がそこら中くんかくんかしてるとクッソ目立ってすぐ噂になっちゃうからね。『人間の顔をしている』二人が絞り込み役というわけだ。
「ナインの実験……上手くいくのだろうか……」
「どうでしょうね。ただ、私の見立てではキメラが思うほど成功率が低いようには思えないわ。あの胡散臭い『一時帰還』をさせた目論見など見え透いているもの。私たちやナインに暴れてもらって『AFO』をタルタロスから脱獄させる隙を作りたいんでしょう」
単なる研究のための人体実験であれば社会の裏側とは言えわざわざ告知するはずがない。つまり『作品』を世に送り出すことが目的であろうから、技術そのものはすでに確立されているはずである。だからこそスライスもナインが実験の被検体となることを最終的には納得した。『〝個性〟強化および身体組成拡張概括実験』。ナインの細胞障害が治るだけでも万々歳だ。……そもそもナインの命は、風前の灯だった。賭けるしかなかったのだ。
「それに加えて……ニュースで見た『AFO』の顔……生きているのが不思議な負傷だった。まるで頭の上半分が吹っ飛んだみたいな有様……真の目的はあの治療だろう」
実験がうまく行ったとしても、最終的にナインはそのうち出てくるであろう『AFO』と世界の支配権をめぐって雌雄を決する運命にある。スライスが警戒しているのはこっちだ。つまり、その際に『AFO』を有利にするためになにかが仕込まれるのではないか、と考えている。『ドクター』はそういうことをしそうなやつらしい。ナインがどこまで目的を話したか分からないが、もし『ドクター』が目的を聞いていたら、あるいは知っていたら……なにもされないと考えるのは、少々不用心というものだ。最低でも釘刺し、できれば監視をしたい。最高の結果はドクターがナインのカリスマに感化されてAFOを裏切ってくれることだが……まぁ、望み薄だろう。
「そうね。『実験の成果』をどう使おうとしてるかなんて考えるまでもないわ。死柄木弔いわくずいぶんと他人を駒扱いするのがお好きなようだしね」
実験体の募集そのものはAFOが捕縛される前からされていたが、AFOが捕まった途端に『本格的に実験をするから面会謝絶になる。仲間に会ってくるといい』等と言われて、ナインは一端戻ってきた。AFOの捕縛により何らかの予定変更があったことは明白だ。
「いいじっけん……なんですか?」
エリちゃんが不思議そうに質問をしてくる。スライスは先程までの険しい顔を優しい笑顔に変えて穏やかに答えた。
「私たちのこれからが、意味を創るのよ。……自分たちの手で未来を良くする……あなたと、おんなじね」
「せんぱぁーい! 助けてくださぁーいっ!」
「まぁまぁまぁまぁ!! どうなさいましたの!? はしたないですわよ!」
メスガキは「だばだば」って効果音が出そうな無様な動きで決して走らず急いで歩いて3年生のラボにやって来た。波動に啖呵を切られたあとは不敵に笑ってドヤ顔で勝負を受けていたのにこれ。絢爛崎は後輩に慕われているのでサポ科の後輩たちもちょいちょい居たが、発目は居ないようだった。
「聞いてくださいよ~! ノンデリ先輩がボクと勝負したいとか言うんでぇ、種目選んでいいよってハンデをあげたんですよ~」
なぁ~にぃ~? やっちまったなぁ! ノンデリ先輩……波動のことだろう。去年の文化祭を境に一気に人気者になった彼女に対してそのように悪しざまに言う人間は絶えて久しかったので、ある主の痛快さにほんの少しだけ面白い心地になりながらも、絢爛崎は厳しい表情を作った。悪口も良くないし、もう一つ。
「なるほど。驕り高ぶっていたらアナタに不利な勝負になったということね」
「不利じゃないもん! あっちのずるだもん!」
まるで取り憑かれたかのように突然めっちゃもんもん怒り出して……子どものようだった。みなまで聞かずともやり取りの様子が目に浮かぶようだ。波動とメスガキが似ていることには絢爛崎も気づいていたのでぶっちゃけそもそもこっちはあんまり心配していなかった。通形が動いているのもあるだろうが、案の定解決は目前である。勝負の結果がどうなろうと……もはや壁は崩壊しているのだから。
「一体何をして競う事になったのかしら」
「文化祭のミスコンですよ~! ボクバンドもやりたいし、っていうかクラスの出し物も決まってないし、そもそも文化祭なんて初めてなのにぃー!」
メスガキは何でも出来るし、めちゃくちゃ強いが、なんでも知っているわけではない。知らないことには対応できないし、何をすべきかも分からない。砂藤くんならどうするかなぁデッキが使えないとこんなもんである。ミスコンに出る砂藤力道……完全にギャグ路線だ。メスガキの頭がもうちょっとおかしかったらそっちに舵を切っていたかもしれない。でもなんか普通に優勝できそうだな……ヒロアカ世界の住人ってそういうノリ好きそう(偏見)。
「あら……中学校では文化祭は開催されなかったの?」
「……合唱コンクールでしたぁ……」
公立中学校で文化祭をやる学校は減少傾向にあり、メスガキの通っていた学校も例に漏れず文化祭はなかった。絢爛崎はメスガキの話を聞きつつもテキパキとなんかのパーツを組み上げている。
「流石のアナタも未経験の物事にはいつもの自信が持てませんか。……良いでしょう! 後輩を導くのも美しく高貴なる
「わぁい! 先輩大好きーっ!!」
作業を中断……というより予定した分が終わったので両腕を広げていつもの豪華ポーズをする絢爛崎。それを見てメスガキはハグをしてくれると思ったらしくぱぁっと表情を輝かせて、あと物理的にツインテの先をチカチカさせて絢爛崎っパイに飛び込んだ。
「オホホホホホホホ!! よくってよ! よくってよー!!」
ぴょーんと抱きついてきたメスガキを優雅に受け止めた絢爛崎は高笑いしながらそのままくるくると回り始めた。サポ科でありながらかなり強靭な体幹である。別に抱っこしてあげるつもりはなかったのだが、慌てずに冷静に抱きとめた。人間が出来ている。あと絢爛崎はきちんとしてるのでくるくる回るスペースも十分にあるが、サポ科のキモオタどもは動線とか全然気にしないのでスペースが埋まって頻繁にぶつかったり爆発したりするので気をつけよう。あ、爆発回数ランキング第一位は発目明ちゃんです。一年生もまだ半ばなのにすでに雄英始まって以来の新記録。
「絢爛崎先輩……ご自分のミスコンはどうされるんですかぁ……?」
おずおずと絢爛崎の後輩である、サポート科の『
「えっ……!? 先輩も出場するの!? ライバルだったんじゃん!! 話が違う……!」
メスガキが絢爛崎に相談に来たのは最初に相談した
「絢爛崎先輩はミスコンの覇者だよ、新斗さん! 1年生で鮮烈にデビューして超新星のごとくグランプリを獲得ぅ! 2年生時はさらに派手になってあの波動ねじれさんを押さえて連覇ぁ! 燦然と咲き誇るサポート科の華、ミスコンの女王!! 今年もすごく気合を入れてて」
「舞奈」
「ひゃい」
余計なことは言わないでよろしい! という感じの圧を感じる笑顔に舞奈ちゃんは屈服して黙り込んだ。分からせ完了だ。やだもー! 絢爛崎先輩のマジ顔はマジ怖い!
「……先輩、あの、お互い頑張りましょうねっ!!」
「お待ちなさい」
抱きついていた絢爛崎から離れしょんぼり顔を無理に笑顔にした表情でメスガキは立ち去ろうとしたが、絢爛崎のクソ長いまつ毛に移動を阻まれた。
「黎乃さん。いえ、黎乃。私の指導は厳しいわよ。今までのようにただ可愛がってあげるだけでは済みませんわ。おわかり? 必ずグランプリを獲得しなさい。分かったのなら、この手をお取りになって」
呼び方が切り替わった。他科の可愛がっている後輩、というだけではなくなり、サポート科の後輩たちのように『指導』をするということだ。その表情には一切の妥協を許さないという気迫があった。すっと優雅に差し出された手をじっと見つめるメスガキ。
「…………絢爛崎先輩っ!! よろしくお願いしますっ! ボクはミスコンで……グランプリを獲るっ! 『美』でも雄英で一番だと証明して! 拍手喝采に包まれてみせるッ!!! 必ずそうなるッ! ボクたちがそう決めたからだッ!!!」
メスガキのぷにぷにおててにぎゅっと握られた感触を楽しみつつも、力強い宣言を聞いて満足気に頷く絢爛崎。彼女にとってもこれは良い機会だった。文化祭は体育祭ほどではないものの、世間への宣伝効果は絶大だ。1・2年のミスコン優勝ですでに『絢爛崎』というブランドは確立できたと言って良い。周囲の期待に応えるために今年も出場し、グランプリを獲得して有終の美を飾ろうとは思っていたが、当初の目標はすでに達成したあとのボーナストラックのようなものでしかなかった。だから3年で新たな試みを手掛けられるのは望外の幸運だ。ついに絢爛崎のお眼鏡にかなう『ヒーロー』が現れた、と言い換えても良い。彼女はこの流れにとても満足していた。『サポート科』の本来の役割は機械を製作することではなく……『ヒーローを支えること』なのだから。
独自設定とか
・メスガキ大戦:真幌ちゃんー!早く来てくれーっ!
・1年のミスコン:原作にて「最初は有弓に言われるまま出てみただけ」と言っている。
・カワイイ系で敗北:原作にて「ソレで去年まけたろ」と言われている。
・飛行は危険:体育祭の発目が技術的には飛べそうなのにジャンプ強化してたので……。
・チケット:原作と違ってお外からお客さんが来る。
・八斎會は終わり:原作でも多分クロノは現実が見えてて治崎は強がってるだけだと思われる。「治崎がその場にいない」で責任逃れが出来るかと言うと出来ません……。
・謝れない男:後回しにすればするほどきつくなるのが分かってても出来ないカス。
・治崎の殺人:レザボアドッグスも生かしてた(治療までしてあげてた)し組長寝かせた途端殺しまくるようなキャラでもないかなと。マグネ(生かしておくと交渉ができない)からタガが外れたと想定。
・乱破くん:切島殴れてるので布や皮(防具)じゃねえんだよな。カス!
・マスク:汚れ仕事をする奴らと同じ空気を吸いたくないからつけさせてるらしい。
・治崎もマスク:汚れ仕事の証を自分も付けてる。組長のために汚れてるということだと思われる。
・マスクの変化:治崎が普通のマスク(潔癖症)からペストマスク(汚れ仕事)になったのいつだと思います?答えは『壊理が来てから』です。原作を読み返す機会があったら治崎と玄野のマスクに注目してみると面白いですよ!
・つまり?:同じ空気を吸いたくない、の対象は壊理ちゃんです。自分直属の駒にも吸わせたくないということです。ケッペキショー!
・なァ音本…!嫌だよなァ…!?俺がこんなところで終わるのは!!:音本「めっちゃ嫌です!」
・音本 本当に良くやってくれたよ:音本「あざっす!!」
・お前なら俺のために死ねるだろう!?:治崎が自分勝手、ってシーンじゃないんですよこれ。クズどもの絆描写です。音本がもし聞いていたら自分のことをちゃんと分かってもらえてる!ってめちゃくちゃ喜んだと思います。
・映画のやつら:マミーは本名すら不明なのでだいぶ愚弄してます。
・〝個性〟強化および身体組成拡張概括実験:映画の冊子で出てる実験の正式名称。
・ミッドナイト路線:メスガキがそれでもミッドナイトに頼った場合マイクロビキニでぶっちぎりのグランプリ獲得して翌年から露出の規定が細かく定まる。
・ミスコン女王:善意90%打算10%くらい。このほうが盛り上がるわ!