ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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毎日定期的に更新したかった(過去形)


『友人とは、真の自分、なるべき自分になるのを手伝ってくれる人である』

 乙女みたいな誘い方で緑谷を昼食に誘ったオールマイト。USJで何があったかを緑谷に尋ね、その際に自身の後継者が「イレイザーヘッド」をドチャクソ褒めまくるのを聞いてちょっと傷ついた。(なん)ば傷つきよっとや! お前が遅刻するからやろうが! USJで身体張った男は誰や! 見ろや! 

 

「……という感じでヴィランは去っていきました。それで、新斗さんが死んでしまった、と思った時に心がぐちゃぐちゃになって……どうして動けなかったのか、とかもっと早く決断していればとか後悔でいっぱいになったあと、とにかく何かしなければと思って飛び出したとき、コントロールに成功したんです」

 

「なんと……! そんなことが……彼女は本当に規格外だね。しかし君は理論派だと思っていたんだが、もしかして感覚派なんじゃないか? というかアレだ。本来〝個性〟は「使おう」と思って使うものじゃないからな」

 

「あ……なるほど! その通りですね! そうか、余計なことを考えなかったからコントロールに成功したんだ! そもそも歩くときに歩こう、なんて考えないし、呼吸を意識しちゃうと上手く息ができなくなる! それと同じだったんだ! 出力も何も考えてなかったのに自然とその時の限界値になっていたからもうすでに体に馴染みつつブツブツブツブツ」

 

 最近はだいぶ慣れてきたが、このブツブツが始まると長い。いつまでも聞いていてあげたいが、時間は有限なのだ。

 

「……緑谷少年!! 私が平和の象徴として立っていられる時間はもうそんなに長くないと思う。だから君に! 頼みがある! 雄英体育祭! 全国が注目しているこのビッグイベントで! 君が来た! ってことを世の中に知らしめて欲しい!」

 

「えっ!? それはつまり、優勝を目指せ……ってコトですよね!? 気持ち的にはそのつもりですが……その……正直ヴィジョンが見えません……物理無効にどうやって勝てばいいのか……最終戦は毎年タイマンの直接対決ですから勝ち進めば必ず彼女とぶつかります……」

 

「あぁ……うんまぁ……いや! そうじゃないだろ! やる前から諦めてどうする! "Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)"だぞ!」

 

 彼女(あのレベル)と戦えとか学生に言うことじゃねえよなぁ、と言うのは俊典も分かっている。ぶっちゃけ勝つのは無理だろとオールマイトも冷静に判断している。だからといって気持ちで負けていてはどうしようもないのだ。

 

「オールマイトならどう戦います? 彼女と」

 

「うーん。無効化の仕組みを暴かないとどうしようもないよな。まずどういう理屈で無効化してるか探る」

 

 そう! 本人にも勝利するヴィジョンを描けていないのである! 究極の脳筋である彼は「まぁ殴ってるうちになんとかなるだろ」くらいしか考えていない。

 

「仕組みですか。恐らく衝撃の吸収だと思います。さっきの話で相澤先生の戦闘服(コスチューム)にやってたやつですね」

 

「ふむ。そうだろうか? 彼女は性質を付与している、と言っているのだから、同一の性質なら同一の結果になるはずじゃないか? しかし実際には相澤くんの戦闘服(コスチューム)は彼女本体ほどの防御能力はなかった」

 

「あ、確かに……。いえ、自分以外に付与すると効果が落ちるのかもしれません。以前聞いたんですけど、彼女は自分の服も〝個性〟で作っているそうなんです。つまり本当はそれが100%の力を発揮できるスタイルなんじゃないかと」

 

 盗み聞きしたわけではない。本人に〝個性〟について訪ねたら普通に教えてくれたのだ。

 

「ああ、たしかにその可能性もあるな。とはいえそれなら、とにかく殴りまくるかな。無効化ではなく吸収なら限度があるんじゃないか?」

 

 そう! 何も考えていないのである! とにかく殴ればなんとかなる。実際今までなんとかなったじゃん? くらいしか考えていない。

 

「あの……USJの脳ミソヴィランは地面をバキバキに砕いて陥没させるようなパワーで数百発は新斗さんを殴っていましたが、彼女は完全無視して棒立ちで口喧嘩を続けてたんですよ? オールマイトならともかく、僕がやるのは現実的じゃないです……」

 

「……ガチバトルじゃなくて、なんかルールのある形式だといいな! ポイント制とか! 場外とか!」

 

「オールマイト!? 諦めないでくださいよ!」

 

「相応に現実も見なくてはな」

 

「あああああああ!!!!」

 

「HAHAHA! マイトジョークさ! 実際問題、戦いながら調べるしかないね。君と当たるまでに他の人が暴いてくれるかもしれないし!」

 

「オールマイトは物理無効に類する個性の持ち主と戦ったことあったりしません?」

 

「あるぞ。武者修行で世界中まわったときに戦った。一定以上の威力の衝撃を無効化する〝個性〟でね。そこそこ苦戦したよ」

 

「そんなことが!? どうやって勝ったんですか?」

 

 口元がニヤついている。未公開エピソードの予感にわくわくドキドキが止まらない。クソナードはさぁ……。

 

「足首を掴んで気絶するまでぶん回した」

 

「……なるほど! 三半規管への攻撃、平衡感覚の喪失ですか! ブラックアウトまで行くとちょっと危険すぎますけど、掴めるなら勝機はあるかもしれませんね!」

 

 オールマイトは恐らく片手で振り回したのだろうが、緑谷の場合はジャイアントスイングのような形になるだろう。体育祭は戦闘服(コスチューム)なしで良かったとクソナードは思った。メスガキの戦闘服(コスチューム)はスカートなので色々とやばい絵面になるところだった。ジャージでもまぁまぁヤバいが緑谷は気付かなかった。

 

「できれば体育祭前に仕組みを確認しておくといい。何かわかれば対策できるかもしれないしな」

 

「え? どうやってですか?」

 

「ハグでもお願いしてみたらどうだい? HAHAHA! それがダメなら……さっき言ってただろう? 「以前聞いた」と。もう一度直接聞いてみたらどうかな」

 

「は、ハグは無理です……教えてくれますかね?」

 

 

 

 

 

「ボクが無敵だからだけど」

 

 放課後、保健委員である彼女はリカバリーガールの元へ幾つか荷物を運搬していたので、それに手を貸しながら雑談の(てい)で話を振ったら何の気負いもなく話してくれた。くれたが、聞いても役に立たない話だった。

 

「あ、うん。その無敵のメカニズムを知りたいんだ」

 

「メカニズムって。もっとカワイイ表現できない? 生まれつきこうなんだよね。ほらっ握手っ!」

 

「はわぁ!? やわっやわらかっすべすべでひんやりしててすごいきもちいい!」

 

 彼女の〝個性〟で荷物をひょいと持ち上げられて手をぎゅっとされた。女の子と握手するなんて初めてかも!? 緑谷は舞い上がり有頂天となった。思ったことが全部口からダダ漏れでかなり気持ち悪い。孤独な人間は独り言が増える。つまりそういうことだった。いや、それどころじゃない。期せずして『掴み』が可能だと把握できた! 

 

「え、きもちわる。そうじゃなくて力を込めてぐぐっと握ってみて?」

 

「んん!? なんだこれ!? 感触が返ってこない! 力を入れ始めた時はぷにぷにしてたのに! いや、今も表面はぷにってるけど中身がいくら押してもへこまない低反発枕みたいだ!」

 

「ぷ、ぷに……? レディの手をそんな幼児みたいな評価するあたり本当にキミってノンデリポップコーンの幼馴染って感じ! ボクを子供扱いしていいのはお父さんとお母さんだけ! 分かった?」

 

 緑谷なりに頑張って可愛く表現したのにこの言い草である。

 

「ご、ごめん……この能力? 仕組み? であのヴィランの攻撃を無効化してたんだね」

 

 さすがオールマイトだ。本当に違う仕組みだった。

 

「無効化っていうか、ボクが無敵だから大丈夫だったんだよ! あの程度のやつじゃ能動的に何かアクションする必要すらないっ! 今後はボクの心配とかしないように!」

 

「気をつけるよ……でも、心がけてもやっぱり心配はしちゃうと思う……」

 

「うーん……まだアピールが足りないのかなぁ? 早くオールマイトみたいに誰にも心配されない存在になりたい。ところで緑谷君、あの時飛び出してきたけど、勝算はあったの?」

 

「……ゼロではない、とは思ってたかな。後先考えなければ威力だけは自信あるから」

 

 お分かり頂けただろうか? 脳無が『ショック吸収』の個性を持っていたことは、誰も知らないのだ!! 当然『超再生』も知らない。イレイザーヘッドもメスガキも捕縛・拘束するスタイルのため、発動の機会自体がなかった。『オールマイト並のパワー』だけで十分恐ろしいので他にも能力があるんじゃ? などと考える余地がない弊害とも言える。おまわりさんがきっと頑張って調べてくれるだろう! しかし死柄木が先生への信用を下げたのも宜なるかな。役に立たねえじゃねえか! どうなってんだよ先生! 

 

「ふーん……もう聞いちゃおっかな。キミってオールマイトとどういう関係なの? 隠し子?」

 

「!?!? ななななな何の話? ぜぜぜんぜん分かんない!!」

 

「じゃあ勝手に喋るね。キミの〝個性〟ってオールマイトと同じなんでしょ? あのおじさん明らかにキミだけ贔屓してるし、親族なんでしょ~? 年齢的にそろそろ引退しようと思って同系個性が発現したキミを育ててるんじゃないの~?」

 

 ただオールマイトが雄英に存在するだけでメスガキにはこの程度の推理が可能です。如何でしょうか? 真相にわりと掠ってる。メスガキはオールマイトに幻想を持ってないので「なんとなく察しちゃったけど聞きたくねえなあ」とはならないのだ。気になったことはすぐ聞いちゃうの緑谷ちゃん。

 

「うぅっ……! ち、違うんだ……これはその……」

 

 浮気がバレた時のテンプレワードみたいな言い訳しか言えなくなる緑谷。爆笑ジョークの一つも飛ばせないダメ後継者。人間が出来ているみんなは聞かないでいてくれるだけで、バレてないわけではないのだから、もっと危機感を持て。人間が出来ていないメスガキはそういった気遣いはしない。

 

「何が違うの? 言ってみて。親子なんでしょ? ちゃんと親孝行してる? ボクの心配してる場合じゃないよね。怪我ばっかして心配かけてるんでしょ? ダメだよそんなの。ヒーローになるならまずは自分が幸せにならなきゃ」

 

「え?」

 

「基本でしょ~? キミは『幸福な王子』を読んだことはあるかなっ? ボクはあの話が大っきらいなんだ! 王子は満足だったかもしれないけどさぁ、ツバメはどうして死ななきゃいけなかったんだろうね?」

 

 オスカー・ワイルドの名著『幸福な王子』。街中に建てられた豪華な王子像に死んだ王子の魂が宿り、市井の苦しみを知る。自分で動けない彼は越冬する群れからはぐれたツバメに頼み、自身の宝石の眼や全身の金箔を貧しい人々に分け与えた結果、どんどんみすぼらしくなる。人々は喜んだが、やがて冬が来てツバメは息絶える。その瞬間、王子の鉛の心臓は真っ二つに割れてしまう。みすぼらしくなった王子の像は溶かされて残骸はツバメの骸と共にゴミ捨て場に打ち捨てられる。すべてを見ていた神は「この街で最も尊いものを二つ持ってきなさい」と天使に命じる。天使が溶け残った王子の鉛の心臓とツバメの骸を持ってくると神は満足し、王子とツバメは天国で永遠に幸せになった。

 

「ラストが特に嫌な感じ! 自己犠牲で死ぬことは何よりも尊い、ってつまり『大衆の奴隷になって死ね』ってことじゃん? 神様が居るならなんで神様は地上の苦しみを救わないんだろう? 天国で幸せに暮らす王子とツバメはもう地上のことなんてどうでも良くなっちゃったのかな?」

 

 言葉が出ない。心配をかけていることは知っていた。それでも体が動いてしまった。それはヒーローの資質だと、あこがれの人に認めてもらえた。だから……だから? 僕はどうすればいいんだろう。いつもニコニコしている彼女は今、明らかに怒っている。『リカバリーガール』にも先日似たようなお叱りを受けたばかりだ。

 

「王子は大衆のためにその身を捧げた。ツバメは愛する王子のために生命を使い果たした。君は自分を削り尽くす幸福な王子か? それともそれを助けようとして力尽きるツバメかな? キミのその鉛の心臓がキミの事を愛する人の献身をないがしろにしていないか、よく考えようね。二つに割れてからじゃ、遅いんだから」

 

 その時、校内放送が鳴り響いた。

 

『ヒーロー科1年A組 新斗 黎乃。保健委員の仕事が終了次第、速やかに職員室へ来るように』

 

「えぇ……いま気持ちよく説教してたのにぃ。緑谷くん、急ぎっぽいからこっちもお願いしていい? 保健室に誰も居なかったら机の上に置いといていいよ。職員室の用事が終わったらボクが戻って続きするから。ありがとうねっ」

 

「あ……うん、大丈夫。任せて」

 

 悲しいかな、クソナードはどんなに悩んでいても他人に頼られちゃうと嬉しくなって了承してしまうのだ。メスガキはキリッとした表情のまま颯爽と去っていった。もはや彼女の中ではオールマイト=緑谷の父になってしまったが、クソナードはしばらくそれに気付かなかった。ちなみに幸福な王子に出てくるツバメは男の子です。みんなしってるね。王子とキスするけど純愛だから。世界一ピュアな愛だから。素敵だね。サファイア取んのかよ! 

 

「来たか、新斗。……なんか機嫌悪いか? 大事な話だから勘弁してくれ。体育祭についてなんだが、おまえに頼み事がある」

 

 職員室でメスガキを待っていた相澤は、いつもヘラヘラしているメスガキが真顔なのを見て呼び出しに何かトラウマでもあるのか、と考えたが口には出さなかった。取り敢えず今は先程まで行われていた緊急会議での決定を伝えなくてはならない。

 

 

 

「やばくね?」

 

「やばいわよ!」

 

 それでは皆様まずはお手元の端末から資料をご確認ください、という感じでぬるっと始まった会議。資料の内容は先日のUSJでの事件の調査結果だ。各生徒が何処でどう戦い、どのように状況が推移したか。『脳無』の推定スペック。生徒たちの感想などが簡潔にまとめられている。先日既に警察の暫定調査報告は受けていたが、今回の本題は「体育祭について」である。

 

「改めて見てもやばい。襲撃自体もそうだが、この『脳無』がやばい」

 

「オールマイト並みのパワー、って本当なの? 実際に味わったイレイザーヘッドの感想はどうかしら」

 

「そう嘯くのも納得できる程度には異常なパワーでしたよ。新斗の〝個性〟の助力がなければ死んでたでしょうね」

 

「13号は本領じゃないのに良く生徒を守りきったな。素晴らしい」

 

「……いえ……正直ただの運だと思います……」

 

 13号(28)はなにやら考え込んでいる。「黒霧」と呼ばれていた『ワープゲート』の使い手のページを見ているようだ。

 

「どうした? 何か気になることでもあるのか?」

 

「敵の『ワープゲート』なんですけど……改めて考えてみると、どうして初撃のカウンターを外したのか分からないんです。僕はあの時焦りから迂闊な攻撃をしたので……」

 

「いくら未熟な生徒たちとはいえそれなりの人数に囲まれているんだから、相手にもプレッシャーがあったんじゃないか」

 

「うーん、そうなんでしょうか……?」

 

「犠牲者でなかったの奇跡だよな。チンピラどもはともかく、『脳無』と戦いになれば俺等でも危なかったかもしれねぇ」

 

 実際『脳無』が生徒たちと戦えば一撃でミンチだ。いや、教師陣でもワンパンKOだろう。もし『ミッドナイト』の〝個性〟である『眠り香』が効かなければ、それでも負けはしないだろうが数人死んでもおかしくない。

 

「ああ。あんなやつがまだいると思いたくないが、まだいる前提で対策するべきだろうな」

 

「で、その『脳無』を完封した生徒が例の怪物ルーキーか。末恐ろしい、などとんでもないな。もうすでに恐るべき強さだ。他の生徒たちの心が折れなければ良いんだが……」

 

「強さもだけど、高速で飛行出来るのが不味いわね。いえ、ヒーローとしては良いんだけど! 指名が偏りそうだわ」

 

「今年の競技だとまさに独壇場になるだろうな」

 

「障害物競走は言うに及ばず、騎馬戦もあの娘の〝個性〟なら騎馬ごと飛ばせるよな、これ」

 

「同じクラスの麗日……『無重力』なんかと組めば現状見えてる手札だけでも余裕だろうな。そしてあいつはまだまだ力を隠し持っている。あの余裕たっぷりの態度でわかる」

 

「そして最終戦は特に制限無しのタイマン。うん、今からでも全競技変更すべきね。現状のルールじゃ最終戦以外彼女に何の学びもないわ」

 

「言うのは簡単だが今更大幅な変更は出来んぞ。精々がちょっとしたルール追加ぐらいだろう」

 

 その時会議室のドアが開き、タブレットを持った根津校長が入ってきた。

 

「やあ、遅れてすまなかったのさ! 察するに今は新斗くん対策について話し合ってたんじゃないかい? いくつかアイデアを持ってきたから見てほしいのさ! データを送るよ」

 

 てしてしと画面に触れて会議室に居る教師陣の端末に資料を送る。いかにもパワポで作りましたって感じの突貫データではなく、エディトリアルで抜け感のあるハイクオリティなデータだ。フォントのカーニングからカラースキームまで、徹底したトンマナの管理がなされていて『クリエイター』としての矜持を感じる。インフォメーションのプライオリティがヴィジュアリィにストラクチャリングされており、これはもはや、一種のグラフィックデザインの『アンサー』であろう。

 

「これは……なるほど。何処まで効果があるかはともかく、見どころは作れそうですね」

 

「騎馬戦はルール増え過ぎじゃないですか? それに拘束禁止はちょっと露骨すぎる気がします」

 

「最終戦……ポイント制はあまり実戦的ではないと思うんですが。今のままで良いと思います。ここまで残る生徒なら気を遣ってやる必要もないでしょう」

 

「うーん、まぁそうかもな。興行としては最初が一番盛り上がりそうだ。でもこれ全員分用意するのが大変では?」

 

「最初から持たせるんじゃなくて、道中で獲得させるのはどうだ? 獲得できなければ脱落、ということで全員分用意する必要も無くなる」

 

「救助訓練用に似たようなものを出してるメーカーがありますよ。取り寄せて改造すれば制作時間を短縮出来ると思います」

 

「ヒーロー科はともかく他の科はついて行けないんじゃないか?」

 

「どうでしょう? むしろ地力の差が出にくくなって、相性のいい〝個性〟の持ち主が有利になりそうじゃないですか?」

 

「妨害にペナルティをつけたほうが良いかもな。判定が本人のみだと(ヴィラン)みたいな行動が正解になってしまう」

 

「判定が難しいんじゃないかしら。誰からの攻撃か特定できれば一番いいんだけど」

 

「100%は難しいかもだけどある程度は機械任せでいけるよ。ルール説明で直接攻撃を抑制しておけば運用できると思う」

 

「この『死亡ペナルティ』は『失格』にしたほうがいいな。このルールじゃあいつに無視されて終わる」

 

「無視って……60秒って致命的じゃないの? ……いえ、つまり1分どころじゃない差がつくのね?」

 

 教師陣は慣れているのでこの意識の高い資料を見ても「ロジックとデザインが高い次元でシンクロしていますね」などと褒め称えたりはしない。

 

「うんうん! みんなありがとう! ブラッシュアップしたデータを送るよ!」

 

「さすが校長! いよっ、ハイスペック~!」

 

「相変わらず凄いですね。助かります」

 

 一瞬で要点をまとめ、バランスよく調整した上に、それを即座に資料に反映するという神業を見ても、このような意識の低い褒め言葉しか出てこない。自分たちの見ている資料がどれほど高次元領域にあるか、おのれらがいかに上司に恵まれているか、分かっていないのだ。

 

「おお、先程の話がうまくまとまってますね。最終戦は変更無し、騎馬戦は初期トップだけ追加ルールですか。実質狙い撃ちですけど元からトップには圧をかける設定ですしいい塩梅かもですね」

 

「障害物競走……じゃないなもう。「レース」はルールが少々複雑化したが、まぁヒーローらしいものとなったな。今回の試運転で上手く回れば今後も使いまわしても良いかもしれん」

 

「このドローンなら新斗も妨害できるだろう。あわよくば飛行を諦めてくれると良いが……」

 

「塩展開感は薄まるでしょうが……やっぱりあの子がめちゃくちゃにすると思います。とはいえこれ以上は困難というより個人攻撃になってきちゃいますからねぇ」

 

 追加の意見が出ないのを見て、校長はバイオダイナミック農法で作られたシルバーニードルズの紅茶をクイっと飲んだ後、話をまとめた。

 

「そうだね! 彼女はきっとこれでも容易く飛び越えていくだろう! あ、そうだ、相澤くんから彼女に伝えておいて欲しいのさ! 選手宣誓をしてもらうから考えておくようにってね! ついでに『できれば体育祭では実力に相応しい配慮を望む』と『お願い』しておいてくれ! それじゃあ次はセキュリティについて……」

 

 

 

 相澤は少しだけ緊張していた。断られたらどうしよう。個人的には不合理だと思っているが、校長が言うからには何らかの思惑があるのだろう。教育者としての彼を信頼し、そのままを伝える。

 

「なんだ、そんなことですかぁ。分かりましたっ! 素晴らしい『選手宣誓』と『プロレベルの力と配慮』を存分にお見せしますよっ! というか元から魅せプするつもりでした!」

 

「あっさり納得してくれて助かる。お前がその気になったら全員縛り付けて全種目終わるからな。もし他の奴らに何か言われたら俺のせいにするといい」

 

「要はチャンス自体を奪うな、ってことですよね。負けてあげるつもりは流石にないですよ? 普通に失礼ですしね! こてんぱんにします!」

 

「ああ。壁になってやれ。ヒーローやってりゃ勝てない敵とも戦わにゃならんからな」

 

「USJでの先生はすっごくかっこよかったってみんな言ってました! ボクも見たかったなぁ~! 見てたならきっと……」

 

 メスガキはまだ気にしているようでいつもふわふわゆらゆらぴかぴかしているツインテがしんなりした。

 

「お前はできる限りのことをやった。あの『鎧』も本当はもっと頑丈にできたんだろう。そんなことはわかったうえで俺は言っている。お前が『全力』を出せないのは大人(おれたち)が不甲斐ないからだ。おまえのせいじゃない」

 

「……」

 

「どれほど強かろうがお前は雄英の生徒だし、お前の消せない〝個性〟を俺が恐れることはない。忘れるな」

 

 メスガキは笑顔になった。申し訳ないという気持ちは『抹消』され、感謝と尊敬で胸が満たされる。ちっちゃくてぺったんこなのですぐにいっパイだ。ツインテもいつものように元気を取り戻し、毛先がゲーミングPCみたいに変色しながらちかちか光りだした。

 

「……先生ってモテそうですねっ!」

 

「どうもそうらしいな。俺は女と付き合う気はないから困るだけなんだが」

 

 初見の印象が最悪だからあとは上がるしか無いのでイレ先はなかなかモテる。問題児には特にモテる。イレ先は生徒の雑談なんかに応えることはほぼ無い。しかし問題児とは良く話す。大抵の問題児はほっとくとやらかすので、沢山喋ってパーソナリティを細かく把握し指導に活かすのは重要なのだ。3年間もあればヒーロー科以外の生徒との関わりもそれなりにある。卒業が近づいてくると毎年一人か二人は告白してきて涙を飲むわ(ティアドリンク)! 

 

「ウソでもいいから結婚指輪つけてみたらどうですか?」

 

「もうやってみた。不思議なことにつけてたほうがモテるから外した」

 

 相澤はげんなりした顔で溜息をついた。何か嫌な思い出があるらしい。メスガキは相澤の嫌そうな顔を見てけらけらと笑いながら職員室を後にした。

 

「あ、リノ。大丈夫だった?」

 

「響香ちゃん! 心配してきてくれたの?」

 

 職員室を出ると丁度響香が職員室の前に来たところだった。メスガキの呼び出し放送を聞いて、決して走らず急いで歩いて駆けつけたのだろう。

 

「まぁそんなとこ」

 

 響香はちょっと照れくさそうにふいっと顔を逸らす仕草をしたが、メスガキは顔の方に回り込んできた。何度逸らしても回り込んでにやにやしてくる。機嫌はすっかり直ったようだ。

 

「……それで! 呼び出しはなんだったの? 話せること?」

 

「体育祭でスタート直後に全員拘束するみたいなのは辞めてくれ的なお願いをされたよ~。最初からやる気無かったけどね~」

 

「あぁそういうこと。ん? やる気無かったんだ?」

 

「雄英体育祭は興行でもあるから。見てる人が退屈しちゃうでしょ? 命がかかっているわけでもないんだから、楽しくしないとねっ!」

 

「う~ん、やっぱリノはウチより先を歩いてるんだなって突きつけられるな。見てもらうだけじゃなくて楽しませる、かぁ」

 

 響香は少し難しい顔をして悩みはじめた。彼女はかつて『ヒーロー』と『音楽』を天秤にかけ、『ヒーロー』を選んだ。選んだ道は助ける道。楽しませる道は捨てたんだと思っていた。しかし、もしかしたら両立できるのかもしれない。いや、両立を目指しても良いのかもしれない。

 

「リノってなんか趣味とかあるの?」

 

 そう言えば聞いたことがなかった。メスガキは響香や八百万のことを根掘り葉掘り聞いてくるが、自分の話はあまりしない。ん~、と少し考えてメスガキはにぱっと笑いながらポーズを決めて言った。

 

「お菓子作りかなっ!」

 

「お~? 意外なようなぴったりなような……あ、前に持ってきたお菓子ってリノの手作りだったりする? 家から持ってきたって言ってたけど」

 

「モモちゃんが紅茶持ってきてくれたときのマカロン? ふふふ……あれはなんと! スイーツ界のオールマイトの手作りだよっ! 美味しかったでしょ?」

 

「なんて? スイーツ界のオールマイト? うん、見た目も味もさっきまでフツーにお店のやつだと思ってたくらいレベル高かった。ねね、もっとリノのこと聞かせてよ」

 

 決別したはずの過去が追いかけてきたような、あるいは夢が蘇ったかのような、不思議な気持ちに浮かされた響香は迂闊な一言を口にしてしまった。その結果、心優しい彼女は「そのくらいで勘弁して」の一言が言えずにメスガキの自分語りを延々と聞かされるハメになった。

 

 

 




独自設定

・緑谷の力のコントロール:彼は結構テンションで生きてると思います。
・緑谷のナンセンス軽減:かっちゃんに続いて圧倒的自己肯定感ガールに接した影響。
・武者修行:AFOから逃げるために渡米したらしいので、独自設定で世界中逃げ回りつつ戦った(まだ弟子には言わない)としている。各国のトップに慕われてるから多分世界中回ったのは回ったと思うんだけど何処かで明言されてたら教えて下さい。
・警察の調査:後日塚内くんが複数個性持ちなことを報告しにきてくれます。
・相澤先生の態度:メスガキは危険物(デリケート)
・スイーツ界のオールマイト:自称ではなく他称。本人は動画サイトで『グラン・ニュート』と名乗ってレシピ動画などを出している。
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