ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!! 作:ぺぺぺぺぺぺぺ
緑谷メスガキおててにぎにぎ事件から2週間後、雄英体育祭本番当日の控室。八百万と体育祭について真剣に話し合っている響香の太ももにメスガキの頭が乗っている。膝枕だ。椅子に座っている響香の横に〝個性〟を駆使して人をダメにしそうなふかふかのクッションを作り、だらーっと体を預けたうえで、だ。「頭もウチの脚よりクッションに乗せたほうが良いんじゃないの?」と響香に聞かれたがメスガキは「これがいいの」と言って聞かなかったので好きにさせている。これはもう響香ちゃんにも問題あると思うんだよね。八百万は自分の脚にも乗せたそうにチラチラと見ている。
「新斗。ちょっといいか?」
声をかけてきたのはクラスで一番のイケメン少年である轟 焦凍だ。張り詰めた雰囲気で空気の抜けたふなっしーみたいになってるメスガキを見据えている。
「いいわけないでしょ……。ボクの幸せをぶち壊そうっての?」
「そうか……わりぃ」
引き下がってしまった。響香が「え?」という顔をして轟を見たが、彼はスタスタと緑谷の方に歩いていってしまった。そして何かわちゃわちゃ揉めだした。宣戦布告っぽいことをしたようだ。恐らくメスガキにもそうしたかったのだろうが、闇の陰キャである轟くんは女子のゆるふわ結界に弾き返されてしまった。微妙な雰囲気のまま開始の時間が近づき、ゲートに移動して呼び出し待ちの待機をしていると入場を告げる放送が聞こえた。その直後、緑谷がボソっと呟いた。
「了解オールマイト」
一同これには苦笑い。こいつ口縫い付けたほうが良いんじゃないか? 呼び出しの放送をしたのは「プレゼント・マイク」なので誤魔化しようがない。恐らくオールマイトとの何らかの約束を思い出し、独り言が出てきたのだろう。いよいよ知らないフリをするのも厳しくなってきたが、皆まだオールマイトを信じたい気持ちがあるのだ。隠し子なんて、あるはずがない。清廉潔白であってくれ。間違いなど犯していないと言ってくれ。縋るような思いがあったのだと、思う。嘘でもいいから……嘘って言えよ……。
「雄英体育祭! ヒーローの卵たちがしのぎを削る年に一度の大バトル! お前らご期待の奴らの入場だ!
マイクのよいしょを聞いてガラにもなく緊張する有精卵たちであったが、平常心の飯田や、逆にテンションを上げている爆豪など、特に優秀な生徒は面構えが違う。壇上にはミッドナイトが待機しており、鞭をふるいながら声を張り上げた。
「選手宣誓! 1年A組、新斗 黎乃!!」
爆豪が露骨にイラッとしてにらみつける(このニラ切れてねぇじゃねえか! と目ざとく見つけるほどのGANRIKI)というしょうもない威嚇をしながら、薄々思ってたけどやっぱりこいつが入試一位かよと今更な事を考えていた。ヒーロー科以外の面々は今年のヒーロー科入試一位が、難関試験で満点を獲得して偏差値が測定不能となるレベルの異次元の天才であることを聞いていたので戦慄しながら彼女を見ている。っていうか他学年にも有名である。つまり、相澤クラスだけが知りません。彼が担当するクラスはマジでそういう事が多いので他クラスと話が合わないことが多くて孤立しがちである。B組の担任のブラドキングは協調性を重視しているので他学年のことや学校の小ネタなんかもHRでよく話してくれるし先輩方にも頻繁に顔つなぎしてくれるが、相澤は必要事項の伝達が終わったら寝てしまうのだ。まぁ相澤からしたら黎乃の学力など「だから何?」で終わる話というのもある。彼がメスガキを指導する時に知っておけばそれでいいだけなのだ。いや……そうじゃなくて…… そうなんだけどそうじゃなくて……そうなんだけど……。
「宣誓! ボクは、幼い頃にかけられた温かい言葉を今も覚えています! 『将来はきっとすごいヒーローになれる』! その信頼がボクをここまで導いてくれました! 今日、この体育祭という舞台で、受けた愛情と教育の正しさを証明したいと思いますっ! 我々を愛してくれている人たちの誇りに恥じぬようにっ! 生徒一同が"
パチパチとそこそこの拍手が響く。まぁ毎年聞く感じの初々しい選手宣誓だ。校訓の"
「それじゃあ早速第一種目の発表行くわよー! 毎年沢山の生徒が脱落して
モニターに表示された種目名。それは……『レスキュー障害物競争』。
「今年はちょっとルールが多いわよー! 計11クラスでの総当たりレース! コースはスタジアムの外周約4Km! 上空は40mまで飛び上がってOKよ! エリア指定用のドローンが飛んでるから飛ぶときは注意しなさい! コースさえ守れば妨害協力なんでもあり! 順位は着順ではなく、タイムで決定するわ! そしてレスキュー対象は……『赤ちゃん』よっ!」
バーン! とモニターに表示されたのは赤ちゃんの姿をした人形だ。
「『高感度・多角負荷計測機 クライベイビー』! 衝撃以外にも様々な負荷を計測し、評価するわ! 丁寧であればタイムは減少! 乱暴であればタイムは増加! 一度抱えるか背負うかしたら個人と紐づくから途中で変更は不可! 他人が登録したものは奪っても無意味よ! 一定以上の負荷がかかれば即失格! ただ、持ちやすさの関係上赤ちゃんの見た目だけど頑丈さは『成人男性レベル』だから常識の範囲内で全力疾走しても大丈夫! 妨害による負荷がどう判定されるかはマスクデータ! その他にも隠しルールがあるけど『ヒーローらしい行動』が高評価の鍵ね!」
メスガキが一瞬でゴール、なんてことをしようとしたら失格になる。そういう目論見で採用されたルールおよび基準隠しだ。ヒーロー科はそういう感じね、と慣れているが他科はちょっと戸惑っている。
「計測終了は『登録されたベイビーと一緒にゴールゲートを通過した時』だから、置き去りは厳禁よー! 最初のエリアの各所に背負うタイプ、抱えるタイプの2種類の『ベイビー』が設置されているから好きなタイミングで獲得しなさい! 負荷が危険域、つまりタイム増加しそうになったら音声で教えてくれるから参考にするといいわ!」
「簡単にまとめると、コースの序盤で人形を拾い、そのまま人形を守ってゴールしろ、ってことだ。ヒーローらしくな」
「そういうことね! それじゃあ位置につきまくりなさい!」
爆豪はちょっと焦っていた。彼の賢い頭はこのレースが自分に著しく不利なことを開始前から理解してしまったからだ。ただ、もう一つ、認めがたい冷静な思考が奥にある。
(このルールならクソガキにも勝ち目がある)
彼は負けず嫌いだが生来の優秀さで既に正攻法では彼女に勝てないと悟っている。負けっぱなしで居るつもりはないが、現状を正しく認識しないと一歩も前に進めない。単なる速さ比べではないなら勝機はある。しかしレスキューはぶっちゃけ爆豪も苦手分野である。もっと人数が少なければ『ベイビー』獲得前に全員コテンパンにする、という頭の悪い戦法が選択肢に入るレベルでだ。とりあえず両手のフリーは絶対条件。つまり背負えるタイプを獲得できなければその時点で一位は絶望的だろう。目指すは一位のみ。安定志向で予選突破したほうがいい、という思考が頭をかすめるが、即座に破棄した。
(クソガキの速度や身体能力を全開にすりゃあ背負ってるのが大人でも死ぬだろう。一定以上の負荷っつーのは恐らくそういうレベル。そして上空40mなんて制限は飛べるやつにしか意味がねえ。とことんあのクソガキに全力を出させないためのルール。特別扱いってわけかよ。クソが!)
イライラしつつも頭は回転する。つまりこれは主役とモブを競わせるための制限ということだ。そして俺がモブの側だ。認めろ! どれだけ苦痛でも認めなければ始まらない! 今負けていることを認め、必ず勝つと腹を決めろ! 爆豪は決して愚かではない。しかし緑谷が関わると途端に阿呆になるので人生の七割はアホムーブしている。関わってなきゃもうちょっとモテたと思うよ。
「スタ────ート!!」
「爆速タ──ボ!!!!」
BBBBBBBBBBOMB!!! 周囲の生徒をふっとばしながら一気に先頭に躍り出る。くっそ狭いゲートでぎゅうぎゅうになっているのでこれだけで何人か脱落しただろう。ヘイトを貯めて背中を気にしなければならなくなるリスクがあるが、そんなのは爆豪にとっては今更だ。ルールからすると他人を気にせずぶっ放せるタイミングは今しか無い。初っ端から全開にしてスタートダッシュを決めたので早くも手のひらに鈍痛を感じているがここで詰まっていては話にならないのだ。
「さあそれじゃあ実況していくぜ! 解説アーユーレディ? 消ちゃん!?」
「黙れ山田。解説の相澤だ。さっそく先頭集団から抜け出した奴らが何人か居るな」
「やっぱり来やがったな! A組の奴らだ! 紹介するぜ! 空飛ぶダークエンジェルは先程の宣誓でおなじみ! 偏差値計測不能の異次元の天才! 新斗 黎乃だッ! 続いて地上を騒がしているボンバーマンは爆豪 勝己! それに続くは炎と氷を操るクールボーイ! 轟 焦凍だぜ!」
「新斗の〝個性〟は「ダークマター」。様々な性質を付与できる暗黒物質を自由自在に操る。あの飛行は翼で羽ばたいているわけではなく、浮遊する物質で背中を掴んで持ち上げているんだろう。それであの速度は目を見張る物があるな」
コースを曲がって見えてきたのは入試の時の1Pロボだ。両手に赤子を抱えている。本物の赤子ではないのでロボ側は雑な扱いをしたって良いわけだ。ご丁寧にロボの首に「←背負いタイプ 抱えタイプ→」とプラカードが掛かっている。
「わっ! カワイイ! ボクが抱っこしてあげるねッ!」
低空を飛びながら先頭を行くメスガキがはしゃぎながら仮想敵ロボを〝個性〟で縛り赤子を奪い取った。抱えるタイプだ。大事そうに胸(おっぱいではない)に抱えるとしゅばっと上空へ飛び上がった。
「……チッ!」
爆豪は一瞬だけ悩んだ。クソガキが拘束したまま放置していった仮想敵ロボの手には背負うタイプが取り残されている。この俺が、あのクソガキの、おこぼれを貰おうってのか? 頭に血が上るが、素早くロボから奪い取ると、背中に背負う。するとシュッと音がしてベルトが出てきて体型に合わせて巻き付いた。ジャストフィットだ。手段に拘れるのは余裕があるやつだけだ。俺にはない。屈辱で腸が煮えくり返るが、今は置いておけ!
「先頭集団はさっそくベイビーをゲットしたな! クレバーな爆豪は説明前に理解したようだが、背負うタイプは背中に当てれば自動で背負いヒモが出てくるぜ! このタイプは限定30体! 早いもの勝ちだっ! ただし、一概に有利とは言えないぜ! なんせ守るべき存在を『背中』に背負うわけだからな!」
「なんらかの防衛手段がないと攻撃され被害が出る。意図的でないものも含めてな。自分の〝個性〟とよく相談することだ」
爆破に巻き込まないように気をつけつつ更に加速する爆豪。赤子ロボを持っている仮想敵ロボは積極的には襲ってこないようだが、それなりに数がいるので避けなくてはならずクッソ邪魔である。
「さっそく来たぜェ第一関門! ロボインフェルノ! 大型仮想敵ロボ、『エグゼキューター』が12体だッ!」
入試の時の0P敵だ。全長は30mほど。飛行制限を守りつつメスガキはひょいと飛び越える。
「もちろん空もインフェルノ仕様! 鎮圧用飛行ドローン『インセプター』24機がお出迎えだぜッ!」
このドローンは五感を刺激し制圧する能力を持っている。すなわち、フラッシュバン機能。物理攻撃が通用しないと目されるメスガキのために用意されたものだ。ぶっちゃけメスガキ以外に飛べる生徒が居たらフラッシュバン機能はオミットされただろう。墜落して死ぬからだ。メスガキは落ちても死なないだろうし、他の生徒が巻き込まれる危険性もないので軍隊でも採用されている能力そのまま、600万カンデラと180デシベルの実戦仕様である。閃光と轟音が炸裂する。
「おーよちよち、だいじょうぶだよぉ~。ボクが守ってあげるからねぇ」
ノーリアクション。目を閉じないどころか、顔を顰めすらしなかった。メスガキの眼球も鼓膜も閃光・爆音では傷つかないようだ。胸(おっぱいではない)の内に収めているロボを〝個性〟で優しく包み込み、ドローンとすれ違いざまにローター部分を〝個性〟で拘束しながらきらきらとポップな星型のエフェクトをばらまいていく。何の意味もないただの虚仮威しのようなものだが、客席から歓声が上がった。
「アメイジ──ング!! どんどん撃墜していくゥー! 閃光も爆音もなんのその! 見た目も超! エキサイティン!!」
「落下位置にも気を使っているな。いや、そもそも落下じゃないなあれ。加速せず一定速度だ。縛ったあと降ろしているのか。器用だな。無意味なエフェクトまで出して、まだまだ余裕か」
一方地上では轟が0Pロボを凍結させ「タッタカター」と足元を走っていた。それに目をつけた後続の生徒たちが殺到しようとするが、不安定な体勢で凍結していたためグラリと傾きついには倒れ、轟以外の生徒は突破できなかった。
「1-A轟! 攻略と妨害を一度に! こいつぁシヴィー!!」
「大規模な制圧はあいつの得意技だな。偶然ではなく狙って起こしたものだろう」
爆破を駆使してロボの合間を抜け先行していた爆豪に轟が追いつき、凍結で足止めしようとするも、爆破に阻まれる。メスガキは空で『ベイビー』をあやしながら左右に蛇行し、全ての飛行ドローンを撃墜するとくるっと宙返りして中央に『STAGE 1: CLEARED♡』と表示されたピンク色のハートマークを出しカメラ目線でニッコリと微笑みウインクした。
「ヒューッ! 見ろよあの余裕を! エンターテイナーだな!」
「……まぁヒーローらしいと言えなくもないが……」
相澤はあまりお気に召さなかったようだが、否定まではしなかった。周囲に安心を与えるスタイルは人それぞれ。個人的に不合理だとは思っても、他人がすることを止めるほどでもない。向き不向きは誰にでもあるし、本人も楽しんでやれるならそれが一番いいからだ。
「しかしあの〝個性〟マジすげえな! 即席の看板たぁ恐れ入ったぜ! ファンシーな見た目とは裏腹に超オールマイティ!! 色も変えられるんだな!」
「発光させることが出来るらしいから、波長をいじっているんだろうな。ぱっと見の印象からはそう思えないだろうが非常に繊細かつ精密なコントロールだ。カメラロボの位置を確認したうえでレンズに水平に設置しているのも高度な計算能力によるものだろう」
地上でも激戦が繰り広げられている。他者の『ベイビー』に攻撃を加えた場合どのようなペナルティがあるか分からないため、間接的な妨害に留まるが、それでも様々な〝個性〟の応酬は例年と変わらず見ごたえのあるものだ。しかし実況は空のことばかり。当然のことだ。空を飛べる個性はなかなかレアなうえ、ここまで派手な事ができる1年生は史上初なのだから。むしろあれを無視して地上の実況などしても、生徒たちが惨めな気持ちになるだけだろう。雄英体育祭はプロヒーロー活動の縮図。強いもの、目立つものに注目が集まり、それ以外の存在など無いかのように扱われる。アピールは自力でしなければならない。教師たちが気を使ってまんべんなく紹介してくれるなどということは無いのだ。そう、注目は自力で勝ち取るものだ。ドゴッ! という轟音が響き渡り0Pロボが倒れる。
「1-A八百万だーッ! ありゃあ大砲か?」
「『創造』という生命以外なら何でも作れる個性の持ち主だ。作れるものは本人の知識依存。つまりこちらも〝個性〟が強いだけではなく頭脳も優秀ということだ」
後続が次々とロボを突破していく中、メスガキは既に空を飛び去っていた。第二の関門は綱渡り。つまり飛んでいれば無視できる。
「そうこうしているうちにスターエンジェルは第二関門突破だぁーッ! まぁこれは余裕だよな! 知ってた!」
「地形を無視できる浮遊や飛行は、移動の最適化において強力な行動だ。有用性はご覧のとおりだな。これを超えるとなると更なるレア個性の『ワープ』や『テレポート』が必要になる」
今度は『STAGE 2: Very Easy☆』という光の看板を残している。メスガキのイキりムーブは留まることを知らない。
「プロみてぇな気遣いだなッ! 画面映えまで気にしてくれてサンキュー!! そして早くもやってきた最終関門は……怒りのアフガンッ! 一面地雷原だぜぇーッ! 音と閃光からベイビーを庇いながら突破しろッ! ってやつなんだが!」
「まぁ飛行でスルーだよな。あいつが色々エフェクト出せてよかった。代わり映えしない画面にならずに済んだな」
「ゲートに注目だッ! 星の天使が会場に帰ってきたぜ……っておいおいそこは40mギリギリ……ってうお──ーッ!!」
メスガキは会場に設置されたタイム計測用のゲートには入らず、全身から大量に星とハートを発生させ、ぐるぐると螺旋状に上空に飛ばした。それは会場の上空中央でひとかたまりの大きな発光体となり、七色に変化した後弾け、会場全体に光と星のシャワーが降り注いだ。観客、特にお子様は大歓声だ。
「ファンタスティ──ック! 抱えているベイビーも大はしゃぎしてやがるぜッ! 今日一番ハッピーなロボだな!」
「これは……すごいな。俺もここまで出来るとは思ってなかった。見事だ」
メスガキはぱっと翼を消し、40mを自由落下した。観客が思わずどよめくが、あわや地面に激突するかと思った瞬間、ふんわりとしたハート型のクッションが地表に発生し、ぽよんと跳ねて抱えたベイビーと一緒にゲートを通過した。相澤と山田は少し切ない気持ちになった。かつての友人がああいったドッキリを好んでいたことを思い出したからだ。
「ゴ────ル! 暫定タイムは2分46秒! パフォーマンスの時間も考えたら時速100km超えの高速移動だッ!」
「ロボを抱えていなきゃもっと早く移動できただろうな。実際の最高速度もそのうち計測しておくか」
ゲートを通過した後もメスガキはベイビーと戯れている。ミッドナイトはそれをみてほんわかした気持ちになったが、後続へのルール説明のためにもロボを回収しなければならない。
「さぁ新斗さん! ベイビーちゃんはそこのボックスの中に入れておいてね!」
「……よちよーち♡いいこでちねーっ!」
「新斗さん! このボックスが回収用の箱よ! 新斗さん!」
「きゃふー♡」
「……新斗さん! 遠隔で電源を落としてあなたをがっかりさせるなんてことはしたくないわ! 分かってちょうだい! その子は……訓練用の……備品なのよっ!」
「ミッドナイト先生……どうして……どうしてこんな残酷な受難を……? ボクの未熟さを……分からせたいなら……もっと段階を踏んでほしかったです……」
「ああっ!! ごめんなさい! 私たちは貴方をいたずらに傷つけてしまったのね!」
おかしなメロドラマが始まった。ミッドナイトはメスガキをまるで聖母のように抱きしめ、頭を撫でている。メスガキはミッドナイトの豊満なおっぱい(胸ではなくおっぱい)に顔を埋め、一筋の涙を流した。わからせ完了だ。ミッドナイトは茶目っ気のある大人の女性なので、メスガキでは勝てない。幸いカメラは既に後続の選手たちに注目していたため、意味不明なお涙頂戴の茶番が衆目に晒されることは未然に防がれた。まぁ会場の観客はそれなりに見ていたが、お茶の間に放送されるよりはマシだろう。
「クソがあああああああっ!!!」
ノンデリポップコーン怒りの咆哮。プライドを捨ててまで勝利を目指したのに、自分が爆破で地道に……そう、地道に距離を刻んでいる間にクソガキはド派手にゴールしてしまった。そして、この咆哮は非常によくなかった。
「おぎゃああっ!」
爆豪の血の気が引く。背中のロボが泣き声をあげた。あげてしまった。タイム増加か、それとも事前の警告なのか、判別がつかない。まずい。泣き止まない。もしタイム増加なら致命的だ。クソガキのロボはあやすと笑っていた。……ありえねえ! 俺が! こんな! おもちゃに!
「オラァ! 飛行機だぞッ!」
爆破を少し工夫して、ふわっとした浮遊感を背中に与える。いけるか? どうだ?
「あーうー!」
赤子は泣き止み、喜びの声に変わった。簡単じゃねえか!
「しゃあっ!! 連続で行くぜッ!!」
もうこれしか無え!! 背中のクソ玩具を!!! あやし殺す!!!! 爆豪勝己は本当に頭の良いお方。飽くなき勝利への執念。勝利を諦めないことにこそプライドを持つのだと、覚悟していたがゆえの決断。
「トルネードだッ!!」
「きゃははっ!」
手の角度・爆破の威力・タイミングを調整し3回転ほどひねりを加えて飛ぶ。まさにセンスの塊。アドリブの天才。やると決めたら妥協はない。
「音をよく聞いとけよッ!!」
BOMB! BOMB! BOMBOMBOMB!! タイミングよくリズミカルに爆破を起こしそれに合わせ身体を左右に揺らす!!
「きゃっきゃっ!」
当然これらの爆破はあやすためだけのものではない。加速・移動・回避・防御・妨害を組み合わせた非常にテクニカルなものだ。一進一退を繰り返している轟を大きく引き離し、トップ(暫定2位)に躍り出る。
「おおっとォー!! 爆豪のやつ、マジかよ!! ベイビーをあやしながら加速してやがるぜ! 目まぐるしく入れ替わるトップから一抜けだっ! メディア好みの展開だぜぇ!」
「ほう……何でも出来るとは思っていたが……腹を決めたときの能力はやはり頭一つ抜けているな」
爆豪は確信した。「丁寧」と「乱暴」とは動きのことではない! 態度のことだ! 説明の順番・タイミングで勘違いさせる古典的な手法! 恐らく衝撃でのタイム増加は余程でなければ作動しないのだろう。少なくとも自身の全力機動では警告すら発生しない。しかし、怒鳴り声には過敏に反応し、泣き出した。自分の背中の玩具だけがだ。無駄に高性能だ。一体いくらかかってんだこのクソロボ!
「さぁ──ッ! 今度こそ来たぜ! 第二関門! ザ・フォ────ルッ!! 行き止まりもあるから気をつけろよッ!」
「まぁ要はただの綱渡りだ。崖下は一応特殊なクッションになっているから死にはしないが、変な体勢で落ちれば怪我位はするぞ。自信がなければ引くのも一つの決断だ」
のこのこ渡ってる暇はねぇ! 爆豪は縄を一切使わないことにした。爆破で飛び上がり僅かな足場を経由して駆け抜ける。
「やっぱり飛べるのは強えな! 災害なんかじゃまともな移動は出来ねえ事が多いから移動スキルが有るのは高得点だぜ!」
「爆音や衝撃には注意する必要があるけどな。だが大きな音を出せるのが強みになるケースも有る。なんにせよ使いようだ」
「おぎゃあーっ!」
「おーっとぉ!?轟のベイビーが泣き出したぜっ!一体どういうことだぁーっ!?」
爆豪は赤子の泣き声に一瞬ビビったが実況のお陰で少し後方の轟の背負っているロボからのものだと分かった。賢い爆豪はすぐに理由を察した。何もないのに唐突に泣き出したことから、おそらく低温だ。道中で使う氷はどんどんしょぼくなり、今もちびちびとロープを凍らせているから凍結に限界があるのは見え透いていたが、体温の低下という形で顕在化したのだろう。つまり成人男性が危険になるほど背中の温度が……ロボの体温が下がったということだ。
(……? なんで炎を使わねえ……? 走りながら使えねえほど練度が低いのか? しょーもな)
轟の評価を少し下方修正し自分のことに集中する。手の負担がそろそろやばい。汗の量が増えてきて火力が上がったのはいいが、初っ端の無理も相まってぼちぼち限界が近づいている。しかし爆豪はやはりセンスの塊。手の負担の最小化のために、指向性を強めた小規模爆発をタイミングよくこまめに刻みじわじわと加速する『省エネ版爆速ターボ チェイン・イグニッション』をこの場で編み出し、爆発を使いながら手を休ませるという離れ業をやってのけた。名前も今即座に考えた(彼のネーミングセンスは終わっているので時間をかけて考えるより即興のほうが良い)。その上爆破のテンポは80BPMになっており心地よい振動を背中に与え、背中の赤子をあやすことすら可能としている。彼は本当に頭の良いお方。
「爆豪すげえなオイ! 底なしかよ!? 最終関門! 怒りのアフガンでも全く勢いが衰えねえぞ!? あれだけ激しく動いてもベイビーが笑顔なのもグッド!」
「あいつの『爆破』は使いすぎると手に負担がかかるはずだが……何らかの改善をこの場で加えたようだな。大したやつだ」
やはり天才か……。足元を注視し『怪しい』部分だけ大きく飛ぶことで地雷を回避しつつ、更に加速し続ける。ミスして踏んでしまってもその爆風を加速に使うという、メスガキがいなければ間違いなくトップになれるカバー力。"
「暫定タイムは5分58秒! これも驚異的なタイムだぜぇーっ! 新斗が居なけりゃ前代未聞と言えるレベルだ!」
「後半今言う必要あるか? それ」
爆豪はゲートに飛び込んだあともクールダウンのために軽く流して走っている。その表情は真剣で、暫定2位への喜びは一切ない。会場もお茶の間もそれをどちらかと言えば好意的に受け取った。ストイックさが強調された形だ。その後轟がゴールし、ややあって常闇、Bクラスの角取がゴールし、続いてヒーロー科の生徒たちが団子になって駆け込んだあとは、ぽつぽつと普通科の生徒が来る形になった。この競技はそもそも『完走できるだけでもすごい』類のものであり、あまりやる気のない生徒などは第二関門で棄権しているし、やる気があっても地雷原で気絶していたりする。
「動ける生徒はこれで全員だな。ミッドナイトさん、結果発表をお願いします」
ミッドナイトはお茶の間に放送するにはギリギリな表情でメスガキをよちよちしてて聞いていない。
「……香山先輩!!!」
「わひゃあ! ……ハッ! ルールと確定タイムの開示ねっ!」
ミッドナイトはなんとメスガキを抱きしめたままで司会をしだした。
「事前の説明通り、ベイビーちゃんの判定により暫定タイムが増減するわ! そうして算出された確定タイムは! コレよっ!」
バーン! と巨大モニターに表示された1・2位の二人のタイム。『新斗 黎乃 0:00(基礎タイム2:46)』『爆豪 勝己 2:58(基礎タイム5:58)』
「ベイビーが判定していたのは事前に説明した負荷判定だけでなく『安心感』! 爆豪くんは分かりやすかったわね! 『ヒーロー』が冷静さを失い怒鳴れば、救助されたものは不安になり! 口調が荒くとも余裕を見せれば安心する! そういうことよ! 実は負荷は余程じゃなければマイナス判定は出なかったわ!」
「爆豪が移動の衝撃をエンターテイメントに変えたのは良い機転だったな。基礎タイムの差で結果を覆すまでは至らなかったが、減少タイムは同一、つまりどちらも上限の180秒を稼ぎきっている」
「なんで上限があるんじゃクソがっ!!!!」
爆豪が叫んだが幸いカメラには拾われなかった。そして……。
「それじゃあ3位以降も発表していくぜぇーっ! 3位も上限まで稼いでるぜっ! というか上限いっぱい稼いだのは1・2・3位の3人だけだなッ! 1-Aの緑谷 出久だっ! 優しく温かい励まし、行動を起こす前にこまめに説明と、ベイビーからの分析結果は最高評価! 基礎タイムの順位は9位だったがレスキューの基本ができてるなっ! 上限に引っかからなかったら一番稼いだのはこいつだぜぇ!」
緑谷は以前13号のレスキュートークについて行けなかったことで自身の無知を知り、自主的に勉強をしている。そのせいで見られていないオールマイト関係の番組の録画が増えてきたほどだ。録画自体は辞めない。絶対にいつか見る。緑谷の評価を聞いて爆豪は黙り込んだ。今彼に「上限があってよかったな」などと言えば世にも恐ろしい顔を見ることが出来ただろう。幸いというべきか、それができるメスガキはミッドナイトの腕の中で、その他やらかせそうな生徒も疲れ果てており、惨劇は未然に防がれた。
独自設定とか
・了解オールマイト:原作でもマジで口に出して言ってる。周りに人いるのに。
・偏差値測定不能:記念受験とかいっぱい居そうなので平均点が低くて100を超えたって設定。
・イレ先クラスだけ知らない:HRは寝る時間じゃねえぞ!
・グランドドレス:メスガキを地面に這いつくばらせたいという気持ちが形になった造語。
・クライベイビー:老舗メーカーが出してる救助用の赤ちゃんロボを改造したやつ。サポート科も改造に駆り出されてたので生徒たちはその気になれば事前に知ることが出来た。
・かっちゃん:雄英思ったよりレベルたけぇ……。
・オリジナルレース:原作よりつまらんと思うけどメスガキ居るのに原作のままじゃ雄英がポンコツに見えるから「雄英はレベルが高いんだなぁ」って設定ということでお願いします。
・解説の消ちゃん:マイクの依頼をメスガキがやらかさないか監視するために快諾。
・鎮圧用飛行ドローン『インセプター』:飛べるメスガキのためにアメリカから取り寄せて改造したやつ。1機につき1000万$。
・常闇くんの順位:イレ先の実況で俺も出来るじゃんって思った常闇くん。
・角取ちゃんの順位:B組のゆるい連携はレースが複雑だったので破棄されたため飛んで移動。同じく浮遊できる取蔭ちゃんはみんなのフォローをして原作みたいなタイムだがベイビーに頼りがいがあると判定され順位自体はアップしてる。
・友人のドッキリ:雲をクッションにするのは良くやってたので普段からそういう使い方してそうだなって。
・香山先輩:ちょい前に学生時代のことを思い出してるので「香山さん」ではなくこっち。
・緑谷くん3位:赤ちゃんがいるので地雷利用は無し。USJでの経験と2週間の訓練により既に4%フルカウルが出来るので博打しなくてもこの順位。
・クソナードがレスキューにお熱:USJの経緯が変わったので行動もちょっと変わってる。