リオの大冒険 ~ 紋章の指輪と冥竜王ヴェルザー ~   作:ギアっちょ

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鎧の魔剣 ver2 ―鎧化<アムド>―

 王都に戻った翌朝。

 レオナハイト隊の詰所に、ひとつの木箱が届けられた。

 

 蓋に刻まれた王印を見た瞬間、リオは眉を上げる。

 

「……カール王国」

 

 封蝋の赤は濃く、押された紋章は迷いなく深い。

 これはただの荷物ではない。王の意思が、ここにある。

 

 タイガが一歩前へ出る。

 表情は平静を装っているが、指先だけがわずかに強張っていた。

 

「……俺宛て、か」

 

 リンスが書状を受け取り、封を切る。

 文面は硬い。短い。だが、重い。

 

「カール王国より、パプニカ王国レオナハイト隊に派遣中の騎士タイガへ。

その護衛任務における功を認め、装備を下賜する。

本装備は試作品であり、運用を誤れば命取りとなる。

用いるに足る者であることを示せ。」

 

「“命取り”……」

 

 ニックスが肩をすくめる。

 

「ロン・ベルクの“親切”だろ。箱の中に答えがある」

 

 木箱の隅に、もう一枚。雑に折られた紙片が挟まっていた。

 封もない。筆跡は乱暴。インクは濃い。

 

 タイガが読み上げる。

 

「これは鎧だ。魔法もだいたい弾く。

だが金属だから雷は通るぞw

それで死ぬなら、お前の運が悪い。

使いこなせ。

――ロン・ベルク」

 

「……は?」

 

 リオが目を丸くする。

 リンスが口元を押さえて肩を震わせた。笑いを堪えている。

 

「ロン・ベルク様……煽りが強すぎます……w」

 

 ニックスは鼻で笑った。

 

「弱点まで書いてある。相当マシだ」

 

 タイガは紙片をじっと見つめ、ゆっくり息を吐いた。

 

「……“運が悪い”で済ませるなよ」

 

 だが文句のあと、ほんの少しだけ口元が緩んだ。

 

 

 箱の中身は、一振りの剣だった。

 

 柄は黒鉄。鍔は角張り、どこか“鎧”を思わせる意匠。

 刃は美しく、そして異様なほど“頑丈そう”だ。武器というより機構に近い。

 

「……鎧の魔剣」

 

 かつてヒュンケルが身にまとい、戦いの果てに消えた伝説の武装。

 それを――名工ロン・ベルクが作り直した。ver2。

 

 タイガが握った瞬間、重さの質が違うと分かった。

 単に重いのではない。

 “鎧としての重さ”が、剣の中に仕込まれている。

 

 リオが、目を輝かせて言った。

 

「それ……ほんとに鎧になるの?」

「……なるって書いてあった」

 

 ニックスが顎で示す。

 

「掛け声だ。ほら」

 

 タイガは一度だけ目を閉じ、剣を胸の前に掲げる。

 

「――鎧化<アムド>」

 

 刹那。

 

 剣が鳴いた。

 金属が擦れる音ではない。“変形”の音だ。

 

 刃が割れ、鍔が開き、柄の部品が滑るように動いて――

 銀黒の装甲が、タイガの身体に走った。

 

 腕。肩。胸。腰。脚。

 最後に兜が、カチリと固定される。

 

 そこに立っていたのは、騎士ではなく、鎧そのものだった。

 

「……すご……」

 リオが素直に呟く。

 

 タイガは指を握って開く。動く。動ける。だが――重い。

 

(慣れないと、踏み込みがズレる)

 

 強い防御は、代償を伴う。

 当たり前の理屈が、身体の芯に響いた。

 

 そのとき、詰所の扉が叩かれる。

 

「レオナハイト隊! 至急出動要請!」

 

 伝令兵の顔は青い。

 

「王都近郊の墓地で、死者が動いています!

 ……ただのアンデッドではありません!」

 

 ニックスの目が細くなる。

 

「教団の実験だな」

 

 リオが剣を握り、短く言った。

 

「行くよ。レオナハイト隊!」

 

 

 墓地は昼でも薄暗かった。

 雲が重く垂れ、冷たい風が墓標の間を縫う。

 

 そして、黒い霧――瘴気が、地面を舐めるように漂っていた。

 

 ガチャ……ガチャ……。

 

 土を押しのけ、骸骨が起き上がる。

 だが普通のスケルトンじゃない。胸の中心に黒い結晶片が埋め込まれ、瘴気が関節を“糸”みたいに引いている。

 

「……闇に生を受けし、アンデッド」

 

 リンスが息を呑む。

 

 さらに厄介なものが混じっていた。

 骸骨の指先が、パチパチと青白い火花を散らす。

 

「……雷?」

 リオが眉を寄せる。

 

 ニックスが即座に判断する。

 

「鎧の弱点に合わせた個体だ。わざと混ぜてきた」

 

 タイガは鎧の中で、苦く笑った。

 

(言われてた通り、ってわけかよ)

 

「タイガ、前に出られる?」

「出る。……出なきゃ始まらない」

 

 タイガは一歩踏み込み、鎧の重さを地面に叩きつけるように立った。

 

「来い」

 

 骸骨が爪を振り下ろす。

 タイガは受ける。――装甲に通らない。骨の刃は弾かれ、呪文の火や氷も、薄い膜に阻まれるように散った。

 

 だが次の瞬間。

 

 骸骨の指先から青白い稲妻が伸びた。

 

 バチッ!!

 

「――っ!」

 

 雷が金属を伝い、鎧の内側へ突き抜ける。

 痛みが走り、膝が一瞬だけ落ちる。

 

「タイガ!!」

 リオの声が飛ぶ。

 

 リンスが手を伸ばした。

 

「キアリク……!」

 

 ――まだ届かない。

 呪文が言葉の途中で揺れる。

 

 ニックスが畳みかける。

 

「殿下、雷持ちを潰せ! リンスは“抑えろ”。解除は狙うな!」

「うん!」

 

 リオが前へ出る。

 タイガは歯を食いしばって立ち上がった。

 

「……大丈夫だ」

 

 声は低い。痺れは残る。だが彼は笑った。

 

「“運が悪い”で終わらせてたまるか」

 

 タイガは受け方を変えた。

 耐えるのではなく、流す。

 鎧の重さで足を固め、雷の衝撃を地面へ落とす。

 

(崩れない。それだけでいい)

 

 彼が崩れなければ、殿下は踏み込める。

 そのための鎧だ。

 

 だが――それだけでは終われない。

 

 この敵は“生きて”いない。

 瘴気と核晶片が、命を偽装して動かしている。

 

(終わらせるには、“祓い”が要る)

 

 タイガの脳裏に浮かんだのは、祈りで仲間を守ったリンスの姿だった。

 そして、剣技で場の“汚れ”を断った感覚。

 

 同時に、胸の奥で別の輪郭が立ち上がる。

 

 ――地。力。

 ――海。速さ。

 ――空。光の闘気。

 

 それらをすべて揃えた者が、奥義に至る。

 

(……まだ遠い。だが、“空”だけなら掴める)

 

 タイガは息を吸い、剣を水平に構えた。

 闘気を刃にする。

 その闘気の“色”を変える。

 

 闇を断つための、光へ。

 

「――空裂斬」

 

 低い声。

 しかし飛んだ斬撃は、白かった。

 

 光を孕んだ刃が空を裂き、雷の火花を散らす骸骨を真正面から叩き割る。

 骨が崩れ、核晶片が露出する。

 

 そこへ、白い闘気が突き刺さった。

 

 ジュッ――と音がした。

 闇が焼ける音だ。

 

 核晶片がひび割れ、瘴気が霧のように散り、骸骨は“ただの骨”へ戻って崩れ落ちた。

 

「……効いた……!」

 リンスが息を呑む。

 

 リオは目を見開いた。

 

「タイガ……いまの、光……!」

 

 タイガは短く答えた。

 

「祓いの延長だ。……闘気を“光”に寄せただけ」

 

 ――言いながら、内心では震えていた。

 同じことがもう一度できるか、分からない。

 だが、“道”は確かに見えた。

 

 アンデッドたちが怯む。

 実験個体だ。指揮も粗い。連携も脆い。

 

 ニックスが即座に畳みかける。

 

「殿下、今だ! 数を減らせ!」

「うん!」

 

 リオが踏み込み、タイガが作った“光の裂け目”へ剣を走らせる。

 ニックスは小規模なバギで砂埃を巻き、視界を奪う。

 リンスの祈りが“鈍り”の悪化を抑え、踏み込みを支える。

 

 そしてタイガが、もう一度。

 

「空裂斬!」

 

 白い斬撃が飛び、アンデッドは次々に“終わって”いった。

 

 最後の一体が崩れ落ちたとき、墓地の空気がわずかに軽くなる。

 瘴気が薄れた。

 

 ――だが、墓標の影に、黒い粉が擦り込まれた小石が落ちているのが見えた。

 

 ニックスが拾い上げ、舌打ちする。

 

「……ここも仕込み途中かよ」

 

 リオが顔を引き締める。

 

「一箇所だけじゃない……」

 

 タイガは鎧の中で、ゆっくり息を吐いた。

 

(捨てていい場所だったってことだ。……つまり、他にもある)

 

 点で動く。試す。潰されても回るように。

 なら――こちらも、点を線にするしかない。

 

 リオが振り返った。

 

「タイガ、大丈夫?」

「雷は通る。分かった」

「“分かった”じゃなくて!」

「分かったから、次は対策する」

 

 タイガは少しだけ笑った。

 

「殿下が踏み込むために、俺は崩れない。

 でも……それだけじゃない。俺も、いつか“奥義”に届く」

 

 リオは一瞬だけ黙って、そして笑う。

 

「うん。頼りにしてるよ。護衛騎士さま」

 

 タイガは咳払いして顔を逸らした。

 

 ニックスがいつもの調子で締める。

 

「材料は回収。次は“本命”の足跡を踏むぞ、殿下」

 

 リンスが小さく頷き、胸の前で手を組んだ。

 

「……次は、私も“解除”まで届くように。必ず」

 

 雲の隙間から月光が一瞬だけ差し込み、墓標の文字を白く浮かび上がらせた。

 影は増えていく。

 けれど、それに抗う剣も、祈りも――確かに強くなっていた。

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