ある都市に小さな遺跡があった。その遺跡には弱い虫系モンスターが居る。
初心者用とも言える危険度たったの1。それだけの洞窟であったはずだった。しかしある日謎の階段が発見され、調査にBランクパーティ「霧雨の音色」が派遣された。
「いや!近寄らないで!」
その少女は満身創痍であった。
太い血管を守るように纏った鎧は溶け落ち、酸に耐性があった黒狼の革紐だけがその身を守っている。身体は焼け爛れ美しかったであろう白磁の肌はグロテスクに肉を晒し赤く染まっている。
少女が出会ったのはイエロースライム、酸の身体で捕食を行う高難易度モンスター。
そしてもう一体。
人を麻薬漬けにし苗床へと変える寄生触手型モンスター、カブトワームである。
モンスターとは人間を襲い喰らい繁殖、遊び、食事に使うような絶対悪。苗床を守る以外に人間へ背を向けるものなど皆無である。
しかし、カブトワームは少女に近づくも背を向け針を敵へ、「Liiiiiisyaaaaa!」とスライムへ向け『威嚇』を行った。
先に動いたのはカブトワームだった。ヒュンと音を立て鋭い針を慣れた尻尾捌きでイエロースライムのコアへと突き刺す。
イエロースライムはコアを最小限動かす事で致命傷足り得る針を避けた。次いでイエロースライムは体内の異物を排除する為に高濃度の酸を生成する。イエロースライムがカブトワームを捕食する体に染みついた狩りの常套句である。
通常であれば
しかしそのカブトワームは異常でありスライム狩りに慣れていた。その長く鋭い針でイエロースライムの粘液を掻き回しながら液体を針穴より注射する。まるでビーカーの中の薬剤を混ぜるようにコアを避けながらだ。それだけ行うと針を抜いた。
もしもイエロースライムに顔があれば「なんとバカな抵抗だろう」とせせら笑うような狩りの初心者が行う動きだった。このカブトワームは弱い未熟なものだ。そう決めつけ酸の量を増やした。酸の量を増やしてしまった。
するとイエロースライムは少し膨れ上がり動きを止める。体が痺れ思うように動かせないのだ。何が起きたのか理解が出来ない。もしや状態異常のスキル持ちの特殊モンスターだったかと警戒を増すが遅かった。
動きを封じられた。イエロースライムの核を支える高濃度の酸粘液は気化が始まり、核は媚毒ガスに包まれた。人に例えるならば血液に媚薬が混ざりぴくぴくとしか動けなくなっている状態と言える。
モンスターでは感じることのない甘い快楽は広がり達する。波が引けば核全体を炎で焼かれるような激痛が走り始める。抗おうと体内粘液を少しでも動かす。愚かなことでガスは揺らぎ快楽と苦痛が襲いかかる。全身に五寸釘が刺さりながら、とても耽美な快楽が身体から離れない状態と言えばイメージできるのではないだろうか。
傍目から見ればスライムが風船のように膨らみ動きを止めているだけに見えるだろう。しかしこれまで自分が自由に動かすことが出来た手足を動かせないかつ感度何千倍となり勿論痛みも感じるとすれば?そうこのイエロースライムには知性があった。感情があった。経験があった。だが今感じるそのどれもが理解できぬものばかり。思考が万華鏡のように色を歪ませ、核から響くノイズ音に心を壊した。
イエロースライムは産まれて初めて死を願い、終わらぬ地獄に耐えて耐えて耐えて耐えて達し耐えて耐えて達し耐えて達し耐えて達し達し達し、核が割れ、逝った。
美しく半円を描く核を見てカブトワームは満足そうに風船をつつき割った。コトリと核が鳴らした小さな音と一緒に少女は唾を呑んだ。
音をたてないように摺り足で後退していたが、何かに足をぶつけ金属音を鳴らしてしまった。
カブトワームは振り向いた。その恐ろしい針を少女へ向けながら振り向いた。
「Liiisya」
少女にとってその動きと鳴き声は「今からお前もこのようにする」という宣言に等しい。殺される、人として終わらされるとそう考える。武器防具も破壊されている。少女の少ない魔力では火球を作ることも出来ない。
ギルドの講習でカブトワームの生態、そして被害者がどうなるか少女は知っていた。とても少ない媚毒ほんの一滴に男女関係なく狂わされる。行く先は毒無しでは生きて行けぬ身体。膨れ上がる腹から悍ましきカブトワームが産まれる人生の終わりを知っていた。
恐怖が止まらない。死ぬのを覚悟しようとした。出来るわけがない。少女は生まれて15足らずの少女なのだ。せめて死ねれば楽になるだろう。そんな考えが少女の心を過る。
少女の判断は早かった。
生きていたい。仲間に会いたい。家族に会いたい。この世界をもっと謳歌したい。そして幸せになりたい。
――目から大粒の涙を流しながら酸で焼け爛れた身体を足を必死に動かした。身体に纏う革が傷に食い込み肉を締め付ける。その痛みが走る度にまだ生きているとまだ生きていたいと言葉が溢れる。声にならぬ声を流し、後ろから聞こえる「Liisya」という鳴き声が遠くに聞こえるまで必死に走り続け、彼女は先に逃した仲間の元へと辿り着いた。
彼女は生き残った。生きてその恐怖を人に伝えた。
あの恐ろしく強いカブトワームの事を。
一人は誓った。イエロースライムすら殺す魔物が地上に出てこないよう街を守る事を。
一人は怯えた。将来有望な自分より強い少女に恐怖を覚えさせ「あえて逃した」その知性高きモンスターに。
また一人、また一人と少しずつ話が広まり、その悪名が正しいかのように更に人が集まる。
そしてただの洞窟はダンジョンへと格上げされ、名付けられた。モンスター同士も殺し合う狂気の
そしてそのカブトワームにも名が与えられた。「ネームドモンスター・同胞喰らいのリイシャ」と。
そして彼が何度も称号を変えた頃に、少女と出逢う。
☆
いいことしたな〜。とガス抜きしたメロンソーダ味のスライムを食べながら今日を振り返る。
あの後スライム5匹くらい出てきて流石に庇いきれない所だったからアレで帰ってくれてほんと良かった。
この世界モンスターだらけで人間なんて殆ど存在しないと思ってたもん。良かった〜人が居て。ほんで可愛かった。でも傷だらけで可哀想だったよホント〜。
てかなんであの子の周りに光が浮いてたんだ?魔法か?モンスターをハントする人が使う虫みたいなもんか?覚えたいな〜こんな身だけど魔法は憧れる。止められねぇよ憧れは。
それはともかくモンスターになって計76睡眠中に(周りがずっと暗いので寝た回数で1日と見てる)蜘蛛みてぇなやつ、蟻みてぇなやつ、蛇みてぇなやつ、スライムしか見てなかったからホント眼福よ。ホントにね。脳に焼き付けました。
あの子ちゃんと帰れたのかな?どこ行くか分からないけど追いかけたほうがよかったのかな。いーや!スライムいっぱいいたし、駆除対象で消される未来が見える見える。
自己分析は大事。でもなぁモンスター使いみたいなのが居て、俺のことテイムしてくれる人いるかもしれないと思うと望みを捨てがたいよな。僕と契約してワーム使いになってよ!でも人に寄生とかしたくねぇから悪いことに使わないでね。子供に寄生とかいっちゃんやりたくない。反乱起こすぜ。
スライム半分食い終わりぃ。お、レベルアップした。テレレッテレー。不思議よな。倒すだけじゃなく食わないとしっかり経験値入らないんだぜ。倒すだけじゃ半分以下位しか手に入らないべ。
ちょっとステータス画面見るべ。いつもより多く食べたから経験値かなり貯まったでしょ。オラッ!転生特典のステータスオープン!
--------
名前:同胞喰らいのリイシャ
種族:カブトワーム
レベル:34→35(進化不可)
経験値:731/11003
HP 122/210
MP 165/237
力 20
魔 27→28
速 31→33
耐 25→31
運 28→30
スキル
【
【媚薬生成】Lv4
【毒耐性】Lv.MAX
【物理耐性】Lv.2
【鑑定の心得】Lv.1
【魔術の心得】Lv.1
【守護の心得】Lv0→1
称号
【転生体】
世界を巡りし者へ。
初期ステータス+5取得。
【鑑定の心得】Lv1取得。
【異端】
アナタは異端だ。
【魔術の心得】Lv1取得。魔ステータス+5取得。
【鬼】
アナタには素質がある。
進化分岐増加。
【慈悲】
アナタは慈悲深い。
クリティカル率10%UP
【慈愛】
それは相互理解への道だ。
【守護の心得】Lv1取得。耐ステータス+5取得。
【
-Unknown-
--------
なんか俺に名前ついてる……。そしてなんか変な称号が増えてる……。
今回ステータスの振り幅高くてウェーイ!とかおもてたのに……。まぁいいさ!慈愛の心あるもんね。
でもよぉ!同胞喰らいってなんだよ!俺あんなキモいの食ってないよ!多分同種のカブトガニは食ってないよ!
メロンソーダ食って心落ち着かせよ……。
さて我は満足じゃ。して気になるのはあの女の子が気づかず落としてった革袋なんすわ。スライムのせいでカラビナみたいなの壊されて落ちたんだろうね。それっぽい鉄の痕が付着しにけり。なんでか知らんけど革部分は溶けなかったみたい。でも革が残ってるのどういうこと?あのスライムが溶かさん素材っていっぱいあるの?怖。やっぱ俺達って雑魚なのか?
蝶のように舞い、箸のように刺す俺の尻尾で持ち上げるとズシリと重い。ついでにジャラジャラ言ってる。
ということは〜貨幣かも!外は経済が存在して、それを証明する為の国も存在してるのかな?見てぇよなぁ〜外の世界。
失礼して1枚取り出して、おっ銅っぽい匂いがする。尻尾の先で触れると凸凹が確認できる。これ彫刻だよね!目が悪い上に暗いからこの位しか分からないけど。
で、これ返しに行くか?俺もそろそろ外見てぇし。僕は悪い何かじゃないよって言いたいし。こんな寄生虫っぽいやつパラダイスから抜け出したい。はみ出したい。もう止められないの。
よし決めた!俺ここから脱出する!
と、その前に。穴掘って寝る!
それで、伝えたいよな。俺ほんとに悪いモンスターじゃないよ。って。せめて犬くらいの扱いしてくれたらいいよなぁ。
☆
リイシャには語らずとも分かる特徴がある。
人間としての知識を持っているということ。それは彼にとって一番最初の悲劇であった。
彼は産まれて直ぐに立ち上がることが出来た。そしておぎゃあと産声を上げることなく感覚器だけが反応を起こした。
彼は産まれて直ぐに母親を認識した。人間であれば産声を上げ、その者の乳を貰い育つはずであった。
彼は産まれて直ぐに
それは手足を切り落とされていた。逃げられぬよう根本近くから落とされていた。そして知識がある彼にこう印象付けただろう。――達磨のようだと。
それはおかしな程に腹を膨らませていた。きっと腹の中に居るのは人間でない事は確かだった。恐らく自分はそこから出てきたのかもしれないと。
それは声にならないような叫びをあげていた。潰れた喉から響く掠れた音。
それは確かに、悦んでいた。
彼の知識がソレを否定した。そんなものは認められない。正常な日本人としての知識が悲鳴を上げた。
彼の理性が認めなかった。ソレを絶対に認めてはいけないと心が警鐘を鳴らし続けている。
彼の常識がその
実際の行動までに身体が乾き、針は鋭く変化した。彼はそれを動かせることを理解した。
その短時間にソレが何かを産んだ。
彼は自分が一体何者かを、理解した。
カブトガニを知っているだろうか。カブトガニの血は極微量の毒素を検知できる為、人によって管を刺され血を抜かれている。それで沢山の人が助かるということだ。
そして血を抜かれたカブトガニは勿論死んでしまう個体も多い。彼の世界でカブトガニはそうして絶滅したと語られていた。
彼は自分をカブトガニのようなモノと理解した。そして度し難い化物ということも理解した。何故なら人をそのように並べているからだ。
母親は、
彼はこうするしかないと悟った。硬く鋭い針を慣れた手つきで自分の母親の耳に刺した。
混ぜた。声が聞こえた。掠れた声。恐らくは彼を呼ぶ声。それは彼を見ていた。彼を見ていたのだ。
テレレッテレー。彼はレベル3になった。
テレレッテレー。彼はレベル4になった。
テレレッテレー。彼はレベル5になった。
テレレッテレー。テレレッテレー。
それが彼に出来る最高の親孝行であり、慈悲である。その日から彼は
彼は自分を
1W1投稿出来るように虫の気持ちになります。
1/21 ちょと手直し