エイリアンは人間になりたい   作:にしきだ

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会議が踊らず即決断

「……リイシャダンジョンの報告を実施します。A級パーティ『夜露の誓い』から3名の行方不明者、A級パーティ『赤旅団』から重傷者1名。そして無断で潜入したC級パーティ『悠々者』の帰還者は無く、輝石反応のロストも確認。全滅です」

 

「特定ネームドモンスター・同胞喰らいのリイシャは最初期の遭遇以降、それらしき姿は発見できませんでしたが、スライムの『膜』や注射痕が見えるヒトキセイの抜け殻を6階から10階にて確認」

 

 淡々と美しい声から語られる潜入クエスト結果にギルドは静寂に包まれていた。

 

「報告はそれだけでおじゃるか?」

 それはそれは豪奢な服に抑えられた贅肉が、ウィンナーのようなその指で蓄えた口髭を撫でた。ギルドの冒険者達はその動き一つで苛立つが、領主であるそれに歯向かう事は出来ず奥歯を噛み締めた。

 

「あー、A級以上の冒険者でもダンジョンコアへの到達は難しいということです。確認出来たモンスターもイエロースライムにカブトワームとヒトキセイにブラッドウィドウ……。そして変異体と思わしき同胞喰らいのリイシャ」

 

 普段は冒険者を震え上げるその声が、今は恐怖により微かに震えていた。ギルド長である殲滅のアーケインは、この危機を理解していた。

 

「はい、どのモンスターも対処レベルA相当です。私は聖人による封印が必要と存じます」

 

 結界魔法、光による封じ込め。それはこの世界での人間の切り札であり、女神リリアが残した現存する神の奇跡だ。それ故に、使える者は限られた。

 

「しかし再臨祭も近い……聖人が来てくれる確証もないでおじゃる。――我らが土地は我らで守りきらねばならぬでおじゃるぞ?さて、どうするでおじゃる?ギルドの職員ら」

 

 その贅肉は怒っていた。何故なら報告も連絡も相談も無かったからである。実は贅肉は都度確認を行っていたのに対しこの仕打ちだ。

 

 ギルドは静まり返り、贅肉は2月前の事を夢想する。

 

 贅肉にはこれまでのストレスと経験と知識が詰まっていた。今回の騒ぎで贅肉が聞いていた事と言えば「新しいダンジョンが見つかったのでその申請」と「名前がリイシャダンジョン」と決まったことと言うことだけであった。

 

 ダンジョンが増えるということは、ダンジョンから色々なものが出てくるということだ。経済に影響が出る。そう領主による内政が関わる。

 新しいダンジョンには人も集まる。人が集まれば経済も回る。その経済を円滑に回すための下ごしらえが重要だ。

 

 贅肉は虫が居たということを聞いていた。虫の活用を調べ、それを商いにしている商人や錬金術師等を調べギルドが円滑に動けるようにと体制を整えた。

 

 贅肉は領内にダンジョンが増える事で多忙を極めており、その他の点について確認するのが遅れたという面もあるが、まさか危険度10のダンジョンが領内に発生しているということを他所から来た商人から聞くとは思ってもいなかったのだ。

 普通であればギルド長、ないし副長が館に押し寄せ「大変だ」と相談に来るべき内容である。領民からの人望が無いことを悟り一人涙した。

 

 因みにその日はステーキを2kg食べた。過食である。

 

 それから贅肉は帝国へ改めての報告、各部署への連携、騎士団の装備や給金の調整。危険ダンジョン保有に関する国の免除申請と領民への一時的な税の低減政策を行うなど追加で多忙を極めた。

 以降食事について更に凝った。シェフの雇用が増えた。

 

 つまりである。贅肉は既にブチ切れ直前であった。もしもダンジョンが出来なければ色々と学ばせるという名目で倅や妻と小旅行に出るつもりであったのだ。

 

 学園に通うようになってから数少ない倅との小旅行をとても楽しみにしていた贅肉はそれはもう馬車馬のように働いたというのに、報告連絡相談が無かったせいでそれが無くなった。

 

 この贅肉は貴族である。良き貴族である。領民には決して感情のままに怒りを発露する事はないだろう。例え領民からハゲデブカスと罵られようと、愛する妻との大恋愛を否定されようともだ。

 

 しかしモンスター、モンスターだけは許さなかった。そもそもモンスターがいるせいでこれらの仕事が増えたのである。

 

 その為、こんな暴挙に出た。

  

「磨呂ら騎士団にてダンジョン入り口、地上階の閉鎖を行うでおじゃる!ギルド長よ、Sランクパーティを高額報酬にて募集をかけよ。費用は磨呂が出す。聖金貨5枚まで使って良い。それ以上は磨呂でも厳しいでおじゃるからな。シスター。聖人への呼びかけを頼むでおじゃる。それと倅の保護も忘れずにの……ホホホ。血湧き肉踊るのう」

 

 その言葉は虚勢である。誰でもそう考える事が出来た。しかし凄みがあった。怒れるデブには迫力がある。

 

 贅肉でたるんだ身体、魔導も僅かにしか使えぬ欠陥貴族。イエロースライムの酸一滴でも死ぬであろうイモムシ以下の戦闘力しか持たないクソザコハゲであるが、黒曜石が如き美しい精神を持った領主シソマロ・タケチが立ち上がった瞬間であった。

 

「さあ始める(殲滅)でおじゃるよ」

 弱き領主の一声で、怯えた戦士達の心に日が灯った。太い腕で持ち上げたタワーシールドは頼もしく写る。

 

「アテクシも行くザマス」

 魔導使いの偏屈者、ザーバラも声を上げた。彼女の魔導ドローンが鈍い音を立てながら小隊を作る。

 

「ふむ……我が強い者たちばかりだ。私も同行しよう」

 悪霊砕きのゴウリョウもバトルメイスを携え声を上げた。

 

「……うるせぇ」

 そして殲滅のアーケインもその勇気に当てられ、大木のような槌を片手にリイシャ・ダンジョンへ向かった。

 

 

 そして地上階に、それが居た。

 

 

 ★

 

 

 あれからもう134睡眠か〜長いような短いような。

 でも、そろそろ出られるかもしれない。そう思うと気力が湧いた。

 今どこに居るのかなんて分からないけど、少し光が強いような感じがする。なんだろ外の光かな。でも……なんか匂いがする。清涼感を感じるミントみたいな匂いに、血の匂い。

 

 人の血の匂いがする。

 

 身体を動かす。その匂いが濃い場所へ進む。そして俺はカブトガニと久しぶりに人間に出逢った。

 

 カブトガニは人間に針を向けている。ということはだ。お前は人間じゃないんだな?見ないようにしてたのに、もしかしたらカブトガニに俺みたいな知識があると思ってた。無いならさぁ。殺すしかないよね。

 

 スキル致命の一撃(クリティカル)起動。次いでスキル見敵必殺(ロックオン)起動。針を引き絞り「Liisya(潰す)」射出。

 

 レイピアを突き刺すイメージ。パイルバンカーで突き穿つイメージ。俺が出来る精一杯の殺しのイメージで、カブトガニを潰した。

 これらと同じ身体を持っていると考えるだけで反吐が出る。もっとこう……妖精さんみたいな生き方しようぜ!俺もほら、エイリアンの妖精さんなるし!

 

 っていっぱいいるね。

Liisya(おやすみ)

 

 でも慣れないよな。殺しって。いんや人襲おうとしたモンスターだけど自分と同じ大きさのものを殺すのに慣れちゃダメだよな。

 

 弔いとしてせめて食いたいところだけど。だけど……!その前に!

 

lisya(俺は悪い虫じゃないよ!)

 

 命乞いの時間だ。きゅるるん。

 エイリアンじゃないよ。妖精さんだよ。

 

 

 ★

 

 

 リイシャダンジョン地下何階層かも分からない場所。彼らは死に体であった。

 ブラッドウィドウの群れから逃げるために階段を降りたが、その先にはカブトワームの群れがあった。

 トレインしぶつけ合わせ、彼らはダンジョンの窪みに隠れた。

 

 ここのモンスターは、モンスター同士で殺し合うが、同種は殺さない。部族争いでもしているかのように戦い合っている。

 まるで呪術の蠱毒のようだとアーケインが溢していた事を彼らは思い出していた。

 

 争いは終わりカブトワームが生き残った。その隙に彼らは階段の元へと駆け上がっていれば、行方不明になどならずに無事帰ることが出来たかもしれない。

 しかし彼らには今必要なものがあった。それがブラッドウィドウが出す蜘蛛の糸である。

 

 この蜘蛛の糸は肌に触れさせるだけで解毒が行なえる。そして今モンスターから仲間を守るために盾になった青年ユードリックから、毒によるチアノーゼが確認された。もう猶予は少ない。それでも諦めたくはなかったのだ。

 

 ブラッドウィドウの腹から糸を取れれば、青年ユードリックは助かるであろう。少し時間はかかるだろうがその毒はしっかり消え去ることだろう。

 

 しかしカブトワームは鼻が効いた。自分たちの群れにブラッドウィドウを連れてきた不届き孕み袋を逃すわけがない。

 

 汗の匂い、血の匂い、それに吸い寄せられるようにカブトワームの群れは集まった。袋小路にカブトワーム達はちょうどよい大きさの孕み袋を見つける。

 雄がニ体に雌が一体。素晴らしい収穫だ。いなくなった他のカブトワームを補充できる上におまけまで増やせる。

 毒により倒れた戦士、魔力が切れた魔術師、そもそも戦闘に適さない荷物運び。彼らはもう満身創痍だ。

 繁栄しよう!繁栄しよう!そして我らが支配しよう!カブトワーム達に喜びが広がる。

 

 だが愚かにもカブトワームは人間に気を取られ過ぎだ。

 

 このダンジョンはリイシャダンジョンである。

 

潰す(Liisya)

 

 杭が降ってきた。それはもう針と呼べず杭が正しい表現であった。1匹の大きなカブトワームの甲殻と内臓は貫かれ、地面に小さくない穴を作った。

 

 しかしカブトワームは一匹ではない。「群れ」である。十匹、二十匹の「群れ」である。

 カブトワームがブラッドウィドウに勝った要因の一つがこれだ。数による暴力。そしてブラッドウィドウに劣らない媚毒が勝敗を分けた。

 

 繰り返すが、ここはリイシャダンジョンである。

 

 「杭」から「針」が伸びリーチが増える。杭が元々20cmほどであれば針は30cm。カブトワームの体長が平均70cmであることから考えると、その大きさは異常である。普通、針は20cmがいいところだ。

 

 その異常な長さを振り回す体長40cm、尾を含むと110cm、そして針を含む全長160cmのリイシャは、繰り返す。

 

 「異常」である。

 

 リイシャは針による薙ぎ払いを行い、カブトワームらの針を斬った。

 優秀な戦士、ユードリックでも目で追うことが精一杯の速度で流れるように毒を注ぎ、針を杭に戻した。

 

おやすみ(Liisya)

 

 その鳴き声と合わせるようにカブトワーム達が崩れ落ちる。時間にして2分とかからなかっただろう。

 

 彼らは理解する。これがリイシャであり、リイシャダンジョンであると。

 ソレが振り向き、こちらを見つめる。

 

 

 そして腹を向け「lisya」と鳴いた。

 それはリイシャの最大の媚び方である。

 

 

 一旦彼らはブラッドウィドウ糸の確保に向かった。

 とてつもない強者が、こちらに媚びてくる事からの逃避である。

 腹を向けたままのリイシャは悲しそうに「lol」と鳴いた。

 女神ナナリーがそれを見ていたら、きっと「草生える」と御言葉を残すだろう。

 

 --------

 

名前:同胞喰らいのリイシャ

種族:カブトワーム

レベル:47(進化可能)

経験値:8622/38890

 

HP 322/402

MP 465/486

 

力 33

魔 40

速 43

耐 41

運 37

 

スキル

致命の一撃(クリティカル)】Lv.MAX

見敵必殺(ロックオン)】Lv.2

【媚薬生成】LvMAX

【毒耐性】Lv.MAX

【物理耐性】Lv.3

【鑑定の心得】Lv.3

【魔術の心得】Lv.2

【守護の心得】Lv.1

 

称号

【転生体】

世界を巡りし者へ。

初期ステータス+5取得。

【鑑定の心得】Lv1取得。

 

【異端】

アナタは異端だ。

【魔術の心得】Lv1取得。魔ステータス+5取得。

 

【鬼】

アナタには素質がある。

進化分岐増加。

 

【慈悲】

アナタは慈悲深い。

クリティカル率10%UP

 

【慈愛】

それは相互理解への道だ。

【守護の心得】Lv1取得。耐ステータス+5取得。

 

異常(パラノーマル)

-Unknown-

 

--------

 

 

【献神ナナリーの御言葉】

虫モンスターとしては、及第点と言ったところ。

是非デスキャンサーに進化して、その身をしゃぶしゃぶとして捧げてほしいです。

 

【護神ムカデの御言葉】

魔法・スキルをほぼ使わずに戦闘が出来ているのは良いが、一撃必殺に寄せすぎている。要努力。




倅は元気いっぱいな8歳。来年からニルドランド神聖帝国初等学校に親元を離れて入寮予定。太り気味な父、痩せ気味な母の丁度中間で整ったショタである。
入寮後容姿無双をする。

1/7 なんかサブタイトルが二重の極みしてたから直したよ
1/21なんかおかしいところ直したよ
2/3 辻褄合わせしたりして
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