その夜、ルジェの従者にして乳兄妹ロサは、薄い毛布を頭まで被っていたが、自身の心臓の音があまりに大きく、眠りにつくことができなかった。
ドクン、ドクン、と。
肋骨を内側から叩くような激しい鼓動が、全身の血を沸騰させている。
(……ルジェさま)
目を閉じると、瞼の裏で数時間前の光景が鮮明に再生される。
夕暮れの納屋の影。
不意に背後から回された腕。
驚くほどの強さで、肺の空気が絞り出されるほどきつく締め付けられた感触。
幼い頃から姉弟のように育ってきた。肌が触れることなど日常茶飯事だったはずだ。
だが、今日のあれは違った。
背中に押し付けられたルジェの胸板は、記憶にある華奢な少年のものではなく、硬く、熱く、そしてロサを「逃がさない」という強烈な意思を帯びていた。
***
少女は無意識に、自分の二の腕を抱きしめた。
ルジェの腕の感触を、自分の手でなぞり直す。
すると、身体の奥がカッと熱くなった。
「……ぁ」
ため息とも喘ぎともつかない息が漏れる。
どこかが痒いわけではない。どこかが痛いわけでもない。
ただ、下腹部のいちばん深いところに、熱い鉛を流し込まれたような、ズシリとした重みがある。
苦しい。重い。
けれど、その重みは決して不快ではなく、むしろ脳が痺れるほどに甘美で、ロサをその場に縫い止めていた。
(あの方は、お疲れだったのだ。心細くて、私に甘えたかっただけ)
ロサは必死に理屈を探した。
自分は従者だ。彼の剣だ。彼が弱みを見せられる唯一の身内として、支えてあげなければならない。
あの抱擁は、信頼の証なのだと。
だが、身体は理屈を拒絶する。
鼻の奥に蘇るのは、ルジェの匂いだ。
汗と、鉄と、革の匂い。そして、かつてのミルクの匂いとは違う、鼻腔を刺激するような刺々しい雄の獣の匂い。
それを思い出すたびに、太ももの内側がじわりと湿り、下腹部の重みが増していく。
だが、ルジェのように、何かを擦って吐き出せば楽になるという知識を、ロサは持っていない。
男たちのように、何かを攻撃して発散する術も知らない。
全身の皮膚が粟立ち、シーツが触れるだけで敏感に反応する。
胸の膨らみが張り詰め、衣擦れだけで電流が走る。
身体中が「何か」を待っている。
さっきの少年の腕よりもっと強く、もっと深く、自分を乱暴に扱ってくれる「何か」を。
(私は……なんてはしたないことを)
ロサは赤面し、枕に顔を埋めた。
主君に対して、こんな動物のような火照りを覚えるなんて不敬だ。
けれど、想像をやめられない。
もし、あのままルジェさまが腕を解かなかったら?
もし、あの熱い唇が、私のうなじに触れていたら?
出口のない熱は、ロサの体内を循環し続け、逃げ場を失って骨盤の底に澱んでいく。
それは「恋」と呼ぶにはあまりに肉体的で、けれど「性欲」と呼ぶにはあまりに切ない。
結局、ロサはその夜、膝を抱えて丸まり、正体のわからない甘い鈍痛に耐えながら、主君の夢を見るしかなかった。