レアネリア戦記(書きかけ、チラ裏、AI利用)   作:湯木一栄

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第12話 裏切る肉体Ⅲ

 その夜、ルジェの従者にして乳兄妹ロサは、薄い毛布を頭まで被っていたが、自身の心臓の音があまりに大きく、眠りにつくことができなかった。

 ドクン、ドクン、と。

 肋骨を内側から叩くような激しい鼓動が、全身の血を沸騰させている。

 

(……ルジェさま)

 

 目を閉じると、瞼の裏で数時間前の光景が鮮明に再生される。

 夕暮れの納屋の影。

 不意に背後から回された腕。

 驚くほどの強さで、肺の空気が絞り出されるほどきつく締め付けられた感触。

 

 幼い頃から姉弟のように育ってきた。肌が触れることなど日常茶飯事だったはずだ。

 だが、今日のあれは違った。

 背中に押し付けられたルジェの胸板は、記憶にある華奢な少年のものではなく、硬く、熱く、そしてロサを「逃がさない」という強烈な意思を帯びていた。

 

 ***

 

 少女は無意識に、自分の二の腕を抱きしめた。

 ルジェの腕の感触を、自分の手でなぞり直す。

 すると、身体の奥がカッと熱くなった。

 

「……ぁ」

 

 ため息とも喘ぎともつかない息が漏れる。

 どこかが痒いわけではない。どこかが痛いわけでもない。

 ただ、下腹部のいちばん深いところに、熱い鉛を流し込まれたような、ズシリとした重みがある。

 苦しい。重い。

 けれど、その重みは決して不快ではなく、むしろ脳が痺れるほどに甘美で、ロサをその場に縫い止めていた。

 

(あの方は、お疲れだったのだ。心細くて、私に甘えたかっただけ)

 

 ロサは必死に理屈を探した。

 自分は従者だ。彼の剣だ。彼が弱みを見せられる唯一の身内として、支えてあげなければならない。

 あの抱擁は、信頼の証なのだと。

 

 だが、身体は理屈を拒絶する。

 鼻の奥に蘇るのは、ルジェの匂いだ。

 汗と、鉄と、革の匂い。そして、かつてのミルクの匂いとは違う、鼻腔を刺激するような刺々しい雄の獣の匂い。

 それを思い出すたびに、太ももの内側がじわりと湿り、下腹部の重みが増していく。

 

 だが、ルジェのように、何かを擦って吐き出せば楽になるという知識を、ロサは持っていない。

 男たちのように、何かを攻撃して発散する術も知らない。

 

 全身の皮膚が粟立ち、シーツが触れるだけで敏感に反応する。

 胸の膨らみが張り詰め、衣擦れだけで電流が走る。

 身体中が「何か」を待っている。

 さっきの少年の腕よりもっと強く、もっと深く、自分を乱暴に扱ってくれる「何か」を。

 

(私は……なんてはしたないことを)

 

 ロサは赤面し、枕に顔を埋めた。

 主君に対して、こんな動物のような火照りを覚えるなんて不敬だ。

 けれど、想像をやめられない。

 もし、あのままルジェさまが腕を解かなかったら?

 もし、あの熱い唇が、私のうなじに触れていたら?

 

 出口のない熱は、ロサの体内を循環し続け、逃げ場を失って骨盤の底に澱んでいく。

 それは「恋」と呼ぶにはあまりに肉体的で、けれど「性欲」と呼ぶにはあまりに切ない。

 

 結局、ロサはその夜、膝を抱えて丸まり、正体のわからない甘い鈍痛に耐えながら、主君の夢を見るしかなかった。

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