寒風が本格的に吹き始めた翌日。
フラジュトフ谷の中央広場には、武装した男たちが三百名ほど集結していた。
彼らは皆、自前の、あるいは夏の労働の対価として家長から借り受けた
「
部隊長の裂帛の号令が響く。
ザッ、ザッ、ザッ!
数百の足音が一つに重なり、雪を踏みしめる。
男たちは即座に密集し、隣の者と肩をぶつけ合い、盾の縁を鱗のように重ね合わせた。
「構えッ!」
ドォン!
三百の盾が同時に打ち鳴らされ、一つの巨大な「壁」が出現した。
***
「全員そのままァ! 静止!」
三百の戦士たちの織りなす盾の壁。
その壁の前を、当主シロヴァがゆっくりと歩く。
その目は、獲物を探す狩人の目よりも厳しく、そして冷徹だった。
彼は時折足を止め、戦士の盾を力任せに蹴りつけ、あるいは槍の柄で兜を殴りつけた。
「ぐっ……!」
若者が呻くが、足は一歩も引かない。隣の仲間が即座に身体で支え、壁の歪みを修正する。
「……ふん」
シロヴァは無言で次へ進む。
これは「検品」だ。
セルウィの傭兵が高値で売れる理由は、個人の武勇ではない。「決して崩れない」という商品価値、ブランドにある。
一人でも恐怖に駆られて逃げ出す者がいれば、そこから壁は決壊し、全滅する。
だからシロヴァは、自分の目で確かめねばならない。装備は基準を満たしているか。盾は脆くないか。そして何より、肝が据わっているか。
基準に満たない者、装備が貧弱な者は、容赦なく列から外される。
彼らに待っているのは「荷物持ち」や「雑用係」、「軽歩兵」への降格だ。
信用あるセルウィ傭兵の一人として契約されるか、雑用として雇われるか。その給金と略奪品の分配率は、まさに天と地ほど違う。貧しい次男坊たちにとって、この検査は人生をかけた瀬戸際だった。
***
検査は半刻にも及んだ。
寒風の中、直立不動で耐え続けた男たちの髭に、うっすらと白い霜が降りている。
最後の列を確認し終えたシロヴァが、広場の中央に戻った。
全員が息を呑み、その口元を見つめる。
シロヴァは、ニヤリと笑った。
「…………ヨォシ、今年は全員合格だ!」
一瞬の静寂。そして、爆発。
「オオオオッ!!」
「やったぞ!」
「稼げる! これで稼げるぞ!」
歓声があがり、盾を叩きならして抱き合う者もいる。
厳しい選別をクリアし、一人前の「セルウィ戦士」として認められた誇りと、これから得られる富への期待が、広場の温度を一気に上げた。
「浮かれるなよ、野郎ども!」
シロヴァが雷のような声で引き締める。
「平原の騎士どもに、北の戦士の強さを骨の髄まで教えてやるんだ! 準備にかかれ! 出発は三日後だ!」
「応ッ!!」
その熱気の外側で、ルジェとロサはシロヴァの横に控えていた。
ルジェはまだ、この壁の一部にはなれない。
だが、シロヴァの客分として、この精強な群れと共に平原へ降りる。
(これが……冬遠征)
ルジェは身震いした。
恐怖ではない。
この巨大な暴力装置が動き出す瞬間に立ち会えることへの、抑えきれない高揚感だった。