レアネリア戦記(書きかけ、チラ裏、AI利用)   作:湯木一栄

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歌詞はぜんぶAI生成なのでどこの歌でもないです


第3話 戦の神様移り気だ

 ルジェは、荷物の重みに耐えながら、前を行く戦士たちの背中を見つめた。

 彼らは笑い、野望を語り、生命力に溢れている。

 

 ――だが、この中の何人が、義足のガズや、顔の爛れたベックのような戦場帰り(ブロークン)になって戻ってくるのだろうか。

 はたまた、五体不満足でも生きて帰れるだけ、彼らは幸せな部類なのだろうか。

 

 平原で死ねば、死体はその場に置き去りだ。所詮は国家ではなく共同体が主催する数百人ばかりの遠征隊、わざわざ遺体を運んで帰る余裕など彼らにはない。死んだ者たちの肉は平原の獣の餌となり、骨は異国の土になる。

 

 戻ってくるのは、遺品だけだ。

 死んでも、その装備と、途中までの戦利品は、戦士団を統括する氏族長を経由して確実に家へ届けられる。逆に、恐怖で逃げ出せば、その責任と賠償請求は故郷の家に向かう。

 

 彼らは、文字通り一族の運命を背負って歩いている。逃げ場など、最初からないのだ。

 

 ***

 

(あのガズが、ベックが、そして名も知らぬ多くの戦士たちが、人生の全てを賭けて挑み、そして敗れていった冬の遠征……)

 その過酷な契約の重さを、ルジェは荷物の革紐が食い込む肩の痛みと共に噛み締めた。

 

 彼らの野心は、単なる強欲ではない。

 自分自身の死体さえも「資本」として計算に入れた、一族の存亡をかけた切実な祈りなのだ。

 

(身体は平原の土になっても……、魂はちゃんと、祖霊のいるこの谷に戻れるのだろうか)

 

 ルジェはふと、鋼鉄の胸甲の上から心臓を押さえた。

 冷たい金属の向こうで、トクトクと脈打つ命の音。

 ルジェは目を閉じ、セルウィの気紛れな戦の神に祈った。

 

 どうか、一人でも多くが、この雪深い谷へ帰れますように。

 そしてもし自分が倒れた時、自分の魂もまた、迷わずにここへ帰ってこられますように。

 

 行軍の列は続く。

 降り始めた雪を踏む乾いた音だけが、冬の静寂の中に響いていた。

 

 

 ***

 

「♪山のじいさまは 気難しい

  (へい! へい!)

 ♪足場の岩を 崩しやる

 ♪森のばあさまは 欲深だ

  (ほい! ほい!)

 ♪迷ったガキを 喰らいやる」

 

 ルジェもまた、荷物の重みに耐えながら、調子外れなその歌を口ずさむ。

 セルウィ盆地に、「唯一絶対の神」などという高尚な存在はいない。

 山には山の、森には森の、川には川の神がいる。戦場には気まぐれな戦の神がいて、鍛冶場には偏屈な鉄の神がいる。

 

 彼らは人間を救済などしない。立派な啓示を与えたりもしない。ただそこにいて、時折災害や恩恵を気まぐれにばら撒く。恐ろしくも身近な、「隣人」たちだ。

 

「♪戦(いくさ)の神様 移り気だ

 ♪どっちの味方か 分かりゃしねぇ

 ♪俺らが捧げる 腸(はらわた)を

 ♪多く積んだほうに 笑いかけ」

 

 男たちがドッと笑う。

 神は公平ではない。供物を多く積んだ方に微笑むとされる、残酷な商売人だ。

 

 だから祈りは、救済を求めるものではない。取引だ。それは信仰というより、過酷な自然と共に生きるための「作法」だった。

 

 ***

 

歌が止み、休憩に入った時。

 ルジェの近くで、若い戦士が焚き火を見つめながら、真剣な顔で短剣を握りしめていた。

 彼は刃に指を当て、血を一滴、火にくべた。

 

「……あいつ、何をしてるんだ?」

 ルジェが小声で尋ねると、近くにいた訳知りの戦士が声を潜めて答えた。

 

「『誓い(ゲッシュ)』だ。……見て見ぬふりをしてやれ。あれは男が魂を縛る儀式だ」

 

 誓い。

 それはセルウィの男にとって、結婚の契約よりも、主君への忠誠よりも重い、人生で一度か二度しか行わない「魂の拘束」である。祖霊と神々に対し、自らの行動を縛る宣言だ。

 

 

「……『絶対に勝ちます』と、誓っているのでしょうか?」

 

 ルジェの問いに、古参兵は首を振った。

「まさか。そんなことを言えば、神々に笑われるぞ」

 

 自然災害はそれに応じた神々が決めることで、戦場の勝敗は、戦の神が決めることだ。

 

 戦場において、勝利や生存は人の手には負えない。流れ矢ひとつ、石ころひとつで英雄があっけなく死ぬのが戦場である。

 戦争の両陣営が必勝を祈っても、必ずどちらかは負ける。そんな地上において、人間如きが「必ず!」「絶対に!」などと口走れば、それは傲慢(ヒュブリス)だと神の怒りを買う。セルウィ人はそう信じていた。

 

「セルウィの戦士は結果を誓わない。……誓えるのは、自分の『行動』だけだ」

 

 古参兵は、兜の紐を結び終えた戦士を指差した。

「あいつは『遠征が終わるまで兜を脱がない』と誓ったんだろうよ。……蒸れて禿げても知らねぇがな」

 古参兵は茶化したが、その目には敬意があった。

 

 ***

 

 祖霊よ、神々よ、ご照覧あれ。

 我はこれから――

 

 ――遠征が終わるまで兜を脱がない。

 ――勝って帰るまで身体を洗わない。

 ――敵に背を見せて死なない。

 ――目的達成まで酒を断つ、女を抱かない。

 ――敵将の首を取るまで口を利かない。

 

 ――()()

 

 

 自分を縛る鎖。自らに課す制約。

 それだけが、無力な人間が神に対して見せられる、唯一の誠意なのだ。

 

 誓いを破るものは、伝統的に「嘘つきとして死後に祖霊の列に加われなくなる」と脅されるが、そちらは恐怖の本質ではない。

 

 もし自らが定めた誓いを破れば、神罰ではなく、自身の誇りが死ぬのだ。セルウィの男にとって、それは肉体の死よりも恐ろしいことだった。

 

 ***

 

古参兵と焚き火の輪に戻ると、その場にいる唯一の少年であるルジェに向けて、戦士たちは懐かしそうに語り出した。

「昔話にあるだろう。『赤腕のエルグ』の話が」

 

 それは、ルジェも乳母から聞いたことがある有名な民話だ。

 かつて、全ての仲間が逃げ出した戦場で、たった一人踏み止まった戦士エルグ。

 

 彼は出征の朝、妻に誓ったのだ。

「俺は生きて帰る。だが、敵に背中は見せない」と。

 

 背中を見せれば「背中を見せない」という誓いが破れる。

 逃げれば「生きて帰る」という誓いは守れるが、魂が死ぬ。

 戦って死ねば、背中は守れるが「生きて帰る」が破れる。

 

 矛盾する二つの誓いの狭間で、エルグはどうしたか。

 彼は敵の大軍を前に、一歩も引かずに正面から戦い続け、全員を斬り伏せて生き残った。

 結果として、彼の腕は敵の返り血で肘まで真っ赤に染まり、二度と色が落ちなかったという。

 

「……無茶苦茶な話ですね」

 ルジェが苦笑すると、周りの戦士たちは真顔で頷いた。

「ああ、無茶苦茶だ。だがな、男ってのはそういう生き物だ」

「どうにもならねぇ理不尽を、誓いひとつでねじ伏せる。……俺たちも、そうありたいと願うのさ」

 

 彼らの瞳には、恐怖と、それ以上の憧憬が宿っていた。

 勝つ保証などない。

 

 けれど、「俺はこうして死ぬ」と決める自由だけは、神ではなく自分にある。

 その「誓い」こそが、貧しい彼らが持てる唯一の、そして最強の武器なのだ。

 

(私には……まだ、誓えない)

 

 ルジェは胸甲の上から心臓を押さえた。

 自分にはまだ、魂を賭けてまで縛りたい「何か」が見つからない。

 だが、いつか。

 王族としてではなく、一人のセルウィの男として、血の誓いを立てる日が来るのだろうか。

 

「さあて、出発だ! 雪が降り始めた。峠が通れなくなる前に抜けるぞ」

 

再び行軍が始まる。

 へたくそな歌声が、冬の空に吸い込まれていった。

 

「♪川の姉ちゃん 手が早い

  (へい! へい!)

 ♪溺れた奴の 足掴む……」

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