レアネリア戦記(書きかけ、チラ裏、AI利用)   作:湯木一栄

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第4話 戦争経済の中心

 数日の行軍の末、フラジュトフ戦士団は盆地の中央にして最南端の要衝、王都ワストゥエステンに到達した。

 

「これが……、王都かあ!」

 北の寒村しか知らない若者たちが、その威容に息を呑む。

 セルウィ川と街道が交差するこの都市は、国内唯一の大都市であり、冬遠征という国家事業の心臓部だ。

 

 街は、出発前の熱気とカネの臭いで沸騰していた。

 

「遠征費用の貸付! 担保は春の戦利品でいいぞ!」

「契約書の代筆はこちらだ! 平原の言葉が読めない者は騙されるぞ!」

「干し肉! 硬いチーズ! 買っておけ、向こうへ行けば値段は倍だ!」

「急いで来てくれ! 平原の名門リュットー伯からのご依頼だ!」

 

 大通りには、武具の修繕屋、高利貸し、食料商人、はたまた平原から来た諸侯の代理人が所狭しと並んでいる。

 冬遠征は軍事行動であると同時に、巨大な商取引だ。

 ここで借金をして装備を整え、食料を買い込み、神殿で武運を祈り、そして王の代官所、あるいは平原諸侯の代理人のもとで正式な「傭兵契約書」に拇印を押す。

 帰還時には、ここで略奪品もとい戦利品を換金し、家畜や農具に変えて故郷へ帰る。

 ワストゥエステンは、セルウィの血と欲望が循環する、巨大な市場だった。

 

 ***

 

 その喧騒の中を、シロヴァ率いる精強な戦士団が、威圧的に行進していく。

 だが、荷駄隊の中にいたルジェの足取りは重かった。

 

 視線の先。

 王都の城壁内のなかでもひときわ堅牢な地区。内城(インナー・シタデル)の尖塔が、鉛色の空に突き刺さっている。

 あそこには、父リッドヒンがいる。兄ラクサがいる。

 そして、自分を「なかったこと」にした家宰モルコドがいる。

 

(見つかったら……)

 

 ルジェの顔が強張る。

 もし、ここで誰かに気づかれたら?

 「なぜ追放された王子がここにいる」と咎められるか。あるいは、嘲笑されるか。

 

 どちらにせよ、ルジェにとってこの都市は、故郷ではなく巨大な審問所だった。思わず顔を伏せ、身体を小さくする。

 

 ***

 

 その時、バサリと視界が遮られた。

 目の前に、熊の毛皮の分厚い外套が投げかけられたのだ。

 

「被っておけ。風が冷たい」

 

 馬上から見下ろすシロヴァの声は、ぶっきらぼうだが、その目は周囲を油断なく警戒していた。

「お前は俺の荷物持ちだ。顔を上げてキョロキョロするな。……面倒ごとは御免だからな」

 

「……はい。ありがとうございます」

 ルジェは深くフードを被り、安堵の息を吐いた。

 

 シロヴァは鼻を鳴らし、前を向いた。

 彼の配慮は、単なる優しさだけではない。冷徹な計算があった。

 

(リッドヒン王は、この逸材を「いないもの」として扱っている)

 

 シロヴァは、尖塔を横目で睨んだ。

 もし今、成長したルジェの姿を王や側近が見れば、どう思うか。

 「危険な火種」として幽閉するか、あるいは「使える駒」として取り返そうとするか。

 どちらにせよ、シロヴァにとっては損だ。

 

(拾ったのは俺だ。磨いたのも俺だ)

 

 王が冷遇し、手放してくれている現状こそが、シロヴァにとっては好都合なのだ。

 この「牙」は、フラジュトフ家の戦力として、そして将来の政局における切り札として、俺の手元で育て上げる。

 

 そのためには、今のルジェは「名もなき従者」でなくてはならない。

 

「行くぞ! 契約の登録を済ませたら、さっさと南門を抜ける!」

 

 シロヴァの号令で、隊列は速度を上げた。

 ルジェはフードの奥から、遠ざかる王城をもう一度だけ見上げた。

 

(行ってきます、父上)

 

 見送りも、承認もない出立。

 だがルジェは、王都の門をくぐる時、確かに自分の足で「外の世界」へと踏み出したのを感じていた。

 

 一行は補給と契約の手続きを迅速に済ませ、その日のうちに王都を後にした。

 目指すはセルウィ王国の外界への自然国境、南の隘路。

 

 その向こうには、いよいよ大平原が広がっている。

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