レアネリア戦記(書きかけ、チラ裏、AI利用)   作:湯木一栄

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第11話 ザガン伯の嘲弄

 決戦前夜。

 川の対岸、ザガン伯爵の野営地は、すでに勝利を確信した祝勝会のような空気に包まれていた。

 天幕の中では、ワインが振る舞われ、伯爵とその側近、そして兵力を提供した領主たちが地図を囲んで談笑している。

 

「はっはっは! 見たか、あのザマを!」

 

 ザガン伯は、スカスカになったユーンズ軍の陣容を指差して嘲笑った。

「あれだけいたユーンズ恩顧の騎士たち、同盟領主たちが、皆逃げ散りおったぞ」

「ザガン伯の武威の光に怯えたのでしょう!」

「ははは、そうおだてるでない。……それにやはり、上に立つ者が『あれ』ではな」

 

 ***

 

 配下のことごとくに裏切られたユーンズ男爵だが、彼はけして部下を虐げる質でも、暗愚でもない。むしろ、平時においては良き統治者の部類に入る男だった。

 

 熱心に土地の治水を行い、土壌を改良し、羊の品種改良に領主自ら熱心に取り組む。彼が継いでから、領地の収穫量は倍になったとさえ言われている。

 その人柄と社交力、記憶力と筆まめさで、かつてはここら一帯でも有数の有力者、諸侯同士の紛争における誠実な調停者として、その名を知られていた。

 

 だが、こと「戦争」においては、彼は救いようがないほどの無能だった。

 

「去年の『カラス平野の戦い』を覚えているか?」

「そうそう、あれは傑作だ」

 同盟領主の一人が、つまみを口に放り込みながら言った。周りの者たちが思い出し笑いを堪らえようともせず頷く。

 

「ああ、あれは酷かった。ユーンズ軍は四千、相手は二千五百だったか……。装備も質も互角。普通に指揮すれば負けるはずのない戦だったな」

 

 だが、ユーンズは負けた。

 数の多い味方を全く統御できず、功を焦った騎士たちが命令を無視してバラバラに突撃し、待ち構えていた敵に各個撃破されたのだ。

 

 さらに最悪だったのは、その後のユーンズの行動だ。

 

「奴は、本陣の予備戦力を率いて戦線を立て直すどころか、真っ先に悲鳴を上げて逃げ出し、泥の中で落馬して捕虜になったのだ」

 

 金で解決して身代金で釈放されたものの、一度ついた「臆病風に吹かれる主君」という烙印は消えない。

 騎士にとって、命を預けるに足るカリスマがない主君ほど、恐ろしいものはないからだ。

 

 ユーンズの悲哀は、彼が官僚制国家の能吏ではなかったこと、彼が封建領主の嫡男として生まれてしまったこと、これに尽きると言えるだろう。

 

 ***

 

「奴も必死だったのだろうな。下がった信用を取り戻そうと、平時には破格の報酬を出して家臣らを繋ぎ止めていたようだが……」

 

 ザガン伯は、グラスのワインを透かして見た。

「金で買える忠誠なぞ、危機が来れば紙切れ同然よ」

 

 先月、ザガン伯が軍を動かす構えを見せた瞬間、ユーンズの家臣たちは「またあの無様な敗戦に付き合わされるのか」と絶望し、雪崩を打って離散した。

 それどころか、領境の守りを任されていた小領主たちは次々に寝返り、あろうことかザガン伯の軍勢を案内して、ここまで最短ルートで導いたのだ。

 

「おかげで、我々は靴を濡らすこともなく、この肥沃な領地の心臓部まで来られたというわけだ」

 

 元々は、ここまでの戦力差はついていなかった。前線ももっと遠くにあったはずだ。

 だが、ユーンズ自身の「弱さ」が、防壁を内側から溶かしてしまったのだ。

 

「残っているのは、金で雇った北の蛮族どもだけか。……哀れなものよ」

 

 ザガン伯は立ち上がり、勝利宣言のように杯を掲げた。

 

「明日は、我々が新たな領主として、あの肥えた羊たちを管理してやろうではないか。……乾杯!」

「乾杯!」

 

 高らかな笑い声が夜空に響く。

 

 彼らは知らなかった。

 追い詰められた羊が雇った「番犬」が、彼らの常識を覆すほど獰猛な獣であることを。

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