レアネリア戦記(書きかけ、チラ裏、AI利用)   作:湯木一栄

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第5話 戦争経済

 嘆きと高揚の一夜が明けた。

 戦いが終われば、そこは大きな市場(マーケット)になる。

 

 ルジェたちが守り抜いた丘の麓には、突撃に失敗して泥に沈んだ重装騎兵たちの山が築かれていた。セルウィ族の盾列とカチ合った正面、ジュロルディ族のパイク戦列がいたところにも、戦死者や重傷者、その装備がそのまま残されている。

 

 生き残ったセルウィの戦士たちは、痛む体に鞭打って、嬉々として「収穫」に励んでいる。

 

 ***

 

「おい、手伝え! こいつの鎧、特注品だぞ!」

「留め金を外せ! 無理に引きちぎるなよ、値が下がる!」

 

 彼らが剥ぎ取っているのは、ただの鉄ではない。

 平原の大都市の鍛冶ギルド、はたまた南方都市国家の職人が精魂込めて鍛え上げた、最新式の騎士鎧だ。

 

 一領あれば、北の寒村なら蔵が建つ。剣一本で、羊の群れが買える。

 重装騎兵とは、歩く宝物庫なのだ。

 

「……ひぃ、やめろ! 私は男爵家の……!」

 まだ息のあった騎士が、身ぐるみ剥がされる恐怖に震えている。

 

 だが、戦士たちは慣れた手つきで彼らを縛り上げ、鎧を剥ぎ取り、下着姿にして転がしていく。

 騎士に残されるのは、身分証明のための紋章付き盾一つだった。

 

 彼らは中身に興味がない。中身はヴァルド大公に売ればいい。彼らが欲しいのは、その高価な外殻だ。

 

 ルジェは、不思議な気持ちでずしりと重い胸甲を拾い上げた。これが昨日、こちらに殺意を向けて突っ込んできた。

(けれど今は……、換金可能な資産でしかない)

 人生、スタートラインは様々で、乞食に生まれるか貴族に生まれるかでその後に辿る道は大きく分かれていく。

 

 だが、王侯貴族から平民賤民に至るまで、死は平等に訪れる。

 セルウィの戦の神はまことに気まぐれだった。

 

 ***

 

 武装を解除された騎士たちが、拘束されるでもなく連行されていく。もはや抵抗できないとなれば、封建領主たちは大人しいものだ。

 向かう先は、ヴァルド大公の本陣。

 

「……妙なものですね」

 ロサが、複雑な表情で捕虜の列を見つめる。

「さっきまで鬼のように突っ込んできたのに、捕まった途端、彼らは『客』のような顔をしている」

 

 騎士たちは、敗北の屈辱に顔を歪めてはいるが、殺されるという恐怖は抱いていないようだった。なぜなら、彼らには「身代金」という価値があるからだ。

 

 生かして返せば、実家から莫大な金が入る。殺せば一文にもならない。平原の戦争において、貴族の命は「通貨」として流通しているのだ。

 

「それがルールだからだな」

 古参の戦士は淡々と言った。

 

「彼らは金で命を買い戻せる。……だが、見てみろ」

 その視線の先では、身なりの貧しい徴募兵や、身元引受人のいない下級傭兵たちが、大公の兵によって無造作に処刑されたり、奴隷商人に引き渡されたりしている。

 

 金のない命に、慈悲はない。

 

 ***

 

 ヴァルド大公の本陣。

 シロヴァは、捕縛した騎士たちを大公の前に突き出した。

 

「約束の品です、閣下。……敵の騎兵隊長も含め、二十名。五体満足でお届けしました」

 ヴァルド大公の代理、名も知らぬ貴族は、満足げに頷いた。

 

「見事だ、シロヴァ。北の蛮族と侮っていたが、良い仕事をする」

 近くにいた書記が、捕虜のリストと引き換えに報酬の支払証明書にサインをする。

 これで、追加のボーナスも確定した。

 

 ルジェは、その光景を後ろから眺めていた。

 剥ぎ取られた鎧の山。売られていく騎士たち。そして書き込まれる数字。

 

 戦場の熱狂が去った後には、冷徹な「算術」だけが残る。

(……勝った。そして、稼いだ)

 

 ルジェは、懐の革袋を握りしめた。

 この重みだけが、死んでいった仲間たちの命の対価であり、故郷へ持ち帰るべき唯一の真実、そう思えたのだ。

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