ジリジリジリと部屋に鳴り響くアラームの音を消し、体を置こす。
時刻は朝6時で、今日は土曜日だ。
PCを立ち上げ、いつものようにゲームのデイリーを進めていく。
窓を開けると外は今日も快晴で、とても気分のいい朝だ。
これほどいい天気ならば、公園にでもいってもいいかもしれない。
テレビをつけると数日前に起きた事件の話ばっかりしており、いかにこの国が平和かよくわかる。
そんなニュースを横目に服を着替え、家を出る。
今日行くのは図書館だ。
以前借りた本を返すというのもあるが、友達と会う約束をしているのも理由の一つだ。
いつものように徒歩で向かう。図書館までは500メートルくらいなので割と近くだ。
信号機が青になるのを待つ。
あぁ、今日もいい一日になりそうだ。
信号が青になったのを確認して、歩き出す。
ふと道路の方を見ると、赤信号にもかかわらず走ってくる大型トラックの姿。
それに気づいてよけようとしたが間に合わず、僕は空を舞った。
「……………か!………ですか!」
誰かが何かを叫んでいる。
でも何を言っているのかはわからない。
意識はかろうじてあるが、困ったな、指が動かせない。
いや、指だけではない。腕も、足も、頭も、瞼さえも動かせない。
『これは……死んだな』
参ったな。友人と…約束が……あるのに。
このままじゃ……怒られちゃうな……
母さんは……泣くだろうな……
父さんは……怒るだろうな……
親不孝で………ごめん………
僕は意識を手放した。
はずだった。
「ようこそ、雨晴君」
「はぇ?」
何が起きたのだろうか。
気が付くと目の前には変な球体。
そしてその球体から今話しかけられていたような?
というか、さっきまで動かなかった体が動く。声も出るようだし、目も見えている。
とりあえず状況を理解するためにもあたりを見回すと、部屋?空間?ともかく視界に移るものすべてが白色であり、陰影などもなく、壁があるのかないのかすらわからない。
再度球体に視線を戻すと球体の反対側に人型の何かが立っていた。
しかし人というにはあまりにもな外見をしている。
服は着ているようには見えず、顔にあるべき器官は見当たらない。
腕から先は背景の白と同化しているのか視認できず、胴体は所々穴が開いており、煤のようなものが出ている。
しかしそんな生命体を見てわかるのは、これは生きているということだ。
どう考えても異常生物でしかなく、SNAチェックものでしかないのに、僕は驚くほど冷静にこの生命体を見ていた。
この生命体に言語が通じるかはわからないが、とりあえず挨拶をしてみる。
「あぁ、喋らなくて大丈夫だよ。考えていることはわかるんだ。」
頭に響くような、この空間全体から聞こえてくるような声。
しかしあの生命体から発せられているという事だけはわかる。
まぁそれはいったん置いておくとして、この生命体らしきものは僕の思考が読めるという。
つまりこの生命体らしきものは上位存在?悪魔、天使、精霊、神、そういったスピリチュアル系だろうか?
写真などでそういった存在について、まぁ真実性に欠けるものではあるが、見たことはある。
しかし実際に会うというのは初めてだ。
そして唐突にそういった存在に会うという事は、夢を見ているかあるいは
「察しがいいね。君はたった今死んだ。いや、死んだような状態だ。下を見てみるといい」
そう言われ、下を見る。
先程まで真っ白だった空間だったのに、気が付いたらスクリーンのように映像が映っている。
写っているのは停止したトラックと……
「そうだ。あれは君。君の肉体だ。君を引いたトラックはそのあと君をボンネットに乗せたまま壁に激突したんだよ。いくつかの骨は折れているだろうね。」
いわれる通り、足がや腕が曲がるはずのない方向に曲がっている。
これで生きているというのだから驚きだ。
しかしこれが自分だというのに、なぜ僕は正気を保っているのだろうか。
いや、こんな状況になっている時点でもはや正気などないのだろう。
まぁこれが事実だとして………到底信じがたいが、わざわざそんなことを言いに来たわけではないだろう。
「その通り。実は君にお願いがあるんだ。内容は単純で、私の作った世界に来てほしい。」
作った世界?ちょっと待ってくれ、理解が追い付かない。順序立てて説明してほしい。
まずあなたは誰なのだ?
予想はつく。世界を作ったといっていたし、神に等しい存在なのだろう。
だがその世界に行くってのはどういうことだ?
「そうだったね。まずは自己紹介から。私の名は閲覧権限がありません。
ん?あぁそうだった。私の名は君たちには
私は正確に言うと神ではないが……まぁ存在などどうでもいいだろう。
私は死に瀕していた君の魂を拾い上げ、この空間に連れてきた、対話するためにね。
そして今、君には二つの選択肢がある。このまま元居た世界に戻り、植物人間となるか、私が作った世界に来るかだ」
なるほど。ちなみにその世界というのは?
「ベースは君の居た地球だ。歴史もおおむね君の思う通りの世界となる。一部を除き」
仮に彼、ノアのいう事が事実であれば、このまま戻っても植物人間状態だ。
意識はなく、ただ生きているというだけになる。
彼女もいないし、友達……は居るが、あったとしてもぼくは区別がつけられなくなっているだろう。
であればこの提案は受け入れた方がいいだろう。
「では、契約成立だな」
その言葉を聞いた瞬間、ノアの体から煤がさらに増し、煙となってこの空間に充満していく。
それと同時に目の前の球体が肥大化し、僕に近づいてくる。
反射的に逃げようとするが、その拡大速度は尋常ではなく、すぐさま僕は飲み込まれ、再び僕の意識は遠のき、暗転した。
「君がこの世界をどう作り変えて何を成すのか楽しみだよ」
そうして僕は転生……ではなく転移した。ここはどこだろうかとあたりを見回す。
建物を見るにおそらく日本……あるいは日本に似た地なのだろう。
というかこの世界は僕の知っている地球と異なるのだからそもそも日本という地は存在しないのでは?
であれば言語などが通じない可能性もあるだろうか?
否。現在地は日本愛知県豊田市です。
唐突に頭に響く謎の声。
こいつッ!頭に直接ッ!
私はノアにより貴方のサポートをするように任された情報集積体です。名前は特にありません。
なるほど。よくある異世界転移とか転生のチート能力枠がこれか。
これ呼ばわりは不服です。
名前がないんだから仕方ないだろ……。
とりあえず情報(Information)からとってイフと呼ぶことにした。
それでイフ、この世界はどういう世界なんだ?
ノアは僕の居た世界を改変した世界と言っていたが。
データを精査中…………確認できました。
この世界での差異は主に二つ。
一つは男女比です。
男女比?
はい。男女比が1:50くらいとなり、社会も女性中心。
男性の社会進出は控えめで、そのことからひきこもる男性も多く、それにより結婚できない人が爆増。
現在社会問題となっています。
Oh……男女比1:50ってそれ人口減少待ったなしでは?
と思ったが人口は増加傾向にあるらしい。
僕の居た世界でも女性の社会進出と反比例するように人口は減っていったことを考えるとおかしくはないのかもしれない。
次に謎の生物が海を支配しているようです。
おっと、唐突にSFになったな。
それに対する物として、艦船の力を有した者たちがおり、それを指揮する提督という制度もあるようです。
ちなみに提督という職には適正というのがあるようです。
もしかしてだけどその艦船の力を有した者たちって
はい。あなたの世界でいうところの艦これと呼ばれているものに酷似しています。
マジか……。まさかの転生先が男女比がぶっ壊れた艦これの世界とは。
てことは海上自衛隊に所属すればリアル艦娘に会えるのでは?
あ、でも僕あれだ、戸籍ねぇわ。自衛隊どころか職に就けないわ。
やっべどうしよ。
問題はないと思われます。
どういうことだ?
データを精査したところ、この世界ではあなた以外にも転移者がいるようです。
彼らは皆高い提督適性を持っており、確認され次第海軍による徴兵が行われるとのこと。
なんだ、俺以外にも転移者いるのか………って海軍?
はい。どうやらこの世界では軍隊が残っているようです。
そうなのか。まぁそれは一旦いいや。
とりあえずその徴兵ってのは軍のところに行けばいいのか?
そうなら早速行ってみて、とりあえず身分を得たいが。
いえ、向こうから迎えが来るようです。
なんと。探知機的なものでもあるのだろうか?
そんな事を考えているとこちらに向かってくる迷彩の入った護送車両が見えた。
車両が目の前で泊まると。ドアが開き人が一人降りてくる。
服装は陸上自衛隊のような服装をしており、髪は茶、目は茶色がかった黒であり、髪型はショートで前髪は切りそろえられている。
顔つきは美人というより可愛いよりだ。
顔に若さがあるため歳はおそらく20代前半程度だろう
「は、ははは初めましてッ!かかか海軍の佐原と申しますッッッ!?」
車両から降りてきた迷彩服を着た女性はこちらを見るやものすごく緊張した様子で話しかけてきた。
あ、そういえばこの世界男女比終わってるんだった。
ちなみにイフ、もしかしてだけど……
はい。この世界では男子は男子校で学ぶ為、多くの女性が男性と話した事はありません。
oh……そんな緊張しなくてもいいのに。
とりあえず落ち着いてもらう為にも、その事を伝えると、彼女は更に震え、顔が紅潮していく。
あれ?僕なんかやらかしたかな?
「あ……あぇ…あ、あぅ…あ……」
個体名佐原の心拍数の増加を確認。
現在の心拍数は150オーバーです。
全力疾走直後じゃないですか。
このままだと死ぬのでは?
うーん流石に困るな。
とにかく落ち着いて貰わないと。
そう思い何度か声をかけるも反応はない。
心拍数、さらに増加。まもなく160を超えます
くそッ!この人男性に対する免疫がなさすぎる!
グラビア(男物)見たら死ぬんじゃないか!?
そうこうしていると、もう一人車から降りてきた。
降りてきたのはまたもや女性。
しかし顔に皺があることからおそらく50~70と推察する。
肩の称号?階級章だっけ?がなんか佐原さんより位が高そう。
「すみません転移者さま、お見苦しいところをお見せいたしました。私は椎原と申します。」
先程の女性と違い、落ち着いた態度で話しかけてきた。
流石にこれほどの歳となると男性に対してもかなり慣れてきているようだ。
「いえ、それより僕に何か用でしょうか」
まぁ要件はイフから聞いた話で大体わかってはいるんだがな。
という事でその後は案の定この世界の大体の状況と海軍に来てほしいという旨を聞いた。
しかしいきなり実践投入とはさすがにいかないので、とりあえず海軍学校に送られるらしい。
「ではすみませんが後ろの荷台にお願いします。」
「わかりました。何から何までありがとうございます。」
「いえ、こちらはいきなりこんな世界に飛ばされたあなたに対し、軍属になるよう要求している身……これぐらいは当然ですよ。」
確かに言われてみるとかなりやばい状況だよな。
だが僕の命はあの時消えていたのだ。
これぐらいの理不尽、甘んじて受け入れようではないか。
という事で早速荷台に乗り込む。
荷台と言っても軍用のものなので、運転席との間に窓があり、そこから前の席の会話が聞こえてくる。
「椎原さん椎原さん!あの人天然ですよ!天然の僕ッ子ですよ!天然の!!!」
「はいはい落ち着いて。あんまり大きな声出すと後ろに聞こえますよ。」
………聞かなかったことにしよう。
それにしても艦娘だ艦娘!
海軍学校で学ぶという工程はあるが、うまくいけば提督職として就けるに違いない!
あぁ、とても楽しみだ。
艦娘と仲良くなればいちゃいちゃできたりするだろうか。
雨晴は楽観視していた。
男女比が逆転していることを。
ほぼ女子高と化している海軍学校に男である雨晴が入るという事の重大さを。
女所帯というか女性しかいない鎮守府という場所に男である雨晴が着任する事の重大さを。
眠い。