TS少女のヒーローアカデミア   作:ネコ023

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9.5.雄英入試っ! 緑谷の!

 

 side 緑谷

 

 ――広っ!!

 

 

 

「街じゃんっ!! 敷地内にこんなんがいくつもあるのかよ!!」

「雄英スゲェーッ!!」

 

 どうやら他の受験者の中にも僕と同じことを思った人がいたみたいだ。実際、それだけ会場の規模はデカくて、街を囲う外壁だって見上げる程の高さ。

 

 流石は数多くの有名ヒーローを輩出してきた学校だ。

 

(な、なんて感心している場合じゃないぞッ! 緑谷出久っ!)

 

 自分の頬を叩いて気をしっかりもつ。

 

 これから試験が始まるのに、浮かれた気持ちで臨んでどうするんだ。オールマイトや複世さん、かっちゃんのおかげでこの場に立ってるんだ。みんなの期待に応えるためにも、絶対に受からなくちゃ……!

 

 周りの受験者たちだって、みんな緊張せずに自然体で演習の開始を待ち望んでいる。僕も、皆に倣って平常心を保つんだ。

 

「……あぁっ、あの人……!」

 

 視線を周りに向けていると、校門で転びそうになった僕を助けてくれた良い人の姿が目に入る。あのとき一応お礼は言えたけど、改めて言っておこうかな。

 そう思って、彼女の方へと向かおうとしたときだ。

 

「その女子は精神統一を図っているんじゃないか?」

 

 ガシっと肩を掴まれたので振り向いてみる。

 ひぃっ! この人、概要説明の時に僕を名指しで注意してきた人じゃないかっ! 彼も同じ演習会場だったのかっ!?

 

「君は何だ? 妨害目的で受験しているのか?」

「あぁっ、いやその、そういうわけじゃ! ただ僕はお礼が言いたくてっ!」

「君はそのつもりでも、彼女からすれば精神統一の妨害に他ならない行為だぞ?」

「は、はい……。すみません……」

 

 言われてみればそうだ。

 

 あの良い人だって緊張を和らげるためにああやって精神を落ち着かせているのに、僕の勝手でソレを邪魔してどうするんだ。お礼を言うだけなら試験が終わった後でも出来るじゃないか、僕の馬鹿っ!

 

「アイツ校門前でコケそうになってたやつだよな?」

「注意されて委縮しちゃった奴」

「少なくとも、一人はライバル減ったんじゃね?」

 

 あぁ、周囲から『ラッキー』って心の声が聞こえてくるようだ。

 

『ハイ、スタートー!!』

 

 ……えっ?

 

 突如聞こえた大声にそちらを見上げてみれば、プレゼントマイクが巨大な柱の上で腕を回しているのが確認できた。

 

『どうした!? 実戦じゃカウントダウンなんざねぇんだよ! 走れ走れッ!! 賽は投げられてんぞ!!?』

 

 そんな声と同時に背後から聞こえたのは数多くの足音だ。

 振り向いてみれば、それまで一緒に呆然としていた他の受験者たちが、一斉に演習場内へと駆けていくのが目に入る。

 

「で、出遅れたっ!!」

 

 すぐさま僕も彼らに続いて駆け出した。

 

 あぁ、くそ。スタートダッシュから失敗するだなんて。

 このことがかっちゃんに知れたら『何やってんだ、クソナードッ!!』って無茶苦茶に怒られるぞッ!!?

 

 とにかく、落ち着くんだ。

 大丈夫! まだ、()()()()()()()()じゃないッ!!

 

「ワン・フォー・オール! 3%ッ!」

 

 個性(OFA)を脚に纏わせて一時的に脚力を強化。

 地面を思い切り蹴り飛ばしてみんなとの距離を縮めると同時に斜め上へと飛ぶ。それからビルの壁を足場にして再び跳躍。集団の前へと躍り出た。

 

「「「……なっ!!?」」」

 

 後ろから聞こえる驚愕したような声に耳を貸さずに、僕は再び強化した脚で駆け出す。しばらく真っ直ぐ走っていると、壁を突き破って仮想ヴィランが姿を現した。

 1ポイントのヴィラン。素早いけれど、その装甲は脆いっ!

 

 地面を蹴り、ヴィランとの距離を詰めた瞬間にOFAを纏わせる部位を脚から腕へと変更する。

 

「3%ッ! SMASH(スマッシュ)ッ!!」

 

 ヴィランへと突き出した拳が、いとも容易くその装甲を吹き飛ばす。

 よし、これでまずは1ポイントっ!

 出だしは失敗したけれど、試験自体は順調に進みそうだ!

 

 ちなみに僕が去ったその場所で、

 

「おいおい、誰だよっ! ライバル減ったとか言った奴っ!!?」

「委縮も何もしてねぇ、強個性じゃねーかっ!!」

 

 そんな会話があったとか無かったとか。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 それからも僕は順調にヴィランポイントを稼いでいった。

 

 数え間違いが無ければ45ポイント。

 演習場に配置された敵の数とポイント数から考えて、合格ラインは凡そ30ポイントだと思うし。それを大きく上回ったから、合格圏内にはなんとか入れたはずっ!

 

「これなら……っ!」

 

 きっと大丈夫。

 

 そう思っていた僕の耳が、突如として鳴り響く地響きを捉えた。

 音を頼りにそちらを確認すれば、ビルを倒壊させ、姿を現す巨大な仮想ヴィラン。ビルとビルの間に立ち、こちらを見下ろす姿は圧倒的な脅威。

 

「これが、0ポイントヴィラン……!?」

 

 確かに、お邪魔虫とは聞いていたけれど。

 このサイズは流石にデカすぎないっ!?

 プレゼントマイクが回避することを推奨するのも納得だ。こんな奴を相手にしていたら試験どころじゃない。

 

 周りを見れば、他の受験者のみんなも我先にとヴィランとは逆方向へと走ってる。

 回避優先。ヴィランとは離れた場所でポイントを稼ぐべきだ。

 

 

「――いったぁ……」

 

 

 他のみんなに続いて僕もヴィランを回避しようとしていたそんなとき。

 聞こえてきた小さな声。

 

 振り返ってみると、そこには今朝僕が転ぶのを阻止してくれた良い人が倒れてた。

 

 運悪く瓦礫が足元に落ちてきたんだろう。そのせいで一人逃げ遅れていた。もうすでに0ポイントヴィランは直ぐ傍まで迫って来ていて、例え体勢を整えたとしてもあの距離じゃ危険――っ!!

 

「――ッ!!!」

 

 誰かが助けにいかなくちゃ、あの人が危険だとか。僕の憧れ(オールマイト)だったら、決して彼女を見捨てないからだとか。命の危険に瀕してる彼女の姿が、ヘドロ事件(あのとき)の複世さんの姿と重なっただとか。

 

 色々理由はあったんだと思う。

 気が付けば、僕の脚は仮想ヴィランの方向へと走り出していた。

 

 個性を使用し足を強化して0ポイントヴィランの頭部前まで飛び上がり、右腕に力を集束させる。力の余波でバリバリと嫌な音を立ててジャージの袖が千切れ飛び、3%の比じゃないほどに右腕が輝きだす。

 

 半端な力じゃコイツを止められない!

 なら、今僕に出来る全力でッ!! コイツを倒して、あの人を助けるッ!!

 

 

「OFAッ! 100%ッ!! SMASH(スマッシュ)ッ!!!」

 

 

 初めて使った全力の攻撃は、圧倒的とさえ思えた巨大ヴィランの頭部をあまりにも簡単に吹き飛ばす。衝撃が各部位に伝わり、大きな爆発を起こしながらその巨体は地面に倒れ伏したのだった。

 

 流石はオールマイトの個性。凄まじい破壊力だ。

 

「……痛っ!!」

 

 とはいえ、流石に反動は大きかったようで。

 僕の右腕は真っ赤に腫れ上がり、拳の先は皮が抉れて大変なことになってる。母さんや、複世さんが見たら泣き出すかも……。うん。

 

 さて、そんなことよりも優先するべきは……。

 

「ど、どうやって着地しようかな……」

 

 OFAを脚に纏えば衝撃も緩和できるのかな?

 いや、残った左腕を地面に向けてタイミングよく撃てばイケるかも?

 

 こうして上空まで飛び上がったのって、かっちゃんの個性(爆破)を使わせてもらったとき以来だ。あのときはも地面スレスレで爆破を使って急停止したっけ……。

 アレと同じ要領だ。簡単じゃないか……!

 

 左腕を掲げて3%のOFAを纏わせる。

 あとはタイミングだけ……。

 

 迫る地面に対して僕の頭は冷静で。思った以上に落ち着いた気分で落下出来てる。地面への距離、放つタイミング、着地した後のこと。どちらかというと、そっちに意識を裂いていたから僕は気が付けなかったんだ。

 

 すぐ横に迫って来ていた良い人の存在に。

 

「……!!?」

 

 バチンという音と共に、僕の頬が叩かれる。

 

 えっ!? 何っ!?

 なんて思うと同時に、不自然なくらいにピタリと僕の身体は地面スレスレで急停止。この感覚には覚えがある。今朝の良い人の個性だ。

 

 そうか、助けてくれたんだ……。

 

「解除……!」

「うわっ!」

 

 と、今度は地面に落ちる。顔面から。

 少し痛いけれど、あのスピードそのままに激突するより何倍もマシだ。

 

「あ、ありがとう。助かったよ……」

「うえぇ……」

「…………」

 

 お礼を言おうと彼女を見たら、吐いていた。それはもう盛大に。

 なるほど。彼女の個性の詳細は分からないけれど、見た感じOFAと同じく安定して使える許容範囲があって、キャパを超えるとこうして吐いてしまうのか。

 

 って! 七色に輝く彼女の吐瀉物をいつまでも見てたら流石に失礼だ。

 僕は直ぐに視線を逸らす。

 

『試験ッ!! 終了~~っ!!』

 

 あっ、ちょうどよく試験時間も終わったみたいだ。

 なんて思ってると、ぞろぞろと他の受験者の人が集まって来た。

 

「お前、スゲーなっ!」

「えっ!?」

「増強型の個性ですか? だとしても規格外ですよね?」

「あっ、ハイ……」

「なんでそんな強い個性持ってて、あんなにビクビクしてたんだよ?」

「え、えっと、その、癖みたいなもので……」

 

 なんだ、なんだ、なんだ……!?

 何で、僕はこんな質問攻めに……ッ!?

 

 いや、客観的に考えてみるんだ。

 あんな巨大なヴィランをぶっ飛ばすような奴を気にしないわけがないじゃないか。僕だって、目の前であんなことをされたらどんな個性か考察する。間違いなく。

 

「はいはい、質問攻めはその辺にしておきな。その子は怪我人だよ」

 

 人垣を掻き分けながら現れたのは、リ、リカバリーガールッ!?

 『治癒力の活性化』を個性に持つヒーローで、数多くの怪我人を助けてきた人だ。まさか、雄英に勤務していただなんて……。

 

「随分無茶したもんだねぇ~」

「は、はい……」

「チユ~~~~ッ!!」

 

 リカバリーガールの唇が僕の頬に伸びる。

 かと思えば、それまで個性の影響で腫れ上がっていた右腕が元の肌色に戻った。痛みも全然残っていない。

 

 凄い。これがリカバリーガールの個性!!

 

「あ、ありがとうございますっ!」

「気になさんな。さてさて? 他に怪我した子は?」

 

 そういって、リカバリーガールは離れていく。

 そんな彼女の姿を見送りながら、僕は自分の頬を摩る。女の人の唇が頬に触れるのなんて初めての経験だ。いや、まぁ、個性使用のためだし。

 僕も恥ずかしさとかは感じてない。

 

「…………」

 

 ただちょっと、ほんのちょっとだけ。

 あの唇が()()のものだったなら、どんな気分になったんだろう。なんて、烏滸がましい考えが頭の中を過って、僕は直ぐに頭を振ってそんな邪念を飛ばすのだった。

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